アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
『私のためにわざわざレースを開いてくれるなんてありがとうね、ルドルフ。』
『いや、礼には及ばないさ。私たちとしてもあなたと勝負ができることに感謝しているしな。しかしだが、芝の2000で、という指定だったが、それでよかったのか?』
『いいのいいの、こっちの主流は芝なんでしょ。私はどっちでもできるし。……にしてもすごいメンバー集めたねぇ、これは面白くなりそうだ。』
『ははは、まぁ挑ませてもらうよ、セクレタリアト。』
『OK、かかっておいで。』
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職員の人からもらった参加者が記入された紙とゲート前で準備している先輩たちを見比べる。
観戦者か、競技者か、どちらの私の感情か分からないけど口角が上がるのを自制できない。
『出走メンバー』
セクレタリアト
シンボリルドルフ
エアグルーヴ
マルゼンスキー
ナリタブライアン
オグリキャップ
タマモクロス
スーパークリーク
ゴールドシップ
ヒシアマゾン
フジキセキ
ビワハヤヒデ
ウイニングチケット
ナリタタイシン
メジロライアン
メジロドーベル
マチカネフクキタル
アイネスフウジン
「うわ、すごい人ばっかり。こんな夢のようなレースを見られるなんて私ら幸せだよ、ターボ!」
「………。」
「ん? どうしたの、ターボ?」
「……ターボ、今集中してるから。ごめんネイチャ。」
「あっ…、その、私こそごめん。黙っておくね。」
セクレタリアトの指導を受けていた、という理由で私たち、カノープスはこのレースの見学を許されていた。本当なら出走メンバーと撮影を行う職員しか見ることができなかったレースだけど、セクさんが私たちに見て欲しいといったらしく観戦出来ている。
学園の最高メンバーと言っても過言ではない人たちが参加するレースということではしゃいでしまったが、ターボは違った。非常に集中してレースを見ようとしている。
セクさんからターボに対してある課題が出されていた。それは等速ストライドの習得。
私は体質的に全く向いてないらしく、それを取得する時間をかけるより基礎能力を上げて、最後の直線での加速力を上げた方がいいといわれ挑戦していなかったが、ターボには素質があったようだ。
未だにうまくできてないみたいだけど、このレースでターボは何かをつかもうとしている。
そうだ、私も浮かれてる場合ではない。この観戦で何かつかまないと。
私の走り方から考えると注目すべき人は会長やオグリ先輩、ブライアン先輩あたりだろうか。
見て盗めるもの全部もらっていかなくちゃ。
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『んじゃ、ターボには私の必殺技を教えちゃおっかな。』
「お~! 必殺技! すごくカッコイイ! どんなのどんなの!」
『その名も、"等速ストライド"!』
「コ、コンスタン……?」
『あ~、さすがに伝わらんか。南坂、私も日本訳わからんから教えたって。』
「ターボさん、"等速ストライド"ですよ。高いスタミナと強力な足のバネ、それと神がかった歩幅の調整によって生み出された彼女だけの技術です。」
「お~! なんかすごそう! ……でも難しそうだし、ターボできるかな?」
『大丈夫、大丈夫。このセクさんが教えるんだよ! それにターボが出来そうになかったら私も教えないって!』
「そうか……な。うん、ターボ頑張ってみる!」
『それで、ターボに目指してほしいのはあなただけのストライド技術。私の技術は言ってしまえば私用に改良してしまったもの。あなたの糧にはなるだろうけど、最適にはならない。ターボのための、ターボだけのストライド。さしずめターボストライドかな? 時間もかかるし難易度も高い、けど完成すればあなたは爆発的に強くなれる。どう、やってみる?』
「ターボの……、ターボのためだけのストライド。ターボストライド。」
『そ、とりあえずは私が等速ストライドを生み出した状態、その一歩手前まで習得する。そこからは自分で調整。途中までは私も手伝えることはあると思うけど、国から早く帰って来いって言われてるから長居はできないし、最後の調整は自分でしかできない領域になってくる。』
「……ターボやってみる! ターボもみんなに勝ちたい!」
『いい返事ね。じゃとりあえず、やってみようか、まずは私がどういった形で走ってるかなんだけど……。』
ターボはまだ、セクさんに言われた一歩手前。それが全然できてない。
とっても難しかった。セクさんやトレーナーにそんなに簡単にできるもんじゃないといわれたけど悔しい。
セクさんはこのレースのあとにアメリカに帰っちゃう。
夏の合宿でアメリカに行くまで会えない。
当分教えてもらうことはできない。
ならこのレースを、目に焼き付けるんだ!
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今回のレースを開催した理由、単に私が世界最強に対してどこまで通用するのか、というのが気になって挑んだ、そのことも確かにある。強い相手と競い合いたいという気持ちは嘘ではないが、もう一つの理由に日本の競技レベルを引き上げたいというのがある。
このレースに参加してくれた者たちが、世界に自身がどれだけ通用するのかを肌で感じ、さらに成長してもらいたい、このレースを見た者に世界に挑もうとする気概を持ってもらいたい。そう思っている。
なぜ、そのようなことをしようとしているかというと、
私たち、日本のウマ娘が世界と比べ弱いと思われているからだ。
国内のレベルは確かに低くはないが、日本のウマ娘が海外に出たとき、その勝率は大きく下がる。確かに芝やダートの違い、気候の違いなども理由として上がるだろう。確かにそれは大きな要因だ。
しかし、ではなぜ海外からやってきたウマ娘たちに国内のレースで負けるのか。慣れ親しんだ土地を離れてわざわざ遠征してきた彼女たちが格段に強いことは解る。しかし、それにしても、だ。
日本が世界に誇るウマ娘の祭典、ジャパンカップ。世界中から強者を集めて行うため、「世界一のレース」「ウマ娘のオリンピック」などともいわれるこのレース。日本で開催されており、私たちに有利なはずなのに開催されてから勝てたのは私の一勝だけ。他のウマ娘たちが弱いとは言わない、むしろ私と並び、競い合ってくれるよきライバルたちだ。
三冠ウマ娘になり調子に乗っていた私を叩きつぶしたあのジャパンカップで負け、その再戦に燃えていた私が勝った次の年のジャパンカップ。勝利を収めることはできたが、その年は運よく海外から有力ウマ娘がやってこなかった年であり、私としても満足のいくものではなかった。
私がまだ学園に入って間もなかったころの第一回ジャパンカップ、勝利したのはアメリカからやってきた成績の目立たないウマ娘だった。あの日からずっと、私たちは「日本のウマ娘は永遠に世界に勝てないのではないか。」と言われ続けてきた。
言い返したいんだ、私たちは強いって!
私たちは十分世界に通用するんだって!
このレースは彼女にとっては単なる力比べなのだろうが、私たちは違う。
アメリカ最強に対して、日本がどこまで戦うことができるか、食らいつくことができるか。
もし、及ばなかったとしてもまだ次がある。私たちの世代がだめだったとしても、スペシャルウィークやテイオーたち、次の世代がある。
「会長、大丈夫か? また何か考えているようだが。」
「……オグリキャップか、いやすまない。私としたことが余計なことを考えていたようだ。ありがとう。」
そうだ、今は今後のことを考えている場合ではなかった。
目の前の勝負に集中しなければいけない。
相手は挑んだことがないような高い壁、雑念があれば超えれるものも超えられなくなる。
意識を切り替える、今の私は“皇帝”でも“会長”でもない。
ただのシンボリルドルフ、ただの“挑戦者”だ。
さぁゲートに向かおう。
目指すのはただ、ゴールのみ。
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全員がゲートに収まる。
私はいつも通り大逃げする。その戦法に変わりはないが、同時にターボに一つの完成形を見せようと思っている。
さ、今日もやりますか。
ゲートが開く。今回は最初から全力だ。
どこまでついてこれるかか、見せてよね。ルドルフ。
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ゲートが開いた瞬間、前に赤髪が既にある。
やはり、最強の名は伊達ではないようだ。スタートからして違う。
私は彼女についていくためにも先行策を選び、中央に位置するように動く。
等速ストライドと言ったか。
中距離の2000mだが、ピッチがスプリンターのそれだ。
普通なら掛かっている、そう表現するのだろうが彼女のスタミナには関係ないのだろう。
これについていくとスタミナを大幅に削られて最後の直線辺りでスタミナ切れを起こしてしまうのだろう。
作戦としてはついていかず、スタミナ切れを起こすまで待つのが最善だが、相手はセクレタリアト。
彼女の背中を見ていると、あの時の敗戦を思い出す。
第4回ジャパンカップ。
先頭にいたのはイギリスからやってきたベッドタイムだった。
私とカツラギエース先輩がどんなに前に行こうとしても抜かせなかった。
あの時の悔しさが、調子に乗っていた自分への怒りが、湧き上がってくる。
セクレタリアトの背中と、あの時のベッドタイムとの背中が重なる。
なぜか、彼女の背中に嘲笑われている気がする。お前はその程度なんだな、と。
解っている、自分の不甲斐なさがそう思わせていると。
あぁ、やってやる。ついてやってやる。
普段より早く、足を使い始める。
位置は残り1000mといったところ、前にいたマルゼンやフウジンを抜かし、前に行く。
私は、シンボリルドルフだ! 負けてたまるものか!
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「すっご……。」
思わず口にしてしまう。
レース進行はセクさんの圧勝になる、そう思っていた。
でも、でも違った。
レース中盤から会長が急激な追い込みを見せて、それにつられるように後方に位置していたオグリ先輩やブライアン先輩たちが追い上げてきた。なんだか、すごい執念みたいなのを感じた。すごかった。
結果としては一着セクレタリアト、4バ身ほど離れて二着シンボリルドルフ、クビ差で三着オグリキャップ先輩だったけど会長の走りは、うまく言葉にできないけど、一着になるよりもすごいものがあった。
ほんとにすごかった。……うん、私が目指すべきもの。解った気がする。
私もあんなふうに、会長みたいに走ってみたい。
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『いや~、私があれほど追い込まれるとは。こりゃ鍛えなおさないといけないね。』
『……あなたにそこまで言ってもらえるとは。光栄だな。』
『いや、ね。正直日本はそこまでかな? と思ってたけど私が甘かったよ。ごめんね。』
『……そうか。それでなんだが……。』
『うん、このレースの公開のことでしょ。いいよ、どんどんしちゃって。こんなにいいレースをしてもらったんだもの、広めなきゃ損でしょ。』
『いいのか? てっきり公開は控えるように、と言われると思っていたのだが。』
『んー、いいのいいの。どうせ、いつかバレるし、婆さんから怒られるのは確定してるからいいでしょ。』
『そういうものなのか?』
『そういうもん、そういうもん。ま、いいレースのお礼ってことで。』
「セクさん~~!」
『あ、ターボが呼んでる、ちょっと行ってくるね。また勝負しようぜ、ルドルフ。』
「会長、手を見せてください。」
「グルーヴか。どうした救急箱なんて持って。」
「その、血が……。」
そういわれて、自身の手を見る。どうやら強く握りしめすぎたせいで血が出てしまったようだ。
……私もまだまだ、だな。
「あぁ、すまない。気が付かなかったよ。」
「手当てをしますので、動かないでくださいね。」
「すまないな、頼む。」
届かなかったが、これで終わりということではない。
今回は負けたが、次は勝たせてもらうぞ。
この世界線での第4回ジャパンカップはベッドタイムが勝ってます。せん馬というものが存在しないウマ娘の世界なので、多分彼女はイギリスでバクシンして強化されてたんだろうなぁ、と思ったり。
ちなみに
1,セクレタリアト
2.シンボリルドルフ 4バ身
3.オグリキャップ クビ
4,ナリタブライアン アタマ
5,ゴールドシップ 1バ身
というつもりでした。5着は正直誰でもあり得たので……
(追記。ゴールドシップをゴールデンウイークに誤字りましたね。恥ずかし。)
誤字報告、はちみついつもありがとうございます。
非常に助かります。
それと、皐月賞前の話は明日投稿しますね。
お待たせして申し訳ございません。