イン・トゥ・ザ・ヴォイド   作:レイワト流行れ

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虚空の道

ーーーー

 

「う、そ・・・・・・はじ、め?・・・・・れねい?」

 

 

 何があったのか、わからなかった。

 私が、最上位魔法で、あの大きな魔物を倒して、疲れて、ハジメと合図して、レネイにもって、しようとしたら、レネイがすごい顔になって、ハジメもあわてて動いて。

 

 

 目の前が、真っ白になった。

 気が付いたら、私は無傷で、でも、ハジメとレネイが、血だらけで倒れてて……

 倒したはずの魔物は、見たこともない首が、一本残ってて。

 

 

「……っ!」

 

 

 でも、慌てない。怖い、怖いけど……それ以上に、何もせずに、ハジメとレネイを失うことの方が、もっと怖い。神水を素早く飲み干して、すぐに動く。幸い、レネイが虚空にかばってくれたおかげで、私は無傷。できるだけ早く、ハジメとレネイに神水を……

 

 

「ゴギャアァアッ!!」

 

 

 でも、その場で飲ませるのは、間に合わない。

 とにかくハジメとレネイを柱の陰に……!

 

 

 流れ出した血を一舐めして、それで得た魔力で少しだけ身体強化。二人の体を、回廊の柱の陰に隠す。

 同時に、あの銀の頭が、攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 雨のように降り注ぐ、光の槍の連撃。丈夫だから耐えられてるけど、1分も持たないかも。

 そう思いながら、私はレネイとハジメに、ありったけの神水を飲ませる。

 レネイはハジメの後ろにいたから、まだ傷が浅いけど、それでもところどころ骨が視えたり、深い傷になってたりしてる。ハジメは……それよりももっとひどい。

 でも、回復が遅い。どうして……?

 

 

「っ、ユエ……」

「レイス、気が付いた?」

「………右の、ポーチの中の、細長い、針の機械を、取って……私の、胸に、差しなさい。」

「……んっ…こ、これ?」

 

 

 レネイは目を覚ますと、そんなことをいう。でも、きっと何かあるはず。レネイは”えすえふ”なアーティファクトをたくさん持ってるって言ってた。もしかしたら、何とかなるのかもしれない。

 

 

 ごそごそ探ると、ポーチの中からいろんなものが落ちたけど、見つけた。

 先端に針のようなものが付いてる。これを、レネイの胸に、差す。

 

 

「グッ……」

「だ、大丈夫?」

「そのまま、押し込んで、私が、良いと、言う、まで……!」

 

 

 針が光り輝いて、レネイが苦しみの声を上げる。針からは、奇妙な音が鳴り響いて、レネイに何かを流し込んでる。

 

 これは、一体。

 

 

「ッ、はぁッ!」

 

 

 そうして数秒強く押し込んでいると、レネイが大きく目を見開いて、飛び起きた。そして同時に、ポーチの中身をまさぐって、ポーチから地面に落ちたものを拾い上げる。赤をベースに白の十字のマークの書かれた、ハジメのドンナーに似たような……それを、自分の腕に刺して引き金を引きながら、レネイが言う。

 

 

「……これを、ハジメに同じようにして。私は、最低限の回復を済ませたら、時間を稼ぐから。」

 

 

 柱が、そろそろ限界に近くなる。私はそれに頷くと、ふいにレネイの体からの出血が止まっているのが見えた。

 傷も、殆どふさがってる。これは、一体……

 

 

 疑問に答える間もなく、レネイはポーチの中にあった小さな青色の丸い筒だけを抱えると、そのまま柱の陰から飛び出していった。傍らには、さっきの赤い何か。

 

 

 よくわからないけど。レネイの言葉だ、信じられる。

 ……今度は私が、ハジメを助ける番。

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 危ないところだった。

 ハジメの陰に隠れていたのにも関わらず、ボディシールドは紙切れのように破壊されて、体もずたずたになった。ユエが神水を飲ませてくれなければ、私はそのまま死んでいただろう。

 

 

 付け加えるなら、遮蔽に身を隠されていなければ、この光の雨に飲まれていただろう。

 

 

 ……部隊は家族と、よく言ったものだ。

 ユエとハジメの決死の献身のおかげで、私は命をつないだ。

 二人のおかげで、命をつないだというのなら、今度は私が、命をつなぐ番。

 

 

「当たると思わないで。そんな攻撃。」

 

 

 無秩序に放たれる攻撃など、よく見ていれば当たることなどない。連射量と威力は驚嘆に値するが、肝心の精度がまるで足りていない。ならば、スライディングして、ジャンプして、動きをかく乱させながらシールドをチャージすれば……相手の攻撃がかする程度なら、戦闘継続ができるだろう。

 

 

 シールドが、ほんのわずかだけリチャージされる。

 心もとない量だが、そもそも私自身の次元エネルギーが足りていない。……足をやられていたため、先に医療キットを使うことになったのは痛恨ごとだが、四の五の言ってられない。

 

 

 でも、良いこともある。間近で使い方を見ていたユエなら、きっとハジメを蘇生キットで気つけして、医療キットで身体機能の回復までもっていくだろう。

 

 

 医療キットは単純な外傷だけであるならば、生分解性ナノマシンを投与し、極めて高いエネルギー量を注ぎ込むことで、無理やり細胞分裂と組織修復を行わせるものだ。神水をもってしても再生速度が遅いのは気になったが、神水ですでに治癒が始まっている段階であったため、ここから上乗せで治癒効果が発揮してくれたらしい。戦争でも使われる規格の、私たちの世界でも最新鋭の医療機器。代償として、すさまじい量のエネルギーを持っていかれるのだが。

 

 

 その秒数は、ざっくり60秒。

 そしてユエの魔力供給の時間も含めれば、2分といったところか。

 その時間、せめて稼ぎきる。

 

 

「フッ!」

 

 

 センチネルもボルトも、今の状態でチャージショットを無理に撃とうとすると動けなくなる。虚空へは、エネルギーが足りないから入れない。弾倉と、替えのマガジンに残っている弾丸だけでやりくりするしかない。

 スライディングして、そこからジャンプしてできるだけ体を浮かせて、ハジメたちがいる遮蔽とは反対側の柱にある遮蔽に入る。

 そこで再び、シールドセルでシールドをリチャージ。3秒間。ヒュドラの様子を見ながら柱の陰でさらに様子を見る。相も変わらず大連射攻撃で柱を削ろうとしているのだが、それでは何にもならない。シールドのリチャージを済ませると、シールドセルをポーチに仕舞いなおす。

 

 

 これ以上隠れていると、ハジメたちに注意が行きかねないからだ。

 遮蔽からほんの少しだけ体を出して、ボルトを構える。

 

 

 ……だが、構えるだけだ。あのヒュドラはそれを見ると即座に身をひるがえして射線から引こうとする。そこでようやく放ち、わざと外す。

 

 

 これでいい。あのヒュドラに、今のボルトが奴にとっての致命打ではないことを悟られなければ、それでいい。時間を稼げれば十分だ。……次元エネルギーはまだ回復しきらない。できる限り温存し、いざというときのために消費するためだ。……まだだ。焦らず、落ち着いて、なすべき選択を、冷静に。

 

 

━━ブレスよ。逃げて。

 

 

「ガァッ!」

 

 

 声が脳裏に響いた瞬間に、私はその柱から飛び出して、できるだけ真横に跳躍して避けた。

 瞬間、先ほどまで私がいた柱は、根元から破壊されて吹き飛ばされる。

 すさまじい破壊力。……だが、柱を破壊できるほどの威力ということは、先ほど隠れていた時に使用することもできたはず。……つまり、使用制限があるとみるべきだ。

 

 

 連続して使用できないのは、察しが付く。なら、その前兆を見逃さなければいいだけだ。

 残り六十秒と少しだろうか。一秒一秒が長く感じる。虚空に入らず、この地獄の攻撃を潜り抜ける。

 

 

 ……道は、果てしなく遠い。

 

 

「………ッ!」

 

 

 単調な回避行動は絶対にしない。乱数回避などと言うことはできないが、できるだけ、様々なパターンを織り交ぜて回避する。Apexゲームにおいて、チャンピオンを決める争いの際に、観客へのファンサービスとして、一対一での殴り合いをしたりするとき、近距離でマスティフショットガンやピースキーパーをよけながら戦闘を行うとき、遮蔽物のないところで、G7スカウトを相手に弾をよけ続けるとき。

 

 

 Apexゲームで培った、そういう時に必要な回避挙動をできるだけ再現しながら、相手の攻撃をよける。

 

 

 しゃがみ込みながら横移動、前後左右へのステップ、真横へ跳躍してのスライディング、バニーホップと呼ばれる特殊な歩法。今までさんざん練習してきて、実戦で培ってきたすべてで、相手の範囲攻撃をよけ続ける。

 

 

 足が痛い。これほどまで長い時間、足を酷使し続けてきたことがあっただろうか。膝と足首が、悲鳴を上げ始める。

 

 

 疲労からか、時折攻撃が掠める。身を守るアーマーが、掠めただけであっという間に削られる。あの攻撃にはできるだけ当たるわけにはいかない、というのに。

 あの攻撃は、神水であっても治癒阻害が出るほどの何かが含まれている。

 医療キットがあったから、無理やり治療できたが、今受けるとどうにもならない。

 

 

 しかし、それでも。

 何をしてでも、耐えなければならない。

 

 

「………グッ……」

 

 

 肩口にかすってしまう。

 ジュクジュクと痛みが走りながら。傷口があわだっていく。

 なるほど、これは毒か。道理で神水の効き目が悪いわけだ。

 

 

 疲れ果てて、痛みで倒れてしまいそうなのを、歯を食いしばって我慢しながら、バニーホップを維持して、神水を口にする。その間に2、3発かすったけれど、頭と足ではないなら、問題ない。

 

 

 あと、何秒だろうか。もう、時間がわからない。数える余裕がなくなってきている。

 ともかく、反撃の素振りだけでも見せて、攻撃の手を緩め……

 

 

「━━━━ッ」

 

 

 そう思って、左手を動かそうとして、動かなかった。

 ちらりと視線を向けると、肩口に、光の槍が刺さっている。

 左腕は動かない。銃を持つことは、もう叶わない。

 

 ここにきて、痛恨のミス。

 

 

 あの銀首の蛇が、にたりと笑みを浮かべたような気がする。お前はもうおしまいだと、宣告をうけたような錯覚。だが、事実その通りで。

 万事、窮す。もう、私が”先へ至る道”が見えない。

 

 ハジメたちの様子をつかむこともできない。

 このままでは終わってしまう。

 

 

 でも。……私は知っている。選択が、時に定められた道を大きく変えうることを。 

 あきらめない。最後まで、あがいて見せる。

 

 

 望むべき道は、虚空の中に。

 今は見えない道ならば、こじ開けて進んでみせる……!!

 

 

 

 腕が動かないことで、重心がぶれる。精密動作が失われ、回避が鈍くなる。

 でも、まだ、終わっていない。この瞬間まで、次元エネルギーを使ってこなかったことが、功を奏する。

 

 

「ハァアッ!!」

 

 

 右手で腰のクナイを抜いて、チャージ。極限状態だからか、世界がゆっくり動いているように見える。

 クナイを握りしめた私を見て、銀頭は目を見開いて回避行動をとる。

 

 

 しかし、もう狙いは定まらない。放たれた斬撃は、大きく上にそれてしまう。

 

 

 がむしゃらに、何度も振るって、最後の抵抗を試みる。

 ……ことごとくがよけられて、大半が上にそれた。

 

 

 これで、エネルギーも尽きた。振るっている間に、もう右脇腹と、左太ももを貫かれている。傷口から毒が周り、全身が悲鳴を上げる。右足からガクリと力が抜けた。酷使しすぎたせいか、腱が逝った。回避行動は、もう不可能。

 

 

 銀頭は、地面に膝をつき、満身創痍となった私を、あの雨の攻撃をせずにこちらを見ている。

 ……ああ、そうだ。槍の攻撃の終わりは、ブレスの前兆。

 

 

━━避けなさい!

━━逃げて!

━━虚空に入るのよ、なんとしてでも!

 

 

 他の世界線の私から、声が届く。

 でも、もう、虚空に入れるほどの力は、残っていない。世界線を超えるにしても、別次元の私たちにだってそれぞれの戦いがあるのだろう。むしろ、私と違って戦闘中に虚空に入るのが、最適解だったかもしれない。

 

 できることは、最後に、延命として、神水を飲むことくらいだろうか。

 

 

 ……治癒効果が頑張ってくれれば、ダメージを受けながらも回復が続いて、生き延びられるかもしれない。

 

 途切れそうな意識の中、最後の神水を口に含む。

 毒の作用よりも体の修復が早まり、次元エネルギーがほんの少しだけたまる。

 

 でも、ああ。虚空に入るには、コンマ数秒、足りない。

 

 

 

 でもこれで、ようやく、やっと。ハジメたちが生き延びる道が見えた。

 時間は、稼ぎ切った。さっきまでは絶たれていた道が、新たに紡がれ始めているのを、感じ始めていた。

 

 

 そこに、私の道がないのは、少し寂しいけれども。

 

 

 

 

 

 

 

 ━━銀頭が口を開いた。閃光が、私の眼を灼いた。

 

 虚空に入れたかどうかなんて、もうわからない。

 私の意識は、そこで光の中に飲まれてしまった。

 

 

 




・ボルト強化
次元エネルギーの密度を高めてボルトに供給することで、防御無視のレーザービームを26連射できるようになった。消耗が極めて激しく、戦闘中での連続使用は10回が限度。当然だが、それもほかの力を使用すればするほど、連射可能回数は減っていく。当然のようにLV3拡張マガジンをつけているが、気にしないように。


・ポータル返し
ポータルを反射技に転用する凶悪な技。ハジメの発案。次元エネルギー制御技術の向上により、ポータルの自由度が増したレイスの必殺技の一つになりうる。

・ポータル射撃
ポータルを使った三次元攻撃。ユエの発案。ポータルを通して攻撃を相手の後方に転送する技。
想定ではハジメのシュラーゲンを使うが、別にボルトでもセンチネルでも使えないことはない。

・ヒュドラ
原作より微妙に強化をしたが、ハジメ側の連携技術の向上により、第一形態はあえなく撃沈。
かわりにといってはなんだが、今回の銀首は死体の中からこそこそ隠れて極光をハジメたちにぶっ放してきた。
レイスが超反応を見せて居なければハジメも気が付くのが遅れてユエが死んでいたが、レイスのトリッキーな攻撃を受けてヒュドラ側が思いついた代物でもある。
 

・シュラーゲン
満を持しての第一射。
混乱に満ちた敵の首3体を根元から吹っ飛ばした。ユエが最上級魔法を撃たなくても、ハジメがドンナーに持ち替えて乱射するだけでゲームセットだったりしたが、彼らの怒りがオーバーキルをさせた。


・マスティフショットガン、ピースキーパー
Apexにおける近距離戦闘で敵に回せば大体死ぬ武器の筆頭。
マスティフは最強武器と名高く、おそらくこの世で最も多くのレジェンドを葬ってきたであろう。
ピースキーパーは、ショットガンのくせに中距離での疑似狙撃ができるなどと言うアホの性能をしている。
こいつらを相手に近距離戦闘をするとき、レジェンドたちは屋外でも屋内でもめちゃくちゃ気持ち悪い動きで敵を翻弄して弾を撃ち合う。

なお、当初レイスにはピースキーパーを持たせるつもりだったが、過剰火力過ぎるのでボルトに切り替えた。


・G7スカウト
スナイパーアモを使わない狙撃銃。スナイパーライフル扱いではなく、狙撃ができるくせにアサルトライフル扱いである。長距離狙撃は厳しいが、狙撃系の武器のくせにかなりの連射が効くのが長所。
マップによってはこいつを相手に平地で踊り狂うこともしばしば(本当はそんな位置取りをしてはいけないのだが)。


・バニーホップ
今は一定条件下でしかできな上規制されていてできない、かつてApex民は必修とされた歩法。通称バニホ
スライディングとジャンプを駆使してヘッドラインを上下させつつかなりの速度で逃げられるうえ、使用する際速度低下が入る回復アイテムをほぼノーリスクで使えるというおまけつき。ただし他から見ても自分で見てもめちゃくちゃ気持ち悪い挙動をする。

本作ではあまりにも観客映えしない気持ち悪い歩法ということで、古参のレジェンドたちはみんなできるけどルール上規制されていてできない、ということにしている。

・医療キット
Apex内では体力を全回復させるアイテム。設定に関しては捏造。
これも次元エネルギー稼働である。
神水ほどの治癒能力はないが、外傷だけなら欠損以下は治せるという代物。

・蘇生キット
名前も設定も妄想。ゲーム中においてレジェンドが味方を蘇生するときに使っている細長い棒みたいなの。
本作では大量出血で動けないレジェンドに一時的な大量造血と強心作用で意識と、短期間の戦闘行動が行えるようになる、と言う代物。これも次元エネルギー駆動する。
ちなみに、刺された側は死ぬほど痛い。
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