アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】   作:サイリウム(夕宙リウム)

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PART88

 

一面の銀世界。雪だらけの地元。地平線まで続く、真っ白な世界。

 

 

 

 

 

「うわぁ~~、なんかすっごい久しぶりな気がする! けど……」

 

 

……いやね、うん。まぁこの雪まみれの時期にわざわざ帰省するのか、ていうね。

 

 

「……だよね。レースがあって雪が降る時期を避けられなかった、って言うのは解るけど。なんでわざわざこの時期なのかっていう。」

 

 

まぁ実際見たことないとしゃあないのはあると思いますけどね。トレーナーさんもご厚意で言ってくださったからあんまり文句言っちゃだめですよ。

 

 

「は~い。」

 

 

にしても、どうしましょ? 飛行機と電車が止まらなかったのはいいですけど、駅からどうやって帰りましょうか。実家結構奥地ですし、タクシーでも拾います?

 

 

「ううん、お母ちゃんが迎えに来てくれるみたいだから大丈夫だと思う、さっきメール来てた。」

 

 

ま、そりゃそうか。んじゃあの軽トラでしょうから荷物どう運ぶか気にする心配もなし、気長に待ちましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、あれ家の車じゃない?

 

 

「あ、ホントだ。お母ちゃん~~! こっちこっち~~!」

 

 

んじゃ、スぺ。私はいつも通り静かにしてるから……、私のことは最後まで言っちゃだめだからね。

 

 

 

 

「…………うん。」

 

 

 

 

 

 

 

一瞬、顔が曇りそうになる。

 

でもせっかくの帰郷、久しぶりのお母ちゃんとの再会なんだ。

 

私が失敗してしまった時のことも考えて、変な期待をさせてしまうわけにはいけない。

 

 

 

大丈夫、6年間出来たんだ。今回はそれよりももっと短い。いつも通り、無邪気なままで。

 

 

 

 

 

車が止まり、窓が開く。

 

 

「おぉ!? そこにいるのは今朝のテレビに出てたスペシャルウィークさんじゃありませんか? どうです、オンボロですけど乗っていきますかい?」

 

 

「もぉ~~! なにそれ、お母ちゃん!」

 

 

「あはは! 冗談、冗談! 変に辛気臭い顔してたからついね! ほら、もうちょっとしたらまた降り始めるみたいだし、さっさと乗っちゃいな!」

 

 

「は~い!」

 

 

 

いつの間にか荷台に乗り込んでるお姉ちゃんの横に自身の荷物を置き、助手席のドアを開ける。

 

そういえば昔はお姉ちゃんの膝の上にのせてもらってたっけ。

 

 

 

「それじゃ、出発しま~す! …………それと、スぺ。」

 

 

「ん? なあに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。よく、頑張ったね。」

 

 

 

 

「………うん、ただいま、お母ちゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「お母ちゃん~~! 屋根の雪かきしてくるね~~~!」

 

 

 

「は~い! 落ちないように気を付けるんだよ~~!」

 

 

 

 

 

 

 

スぺが帰ってきた。

 

 

彼女のトレーナーさんから頂いたお手紙、何故かこの前スぺと遊びに来てた葦毛の子が届けに来てくれたがその内容はスぺを休ませることだった。

 

何でもレースで結果を出すために、ケガをしないギリギリの練習をし続けているみたいで、いくら体の丈夫なスぺでもこれ以上続ければ体を壊してしまう可能性があったらしい。

 

来年、今はもう今年だが、スぺの意向に乗っ取った出走をする場合休みを取れる期間があまりにも少ないらしく、彼女の意向をくむためにも、この期間にできるだけ体を休ませてほしい、とのことだ。

 

今スぺがしに行った雪かきも、私が昨日一度やってしまったし、昨日の夜もそこまで雪は降らなかったので大した量ではない。変に体を動かさないのもスぺにとってストレスになるだろうから行かせた。

 

 

 

………正直、もっと我儘言って無理にでも走ろうとするんじゃないかって思ってた。小さいころから変に自分を追い込む子だったからてっきり家に着いたらすぐに走り出すかと思ってた。

 

そのためにスぺを家に縛り付けておくための紐も用意しておいたんだけど……、変に聞き分けがいい。『レースと練習続きで疲れてるだろうし、家にいる間は走らずにゆっくりしてな』、そういうと元気な返事一つ。それからずっと走りに行ってない。止めているはずの私が不安になるくらい、家でじっとしている。

 

 

 

 

 

それで、もっと心配なのは、スぺがずっと昔の写真を、アルバムを見ていること。

 

 

私もだけど、まだあの時間に縛り付けられている。

 

 

この家に、もう一人いた時間から誰も、決別できてない。

 

 

 

 

 

 

彼女が事故で私たちの前から消えてしまった時、スぺは狂う直前までいった、

 

いやもう狂ってしまっているのかもしれない。

 

 

昔から、お姉ちゃんっこだった。唯一の血がつながった家族だったからかもしれない。

 

年が離れていたこともあって、もう一人の母親として見ていたのもあるのだろう。

 

 

それが、自分の目の前で死んでしまったのだ。狂うのも、仕方のなかったことなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

その時、私が彼女を抱きしめられれば良かった、まだ私が隣にいることをちゃんと教えて上げられれば良かった。

 

私に頼ってくれ、私にその苦しみ、その悲しみを分けてくれ、そう言えればよかった。

 

 

 

 

 

でも、出来なかった。

 

 

あいつから託された二人、スぺが生まれたとき、キャンディは小さいながらも大人びていた。

 

 

私が母親として失敗してしまった時、すぐに私に寄り添ってくれた。

 

私が不安に押しつぶされそうなとき、横に彼女がいた。

 

私が困ったときに、すぐに私を助けようとしてくれたのが、キャンディだった。

 

 

 

あいつをなくしてしまった私は、無自覚の内に彼女を新しい拠り所にしてしまっていたのかもしれない。

 

母親として、早く一人前になるべきだったのに。

 

 

 

 

そのせいで、頼れる人を二度も失ってしまった私は、余裕がなかった。

 

スぺのことを気にすることもできず、ただ自分が壊れないようにするのに精いっぱいだった。

 

 

 

 

 

そのせいで、気づいた時にはもう遅かった。

 

キャンディのお葬式が終わり、何とか一息付けたとき、自分にやっと余裕ができた時。

 

 

 

愚かにも私は、やっとスぺの顔をちゃんと見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何もなかった。

 

 

スぺの顔には、何もなかった。

 

これまで見せてくれていた、小さい時からずっと見せてくれていた感情。そのすべてがスぺの顔から抜け落ちていた。 ……何も、なかった。

 

 

 

私は愚かだった。

 

 

その時、私は、自分のしでかしてしまったことに後悔した、錯乱した、してしまった。

 

 

とりあえず、何とか母親として取り繕ろうとした。

 

体が覚えている動作に身を任せてしまった。

何か動いていれば余計なことは考えずにすむ。イヤなことからは目を背けられる。

 

 

 

背けて、しまった。

 

 

 

 

その日、私が用意してしまった夕食は三人分。

 

 

私と、スぺと。 あともう一人。

 

 

今は、もう、必要がなくなってしまったもの。

 

 

 

 

 

 

 

あの時、食卓に並んだものを見たスぺの顔。

 

気が付いた時にはもう遅かった。

 

 

 

 

 

あの時、あの表情。

 

スぺが、それを見てした顔が、忘れたくても忘れられない。

 

 

 

残ってしまったもう一人の食事は、すべて、スぺが食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スぺの過食が始まったのは、その時からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、もう8年にもなる。

私たちはまだ、過去に縛られている。

 

スぺがどう思っているかは解らない。でも私がこの状況から変化できないのは単に怖いから。

 

今、狂わずにいられているスぺに、変化をもたらしてしまえばどうなるかわからない。

 

 

 

 

それが、どうしようもなく、怖い。

 

 

 

 

 

この家には過去を思い返すものしかない。

 

スぺはまだ、姉の死を、受け入れてない。

 

 

 

 

 

 

けど、今になってそれが起きようとしている。

 

 

私の目線はスぺがこの家に帰ってくる前日に届いた荷物に移る。

 

宛名は、『オースミキャンディ』

 

 

 

なぜ、今になって彼女宛に荷物が届くのか。

 

 

怖くなって、私がその荷物を開けることはできなかった。

 

 

何か、全部を壊してしまう気がして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

トレセン学園 服飾課

 

 

 

 

言わずと知れたトレセン学園縁の下の力持ち、勝負服は勿論生徒の制服や体操服、ジャージなどの販売、制作を取り扱う場所だが……、今日はいつもより煩そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふふ、出来た! 出来たぞ~~~~!!!」

 

 

 

 

 

 

「……ねぇねぇ、さっきから先輩笑い続けてますけど、アレ、大丈夫なんですか?」

 

 

「あぁ、アレね。うんたぶん大丈夫。ほら、あのスペシャルウィークちゃんの勝負服の申請来てたでしょ。あいつ担当してたんだからできたんじゃない?」

 

 

「いや、まぁそうなんでしょうけどあの人確か三日前から帰ってなくないですか? もしかして、三徹?」

 

 

 

 

 

 

さっきからなんか同僚が言ってる気がするが、そんなもの細事ィ! この私、一世一代の大仕事、スペシャルウィークちゃんの勝負服改造が終わった後にはそんなものどうでもよいのだ!

 

 

正直眠いのでさっさと寝たいのだがそうはいかない。こいつをあのクソッタレなURAに送って勝負服申請し直さないといけない。ホントにあいつらアタシらの創作意欲をぶっ壊しやがって! なんで勝負服にウエディングドレスや水着がいけないんだ! 絶対かわいいだろJK!

 

 

 

 

「………さっさとしますか。」

 

 

 

 

脳内で思いっきり叫んでたことを深夜テンション、いや徹夜しすぎておかしくなっていたと断定し作業を進める。有馬後に資料として送ってもらってたやつはそのまま洗って帰すとして、わざわざ一から作り直したこいつはURAに申請届と一緒に提出。

 

あ、そういえば確か北海道の実家に送って欲しい、って申請書に書いてあったよね。前回は本人が届け出を出しに来てたけど、今回は何故かカウンターに置いてあっただけらしい……、担当の奴が席外してたんかな?

 

んで、うちらの申請書には……、北海道の日高に、宛名は……オースミキャンディ? って書けばいいのか? 親族なんかね? まぁ申請書に書いてありますし、URAの認可が下りた後はそのままそっちに送ってもらえるように配慮しておきますか。

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

スぺが雪かきした後の屋根に寝転がり、空を見つめる。

真昼間のキレイな空。前からこれが好きだった。

 

 

スぺには届いているであろう荷物をお母ちゃんと開けるように言いつけている。

 

中身はお母ちゃんには手紙、スぺにはちょっとしたプレゼント。

 

 

開封の時に横にいるのもちょっと恥ずかしいし、スぺの雪かきが終わった後、彼女を家の中に戻して、今は屋根に私一人だけ。

 

「ま、いつも通り褒められたことじゃないだろうけど、そろそろ、ね。」

 

 

「最終的にどうなるかなんて誰も解らないんだ。やるなら自由に動ける今のうち。…………それに、いつまでも自分に縛られている家族を見るのって、結構しんどいんだよ、お母ちゃん。」

 

 

「今はきついだろうけど、その先はきっといいはずだから。」

 

 

「だからちゃんと、スぺを受け入れてあげてね。」

 

 

 

 

スぺと私のお休みは一週間。

 

特別な一週間《スペシャルウィーク》。ちょっと変かもしれないけど、まぁ私ですし。

 

いいものにしないとね、スぺ。

 

 


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