ユノンとしずかが仲良く話をしている一方でのび太は食事しに食堂へ。
中に入ると、ガランとしていたが前方向こうに二人の男性が向かいあわせでゲラゲラと大声を上げて笑い話をしていた。近くにいくとそれが誰なのか分かった。
「あっ、ラクリーマ、レクシーさん!」
「お、のび太じゃねえか!」
「こっちにこいよ!」
彼らであった。のび太はすぐに二人の元へ向かう。
「お前一人か?」
「うん。ご飯食べようかなって」
「そうか、なら早く飯持ってこいよ。三人で仲良く話そうぜ」
すぐにトレーに飯を盛り付け、ラクリーマの隣の席に座る。ラクリーマ達の前は空のトレーが。もう先に食べたようだ。
「のび太、ここにはもう慣れたか?」
食べるのを止めて、飲み込むと頷く。
「ここの人達って悪い人達しかいないかなと思ってたけど案外優しいんだね」
「「…………」」
どうやら二人は照れているようだ。
「こいつ、言ってくれるじゃねえか」
「俺らは御天道様に顔を合わせることのできねえ存在なんだがな、優しいと言われるのはなんか心外だ」
「けどさ、ラクリーマって凄くエッチだよね。女風呂に突入したり――」
「リーダー聞きましたよ、あんたらそれでサイサリスさん達に散々シメられたって」
「けっ、男に必要なのはそれやるくらいの度胸とチ〇ポのでかさよ!」
「うわあ、汚い言葉……っ」
のび太はドン引きした……。段々と昼食をとろうと人々が入りこみ、賑やかになっていく食堂。三人は仲良く会話を弾んでいた。
「僕、ラクリーマやレクシーさんみたいに強い男になりたいな……」
「ほう、俺らみたいにか。そりゃあ嬉しいもんだな。だがいきなりどうしたんだ?」
「いやあ、よくみんなからバカにされたりするから……悪い人にはなりたくないけど二人のように男として……」
「……確かにのび太は非力感が否めないもんな、なよなよしてるし」
「どうすれば強くなれるかな?」
のび太の問いにラクリーマは、
「まあケンカで勝ちたいんなら、手始めに武器使うなりなんなりして、どんな手を使ってでも10人くらいぶっ殺してこい、それで度胸とハクがつく」
「…………」
あまりの無茶苦茶さにのび太は唖然とした。
「そんなリーダーや俺らじゃあるまいしそんなことできますかいな?のび太でっせ?」
「違うのか?こいつ射撃の腕いいからそれ使えばいいじゃねえか」
レクシーはため息をついてのび太にこう聞いた。
「なあのび太、お前はどういう強さを求めてんだよ。ただ身体的に強くなりたいのか、それともナメられたくないのかどっちだよ?それによっちゃあ答えがだいぶ変わるぞ」
「どっちもかな…………っ」
のび太はボソッとそう答える。ラクリーマは突然のび太にメンチをかました。
「ひいっ!!」
「ビビってんじゃねえよ、こんなくらいでいちいちすくむくれぇならいつまでたってもナメられるままだぞ」
「…………」
「身体を鍛えたいのなら毎日運動、筋トレすりゃあいい。そんなのは誰だってできる。だがナメられたくなけりゃ相手より優位に立たなきゃならねえ。そうするにはお前の場合……根本的なとこから変えねえといけねえな」
「…………?」
「訓練時にも言ったが俺から見たのび太、お前は女々しいんだよ。グズでビビりでドジで泣き虫で甘ったれでお人好しだあ?そんなんじゃ他の奴らから見ても自分は劣っているとは思わんだろう、なあレクシー」
「ですね。けどお人好しな面はのび太の良いとこかもしんないですが」
のび太は痛い所ばかりつかれて意気消沈している。
「まあとりあえず今は飯食ってから話そうや、なあのび太」
「うん……」
しばらくして、
「ごちそうさま」
「おい、なんだこれは?」
トレーを見ると嫌いな具材なのか、おかずを隅っこによせて残している。ラクリーマ達の目はそれを捉えていた。
「だって味がイヤだもん――」
「のび太、そこがてめえのダメなとこだよ」
「え?」
「初めてその具材、口にしたのかもしんねえが好き嫌い、食べ残すのはいけねえな。別にこれ食ったら死ぬような体質じゃねえんなら食え、もったいねえ」
「けど……」
「あと見てて感じたが食い方汚ねえな。もうちっとキレイに食えねえのか?」
「…………」
ラクリーマは真剣な眼差しでのび太を見た。
「お前、当たり前のことが出来てねえようじゃナメられても文句いえねえぞ。 人ってのは他人に無関心そうで些細な所作も見逃さん。そしてそれが至らない人間を見下すんだ。
つまらんことで相手の風下に立つようなことしてんじゃねえよ、わかったか」
のび太はおろかレクシーはキョトンとしている。
「おい、レクシーまで何拍子抜けしたような顔してんだよ」
「いやあ、リーダーがこんな礼儀作法を語るなんてっと思いまして……」
「うるせえ」
ラクリーマは頭をポリポリ掻く。
「まあのび太。まずその「当たり前」ができるようにしろ、それが必要最低限だ。それが出来たら、お前の欠点を埋めるなり長所を伸ばす努力をするなり何でもしてみろ、それだけでもお前は幾分変わると思うぞ」
「僕に……できるかな……?」
「やるかやらねえかはお前次第だ。だができるかできねえかと言われたらできないわけねえだろ、お前も男なんだからな」
「ラクリーマ……」
彼からの深い助言に震撼と共に共感するのび太。
「あとよ、強くなるかわからねえが良いことを教えてやるよ」
「え……?」
「別に運動が苦手でも、力が弱くてもいい、男に一番必要なのはーー」
ラクリーマはのび太の胸に握った右拳を軽く押し当てた。
「え……」
「心だよ。何でも受け入れる大きな心といざという時の勇気、そして覚悟を持てる心があればお前も一人前だ」
「心…………かあ」
「あと……女にモテたいならそれプラス……」
「え……?」
「これだあ!」
ーー瞬間、ラクリーマはのび太の股間をグワシっ!と握ったのだ。
「うわあ!!!な、何すんだよ!!」
「ギャハハハハ!!!」
顔を真っ赤にするのび太とバカ笑いするラクリーマがじゃれあっているその光景にレクシーは二人を暖かい笑みを浮かべた――その時である。
『リーダー、すぐに訓練エリアのトレーニングルームに急行してください!繰り返す!』
食堂全体に彼を呼ぶ放送が入り、さらにサイレンがうるさいほどに響く。ラクリーマはすぐさま立ち上がり、席を後にした。
「俺一人で行く、お前らはここにいろ!」
「「ラクリーマ(リーダー)!!」」
取り残されて途方にくれる二人。一体、そこで何が起こったのだろうか……?
……訓練エリアのトレーニングルームでは、なにやら騒ぎが起こっていた。
「てめぇ、いい加減にしやがれっ!!」
「うるせぇっ!!てめぇが言い出したのがワリイんだよ!」
どうやらユーダと戦闘員の一人、シースがケンカをしているようだ。
その他の者は二人を取り押さえたり、仲介しているのだが一向に終わる気配はなかった。
「どうした、お前ら!?」
そしてラクリーマも駆けつけ、全員が彼に注目した。
「リーダー、こいつらが急にケンカし出して、暴れまくってたんですよ!」
「ケンカだぁ?」
情けなくなり、彼は頭を押さえて落胆した。溜め息を吐いて、二人を見つめる。
「何が原因なんだ?」
「こいつが俺のこと、バカにしたんですよ。「弱ええ」だの「カス」だのほざきやがったですぜ!」
「俺はホントのことを言ったまでだ、何が悪い?」
「なんだとコラぁ!?」
ユーダの言葉が彼の怒りを買うことになり、ラクリーマはそんな二人をなだめるように割り込んだ。
「だからちょっと待て、俺が聞きてえのはなんでそんな話になったかだ。落ち着いて話してくれ!」
二人から事情を聞いた。それは前の戦闘訓練にて、この二人が対戦した時のことで、その時はユーダが優勢で、結果、彼が勝利した。
それで、今のトレーニング中にその事をユーダが持ち出したために起きた揉め事だと言うのだった。彼は情けなく感じる。まあ、本人達にしたら大事なのかもしれないが、彼からしたらくだらないことだった。実際、彼はトレーニング中に誰かが大ケガしたとか、倒れたとしか思っていなかった。しかしケンカはケンカ、止めないことには解決しないのである。
「……しょうがねえな。悪いのはユーダ、お前だ」
その言葉に彼はムスッとした態度をとった。
「こんなケンカしたのも、お前がそんなこと持ち出したのが原因だろ。弱えぇとか言ってても、また再戦したら次はお前がやられるかもしれねえぞ。実際、俺から見たらお前らの実力は大差ねえんだよ」
そう言われ、いらだちからか、ユーダは拳を握る。
逆に、シースは笑顔でガッツポーズをとり、喜んでいた。しかし、ラクリーマはシースの方を向くと、睨み付けるような細い眼で彼を見た。
「シース、そんな挑発に乗ったお前にも問題があるぞ。弱いとか言われたなら、また再戦してこいつを負かせばいいじゃねえか?」
「へ……っへい。言われてみればそうですね……気をつけます……」
指摘されて彼はガクッと落ち込んだ。
「たくぅ……。そんなことで俺を呼ぶんじゃねえよ。ケンカするのは勝手だが、仲間に迷惑をかけるようなことすんな」
ラクリーマは後ろを向き去ろうとした時、
「ちっ……、偉そうなこと言いやがって……っ」
誰かの囁きにラクリーマは聞き逃すはずはなかった。次の瞬間、振り向き、ある男へ向かうと胸ぐらを掴んだ。
「オイ、今なんて言った……答えろ!」
「…………」
その男はユーダである。
「リーダー!!」
全員がラクリーマを抑えようとするも、彼はそれを振り払った。
「ユーダ、俺に不満あるんなら素直に言ったらどうだ?」
「…………」
しかし、彼はふてくされているのか、視線を反らしている。しかし、ラクリーマにしたらこの上ない嫌悪感を抱くのであった。
「てめぇ、俺をナメるのはかまわんが、そんな小声で言わねえで直接言えばいいじゃねえか。俺に不満をぶつけりゃあ、改善する努力をするぞ。俺がキレる前に素直に話せ」
「……別にありゃしませんよ……」
「…………」
返事はするが、言い方から全く改めていないユーダ。そんなナメ腐った態度の彼を、ラクリーマは左手指をドリルへと変えて、それをユーダの目の前に押しやった。
「最後のチャンスだ、これ以上しらを切るなら今ここで本当にお前を殺るぞ」
「……」
まさに一発触発の状況。その場にいる全員が息を飲んだ。
「だいたいお前、侵略ん時に仲間が危険な目に合ってるって時にわざと見捨てたって情報が俺の耳に入ってきてんだがお前、ここの鉄の掟知ってんだろ?
そんな奴はどうなるか、知っててやってんのか……どうなんだ!?」
しかし、ユーダはこんな状況にも関わらず、笑みを浮かべていた。
「……冗談はよしてくださいよ。第一、証拠はあるんですかい?」
「……証拠だと?」
「こん中の誰から聞いたか知らないですけどそんな情報を信じるんですかァ?
もしかしたらそう見えただけかもしれないですぜ?それにリーダー自身が見てないのにそうやって決めつけるのはおかしくないですか?……ククッ、俺の言ってることは間違ってますか?」
――数秒後、ラクリーマはユーダから手を放し、ドリルの回転を止めた。
どうやら、彼から手を引いたようだがその苦渋の表情からは納得していないようである。
「ああ、確かにお前の言う通りだ……。本当かどうかもわからないことを、疑ってすまなかった……」
素直に謝るなど、ラクリーマらしくないのだが、信憑性がない以上、これ以上は手出しはできないのであった。
「そりゃあウレシい限りで」
しかし、ユーダから全く反省の色を示さないままで、表情はさっきと同じであった。しかし、彼の顔は次第に憤怒の表情へと変えて、ユーダに警告とも言える発言をした。
「だが、そういう情報がある以上はお前の疑いが晴れたワケじゃねえぞ。
今はなかったことにしといてやるが……もし、次の侵略時にお前のそういう所を目撃した暁には……」
《八つ裂きどころじゃすまないと思えよ!!》
「…………」
ここにいる全員はもちろん、さすがのユーダも彼の殺気に恐ろしい寒気が走った。
「ここにいる全員もそういう情報はあったらドンドン教えてくれ!そんなことをする奴に情けをかけて隠ぺいするとかなしだ。むしろ、そんなことする奴も即反逆者扱いするからな、覚えとけ!!」
そう言い、彼はトレーニングルームから去っていった。
「…………………」
黙り込む戦闘員達。しかし、全員の視線はユーダに向けられる。それも冷たい視線で。
「なんだよ、その目は?」
「ユーダ、お前本当にいい加減にしとかねえとリーダーに殺られるぜ」
「へっ、余計なお世話だ」
「なんだと!?心配してんのによォ!」
戦闘員の一人がユーダに突っ掛かるが、本人は軽くあしらった。
「てめえらの『おままごと』みてぇなお付き合いには飽々なんだよ!」
「オイ、ユーダ。それはここにいる全員にケンカ売ってんのか?」
「売ってるも何も俺は本心を打ち明けたまでだ。ならお前らに聞くが、なんでアマリーリスに加入したんだ?こうやって友達作りするために入ったのかよ?」
「なっ……!?」
その言葉が全員に心に突き刺さった。そして更に彼は話を続ける。
「殺して、奪って、全員はそうやって生きてきたんだろうが。俺からしてみりゃあ『友達?仲間?なんじゃそりゃ?』だ。
なぜかって?当たり前じゃねえか。本来なら、ここにいなけりゃ全員、敵同士だからな」
彼らに返す言葉が見当たらなかった。確かにその通りだ。
アマリーリスの掟の上で仲良くしているだけであって、元から仲がよいわけではない。
むしろ、普通は互いを敵と思うべき存在だ。
全員犯罪者であり、改心する気もない彼らが同じ時間、同じ部屋に集まっても、そりゃあ気が合う人間がいるかもしれないが、やはり合わない人間もいるわけだ。
全員が仲良くなるのはまずありえないのだ。
普通の人間でもそうなるのだから、彼らならなおさらだ。このアマリーリスという組織はそういう観点からみたら、かなり異質だと言えるだろう。
「へっ、わかったか。俺は元々、こんな素晴らしい仕事ができるから加入しただけだ。
好きなだけ殺して、好きなだけ奪って、これ以上の幸せがあるものか、お前らもそろそろ考えを改めた方がいいぜ」
そう言い、彼もトレーニングルームから去ろうと歩き出した。しかし、その戦闘員の中の一人が突然、前に飛び出した。
「ユーダ、一つ言っておくぞ。お前のいうその素晴らしい仕事ができるのもこのアマリーリスのおかげだと思えよ。
お前だって、元々死刑囚で刑務所から脱獄して、捕まる寸前でリーダーに助けられたんだから、少なくともあの人の恩を忘れるなよ?わかったな?」
「…………」
彼は何も言わず、そのまま去っていく。しかし、彼の後ろ姿から感じるのは『孤独』、それだけだった。……そして、ユーダの姿は見えなくなると、気が緩み、何人かはため息を吐き出した。
「あいつ、ホントにわからねえヤツだ……」
その言葉はほぼ全員に考えに当てはまっていた。