アルティメットスぺちゃん爆誕【実況プレイ風動画】 作:サイリウム(夕宙リウム)
遅れて申し訳ありません、お待たせいたしました。
「? どうしたのお姉ちゃん。今日は一日お休みにするってこの前言ってた気がするんだけど……?」
「いや、ちょっとやりたいことが出来てね、スぺ。」
昨日、雪が降っていたせいか辺り一面の銀世界。二人にとっては見慣れた白の世界。
帰省する時にはこの休みの間はまるっきりお休みにしてゆっくりすると予定していた。
(ほんとは隠れて練習するつもりだったけど……、うん! お姉ちゃんが見てくれるならそっちの方が何倍もいいや! えへへ、何をするのかなぁ?)
そんなことを思いながら体をほぐすスぺ。雪上用の蹄鉄に履き替え、いつでもトレーニングできるよう準備を整えながら姉の次の言葉を待つ。
「まぁ今も降ってたらお休みにする予定だったんだけどね? キレイに晴れてここまでキレイに積もったわけだからそりゃやるでしょ、ってわけで。」
「なるほど~。」
「それに目の前に真っ白なキャンパスがあったら自分色に染め上げたいでしょ? 昔やったみたいに飛び込んだりかまくら作ったりしよう! ……あ、それとも『雪だるまつくろぉ?』かい?」
「???」
最初の方はニコニコ顔だったスぺだったが、姉にネタを振られた時には首をかしげてきょとん顔。自分からそういったものに手を出していた姉とは違いスぺの時間はすべて自己と姉のために使われていた。それを理解しているはずの姉が伝わらない話題を出す。本調子、ではないのだろう。
「ありゃ、伝わらんか。……ま! 遊ぶ前にちょっとしたレースでもしようか。」
「レース?」
「そ! ココからあそこの木まで、タッチして先に帰ってきた方が勝ち。……久しぶりにかけっこしよう。」
そう言いながら踵でスタートの線を引くお姉ちゃん。
……え? 今レース? レースって言った!? お姉ちゃんと!?
「ほ! ほんと! ほんとにお姉ちゃんと一緒に!?」
「うむうむ。昔みたいにね~。」
「ホントにホント! ………ぅ、いやったッ~~!!!」
小さいころ一緒に走ったときと同じように! お姉ちゃんとまた走れるんだ! あのおっきくてやさしい背中をもう一度追いかけてもいいんだ! やった! やった!
「ほらほら、はしゃがない。走る前にジャージ汚れるぞ~。」
飛び跳ねて幼子のように喜びを顕わにするスぺ、それをたしなめる姉。脳裏に10年近く前の記憶、まだ自分が生きていた時の記憶、まだ小さかったスぺが同じように飛び跳ねていたのを思い出す。
(……解って、くれるだろうか。)
「んじゃ、待ちきれないみたいだし早速やるか! あ、もちろん全力勝負だぞ?」
「うん!」
「いいお返事。スタートは……、これでいいか。」
降り積もった雪の中に一つだけ突き出た木の枝。それを根本からぽきんと折る姉。昔ならできなかったこと、生きていたのならば簡単にできること。それが目の前でしてくれていることが酷くうれしい。
「この木の棒が落ちた時にスタートでいい、スぺ?」
「うん、大丈夫!」
「よし……、じゃあ並んだ並んだ!」
「はーい!」
喜びのせいか足が軽い、スキップしてるみたいになっちゃう。
いけないいけない。全力勝負、って言われたしちゃんとやらないと。
顔を振って、やる気を入れなおす。
私のことを見ていたらしい隣のお姉ちゃんから少し笑ったような気配、そしてすぐに空に投げられる棒。アレが地面に接した瞬間がスタートだ。
おちる少し前、ここ。
>【ゲートの支配者:改】発動。
ゲート全体に与えるプレッシャーを横にいるお姉ちゃんに。その分いつものレースと比べて一人に掛かる重圧は重いけど……、まぁ昔私がどれだけ頑張っても追いつけなかったお姉ちゃんだ。この技術を教えてくれたのもお姉ちゃんだしたぶん効かない。枝が落ちた瞬間に全力でとびださないと負けちゃう。
「…………ッ!」
ん? なにか聞こえた? でもッ!
枝が地面に落ちた瞬間、思い切り地面を蹴る。
目の前には…………、だれもいない。
「え……?」
思わず後ろを振り返る、そこには何故かお姉ちゃんの苦し気な顔。お姉ちゃんが私のプレッシャーになんか負けるはずがない。思わず姉の最期の瞬間が過って今にも地面に倒れそうな体を支えるため引き返そうと足を……
「……止まるなッ!!」
「で、でも!」
姉と目が合う、その顔は小さいころよく私の頭をなでながら笑いかけてくれた顔、最後の時に私にやさしく微笑んでくれた顔。そこには私が姉に抱ていたものとは微笑みのイメージと違い、初めて見たかもしれない憤怒の顔があった。
「スペシャルウィークが止まるなッ! お前はレースの途中に止まるのか! 横にいるのが私ってだけでお前は止まるのか! 違うだろッ!」
「……で、でも」
「走れッ!!」
ーーーーーーーー
私に怒られたせいか、後ろ髪を引かれるようにこちらを窺いながら走り出すスぺ。
そう、それでいい。
レースにはレースだけのこと。そこに私の復活だとかそういう余計なことは考える必要なんかない。必要なのは走ることへの楽しさ、他出走者との競い合い、そんな簡単なことだけでいい。
レース結果に、スぺの人生に、すでに終わった部外者が関わっていい理由にはならない。
震える足を何とか動かしながら私もやっと歩を進める。
あぁ、そうだ。スぺの中で多分昔小さいころに走ったときの結果と、ずっと私が彼女のトレーナー代わりをしていたせいで私自身の存在が変に大きくなっている。私がスぺのプレッシャーに耐えられなくて足が動かなかったのを理解できてない顔をしていたのもそのせい。
本格化が始まるどころかまだかなり幼い当時のスぺと、地方だけど学園に入った当時の私、速いのは勿論私だ。私が生きていたのならばどこかのタイミングで追い抜かれていただろうけどそれがなかったせいで、プラスして彼女を導いたせいで、スぺが追い付けないほど私が速いって勘違いしてるんだろう。
私なんか中央に行けたとしても一勝できるか怪しいもんだし、スぺのプレッシャーに耐えられなくてスタートすらまともにできない負け組みたいなもんだ。ただ姉ってだけで三冠馬に勝てるなんて、ね。
でも、意地はある。
私でもスペシャルウィークのお姉ちゃんなんだ。
妹のプレッシャーにつぶされて座り込むしかできないとかカッコ悪いことはできない。
私がスぺに今できるのはレースに必要のない感情や目的を持ち込まないこと、死んだ私の事なんか気にしなくてもいいこと、彼女が大きいと思っている私なんか大したことが無いことの三つを教えてあげるぐらい。そこから先はスぺが自分で気が付いて、友達たちとの関係をどうにかしていくしかない。
そして、最後に……
ーーーーーーーー
折り返し地点の木の下まで辿り着く、足は雪の上で走ったという理由だけじゃ収まらないほどに重い。でも走らないといけない。
聞こえる足音はすごく遠い。
心の中には不安で一杯。
小さいころ、あんなに速かったお姉ちゃん。あの時からずっと、それ以前も一緒にいてくれたお姉ちゃん。私が私であり続けることが出来たのも、ここまでこれたのも全部お姉ちゃんのおかげ。
でも、私の中でとっても大きい存在であるお姉ちゃんがなんで、なんで……。
酷く、冷静な私が語り掛ける。
最後に一緒に走ってもらった時からどれだけ時間が経ったと思っている。
あの時まだ自分は本格化どころかまだ未成熟だった。
いくら当時の姉が地方で強かったとしても今の私はなんだ?
三冠馬で、最強だったルドルフ会長にも勝って、これからの頂点を担う存在だろう?
昔どれだけ速かったとしてもすでにもう追い越している。
、と。
今だけは姉に褒められた自分の頭が憎らしい。こんなこと思い至るぐらいなら何も知らないバカなままでよかった。
自分自身の存在が、あれだけ大きかった姉の存在を否定しているようで、気が狂いそうになる。
もう、走りたくない。姉と今の自分の差を認めたくなくて足が止まりそうになる。
でも、お姉ちゃんは走ることを、最後まで戦い抜くことを求めてる。
……やらないといけない。
イヤな考えを振り払うためにはたき落とすように気を叩きつけ、スタート地点に向かって走り出す。視線は自然と姉の方向へ。位置は行きの半分をようやく超えられたぐらい。
あと、もう数秒すればお姉ちゃんとすれ違う。
少し離れたここからわかる程にお姉ちゃんは全力で走ってる。
全力で走ってるけど私より遅い。
イヤだ。
すれ違う瞬間、現実から逃げるために、目を瞑って、下を向いて、何も考えないようにして。
走るために、勝つために。結果を決めなければならないから、もう一度足を踏み出そうとした時。
足の感触が変わる。
雪上から、芝の感触に。
「え……」
思わず目を開ける、目線は足元。そこにあるのはさっきまであったはずの雪じゃなくて芝生。それにここは……
「『領域』の時の丘……」
レースの時、集中して自分の中に入り込む時。その時に行き着く場所に私はいた。
空を見上げれば真っ暗で、故郷の夜空がそこにある。
後ろを振り向けば丘のてっぺんに立つ大きな木。
隣にいたはずのお姉ちゃんはそこにおらず、私だけ真っ黒な世界に一人。
「スぺ。」
「…………お姉ちゃん。」
後ろから声が聞こえて、振り返ればお姉ちゃんがそこにいた。
走れって私を起こったときの顔や苦しそうな顔じゃなくていつものお姉ちゃん。微笑んでる顔。
「おいで?」
「……うん。」
姉の手が広げられ、私はそこに収まる。
やさしく背中に手が当てられて、抱きしめてくれた。
「私、弱いでしょ?」
「……ううん。」
「ほ~んとは全く強くもないのにスぺにあれこれ言ってたの。失望した?」
「……してないよ。」
「……やさしいね。」
「やさしくない……。」
「はは、ワガママさんだなぁ……。」
離れてほしくなくて、私もぎゅっと抱き締める。ちょっとだけの静寂。
「スぺにはね? 何もイヤなこと考えないで走って欲しんだ。死んだ私の事なんか気にしないで、今を生きてる友達とか先輩と一緒に楽しく生きてほしい。スぺはあんまり関わりを持たなかったけどこれから後輩もたくさんできるし、頼れる先輩としても生きてほしい。」
「……やだ。」
「私や、私たちを生んでくれたお母ちゃんも終わった存在。死んじゃった存在。スぺはそれを覆そうとしてくれてるけど……、私がそれをホントに望んでるわけじゃないのはわかる?」
「……うん。」
少し、姉が笑いながら頭をなでてくれる。生まれて物心ついた時には私の生みのお母ちゃんはいなかった。血の繋がった人はお姉ちゃんだけだった。育てのお母ちゃんもとっても良くしてくれたし、私のお母ちゃんだけど、何故か姉に母のぬくもりを求めていた。
「私も生んでくれたお母ちゃんとしっかりお話したわけじゃないからちゃんとしたことは解らないけどたぶん同じこと言うと思うよ? 私だってズルして一緒にいてるけど乗り越えてほしかったことだった。スぺが頑張ってくれたおかげで、こうやって抱きしめてあげることができるようになったけど……」
「……うん。」
「もし私が生き返れたとしてもスぺの周りに友達も誰もいないとか、スぺがずっと独りぼっちだとか、そういうのは駄目なの。」
「…………。」
「私のことを考えてくれるのは嬉しいけど、周りのみんな、心配してくれる人、たくさんいる。みんなスぺの事考えてくれてる。……お返しとごめんなさい、しないとね?」
「……うん。」
「いいお返事。……さ! じゃあ最後にスぺにはいらないもの引き受けないとね!」
お姉ちゃんがそういった瞬間、私の背後に何かが浮き出てくる。
足元を茂っていた芝はすべて血を思いださせるほど真っ赤なサルビアに変わり、空からは灰が落ちている。さっきまで大きな木があったところにはあの時焼け落ちたお姉ちゃんたちが暮らしていた寮がそこにあった。
「この灰と炎にまみれた世界はスぺにはふさわしくない。」
「それに元々サルビアは私のもの。」
「赤い血は相応しくない。」
抱き締められていた腕が離される。
焼け落ちる景色を私に見せないように前に立つお姉ちゃん。
「せっかくいつも一緒に居るんだ。」
「嫌な記憶、嫌な思い、全部私に任せてスぺは前を向く。」
あの時、最後にしてくれたみたいに額に唇を合わせて、スぺを前に向かせる。背中合わせだ。
「スぺ! 目標は!」
私を生き返らせることから、もっと前の目標へ。
それは母の最期の願いでもある。
同じように死した人への願いだけれども。
それは私たちの誓い。
故郷を飛び出た時に宣言した誓い。
「日本一の……、ううん! 世界一のウマ娘になること!」
流れ星が、背後に落ちる。
輝くのは彼女だけでいい。
私はこの景色を、炎を全部引き受けて。
燃える赤いサルビアから、私の愛を込めた白のサルビアへ。
さぁ、私を超えていけ。
>【シューティングスター】Lv.4→Lv.5
>【灰かぶりサルビア】→【あなたのための白いサルビア】
>条件を満たしたためスキルが変化します。
>【シューティングスター】Lv.5+【あなたのための白いサルビア】
>【Re:流星に捧ぐサルビア】Lv.6 発動。
いつも感じていた流星の力に、姉が与えてくれたサルビアの花びらが視界一杯に舞い散る。
気が付けば自分の視界は元の世界へと戻り、姉の引いたスタートラインを今まで感じたことのない速度で駆け抜けていた。
「ありがと、お姉ちゃん、私頑張る。」
あとがき
隔日投稿(遅れましたが)で三話ほど投下させていただきました。お察しの事かと思いますが続きは全く書けておりません。せめて月に一話ほど、今回三回に分けたものを一つにまとめたぐらいのものを投稿できれば、と考えておりますが……、まぁ気長にお待ちいただければと思っております。
次話は……、スぺちゃんにある程度の区切りがつきましたし、彼女と同じ時間を生きる世代の皆さんの描写をしていこうかなと思っております。もちろんその上も、下も。
それと、復帰時に考えをまとめるために書いたものをこちらに置かせていただきます。
お姉ちゃんを生き返らすためによくある愉悦系三女神様の一人と取引したスぺちゃん。本家スぺと似かよっている部分が多いがどこまで行っても価値判断にはお姉ちゃんがいる。目の前で実の姉を失っているせいかそれが顕著。だれも寄せ付けない実力と引き換えに姉と自分で完結する世界を作りかけている。
最初期、学園に入ったばかりのころはまだ正気を保てていた。彼女にとっては自分以外には見えない姉が傍におり、それを隠すのは日常だったからだ。ただし、それを保てるのもレースが始まるまで。一つ一つ勝利を重ねるごとに現実が見えてくる。勝てたけどまだ勝たないといけない。次も絶対に負けられない。元々取り繕うのがうまかった彼女だ。傍から見たらいつも通りだがもう心はボロボロである。
それが顕著になったのがジャパンカップ。彼女は一度敗北を幻視した。ゆえに本来彼女が持つべきではない血まみれの煤けた花が咲いてしまう。砕け散ってしまった彼女の心を何とか保っているのは姉の存在のみ。
さすがにヤバいと感じた三女神の一人(スぺちゃんと契約したのは力の女神、お姉ちゃんと契約したのは技の女神。余りは知の女神)の技の方がお姉ちゃんの契約の方を一部強制的に変更。もし今後スぺちゃんが負けたとしてもお姉ちゃんが消えることが無いということ、そしてそれまで幽体だったお姉ちゃんに反実体(モノや人に触れられるように)なった。
そのおかげで何とか持ち直したスぺちゃん。しかしながらここでため込んだものが爆発。6歳あたりからずっと触れ合いたいと思っていた死別した姉がいくらその手が氷のように冷たかったとしても触れれるのだ。もう周りの目なんて気にしている暇なんてなかった。ジャパンカップで最強格の会長に勝ってしまったのもあるだろう。彼女の心に慢心と甘えが生まれる。
これを何とかするためにお姉ちゃんが少々荒療治的なことを踏み切ったことになります。姉自身スぺが自分に依存していることを理解しながらそれを改善することががスぺが壊れることにつながるのではないかと恐怖しかありませんでしたが、育ての母に背中を押してもらえたこと、共依存になる可能性があることなどを危険視し、踏み切った形になります。心のどこかでスぺなら何とか乗り越えてくれるという想いがあったことも理由かもしれません。