アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
あれ……、ここは……
気が付くと真っ白で何もない空間にいた。さっきまで控室で寝ていたはずなのに……
嫌な予感がする。
「やほやほー、スぺちゃん起きましたかぁ?」
確信に変わった。
こんなこと、私の意識をよく解らない空間に連れてこれそうなのは私が知ってる限り女神ぐらいしかいない。
「お~、怖い顔。かわいいのにもったいないよ~?」
私が見たことのない顔。たぶん私が過去に会った三女神とは別の奴だろう。
正直もう顔も見たくなかったが、あっちが呼んできたのなら私にそれを防ぐ術はない。
とりあえず余計な言質を取られないように気を付けないと。
「ん~! むちゃ警戒されとりますなぁ、致し方なし。……んじゃ自己紹介。私は技の女神ね、一応名前もあるけど覚える気もないようだし役職名と顔だけ覚えといて。あ、ちなみに過去に君と契約した奴は力の女神。あいつ堅苦しい奴だったから色々と大変だったでしょ?」
「…………。」
「おうだんまり! じゃ、私のことお呼びじゃないみたいだし、さっさとやること済まして元に戻しましょうねぇ! ではでは~~、契約更改のお時間です!」
「契約更改?」
「お、初めてのお言葉頂きました! そう、契約更改! スぺちゃんは力の奴と最初に契約した内容は覚えてる? そう! お姉ちゃんと一緒にいるために無敗三冠を対価として契約したよね? それを達成できたから色々と再契約しに来たって寸法。ま、知の奴が色々とうるさくて時間掛かっちゃったのは申し訳ない。あ、それとジャパンカップ優勝おめでとね。」
「は、はぁ。どうも。」
「んじゃ、内容ね。とりあえずはスぺちゃんとお姉ちゃんの間に課されていたいろいろな制約を全部撤廃いたしま~す! トレーニングに関することにしか会話できないとかそんなの全部ね。いままでは”動画撮影”という名目で契約の上から契約することで撮影中だけは色々とお話しできるようにしてたけどそれも全部気にしなくてよし! ビバ自由!」
「………自由。」
「そう、自由! あ、あと知の奴がまた猛反対してたけど無視した案件がもう一つ! スぺちゃんに朗報です! シニア級にてスぺちゃんが走ろうとしていたレース! 春秋計六冠とKGVI & QES、凱旋門賞! こちらに勝てばなんと~~、お姉ちゃんの復活! オースミキャンディの生き返りを確約いたしま~す!」
「本当! 本当なの!」
「本当ですよ~! あ、それともしこの条件で失敗したとしてもスぺちゃんのお姉ちゃんが消えてなくなるなんてことはありませ~ん! そっちの契約は無敗三冠の方で対価はもらったしね! …………それで、スぺちゃん。契約、しなおしますか?」
どうする、どうする。提示された条件は驚くほどいい。私にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。だけど、あからさまに私にとって利が大きすぎる。そもそも前の契約自体なぜ私に契約しに来たのかすら意図がつかめない。
…………いや、考えても仕方ない。どうせ私の望みを叶えられそうなのはこんな手しかないんだ。
「契約、しなおします。」
「そ~れは良かった、うむうむ。んじゃここにいる意味もないし帰ってもよいですよ。目を閉じれば元の世界に戻るのでそれでオナシャス。……あ、それと心優しい女神サマからスぺちゃんにご注意一つ。」
「君がジャパンカップで使った最後の技。知の奴は【灰かぶりのサルビア】なんて洒落た名前にしたみたいだけど、何度も使うのはやめた方がいいよ。あれは代償に君の大事なものを奪っていく。」
「今回は契約更改が遅れたことのお詫びとして代償を肩代わりしてあげたけど今度はそうはいかない。ゆめゆめ、気を付けることだね。……じゃ、おやすみ。君の旅路に幸あらんことを。」
ーーーーーーーー
ぺちぺち
あれ……冷たい……
「お~い、スぺ~。時間ですよ~。」
「…………お姉ちゃん!」
手が、お姉ちゃんの手が私の頬に触れてる。
ちゃんと触れられた感触がある。
凍てつくほど冷たいけれど、ちゃんと触れられてる。
「……ほら、泣かないの。もうすぐライブの時間なんだから、ね。」
震えながら、頬を触れる姉の手に自身の手を重ねる。
ちゃんと、触れる。
「…………ぅ……ぅう、やっと、やっと触れた、やっと、やっと。」
「うん、うん、スぺのおかげだよ。………ありがとね、スぺ。」
………目が、熱いや。
笑いたいけど、涙があふれていく。
「ほら、昔みたいにおいで。冷たいけど、ね。」
「ううん、あったかい、あったかいよ。」
「……落ち着いた?」
「……うん。ありがとう、お姉ちゃん。」
「いや~、にしてもいろんな制約外れてよかったよ。動画回してなくても自由に話せるようになったし、これから開いちゃった8年、ちゃんと取り戻してこうね。」
「うん!」
「ま、まだ動画は取るけど。……お、そういえばライブもうすぐ始まるみたいだし、行ってきな。私も観客席から見てるし、楽しんでおいで。色々なことは後で、ね。」
そういえばライブ前だったけ、時間も……、ちょっと急がないと間に合わないかも。
「わかった、……ちゃんと見ててね! 行ってきます!」
抱き着いて泣きじゃくっていた目を拭って跳ね起き、控室から飛び出る。
ーーーーーーーー
「む、来たか。」
「すみません、ルドルフ会長! 遅れちゃいました!」
ライブ前のステージ裏、そこにはルドルフ会長が待っていた。
「あれ、他の皆さんは?」
「あぁ、グラスワンダーは足に不調を感じたため欠席、ブロワイエの方も調子がよくないらしく欠席だ。まぁ奴はこっちのライブ形式をよく知らないだろうから仕方ないのかもしれないが。」
そういえばブロワイエさん来日してからほんの数日なんだっけ? レース前は気にしてる暇がなかったけどそういえばブロワイエさんの体調がそこまで整ってなかった気がする。
「そんなわけで君と私のツートップだ。急な変更だが大丈夫か?」
「……あんまりライブの練習してなかったので不安です。」
「ふふ、ライブは苦手か。……スペシャルウィーク、君は考えていないかもしれないが、私に勝ち、そして私がトゥインクルから引退する以上、皆は君が次の象徴と見るだろう。もっとしっかりせねばな。」
「象徴、ですか。」
「あぁ、私と違って君の周りにはたくさんの者がいる。彼女らと共に進めるよう精進するといい。」
象徴、まわりのみんな……。
「あぁ、それと。」
そう言いながら会長は自身の勝負服にある勲章の飾りを外した。
「君が背負う星のように、GⅠに勝つたびにその重りを忘れぬように付け始めた勲章だが、このジャパンカップの勲章の持ち主は君が相応しい。……まぁ、なんだ。ドリームシリーズに君が上がってくるまで預かっておいて欲しい。その時に取り返させていただく。」
そう言いながら私の胸にジャパンカップの勲章が付けられた。
「解りました、お預かりしますね。……でも、一生返してあげませんから!」
「……ふふ、そうでなくては、な。」
お待たせいたしました。最近忙しくて全然手が付けられませんで……
次回はグラスちゃんとお話しして一つ二つ挟んで有馬記念です。