ラクリーマはサイサリスの部屋に訪れていたのだが……。
「おっ、どうした?」
「よお……って下着ぐらいはきやがれバカヤローっっ!そんなきたねえマ〇コ俺に見せんなオラぁ!!!」
「きたねえとはなんだコラァァ!!!!!!!!」
ここに一番の猛者がいた。ドアを開けると彼女はなんと全裸で真正面のソファーにおっぴろげで股を広げてどっしり構えて座っていた。恥ずかしがる様子もなく堂々と彼の前に全てをさらけ出しているのだから堪ったものではない。
「ちっ、何しに来やがった?……言っとくが、わたしに性欲求めても無駄だからな。そんなものはとっくの昔に捨ててるんでね!」
「……テメエらは俺がそれしか考えてねぇとしか思ってねえのか……俺はただ昔からの馴染み同士、話をしてえだけだ……っ」
「話だと?まあ入れよ」
「あと前隠せ!」
彼は頭を押さえてため息をついた。
(まじ萎えたぜ……だいたいあの歳でパ〇パンはあり得ねえだろ……?ユノンでさえ毛ぇ生えてるってゆうのによ……)
部屋を入り、辺りを見回す。研究資料や訳のわからない物が辺りに散乱していて、汚い部屋だ。身の回りが整頓されて、清潔感溢れるユノンの部屋とは大違いである。
「お前、無理してるだろ?顔色悪いが大丈夫か?」
「ああっ?お前自身が俺を心配とか、寒気がするぜ」
「……けっ、なんだその言い方は?まあいい、座れや」
ラクリーマはソファーに座り、ゆっくり息を吐く。彼女はやっと上下に下着をつけ、どこから持ってきたのか、酒の入ったボトルとコップを彼の前に差し出した。
「飲むか?」
「ああっ、ありがとよ」
二人は置かれたコップに酒を注ぎ込む。その無色透明色でまるで清酒のようだった。
「んで、話とはなんだ?」
ラクリーマは酒を少量、口に含み、ゆっくり飲み込む。コップを持ちながら下へうつむき、やっとこさ口を開いた。
「なあ、ユノンについて何か知ってるか?例えば過去とかな」
「……ユノンちゃんの?さあな、興味ねえし」
「そうか。お前らは仲良さそうだから何か知ってるんじゃねえかなってな」
「……あの子は自分から話すような娘じゃねえのはお前でも知ってるだろ?しかし、どうしたんだ?」
「いや……そのことで聞きたかっただけだ」
彼女はグイッと一気飲みをして、到底、女とは思えないほどに豪快に息を吐いた。
「ラクリーマ、もしかしてユノンちゃんのことが……っ」
「……ああっ、隠す気はさらさらねえぜ」
サイサリスはまたコップに酒を注ぎ、手に持ちながら彼を見て、軽く笑った。
「クククッ、お前は根っからの女たらしだがランちゃんにだけは愛情注いでいたから何だかんだで一途かと思ってたが、やはりたらしだったか」
「うるせえ。まあ、たらしなのは認めるがな。それに……」
コップを起き、視線を下げて一呼吸置く彼からは何か哀しそうな雰囲気を出していた。
「ランなら……今頃、あの世でエルネスと幸せにしているだろうぜ」
「……それはどうゆうことだ?」
彼女はピクッと手を止めて、ラクリーマをちら見した。
そして彼から驚くべき言葉を口にした。
「あいつも、ランのことが好きだったんじゃねえかなあ」
「なんだと……っ?」
サイサリスはすぐにコップを置き、彼もさらに話を続ける。
「エルネス、俺と違ってすぐに顔に出るタイプだからな。あいつ、俺とランが一緒にいた時、どこか淋しそうな眼をしていたよ」
「…………」
「最も、あいつはランが好きとも言ってなかったし、俺がそう感じただけだが。しかしあいつと俺はほとんど一緒につるんだ仲だしな、何か分かるんだよな」
「……お前らまさかとは思ってたが、そうゆう関係だったのか……キモチワリィ――っ!!」
「何か勘違いしてねえか?」
あのサイサリスが気味悪がるほどに引いている。しかし、彼はホモではない。
「あとな、死に間際、ランに気にかけたことを言ってたし、『エルネスもランのことが……』ってな。俺は……それからランに手を出していいのか分からなくなってな。実際、アマリーリスになってからはあいつにはキスぐらいはしたが、それ以上はしてねぇよ」
「……呆れたぜ。お前、そんなに心の複雑な奴だったのか。獣みたいにヤりたいときはヤる、本能に忠実の男だと思っていたがな」
まるで見損なったかのような冷ややかな眼を送る彼女を、ラクリーマは気分を損ねる。
「へっ、ならサイサリスはどうなんだ?お前、まともに恋をしたことがあんのかよ?」
「あたし?おうよ、あたしも20代の頃は本気で人を好きになったことあったし実際にカレシもいたよ。まあ、最終的にはスカしたがな」
その意外なことを聞いた彼は、驚きを隠せなかった。
「おい、なんでそんなに驚いた顔をしているんだ?」
「……殺戮兵器にしか愛情を注がねえ男同然のお前にもそんなことがあったなんて……っ、想像できねえ」
「ちっ、あたしだって女なんでな。軒並みの女らしい感情はあるんだよ。ならなコホン、『うふ♪あたし、あなたのことが好きよ。付き合ってくれない?』」
「…………」
彼女の猫なで声にラクリーマは血の気が引き、青ざめて、口を押さえた。
「……うぷ、キモチ悪くなってきた……。女みてえな言い方して、お前から付き合ってくれだなんて……」
「ん だ と コ ラ ァ ァ ! !」
サイサリスは憤怒の表情で立ち上がった。確かにもう四十路であるが美人の類である。
だがとてもじゃなく女性と思えない性格の彼女からその言葉が出たら、100人に聞いたら、殆どは気持ち悪いと思うだろう。性格と振る舞いで印象が帳消しどころかマイナスになる人物だ。
……気を取り直し、二人は話を続ける。
「……まあランも特攻で死んで、俺はもうこんなに辛いなら恋なんぞしたくねえと思ってた矢先にユノンと出会った。
あいつはいい女だよ。幼児体型のランと違って超絶美人でスタイル抜群だし、仕事はできるし……ただ性格はランと違ってキツいがな、俺はベタ惚れしたってわけだ」
「……ならユノンちゃんに告白しねえのか?お前なら普通にできるだろ?」
ラクリーマは腕組みをして、眼を閉じた。背もたれして数秒間沈黙した後、
「……あいつは俺のことをどう思ってるか知りてぇし、それまでは……。ランはストレートで素直だったからよかった。しかしあいつは一匹狼だし、プライド高いしな。
あいつには色々イタズラしてきたから俺のことを好きじゃねえのかもしれねえし……」
「けど言わねえ限りは進展しねえぞ。ユノンちゃんから言うなんて考えられねえし、結局、お前が思いを伝えないといけねえんだよ」
「……だよな。わかったよ、けどまだだ……」
彼女は溜め息をついて呆れ果てている。『こんな奴だったんだ』と。
「大変でございますね、ラクリーマさんは!」
「けっ。ところで話は変わるが、『ログハート』と『セルグラード』の開発状況はどうだ?」
「『ログハート』はもう97%完成してるよ。『セルグラード』は……せいぜい80%くらいかな。ククク……あれはお前専用の対銀河連邦の決戦兵器だ、早く完成させて真っ先に使わしてやるから楽しみにしてな」
「そうか。楽しみにしてるぜ」
彼はコップの残りを飲み干し、大きく息を吐いた。数秒後、彼女にこう質問した。
「……なあ、現状況で銀河連邦と対峙したら勝てると思うか?」
その質問にサイサリスはソファーの肘掛けに寄りかかり、考えてるのか沈黙し、段々顔を歪ませていった。
「連邦は全宇宙でも相当の戦力を持つしな。エクセレクター級戦艦を何十隻も所有していて、さらにあいつらは宇宙の至るところに配置しているし、これ一隻であいつらとまともにやりあうとか正気も沙汰じゃないだろ」
「……だよなぁ。しかし、この2つが完成したとしたら……どうなる?」
「………まだ何とも言えないが。多分一個大隊規模ならまともにやりあえるだろう。だがさっきも言ったように、それでも奴らとの戦力差はありすぎる。やるとしてもゲリラみたいに戦って一個ずつ潰していくしかねえな。下手に長期戦に持ち込まれると不利だ」
「……そうか。さすがは連邦だな。だがな、やってみなけりゃわかんねえからよ。部下の為ならこの身をボロボロにしても守ってやる」
「……ラクリーマ、お前本気でそう思ってるのか?」
「ああっ、あいつらを守れるのなら俺の命など、安いもんだ」
「……………ふふっ、ふはははっ!!」
彼女は馬鹿デカイ声で笑い声を上げた。……が、
《キサマぁ、ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ!!》
次の瞬間、彼の胸ぐらを掴み、これでもかというくらいに恐ろしい形相で睨み付けた。
「……サイサリス?」
「おい、何が俺の命など安いだ。そんな自分の命を軽く見る奴が組織のボス務まると思ってんのか?ああっ!?」
「てめぇ、何が言いてえんだオイ」
「あいつらはお前を頼りにしてんの知らねえのか?お前の身に何かあったら……あいつらはどうなるんだ!?」
「そんなもん、ユノンがいる。あいつの能力なら俺がいなくても十分やってけるさ。テメェは俺を心配する暇あるんなら銀河連邦ぐらい、一撃でブッ飛ばす兵器を作れってんだ!」
サイサリスはさらに苛立ち、空いてる左拳を上に掲げた。これは明らかに彼を殴ろうとしている動作だ。
「てめぇの頭イカれてんじゃねえのか?お前をボコってその思考変えてやろうかオラァ!?
お前はエルネスの親友だから優しくしてるだけであって、ホントならお前の命など知ったこっちゃねえんだぜ?」
「ならそれでいいじゃねえか。余計な心配すんなって何度もいってんじゃねえか!」
「……お前、ユノンちゃんが好きなんだろ?あの娘が好きなのに、なんでそんなに死に急ぎたがるんだ!?」
「…………」
さすがのこればかりは、ラクリーマもなにも言えなくなってしまった。しかし、ラクリーマは体をぶるぶる震わせている。
「……るせえよ。俺の……何が分かるんだよ!!」
「な! ?」
ラクリーマもついに怒りをぶちまけ、その驚異的な握力、腕力でサイサリスの首元をグッと掴み上げた。
「ぐぐっ…ぎぎ…っ」
「俺はいつ死んでもいいように全力で毎日を生きとんのじゃあ!!ガキんときからずっとな!!それをお前に言われる筋合いはねえんだコラぁ!」
ついに圧倒され、今度は彼女が窒息しかかり苦しがっている。
「それになあ、こうでもしねえとエルネスやラン、いや今まで死んでいった仲間に対して申し訳たたねえんだ!!あいつらを死に追いやった原因は……これも全て不甲斐ねえ俺にあるんだからよぉ!!」
叫んだその時、彼の身体中にまた激痛が走り、彼はその場でうずくまった。
「ぐう……!」
彼女もやっと手を放されてドサッと座り込む。
「見ろ……てめぇ、戦闘訓練のケガだけじゃねえ、これまで身体を酷使してきた分無理がたたりすぎて身体中にガタがきてんだよ……。
一番、体を大事にしねぇといけねえ立場のお前が、そんなんでアマリーリスのリーダーをやっていけるんか……?」
「…………」
サイサリスは痛みで震える彼の肩に手を置いて、なだめるような口調でこう言った。
「なあラクリーマ。理由がどうあれ、自分自身をいたわれ。部下のことは気にしなくていいんだから自分の思う通りに命令すればいいんだ。
あたしらはどう転んでも、自分たちの意思でお前についていくし……それほどの信頼と器がお前にあるんだぜ」
助言を受け、ラクリーマはフッと鼻息を出し、笑う。
「……心配すんな。別に今すぐ死にてぇわけじゃねえよ。ユノンに告るのもあるが、俺にはまだしねぇといけねえことがあるんでな。ランの……」
「ランちゃんの……?」
ラクリーマはゆっくり立ち上がり、ふらふらと部屋のドアに移動した。
「……せっかく話をしに来たのに喧嘩沙汰にしてすまなかった。お前も非番だろ?ゆっくり休んで、そして早くあの2つを完成させてくれよな!」
そう言い、ラクリーマは部屋から出ていった。彼女は立ち上がり、ソファーに座ると、またコップに酒を入れる。コップを持ち、ちひちび啜るように飲んでいく。
(ラクリーマ……あいつもすっかり変わったもんだ。以前はガキ臭くてアホだがそれ以上に可愛いげのある奴だったのに……これもリーダーとしての責任を感じて……エルネス、どう責任とるつもりだ。あいつ、このままじゃあ取り返しのつかねえことになるぞ)
彼女はコップをテーブルに静かに置くと、横にある設計図を見ながら溜め息をついた。
「はあっ……これじゃあ、あの2つの能力を100%引き出すのは無理だな。現状のあいつにゃ、使いこなせねぇ代物だ。治す気なさそうだし……どうするんやら……」
◆ ◆ ◆
数時間後……。
「う……ん……」
ユノンは目を覚まし、ベッドから起きあがった。
……全く記憶にない。何をしていたのだろうか……、全く思い出せなかった。
「…………?」
下着姿でキョロキョロ辺りを見渡す。いつも通りに周りは整頓されている。
……酒を飲んで、そして煙草を吸いに行った所までは覚えている。しかし、そこから何をしたか全く思い出せない。
「……そう言えば、あの子を呼ばないと……」
立ち上がり、ふらふらとデスクに向かうと丸い球体の形をした通信機に触れた。
しばらくして……。
『地球人のしずか、副リーダーがお呼びです。直ちに部屋にお越しください。繰り返すーー』
艦内にこのような放送が流れ、ほぼ全員がビクッと体をひきつった。
『なにやらかしたんだ……?』
それしか思い浮かばなかった。
しかし、その呼ばれた理由はしずかはよく知っていた。
「…………」
しずかは急いでユノンの部屋に向かっていた。しかし、彼女は非常に不安な顔をしていた。
なんせ、あの大浴場の一件でユノンに恐怖を抱いていたからである。
『慎重に行動しないとタダではすまない』と考えていた。
そして、しずかは彼女の部屋の前に立ち、大きく息を吸って心を落ち着かせた。
(こうなったら……行くしかないわ……)
「失礼します!」
ドアが開き、背筋を伸ばしてキチキチとぎこちない歩き方で入った。
前を見ると、ソファーに肘を持たれて座る彼女が飄々とした態度でしずかを見つめていた。
「こんにちわ、しずか。あの約束を果たしてもらおうかしら……?」
「…………」
ユノンは威圧をかけてくる。そのせいでしずかは恐怖からか身震いし、血の気が引いていた。
「ふふっ、ここに座りなさい」
「…………」
しかし、緊張で何もしゃべらないしずかに対し、ユノンは彼女を威嚇するかのように睨み付けた。
「返事ぐらいしなさい!」
「はぁっ、はいっ!!」
びっくりし、慌てて大声を上げ、ユノンは呆れて溜め息をついた。
「……緊張してるからと言って、目上の人が話をして、返事を返さないのは失礼極まりないことよ。覚えておきなさい」
「……はい……」
と、アドバイスしてしずかを前のソファーに座らせた。
「緊張しなくていいわ。ただ、あなたと女同士の話をしたいだけよ。何か飲む?」
「いっ……いえ……」
「そう。遠慮しなくてもいいのに」
そして彼女らは対面した。
「……」
「……」
全く二人とも喋ろうとしない。時間だけが何秒、何十秒と流れていく。
しかし、しずかからしたら一秒一秒が長く感じるのだった。
……二人の誰かから話さないのは話題がないからなのか、それとも……。
「……あなた、あの時何か言いたかったのでしょ?喋らないの?」
「……そっ、それは……」
しずかは何を言おうとしていたか忘れていた。今思えば、どうでもよかったかもしれない事だと思えてきた。
……それにしてもなんだろう、この空気、雰囲気。
もし、相手がラクリーマやレクシーなら自分から進んで話をできるのに、彼女だけは……。
それはそうだ、彼女は彼らとは正反対の雰囲気を持つ女性だ。
悪く言えば、このような組織では絶対に浮いてしまうような存在なのだ。そして、しずかをあることに疑問を抱いていた。
「……もういいわ。ならしずか、あたしに聞きたいことがあったら質問して。答えられる範囲内なら答えてアゲル……」
それを聞いたしずかは待ってましたと言わんばかりに彼女にその疑問を話した。
「……ユノンさんは、どうしてこの組織に入ろうとしたんですか。自分から進んで加入したんですか?」
「…………」
ユノンは黙り込んだ。もしかしてあまり教えたくないのか、徐々に顔を歪ませる。
「……その質問の理由は?」
「理由……ですか……。何か……あなたはここの人達からしたら違う雰囲気ですから、失礼な話ですけど……いやっ、そうゆうわけではないんですけど……なんかですね……」
完全にテンパっている彼女を可愛く思えたのか、ユノンはクスッと笑った。
「……いいわ。その質問でいいなら教えてあげる。あたしはね、まだ故郷の惑星にいた時、侵略されたのよ。このアマリーリスにね」
「え……っ」
しずかは信じられないような顔をした。
(侵略……ならユノンさんも被害者……?けどそれならその時に殺されているのでは……)
ユノンはさらに話を続ける。
「その時、惑星一の名門大学を首席で卒業したばかりで確か……あれは約3年も前になるわね……」
ユノンはあの頃を思い出す。しかしそれは同時に、彼女からしたらとても苦い過去であった――。