格闘技場は先程の模擬戦場の横にあり、広さは4分の一程度である。その中は沢山の戦闘員が詰め込まれるように密集し非常に暑苦しかった。
「うおおおぉっ!!」
《バキっ!!ズサーっ!》
「次ぃっ!」
「ダリャアアッ!」
《ドゴっ!!ズサー……っ》
「次ぃっ!」
ラクリーマ直々に組手を行っているのだが、彼の前には全く歯が立たず、立ち向かっていく戦闘員達は全員返り討ちにあい、サンドバッグ状態。これでは組手と言うよりただの一方的な殴り合いだ。
それを他人事のように見ているレクシーの足首を倒れこんでいる一人の戦闘員が掴んだ。
「頼むレクシー、俺と代わってくれぇ!」
「ふっ、ふざけんじゃねえよっ!?今日俺は非番じゃあ!!」
交代を要望されて首を横に振るレクシーだったが、
「レクシーっ!!」
見ると、彼はニヤニヤしながら「来い」と言わんばかりに指でクイクイ呼んでいる。それを見たレクシーは一気に顔が青ざめた。
「え……まっ……マジ……っ?」
呼ばれたからには行かないワケにはいかず、
「ぎゃああああっ!」
当然敵うハズもなく、見事にボコボコにされてのび太としずかの目の前で倒れながら震えている。
「レクシーさん……大丈夫ですか……」
「な、なんで俺がこんな目に…………ううっ」
そんな状態が続き、格闘訓練が終わった。参加者ほぼ全員が顔中アザだらけでへばっているのに対し、ラクリーマ自身は全く無傷で相変わらず元気に素振りしている。
「はあっ……マジでもう終わんねえかなぁ……」
「腹殴られて吐きそうだ……っ」
「俺達を殺すつもりなのか……あの人は……っ」
どこからか不満や弱気な声が出始めている。
それをラクリーマは彼らをチラ見するも、黙って素振りを続ける。
……数分後。
「お前ら集合。最後の訓練を始めるっ!」
休憩していた参加者全員を召集させる。「またキツい訓練やらせれるんだろうな」と彼らはそう思っていた。
しかし、このあとラクリーマの訓練指示は誰もが理解できないことだった。
「1時間の猶予をやる。休憩及び、今から各人完全武装してもう一度模擬戦場に集合な!」
「……えっ!?」
「リーダー……何の訓練を……っ?」
「それはその時のお楽しみだ。さあ、お前ら準備にかかれ!」
そう言って彼はまた素振りに入る。部下達は一向に分からず、頭を傾げるのであった。
「リーダー、何をするか教えくれまーー」
「うるせえっ、早く準備しねえか!ちなみに遅れた奴はマジでどうなるか覚えとけよ?1時間という多大なサービスをしたんだからな!」
「…………」
そう言われ、部下達はすぐにそこから去っていく。ラクリーマは手を止めて、見学しているレクシー達の方へ向かった。
「リーダー、一体何をするんで?」
ラクリーマはドヤ顔をし、こう告げた。
「俺一人対あいつら全員の実戦訓練……まあ、ガチの殺し合いだ」
「! ?」
その無謀すぎる内容にレクシーは唖然とする。
「ちょっと待ってくださいよ!リーダー1人で100人以上いる完全武装した戦闘員(あいつら)とやり合うなんて、いくらなんでも無理ありすぎますよ!!」
「今日は俺のワガママに付き合ってもらったからな。あいつらも不満溜まってるみてえだし、俺も多少は痛い目食らおうかなってな……クククっ」
尋常ではない発言をするラクリーマ。一体何を考えてるのか?
「あいつらに本気で攻撃するように言うし、モチロン俺も本気でやる。なんならレクシーも入っていいぜ?」
「きょっ、今日はやめときます!!」
ラクリーマは彼の隣にいるのび太としずかを見ると、二人はこれから何が起こるのか理解できずキョトンとしている。
「あいつらにヤル気を出させた礼だ。のび太にしずか、お前らに見せてやるよ。俺の本気ってモンをな!」
そう言い、彼は三人の元から離れて、また素振りの続きを始める。
「本気……?」
「リーダー……マジでやるんですかい……っ」
「…………」
一時間後、模擬戦場にはレクシーの言った通り、完全武装した戦闘員が100人以上が集結、訓練内容を聞かされ全員が唖然とした。
「ちょっ……なに考えてるんですかい……っ!?」
「さすがの俺達でもラクリーマさんに本気で手ぇかけるのは無理ですよっ!!リーダーの身に何かあったらどうするんですか?」
あまりにも無茶苦茶な訓練。部下達はすんなり受け入れるワケがない。
「お前らには今日、俺のしごきを耐えた褒美だ。俺を殺すつもりでかかってこい、いいなっ!」
「しっ、しかし……っ!」
「しかしじゃねえっ!!お前ら……いつも俺に不満持ってるヤツも少なからずいんだろ。どうだ?もし俺を討ち取ったらリーダーの席譲るぜ?うめぇ条件と思わねえか?」
「…………ゴクっ」
『席を譲る』という言葉に反応する一人の男がいた――そう、ユーダである。
「二度と言わせるなよ?分かったらさっさと動け!」
納得できない彼らだがこれ以上反論するとラクリーマがキレそうなのでそそくさと散開する。
「なら始めるぜ。お前らは全員で集中砲火するのもよし、全員で突っ込んで俺をボコボコにするのもよし、どんな手ェ使ってでも殺しにこい!わかったな!」
彼の指示で回りに囲むように配置させる。
「制限時間は1時間。想定場所はなしだ!お前ら各人の実力を見させてもらうぜ、クックック……っ」
彼は目をギラギラさせて笑っている。明らかに彼が不利な状況なのに。『まともじゃない……っ』全員がそう思うのだった。
「今から何を……?」
「…………」
レクシーは何も言わず、ただ映像を見ている姿は緊張と焦りを感じさせる。のび太としずかも彼の表情からただならぬ事態であると感じさせていた。そして、
「さあて始めるか。俺を楽しませてくれよ、来なぁ!」
「もうやるっきゃねぇぇぇっ!!」
「ウオオオッ!!」
彼の合図と共に一斉に大勢の戦闘員が一気に襲いかかる。四方八方から攻めてくる彼らを前にしてラクリーマは……。
「きやがれぇっ!!」
彼は全く臆することなく猛進し、一撃で大人数を前方へ吹き飛ばした。
「グアハハハァッッ!!」
まるで鬼か悪魔か、そんな恐ろしい形相の彼の雄叫びが辺りにこだまし、全員が畏怖する。一方で約十数人の部下が手持ちの火器を彼に狙いを定めて砲火する。が、ラクリーマはすかさず義手を前に出して、飛んでくる弾丸や光線をはねのける。
しかし、さすがに全て跳ね返せるハズがなく何発かは彼の体にかする。これはラクリーマの反射神経がよいのか発砲者が彼の身を案じてワザと外してくれたのかはわからない。
「ちいっ!」
かすった所が出血し、彼が少し怯んだ隙を見逃さず、戦闘員が彼に襲いかかる。
「のぼせるなぁ!」
彼は休む暇もなく高くジャンプし、空中に逃避する。が、地上では幾数の戦闘員がバズーカやランチャーなど大型火器で空中のラクリーマに狙いを定め一斉に発射。大型弾頭が彼に向かって勢いよく向かっていく。
「けっ、面白れぇ!」
だがラクリーマは全く焦っておらず、ブラティストームを前に突き出すと太い上腕部の装甲からハッチと思わしき円い門が上部と下部に開き、中から野球ボールほどの物体が二つ飛び出した。
野球ボールのようなそれは重力に従って落ちる否や、いきなり空中分解し中からは何と無数のマッチのような棒状が一気に飛び散り、まるで雨のように拡散する。それはなんと超小型のミサイルの束であり、数えても50発くらいは裕にありそうだ。
「ミサイルがくるぞ、全員防御しろ!」
ミサイルは飛んできたバズーカの弾頭に直撃し誘爆。残りは全て真下の戦闘員に向けて無情にも降り注ぐ。その一本一本小さいながらも小型爆弾並の威力を誇り、『ドワォ!』と広範囲に渡って爆炎と硝煙の海と化した。
「うわああっ!」
巻き込まれた部下たちは完全武装していたため爆風、熱を受けてもかなり優秀なアーマーとヘルメットによりなんとか事なきを得る。
「全員無事か!」
「なんとかな。それよりもリーダーはどこだ!」
煙により視界が遮られて周りが全く見えない。一方ラクリーマはそのまま煙渦巻く地帯からかなり離れた場所に着地すると、すぐに右手でブラティストームをグッと掴む。
「のび太達を驚かせてやるか!」
『ブチっ……ブチブチっ……ブチぃっ!!』と何と上腕部ごと力ずくで義手を引きちぎりだしたのだ。チューブや回線を無理やり引きちぎる嫌な音が辺りに響きわたる。
「まさかラクリーマさん、あれを飛ばす気か!」
「全員、構えろ!」
引きちぎった義手を部下達の密集地へ全力で投げつけた時、内部の自律システムが作動。
それがまるで意思を持っているかのように内蔵しているビーム砲、鉤爪などの武装を一気に展開、自由自在にそして高速で空中を飛び回りNPエネルギーのビームを無差別にばら蒔き、そして高周波振動で更に切断力を高めた鉤爪で体当たりするように突撃して彼らに襲いかかる。
「誰でもいいからあれを撃ち落とせ!」
部下達が撃ち落とそうとするが物凄いスピードで飛び回り、しかも特殊合金性の堅固で柔軟な義手は生半可な銃撃など通じず翻弄、疲弊する戦闘員達。
一方で義手のなくなったラクリーマはちょうど足元に落ちている部下の落としたアサルトライフルを右足で器用に拾い上げて右手に持つと弾倉を歯で噛み持ち、「ガチッ!」と強引にズレを直した。
「ほれ、早く何とかしねえと今から本命がいくぜ?」
ラクリーマはアサルトライフルを地面に向けて数発撃ち、不具合がないか確認するとそこから全力で駆け出した。
「リーダーが来るぞお!!」
気づいた部下の声が全員の注目を外に向けた。不敵な笑みを浮かべて走り込んでくる彼はいきなりスライディングし、滑り込みながら右手だけでライフルを持ち構えて辺り一面に弾をばら蒔き始めた。
「行くぜオラァ!」
こんな大きいライフルをこんな体勢でさらに片手撃ちしても全くぶれず、確実に標的に命中させると言うとんでもない芸当を見せているラクリーマ。これも彼の怪力、射撃能力、なにより彼の熟練した銃の扱いの上手さから為せることである。
さらには未だに空中で飛び回りながら攻撃するブラティストームの連携攻撃により、彼らの陣形は跡形もなく崩壊し、もはや彼の手中である。
「……あ?」
豪快にばら蒔いたせいで弾が切れて使えなくなり、それをチャンスとみた戦闘員が襲いかかってくるが全く焦ることなく今度はクルッと回すようにグリップから銃身部へガッシリ持ち替え、身を低くしてそのまま勢いに任せて下から全力で振り上げた。
「うおぉぉるああ!!」
鈍器と化したそれが見事に直撃し「ぎゃあ!」と断末魔を上げて吹き飛ぶ部下。先ほどの一撃でひしゃげてしまったライフルをその場に捨てると今度は前にいる戦闘員を獲物として襲いかかるラクリーマ。
「や、やべえ!!」
それに焦った戦闘員は腰元のホルダーから青白いレーザー刃を発振する光学ナイフを構え持ち、横一線に振り込んだが彼の恐るべき超反応によるダッキングで当たることなく空を斬る。
そのままラクリーマは懐に飛び込み、すかさず右ボディブローを喰らわせると「ぐはッ!」と泡を吹いて悶絶してくの字に折れた。
しかしラクリーマは体勢を整え、後ろへ少し下がり間合いを取るとどっと腰を低く構えた。
「グオアッ!」
修羅のような顔をした彼の、そのまま勢いに任せて腰を上げると同時に渾身のアッパーを放ち戦闘員のアゴめがけて全力で振り上げた。
戦闘員は直撃を食らい、ヘルメットを貫通し『ズドォ!』と強烈な打撃音と血飛沫と共に勢いよく空中で縦に2、3回転してその地面に叩きつけられた――。
「せっ……せぇいっ!」
一人がラクリーマの顔面に拳突きをいれようとしたが、あまりにも力が入ってなくスレスレでかすった。しかし、その行為が彼を苛立たせる要因となった。
「おいてめえっ、もしかして俺だと思って手ぇ抜きやがったなコラァ!」
「ひいぃぃっっ!」
逆に彼の顔面に本気で拳を入れるラクリーマ。その場に倒れ、激しく悶絶する。
「『敵はためらわず殺せ』と教えなかったか?今の俺はおめえらの敵じゃあ!」
ラクリーマの勢いはさらに加速を増し、もはや誰にも彼を止められない。縦横無尽に動き回り、誰たった一人で何十人を蹴散らす彼の実力、例えるなら『戦神』の名にふさわしい。
「ああっ……」
「何てこと……っ」
その様子を呆然と見ていたのび太としずかはその様にもはや言葉に言い直せないほどの衝撃を受けていた。無論、レクシーもである。
「いやぁ……こりゃあ驚いた……。ここまでスゲぇなんて……」
彼は今、歓喜している。さっきの訓練とは比べ物にならず、一発攻撃するごとに悦びが一層高まっているのがわかる。
なんて楽しそうに闘っているのだろうか。それは彼は根っからの『戦闘狂』だからである。
――だが訓練も中盤に差し掛かり、
「ぐぐっ……」
さすがの彼も次第に疲れが見えてきたのか「ハァ…ハァ…」と息を切らしているのがわかる。
まるで獣のように突撃しているので防御はほとんど考えておらずラクリーマも攻撃、被弾を受け、至るところから出血を起こし、よくここまで動いていたものである。
(くくっ……まぁこんなもんか。けどなぁ、そんなじゃあまだ俺を殺せねえぜ!)
また右手で一撃でなぎ払おうと力を込め、振ろうとした時。
「ぐう!?」
突然あばら骨に『ズキッ!』と激痛が走り、その場に止まる。
しかし戦闘員達はそれをチャンスと言わんばかりに彼に飛びかかり、彼を四方八方から殴り続けた。鈍い不協和音の演奏と共にそして彼は力なくその場に倒れる……。
「あ…………」
さすがにやり過ぎたのか、全員が手を止めてラクリーマを見つめる。
「ラクリーマ……さん?」
一人が声をかけるが全く反応しない。まさか……とは思うが。
『リーダーっ!!」
「ちょっと冗談はなしですよ!!」
しかし、返事をするどころか指一つ動こうとしない。そんな彼を見て、一瞬で全員の表情は青ざめる。
見学室にいる三人もその事態にいても立ってもいられなかった。
「お前らはここでじっとしていろぉ!!」
「レクシーさんっ!?」
すぐに彼の元へ向かう。『死なないでくれ』と心の底から思うのだった。
駆けつけたレクシーはすぐに戦闘員達を押しのけて、ラクリーマの元へ辿り着いた。
「……リーダーぁ……」
凄惨であった。身体中打撲傷や銃創らしき痕で血まみれであった。見るからに生きている可能性は……限りなく低いと誰の目でも分かるのだった。
「オメーらっ!!リーダーをメディカルルームに運ぶのを手伝えっ!!」
レクシーが指示するが、例えラクリーマの命令に従ったにしても誰もが自分たちのしたことに後悔し、茫然自失している。
しかしそんなことをしている暇などない、早くしなければ本当に取り返しのつかないことになる。
そんな中、あのユーダが小笑いしている。
「ケッケッケッ……これで俺がリーダーになれるチャンスができたかもなぁっ!!」
「ユーダっ!?」
空気を読まない発言が彼を逆撫でし、ユーダをグッと睨み付ける。
「このヤロぉ、こんな時にふざけたこと言ってんじゃねえよ……っ」
「もともとリーダーがそう言ったんだろうがぁ、ならいいんじゃねえのかよ?訓練参加してねえ奴がしゃしゃり出てくんなよ?」
「……お前死にてぇのか、あ?」
「それはこっちの台詞じゃボケぇ!」
二人は険悪なムードになり、今にも本当のケンカが勃発しようとしていた。
「二人とも落ち着けよ!!」
「今そんなことしている暇なんかねぇだろうが!」
仲間の一部が二人を仲介しようとするが、そんなものでは止まらなかった。
「放せェェっ!!このクソヤロウを一発でもぶん殴らねえと気がすまねえんだァァァ!」
「オメェのよいこ振りにはもううんざりなんだよ!!」
「なんだとォ!?今すぐ殺してやんよぉっ!!」
「上等だコラぁっ!!」
さらに激化する二人を取り押さえるも精一杯である。
この場はラクリーマそっちのけで一気に修羅場と化しつつあった。その時、レクシーの足首に何かに掴まれたような感覚がする。下を見ると、
「りっ、リーダーっ!!」
意識がなかったはずのラクリーマは彼の足首を掴んでいる。徐々に握り具合が強くなっている。
「おっおい、リーダーはまだ生きてるぞ!」
全員がそれを聞いて、徐々に歓喜の表情を浮かべる。満面の笑みで大声を張り上げる。全員が一安心し、気が一気に緩んだ……だが、
「クックック……」
「リーダー?」
「クククッ……キヒっ!」
ラクリーマの身体中ぶるぶる震えた後、何事もなかったかのようにすぐ立ち上がった。その瞬間、全員はその場で静止した。
「ラクリーマさん……?」
さっきまでの彼とは何が違うとほぼ全員が悟った。
「……さすがは俺の部下だ……めっちゃ楽しいぜ……だがナ……」
突然、無関係であったハズのレクシーの腹部に猛烈な蹴りを入れて彼を吹き飛ばした。苦痛に帯びた彼は前方10メートル辺りで地面に落下し倒れ伏せた。
「わっちゃあら死にさらせやァァァァァァっ!!!」
「ひいいいいいっ!!?」
完全に鬼と化したラクリーマを目の当たりにし、恐怖に戦いた戦闘員達はすぐその場から一目散に逃げ出した。しかし彼は逃亡を逃がすハズがなかった。
「クカカカァ!!ヒャハハハハハハっっ!!」
すぐに彼らに追いつき、これでもかというくらいに殴る、蹴るの暴行を開始、次々に戦闘員を地面に沈めていく。先ほどまで離れていた義手が何事もなかったかのようにそのまま元の位置に連結、すぐに高く飛び上がりそのまま地上の彼らの方へ金属の指を向けるとなんと5本の指全てがまるでサボテンのように針山と化し瞬間、ドリルのように高速回転を始める。
「ゲシゲシにイワシてやるらぁ!!」
なんと回転する指がまるで少なくとも10~20メートルはある長いワイヤーのように伸び、鞭を扱うかのようにそれをブンブン振り回し始めた。
「ドォリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリドリーーっっ!!」
ドリルと鞭を組み合わせたとんでもない鬼畜武装を駆使し広範囲に渡り、彼らの装甲、地面に直撃し抉りに抉り、火花を散らす。
「やべえ!!あのヒト本気で俺達を殺す気だぁ!!」
「誰かリーダーを止めろぉぉ!!」
しかし誰もラクリーマを止められる者はいない。狂気に身を任せ暴走する彼はもはや『戦神』ではなく、『悪鬼羅刹』そのものである。その瞳は『戦闘』を楽しんでいる目ではなく、『殺す』ことを楽しんでいる目である。
「誰か助けてくれぇっ、殺されちまう!!」
「落ち着いてくだせえリーダーっ!!」
部下の懸命な思いも彼には全く届いておらず、ただひたすらに暴走する。ひたすらに……。
◆ ◆ ◆
『緊急事態、緊急事態!!非番時含めた各戦闘員は速やかに武装して模擬戦場に集結せよっ!!繰り返すーー』
艦内に一気に放送され、休んでいた非番戦闘員はもちろん、何があったか知りたい無関係者までもが移動する。
一方、ブリッジで部下と雑務をしていたユノンも……。
「模擬戦場で何が起こったの!?」
「それが……リーダーの身に何かが!?」
「……分かりました、あなた達はそのまま作業を続けて!!私はそこへ向かいます」
「了解!!」
彼女もその場を後にし、全速力で模擬戦場へ再び向かった。走り様の彼女は歯軋りを立てて苛立っていた。
(あいつ……何やらかしたのよ!?)
◆ ◆ ◆
「ラク……リーマぁ……」
「イヤァァァっ!!!!」
のび太としずかも彼の変わり果てた姿にオロオロするくらいしか出来なかった。部下達は打ちのめされて100人以上いたハズの参加者はもう20人以下の人数しか立っていない。
誰もが彼を止めようと試みるが、悪鬼羅刹と化した彼の恐るべき戦闘力に暴走が拍車をかけて、接近するのも困難であった。
「あっ、あれがリーダーか……?」
「ウソ……だろっ……?」
駆けつけてきた野次馬も彼の狂乱する姿に驚愕している。そなの時、ユノンもすぐに駆けつけて野次馬を押しのける。
「どうしたの!?」
「副リーダー、ラクリーマさんがっ!」
暴れている彼の姿を見た彼女の表情は戦慄に変わった。
「うっ……ウソでしょ……っ!?」
あの普段冷静な彼女でさえ動揺からか額から冷や汗が流れ出る。
「……理由はあとで聞きます。まずは彼を……っ」
彼女は冷静になり、耳元の通信機を起動させ、向かう途中の訓練非参加者の戦闘員にこう告げた。
「直ちに遠距離用のトランキライザを装備し、集結した後、ラクリーマを包囲して鎮静剤を発射せよ!迅速に行動して!」
『ユノンさん、何が起きているんですか!?』
「説明はあとよ。今はただその命令に従って!」
『了解しましたっ!!』
通信を切り、野次馬に向かってこう言う。
「今からあたしが彼を無人地帯へ誘導します。あなた達を危険な目にあわせたくないけど、あたし一人じゃ無理だから誰か協力お願いします」
「無茶だっ!ユノンさんにまで何かあったら……」
「そうですよっ!やるなら俺達が!」
説得しようとするも、彼女は首を横に振る。
「……副リーダーたるものが安全地帯からただ指示するわけにはいかないわ。それにラクリーマなら私の声に反応してくれるかもしれない。もう一度しか言わないわ、協力してちょうだい……」
彼女の断固な決意に、ぞろぞろとユノンの前に集まってくる。
「わかりやした。ユノンさん、指示をお願いしますっ!」
「みんなこうなったら死ぬ覚悟でリーダーを止めようぜっ!!」
男達は意志を一つに結集し、腕を高らかに手を上げた。
「……ならいくわよっ、あたしについてきなさいっ!!」
彼女率いる、20人ほどの集団が一斉に行動を開始する。まず彼女が暴走している彼の注意を引き付けるため、彼の近くに接近するよう指示を出す。
「あたしが行くわ。8人はサポート、残りは誘導地帯で待機してっ!」
「うっすっ!!」
それぞれ別れて各指示の元に行動し始める。
「ユノンさん助けてくれぇっ!!」
立っている参加者は10人以下である。辺りにはラクリーマにボコボコにされた戦闘員によって埋め尽くされている。生きているようだが、ほぼ全員が気絶している。
「ダァアアアッ!!」
彼自身はまだ満たされていないのか、悪魔のような恐ろしい顔で獲物を探し求め、さ迷っていた。
「あなたたちはすぐにわたしの後ろへ!」
「ありがてぇっ!」
ユノン達が近づき、逃げ続けていた戦闘員はやっと彼らの後方へ移動する。
「ラクリーマっ!!」
「!?」
声をかけると彼は視線はユノンに向いた。
「あたしはここよ……。来るなら来なさい……さあっ!」
「グガアアッ!!」
その瞬間、血に飢えた野獣が彼女へ向かって全速力で向かってくる。ラクリーマはもう……ユノンだと認識していないのか?彼のスピードは桁違いであり誘導不可能と察知した彼女はすぐに防御の構えに入り、8人の男がユノンを守るように囲む。
しかし、
「えっ!?」
何と彼は彼女達を飛び越えて後方にいる戦闘員に向かって突撃した。
「どっ、どうなってんだコリャア!?」
彼らはすぐに彼の猛攻から逃げ出した。そんな中、ユノン達でさえ全く理解できず立ち尽くしていた。
「どっどうして!?」
ユノンは振り返り、彼を見ると何かおかしいことに気づいた。
よく見ればラクリーマはまだ立っている戦闘員だけを襲っている。暴走しているのなら床に倒れふせる戦闘員をも色んな手段を使って惨殺しているはずである。彼の性格上で考えるなら。
しかし、倒れている戦闘員はただ気絶しているだけで死んではいない。
しかも暴走しているのに対し、その攻撃全てがワザと急所を外しているようにも見える。そして自分達を襲わなかったこと……そう考察するとある考えが思い浮かぶのだった。
「あっあいつまさか……っ!?」
「副リーダー!?」
ユノンは前に出ると苦虫を噛み潰したような表情で彼をグッと見つめた。
「止まりなさい!!」
「……!?」
彼女の放った一言でなんとその場で制止した。
「あんたっ……ホントは意識あるんでしょっ?答えなさい!」
「……」
彼は数秒間間を置いた後、彼女の方へ向いた……。
「……ああ、普通にあるぜっ」
この模擬戦場にいた全員が驚愕した。するとラクリーマはフッと軽く笑い、こう呟いた。
「……まあ、もうすこしで理性がなくなりそうだったがな。その前に止めてくれてありがとな……ん?どうしたユノン?」
「…………っ!」
彼女は怒りの表情を露にし、彼の方へ向かうとすぐさま彼の頬に強烈な平手打ちをかまし、辺りにその打撃音が辺りに響きわたった。
「いい加減にしなさいよぉ!!こんな騒ぎ起こして、彼らをあんなにまで痛みつけて……リーダー失格だわっ!!」
「…………」
ユノンの叱咤が彼はもちろん、辺りは一気に静寂と化する。本当に彼女の怒りもごもっともだ。
「……ユノン、どうだったか?」
「……はっ?」
「意識があったとは言え、マジでキレてみた俺は怖かったか?」
「…………」
ラクリーマは倒れている戦闘員の方へヨロヨロしながら向かうと運ぼうとしているのか、気を失っているレクシーの手を肩に通している。
「へへっ……いやあ、いっぺんブチギレてみるのもいいもんだ。マジで爽快モンだぜ……っ」
レクシーもやっと目を醒まし、彼へ微笑む。
「りっリーダー……意識が治ったんですかい……よかったぁ……」
「レクシー……本当にすまなかったな。お前が一番関係なかったのに攻撃して……ふがいねえ……」
「へへっ……あんなリーダー見たことなかったですぜ……っ、今だにハラがいてぇや……ハハッ……」
二人の会話から一応の安心感が。それと同時に彼らは思い知ることとなった。
『彼を本当にキレさせると恐ろしい』ことを。
『もし完全に理性のタガが外れるとどうなるのか……』と。
「これで……訓練を終わる。全員……こいつらをメディカルルームへ連れていってやれ……っ、急所を外してあるからしん……ぱい…し……」
「リーダーァァっ!!」
最後まで言えずラクリーマはレクシーと共にその場で倒れた。すぐに駆けつけるとレクシーはともかく彼は痙攣しながら白目を向いて、今度こそ意識を失ったようだ。そりゃあんなにボコボコされて出血多量な状態で馬鹿みたいに動き回れば疲れ知らずのラクリーマでも燃えつきるのだ。
「ただいま到……ありゃ?」
ようやく到着した武装戦闘員達もその状況を見て、頭を傾げる。中央へ駆けつけるとラクリーマと多数の部下達が気絶している。
「はっ早くリーダーを……っ!」
「全員集合、協力してその場で気絶している彼らをすぐにメディカルルームへ!」
ユノンの指示でその場にいる気絶者を運び出す。こうして地獄で危険な戦闘訓練が終わりを告げるのであった。
一方、のび太としずかは……。
「「うえぇぇぇん!!」」
見学室内でふたり、ラクリーマのキレた表情、行動があまりにも怖すぎて大声で泣いているのであった……。