アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】   作:サイリウム(夕宙リウム)

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Re:PART2 「怪鳥」

 

 

 

私たちの朝は早い。

 

早く起きることはそこまで苦手ではないけれども、ずっと日が昇るような時間。今みたいな真っ暗な時間から起きて活動するってのはちょっとキツイなぁと思ってしまうこともある。

 

 

「ふぁぁ……、おはようです、グラス。」

 

「えぇ、おはようございます。エル。」

 

 

同室である彼女が朝の用意をしている物音で目が覚める、最近はずっとそんな感じだ。寮の大半がまだ寝ているような時間に、道場に行こうとする彼女を目を擦りながら見送る。私の、日常が始まった。

 

 

「今日も道場に行ってから朝練に合流します、遅れそうになったら連絡しますので。」

 

「は~い、了解デス。」

 

 

傍から見れば今のグラスは異常、いやストイックすぎると言った方が適切か。そんな生活を続ければすぐに体を壊してしまいそうなのに、ずっと続けているせいか私たちにとって日常となってしまった。まぁ一時期、スぺちゃんにとんでもない思いを抱えて全く会話ができない状態だったグラスを見ている私からすると……、会話が成立しているだけでありがたいって感じちゃうんですけど。

 

彼女の中で煮えたぎるような感情を御すために、力として昇華するために始めたらしい道場での鍛錬。疲れ果てるまで自身の獲物を振るい、後は朝練が始まるまでずっと座禅を組んで瞑想している。一度不安になって見に行ったことがあったが、その想いの強さに圧倒されていたことを覚えている。そこまで長い付き合い、というほどではないが同室で毎日顔を合わせていればグラスの性格ぐらい解る。対戦者として、ライバルとして自分のことを見てくれないどころか意識してくれないことが彼女にとってどれだけ大きいことなのか、そのレベルまで自身の力を高めることが出来ていないことが彼女にとってどれだけ大きい屈辱なのか。

 

言ってしまえば自分も同じ立場だ、その気持ちはよく理解できる。

 

 

「まったく、スぺちゃんは罪な女デスねぇ……。」

 

 

そんなことを言いながらのそのそと自分も寝台から抜け出す、折角早く起きたのだからその分みんなよりも早く、多く活動をする。でもまだペットのマンボも寝てるし、隣の部屋の人たちもまだ寝てるだろうから静かに行動しないと。

 

スぺちゃんはなんというか……、不思議な子だ。ただの友人として見るならば、ちょっと天然なところもある普通の優しい雰囲気の子。もう一歩足を進めれば、誰も入れない彼女だけの世界がある子。競技者として見るならば、私の世代の頂点に立つ子で、去年の年度代表ウマ娘。ただの観客として見れたのならこれほど心躍らせるウマ娘はいないんだろうなぁってことも解る。

 

そして、ライバルとして見るのなら……、多分だけど。勝つことしか意識してない子。

 

レースに関係せず、彼女にとって深入りしてほしくない距離に踏み込まなければ、普通の子だ。ただの友人として楽しく交友を深めることができる。だが、そこにレースが関わると彼女の態度は一変する。

 

スペシャルウィークにとって、敗北は許せないこと。いやむしろ敗北など自身にはありえないと考えているのだろう。

 

 

「まぁそのせいで色々とこじれちゃってるんデスケド。」

 

 

鏡を見ながら、肩をすくめて笑って見せる。一人の走る人間としてその態度に思うことがないと言えば嘘になる。だが、誰にも譲れないことがあるのも理解している。自分のキャラではないことは理解しているが……、要は付き合い方だ。

 

レースで見た勝利にしか興味がなく、どの出走者のことも単なる障害としか見ていないスペシャルウィークも。食堂でみんながあきれるほどに食事をかき込むスペシャルウィークも。会話の歯車が合わずとんでもない勘違いをしていたスペシャルウィークも。私にもう一度ともに走ろうと言ってくれた友人としてのスペシャルウィークも。

 

全て、彼女だ。

 

 

「多分レースとそれ以外の乖離が激しすぎるんですかネェ? そのせいで普段の行動を勘違いされちゃうって言うか。……まぁアレが演技ならもうエルは両手を上げて降参するしかないんデスケド。」

 

 

競技者としてのスペシャルウィークと、ただのウマ娘としてのスペシャルウィークの性格は驚くほど違う。強烈な二面性がある、と言ってもいいだろう。昔彼女とした会話の中に、『地元では他のウマ娘と触れ合う機会がなかった』という内容があったことを覚えている。他者をあまり自分の内側へと踏み込ませない彼女、小さいころからずっとそんな感じで、他のウマ娘とレースするような経験がないからこそ。そんな風になってしまったのかもしれない。……でもそれじゃあ彼女の強すぎる勝利への思いが何なのかわからないんですケド。

 

ダービーの後に彼女が私に見せた顔はウマ娘としてのスぺちゃん、レースでずっと後ろから見ていたのが競技者としての彼女。私はそう結論付けたけど……、それを誰かに話すことはできなかった。その強い勝利への思いを説明できないから、もし誰かに話してしまえば私の中にある不安がその子へも移り、より大きなものになってしまうから。

 

考えれば考えるほどに堕ちていく、幼少期に他のウマ娘がいない、故にレースできるのが楽しい。そう語る彼女の顔に嘘なんか見えなかった。だが何故そんな彼女が異様なまでに勝利への思いを宿すのか、ウマ娘として持つ『勝ちたい』という欲望よりも強い、『勝つ以外ありえない』という顔をするのは何故か。もしかすると私たちに見せている彼女の顔は全部“作り物”で、ターフにいるあの氷の様な彼女が本来の彼女なのでは、と。傍から、観客席から見れば愛想の良いウマ娘、だけど隣にいるからこそ見えてしまう一瞬の顔。何にも興味を持っていないような、ターフにいるすべてを無価値と思っているような、あのシンボリルドルフと同じレースに出たときも一瞥した後は他と同列として扱うような、暗く冷たい眼。

 

そしてライバルは誰かと問われた時の

 

 

『いえ、特には。』

 

 

と答えた彼女の顔。

 

 

 

「……ッ。目に入っちゃいました。変に考えすぎるのもダメですね。」

 

 

 

顔を洗い、水気をタオルでふき取る。

 

 

「そういえば、今日スぺちゃんが帰ってくるんでしたっケ。」

 

 

正直、この考えが当たっていようが当たっていまいが。どうでもいい。

確かに考えすぎであった方がいいし、いつか笑い話にできればこれほど素晴らしいことはないだろう。

 

でも、どっちみち私がやることは変わらない。そこに彼女の意思が入ることはない。

 

私は、私だ。

 

 

 

エルコンドルパサーだ。

 

 

 

確かに、クラシックでは一度も勝てなかった。

 

相手にされなかった。

 

ただの有象無象と一緒にされた。

 

そう思ってしまうぐらいに実力差があった。

 

そこに思うことはない、単に私が弱かっただけ。

 

 

 

「でも、決して手の届かない場所じゃない。」

 

 

 

マスクを顔に当て、強く縛る。

 

大阪杯、あそこで掲示板に入れれば海外挑戦に必要な賞金額は十分足りる。それに、今の実力と残された時間。私の成長量を考えればそこで勝負をかけるのは少し厳しいだろう。もちろんレースだから全力は出す、でもそれが限界ではない、ってだけ。

 

 

「楽しみデス、できればエルに負けるまでは誰にも負けてほしくはありませんが……。」

 

 

勝負は、海外遠征で。

 

今から大舞台でスぺちゃんを負かすのが楽しみデス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さすがにちょっと性格悪いですかね、マンボ。」

 

 

 

 

 

 

ま、まぁ多分大丈夫デス。タブン……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、こんなもんか。」

 

 

送られてきた資料のまとめ直し、所属しているチームメンバーたちの練習メニュー、各種マスコミに向けた対応。正月はさすがに休めと理事長に叩きだされたのはまぁちゃんと休めたのでよかったのだが、その分残っていた仕事が雪崩のようにやって来て……、今それがようやく終わった。

 

 

「っと、もうこんな時間か。」

 

 

時計を見てみればすでに深夜は過ぎ、もう少しで朝日が昇りそうなころ。ひと眠り、少しの仮眠ぐらいは取りたいところだが、今寝たら昼過ぎまで起きれなくなりそうだ。テイオーやマックイーンが朝練するだろうし、いくら最近かなり大人しくなったゴルシが面倒を見てくれるとしてもトレーナーが現場にいないのはマズい。カップに残っていたコーヒーを流し込み、腕を上に上げて大きく伸びをする。

 

 

「……にしても、お姉ちゃん。ねぇ。」

 

 

先日、というかちょうど今日の仕事を始めたくらいにスぺの母親からメールの方を頂いた。

 

内容はスペシャルウィークの姉、スぺが自身の指導者と言っていた彼女からのメッセージ。

 

 

「解らん。」

 

 

その内容にまったくおかしなところはない。

 

季節の挨拶に始まり、これまでちゃんと連絡できていなかったことに対する謝罪やこれからもあまり連絡が取れないことに対する謝罪。そこからこれまでスぺの指導をしてくれたことへの感謝が綴られている。

 

そして、その後にトレーナー同士がするような業務確認。スぺの今後の指導方針や出走するレースについて、休養日について、また彼女の精神の不安定さについて。姉としての視点と、指導する側からの視点の二つから求められたのであろうデータ、しかも幼少期からこのメールが送られる前日までの詳細なものが添付されて、送られてきている。

 

量が量であるし、緊急でしなくてはいけないこともあったのでそのメールを受け取った時はそこまで詳しく目を通していなかったが、見れば見るほどちゃんとしている。いやちゃんとしすぎているというべきか?

 

 

「どうしたもんかねぇ?」

 

 

それこそ、そのまま中央のトレーナーとしてやっていけそうなレベル。まぁもらった資料だけでそれが判別できるわけではないが、これまでスぺの練習はほとんど彼女が定めたものを繰り返してやっていたこと、ほとんど俺が名義貸し状態になっていたことを考えればかなり能力は高いのだろう。スぺの成績を見ればそれを否定することはできない。

 

 

「……だが、何故最初からそう言わなかった?」

 

 

姉から指導を受けているのであれば、最初からそういえばいいはずだ。だがスぺは『昔からお世話になってる人』という言い方をしていた。なぜ隠すような必要があったのか。……あまり地方への文化というかトレーナーのしきたりみたいなのは詳しくないし、もしかしたら北海道では親族がトレーナーとなることはあまり良いことではないのかもしれない。

 

まぁ確かに専属でない限りは個人への入れ込みが強くなってしまうだろうし避けた方がいいのかもしれないが……、まだ中学に上がったばっかりの様な子にそれが当てはまるか? 別に小学生相手の指導だったら家族が行ってもいいはずだ。実際スぺの同世代であるミホノブルボンとかは父親がトレーナーでその指導を受けていたって話だし……。

 

 

「家庭環境……。」

 

 

何か家庭環境に問題、例えばスぺの母親と姉が絶交していたとしてスぺの姉が隠れてスペシャルウィークを指導していたとする。姉の指導を受けていたと知れば母親が何か言うかもしれないとして俺にも黙っていた。……ありそうな話だが彼女の母親とお話しさせてもらった時にそんな雰囲気は感じなかった。いや確かにそう言った身内の話は初対面の野郎とかにするようなもんじゃないが……。

 

もしそうだとすれば去年のどこかで復縁して言えるようになった、とかだろうか。

 

 

「なんかこう、引っかかるんだよな。」

 

 

その上スぺからの説明を受けたとき、そこまで疑問に思わなかった。いや疑問を感じることはあったがそこまで気にするようなことではないかとそれまでにしていたような気がする。なにかこう、ずっと頭の中に靄があるような感覚……、言葉にしにくい感覚がずっと自身に付きまとっている。

 

 

「……さすがに、調べた方がいいよな。」

 

 

中央も地方も、免許を取ればURAのホームページやその地方ごとに名前が公表される。スぺの母親の名字の方は伺っているし、スぺの年齢から逆算して少し調べれば出てくるだろう。あれだけの細かい指示がスぺに出せる、ってことは免許取得者かもしくは自分で走っていたかのどちらか。……さすがに調べれば出てくるはずだ。

 

スペも、その親御さんも“お姉ちゃん”を信用しているみたいだし、渡されたものを見る限りそこに何か悪意があるわけじゃない。むしろスぺのことを強く想っているのが解る。だからこそこれは、答え合わせの様なものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ、っと。……ふぅ、なんかすごく久しぶりな感じ。」

 

 

誰もいない部屋に、重い荷物を置く。

 

スズカさんがアメリカ遠征に出ているせいでこの部屋には私しかいない。ちょっと散らかった私のスペースに、ずっと同じスズカさんのスペース。思い出したときに掃除はしてるけどやっぱり生活感というか、暖かさがない。……お姉ちゃんがいるときはあんまり感じないけど、一人だと昔を思い出してしまうから長居はしたくない、かな。

 

 

「……荷ほどきしないと。」

 

 

あっちを早い時間に出たけど結構いい時間だ。お姉ちゃんからは今日は休みでいい、って言われてるけど練習するな、とは言われていない。軽く走るぐらいならいいって言ってたし……、何より誰かいるべきはずの部屋に誰かがいない。そんな雰囲気があるこの部屋にあんまり一人でいたくない。お姉ちゃんは海外遠征とかのために調べものがあるって言って途中で別れちゃったし、それを邪魔したくはない。夕食の時間までちょっとだけ走りにいこう。

 

……お姉ちゃんからの宿題も、できるかもだし。

 

 

 

そう考えながら普段着からジャージへと着替えているときに、部屋のドアがノックされる。

 

 

「あ、はい! 今開けます!」

 

 

誰だろうか、と思いながら急いで着替え終わり扉の方まで向かう。お姉ちゃんならノックせずにそのまま通り抜けて入ってくるだろうし、あんまりこの部屋を訪れる人はいない。となると寮長のフジキセキさんとかだろうか。荷物が届いたとか?

 

 

「おいっすー、スぺちゃん今時間大丈夫?」

 

「ナイスネイチャさん。」

 

 

そこにいたのは、私と同じようにジャージ姿のナイスネイチャさん。カノープスの人。思ってもない人だったので驚きが顔に出てしまう。

 

 

「急にごめんね。あ、今から練習だった?」

 

「い、いえ。ちょっと晩御飯まで走りに行こうかと。練習とかじゃないです。」

 

「そう? ならよかったんだけど……。実は生徒会長さんから伝言預かっててね。生徒会室まで来てほしいって。」

 

 

……ルドルフさんが?

 

 

 

 

 









次回

先達からの教えと、友の言葉。


Re:PART3 「会話」
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