――あれから数時間後、気絶者も復活し、各人休養を与えられて部屋へ戻っていった。
しかし、メディカルルームではユノンと横でイスに座るサイサリスが眉間にしわを寄せてとある映像を見ており、その横でラクリーマがベッドで静かに寝ている。
「……こりゃあひでえな」
「……」
その映像はなにやらレントゲンのような人体図を映し出している。地球人と酷似している骨格、筋肉部位、内臓に位置する場所に赤、黄色に点滅している場所が多数確認されている。
「あばら骨、左肋骨数ヵ所、右胸骨数ヵ所……にヒビ。右上腕二頭筋、三角筋が炎症、打撲傷、銃創、切創……っよくこんな状態でまあ……」
「…………」
「とりあえず治療したが……さすがにここまでくると完治できねえからしばらくは絶対安静だな。これ以上無理するとただじゃすまねえぜ」
「……バカよラクリーマ。自分の体を大事にしないから……リーダーとしての自覚があるのかしら……?」
ユノンは彼を冷めた目で見つめ、ため息をつく。
「だいたい……なんなのあの訓練……?。彼らに聞いたら自分を殺しにこいやらリーダーの席を譲るやら、身勝手もいいとこだわ。一体何を考えてるんだか……っ」
するとサイサリスまでもがため息をつきだした。
「これもあいつのせいかもな」
「あいつ?」
「ユノンちゃんは知らねえんだっけ。エルネスっていうアマリーリスの前身、『宇宙海賊』のキャプテンだった奴だよ」
「宇宙海賊……初耳ね?」
「そいつはあたしと同じ出身地の科学者でな、ラクリーマの義手『ブラティストーム』やエクセレクターの設計、開発主任で、あたしとは別ベクトルで超天才だ」
ブラティストームはともかくこの巨大宇宙船エクセレクターを開発したなんて…彼女はこう考えた、『よほどの天才なんだろう』と。
「性格はラクリーマと瓜二つだ。つかこいつがそのエルネスから影響を受けてる。なんせ生まれは違えど無二の親友……兄弟みたいな関係だったからなぁ」
親友……と言われても彼女は全くピンとこない。自分にはそんな親友はおろか友達などいなかったせいなのかもしれない……と思うのであった。
「私とそいつはここからだと……約1000万光年離れた『マッドウイング』っていう星雲内にある第1惑星『ラグラ』っていう惑星出身なんだがな。
実はその近くの無人第2惑星『エリゴル』にはニュープラトンの鉱脈があって、それを採取し、初めてNPエネルギーを抽出した惑星にして、それを利用し『神の軍団』などとほざいてたが確かに強大な軍事国家だった」
ニュープラトン……まさか、そんな所にあったなんて……しかしまあ、このエクセレクターもNPエネルギーを動力とし、超兵器ばかりを搭載したこの巨大宇宙船を建造できる技術を持つ勢力は全宇宙を探しても数えるほどしかいない。そう考えると無理にでも納得せらざるえなかった。
「わたし達はその神の軍団の軍事研究、開発機関で働いていた。あたしは主に火力などの攻撃面を重視した兵器開発、エルネスは汎用性重視のデバイスや兵器開発担当だったんだが、ある事情であいつが組織を結成して反乱を起こしてな。
その際エクセレクターを強奪し、その時にあたしと手ぇ組んだってワケよ。今から約15年ぐらい前かな」
「反乱……強奪……ですか?」
なかなか興味深い話だ。彼女もその話に食いついたのか、珍しく目をパッチリ輝かせている。
「聞きたいのか?」
「まあちょっとは……っ」
「副リーダーだしな、知らないワケにはいかねえし教えてやるよ」
サイサリスは彼女の方に向き、こう答えた。
「あいつはな、実は技術開発の他に様々な人体実験も担当していたんだよ」
「人体……実験……っ?」
「あたしはあまり知らないんだがな、毎日のように被験者達は悲鳴を挙げてたそうだ。その被験者達てのは死刑を宣告された極悪人、他の惑星から捕らえてきた戦争の捕虜や人身売買で買った奴隷、誘拐拉致してきた人間達でな。だがあいつの性格だ、その悲惨さ、凄惨さ、その非人道的行為にマジギレしたんだ、「もう我慢ならない」ってな」
「…………っ!?」
ユノンはその壮絶な事実に唖然とする。
「救いようのない極悪人までも助けるなんざ、あいつは優しいのかただのバカなのか。まああたしらも言えた義理ではないが……まあそれであたしとエルネスは実験体になろうとしていた奴らと手を組んで反旗を翻したわけだ。
そもそもあいつ、神の軍団のやり方は気に食わないっていつも言ってたからな。実験艦だったエクセレクターを強奪した後、すぐに宇宙圏に飛び出し、リバエス砲を『神の軍団』の本拠地に撃ち込んで惑星ラグラごと消滅させたんだ」
「惑星が消滅したって……リバエス砲は最大出力でも惑星が半壊する程度ですよ……なんでまた……?」
「さあな……。逃げることに無我夢中だったから何とも言えん。まあその後、この艦初めてのワープを実行して逃亡。それからあたしらは銀河連邦から追われる身になり紆余曲折あって宇宙海賊が誕生したってわけよ。連邦のヤロウ、ラグラがなくなった途端にチャンスと言わんばかりにニュープラトンを根こそぎ横取りしやがって……」
「そんなことがあったなんて……同情するわ……っ」
「けっ、同情なぞいらねえよ。わたしだってあいつと組んだ方がさらにスリルで破壊まっしぐらで楽しくできると思っただけだかんな。あたしはマトモな生き方は合わねえからよぉ」
「…………」
いかにもサイサリスらしい考えだ。同情して損したと思うユノンであった。
「そのエルネスって人は……」
「……死んだよ、5年前に難病を患っちまってな。死に間際、当時戦闘員で一番能力が高かったラクリーマに全権と自分の部下達を託したんだ。そこからアマリーリスに至るわけだよ」
「え…………?」
「こいつもよくここまできたとあたしでも思うよ。親友とはいえイチ戦闘員からいきなり全てを押し付けられて重圧もハンパではないだろうに。エルネスも仲間を本気で大事にする奴だったし、あいつと同じように仲間を死なせたくない気持ちで必死で悩んでるんじゃねえかな?」
そのとりとめのない考察にユノンは腕組みし、頭を傾げる。
「そうかしら……彼の普段を見てるとそうは思えないし……」
「まあこいつは最愛の彼女、ランちゃんも立て続けで亡くしてるからな、間違いなく多大なショックを受けているのは確かだ……こいつ、無意識に自分の死に場所を求めるような気がするんだが。お前さんなら思い当たるふしがあるだろ?」
彼女はその『死に場所』という言葉になにかピンとくる。
侵略、戦闘の際は部下達の盾となり、庇ったと度々報告されている。その証拠に帰艦の際は、ほとんど彼だけが傷だらけである場合が多かった。最近ではのび太と決闘した時には『自分が死んだら後を引き継げ』と言っていた。そして先ほどの戦闘訓練での発言……。
それらの行動と彼女の言葉を照らし合わせると辻褄が合う。死ぬことを考えていない人間がそんな行動をとったり、そんな台詞を吐くとは思えない。
「…………ラクリーマ」
彼女は哀しげにうつむく。サイサリスはそんな彼女に軽い笑顔で見る。
「まあ心配しなさんな。ただこいつがバカなだけかもしんねえし、こいつが死ぬ姿なんか想像できねえって!」
「…………」
珍しく彼女を気遣うサイサリス。
「ユノンちゃん、こいつの支えになってやれ。二人ならこのアマリーリスをさらに繁栄させることができるだろうぜ!実際、あんたらを見てたらまるで姉と弟だな。確かユノンちゃんの方が歳上だったろ?」
「……なに言ってるんですか……っ」
冗談まじりでそういう彼女をぼそっと否定するユノンは少し間を置き、こう聞いた。
「……サイサリスさんってラクリーマとは古い付き合いなんですよね?彼っていつからここにいるんですか?」
「お、ユノンちゃん、気になるのか?」
「ま、まあ……」
するとサイサリスは腕組みしてラクリーマを見つめる。
「こいつと初めて会ったのは……大体13年くらい前かな。その時はまだ本当に小さいガキでな、エルネスがある惑星の調査のついでに拾ってきたんだが……」
「拾ってきた……?」
その言葉に反応するユノン。
「実はな……出会ったその時は全く言葉を話せなかったんだよ」
「え……?」
その事実に彼女は耳を疑った。
「言葉は「ウウ……」とか「ウガア……」とかの呻きや叫びだけで話せない、当然読み書きもできない。行動からしてまさに獣だったよ。
身体中傷だらけでうす汚れていたから虐待か病気かそういうのを疑ったが、そんなんじゃなく実に健康的でウザいぐらいに元気で純粋だったからつまりこいつは――」
……所謂、野生児である。恐らく彼の育ってきた環境の影響だろう。
「だがこれじゃあまともにここで生活を送れないと、それでエルネスは人並みに戻そうとして付きっきりでいろんな教育を施したんだが……とんでもないことが分かってな」
「……とんでもないこと?」
「こいつ、たった数ヶ月で言葉と文字を全て覚えてしまったんだよ。半年後くらいにもう私達みたいに普通に喋れるようになっちまってたし文字を理解してた」
「な、何ですって……?」
「それに常識、礼儀作法、このエクセレクターのノウハウ、メカニック面、戦闘ユニットや兵器の扱いなどの戦闘技術……その他もろもろの知識を短期間で全てマスターしちまったのさ。
一回テストや検査をしてみたがこいつは順応性、適応力、知識の吸収率が常人を遥かに越えていることがわかった。そういう意味ではあたし達を遥かに越えてるかもしれん」
驚愕の事実に言葉を失う。しかし、確かに真面目な時の彼の知性の高さや頭の柔軟性や回転が早いことは彼女も知っている。
まあ普段はバカなことや下らないことをしているのであまり頭がよさそうには見えないのだが……。
「エルネスはそんな成長を遂げるラクリーマに対して「とんでもない逸材を手に入れた」と大歓喜していたが、その一方で「生物を超越した何か得体のしれないモノを感じる」と不安と恐怖をもらしてたな」
「……」
「あたしもたまにこいつについてそう考えてしまうこともある。一体どこまで成長するのか、その先に一体に何がどうなるのか……まあそれを見続けて知りたいとも思ってる。あたしの研究者としての気持ちがな」
普段の彼女らしくない冷静な口調でそう告げる。ユノンもこのラクリーマの底知れない能力に興味、そして不気味さを含んだ複雑な気持ちが入り交じる。
「……まあ、本質は底無しの暑苦しいただのスケベでバカだがな」
「フフ……そうですね」
二人は仲良く笑う。するとサイサリスはイスから立ち上がり、一息ついて二人から去っていく。
「ちょっと開発エリアに戻る。ちょっとラクリーマを見といてくれなぁ!あと、二人っきりになってヘンなコトすんじゃねえぜ?」
「……っ!!」
「ワリィワリィ!なら邪魔者は消えるぜぇ!」
茶々をいれ、サイサリスはメディカルルームから去っていった。
一人残されたユノンは寝ている彼の横に座り、じっと見つめる。まるで子供のような寝顔をし、なんの悩みもないかのようにすやすや寝ている。まるでさっきの考察が的外れだったかのように……考えすぎなのであろうか?
「ふふっ……憎たらしいほどいい寝顔してるわ。さっきまでの様子とは大違い……」
彼女は普段、誰にも見せたことのない穏やかな笑顔をつくる。
誰もいないせいか、安心していつもの自分ではない表情でしていられる。
『俺の本気でキレた姿は怖かったか?』
あの言葉が心に残っている。確かに彼は訓練や仕事中はさすがに厳しく行っているが、それでも彼はへらへらとしている部分があり、それまではキレるという一線を越えた所までは見たことはなかった。あの時の彼の姿は本当に未曾有な光景だったと言える。
(もしかしたら……溜め込んでたストレスとかを吐き出してたのかもしれないわね……っ)
彼女は彼の右手をギュッと握り、視線を下に向け、目を瞑る。
(……支えるかぁ……そんなことは全く考えてなかったわ。
務まるかしら……こんな無愛想で人付き合いもろくにできないあたしが……)
――すると、
「ううっ……」
「ラクリーマ?」
彼は額に汗を流しうめき声をあげ、彼女はすぐさま横にあったタオルで彼の汗を拭う。
「ラ……ン……っ」
「……?」
「……ラン……行くな……っ」
どうやら亡き恋人ランの夢を見ているようだ。しかし彼の表情を見るかぎり、あまり良い夢ではなさそうだ。彼女はどこかもの悲しい表情に変える。
「……あたしのことは……眼中にないってワケね……ってなに考えてんのよっ!?」
顔を真っ赤にして頭をブンブン振るという彼女にして非常に珍しい行動をとっている。
「……?」
突然、彼が自ら彼女の手をぎゅっと強く握りはじめ、寝ているにも関わらず、穏やかな表情となっていく。
「……ユノン……?」
「……えっ……起きてる……?」
彼女を呼ぶ声に反応にすぐに応える。だが、彼は続くように、
「好きだ……っ」
「えっ……?」
「…………ずっと……俺のそばにいてくれ……っ」
「えぇっ!?」
そう言うとまたすやすや眠りはじめる。どうやら寝言だったようだ。一体彼はどんな夢を見ているのか不思議だ。
「…………」
彼女の顔が真っ赤だ。熟したリンゴのように真っ赤だ。
彼女の心臓の鼓動が高鳴り続けて今にも破裂しそうだ。
ユノンはすぐに立ち上がり、室外に出ると壁に寄りかかりそのまま座り込む。
「~~~~っ!!」
額を押さえ、非常に息づかいが荒い。
(っ……あたし、何取り乱してんのよ……っ。単なる寝言じゃない……)
息を整え、立ち上がる。しかし鼓動の音は高く、もう一度メディカルルームに入るも、ラクリーマに一歩近づくごとにまた強くなっていく。
「……………っ!」
なんとも言えない複雑な心境に立ちくらみを起こし、イスにたどり着くとドサッと座り込む。
「……ん?ユノン?」
「はっ!?」
ラクリーマは目を覚まし、大きな欠伸をしながらすぐに起き上がる。起きた直後なのか不思議そうに馬鹿面で彼女に視線を注ぐ。
「お前……風邪ひいたのか?顔がやけに赤いが……っ」
「~~~っ!」
けが人にあるにも関わらず、『バチィ!』とおもわず彼に強力な平手打ちをかましてしまう。
「どわぉ!!」
いつもは冷静で飄々と接する彼女がまともにラクリーマと目を合わせられない。
「ばっ……バカぁっ!!」
罵るといなや、彼女はまるで犬のような速さでその場から去っていった。
「あのクソアマぁ……起きたなりに何しやがるんだ……ほぉ~イテぇ~!」
赤くなった頬がジンジンする、優しく撫でるが一向に痛みが引かない。
「つ…………」
彼はベッドを出て、立ち上がる。……横腹と右腕全般が少し痛い。気にするほどでもないが彼はそこを優しく押さえて苦笑いする。
「ちいと無理しすぎちまったな……っ、情けねェぜ」
そう言い残し、誰もいない室内から早々に去っていった。
ユノンはというと自室に戻り、ソファーに座りながら頭を押さえていた。
「…………」
いまだに顔を赤くし、溜め息ばかりついている。
ラクリーマの寝言が非常に気になっていたのだ。
(なんなのよ……この感じ……っ?ああ……モヤモヤして気持ちわるい……っ!!)
そのままソファーに寝そべり、目を瞑る。
胸の鼓動が止まらない。さっきよりは遅くなったが、『ドクっ、ドクっ』と音を立ている。
(寝言でも……あんなこと言われたの……はじめて……ラクリーマ……どうゆうつもりなの……?)
『好きだ、ずっと……俺のそばにいてくれ……』
何を思ってあんなことを言ったのか彼女は全く理解出来なかった。
少し経って彼女は立ち上がり、クローゼットへ移動すると中から下着と着替えをとりだし部屋を出ていった――。
「ラクリーマ……ユノンちゃん……あいつら……っ」
そしてメディカルルームにサイサリスが戻ってきたが、当の本人とユノンはもういなく、無人と化していた。徐々に苛立ちが募り、彼の寝ていたベッドをガツンっと蹴る。
「もうどうにでもしやがれっ!!せっかく気ぃ使ってんのにぃ。こうなったら腹いせに……また新兵器を開発して犠牲者をバンバン増やしてやるわぁ、ワハハハハッ!!」
狂気じみた発言を吐いたのち、彼女もメディカルルームから去っていった。
◆ ◆ ◆
のび太は下をうつむきながら通路を歩いていた。
「ハァ……」とため息をつき、不安そうな表情だった。
(あの時のラクリーマ……ホントに恐かったな……っ。あれで僕たちを襲っていたら……ひいっ、イヤだぁ!!)
身体に寒気が走る。考えただけでもゾッとする。しかし、あれでも自覚があったというのは驚きだ。
「……大丈夫だったかなぁ……見たかぎり大ケガみたいだったけど……っ」
それでも彼のことを心配するいかにものび太らしい性格だ。
……そんな暗いテンションで歩いて曲がり角を曲がろうとした時、
「のび太?」
「ラクリーマ?」
偶然にも二人は出くわす。
「ラクリーマ……その、身体は大丈夫なの?」
「ああっ。ちいと身体を痛めちまったようだが……まあ心配すんなっ」
のび太はその言葉を聞いてホッとする。
「しずかは一緒じゃねえのか?」
「しずかちゃんなら大浴場に行くって」
「大浴場かぁ……クククっ、そういやぁユノンもそこに行ったってことをさっき聞いたな……こりゃあ面白いことを考えたぜ!」
「どうしたの?」
突然ラクリーマはのび太の腕を掴み、のび太が歩いてきた方向へ引っ張っていく。
「どこに連れていくんだよぉ!?」
「のび太、お前にいい体験させてやるよ。名付けて『目の保養及び、女の体について』って奴をな!」
「ええっ!?」
明らかに嫌な予感しかしない……のび太を無理矢理連れていく彼は一体なにをしでかそうとしているのだろうか……?