アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
一着 スペシャルウィーク
二着 シンボリルドルフ
三着 グラスワンダー
四着 ブロワイエ
五着 エルコンドルパサー
「イヤ~、にしてもみんなすごいですネ! ワタシだってタイムだけならコースレコードだったんですヨ? 会長やブロワイエさんならまだ納得できるんですけド、スぺちゃんやグラスにまだ追いつけないのはちょっと思うところありマス!」
「病室で騒がないの、エル。」
「グラスだけの1人部屋ですし、両隣に誰もいないことは確認済みデース!」
「でも、ですよ。……しかし私みたいに走るのはやめておいた方がいいです。ダービー以前のあなたよりもひどかったですから。」
「ケ? ひどかった自覚はあったのですネ。てっきりお口を三日月にしながら頭の中スぺちゃんだけだと思ってました。色々とひどかったデスよ。」
「……思い返すと少し恥ずかしいので言わないでください。……でも、あの時スぺちゃんが抜いてくれずに、そのままゴールまで行ってしまっていたと考えると、絶対にあのままでしたでしょうし感謝しないといけませんね。」
「二人ともスぺちゃんに貸一つ、って言ったところでしょうか。」
「エルも私もすごく大きな一つですけどね。」
「……ま、その借りはスぺちゃんより先にゴールを駆け抜けて返すデース! ワタシが先に返しちゃうのでグラスはここでハンカチでも嚙みながら見てるといいデース!」
「あら、なら宝塚記念には出れそうですし、そこで私も返してもらいましょうか。」
笑い声が病室の中で響く。
あんまり騒ぐと迷惑をかけてしまうが、今はこの時間が愛おしい。
「ま、二人ともシニア期から海外遠征のプランはつぶれてしまいましたけど、グラスはどうします? ワタシはスぺちゃんが前言ってた欧州遠征についていくつもりでしたけど。」
「あら、そうなのですか。てっきり時期をずらすものだと……。」
「それでもよかったんデスけどね。どうせならあっちのライブを私達で占拠したいじゃないですか。面白そうデショ? 欧州最高峰のライブで日本の私たちがスリートップを飾るってのも。」
「…………いいですね、乗りました。」
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「それで、なんで行くの? スぺ。」
「なんで、ってそれはグラスちゃんがケガしたからお見舞いに……。」
「テイオーちゃんの時は行かなかったでしょ? それなのに何でグラスちゃんの時は行くの?」
「? 次の有馬記念にはシニア級の人もたくさん出走するけどジャパンカップみたいに会長とかブロワイエさんとかの警戒しないといけない相手もいないし、時間的にも余裕があるからかな? それにグラスちゃん友達だし。」
「ならテイオーちゃんの方にもお見舞いに行ったら?」
「あ、それもそっか。じゃあそうする!」
……これ気が付いてないな。私のため、っていうスぺにとってキツイ目標のせいで多分、学ぶべきだったものを結構取りこぼしてしまっている気がする。
レースでの結果を追い求めているせいか、自分が周りに与える影響、どう思われているか。そしてどう対応するべきか。それ以前にちゃんとした友達との付き合い方さえ……
これも全部私のせいか。「死人に囚われ続けるべきじゃない」っていってもスぺはそれをひっくり返そうとしてるし、言ったとしても私の死を受け入れてないスぺにとって、私からこの言葉を言うのはどんな影響を与えてしまうかわからない。
今まで通りスぺの目標を手伝う上にスぺに友達との付き合い方を学んでもらう、とりあえずそれが私のするべきことだね。過去に区切りをつけて、もっと今を見るべきってことをどうにかして伝えないと。
「んじゃ、早速行きましょうか! このわたくし、スぺちゃんのおかげでこれまで以上に物を触れるようになったので、スぺちゃんのパソコンで近場のお菓子屋さんでお見舞い用のものを購入しておきました! それを取りに行ってから向かいましょう!」
「お~、ありがとう! ……あれ、お姉ちゃんいま動画取ってるの?」
「……八年近く動画用の喋り方してたからしみついてますね、コレワァ。撮影するときとし終わるときはちゃんと言いますのでご安心を。」
「治ってないよ?」
「…………善処します。」
生き返れたときのために口調の改善もやることリストに入れときましょう。せめて区別だけでもしないと。
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「失礼します。」
「……あら、スぺちゃん。いらっしゃい、そんなにかしこまらないでもいいのに。」
「あはは、そうだね。……それで、ケガの具合はどう? 大丈夫なの?」
「えぇ、レース後に痛みを覚えまして検査してもらったところ右足の方にひびが入ってしまったようで、そこまでひどくなかったのですが、復帰できるのは4月を過ぎてから、多分スぺちゃんと戦えるのは宝塚記念になるでしょう。」
「そっか、……あ、お見舞いにお菓子買ってきたんだ。気に入るか分からないけど、どうぞ。」
「あぁ、ありがとうございます。今度のお茶菓子にしますね。」
会話が、途切れる。
白い病室はこの前の真っ白な部屋、女神とあった部屋を思い出してしまうせいか好きではない。
それ以前にこの沈黙が痛い。なにか話せるような話題……
「スぺちゃん、話を。話を聞いてもらってもいいですか? どうしても自分の中で区切りを付けたいのです。」
「……うん、いいよ。」
「ありがとうございます。……私があのジャパンカップのレース前からおかしくなっていたこと、それについて聞いてもらいたいのです。普通ならスぺちゃんに聞いてもらうような話ではないのでしょうが……、いえ、話させてください。」
「私はただ、スぺちゃんに認めてほしかった。一人のウマ娘として、レースを走るものとして、ライバルとして。……だけど圧倒的に私の力が足りなかった。どんなに頑張ってもあなたの背中、その先へいけるイメージがわいてこなかった。」
「スぺちゃんに勝つには、狂気に身を任せるしかなかった。……いえ、それは違いますね。私の心の弱さが招いたこと。これは違います。自身の身を顧みずに進んだ私が愚かだったのです。……ですが、死に物狂いで追いかけるというのは間違ってはいませんでした。」
「あの時、あのレースの中でスぺちゃんを追い抜けたとき、やっとあなたに見せつけられた。私は他の有象無象とは違うんだって。……終わってみれば差し返され、三着。これまでの無理が祟りケガにつながる。」
「一時的とは言え、走れなくなるのはつらい。何もできなくなったこの時間でさらに離されるのが怖い。……ですが私がスぺちゃんに聞きたいのは一つだけ。」
「なあに?」
「……私は本当にあなたのライバルになれていますか? 私は他の方々と一緒に一纏めにされてないですか? スぺちゃんは本当に私のことを見てくれていますか?」
「…………うん、ちゃんと見てるよ。グラスちゃんのこと。」
「あら、それならよかったです。ふふふ、すみませんこんな変な話しちゃって。」
「ううん、いいよ。私でよかったら何でも聞くよ。」
「ありがとう、スぺちゃん。……そういえば持ってきてくださったお菓子、もう一箱ありましたよね? まだ行くところがあるのですか?」
「あ、うん。テイオーさんのところにも行こうと思ってて。」
「あら、そうなのですね。それなのに長く話してしまってごめんなさい。もう時間も遅いですし面会時間を過ぎてしまうといけないですから私にかまわずどうぞ。」
「ホントだ、もう結構遅いや。ごめんねなんか急に帰っちゃうみたいで。」
「いえいえ。」
荷物をまとめだすスぺちゃんを眺める。
「じゃあ、また。今度時間できたら来るね。」
「えぇ。スぺちゃんも有馬記念に向けて頑張ってくださいね。」
「うん、ありがとう!」
スぺちゃんが部屋から出ていく。
引き戸が開かれ、手を振り見送る。
そしてゆっくりと閉じた。
「………見てくれてなかった、のですね。」
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他の人と一纏め。有象無象。私を見ている。
グラスちゃんだけを見てほしい、ってことなのかな?
たぶん友達として、じゃなくてレースでのライバルとして、ってこと?
…………ちょっとよく解んないや。
ま、いっか。
後はテイオーさんのところお見舞いに行くだけだし、帰りはちょっと走っていこっと。
有馬記念に出走する人で注意しないといけない人はいないみたいだし、来年から本格的に始まるシニアに向けて少しでも成長しておかないと。それに来年の夏には欧州遠征も控えてるし、頑張らないと!
……でもお姉ちゃんと普通にお話しできるようになったし、そこまで急がなくても、いいかな?
「今日は何話そっかな~♪ あ、そういえばお見舞いのお菓子どんなのか知らないや。帰りに私の分買って帰ろっと!」
スぺちゃんが有馬記念に向かってアップを始めなかったようです。
さぁ有馬記念。出走を表明しているのはキングとスカイぐらい。
お二人の描写を入れてから有馬記念に向かいましょう。