アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
「というわけでスぺ、これからチャートの組み直し……。もといちゃんとした計画を立てていく予定ですが、ユーは何するか解ってる?」
「うん! 全部勝つ!」
「違います。」
相変わらず、というかやっぱりそういうつもりだったかと思いながらため息一つ。ついでに手をグーにしてスぺの頭をぐりぐりしながら『お仕置きー!』もしておく。いくらちゃんと物や人に触れられるようになったとしてもそこまで強く圧力はかけられない。そのせいでお仕置きがお仕置きになっておらず、スぺから帰ってきたのは楽しそうな「やめてよ~!」の声。こいつめ……!
「もちろんレースには出るし、勝てるなら勝ちに行く。出走したくせにそこで手を抜くのは最大限の侮辱だからね、そういうのはしない。……でもそれが目標、ってわけじゃないの。」
「そうなの?」
「そうです。スぺ、貴方が為さないといけないことは……、お友達との仲直りよ。」
「……仲直り?」
思い当たる節がないように首をかしげる彼女。まぁ解っていたのならあんなことしないよね……、いや、しないというよりもするべきことがあったはず。普通なら気が付くような彼女たちの不調も、彼女にとっては気にするようなものではなかったのかもしれない。
この子、私の大事な妹であるスペシャルウィークは。
圧倒的に他人との関係性が薄い。
この子にとって自分の手の届く範囲は家族だけで、その手の中に友人が入るスペースはほぼなかったといってもいい。表面上は普通にやり取りができていても、楽しそうに会話することができても、傍から見たら友人と言えるような関係性でも、彼女にとってはどこまでいっても他人でしかない。
こうなってしまったのは、私のせい。
スぺが幼い時に私が死んでしまって、その光景を目の前で見てしまった彼女の心は砕け散った。そんな彼女の心を元に戻したのは幽霊のような存在となって戻ってきた私。そのタイミングも、小学校に上がる前。
同じような境遇の子は家族や周りの人たち、学友たちとの交友を経て少しずつその心を戻していくのだろう。もしくは精神科などに通院してちょっとずつ他人との繋がりを増やしながら回復していくのだろう。……だが、彼女にそれをできる機会は訪れなかった。私がつぶしてしまったといってもいい。
しかも私たちの育ての母である彼女も、私たちの生みの母という親友とその忘れ形見である私を失い精神的にかなり参っていた。なんとか普段通りの生活を送るのに精いっぱいで、誰かに頼るという選択肢は思い浮かばなかった。残された自分が頑張らなきゃ、スぺのためにも頑張らなきゃ。当時制限が多くスぺにすら簡単な意思を伝えることしかできなかった私は、母のその姿を見ることしかできなかった。
そんな不安定な状況でずっと下を向いていたスぺのところに、やって来たのはあの三女神だ。
大きくなったらレースにでて、それに全部勝ちなさい。そのためにあなたの姉をトレーナーとして付けてあげる。もし私たちの指定したレースに全て勝利を収めることができたのなら、“お前の姉を生き返らせてやろう”。
悪魔のようなささやき飛びついたスぺは、戻ってきた私とその声で無理やり心を固め直し、前へと進み始めた。その様子を見た母は、彼女の姿に励まされ前へと進もうとした。……スぺの世界には、彼女を含め三人しかいなかった。
「でもお姉ちゃん。私、誰ともケンカしてないよ?」
そうやって自身の世界を家族だけで完結させた彼女は、ただ強くなるために走り始める。すべてを犠牲にして。他人との交流も、必要最低限しかしない。スぺ自身、本来の性格が穏やかで、元気で、優しいものであったからそれに疑問を思う人はいなかった。小学生の頃は「ちょっと抜けている子」で通ってしまった。
子供の少ない過疎地域だ、小学校全体でも数は非常に少ない。本来なら遊びを通じて友人関係を構築すべきなのに、ウマ娘が彼女しかいなかったこと、無理な練習の疲れをその時間を睡眠に当てることで回復していたこと、そもそも彼女が友達を作る必要性を感じなかったこと。この理由からスぺは矯正の機会を全て棒に振った。
何か問題があっても、“私”に聞けば全て解決してしまうのだから。
「……確かに、喧嘩はしてないかもね。」
綻びが出始めたのは、トレセン学園に入ってから。
思えば、私も私でどこか安心してしまっていたのかもしれない。死んで魂だけの存在になってからスぺの元に戻るまで、女神の一人に『面白そうだから』という理由で私の存在しない世界の彼女を見た。アニメの、アプリの、画面越しの彼女を。トレセンに入るまでの時点で、私にはどうしようもないほどスぺの世界が完結してしまっていたことは理解していた。でも、あの世界の彼女を見てしまえば、彼女たちを見てしまえば。閉じた世界を広げてくれるだろうと、初めての友人ができるはずだと。
そう、思っていた。
私はスぺが不思議に思わない程度に距離を取った、彼女だけの時間。誰かと交友できる時間。外の世界に触れる時間を作るために。
そうやって、放置してしまったが故に。こうなってしまった。
「でもね、スぺ。たぶんだけどあなたは……、たくさんの人を傷つけてしまっている。」
強さ故の傲慢。
彼女たちにはそう見えているのだろうか。
「……傷、つけてる。」
スぺにとって勝利することは決まっていることだ。
だって勝てなければ姉は帰ってこないのだから。この時間も全てなかったことになってしまうのだから。
一着以外は、許されない。許せるわけがない。
傲慢である、という意識は彼女にないだろう。姉である私が教え、鍛えた。故に自分がまけることはありえない。
それが、彼女にとっての常識だったのだろう。
「そうだね……、黄金世代。いつも一緒にいたあの四人のこと。思い出してみて?」
「うん……。」
それが崩れたのが、ジャパンカップ。
あの、シンボリルドルフと対戦した時のことだ。
スぺが払ってはいけない代償を払い、勝利はした。結果として私はさらなる自由を得た。
今は、あの血と煤にまみれた『領域』も書き換えることができた。
だからこそ、さらにもう一歩踏み出そう。
「スぺの記憶の中にある彼女たちの顔は……、笑ってる?」
「…………ううん。」
エルコンドルパサー、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイロー。
何かと、一緒に集まっていた彼女たち。……今はもう違うけど。
「今の貴方の世界は、家族だけで完結してる。それじゃダメなの。……私が生き返ったとしても、いつか貴方は一人で生きていかないといけない。それにもう貴方はとても重い物を背負ってしまっている。」
史上二人目の無敗三冠に、同じ無敗三冠であるシンボリルドルフに勝利した。
“スペシャルウィーク”という名前は、とてつもなく重い。
今年の年度代表ウマ娘だって彼女だ、菊花賞からのジャパンC、有馬記念というローテで崩れた体調を整えるため、という理由で無理やり式典を休ませてもらっている。……言ってしまえばそういう無理も効くような立場になってしまった。彼女の背中には、それを望もうと望まないとこれからの日本が乗せられる。
……最終的にそれを背負い続けるか、振り落とすかはスぺが決めること。
だからこそ、もし選択を迫られた時に、ちゃんと選べるように。
私は、彼女の世界を広げなければ。
「……この休暇が終わったら、ちゃんとみんなと向き合いなさい。これまでお世話になった人、仲良くしてもらった人、勝負した人。そのすべてにちゃんと。本当に困ったときは助けてあげる、でもずっと私が傍にいてあげれるわけじゃない。……1人で。」
「……。」
「できそう、スぺ?」
「……頑張ってみる。」
この一年が、最後のチャンスだ。
「まずはエルコンドルパサー、エルちゃんと顔を合わせて話しなさい。……そこから、自分が周りにどう思われているのか、これからどうすればいいのか、考えていくのよ。」
◇◆◇◆◇
「よし! じゃあ次!」
スぺの了承を得たので次の話題に移る。
メインの目標を定めたから次はサブだ。まぁレースのことなんだけど……、レース全般のことをサブ目標にするのもある意味傲慢なのかなぁと思って見たり。ま、とりあえずやるからには勝ちにいきませんと。
「まず春のレースで大阪杯、天皇賞(春)、宝塚記念の春シニア三冠。その後海外遠征としてKGVI & QES。そこから夏季休養を挟んで、凱旋門賞。そこから秋シニア三冠の天皇賞(秋)、ジャパンカップ、有馬記念。合計8レースにスぺは出走しないといけません。」
「はい!」
この出走目標を定めたのは私やスぺと契約した神々だ。それ以外に出走することもできるが、この8レースに出走しないことは許されない。一年に8レース、ゲームの世界ならよくある予定だが実際にやるとなるとかなりキツイ間隔。これ以上何かに出走することはスぺの負担を考えれば却下だ。
「春シニア、凱旋門から秋シニアは期間が短いから本格的な練習をするのは難しい、毎回本気を出すには調整をメインにしていかないといけない。となると冬から春の間と夏、この時期に頑張っていかないとね。」
つまりトレセンに戻ったらすぐに大阪杯に向けて練習し始めないといけない、ってこと。クラシックみたいな同年代だけが相手のレースとは違い、シニアには何年も走り続けている猛者たちがいる。シンボリルドルフ、っていう一番大きな敵は引退したけど彼女に劣らない相手がいてもおかしくない。
「練習メニューとかはいつも通り私が組む、スぺはその合間。休息日をうまく使ってさっき言ってたことを進めていくのよ? 前みたいに私の眼を盗んで練習とかはしちゃだめだからね。」
「……うん、解ってる。」
「もうお姉ちゃん覚悟決めたから。沖野トレーナーとかに隠さないからね? 沖野さんにお願いしてそっちでも見てもらうから。……嘘ついてたら私すっごく怒るよ?」
「わ、解ってるよ~。」
もう沖野さんには母経由でメールの方を送っている。スぺの性格的にあんまり管理するのはよくないけど、絶対この子私の眼を盗んでやるからね。それで体壊しでもしたら元も子もない。
「ならよし。じゃ、誰が出てきそうなのか、ってのも考えながら行きましょうか。」
まずは初戦、大阪杯。スぺにある程度交友関係があって、私も把握しているのは三人。エルコンドルパサー、トウカイテイオー、ミホノブルボンが主なライバルになってくると思う。
エルちゃんは国外レースに向けて準備するだろうからおそらく春はこの一本に絞ってくる。つまりここでスぺに勝って気持ちよく海外遠征に挑もうって寸法だ。ダービーで彼女が負けたときちょっと色々あったけど、それがあったおかげで彼女の精神はかなり安定している、いや成長したというべきか。まぁだからこそスぺの最初の相手を勝手に任せちゃうわけだけど。
次はトウカイテイオー。私たちウマ娘が馬だった世界線とは違い、菊花賞で骨折し長期休養に入った彼女。ちょっとネットニュースを見てみたけど、どうやら最近はメジロの敷地付近で目撃された情報があるみたい。アニメの世界のようにマックイーンとの交友を深めている彼女だ、メジロのバックアップを受けて大きくなって帰ってくるだろう。
最後にミホノブルボン。この子はスぺと直接的な関係はかなり薄い、でも少し調べてみたら解るんだけど明らかにスぺを意識した発言を多くしている。サクラバクシンオーの長期海外遠征に付いて行った彼女は各地で重賞を含めた多くのレースに参加して、その勝利者インタビューを確認すればすぐに出てきた。今年は国内で勝負するみたいだし、この子も要注意。
「実際に彼女たちを見てみないと詳細なステータス、ってのは解らないけど全員が固有……、『領域』に入っていて、総合力もクラシック期の彼女たちとは比べ物にならないはず。」
「……勝てるよね?」
「もちろん。まぁスぺが自主練しなきゃだけど。」
「うぅ! お姉ちゃん酷い!」
これ以上言い過ぎるとスぺが拗ねそうだからもう言わないようにする。まぁ口酸っぱく言っておかないとこの子絶対やるからさ、……前にゴルシに止められてなきゃどうなったことやら。
ま、実際。スぺの実力は去年クラシックだったとは思えないほど上位にある。後は春にどこまで成長できるか、差を維持し続けられるか、ってところか。
【スペシャルウィーク】
>スピード:A
スタミナ:A
パワー :A+
根性 :B+
賢さ :B
>スキル
【Re:流星に捧ぐサルビア】Lv.6
【汝、皇帝の神威を見よ】Lv.4
【空駆ける英雄】 Lv.3
【不沈艦、抜錨ォッ!】 Lv.3
【ゲートの支配者:改】
【食いしん坊】
【逢魔時】
【プレッシャー耐性〇】
【全身全霊】
【率いるもの】
さ、スぺ。心機一転頑張ろうか。
次回
ずっと一人だった彼女は初めて外に出る。
Re:PART2 「怪鳥」