『……やめて!』
彼女は耳を塞いでいる。何故なら、
(気持ち悪いんだよ、そんなに自分の血を見るのが好き?)
(趣味ワリィなぁ~~っ)
(死ねばいいのに!!)
『ううっ……。あたしだって好きでしてるワケじゃない!!
こうでもしないと――!!』
周りには今まで彼女を馬鹿にした奴らの顔が浮き出て、高笑いしながら視線を彼女に注目する。
(へへっ、美人がそんなことして……知られたらさぞかし変な目で見られるだろうな……)
(おいおいっ、やめろよ♪可哀想だろ……ってか、止めれないくせに♪)
(俺達が手伝ってあげましょうかぁ~♪気持ちよくなるために……)
彼女の顔は一気に歪み、このままで本当に心が病んでしまいそうだった。
(チクショォォっ!!どいつもこいつもあたしをバカにしやがってぇぇっ!!全員死ねっ!死ねぇっ、死ねぇぇぇぇぇ!!)
◆ ◆ ◆
目を覚ますと、部屋のベッドの上だった。
「~~~~~っ!!」
休むために寝たはずが返って夢のせいで精神的に異常をきたしていた。反射的にまたカミソリで手首に当てて切ろうとするが……。
「あっ……ああっ!?」
いつもならもう切っているのだが、今の彼女には色々な思念が混ざり合い、思いを遂げるのを遮っていた。
「ハァ……ハァ……っ」
カミソリを床に叩きつけ、腕に歯形がつくほど噛みついた。
(気持ち悪い、そんなのわかってる!)
また涙を流してしまった。彼女は自分が一体何がしたいのかわからなくなってしまっていた。
「よお、起きてるかぁ!?」
「! !」
レクシーが起こしに部屋へ入る。彼女は汗だくで青ざめた顔をしていた。
「おっおい、どうした?大丈夫か?」
彼の気遣いに反して、彼女は挙動不審そうな視線をしながら頷いた。
「……ならいい。もう作戦開始だからいくぞ!」
そういえば別の惑星を侵略するってラクリーマが言っていた。
彼女は今思い出した。
「起きたなりで悪いがついてこい。格納庫に案内する」
今日の彼の声は恐ろしいほどに怖かった。昨日のような優しそうな柔らかい声ではない。
それは目標惑星の住民にとっては惨劇となることを物語っていた。
彼女は言われるままにレクシーについていく。彼は全く喋ろうとしない、それは今から始まる仕事に集中している証拠であった。
「…………」
彼女は歩きながら、左腕をギュっと握っていた――。
――長い通路を抜け、二人がやって来た場所は戦闘ユニットの格納庫であった。
(うわぁ…………)
彼女の口は空いたまま塞がらなかった。無限と思えるような無機質の空間には横にズラっと統制されて配置している、全長20メートルはあろう白色の巨大ロボットが何十、いや百は越える数が並び、全体が赤色のさまざま兵器が搭載してそうなフォルムを有する戦闘機がやはり、それらと平行になるよう並んでいる。
(すごい……初めて見たわ……)
驚きを隠せないユノンに対し、レクシーは自慢そうな表情で彼女を横目で見た。
「すげえだろ?あの巨大なメカは『スレイヴ』ってんだ。けど、今回は惑星侵略だからこの『ツェディック』を使用する、早く乗るぞ」
レクシーに連れられて、『ツェディック』と呼ばれる例の赤い戦闘機に乗り込んだ。
『パチっ……ウィーン……』
不思議なほどに広く感じる操縦席に座り込むとセンサーが反応して自動的に起動した。
しかし、レクシーは目の前の操縦幹を握ろうとせず、モニターに目を通していた。
『戦闘員、配置は完了したか?』
モニターに映るのはラクリーマであった。どうやら彼も別の同機体に乗り込んでるようだ。
「89号機レクシー、配置完了しました」
その旨を伝えると、突然ラクリーマはニヤっと笑った。
『レクシー、ユノンはいるか?』
「へい、隣に着座させてます」
『そうか、ちょっと変わってくんねえか?』
「了解。おい、リーダーがあんたに話があるそうだ」
レクシーが前のボタンを押すと、彼女の前にあるモニターが起動した。
彼女はそのモニターを見ると、ラクリーマはいかにも楽しそうなウキウキ目をしながら彼女を見ていた。
『よお、ここでの朝のお目覚めはどうだ?』
「…………」
悪いに決まってる。こんな状況且つ、あんな夢を見たのなら。
『……あんまり良さそうじゃねえな。まあ、それもあと一時間後にはキレイさっぱり吹っ飛ばしてやる。もしかしたら新たな快感味わえるかもよ、破壊や殺戮によ?』
「…………」
この言葉が彼女をゾッとさせる。この男は異常な神経を持っている。
『よし、あと30分後に目標惑星に到着するぞ、それまでは待機だ。ユノン、それまでレクシーに聞きたいことがあったら好きなだけ聞いとけ、こいつは真面目だからちゃんと受け答えしてくれる』
そう言い、彼は通信を切ってしまった。
「…………」
「…………」
……案の定、全く喋ろうとしない二人には非常に気まずい空気に包まれていた。
(喋った方がいいのかな……。けど……何を聞けば……)
質問内容を見つけようとして考えようとモジモジしている彼女を彼は急にため息を突きだした。
「そんなに気を使わなくてもいいさ。まあ、あんたのその性格だとしょうがねぇのかもしれんが、そんなんじゃあここではやっていけねえぞ。全員のノリはハンパじゃねえからな」
――てか、もう自分をここに入れる方向に進んでいる。彼女の意思とは無関係に前に行くのは何か腹立たしかった。
ついに、
「……ねぇ……?」
「おっ、ついに喋ったか。どうした?」
声は小さかったがユノン本人から話しかけたのだった。
これは自分でも驚いている。
「……確か……アマリーリスって名前よね……。凄い技術……使ってるようだけど……どっ…どんなエネルギーを使用してるの……?」
「いきなりエネルギーの話か?あんたはそれ関連のことに詳しいのか?」
「ええ……まあ……」
「なら話は早い。アマリーリスの技術を支えているのはNPエネルギーってもんだ」
「NPエネルギー……ですって……」
彼女は驚愕した。
「知ってるのか?」
大学の授業で聞いたことがあるとてつもない産物。けど確かあれは銀河連邦が独占していて他の種族には使えないハズでは……。
「――くくっ、美人で且つ頭がいいなんて恵まれてんな。羨ましいぜ。あんたがここに入ってくれればもしかしたら――」
「えっ……どうゆう……」
「――もうそろそろ始まるぞ。まず惑星に主砲撃ち込むから、揺れに気を付けろよ」
「主砲……?」
そしてまた、モニターが入り、彼が画面に現れた。
「目標惑星に到着した、すぐさまリバエス砲を撃ち込む。各員、衝撃態勢をとれ」
「了解!」
レクシーはすぐさまベルトを締め始める。
「あんたも早くベルトを締めろ。もう行くぞ!」
「えっ……ああっ……」
言われた通りにすぐに締め、身体を固定する。
次の瞬間、格納庫が地震の直撃を喰らったかのように震え出した――。無論、戦闘機内部である。
「きゃああっ!!」
揺れに翻弄されて彼女に対し、彼は全く動揺せず、落ち着いていた。
これは彼、いやここにいる全員にとって日常茶飯事であることを物語っていた。
……数十秒後、揺れが治まり、全体が落ち着き出した頃、
「~~~~~っ!!」
「……初めてなら無理もないか。だが何回も味わえば、じきに慣れるもんさ」
ユノンはまるで二日酔いにあったかのように頭を押さえてうずくまっていた。生まれてきてからこれほどの震動は味わったことがなかった。
しかし、その横でピンピンしている彼の姿に唖然とした。
『やっぱりこいつらはおかしい』と心底思うのだった。
『よおし、惑星に主砲を撃ち込んでほぼ壊滅状態だ。俺がいつも通りに先頭に出る。順番に発進だ!』
「了解、よし出るぞ!」
慣れた手つきでパネルを操作した後、操縦幹を握りしめた。
前方を見ると、格納庫の出入口が全部閉まり、ターンテーブルのように全機体が回転、壁の方に向く。すると壁が上下に開き、一機分が通過できるほどの空洞が現れた。
「ツェディック89号機、発進!」
「っ…………っ!」
急発進し、物凄いスピードで空洞を駆け抜ける。
その内部衝撃も、ベルトや気を緩めたらたちまち体ごと吹っ飛ばされそうだ。そして、宇宙空間に突入。速度も安定し、広大な光景を前にしているにもかからわず、彼女はそれを見る余裕はなかった。
「ううっ……気持ち悪い……」
「おいおい、ここで吐くのはホントにカンベンしろよ。深呼吸して外でも見てろ」
言われた通りに大きく息を吐き、横のウィンドウを眺める。
……まともに見る初めての宇宙空間はどんな心境だったんだろうか。彼女はまるで心を奪われたかのように見つめている。
「ユノン、逆を見なよ。俺らの母艦だ」
「…………えっ?」
次の瞬間、彼女は息を飲むことになる。一面の白銀がどこまでも続いている。前を見ても船首か船尾か分からないが、とにかく終わりが全く見えないのだった。――その方面の上を見ても下を見ても宇宙空間らしきものが全く見えない。
――この宇宙船……とてつもなく巨大だ。彼女は確信した。
「デケェだろ?」
「………………」
頷くしたできなかった。表現のしようがない。「デカイ」しか思い浮かばなかった。
「なら、惑星に向かうぞ。大気圏突入するから、また衝撃に備えろよ」
またか……さっきの気持ち悪さがまたぶり返ると思うと気が引けてくるのであった。
……そして、やっと船首を突き抜け、惑星が見えかかった時、
(……ああっ……なんてこと……)
彼女は惑星の凄惨さに思わず口を押さえた。丸い表面の3分の1がなくなっている。どういう風に?そのままの意味である。
巨大な丸い石をハンマーで叩きしたらその上の部分が割れたように例えるのが分かりやすい。そんな感じだ。この有り様では直撃を外れた惑星内の土地は壊滅的な被害を受けているに違いない。
『よし、惑星に降りるぞ。作戦の通り、今回はチームに分けないで固まって行動だ。着陸したら各員は俺を中心に周りを散策だ。降りる場所は一都市だが、そんなに大きくはない。すぐに終わらして別の場所に移動するぞ!
ちなみにレクシー、ユノンがいることだしお前は俺と一緒に行動な。保護しながら俺をサポートしてくれ』
「うっす!……つうワケだ。俺らから、はぐれんじゃねえぞ?いいな?」
「…………」
今から何が起こるのかは分からない。しかし、絶対地獄の見るのは確かだ。
元々、強制的に連れてこられた彼女からすればトラウマを植え付けられるかもしれない……喉が乾く、唇も乾く、まだ二十歳の女性がなぜこんな目に遭うのかと思いたくなる。
――思えば生まれてきてから全くいいことがない、空虚で不幸な人生だ。今に始まったことではないが彼女はもう、泣きたい思いである。
そしてラクリーマ率いる戦闘員の搭乗する各機はその惑星に突入していった。
◆ ◆ ◆
激震する惑星内、主砲の一撃でどれだけの命を奪ったか計り知れない。
しかし、直撃圏内でない土地も多大な被害を受けていた。
地形が大幅に変わったことにより、地震、津波などの二次災害も発生し、平和な世界が一瞬で終わりを告げたのだった。
惑星内のとある土地の上空、黄緑色をした空をしたなんとも奇妙な光景である。
しかし、雲がないことからこの周辺は快晴であることをしめしていた。
『ここに降りるぞ、降りたら俺の合図で出てこい、そこから作戦開始だ!』
「ユノン、聞いたか……って」
彼女は完全にへばっていた。体を鍛えてない彼女には度重なる衝撃の前にはいくらなんでもきつすぎたのだった。しかし、彼はもういい加減見飽きたのか、歯ぎしりを立てだし……。
「シャキッとしねえか!!」
突然の渇に彼女はビクッと起き、ひきつった顔でレクシーを見た。その時の彼の表情は威嚇しているような恐ろしい顔だった。
「いい加減にしてくれ!あんたがそんなんじゃオレのやる気も失せる。守られるお前はまだしも、俺はお前を守りながら行動しねえといけねえんだぞ!」
「~~~~~っ!」
――私を勝手に連れてきたくせにその言い方はなんだ――。
反論したい、一発殴ってやりたい……ところだが、見ての通り、ここは上空だ。事故を起こしたら墜落して完全にあの世行きだ。
しかも、彼は武装をしている。興奮させてケンカ沙汰になれば、丸腰の自分では明らかに勝ち目はない。
彼女は震える手をギュッと握りしめて何とかこらえたのだった。
……降り立った場所は、この星にとっては『都市』と言える場所であった。
が、地震のあったせいか、見るも無惨に倒壊した建物があちらこちらにたたずんでいる。
全機を着陸させる広大な場所が見当たらないため、彼らは上空を飛び回っていた。
“各機へ、今からXK方位の50メルト先の所に光子ミサイルを撃ち込む。退避しとけ!」
彼の命令に、各機はラクリーマの乗る機体から散開する。
『ターゲットロック、ハデにぶちかましてやる』
紅の戦闘機ツェディックの二分割された機首の砲口にエネルギー粒子が急収束、瞬間に巨大な蒼白色の光弾が放たれ、50メートル先にある、郊外と思われるあまり建物の密集していない土地に向かって弧を描きながら飛んでいき、着弾。半球体に膨張、回りにある物質全てを包んでいく。
光子ミサイルはNPエネルギーを高密度に凝縮し、発射する光学兵器で、威力は使用する機体に内蔵するNP炉心のエネルギー出力に比例するが、地球における核兵器かそれ以上の破壊力を持ち、エクセレクターやヴァルミリオンなどの戦艦級ともなれば一発だけでも戦略兵器級の威力を持つ。
恐ろしいことに、それが銀河連邦、アマリーリスなどのNPエネルギーを使う組織には標準装備であることだ。実はNPエネルギーが産出される前にもこの兵器は存在したが、そこまでの威力は生み出せず、射程距離が短く、エネルギー出力の関係上、使用する機体も限られていたため難航をきわめた兵器であった。つくづくNPエネルギーとは本当に素晴らしいと認識できる。
その光子ミサイルを装備した機体、ツェディックはサイサリスが開発したアマリーリスの汎用型戦闘機である。操縦性は少し難があるが、性能は非常に高く、武装面も強力なNPビーム砲、多連装ミサイルポット、エネルギーを弾丸として発射する機関砲など充実している。しかし武装ゆえに後方支援向きであり、前線ではもう一つの機体である人型戦闘ロボット(通称、戦闘ユニット)、スレイヴが担うことになる。
――数十秒後、光の膨張が今度はしぼみはじめ、眩しくて見えなかった着弾地点がやっと直視できるようになった。
そこにあった建造物や森林、道路などの「元々あった」物が全て消滅していた。あるのは最低1平方キロメートルはあう広大な何もない平地であった。
『よっしゃ、あそこに着陸するぞ』
そして全機がそこに向かい、次々と着陸する。全機が各配置し終えた時、ラクリーマは待ちわびた今から始まるであろう「自分たちの仕事」に対しての笑みを浮かべて……。
「全員、行くぞ!!作戦開始!」
《オオーッッ!!》
一斉に戦闘員達が降り出し、レクシーも彼女を引っ張るように降りた。各人、身の回りに固めた重武装を展開すると一斉に密集地帯に突入していく――。
「ユノン、人生でいい経験になるだろうぜ。俺らの仕事内容を高見の見物と思って見とけよ!」
「…………」
――ラクリーマがそういうが嫌だ。そんなの経験どころか悪影響だ。しかし、ラクリーマとレクシーの二人はそんなのはお構い無しで彼女を強引に引っ張っていった。その都市では倒壊した建物があちらこちらにあり、まるで廃墟だ。火災も上がり、逃げ遅れた、この不運なる惑星の住民のさまざまな原因の死体、死体、死体――の海だ。
「…………」
「やっと治まった……?」
運よく助かった人達は避難していたあまり崩れていない建物から這い出し、辺りを見渡す。
がそこには謎の男たちが悪魔のような笑みを浮かべて、所持していた重火器をこちらに向けていた。
「焼け死ね!」
銃口から放たれる巨大な灼熱の火炎が一瞬で彼らの身体を呑み込んで、消し炭となり、その業火は次第に建物さえも呑み込んでしまった――。
別の場所では、
「たたっ……助けて……」
「こわいよぉぉ!!」
他の戦闘員が生存者達を発見し、すぐさま追いかけまわした末、逃げ場のない路地裏に連れ込んだのだった。
「…………」
「来るなぁぁ!!さもないとぉ!!」
生存者の一人の男がそこにあった鉄パイプを持って立ち向かおうとする一方、その戦闘員は臆することなく――ただ無言で追い詰めていく。
「ひい……ひい……」
恐怖からか、止まらない震えを押さえてパイプを振り上げた。
が、戦闘員は瞬時に男の頭をグッと掴み込み、容赦なく壁に顔から叩きつけた。
グシャっと生々しい音と共に血や体液が辺りに飛散し――男はそのまま地面に倒れて動かなくなった。
「まずは一人め。次は……」
戦闘員は所持していた巨大ライフルを生存者全員に向け――。
「いやあああっ!!」
女性の断末魔を響き上がったが最後、連続的な銃声と共にもう何も発することはなかった。
そして、ラクリーマとレクシー、ユノンは堂々と都市の中止部を歩き回っていた。どうやら戦利品を集めに探索をしていたらしい。
「あのビルに誰か居そうじゃねえか?なあレクシー?」
「同感っスね。どうします、調べてみますか?」
「いや、もう別の場所に移動する。あいつらもそろそろ戻ってくるだろう。まあ、ここまでしたからにはキレイに片付けるとするか」
彼は、前方にある巨大な建物、ビルらしき物をを見つめた後、左腕を折り曲げて肘をそれに向けた。折り曲げた肘の先が何と、野球ボール一つ入りそうな穴を展開、半身の姿勢で空いた右手で左腕を掴んで固定した。
「二人とも今すぐ離れな。あのビルを一撃でぶっ飛ばす!」
「えっ!?」
するとレクシーはとっさに彼女を連れて、ラクリーマは遠ざかっていった。肘の穴が青白い光が収束し、それを建物に向けて放出したのだった。
肉眼では捉えられない速さで突き抜けて、直撃した。
閃光と共に、建物は一瞬にして崩壊、ガラガラと破片落ちはじめて、衝撃と砂ぼこりが広範囲に広がった。
「…………」
撃った瞬間、すかさずその場から離れた近くの建物に身を潜めていたラクリーマは見事、崩れさった建物を見てニヤッと笑った。あの中に人がいたのならもはや生きていないだろうと確信する。
「なら戻るか」
ラクリーマは通信を使ってレクシー達を呼び、合流した。
「さすがはリーダーだ。一撃で破壊するとは」
「だが、これ使うとすぐにオーバーヒートするし、まだるっこしいんだよなぁ」
そんな会話をする中、彼女はあることに気づいた。
(左手が義手だったの……)
ラクリーマの機械化された左手、義手だと今気づいたのであった。しかし、本当の手みたいに動作することから、その義手はかなり精巧で作られている。
自分の故郷、ドグリスの技術にしてもここまで再現することはできない。
超技術で造られた金属義手だ――。
彼女は息をのんだ。全員、各機に戻り、集まった。その横で、襲撃した都市から集められた戦利品が集められていた。
使えそうな機械や金属素材、そして食物など、様々だった。
「よくやった。怪我人はいねえか?」
全員が横に首を振っている。――どうやらいないみたいだ。
「よしっ。ならここから違う場所に移動するぞ!」
「おおっ!!」
彼らの雄叫びが誰もいなくなった土地に響きわたる。
そして――戦利品を積み、次なる場所へ移動を開始した。
――そして、 行く土地の町、村、都市を全て地獄へと変えていった。そしてそこに生きとし生ける者全てを根絶やしにした。
しかし、彼らは何も思っちゃいない。これが彼らの唯一の生きる道なのだから。
しかし、これでは警察や軍隊などの治安組織が黙っちゃいないのは当たり前だ。だが、最初の主砲でそんなものは消しとんでいる。これも彼らの戦略なのである。そして最後の場所、制圧していない場所へ向かった。データを見る限り、どうやら小さな町のようだ。
「ここで最後だ。全員、早く終わらせるぞ。これが終わったらしばらくは休みだ、辛抱してくれ!!」
「よっしゃああっ!」
最近は連戦続きで疲れがたまっている彼らにとっては嬉しい知らせだ。最後の制圧場所に着陸し、気合いを入れて、一斉に飛び出した。
「最後の制圧場所だし、俺も動こうかな!」
そう言い、ラクリーマは指をパキパキ鳴らして腕を振り回している。そういえば、今日は彼は探索ばかりで本業の戦闘はしていなかった。なので、身体が鈍っていたのである。彼も戦闘員と混ざり、街へ進行していった。
――こんな小さな町が耐えられるハズがなく、完全に奴らの思うつぼであった。建物は破壊され、そこの住む人々や家畜は全て惨殺。必要なものは好きなだけ略奪など、もはや、やりたい放題であった。
それらをここにきてから直視していたユノンはもはや言葉を失った。
こんな酷いことを少しでも気にするどころか、悪そびれてないような笑みを浮かべて行使する彼らが理解できなかった。
そんな中、一人の部下がここの住民であろう、一人の子供をここに捕まえて連れてきた。その子は酷く怯えている。暴れる気配は全くない。
「こいつ、俺の指に噛みつきやがったんですぜ!」
ラクリーマはその子供を、無言で見つめ――。
「うっ……うっ……」
子供の瞳から涙がこぼれだした。普通の人ならそこで憐れに思って助けるかもしれない。
ユノン自身もそこまでは……と思っていた。が、残念ながら彼は『普通』ではない。義手の指が高速回転、いわゆる『ドリル』と化し、子供の方に向けた。まさか……そんな……。
そして悲劇は起こった。彼の指は子供の顔面を貫いた。血と体液、脳髄が、彼はもちろんのこと、近くにいた部下、彼女の所まで飛沫した。そして、無惨に転がる子供だったものを見下ろす彼は血塗れの中、狂気とも言える笑みを浮かべた。
「うう……う……う」
一部始終を見てしまったユノンの脳裏にその光景が焼き付いてしまった。
「うわあああああっ!!」
「ユノン!?」
限界に達した彼女はなりふり構わず逃げ出してしまった。無我夢中で先もわからぬ道へ逃走する彼女に対し、
「お前ら、ここで待機だ。レクシーもそこにいろ!!」
「リーダー!!」
ラクリーマも、彼女を追って全速力で走っていった。
一方、彼女は襲いかかる気持ち悪さを必死に堪えながら、彼らから少しでも離れようとする。
(あ……あんな奴らと一緒にいたら本当に気が狂いそうだ……!!戻るのは嫌だ!!)
身を隠せる場所につくとそこにうずくまり、身を隠す。
「はあ……はあ……」
タバコが吸いたい……気を落ち着かせたい……。そういえばあれから全く吸っていない。思い出すと余計に吸いたくなった。
ポケットに手を突っ込み、漁る。が、
(なっ……ない……落とした……)
来る前に入れておいたハズが落としたのか、無くなっている。最後の手段である腕を切ろうにも、カミソリは艦内のあの部屋の中であった。完全に絶望し頭を押さえて震え出したのだった。
(こわいよぉ……こわいよぉ……)
まるで子供のように怯える彼女の姿は今まで見たことがない。しかし、今の彼女には手取り足取り手を貸してくれる者などいなかった。
『ザッ……』とその時、どこからか音がして彼女はそれに反応する。随分、遠いところから聞こえたようだが、聴覚が優れる彼女はすぐに聞き取れた。
聞こえたところはどうやら奴らから離れた場所にいる。
――もしかして……生存者……?
彼女はそれを救いの手と思い、その場から走り出した。
聴覚に加え、優れる嗅覚、鼻をクンクン動かして、必死で音のした場所へ向かう。近づくにつれて奴らとは違うニオイがする。
――生きた人のニオイだ。彼女はそれを頼りにそこに向かった。
「…………」
ついた場所は瓦礫に埋もれた所だ。しかし、辺りには人らしい姿はどこにもいない。
間違いだったのか?いや、確かに人のニオイはした。それを辿った場所がここだ。実際、ニオイがここから強く発している。
キョロキョロ辺りを見回していたが突然、
「!!」
なんと瓦礫がぶっ飛び、中から人が飛び出した。鍛えられた全身の筋肉と顔から、男性のようだ。
「あっ……あの!!」
気が緩み、すぐに男性の元へ向かうが、それに反して男性は彼女をグッと睨み付けた。
「あいつらの仲間だな、覚悟しろ!!」
「えっ!!」
彼は持っていた刃物を掲げて彼女に襲いかかった。
「ひいいっ!!」
驚いた彼女はその場所でへたり込み、男が振った刃物が空を切った。
「この町を……俺らの全てを奪いやがって……絶対許さねえ!!」
「ちっ……ちがっ」
勘違いされている。私じゃない、そう言いたいが喉が引っ掛かり、上手く発音できなかった。男はまた刃物を振り上げて、足がすくんで動けないユノンに狙いを定めた。
「死ねえ!!」
「いやああああっ!」
彼女は目を閉じて、覚悟を決めた。もう終わりだ――何もかも――。
(あれ……痛くない……どうして……)
彼女に痛みが伝わってこない。というより刺された感触すらない。
恐る恐る目を上げた。すると……そこには、目の前にあの男、ラクリーマが二人に間に割り込むように立っていた。
「つ……だいじょうぶか……?」
「ああっ……あんた……」
男の方へ構えた彼の右腕はバッサリ切られて痛々しいほどの深い切傷と相応の血液が流れ出ていた。しかし男が再び刃物を振りかざした。
「おのれえっ!!これでくたばりやがれ!」
彼はとっさに振り向き、左手首の銃口から放たれた光線が男の頭を貫通、男はその場でドサッと倒れた。
――死んだことを確認すると、彼は彼女に金属製の左手を差し出した。
「ユノン、ケガはないか……?」
呆然としていた彼女は、彼は声に我に返った。
「あっ……あれ……?」
「あの男ならもう始末した。勝手に行動すんじゃねえよ、何かあったらどうすんだ……っ」
彼を見ると酷く息づかいが粗い。理由は右腕を見れば一目瞭然だ。
「う、腕が……ヒドイ……」
「こんなもん、俺にとっちゃあ日常茶飯事だよ、大したことねえって……」
「たっ……大したことって……!!つかどうして助けたの!?逃げだしたんだよ、あたし……!?」
その問いに彼の声は息が荒れているも普段と同じく明るい声だった。
「……お前がまだここにいる間は殺させるわけにはいかねんだよ。俺がここに連れてきたんだからな……俺の唯一の礼儀だ」
「…………」
「死ななくてよかった。お前を助けられて俺は嬉しいぜ……」
『死ななくてよかった』、最も彼からは微塵も似合わないその言葉を言われて、彼女は……。
「ユノン……?」
彼女は涙を流していた。しかしいつもの嫌な気持ちではない。今まで感じたことのない、『嬉しい』とも言える感情から流れた涙だ。
「……なんなのこれ、止まってよ……なんで止まらないのよ……」
「ククク……っ」
ラクリーマはふと微笑したのだった。
「……それよりどうする?このまま、また逃げるか、俺についてくるか……お前が決めろ」
「…………」
彼女は立ち上がり、傷ついた彼を支えた。
「……答えはそれでいいのか」
「……助けてもらったし……恩を返さないと……」
「ふふっ……そうか……なら行くか……」
そう言い、彼らはフラフラと帰りを待つ部下の元へ去っていった。
――仕事が終わり、大量の戦利品と共に彼らはエクセレクターへ帰艦した。
すぐさま宴会が行われ、部下たちはワイワイ騒いでいる最中、ユノンは通路をさまよっていた。
(……あいつ、どこいったんだろ?)
いつもなら参加するはずの彼は場所に宴会場にいなかった。彼を探しに歩き回っていた。彼女は礼が言いたかったのだった。宴会どころではない。すると、
「あんた、見かけねえツラだな。誰だ?」
「……?」
彼女は一人の女性と出会う。白衣を見に纏い、メガネをかけてポニーテールの美人である。しかし、ポケットに手を突っ込んで歩き方ががに股に近いなど女性の品ではなかった。。歳は自分より幾分年上に見える。
彼女はサイサリスである。
「……あの……ラクリーマは……」
「ああ?宴会にいなかったか?なら司令室で寝てんじゃないのか?」
「司令室?」
「知らねえのか?なら私が連れていってやるよ、ついてきな」
彼女の手招きに応じ、ついていく――。長い通路を二人は並んで歩いていく。
「あんた、ここに来て何日目だ?」
「……昨日……」
そう彼女はボソッと口にした。
「昨日!?わはははっ、そりゃあわかんねえよなあ!」
「…………」
バカ笑いするサイサリスに対し、眉をひそめるユノン。
「ワリィワリィ。だが昨日きたあんたがあいつになんの用があるんだ?大事なことか?」
「…………」
「言えねえか。もしかしてあいつと付き合いてえのか?」
「なあ……!」
藪から棒にそんなことを言われて首をブンブン振る。
「……しかしまあ、あんたみたいな美人が彼女になってくれれば、あいつの心の傷も癒せるんじゃねえのかなってな」
「心の傷……とは?」
「……実はな、あいつ、つい最近最愛の彼女を交戦で亡くしてんだ」
「え……ええ!?」
「その子、敗退したこの艦を守るために敵の母艦に特攻したんだ。それ以来、あいつも以前と違い、元気を無くしていてな」
そんなことがあったなんて……。てこはレクシーの言っていた元カノの部屋ってまさかその女性の……。
しかし、じゃあなんであの部屋をあたしに使わせたんだろう。
最愛の人のなら使わせたくないハズだが。
「こんな暗い話はもうやめとこう。そうだ、言っておくぜ。あいつ、かなりの女たらしでイタズラ好きのアホだから気をつけな……クックック」
それを聞き、彼のイメージが一瞬で崩れ去った。
――そして司令室につき、サイサリスと別れた。
彼女は一呼吸置いて、ドアへ足を踏み出した。中に入ると広く感じるが、ついているのがコンピューターの光位で暗く、あまり見えない。
「……ラクリーマ……いる?」
呼びかけるが、全く返事がない。奥に進み、周りを見る。彼のニオイは強いことからここにいるのは確かだ。
そして、奥に唯一明かりが発している所が見えて、そこに向かう彼女。しかし、すぐに目を疑うものを見ることになる。
「ひいっ!!」
「おわああっ!」
そこにいたラクリーマと、二人とも大きな声を上げた。
「どうした、お前?」
「そ、その傷だらけ…………」
彼はベッドに座っていたが、上半身裸を見て、絶句する。
――至るところに傷で埋め尽くされている。おぞましいってものではない、見てて気持ち悪くなりそうなほど直視できないほどであった。
「これか?今までの戦いの証って奴かな」
「…………」
彼女は一歩ずつ足を踏み入れ進んで彼の身体を見に行った。全体が機械化された左腕もさることながら、その傷は自分の傷以上だ。さすがにここまではつけない、つけたくない。
それは彼がどれほど戦い、死線を潜り抜けてきたのかわかる証拠だ。
「情けねえだろ。こんなに傷がついちまって……まだまだ俺は未熟ってこった。まあ……守るべきものが守れねえで俺はいつまでたっても未熟なのかもな……」
「…………」
守るべきもの……それが彼女が聞いた話と重なりあった。
「で……何しに来た。宴会やってんだろ?」
「……宴会は嫌い。あたしは今日の礼を……」
「礼ね。今日助けたときのあれか」
「……ええっ……」
――突然、
「きゃあっ!」
彼女を両手で掴んで、お姫様のように抱き抱えた。
「…………」
二人は近い距離で互いに見つめ合う。彼女は突然すぎて身体中がカチコチに強ばっている。
「なあ、お前も夢や希望がないんだったらここで働いてみないか?
俺らはそういう奴らを歓迎している。ここにいたら新たな生き甲斐が見つかるかもしんねえからよ、どうだ?」
「…………」
「数ヶ月間、アマリーリスやエクセレクターについての必要最低限の要素を覚えてもらう。それからはお前の能力次第でお前のやりたい役割をやらせてやる。メシあり、酒あり、部屋ありと優遇だ。どうだ?」
彼女は数秒後、決意したのかコクっと頷いた。
「……いいわよ。もう戻るとこないんだし、拒否れば死ぬしかないし、やってやるわよ…………」
「……決まったな。ならよろしくな、ユノン」
彼は突然何を思ったか、
「なあユノン」
「な、なによ?」
「ヤらせてくんね?」
当然彼女は反応は。
「いやっ!」
右手で彼の頬に強烈な張り手を食らわした。
「いってええ!!!何すんだコラァ!!」
「あ、あんたねえ、出会って間もない女にいう言葉なの!?」
「へっ、悪かったな。俺はこういうヤロウなんでな!いいじゃねえか、減るもんじゃねえし」
彼女は少し怯えている。恥ずかしさからではなく、恐怖だ。証拠に、顔が少し蒼白だ。彼は気づいた。
「お前……まさか……処女……?」
「…………」
そのまんざらではない顔に、彼の開いた口が閉じなかった。
「嘘だろ……そんなべっぴんが……っ」
すると、ラクリーマも一呼吸置き、彼女にこう問いた。
「俺が初めての男になってやろうか?」
「はあ!?なっ……なにいってんのよ……っ」
「イヤならイヤで強制はしない。どうだ?」
「…………こわい……」
彼女がぼそっとそう言う。
しかしこの女たらし、ラクリーマ。それで納得出来るワケがなかった。
「……優しくしてやるからよ?ただお前が美人すぎて欲情しちまってな」
彼もある意味犬である。そっちに関しては。すると彼女は顔を赤めらせて……。
「……もうどうでもいいわ。この際……」
「えっ、ホントにいいのかよ!?」
「……早くしないとやめるわよ……」
「カカッ、お前は最高の女だぜ!」
そして二人は楽しい楽しい(?)時間を過ごしたのであった。
――長い一夜が明けた。次の日から、ユノンはラクリーマや部下達によってここのノウハウを教えられた。
しかし、部下達は驚いた。彼女の物覚えが早すぎたのである。約一週間くらいでほぼエクセレクターのノウハウを全部理解してしまった。
さすが惑星ドグリスの名門大学を首席で卒業しただけのことはあった。それに、ラクリーマと部下数人が作戦作成に頭を悩ませている最中、
「…………」
「ユノン?」
急に割り込んで、コンピューターの作成データを覗いた。すると眉を潜めて――。
「……これじゃあ効率悪すぎだわ……」
彼女は瞬時にコンピューターを動かし、新しい戦略をデータに叩き込んだ。その内容にラクリーマ含めた部下は驚愕する。
「うわあすげえ……こんなやり方あったなんて……」
終わると、彼女はその場から退いた。
「……これなら低消費、時間の短縮、そしてリスクを少なくできるわ……」
「ユノン、すげえ。サイサリスと違う意味で天才だ……」
ユノンはなにも言わず、去っていったが、ラクリーマは何か閃いたかのように手をポンと叩いた。
――数日後、司令室。ユノンはラクリーマに呼ばれていた。
「お前、副リーダーにならないか?」
「副リーダー……?」
「ああっ、俺の補佐みたいな役目だ。お前の能力、特に頭脳は俺らが予想した域より遥かに上だ。お前の頭脳はアマリーリスの中で断トツだろう。俺や部下を全面サポートしてくれないか?」
「…………」
彼女はどうするか悩んでいるが、彼は肩に手を置いて真面目な顔ぶりで見つめた。
「かなり優遇だぞ。ちいと忙しいが権限は俺と同じだ。俺が惑星侵略している最中、このエクセレクターの艦長を努めて欲しいんだ、お前みたいに冷静で頭もいい奴にはうってつけだ。
ちなみに部下達にそれを聞いたら満員一致でお前を指した。どうだ、自分の能力をフル活用してみたくないか?」
「…………」
彼女はそして――コクっと頷いた。
「よっしゃ、なら頼むぜ!ユノン」
――そして、全員集められて、彼女を中心に取り囲んだ。
「今日からアマリーリスの副リーダーを努めるユノンだ!お前ら、よろしく頼むぞ!」
「オオーーっ!!よろしくな副リーダーっ!!」
なんと言うノリの良さだろうか、打ってかわって彼女は恥ずかしそうに顔を俯いている。
「……よろしく……お願いします……」
もぞもぞしている彼女をラクリーマは――。
「なあに恥ずかしがってんだよ、ほれっ!」
瞬間、部下達の鼻から一斉に鼻血が吹き出た。この男は彼女の履いていたスカートを引きずり下ろしたのだった。
しかもスカートどころか、勢い余って下着までずり下げた。そう、今の彼女は下半身すっぽんぽんである。
「~~~~~~っ!!」
「ぎゃはははは!」
必死で下着を上げている最中、ラクリーマはバカ笑いしている。
「ああっ……ああっ……」
「うわあ……」
全員の顔が恐怖にひきつっている。その理由は……。
「ラクリーマ……」
「へっ?」
そこには、今まで見たことのないような恐ろしい形相をした彼女が指をバキバキ鳴らして睨み付けている……。
さすがの彼も、危険を感じたのか一気に血の気が引いた。
「……ユノン……まて……俺が悪かった……っ」
しかし、彼女の怒りはそれで治まるハズがない。
「問 答 無 用 ! !」
その日、その場にいた全員は、我らがリーダー、ラクリーマがユノンという一人の女性に完封なきまで叩きのめされる『悪夢』を見ることになった。
そして部下達はこの日に誓った。彼女をユノン「さん」と呼ぶことを……。
◆ ◆ ◆
ユノンはそれを恥ずかしそうに思い出しながらしずかにこう告げた。
「……まあ色々とあったけど、私はここで生きていくことに決めたわ。少なくともあたしは感謝してる。こうやって、あたしの能力を生かせるとこがあって……」
「そうだったんですか……」
しずかはうんうん頷きながら聞いていた。
「あなたもラクリーマに気をつけなさい。あいつ、仲間やあなたたちみたいに気に入った人間には優しいけど、結局は極悪の塊だから。それに女たらしでスケベでバカでアホで単細胞で……」
そんな悪口を言うユノンだが、しずかはふとこんなことを言った。
「……ユノンさんはラクリーマさんのことになると熱く語りますね……」
彼女はギロッと鋭い目付きで睨みこむ。しずかは一瞬身体がすくんだ。だがすぐにユノンは睨みを解除し、軽く笑った。
「ふふっ、そうかもしれないわね。あいつと一緒に仕事してて飽きないもの。ネタに尽きないし」
「そうですね、実際あの人と一緒にいたら楽しい気分になれますから」
すると、今度はユノンがしずかに対して質問した。
「ならあたしから聞きたいけど、あなたはずっとのび太くんと一緒にいるけど……もしかして好きなの?」
その問いに、しずかは顔を真っ赤にして手をブンブン横に振った。
「ち、違います。あたしはそんな関係ないです!!」
「あら、顔を赤くしちゃって……。図星……?」
「…………」
黙り込む彼女にユノンは口を押さえて笑いだした。
「フフフ……あなたかわいいわね。ますます気に入ったわ」
「もう……酷い……」
しかしながら何だかんだで、もう打ち解けあっている。最初の緊迫した空気は一体どこにいったのか。あのユノンとこうやって盛り上がれるのはここでは快挙である。さらに話はどんどん進み、
「――それで、その地球にいったら温泉とか連れていってくれないかしら?」
「いいですよ。一緒に温泉巡りしませんか?」
「いい酒が飲めそうで楽しみね……フフッ」
話を聞いていると彼女の意外な一面が見えてきた。実は自分と同じくお風呂が大好きなこと、お酒の他に好物が肉類であること、特に骨付き肉が大好きなことなど、ラクリーマでも知らないことをしずかは聞けたのである。
誰でも打ち解けられる一面を持つ彼女である。