イン・トゥ・ザ・ヴォイド   作:レイワト流行れ

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オルクス大迷宮攻略までで完結です。
とりあえず、勢いで書いてしまったので……

毎日投稿。10:30に予約投稿です


復讐と力

「あんたは髪の色も目の色も変わらないんだな。」

「それが私とあなたの差なんでしょう。あるいは、この力を得たときに、既にその手の変容は終えていたのかも。」

 

 

 ハジメ曰く、拒絶反応が意外なほど”軽度”であったことが語られる。髪が抜け落ちて生え変わり、目の色が変わり、神水をただひたすら飲み続けなければならなかった彼とは違い、苦痛はあったけれど、消費する神水が少量で済んだのだという。代わりに苦痛の時間は非常に長かったのだが。

 

 

 軽度で済んだ代償なのか、はたまたこれも体質なのか。ハジメが言うような怪物の能力を私が得ることはなかった。せいぜいが身体能力……ステータスの上昇程度だ。代わりにといっては何だが、次元エネルギーの操作が、より綿密にできるようになった。今までは左腕の装置に放出と制御を頼っていたが、これなら装置を使うことなく、虚空に入ったり、ポータルを開けることもできるようになる。

 

 

 それからしばらくの間は、奈落の洞穴で戦闘方法を模索する日々であった。

 私は新たな力に慣れ切っておらず、ハジメはハジメで錬成……という、技術者連中が見れば発狂しかねない能力を用いて、兵器を制作しているとのことだ。この世界に存在する特殊な性質の鉱石素材を用いれば高威力の銃を作ることができるという。私のボルトSMGやセンチネルSRを貸し出し、多少のリスクは考慮の上である程度まで分解して構造も調べた。

 

 

 結論から言えば、ハジメはボルトのようなエネルギー兵器を作ることはできなかった。西暦2733年の技術は、規格外の工作技術を持つハジメをもってしても完全な解析は不可能であり、また、技術に伴う知識の欠如から、どうすればこうなるのかさっぱりわからなかったらしい。

 

 

 結局、一撃の威力を極端に高めたマグナムのような銃を作り、弾丸に関しても一発一発ハンドメイドするとのことだ。ハジメが錬成の技術を高める練習台だといって、センチネル用の弾丸を20発ほど作ってくれたのはありがたかった。エネルギーアモは補給がどうにかなるが、スナイパーアモだけは実体弾であるため、どうにもならないのだ。

 

 

 そうして装備を整えながら、数日の間は二人で狩りを続けた。

 

 

 落とし穴を掘り、その中で埋め続けるようにして殺したり、遠くからセンチネルを使って一撃でヘッドショットを狙ったり。ステータスが向上してきたら、正面戦闘での立ち回りの確認も兼ねて、二人で戦ったり。

 

 

 装備と能力を高め、怪物を殺す刃を磨き続ける毎日。体感時間もあいまいだが、私たちはそこでさらに1週間前後の時間をかけて準備を整えた。これならやれる。そう、二人で確信できるほどにまで。

 

 

「さて、これであの熊を殺す準備は整ったな。」

「にしても、過剰ね。どこかと戦争でもする気なのかしら。」

「邪魔するなら殺す。相手が一国だってな。」

 

 

 軽口をたたき合ってはいるが、ハジメの方からはすさまじいまでの執念を感じる。聞けば、もともと彼は戦いなど知らないような、二十世紀の平和な日本から来たとのことだ。その彼にとって、この奈落の底は、地獄のような場所だろう。意識が目覚めたときには、痛みと、戦いしか知らなかった私だが……彼はそうじゃない。その差は、果てしなく大きいのだろう。

 

 

「準備はいいか?」

「いつでも。でも、手は出さないって約束だったわね。」

「ああ。あいつは俺が殺すし、俺が仕留める。危ないと判断するまでは、手を出さないでくれ。」

 

 

 手を出したならお前であっても殺すぞ、と言わんばかりの気迫を見せる彼に、あきれ気味に返答する。

 …本当に、すさまじい執念だ。だが、これくらい正直で素直なほうが、分かりやすいし、何より信用はできる。

 

 

 洞穴から出た瞬間、ハジメの姿が掻き消える。この迷宮に存在する魔物である、ウサギ……彼曰く蹴りウサギ、と名付けたその怪物……彼ら曰く、魔物から得たのは、瞬間移動に類すものと、空中を足場にする固有技能らしい。実にふざけている。

 

 

 そんな技能を使って先行する彼を、私も虚空へ入って追いかける。本来追いかけることなどできないほどの速度であっても、虚空に入った私なら追跡は可能だ。時間の流れの異なる別位相の空間からハジメを覗き見れば、ぎりぎり追跡が効く。次元エネルギーの精密操作が可能になった今なら、自分にそれを纏わせることで、疑似的な身体技能の強化も可能であった。それを駆使して、追いすがる。

 

 

 道中に出てくる敵は、ハジメが持つハンドレールガン・ドンナーがたちどころに粉砕していった。

 魔物から得たという固有魔法”纏雷”を使った高圧電流を利用し、奈落で採集した希少鉱物で構成したそれは、秒速4.0キロメートルなどと言う狂気的な数値をたたき出した。まさしく暴力装置。彼から見て700年後の兵器であるボルトSMGのエネルギー弾をもってしてその破壊力をはるか彼方に置き去りにするほどの絶大な威力だ。本当にふざけている。当初銃の扱いに慣れていなかったハジメにレクチャーしようと引き金を引いたとき、目標を完璧に破壊した代わりに、肘と肩が外れかけたのは苦い思い出だ。

 

 

「見つけたぞ。」

「わかったわ。邪魔は入らせないから。」

「頼んだ。」

 

 

 道の先で蹴りウサギを捕食している爪熊を発見して、二手に分かれる。ハジメはそのまま熊に接近し、私は周辺の地形を虚空に入って把握した後、邪魔が入らないように、近くの岩の上に陣取る。爪熊が、いぶかしげにハジメを視界に入れる。自分から奴に向かってくるような生物など、本来この階層には居ないだろう。……文明とファンタジーが交差し、制作技能の才能を得た少年が作り出した”兵器”の恐ろしさを、あの熊は知らないのだろう。

 

 

 そうして、熊が疑問を覚えて呆けている間に、ハジメは容赦なく懐からドンナーを抜き、間髪入れずに撃ち放った。

 

 

 これは、彼の選択。今の彼からは想像もつかないが……一度敗北し、心を折られた相手を叩き潰し、過去を超える儀式。私だってあの熊には思うところはあるが、今回はハジメに譲ることにする。

 

 

 ドパンッ!というすさまじく特徴的なその音と、それから数瞬遅れて響く熊の絶叫。秒速4.0キロメートルの弾丸は、今のところソニックブームだけで立ち並ぶ遍くすべてを吹き飛ばす超絶的な威力の弾丸だ。アレに耐えようとするなら、宇宙船の装甲か、幾多もの爆撃に耐えるジブラルタルのドームシールドでも持ってくる必要があるだろう。あんなものを受けて無事でいられる生物を私は知らない。

 ハジメの勝利を確信しつつも、ハジメの狩り場に近づく敵を排除するべく、ボルトSMGを構えた。

 

 

 ……結論から言えば、この階層最強の爪熊の悲鳴が聞こえた時点で、その階層の魔物が寄ってくる道理はなかった。つまり、私は全く必要なかったわけだ。

 

 

 

 熊との戦闘は、数分で終わった。互いに互いを一撃で損壊せしめられる、凶器を向け合った殺し合い。一撃眼を貰った熊は、それ以降のドンナーを全てよけきって見せた。マッハ4に到達する弾丸を撃つ前から動き始めているとはいえ、よけきって見せるとは、果たしてどんな生物なのか。

 

 

 ……私と対峙した時は、殆ど力を発揮してなかったことがうかがえる。

 

 

 激戦の果てに、熊が流した血を導線代わりに発動した”纏雷”を使って超高圧電流を熊に流し込み、その命を奪い去ったハジメ。満身創痍ながらも、過去の因縁に決着をつけた。

 

 

「それで、復讐のご感想は?」

「まあまあ美味かった。食うか?」

「………いただくわ。」

 

 

 纏雷で魔物の肉を焼いているハジメ。香ばしいとは口が裂けても言えないような、形容しがたい匂いが辺りに充満するが。それでも、私たちの食糧源だ。大切に頂くことにする。

 

 

 ………味に関しては、コメントを控えておく。

 

 

「それで、これからどうするわけ?」

「あんたの話じゃ、この階層に来る前、上に行くための階段が破壊されてたって話だったよな。」

「ええ。だからやむなく下を目指したのよ。」

「ということは、少なくとも上に向かう分には、どこかで詰みが来るわけだ。この階層で上を行くための階段を見つけても、いたずらに時間を浪費するだけ。だったら下に向かうまでだ。」

 

 

 爪熊に対してお礼参りをした後の彼は、なんというか、淡白だった。人のことを言えるような性格でもないが、どこか選択に対して躊躇がなくなったともいえる。おそらくは、過去の楔を打ち砕いたことで、本格的に彼を縛るものがなくなったのだろう。……この極限の世界の中で、ただ生きて故郷に帰る。それだけにすべてを費やしている。

 

 

 私が同行を許されたのも、あるいは未知の技術、知識に期待されてのものと、使えるものなら何でも使うという彼の精神が反映されているのだろう。……そうでもなければ、彼は私を助けたりはしない。

 

 

「なら、斥候は任せなさい。こう見えても、強襲と偵察は私の十八番なのよ。」

「頼んだ。手ごわそうなのがいたら、任せてくれ。」

 

 

 なら、せめてその期待に応えましょう。心の中でそう決心した私は、武器を携えて、迷宮を先行した。

 

 

 初めから言い含められているのは、次の二つだ。

 一つは必ず戻ること。戻らなければその先が危険だと判断できるが、同時に私を助けには来られないということ。

 

 もう一つは、食糧はできる限り残すこと。魔物の肉がそのままステータスにつながる今の私たちにはほとんど必須事項のようなものだ。仕留めるなら、急所を一撃で仕留める必要がある。ハジメのドンナーはその点においては過剰火力だ。魔物によっては肉を残さず弾け飛ばしてしまう。

 

 

 その点、センチネルはやや火力不足気味だが、それでも脳や心臓に一撃を入れれば、そのまま絶命に至らしめることができる。装甲を持つ敵が相手なら、ハジメに丸投げだ。

 

 

(といったものの、どこまで先行すればいいのか、具体的にわからないわね。ともかく、進むだけ進んでみましょうか。)

 

 

 虚空の中に入り、迷宮内を進む。魔物を見かければ、物陰に隠れて虚空から脱出し、センチネルを構え、射撃。

 

 

 射撃した際の轟音はいかんともしがたいが、これはハジメに生存を示す方法でもある。この銃声がしている限り、私は無事というわけだ。一撃で狼の頭部を射抜いて仕留めると、私はまた虚空に入って先に進んだ。

 

 

 迷宮は、控えめに言ってかなり広い。

 Apexゲームで使用されているフィールドなどとは比べ物にならない広さだ。直線距離だけで、もう3kmは進んでいるはずなのに、まるで終わりが見えない。

 

 

 時折出てくる魔物も強力だ。私は虚空の力と、この武器があるから何とかなっているが、この世界の住人には(ハジメを除いて)そんなものはない、と聞く、層によって危険度は変わるというが、こんな過酷な環境に年端も行かない子供を送り込むなど、どうかしているのではないだろうか。少なくともホライゾン辺りはかなり反発するだろう。

 

 

 だが、装備は潤沢。シールドLV5の装甲は、かすり傷であるなら私を一撃死から身を守ってくれるし、ボルトSMGの弾薬は無制限。シールドも注射器も、私のエネルギーが尽きるまでいくらでも使える。

 

 

 まるで、チート、ずるだな、と自嘲してしまう。

 

 

 この世界の住人では長い年月を掛けなければ届きえない研鑽。文明のレベルの違い。たとえ絵本の中の人が人外魔境でも、技術屋レジェンドたちが一丸となって作り上げたこの装備は、私を守り通してくれる、

 

 

 古典的なファンタジーには、特に日本のファンタジーにはそういった”チート”ものがあったという。剣と魔法の世界。そんなおとぎ話じみた幻想が今自分を以って成立していると思うと、複雑だ。

 

 

 

《伏せなさい》

 

 

 鈍かった虚空の声が、鋭く私に警告する。その瞬間に身を小さくかがめると、同時に先ほど私がいた場所付近の壁が石化してボロボロに崩れ去ってしまう。気が付けなかったら一発アウトあろう。攻撃された方向を向くと、そこには金色の眼のトカゲの姿があった。

 

 

 ……姿はそれっぽくはないが、力はメデゥーサのそれに近いのだろうか。鏡を持ってくればよかった、とも思うが、今はそんなものはない。ともかく、二回目の攻撃が来ないうちに虚空に入り、手ごろな遮蔽物を探す。……あった。小さな遮蔽だが、ないよりましだ。つかさずそこに隠れて虚空から脱出し、センチネルにエネルギーをチャージする。

 

 

 思えば、次元エネルギーをより精密に操作できるようになったことで、このチャージの作業の間、自分の体から抜け出ていき、センチネルに宿っていく力を知覚できるようになっている。

 不思議な感覚だ。自分の力が銃身の内部にて渦を巻き、圧縮されて高められていく感覚。不思議な気分だ。自分の中から出ていったものであっても、そのありようを感じられるというのは。

 

 

(……。)

 

 

 不意に、妙な考えが浮かぶ。センチネルに宿す次元エネルギー。今は装置の力を頼っているが、あるいは自分でも……?と。トカゲの視線は私をとらえてはいない。虚空へ入る力というのは、このファンタジックな世界においても、有効であり、そして予測のつかないものであるのだろう。つまり、今なら存分に試せるというわけだ。

 

 

 音を出さないように構え、集中。体にまとうようにして一度操った次元エネルギーを、今度は体の外に流し込むように。……できる。自分で思うよりもうまく。正確に。まるで、自分の体の延長のように、力が私に呼応する。センチネルのエネルギーチャンバーの中に力を流し込み、弾の威力を飛躍的に高めていく。

 

 

(もう少しなら、あるいは。)

 

 

 そして、エネルギーを知覚している今なら、センチネルのエネルギーチャンバーにはまだかなりの余力があることがわかる。……まあ確かに、競技用に調整された兵器だ。もともと、腕の装置からの流入を目的としていたために、その流入量にリミッターがつけられていたのだろう。そのリミッターを、私が意図的に流し込むことで疑似的に取り外す。

 

 

 チャージが完了し、銃身から青色のスパークがはじける。その光を見て金色の眼のトカゲが反応するが、もう遅い。狙いを定め、息を止めて、引き金を引く。

 

 

 瞬間。

 

 

━━ドガァアアアン!!!

 

 その一射は、トカゲの居た岩盤ごと砕き飛ばした。

 

 




 

・”妨害者”

センチネルの強化形態。
シールドセルを二つ消費し、そのエネルギーをチャージすることで、一定時間その射撃の威力を飛躍的に高めることができる。当たりさえすれば、相手のシールドを確実に叩き割ることができるが、コストパフォーマンスが悪い。

本作のレイスの場合は妨害者のエネルギーチャージを自身の次元エネルギーで賄っているのでコスパが良い。チャージする暇があったらチャージしているだろう。



・ドンナー
ハジメが持つ兵器の一つ。
原作では秒速3.6キロメートルの弾丸を放つお化け銃。
本作ではハジメがレイスの持っている武器からある程度学んだので、原作よりも性能が向上している。

レイスはハジメほど化け物ではないので、ハジメに銃の正しい持ち方と狙いの定め方を教えていた時に、横でハジメが電流を流したドンナーの劇的な反動に涙目になりかけた。あの化け物銃も化け物だが、それを片腕で平然と連射するハジメは人外だと、レイスは本気で思っている。



・レイスの腕についている装置

別次元のレイスから受け渡されたもの。
本作では”次元エネルギーの貯蔵・放出制御装置”としている。
ここに来る前のレイスはこれに頼って力の行使をしており、Apexゲーム中はこれに運営が求めるリミッターをかけて戦っていた。度重なる制限の要求により、現在では一秒以上も敵の前で無防備にならなければ虚空に入れなくなった今でも、最強格の実力を有している当たり、彼女の優秀さがうかがえる。
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