「今日、いっしょに飲みに行かない?」
「…………」
街中でチャラチャラした男に声をかけられる一人の女性。
緑色の髪に頭上に生える尖った耳、そしてこの上ないほどの美形の顔、背が高く、スラッとした理想の体格、どんな男性からでも狙われそうなモノを持つ女性。そう……ユノンである。
「…………」
彼女は返事すらせず男から去ろうとする。
「ちょっと待ちなって。キミみたいな美人と仲良くなれたらなって……」
「…………っ!!」
見るもの痛々しいほどに、彼女は男の局部を蹴りあげた。
「ブハッ!!」
男はその場に倒れて悶絶、額には脂汗が出ていた。
「…………」
ユノンは男を睨み付けて、その場から去っていくーー。
「ちくしょ……覚えてやがれぇ!」
周りの通行人はそんな彼を見てクスクス笑っていたのだった。
よく見ると、全員の頭にはユノンと同じく犬の耳を生やしていた。
◆ ◆ ◆
セクターα内の2号星、『惑星ドグリス』。ここは主に犬の血を引く知的種族『ドグリス人』が存在している惑星である。
彼らの特徴は共通して聴覚、嗅覚が優れて、なんらかの一能力が高いことである。
例えば、瞬発力が優れるとか、知能が優れる、腕力が優れるなど、これだけなら地球人とかわりないが、違うところはその一能力が地球人を遥かに上回るほどである。
実は発達した科学技術を除けば、地球を真似したとしか思えないほどの類似している。
簡単に説明を入れれば、環境はもとい、政治、思想、宗教、貧富、人種……等が種族独特ではあるが、根本的には地球での内事情と変わりない。
それに伴い、人間環境も地球人と同一性を持ち、建前と本音は当たり前、差別やいじめ、そして自殺など、心に潜む闇もまた存在するのであった……。
ちなみに地球よりはおろか、惑星モーリスよりも遥かに凌ぐ科学技術を持つが、銀河連邦には加盟せず、警察、軍隊で惑星を治安しているのである。
ここは、その惑星のアメリカと同じ座標に位置する巨大体陸『リューベン』の真ん中から西側にある大都市『ユマ』。
彼女は自分の通う大学の寮に帰って自室に入る。鍵をかけて、きちんと整頓されたデスクでまた勉強を始める。
……彼女の年代なら可愛いぬいぐるみやオシャレな家具など置きたくなるハズだが、彼女の部屋には全くない。
あるのは、来たばかりに配置してあるベッドとテーブル、そして勉強に使うデスクだけだった。そして見ただけで狂いそうになるほどの教本とテキスト、大学レポートの山のみである。
いくら勉強好きでも、ここまでくるとさすがに異常だ。
「…………」
飄々とした態度で勉強に励む彼女。休日と言うのに遊びにいかずにひたすら頑張っている。
……実は、友達がひとりもいないのであった。
大学に通うなら普通に友達一人や二人はできるハズであるが、全く輪に入ろうとしなかったのであった。
彼女にとっては、友達ということに興味を持つこと、いや、人と馴れ合う自体、この上ウザく思っていた。
彼女が大学に入った理由も、『勉強するため』。決して、楽しいキャンバスライフを送るためではなかったのだ。
……ゆえ、同級生たちからは敬遠されて、変な噂までつけられる始末。
しかし、彼女は全く気にしなかったのでどうでもいいことなのであるが。
「……ふう」
数時間経ち、彼女は立ち上がると、自室の冷蔵庫から飲み物の入った缶を取り出した。
……酒である。中央のテーブルに持っていき座ると、開けてグビクビ飲み始める。
彼女を癒してくれるのはこれぐらいである。
しかし、段々飲んでくると妙な虚しさや淋しさがやってくるのであった。
そんな時に彼女を癒す……いや、安心させてくれるのが……。
『プツ……プツ……っ』と彼女は手首をナイフで軽く切り、切り口から少量の血液がにじみ出た。
(こうでもしないと安心できないわたしは……やっぱり気持ち悪い女だ……)
なにもしていないのに罪悪感でいっぱいになり、うずくまり涙を流し始めるのであった。しかし、彼女はこうすることで幾分、救われるような気がするのであった。
これが彼女の日常である。今でこんな状態なのだから、それまでどんな生活をしてきたのか、大体察しがつく。
彼女は幼年期から心を閉ざしたまま、成長してしまったのだから……。
――大学内でも。
「君、僕らの研究会に入らない?」
同年代の学生から、こういう誘いを受けても、
「…………」
一言も喋らず、『関わらないで』と言っているかのような嫌そうな表情で見た後、学生から離れていく。
「……あの子やめた方がいいよ」
「どうして?」
「だって無口だし、暗いし、勉強にしか興味なさそうだし。
あと、なんか人を見下してるような表情するしムカつくんだよ。自分が美人だからって調子に乗ってるんじゃね?」
「うんうん。話しかけてもうんともすんとも喋らないし気味が悪いんだよね。まあ、この上ウザいのは間違いなし!」
「あ~あっ、死ねばいいのに……」
……言われ放題だ。日本の学校でもありそうな人間関係だ。
しかも様々な土地の優秀者で集まったこの大学でそう言われるということはタダゴトではない。
周りの人からの印象は『頭は申し分なく素晴らしいが、社交性、協調性が壊滅的』、『勉強にしか興味がない引きこもり女』、『一生独身』……等々、ひどい有り様だ。
それでよくこの大学に入れたと言われることがあるが、彼女の学力は非常に高い。
推薦が通り、入学することができ、学費は特待生なので学費を免除してもらうことができたのだ。
「…………」
喫煙所で一人でタバコを吸っていっても、
(あんな美人が汚ならしい煙吐いてさぁ、みっともないね……)
(ほんとほんと、幻滅だな…)
ひそひそ話で悪口で言われるのだから、堪ったものではない。
「…………!!」
彼女にはしっかりと聞こえていたので、その二人をグッと睨み付ける。
「…………」
二人はそそくさと去っていった。
彼女はまた何食わぬ顔で吸い続ける。
(自分に居場所がない。この惑星一の大学に来たってのに全くこれまでと変わらない。みんな、あたしを嫌うんだ、あたしを不気味と思ってるんだ。だって……)
……と、またこんなことを考えてしまうんだから、また部屋に戻り、また『プツ……プツ……っ』と切ってしまった。死にたいわけでもないのに。しかし、こうでもしないと安心できない、落ち着かない。
自分の血を見ないと安心できない暗い女、あの母親と同じ、タバコと酒でないと満たせないうす汚い女……。
彼女はいつも憂鬱であった。
◆ ◆ ◆
そして、大学を卒業。しかも首席で、というとても輝かしい栄光であるが、彼女は全く嬉しがることもなかった。
それは、この先どうするかで悩んでいたからだ。
彼女はこれといったやりたいことがない。
学者になりたいわけでもなく、就職にしてもこんな性格ではどこも雇ってくれないだろう。
現にバイトでさえ、ことごとく落とされてるのに就職など不可能に近い。
そんなわけで、彼女は近くの公園のベンチで黄昏ていた。
これからどうしようかと……自分の育った施設に……いや、大人になって、また戻るなんて……、いや、そんなこといってる場合ではない。
人脈などない彼女は寄りすがる相手などなくあまり金がない。このままではホームレス……しかし、それだけは避けたい。しかし金がなく、行き場所すらない彼女はどうすればいいのかわからなかった。
(……あたしって情けないなぁ。一体なんのために大学に行ったんだろう……?考えてみれば、必死に勉強してきたのもただ虚しさを埋めるためだったからなぁ……。こんなくだらない人生になるんだったら、あの時死ねればよかったのに……)
夢も希望もない彼女とは無関係にただ時間だけが過ぎていくーー。
「あの女だ……!」
……しかし、そんな彼女を遠くから謎の男3人が彼女を見つめていた。
「……見つけたぜ。あの時のお返しをたっぷりさせてやる。お前ら、ショータイムだ!」
男達を仕切る一人はどこかで見たことのある顔であるが……。
――その夜、彼女は街を歩いていた。
しかし、目的地など何もない。 ただ、無意識にフラフラとさ迷っていた。
「…………」
同期生は皆、夢があり、それぞれの道を歩み始めた。しかし、彼女はそれがない。卒業してしまったため、もう寮には戻れない。と、いっても行くあても帰る場所もない。
イルミネーションが輝き、夜であるにも関わらずまるで昼間のように明るい。
町中には様々な人や車が行き通り、恋人達や会社員、いまから遊びに行こうとしているのか、若者達がワイワイ騒いでいる。
……彼女にとって非常に苦痛である。彼らを疎ましく思えてくるのであった。
(……バカにしてるのか?)
普段の光景も、今の彼女からしたら腹立たしくなるのであった。
しかし彼女が怒ろうと何だろうと、何の意味の示さない。
そうして段々、自分が情けなくなっていくのである。
……彼女は人気のない街の河川沿いを歩いていた。
今日は月が出ていないが、街灯があるため幾分明るい。
(生きてても何の希望も夢もない……けど、死ぬ勇気もない……どうすれば……)
ユノンは考えていた。
ーー突然、
「!?」
何者かが彼女の背後を取り押さえ、口から鼻にかけて白い布を押し当てた。
「…………!!」
彼女は必死に抵抗するが、次第に強烈な睡魔が襲い、そして――。
「……動かなくなったぜ。ならこいつを運ぶか……」
あとから数人の男が眠りについた彼女へ駆けつけて、持ち上げた。
近くにある車のトランクに入れてその車は走り去っていった。
◆ ◆ ◆
「!?」
彼女は目を覚ました。しかし、何も見えない、体が動かない。
何か手錠みたいなもので束縛されているかのようだった。
「~~~!!」
口に何かを入れられて、声も発すことも許されない。徐々に彼女を恐怖感が襲いかかる。必死で抜け出そうとするが、彼女の力ではそれは敵わなかった。
「……やっとお目覚めか」
男の声が聞こえ、真っ暗だった視界に光が入った。
「ようこそ」
彼女の目の前には、4~6人の男がニヤニヤと笑いながら彼女を見つめている。目の前の男は以前見たことのある顔だ。
「……あの時はよくも俺の大事なトコロを蹴りあげてくれたな。その礼はたっぷりとさせてもらうぜ」
その男は1、2年前に彼女のキツい攻撃を喰らったあのチャラい男であった。彼女はハッと思い出したのだった。
……部屋全体がコンクリートに覆われ、周りは何もなくどんよりとした空気が立ち込める空間だった。
後ろには廃材と化した金属製のベッドがあり、彼女はフットボードに手錠を巻き付けられて、動けなくさせられていた。
「ああっ……」
無口だった彼女も恐怖からか、ついに声を出してしまう。
「へえっ、なかなか可愛い声してんじゃん?楽しみがいがあるなぁ」
「……いやっ……イヤっ!!」
これから起こるであろう最悪の事態に察知し、震える彼女を男達は興奮し、追いつめていく。
「……あとで、飢えた奴らがいっぱいくるから楽しみにしてな……。まず俺らで楽しもうか……」
「ああっ……ああっ……」
男はナイフをとりだし、彼女の顔にちらつかせた。
「へへっ、ションベンでも漏れそうなのか?」
「だっ……誰か……助けてーーっっ!!」
彼女は叫ぶが、全く意味を介さず辺りにこだまするだけであった。
「今さら叫んでも誰もここにこねぇーつーの!」
「こんな気持ち悪いところになぁ!!ギャハハハハハっ!」
「ここはナァ、何年も前につぶれた病院なんだ。しかも街から離れた場所にあるから誰もいねェんだよ」
「…………」
それを聞いた彼女は絶望のドン底に突き落とされ、無気力となってしまった。
「……諦めたか。ならおっ始めるか……」
「へへっ、物凄くかわいいからさぞかしヤりがいがあるだろうな!」
男の一人が彼女の口元を押さえて、こう呟いた。
「緑色の長い髪……かわいいよ……」
「……!!」
その言葉が、彼女の顔色を徐々に青ざめた表情に変貌していく――強烈な嫌悪感と吐き気に襲われて……。
「ぐ……ぅ、げええっ!!」
「うわあああっ!!こいつゲロ吐きやがったぁぁ!」
「汚ねぇっ!!」
そこで粗暴してしまい、物凄い臭いと状況にこの部屋内は大混乱と化した。
「…………………っ」
ユノンは気を失った。しかし、男達の怒りは頂点に達していた。
「このアマ……こんなトコで吐きやがって……許せねえ!」
その男はナイフを彼女の方へ向けて、中にいる全員にこう叫んだ。
「こんなゲロ女にはもう萎えた、殺せ!!」
全員が一斉に襲いかかる。しかし彼女は全く起きる気配がない。男達の振り上げた拳やナイフが彼女の頭上に振り下ろされようとしていたーー。
突如、
《ズオオォオオっ!!!》
「うわああああっ!!」
聞いたことのない爆音がこの部屋へ響き渡り、男達は驚き、部屋を出ていった。近くの窓から顔を出して街の方を見ると……。
「うそだろっ…………?」
なんとさっきまで何ともなかった街が一瞬で火の海と化している。これは一体……?。
「な、何が起きているんだ!」
「街へ急ごう、こいつはもうほっとけ!」
全員は彼女をそっちのけで去っていき、彼女は取り残されたのだった。
しかし、彼女は気を失ったままで動こうとしなかった。
◆ ◆ ◆
「う……ん……」
気がつき、彼女は目をゆっくり開けた。だが、
「え……っ?」
目を疑った。賑やかだったあの街が跡形もなく廃墟と化して所々建物に火炎が上がっている。よく見ると、辺りには無惨な死体の山が散乱し、まるで地獄のような光景であった。
そして、周りにいるのがあの男達ではなく全員が様々なタイツのような服に身を包んだ謎の男達でその容姿はドグリス人ではない、異星人だ。
(なっ、なによこいつら!?)
謎の男達に取り押さえられて振りほどこうとしても圧倒的にこいつらの方が力は上で動けない。
「ほお、目覚めたか。大人しくしときな」
それより全くワケが分からない。何が起こったのかさっぱりだ。
「へへっ、こりゃあ上物だ、リーダーはきっと喜ぶぜ」
「ああっ。もうこの惑星全土を焼きつくしたからすぐに戻ってくるだろう」
惑星を焼きつくした?こいつらは一体何を言っているのか。
「けど早くしねえと銀河連邦がやってくるぜ。いくら加入してねえ惑星だからってエネルギー量で感知されるからな」
「ああっ、俺達アマリーリスがここで捕まるわけにはいかねえ」
……アマリーリス?聞いたことのない名前だ。まさか街がこんなことになってしまったのもこの男たちの仕業か。
「おっ、リーダーが帰ってきた」
向こうから男の群れがこちらにやってくる。合流すると笑顔で彼らを迎えた
「お帰りなさいっス。どおっスか、そっちは?」
「もう生存者はいねえよ。惑星軌道上から全砲門ぶっぱなしたからな、あの時点で壊滅だ」
ユノンはリーダーと呼ばれる男を見た。ぼさついた銀髪に顔にはおびただしいほどの切り傷。筋肉隆々の身体が黒いタイツから浮き出ている。しかし若者特有のはち切れんばかりの精気で溢れている。そう……ラクリーマであった。
「ん?どうした、この女?」
「ここからずっと先にある廃墟の一室で束縛されてました。気を失ってたみたいですけど」
彼はしゃがんで彼女を見つめる。
「…………」
「…………」
これが二人の初めての対面である。不敵な笑みを浮かべているラクリーマに対し、彼女は……。
(な、なんて殺気と威圧感なの……さっきの奴らとは比じゃない……っ)
彼から感じるモノ、それは恐ろしいものであった。笑っているが、その奥からは何か狂気じみた何かを感じる。
「……べっぴんじゃねえか。束縛されてたってことは、ヤられる前だったってわけか。なら俺が代わりに……」
すると、
「リーダー、生き残りを発見しました!」
向こうから、彼の部下達がある男一人を連れてきたのだった。部下達は男を地面に叩きつけて、足蹴にしている。
「ちくしょう!!おっ、俺らの仲間を全員殺しやがってぇ!!」
その男は、彼女を襲おうとしていたナイフを持っていた中心人物であった。しかし、彼も戦闘員達にボコボコにされたのか酷い有り様である。
ラクリーマはその男に近づき、髪の毛をグッと掴んで睨み付けた。
「かわいそうに、大事な仲間も殺されてなあ。けど安心しな、俺がお前を今すぐ仲間の元へ向かわしてやるからな」
「へっ!?」
威圧をかけ、男は徐々に口を震わせている。
こんな恐怖を味わったことは今まで一度もなかった。
「ああっ…………助けてくれ……っ」
「助けてくれ?無理だな」
「ええっ……?」
許しを乞おうもラクリーマは一切拒否し、金属製左手の甲の先から鉤爪を突出させ――。
《うぎゃあああああぁ――っ!!》
なんてことだろう……。ラクリーマは男の顔の側面に鋭いその爪を突き刺し、円を描くようにそのまま一周、そのまま右手で顔の皮膚を掴むと一気に剥いだのであった。
もはや痛みと言う言葉は形容できないだろう。男は気が狂いそうな悲痛の断末魔を上げた。
「次は目か?耳か……鼻かァ?」
もはやこの男、ラクリーマの行動はスプラッターに登場する殺人鬼のように狂気に満ちていた。次々と各部を剥いでいく――。
「なぁ、ドグリス人てのは元々犬なんだろ?噛みつきとかさぞかし強いんだろう!?てめえら、ちょっと俺の噛みつき見てくれよ」
全員が注目する中、ラクリーマは大口を開けて牙のような歯を剥き出し、まるで猛獣のような目で男を見ていた。
――そして、肉を引きちぎる音と共に男の血が辺りに飛び散り回る。
凄惨の一言でしか言いようがない。
「…………」
ユノンもその光景に目を背け、そして最大の恐怖と絶望を経験した。
『こいつら……人じゃない、鬼だ、悪魔だ』
それしか形容できない。次第に、こう思うようになった。
(次は……あたしだ……)
残虐行為が終わり、彼は飛び散った血液を腕でぬぐっている。
「クックック……さすがリーダーだぜ。やることが一味違うぜ」
「けっ、それはありがとよ。あ~あっ、口んなかと周りが血だらけだぜ。さて、まずは……」
ラクリーマはあの義手の手首からビーム砲全てがせりだし、見るも無惨と化した男【だった物】に狙い定め、そして、
4発の蒼白いビームが直撃し、一瞬で燃え上がった。ラクリーマと部下はそれを見て不気味と笑っていた。
(命を……クズみたいに扱って……何とも思ってないのか……っ)
さすがの彼女も徐々に恐怖から怒りを募らせる。
しかし、今の自分は何もできないという状況に無力すぎて腹立たしくなるのであった。
周りはユノンを囲み、威圧をかけてくる。
ラクリーマも彼女の髪の毛を掴み、無理やり目を合わせた。
「最後に、お前さんはどうゆう死に方がお望みかな?クックック……」
そう聞く彼に対し、彼女は……。
「ぺッ!」
なんと彼女は彼の顔面に唾を吐いたのだった。
「なっ……何よ……あたしはアンタ達にビビると思ったら大間違いよ………っ」
彼女のとった行動と言動は明らかに彼に対する冒涜だ。
部下はそれを許すハズがなかった。
「この……クソアマ……リーダーになんてことを……」
「リーダー、そんな女、八つ裂きにしましょうぜ!」
「…………」
部下に促されるも彼は黙ったままだ。本当は彼の性格なら怒りに怒り、すぐに行動に移すハズなのだが。
「……ど、どうせもう……誰も生き残っていないんなら、あたし一人いてもしょうがない…………殺したきゃ殺しなさいよお!!」
あの彼女がここまで感情的になるなんて初めてのことだ。彼女自身もここまで喋るなんて思ってもみなかったことだ。
「……フフ、てめえのその不屈の根性、気に入ったぜ」
「えっ……?何……?」
ラクリーマは彼女を持ち上げて、声高らかにこう叫んだ。
「よっしゃあ、こいつをエクセレクターへ招待する。お前ら、帰ったら歓迎会だ!!」
部下達と彼女は数秒間、黙り込み、
「え え え っ ~ ~ っ っ !?」
全員が大声を上げて、驚愕したのだった。
さっきまで殺すと言っていたラクリーマが、突然手のひら反したかのように彼女を招くとは。
「いいじゃねえか。考えればこんな美人を殺すのも勿体ねえし。早く帰ろう。連邦が到着する前にずらかるぜ!」
……やはり誰も、彼の真意は計り知れないのであった。