アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
また後日、後編を投稿いたしいます。
菊花賞、前日
ただがむしゃらに薙刀を振るう。
トレーナーさんからは必要以上に体力を減らさないように言われたが、居ても立っても居られなくなり学園内の道場を借りて薙刀を振り回している。
本当はこのように感情に任して振るうものではない、精神を落ち着かせて型の動きの通りになぞっていくものだ。
しかしながら今日は自身の感情をどうにかして落ち着けるために、研ぎ澄まさせるために振るう。
「スぺちゃんは私達のことを全く見ていないっ!」
思い返せばスぺちゃんと一緒に走ったレース、彼女の強さにばかり目が行き、それに追いつこうと我武者羅に進んできた。そのせいで気が付かなかったが、この夏を挟んで自分と周り、過去を見返す時間を取ることができたおかげでようやく気が付いた。
スぺちゃんはレース、勝負の時に私たちのことを全く持って敵と認識していない。ただ簡単に超えることのできる障害程度にしか見られていない。
そのことを考えてしまってから私の感情は治まることを知らなかった。
過去のレースを見返し、彼女との日常生活を過ごし、そしてトレーナーさんたちの御好意で行われたスピカとの合同練習の時に理解してしまった。
スぺちゃんにとって私など有象無象の一人にすぎないということ。
いやそれ以前に誰かと競い合う気すらないということ。
彼女にとって何かしらのレースに出走する理由はあるのだろうが、どう考えても彼女は自分と戦っている。誰かと高め合うということをしていないように思える、そう感じる。
併走でも手加減されていることもその理由だろう。全身に無理やりおもりを付け、キングさんによると全身の動きを制限するトレーニングスーツを着て練習している。あぁ、手加減されている。たかが練習だと思われている。
私の心の内を支配する感情は怒りだ。
スぺちゃんが私を見てくれないことに対してではない、自分が有象無象にしかなれないことに対してだ。
どうしようもなく悔しい、そして自分が恨めしい、悔しい。なぜ私が彼女に追いつけないほど、気にしてもらえないほど弱いのか。
そのことを考えるとどうしようもない怒りが心を支配する。
しかもこのことに気が付いたのは最近。菊花賞までまったく時間がない。
スぺちゃんに追いつこうにも強くなる時間が足りない。
自分の愚かさに狂いそうになる、なんでもっと早くから死に物狂いで追いかけなかったんだ。
ただ無言で薙刀を振り続ける。
自身の感情を整え、その向きを一つに向けるために。
無駄な感情を切り落とし、ただ私のことを見てもらうために。
肉体はまだ完成していない、ならばせめて精神だけでも一つに整える。
その後、深夜までグラスワンダーはその獲物を振り続けた。
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ヤハロ~! どもども、投稿者ですぜ。
今日はやっとこさ菊花賞ですな。スぺちゃんの大事な三冠が掛かったレースですが、実はそこまで心配していないんですよね。ステータス的にも色々他のこにも勝ってますし、スキルも豊富です。ちなみにただいまこんな感じですタイ!
>スピード:B
スタミナ:B+
パワー :A+
根性 :B+
賢さ :B
>スキル
【シューティングスター】Lv.3
【汝、皇帝の神威を見よ】Lv.3
【空駆ける英雄】 Lv.2
【不沈艦、抜錨ォッ!】 Lv.2
【ゲートの支配者:改】
【食いしん坊】
【逢魔時】
【プレッシャー耐性〇】
【末脚】
(【率いるもの】)
ステータスは前発表した時よりもそこまで増えてませんが、ルドルフ会長のスキルが2から3に成長しました。……今回の作戦的に最中直線に加速する【空駆ける英雄】をあげたかったんですが間に合いませんでした。ま、今後役立つしいいでしょ。
にしても未だにアクティブ化されてない【率いるもの】ってなんのスキル何でしょうね? 実はwikiとか検証班の方に聞いてみたんですけど結局わからなかったんですよね。名前的に何かのバフスキル何でしょうが、全くわかりません。
……ま、今回のレースには関係ないでしょうし置いとくとしますか。
さ、それでは今回のレースの作戦をお話していきましょう! スぺちゃんにはもうお伝えしましたが、復習のつもりでちゃんと聞いといてください。
「はーい!」
では早速。
まず最初のゲートで【ゲートの支配者:改】を使いまして、全員ゲートを失敗させます。そしてスぺちゃんは悠々とスタート。いつもならそこから速度を下げて差しの位置に下がるのですが、今回ばかりは爆逃げ致しましょう。本来のスぺちゃんは逃げなんてできませんが、スズカ先輩のおかげで何とかレースに使えるぐらいになりました。適性値としてはDですかね。んで、そのままスぺちゃんの多めスタミナを頼りに逃げまくりまして、最後のコーナーあたりで疑似的二の矢を行いまして、そこからはいつも通りです。
ま、こんな感じですけど何か質問ありますかい?
「ないよ~。」
うむ、よろしい! あ、あとレース展開、スキルの利きが悪かったり、思ったより他の子が付いてきた場合は、どんどん後ろに下がって先行や差し策に移していくつもりなのでよろしく。んじゃ、やっていきましょうか。イクゾー!
「おー!」
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『さぁ今年もクラシック三冠レース、最後の大一番、菊花賞が始まろうとしています! なんと言っても注目はクラシック三冠を無敗で王手をかけているスペシャルウィーク! どのような走りを見せてくれるか楽しみですね。』
『彼女にとっては無敗三冠を掛けた非常に大事な一戦となりますが、彼女が今まで出走したレースはどれも中距離レース。菊花賞の3000mにどこまで対応できるかが勝敗を決めそうですね。』
『他出走者としては皐月、ダービー共に二着となったトウカイテイオーやステイヤーとして名高いメジロマックイーンが出走しており、スペシャルウィークに初の黒星を付けてやろうと狙っています。』
『確かに二人ともよい仕上がりですが、私としてはグラスワンダーにも注目ですね。パドックでの気合の入り方が非常によく、好走が期待できそうでした。あとはエルコンドルパサーあたりでしょうか、これまではそこまで成績は振るいませんでしたが、彼女自体高レベルで纏まった力を持っています。夏を経て一皮むけたようですし、期待ですね。』
後はキングの距離適性的不安が話され、またスぺちゃんの話に戻っていった。
よし! 全く注目されてない。
いままで私は無理に大逃げをして、そのことをみんなの目に焼き付けた。
菊花賞に出走するために出たレースでも大逃げで無理やり勝てたという風に走った。
周りはみんな私が大逃げしかできないと思っているはずだ。レース展開としてはどうせ私が大逃げするからそれに引きずられないように無視する、後方で待機するという方針を取ってくるはずだ。
まぁ、もちろん大逃げはするけどね、ただし途中でしっかり休ませてもらいますけど。
このために全部のレースで周りに刷り込ませた、全部ここで勝つために。
スぺちゃんに比べて単純な力じゃ太刀打ちできない、だからこその策。
………いける、いけるはずだ。
前評判では全く気にされてなかったし、みんなの評判も良くなかった。日常生活でも『せっかくクラシック登録してGⅠ出れるぐらいは勝たせてもらった。どうせ勝てないだろうけどまぁ出ておこう』みたいな雰囲気で過ごせた。誰からも私が本気でスぺちゃんを止めようと思っていないはず。
そうだ、バレてないはず、バレてないはずだ。それなのに………
さっきからどうやっても止まらないこの体の震えは何なんだ。
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『現在順調にゲート入りが進んでいます。例年ではどのレースでも何人か嫌がる子も出てくるんですが、今年のクラシック三冠レースでは特にそのような子は出ていませんね。』
(吸って、吐いて、吸って、吐く。……よし、余計なことは考えるな。ボクは走れる。調子もいいはず。)
(初のGⅠですがこれほどまでにゲートが緊張するとは……、いえ、どのような結果となろうともメジロ家に恥じない走りを。そして多くの学びを得れるように走りましょう。勝てるならば勝ちたいですがいまだ私は成長途上、春の天皇賞のためにも学びを得れることに集中しましょう。)
(ダービーで折れてしまった私、それを救ってくれたのはスぺちゃん。うん、今日は恩返しだ。誰からも逃げないで、誰にも負けない。私ができる全力でスぺちゃんに勝つ! それが私のできる恩返しだ! 目指すはスぺちゃんよりも前!)
(距離適性、えぇそうでしょう。確かに私は長距離に向かない。……ですがそれが諦める理由にはならない! 私だって何もしないでここに立ってるわけじゃない! 今日こそ私がキングであることを証明して見せる!)
皆さんやはり素晴らしき面構え。この一戦を戦い抜くにふさわしいライバルたち。
しかしながらこの私もここにいる誰よりも精神を研ぎ澄ませてきたという自負がある。
絶対にスぺちゃんを追い抜き、追い越すという意思がある。
ですが……
なぜ、そのような顔をしているのですか、スぺちゃん!
『さぁ全員ゲートに収まりました! ……今、スタートです!』
ゲートが開いたその瞬間、私のすべてが何かに食い殺された。
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私は、この技があまり好きではない。
お姉ちゃんのいう【ゲートの支配者:改】はこれまでのゲートが開く前から私のプレッシャーをゲート全体にゆっくりと充満させて、プレッシャーに満ちたゲートによってスタートを遅らせるというものではなく、ゲートが開いた瞬間にプレッシャーをゲート全体に向かって解き放つという技だ。
これまでのものがゆっくりと充満させていくものに対して、新しいものはゲートが開いたその瞬間に私の持てるプレッシャーをすべて叩きつけるというもの。非常に攻撃的な技。
正直に言うとできるならば使いたくない。ずっと封印してもいいぐらいだった。
私がしたいのはこんなことせずに、正々堂々と一緒に走りたいということだった。
でも、勝つためには使わないといけない。
言うなればこの菊花賞は次のジャパンカップ、有馬記念に向けた練習。シニア級の人たちに万全に使えるように同じ大舞台で練習しないといけない。
「だから」
こんなことしないと、絶対に勝てないという自分の力のなさに
こんな技に頼らないと勝てない、と思ってしまう私の弱さに
「ごめんなさい。」
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『ど、どうした! スペシャルウィーク以外ゲートから出てきません!』
(か、体が……)
(マズいマズいマズいマズい! 動け動け動け動け!)
(全身が鉛のように重い! 体が何かに縛られているように硬い! 動けない!)
『何か問題が起こったのでしょうか! あ、今走り出しました!』
『トウカイテイオー、メジロマックイーンが大きく遅れましたが何とかスタート、それにつられてエルコンドルパサー、セイウンスカイ、キングヘイロー、グラスワンダーと順にスタート。それ以外の子はまだ出てきません!』
『現時点、後続と非常に大きく離れまして先頭はスペシャルウィーク。独走状態です。』
(だいぶ前に一度食らってたから何とか動けたけど、それ以上にこれはマズい! 前よりも威力が上がってて一瞬気がなくなってた!)
(アメリカ合宿でスズカ先輩に逃げを教わっていたのはこのためでしたか! 見たところ差は10馬身以上、どうにかして差を縮めないと勝負にすらなりません!)
『おっと、ここでセイウンスカイが大きく加速した! 先頭に追い付くために大逃げを開始です!』
(先に出た子がいたから何とかつられて動けたけど、どうしたらいい!? どうすれば最適だ!? 今まで考えていた作戦は全部壊された! どうすれば勝てる、どうすれば抜かせる! 考えろ! 考えるんだ私!)
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観客席、ここには菊花賞で出走するメンバーのトレーナーの一部が集まっていた。
年長者であるキングのトレーナー、赤田が情報共有と観戦を提案し集まった形になる。
ここにいるのはスピカトレーナー、担当はスペシャルウィーク、トウカイテイオー、メジロマックイーン。リギルトレーナー、東条。担当はエルコンドルパサーとグラスワンダー。それにセイウンスカイを担当する緑川だ。
正直言って雰囲気は最悪だった。レースが始まる前までは同業として、ライバルとして色々談笑をするぐらいだったのだが、あのスタートのせいで崩壊した。
「ブラフ、だと思ってたんだけどなぁ……、一本取られたねぇ。」
俺は確かに『逃げができることはブラフだ。』と言った。そう考えて行動した、しかしながら奴さんはこっちよりも賢いようであえて苦手な作戦であろう逃げを使ってきた。
一流、その一部が使用するプレッシャーを使った技術。デバフなんて言われる技術で確かルドルフがレース中に使っていたことを記憶している。
今回俺たちが見せられたのはそのゲート版だろう。見た感じゲートが開いた瞬間に合わせてプレッシャーを掛けることで出遅れを発生させる技。元々身体的能力の差が大きいスペシャルウィークとそれ以外に対して凶悪な効果を発揮したといえる。
しかも俺が担当しているお嬢はスタミナは何とかあるが長距離にはどうしても向いていない。何とか人並みに届かせることはできたが、生まれ持った才能が長距離には向いていなかった。……いや、それ以上にあの子は短い距離の方が向いているといえる。
まぁ完全に読みで負けた俺なんかよりも悲愴な顔をしているのが緑川だ。おそらくだが今までの無理な大逃げはこの菊花賞のためのブラフだったんだろう。そのために努力してきたものが全部ひとりにつぶされちまったと言うのは、な。
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『いまだスペシャルウィークの独走状態! 強烈な逃げと共に後続と大きく差を離しています! まさに一人旅!』
お、一人旅って言われてますねぇ。聞いた話によると実況でとあるワードで自身が紹介されることがスキルの入手に繋がったりもするみたいですが、まぁ今回入手できたとしても逃げスキルでしょうし、スぺちゃんにはそこまで関係ないですね。
んじゃ、ちょっと後ろを見てみますか。あ、スぺちゃんはこのペースで走り続けてくださいね。ちょっとばかしハイペースでキツめですが頑張ってクレメンス。
(コクコク!)
え~とですね。現在後続と7馬身程離れまして二番手にセイちゃん。その後ろ3馬身程離れて団子になってトウカイテイオー、メジロマックイーン、残りの黄金世代のみんなという感じでしょうか。その後ろはちょっと離れすぎててどんな感じか解りません。
皆さん大逃げ中のスぺちゃんに追いつくためか、かなり無理して追い上げてきてますね。思ったよりゲートスキルが凶悪だったせいでみんな出遅れしてしまったのが原因でしょうが、こちらの思うつぼというか作戦通りになりそうです。
ざっと見た感じ皆さんのステータスもよくてC+といったところ。平均してみるとCぐらいなので何かこちらの知らないスキルなんかをぶつけられもしない限り負けることはなさそうですし安心ですねぇ!
ん~、どうしましょう。スぺちゃんスタミナの方はどうですか? このまま逃げたままゴール出来そうですか? 無理そうならここから速度を落として一度抜かせてから抜き返すこともできますけども……
(大丈夫っ!)
お、いいお返事! なら最後まで逃げ切りますよぉ~! バクシンバクシンー!
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一歩前に進むごとに差が縮まってるのか、それとも離れていってしまっているのか全く分からない。普段よりも長い距離、そしてスぺちゃんのスタート。思っていたよりも精神にかかる負担がキツイ。
あぁ、駄目だ。周りをよく見て考えないと。こんなところでへばってたら何者でもなくなってしまう。
スぺちゃんは依然先頭、ボクとの差は8,9バ身ぐらい、2番手のセイウンスカイがそこから6バ身程後ろ。ボクたちのところはマックイーン、エルコンドルパサー、ボク、キングヘイロー、グラスワンダーが順に固まってる。全体的にスぺちゃんに追いつこうとして速度をあげてるからハイペース。
意識を集中させてよく見てみると差は少しずつ縮まってる。良かった。
……でも間に合うのか? ちょうど今スぺちゃんが2000m過ぎたぐらい、残り1000m。これで間に合うのか? スぺちゃんの真骨頂は最後の直線での爆発的な伸び、たとえ逃げをしていたとしてもあのスぺちゃんだ。絶対に直線で伸びる。
駄目だ、絶対に間に合わない。
ここは無理をしてでも前に出ないと勝てない、その可能性すら消される。
また大差負けしてしまう。
普段は最後の直線辺りからしか使わないけど、やるしかない。
距離が長くなりすぎるとボクの脚が持たなくなる可能性があるからできなかった。
でもやるしかない。勝つためにはやる。
ボクが、絶対になるために、会長みたいになるために!
>『絶対は、ボクだ!』
>『究極テイオーステップ!』
無理やりだけど、やるしかない!
『あっっと! ここでトウカイテイオーが上がってきた! 上がってきた! のこり1000m付近でトウカイテイオーが加速です! エルコンドルパサー、メジロマックイーンを抜いて3番手に躍り出た!』
よし、よし、まずは二人を抜かせた! 行ける! このまま前に!
『トウカイテイオー、前に上がっていきます! 今セイウンスカイも抜かし、先頭のスペシャルウィークに食らいつく!』
いける! いける! いつもよりも調子がいい! このままいけるんだ! 抜かせるんだ!
カクン
「え…………」
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『トウカイテイオー減速! トウカイテイオー減速! 故障発生か!』
(あっ………)
(ん? どうしたのお姉ちゃん?)
(……いや、今は気にしないで。ただ前を見てゴールまで走り抜けて。)
(……、わかった。)
菊花賞 レース結果
一着 スペシャルウィーク
二着 グラスワンダー
三着 エルコンドルパサー
四着 メジロマックイーン
五着 セイウンスカイ
六着 キングヘイロー
競争中止 トウカイテイオー
今レースは非常に珍しく、また難しく、悲しいものとなった。
スペシャルウィーク以外の非常に大きな出遅れ。それまで先行、差しを中心に走ってきたスペシャルウィークの大逃げ。またスペシャルウィークのシンボリルドルフに続く無敗三冠の達成。そして、それまでシルバーコレクターであった皐月賞、ダービー二着だったトウカイテイオーの左足首骨折による競争中止が起きたレースであった。
国内ドリームシリーズの開催が発表されたこともあり、トゥインクルシリーズを牽引する新たな三冠ウマ娘が誕生したのは喜ばしいことだが、その好敵手になり得たトウカイテイオーの故障が発生してしまうのは悲しい限りである。彼女のいち早い復帰を祈る。
また、これまでレース後のアピールとして指を皐月賞では1本、ダービーでは2本としていたスペシャルウィークは三冠達成時に三本の指を立てるアピールをするものだと思われていたが、トウカイテイオーの事故のためにそれを自粛したと思われる。