イン・トゥ・ザ・ヴォイド   作:レイワト流行れ

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誤字が残ってるかも。あったらごめんなさい。
切り方がアレで不自然な構成だったりする。


強敵

「さて、おいでなすったな。」

 

 

 部屋に入ったハジメが笑みを浮かべてあのサソリと対峙する。

 部屋にのこのこと戻ってきたハジメとユエを確認したサソリは、飛んで火にいる夏の虫とあざ笑うように二人を見据えた。四本もある大ばさみと、二本の巨大な尻尾。全身を覆う、ハジメのドンナーであっても貫通させることのできない甲殻。まぎれもない強敵だ。

 

 

 だが、そんな強敵であっても。ハジメはおろか、ユエも、表情を変えない。それは、信頼の証。

 三人が三人、互いを強く、信頼しているからだ。

 

 

「さっきは世話になったな。お礼に殺して食ってやるよ。」

 

 

 そういって獰猛な笑みを浮かべたハジメは、その瞬間に地面に手をついて、錬成を始めた。

 その瞬間に地面が盛り上がり、サソリとハジメたちの間に、大きな壁ができる。

 

 

「グッ?!」

 

 

 だが、ここで予想外の抵抗を受けることになる。あの巨大なサソリが目を赤く光らせると、ハジメの膨大な魔力に抗うように魔力を地面に通し、地形を元に戻そうと画策する。先ほどは見えていなかっただけで、この魔物はどうやら地形操作能力も有していたらしい。だが。

 

 

「……まあいい。ユエ!」

「んっ……”蒼天”!」

 

 

 ハジメが時間稼ぎに徹している間に、ユエは既に狙いを定め切っていた。すさまじい魔力光が、彼女を中心に吹き出し、うねり、渦巻く。たった一言とともに出現した巨大な青い炎の球体は、太陽のごとく部屋の中を照らし、ゆっくりとサソリに向けて落ちていく。

 

 

 よけようとサソリが動こうとしても、ハジメの錬成がそれを妨害する。ハジメの干渉と、ユエの魔法の脅威。その二つに同時に対応しようとして動揺し、失敗したサソリは、その大魔法の直撃を受けることになる。

 

 

 グゥギィヤァァァアアア!?という絶叫とともに、部屋の中を染め上げる閃光。

 

 

 その瞬間、その好機を私は待っていた。

 

 

「………ッ!!」

 

 

 痛みに悶えるサソリの頭上を、虚空から出た私が取る。閃光も熱も、虚空に入っていた私には影響を及ぼさない。そして、サソリはあまりの衝撃に音もなく頭上を取った私の気づく道はない。

 

 

 落下しながらクナイに可能な限りの力を込めて、全身全霊の一振りを放つ。

 

 

 音もなく、ハジメのドンナーですら傷を与えられず、ユエの放った強大な魔法であっても突破できなかった防御性能を持つサソリが、真一文字に切り裂かれ、絶命した。

 

 

「……クリアよ。」

「相変わらずえげつないな。防御無視。」

「……蒼天……最上位魔法なのに、あっさり……」

 

 

 ユエは驚きに目を見張り、ハジメはやっぱりSFヤバいと、遠い目で私を見つめる。

 本来ならば全霊を以って相手取る必要のある敵であるはずだったが……準備を整え、しかるべき戦術をとれば、相手ではなかった。とはいっても、ユエはユエで相当だ。秒速4.0キロメートルの化け物銃の直撃を受けてほぼ無傷という相手の防御を、赤熱化させて、表面だけとは言えドロドロに溶かして見せたのだから。

 

 

「さて、運び出すぞ。レイス。解体は任せた。」

 

 

 ともあれ、強敵を打倒した後の恒例行事がスタートする。それは、”食事”だ。

 クナイを使って解体したそれらを、ポータルを使ってこの層の拠点に転送する。

 これだけの量の肉を消費しきるのは結構な時間がかかるだろうが、その間は新しい戦術や、戦いの方法の模索に努めるのだ。

 

 

 こうやって、私とハジメは進んできた。

 今度はユエも、同じように歩んでいくのだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

 

 

 食事中の一幕。私たちが栄養補給ついでに魔物の肉を食していると、不意にユエが質問してきた。

 私たちの不可解な実力について、その理由に興味がわいたのだ。

 

 

 そこで、まずはハジメから、この迷宮に来るに至り、奈落で何があったのかを語った。

 その結果が、この号泣である。

 

 

 涙の止まらないユエを、ハジメが慰める。……お邪魔虫のような気がしたので、できるだけ気配を消して、彼らの様子を眺めていた。必ず帰る。そう口にするハジメに、ユエが不安そうに口にする。

 

 

「……私、帰る場所、ない。」

 

 

 それは、その通りだった。

 彼女の還るべき場所は、300年前になくなっている。ユエにとってはハジメが全て。彼が元の世界に返ってしまえば、ユエは孤独の道を歩むことになる。そのことに気が付いたハジメは、何かの選択を下したのか、笑みを浮かべると、”一緒に帰るか”と、ユエを誘う。

 

 

 また一つ、未来の幅が広がっていく瞬間。

 彼らの紡ぐ道は、いつも新たな道を開いていく。……未来を予測するのは、もう難しいだろう。

 

 

 そのままべたっとハジメに引っ付いて甘えるユエに、ヘタレたハジメが視線をそらして、作業に没頭する。制作しているのは、センチネルをモデルとし、さらなる破壊力と性能を追求した新型兵器だ。完成にはまだまだだが、彼からすれば未来の技術である私の武器を解析しながら作業を進めるのだ。……おそらく、ドンナー以上の化け物が出来上がるのだろう。

 

 

「………あれ。じゃあ、レネイは……どうして力を?魔力じゃない、不思議な力、どこで。」

 

 

 甘えても反応をくれないハジメにぷくっ、と顔を膨らませて不機嫌を可愛く示すユエだったが、不意に気が付いて、私に問う。

 

 

「そういえば、詳しく聞いてなかったな。来歴だけ聞かされたが、レネイの力の出自については省略したんだっけ。ついでだレネイ、あんたの出自とかもろもろ教えてくれないか?話しにくいなら構わないが。」

 

 

 その言葉に、ハジメも食いついてくる。恐らくはユエの気を少しでも自分からそらそうとしているのだろうか。格好の話題が見つかったと、私に話を促してくる。

 

 

 ……別に、隠すことでもない。私は話すことにした。いや、話すべきなのだろう。ユエもハジメも、自分のすべてを語った。

 ならば私も、語らなければならないだろう。……自分の、”レイス”の源流について。

 

 

「……人体実験よ。私の力は、人体実験で後天的に植え付けられた物。」

 

 

 語ったのは、私の原初の記憶。

 激しい苦しみと、痛み。今でも思い出そうとすると、吐き気がこみ上げてきそうなほど、苦痛を与えられたあの激しい実験。私は、その実験において、記憶を失った。

 

 

 フェーズ技術とは、もともとタイフォンという惑星で研究されていた技術であり、タイタンという私たちの世界の兵器にも実用段階ではないにしろ、転用が始まっていたほどの兵器であった。時空間に干渉する、人類が夢見た技術。だがその技術は、フロンティア戦争という、大規模な星間戦争において、研究を行っていた惑星ごと爆散し、失われてしまった。

 

 

 集めた情報を見る限り、私はその失われたフェーズ技術を取り戻すための実験をしていて、被験者が誰もいないことで、自らを被検体にしたのだ。

 

 

 結果は、このざまだ。

 私は記憶を失い、激しい副作用を発現した。精神的に不安定となり、発現した力も不安定なことこの上なかった。それに、頭の中に自分のものではない声が響くようになって。私は、失敗作として扱われた。

 失敗作の末路は、もちろん処分。ひとしきりデータを取った後は、殺されてしまうところだった。

 

 

 ……別次元の私が世界を超えて助けに来てくれなければ、私はそうなっていただろう。

 

 彼女から聞かされたのは、裏切りについてだった。私は裏切られて、本来行うはずのない”別の”、非人道的な実験にもかけられたのだという。そして、多くの私は、その復讐のために次元を渡り、その男を殺そうとしている。

 

 

 ……私はその”私”に導かれて施設を脱出して、この装置を託されて、世界線を超えて、私は逃げ延びた。

 

 私には、復讐心はない。思うところはあるのだけれど、私は、何も覚えていないのだから。でも私は、何のためにこの力を求めたのか……本当の私が何を思ったのかを、知りたかった。

 

 

「ここに音声ログがある。……”本当の私”が残した、私が見つけることができた、唯一の音声ログよ。」

 

 

 懐から取り出した携帯端末を起動させる。いつも私が持ち歩いているものだ。空中にホログラム映像が展開される。映し出されたのは、白衣を着て、眼鏡をかけた私自身。束ねた黒髪は降ろしていて、一見すれば私には見えないだろう。

 私が目指す、本当の私。……レネイ・ブラジー。理性的で、今の私とは比べ物にならないほどに、未来への希望と期待に満ち溢れた言葉を紡ぎだす。

 

 

『シニアサイエンスパイロットのレネイ・ブラジーより、初回報告。

IMCのARES師団から、新しいフェーズシフト技術の試験許可が下りた。同僚のシン博士は、彼らに不信を抱いている。でも正直に言えば、私は真実を追求できればそれでいい。

私たちの世界以外に、次元が存在するのだろうか。

志願者が現れなければ、自分が実験台になるだけ。その先には多くの道が存在する。

 

………行きつく先は誰にもわからない。

「プロジェクト・レイス」始動。』

 

 

 音声ログはここで途切れる。

 

 

「私は、思い出さなければならない。何を求めて私は”生まれた”のか。何を求めて、私はこの力を得たのか。

……真実を知りたい。”レネイ・ブラジー”が私に託したものを。私が存在する理由を。だから、手掛かりを求めて私は戦うの。……その手掛かりがあるのは、私の元の世界だけ。だから、必ず帰る。」

 

 

「うぅっ、レネイぃ……!」

 

 

 先ほどと同じように、涙を流して今度は私に抱き着いてくる。ハジメも、苦い顔をしている。

 私の話が好ましくないのは、事実。誰も、いい印象なんて浮かべないだろう。

 

 

「……済まん、レネイ。配慮が足りなかった。」

「良いわ。話さずに付きまとわれるよりはずっといいし、何より、私が帰る理由を貴方たちに共有しておきたかった。……私も、ハジメと同じよ。何としてでも、元の世界に戻る。」

 

 

 えっぐ、えっぐと泣きつくユエの頭をなでながら決意を表明する。

 その言葉に、ハジメが頷いた。

 

 

「……そうだな。帰る時代も、世界も違っても。俺たちは故郷に帰るんだ。」

「私も、頑張る……っ!」

 

 

 頷き合って、私たちは手を取り合う。

 まずは、この迷宮の攻略からだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 それからの攻略は、特筆することはあまりない。

 私たちの攻略は、極めて順調であった。

 

 

 ユエが加入したことにより、バランスはさらに保たれた。私が状況を把握し、前衛を務め、ハジメがユエを守りつつの中衛。後衛はユエが魔法による殲滅力で敵を一掃する。

 階層主のような強大な敵や、サソリのように防御力の極めて高い敵に対しては、私が対処し、それ以外の敵はハジメたちが対処する。

 

 

 理想的だった。唯一苦戦したといえば、60階層の、胞子で敵を支配するアルラウネだった。あの時はユエが支配され、私は胞子から逃れるためにずっと虚空に入りっぱなしだったし、耐性を持っているハジメであっても、支配されたユエを半ば人質に取られながらの戦闘は、結構戸惑っていた。

 

 

 とはいえ、そんな戦闘を除けば、苦戦らしい苦戦はない。

 

 

 私たちは順調に強さを磨きながら、奈落を攻略していった。

 

 

 私も次元エネルギーの扱いに成熟し、ハジメとの連携も極めて高い確度で行えるようになった。ユエも、コールサインやハンドサインを覚えてからは、ハジメとの連携を高めたい一心で、それについてきている。

 

 

 ハジメはハジメで、新兵器を完成させていた。

 

 

 なんでも、50層で戦ったあのサソリの甲殻から入手した鉱石「シュタル鉱石」は、魔力を籠めれば込めるほど硬度が増していく、特殊な鉱石なのだという。そんな丈夫な鉱石をふんだんに使い、センチネルをまた分解して解析して作り直したのが、シュラーゲンAMSLG(アンチマテリアル・スナイパーレールガン)だ。本来の構想からさらに飛躍させ、超長距離の射撃を行うものだという。

 

 

 理論値にしてドンナーの12倍。チャージ機能を使い、一時的にバレルの硬度を最高まで高めることで、超威力の弾丸であっても損壊しないような作りにできたという。

 

 

 もはや、対城兵器ともいってもいい代物。

 射撃精度も極まっており、星が球形であることを考慮に入れた超精密弾道計算を要求されるレベルにない限りは、スコープに映ったあらゆる敵を粉砕できる。最も、発生するソニックブームだけで、周辺数キロのガラスは割れるし、かすりもしなくても、誤差20m範囲内なら衝撃波だけで人間は両断。さらに近ければ粉砕される。

 

 

 ……音速にして、単純計算でマッハ130オーバー。

 こんな兵器、戦争条約で真っ先に規制されるに違いない。

 

 

 その説明をつらつらとされたとき、私はおろかユエですらも若干引いていた。元の世界に帰ってこれが持ち込まれた日には、世界征服など容易ではなかろうか。

 

 

 明らかに過剰火力であり、理論火力でぶっ放した場合、何が起こるか分かったものではない。少なくとも味方が近くに入れば、ステータスの耐久的に大けがはしないだろうが、衝撃波に巻き込まれて傷を負いかねない。ユエが珍しくハジメに説教し、この兵器は本当に危機的状況になければ、使わないことを約束されていた。

 

 

 ……ハジメは放置しておくと、そのうち星間戦争級の火力をもった兵器を作ってしまいそうだ。ほおっておけばこの世界が焼け野原になるかもしれない。

 ……フロンティア戦争では、多くの居住可能な星々が、その戦争による破壊と汚染によって住めなくなっていたことをやんわりとユエに伝えると、ユエは顔を青ざめさせ、ハジメの手綱を握らなきゃ、と、MADとなりつつあるハジメの抑止力になるべく奮闘している。

 

 そういえば、ハジメとユエの関係性についても語っておく必要があるだろう。

 

 私からの後押しを受けたユエは戦闘中など、気を抜けない場面以外においてはハジメに露骨に甘えるようになった。私に遠慮せず、休んでいる間はハジメと添い寝をするし、大胆な行動にも出るようになった。

 そして、ハジメはそれを拒絶しない。ヘタレて無視を決め込むことはあるが、自分にストレートに好意を向けてくる相手には弱いらしい。さすがは、ハジメの運命といったところか。

 

 ………だが、ユエはハジメだけでは飽き足らず、時折私にも甘えてくる。

 吸血だけは本当に勘弁願いたいのだが、ユエ曰く、スイーツのような味わいの血を我慢できないとのこと。今はまだ我慢してもらっているが、果たして、私が帰るまでにユエは耐えきれるのだろうか。

 

 そんなこんなで、ようやくたどり着いたのは、奈落から数えて百層目。一つ手前の層で、入念に準備を整えた私たちは、意を決して階段を下る。

 

 階層間の階段を降りると、現れたのは荘厳な装飾のなされた、極めて広い通路だった。

 ……ここが最後だと、ここを訪れた誰もが確信するだろう。

 

 

「ここがラスト、みたいだな。」

 

 ハジメが感慨深くつぶやく。時間感覚が狂っているため、何日経ったかわからないがかなりの月日が流れていることは間違いないだろう。ようやくこの日が来た、と私も少しこの迷宮攻略の日々を思い返す。

 

 思えば、我ながらすさまじい日々を過ごしたと思う。ここにきてすぐ、戦いに明け暮れて。何日もさまよったこの迷宮で、ハジメと出会い、そこからまた探索を始めた。幾多の戦いが私を強くしてくれた。Apexゲームでも経験のない多くのものを得てきたし、私自身も力の扱いに成熟してきた。そして、何物にも代えがたい、運命も目撃した。

 

 たった一つの選択が道をこんなにも変えてしまうと、私は知ったのだ。

 それは、このファンタジックな冒険の中で得た、一番大きなものだろう。

 

 

「ええ。そうね。」

「あの奥に見えるのが、反逆者の住処?」

「かもな。……外に通じる魔法陣の一つや二つくらいは、あってくれよ…?」

 

 そんな期待を口にしながら、先に進み続ける。

 長い回廊をまっすぐ進み、ついに扉と最後の扉の間に差し掛かった、その瞬間だった。

 

 

━━━来るわ。構えて。

 

 

「……来るわ。戦闘用意。」

「まじか。ラスボスってところかな。」

「ん……。」

 

 

 虚空からの声がもたらす情報に、私たちは身構える。

 数秒後、扉と私たちの間から巨大な魔法陣が出現した。

 今までで散々見てきた、主級の魔物の召喚魔法陣。だが、サイズが桁違いだ。

 

 

「おいおい……こりゃあ、本当にそう、みたいだな。」

 

 

 地面から湧き出るように現れたのは、六つの頭を持つ、体長30mほどの巨大な蛇。

 こちらの姿を認めると、すさまじい殺気を向けてくる。暴風のような、物理的な圧さえ感じかねないほどの気迫。常人なら、ショック死している可能性すらあるだろう。

 

 

”散開。斬り込むから、援護をお願い。”

”了。右側の援護は任せろ。”

”左側は私が。”

 

 

 即座に”念話”で意思疎通を行い、攻撃を仕掛ける。これはハジメが倒したアルラウネから得たスキルだ。魔力が使えない私でも、ハジメが中継器となることで三人の間での念話が成立する。

 

 

 まず即座に、ハジメがドンナーを放ち、こちらに攻撃を仕掛けようとした赤色の頭の蛇の顔面に、風穴を開けた。ユエも、殆ど同じタイミングで氷の針の雨を作り出し、青色の蛇を仕留める。

 

 

 直近の攻撃を退け、わずかな猶予を与えられた私は、その巨体に、何度も鍛錬を積み重ね、ついにはほとんどノータイムでチャージできるに至ったクナイを大きく振るう。

 

 

 次元エネルギーが一直線に放出されて、黒、黄、緑の首を、根元から一気に切断する。

 本当は白の首までもっていきたかったが、モーションに危機感をおぼえたのか、ほかの首がその首をかばうように射程から白の首を押し出したのだ。

 

 

 あと一つ、すぐに倒せる。もう一度クナイを振るおうとして、直後、私は目を見開いた。

 白の首が、咆哮を一つ上げると、根元から切断したはずの他の首が、ハジメが撃ち殺した首が、ユエがハチの巣にした首が、一瞬にして復活する。

 

 

 すべての首が、私の方を向く。これは、まずい。

 

 

 何の予備動作も感じられなかったが、私は虚空からの声を聴かないまでも自分がフォーカスされていることを理解し、とっさの判断で虚空に入る。

 瞬間、あらゆる属性攻撃が、先ほど私がたっていた場所に降り注いだ。

 

 

 ヘイトを買い過ぎた。あと一秒虚空に入るのが遅ければ、私は消し炭になっていただろう。あの攻撃は、アーマーがあってもどうにかできる類のものではない。

 初手で仕留めきれなかった以上、あの首たちは私を警戒し続けるだろう。クナイによる斬撃は、二度とさせてもらえないと思われる。

 

 

”ごめんなさい、仕留めきれなかった。”

”いい。それよりも次のプランだ。時間を稼ぐから、白頭を頼んだ。とどめはユエに任せる。”

”三つお願い。それだけ潰したら、私の最上位魔法で仕留める。”

 

 

 躱された刹那の念話。

 ハジメがメイン、私が強襲して、とどめがユエ。ヒュドラの首が三本以下なら、ユエは自分を守りながら最上位魔法を撃てると二人に分析を渡すと、即座に行動を合わせた

 作戦目標を更新し、次の行動方針を定めると、もう一度虚空に入って後方に下がる。

 あの化け物……ハジメが言うには、ヒュドラというそいつの首たちは、私を見失って警戒を厳としているようだ。私を探し、六本の首が全方位を警戒する。

 

 

 ………だが、ハジメもユエも、そんな”よそ見”が許されるほど弱くはない。

 

 

「こっちだ、バカ。」

「んっ!!」

 

 

 全方位を神経質に警戒しているヒュドラの首に、ハジメたちが執拗に攻撃を加える。

 ユエの魔法とハジメのドンナーが首を倒して、再生されの繰り返しをしているが、攻勢に出ようとしても、私が姿をちらつかせるだけで、そちらに注意が行き、結果としてうまくいかなくなる。

 

 

 今は私による郷愁を警戒しており、いくつもの首を犠牲にして、盾にして何とかヒュドラは白の首を守っている状況だが、それさえ取れれば、チェックメイトだ。

 

 

”レイス、五秒後に仕掛ける。合わせてくれ。”

”任せて。ユエは準備を。”

”んっ、頑張って!”

 

 

 再び攻勢の合図。虚空の中でクナイを構え、来るべき瞬間に備える。

 

 だが、それは、予想外の形で裏切られた。

 

「いやぁああああ!!!」

 

 

 残り二秒というところで、ユエが絶叫する。その場でへたり込んで、目を見開き、虚空を見つめて小刻みに震えている。そして、そんな無防備な彼女に、ゆっくりと青の首が向かう。何があった。とにかく、思案するよりも前に、行動を移す。

 

 

”私が稼ぐっ!!”

”頼んだぞっ!!”

 

 

 切り札としてとっておいたのだが、そんなことを言っている場合ではなかった。

 私は、ボルトSMGを取り出すと、ハジメに妨害を仕掛けようとする赤と緑の首に向けて、連射した。

 

 

 1マガジン26発を4秒前後で打ち尽くすそれは、たちどころに二つの首を穴だらけにして見せた。

 

 ボルトSMGの連射に、密度を自分の次元エネルギーを載せた射撃の結果である。

 一発一発が空間をえぐり取る射撃であり、射線上に存在するものは、岩盤だろうが何だろうが虚空へと抉り飛ばし、結果としてレーザービームのような貫通痕が残るという代物だ。

 私の次元エネルギー操作技能の向上に伴う、新たな技術というわけだ。ただし、ボルトSMGは高レートの連射武器。消耗は激しく、1戦闘の間に10マガジンも撃てばエネルギーが尽きる。私が持ち出した新たな切り札に、ハジメやユエへの攻撃を一時中断して、全ての首が私を見据える。

 

 

 ……上等だ。大事な友人を、傷つけてくれたのだ。ならば、相応の返礼を約束しなければならないだろう。

 

 

 すべての首が、私に対して攻撃を放つ。次元エネルギーを身にまとい、ステータスを少しだけ上昇させている私ですら、かろうじて知覚出来る程度。体を動かす暇もない。

 でも、認識できるなら、私をとらえられない。

 

 

「「「グルゥウウウウ!??」」」

 

 

 私に攻撃を加えると同時、三つの首が、自分たちの攻撃で吹き飛ばされた。

 

 

 簡単な話だ。ポータルを、私の前と、彼らの前に繋いだだけ。

 それだけで、私への攻撃はすべて彼らに返る。一方向から私を狙ったツケだ。

 

 

 悠然と、彼らの前で武器を持ち換え、チャージ。センチネルを構えた私が、ヒュドラに向けて照準する。

 白首が首を再生させると同時、センチネルの車線を遮るように、慌てて5本の首が盾になるように立ちふさがった。その俊敏性は見事といっていい。だが、それは”最悪の道”だ。

 

 

 放たれた”妨害者”の弾丸は、私のポータルを通り、今度は背後から、彼らの白首を強襲する。

 次元を超えた、私の弾丸。虚空を使ってヒュドラの周りをぐるぐる回っていたのは、別に逃げ回っているだけではなかった。ポータルを開くための、導となる次元エネルギーを残していただけに過ぎない。

 

 

「グルゥアアアッ?!!」

 

 

 白首が断末魔の叫びをあげて、絶命する。これで、再生機能を奪った。

 ……チェックメイトだ。

 

 

「あとは任せるわ。お熱いお二人さん?」

 

 

 今のセンチネルのチャージ射撃と、2連続ポータルで、一時的に私のエネルギーはほとんど底をついた。またすぐにでもたまるが、戦闘行動には90秒ほど必要だ。私は最後に虚空を使って彼らの反撃から身を守るように姿を消すと、轟音と衝撃が、ヒュドラを襲った。

 

 

「よくもやりやがったなクソヘビが。……もうくたばれ。」

「絶対、許さない。」

 

 

 どうやら復帰したらしいユエと、彼女を介抱していたハジメは、どちらも怒りの表情をヒュドラに向けていた。

 ハジメが取り出しているのは、私たちの間で禁止していた、最終兵器・シュラーゲン。

 

 

 ユエも、最上位魔法を使うべく、すさまじいまでの魔力光をその体から発していた。

 

 

 私に気を取られ過ぎて、本当に妨害するべきものを間違えたヒュドラの末路は、マッハ130を超える超音速弾の一撃と、ヒュドラの周辺ごとその空間を灼き尽くさんとするような雷撃の最上位魔法、”天灼”による消し炭…であった。

 

 

「くり、あ……ふぅ…」

 

 

 敵を倒し、ぺたりと地面に座り込むユエと、彼に駆け寄るハジメ。

 最上位魔法は彼女の保有するほぼ全魔力を注ぎ込む強大無比の一撃。その代償として、ユエはまともに動けなくなるのだ。

 サムズアップを掲げるユエとハジメ。お互いに笑みを浮かべて、そしてこちらを向いた彼らに、私もサムズアップを返そうとして……その声は響いた。

 

 

━━━来るわ。

 

 

「………ッ!!!!」

 瞬間、私は駆け出していた。

 完全に油断して、あのヒュドラの死体に目を向けていなかった二人に、全力で駆け寄る。

 数瞬後に異変に気が付いたハジメ。恐らくは”気配感知”だろう。

 

 

”足りないッ!!”

”稼ぐッ!”

 

 

 完全に気が付いていなかったのは、ユエのみ。仕方がない。彼女には周辺の敵を察知する力がなければ、不意打ちに対処する力もないのだ。ハジメとの刹那の間の念話。

 互いに何を指しているのか、もう手に取るようにわかる。

 

 

 呆然としているユエをなけなしの力を使い切って虚空の中に放り込んだのと、ハジメが私たちの壁になったのは、ほとんど同時だった。ハジメが盾になっていなければ、コンマ秒の差で、私はユエを虚空に放り込むことはかなわなかっただろう。

 

 

 瞬間、白銀の極光が、私たちの視界を埋め尽くした。

 

 

 




・レネイの音声ログ
2021/01/24の執筆中の現在では、ゲーム中において聞くことができない音声。
シーズン2の危険武装というイベントで追加された音声ログ。キングスキャニオンというマップの、シン博士の研究所というエリアの入り組んだ部屋の奥にあるPC端末から、上記の音声ログを聞くことができる。
イベントなどでマップが復刻すれば、聞くことができるかもしれないが……シーズン8のトレーラーを見る限り、ちょっと期待できないかもしれない。

なお、本作の音声ログに登場した過去の眼鏡っ子レイスは完全に筆者の妄想の産物。つまりはオリジナルである。
なお、細かいことだが、厳密にはこの音声ログはその次元のレイス本人のものではない。
あくまで、手掛かりの一つである。そのあたりは複雑なので、まずはレイスのトレーラーを4回くらい見てから解説動画を見ることをお勧めする。


・携帯端末
レイスが持ち歩いている端末。レイスが、というよりはこういった端末は大体のレジェンドが保有している。という設定。いろんな機能を保有している未来のデバイスといったところ。
これは次元エネルギー仕様になっていないので、いつもレイスは電源を落としてバッテリーを節約している。
デバイスはちょっとしたミニ図書館になっていて、戦争についての記録や、レイスが探求した自分についての資料、ランパートから送られた武器の説明書やレイスの自学用の試合の過去の映像などが納められている。

・戦う理由と、帰る理由
妄想の産物。一応ゲーム本編では”知るために戦う”と口にしているが、シーズン7現在では、オリンパスでのフェーズ技術の失敗を目の当たりにしたりなどで、過去の自分を知るのが怖くなっている様子。本作のレイスは怖さよりも知るという欲求の方が強い。

・ハジメが作っているもの
原作では片手間に速攻で完成させていたレールガン・シュラーゲン。理論値でドンナーの十倍の強さを誇るキチ〇イ兵器。本作ではレイスの持っているスナイパーライフルの正確性を無視できず、威力と精密射撃性を備えたアンチマテリアル・スナイパーレールガンとして製作を進めている。
レイスのセンチネルがチャージ機能を持っていることにちょっと憧れを隠し切れず、ハジメもチャージ機能を搭載しようと頭を悩ませているのは内緒。

・フロンティア戦争とか、IMCとか
こちらはApexではなく、タイタンフォールというゲームの内容に当たる。詳しい解説はそちらで。
Apexはタイタンフォールシリーズのスピンオフという立ち位置であるため、ストーリーや内容、世界観などを共有している。
Apex本編にも深くかかわっているシーンが多いので、ストーリーをより深く楽しみたいという方は、解説動画を見るなり、実際にゲームをプレイしてほしい。

筆者はタイタンフォールシリーズ未プレイ(やれ)
 
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