大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦   作:はならむ

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Part.30 暗雲

トレーニングルームでの一件の後、彼は休憩広場のソファーに腰掛け腕組みをし、複雑そうな表情でウインドウ越しの宇宙を眺めていた。

 

すると、

 

「ラクリーマ!」

 

「お前ら?」

 

のび太としずかが彼を見つけて駆けつけてきた。

二人から見たラクリーマはいつもみたいに陽気ではなく、落ち込んだ様子に感じられた。

 

「訓練エリアで何があったの……?」

 

「……なんでもねえよ」

 

「けど、今のラクリーマさん、なんか落ち込んでるみた――」

 

「なんでもねえっていってんだよっ!!」

 

「「ひいっ!!」」

 

つい怒鳴ってしまい、完全に萎縮している二人。

 

「あっ……ワリィ……っ、ちょっと考え事していてな」

 

「考え事?」

 

「まあいい、二人とも横に座れや」

 

二人は言う通りに、ラクリーマの横に腰掛ける。彼は二人を見ようとせず、ただ前を見ている。

 

(やっぱりさっき何かあったのかな?)

 

(この人が考えこむほどよ、よほど深刻に違いないわ……)

 

二人はこそこそと話をしていた矢先、

 

「なあ、二人とも。ちいと質問があるんだが、いいか?」

 

「えっ!?」

 

二人とも、びっくりしてすぐに振り返った。すると、彼は依然と前を見たままこう口にした。

 

「わかりあえない奴とはどうしたら理解しあえるんだろうな?」

 

「…………?」

 

その意味深しげな質問に一瞬、戸惑う二人。

 

「ラクリーマ、どうしたの一体……?」

 

「いや、わからなければいいんだ。ただそれを聞きたくてな」

 

「……」

 

互いに沈黙し合う。……なんか、いつもの彼ではない。いつも明るくて熱苦しい彼しか見たことのない二人からしたら、不気味だ。いや、不安という感情さえもあった。

 

しばらく、誰も声を発しない状況が続き、気まずくなりかけた時、

 

「……正解かどうかわからないけど、いっぱい接してあげたらどうかしら……?」

 

「「しずか(ちゃん)……?」」

 

しずかが沈黙を破り、彼女なりの意見を伝えた。

 

「わたしならわかりあえるまでその人と接し続けるわ……前にそういうことがあったの――」

 

そう、しずかは思い出していた。

鏡面世界にて、瀕死の傷を負ったメカトピア星のスパイロボット、リルルのことを。初めは、愛国心が強いゆえに地球人を下等生物扱いし、しずかとの対話もほぼ拒絶するという絶望的な状況だったが、彼女のあきらめない心と労りがやがて、リルルの心を突き動かすことになった。

 

その結果、ついに攻めてきたメカトピア星の軍隊、鉄人兵団の目的『全地球人奴隷化』を食い止める突破口となり、地球を守ることに成功したのだが……。

 

 

「――その人のことを理解することが一番、大事だと思う。その上で、めげずにあきらめずに優しさを持って接すれば、いつかはその人も……」

 

「…………」

 

ラクリーマは静かに目を閉じている。

腕組みをして、考え込んでるようだ。

 

「……そうか。いい助言聞かせてもらったぜ。礼を言うぜ、しずか!」

 

「ラクリーマさん……」

 

お礼と共に微笑みを見せるラクリーマに、彼女は嬉しくなり、もじもじする。

 

「そういえば、お前らホント仲いいよな。まさか、互いに好きなんじゃあ……」

 

「「なあっっ!!?」」

 

二人は顔を共に顔を赤くした。これで言われるのは何回目なのか。のび太はともかく、しずかは同じことをついさきほどユノンにも言われていた。

 

「だ か ら違います!!あたし達はそんな関係じゃないですっっ!!」

 

「ちょっ……そこまで否定しなくてもいいのに……」

 

「クククッ……ワハハハハッ!!だがよ、お前らほどお似合いなカップルはいねえぜ!!ホントはどうなんだ?」

 

豪快に笑う彼の問いに二人とも互いにチラ見し、すぐに下にうつ向いた。

 

「……まんざらでもない顔しやがって。それじゃあ俺もお前らに教えてやろうか!」

 

一呼吸置き、恥ずかしがることなく二人にこう告げた。

 

「俺は、ユノンのことが好きだ」

 

「「ええっっ!?」」

 

「もう一度言ってやろうか?あいつのことが好きで好きでたまらねえんだよ」

 

「「…………」」

 

のび太としずかはさっき以上に頬を真っ赤に染めていた。

こうやって恥ずかしがらずに公言するのは、あのジュネと同じだ。

 

「けどなぁ、あいつあんな性格だろ?なかなか伝えづらくてよ。困ってんだけど、どうすればいい?教えてくれないか?」

 

「えっ……いやっ、ちょっと!」

 

一方的に質問してくるラクリーマに困惑ぎみののび太達。告白なんてしたことがないのにわかるわけがない。

 

「なあんてな、けど俺はあいつのモノに出来ればこの上嬉しいことはないな!」

 

二人は分かった。彼は本当にユノンが好きだと言うことを。その屈託のない笑顔をみたら嘘ではないことがわかった。次第、二人は目を輝かせて……。

 

「ラクリーマ、僕たち応援してるから!」

 

「ユノンさんに思いが伝わることを!」

 

それを聞いたラクリーマは、嬉しくなり二人に向かってガッツポーズをとった。

 

「お前らは最高だ、殺さずに助けてよかったとホントに思うぞ!!」

 

そうやって素直に喜べるのは彼の良い部分の一つである。

最初の重苦しい雰囲気が一転したのは、この二人(特にしずか)のおかげとも言えるだろう。

 

――しずかは部屋に戻ると言い、のび太とラクリーマから去っていった。二人ともソファーに座ったまま話をしていた。

 

「ラクリーマ……ユノンさんが好きだったんだね」

 

「あいつ超美人だしな?だがあいつ、今まで男と付き合ったことがないしな」

 

「……そうなの?」

 

「あんな性格じゃあ誰とも付き合えねえよ。それにあいつ、どこか人間不信なとこがあるからな」

 

「……」

 

「まあ多分ワケありな人生送ってきたんだろうな、俺らも人の事を言えねえが。あいつの過去なんざ知るよしねえし、教えてくれそうにねえし……どうすることも出来ねえンだが」

 

「……ユノンさん、何があったんだろうね?」

 

「そんなの気にしてもしょうがねえし。さてと、俺もそろそろ司令室に戻ろっかな――」

 

ラクリーマが立ち上がり、同時にポケットから突っ込んでいた手を出すと、拍子にポケットから何かが落ち、のび太の足元に転がった。

 

「ラクリーマ?何か落ちたよ」

 

「おっ、ありがとな」

 

落ちたそれは円く小さいケースだった。まるでプラスチックのように透明な素材で作られたケースの中から見えるのは、敷き詰めた綿と何やら植物の種らしき小さな豆粒が数個入っていた。

 

「ラクリーマ、これは……?」

 

のび太の問いにラクリーマはフッと軽い笑みを見せた。

 

「これか?これ一粒で何十万と言う人間を一撃で消し飛ぶ程の威力を持った殺戮兵器だ」

 

「え え ~ ~ っ っ! ?」

 

のび太は顔面真っ青となり慌ててそこから後退ろうとしたが、ラクリーマはヘンに高笑いしていた。

 

「ギャアハハハハッ!!嘘に決まってンだろォ!!そんなもん俺だって持ちたくねえよ!!」

 

「……」

 

嘘をつかれてプンプンした顔で彼を睨み付けるのび太。

だがこの男がそんなヤバイ兵器を持ってても可笑しくないと思えてくるのだった。

 

「本当のことを教えてやるよ。俺と付き合ってた女の形見だ」

 

「えっ……」

 

のび太は思い出した。ラクリーマには彼女がいたことを。しかしその彼女はもう……。

 

「確か……ランって人……?」

 

「なんだ、知ってんのか?」

 

「前にレクシーさんが話してくれた……」

 

「あのヤロウ、ペラペラ喋りやがったな……まあいい、これは『アノリウム』っていう花の種でな。あいつの故郷の惑星で古代に咲いていた花らしい――」

 

「……古代に……咲いてた花?」

 

「ああっ。もう絶滅したと言われたらしいがランが色んな手段を使ってやっとの思いで手に入れたらしい。だがその惑星は元々酷かった環境汚染がかなり進んでもはや住めなくなってな、あいつが宇宙へ脱出の際に持ってきたんだとよ」

 

「……」

 

のび太はその事実に言葉を失った。

そしてラクリーマは突然、こんなことを彼に告げた。

 

「実はな、お前らの惑星、地球に侵略したかった理由の一つにこの種を撒こうと思っていてな……」

 

「えっ……」

 

「実はこの『アノリウム』が育つ環境を調べた結果、お前らの地球みたいなトコが一番適用してると分かったんだ。

ランは『咲かせたい、早く咲かせたい』といつも口癖のように呟いていたからこれであいつも無念を晴らせるだろうなと思ってな……」

 

のび太は何か心の中が暖かかった。こんな『花』とか微塵も似合わないような男がこんな真剣に話しているなんて……誰が予想できようか。

しかしラクリーマはそういう男である。少しも可笑しいとは思えなかった。

 

「けど地球に撒くのは諦めたわ。地球に撒いても咲くまでにはいられないし、それに……」

 

「そっ……それに……?」

 

「宇宙はこんなに広いんだ。地球みたいな星はいくらでも見つかるさ!……て俺なに話してんだ。こんなのユノンとかに話したら絶対ドン引きされるぜ」

 

しかしのび太は優しく屈託のない表情をしていた。

 

「その……ランって人の約束を果たせるといいね……」

 

「のび太……ありがとよ」

 

彼もとても嬉しく思っただろう。のび太に感謝の気持ちを述べた。

 

◆ ◆ ◆

 

一時間後、ユノンはタバコを吸いに通路を歩いていた。曲がり角辺りで、

 

「ユノン?」

 

「…………!!」

 

彼女はラクリーマと出くわす。しかし、彼女はムスッてしたまま無言のまま通り過ぎようとする。……まだ怒っているようである。

 

「ユノン待てよ、まだ怒ってるのかよ!?」

 

全く無反応な彼女についにしびれを切らしたラクリーマはとっさに彼女の左腕を掴んだ。

 

「なあユノン、俺が悪かった。あんなイタズラはもうしねえからよぉ……許してくれねえか?」

 

「あんた、またそんなこと言ってやるくせに……信用できないわ」

 

「なあ、マジで悪かったって!だからな……ん?」

 

彼女の腕を目をやると何かに気づいた。

 

「お前……どうしたこの切り傷?」

 

突然、彼女の顔色が一変し、青ざめた。次第に体もぶるぶる震えていた。しかし、ラクリーマは不思議そうにその腕を見続けた。

 

「一つだけじゃねえな……2つ、3つ……なんか不自然な傷痕だな……」

 

彼女は強引に振り払い、壁に寄りかかった。

 

「おっ、おい……。どうした?」

 

彼から見た彼女は顔をひきつって、異常なほどに身体全体が激震していた。まるで何かに怯えているかのように。

 

「いや……いやぁ、いやぁぁっっ!!」

 

「まっ、待てユノン!!」

 

彼女はなりふり構わずその場から走り去っていった。

 

「あいつ、何なんだ一体……」

 

彼は全く理解出来ず、目を点にしていた。ユノンも部屋につくなり、何かにとり憑かれたのように頭を押さえてへたり込んだ。

 

(見られた……傷を見られた、見られた、見られた、見られた見られた見られタ見らレタ!!)

 

震えが止まらない、冷や汗が流れ、一気に嫌悪感の塊に押し潰されそうになり、錯乱したかのように自ら頭をベッドに叩きつけた。

 

「うう……っ、あああ……っ」

 

彼女はまた引き出しに手を出し、中からあのナイフを取り出した。そして、

 

《グッ!!》

 

ついにやってしまった。封印していたハズのあの行為を。左手首の真ん中に新たな切り傷と共に、赤い血液が一筋の流れを作った。

 

(まだだ……まだ足りない!!もっと、もっと、もっとぉっ!!)

 

勢いに任せてさらに一つ、2つと新たな傷を作っていく彼女はもはや、いつもの冷静さを失っていた。

 

「ああっっ!!」

 

勢いが強すぎて静脈付近を深く切りつけてしまい、激痛と共に夥しいほどの血液が流れ出してしまった。段々、床や服にも垂れた血液で染めはじめる。

 

(いたっ!!ヤバい……このままじゃあ!!)

 

彼女は何を思ったのか、部屋のシャワー室内に向かい、ありったけの水を出してその傷を洗いはじめた。

 

しかし、一向に出血が止まる気配がない。

 

(なんで……なんで止まらないのぉ!?)

 

逆効果である。水はともかくお湯では一向に傷口は塞がらないのである。

 

頭の良い彼女ならそんなことは認知しているが、それはいつもの「冷静」の時である。今の彼女は完全に「錯乱」している。次第に彼女の意識が遠のき……朦朧していた――。

 

「ああっ……あっあ…だっ……誰……か……っ」

 

……5分後、ユノンが気になって仕方がないラクリーマは彼女を探し回っていた。

 

「あいつ、どこいったんだ!?こうなったらあいつの部屋へ言ってみるか」

 

すぐさま彼女の部屋に向かい、中へ入ったが、ソファーにもベッドにもいなかった。

 

「これは……」

 

床を見ると、血痕と思われるあとがある。ほぼ全体が凝固していることがわかることから結構時間がたっていることがわかる。

 

「これは……まさかあいつの……!?」

 

彼にとてつもない不安感が襲い、辺りを見渡した。すると、床には血の痕が部屋のシャワー室まで連れて付着していることに気づいた。

ラクリーマに寒気が襲い、すぐにシャワー室の扉を開けた。そこには蛇口からお湯を出したままユノンがぐったりと倒れている。周りには血と水が混ざりあった赤い池が彼女を浮かばせているようにみえた。

 

「お、おいユノンっっ!!しっかりしろっ!!」

 

彼女を抱き抱えるが、意識がない。顔面蒼白で、そしてお湯を浴びているにも関わらずやけに身体が冷たい。

 

胸に耳を当ててみると、微かに鼓動はあるが、とてつもなく早い。

 

――出血性ショックを起こしている。彼はすぐさま、所持していた通信機を取りだし、焦り口調で喋り出す。

 

「きっ、緊急事態だ、大至急ユノンの部屋にボードを持ってこい!あと、サイサリスにメディカルルームに行くよう伝えてくれ!」

 

『どっ、どうしたんですかリーダー!?』

 

「ユノンの左手首から大量出血して今にも死にそうな状態だ、迅速に行動してくれ!」

 

『ええっっ!?わかりました、艦内放送で伝えます!』

 

「頼む!」

 

通信を切り、見たところ、出血が弱まっているのでいち早く、彼女へシャワー室から出そうと持ち上げた時、

 

「あがあああっっ!!」

 

持ち上げた拍子で彼のあばら骨に激痛が走り、ガクッと膝をついてしまった。

 

「はあああっ!!かはっ!!」

 

彼は苦痛を交えた表情をしているが、それをこらえてまた彼女をぐっと持ち上げた。

 

「うぐ‥‥ぐぐぐっ!!」

 

歩くごとに激痛が走るが、歯を食い縛り、また一歩、また一歩と歩く。相当な苦痛を味わっているはずなのだが、今の彼には休む余裕などなかった。

 

――部屋へやっと飛び出した所、ようやく部下達があの移動用円盤に乗り、駆けつけた。

 

しかし、ラクリーマの腕に抱えられてぐったりとした彼女の変わり果てた姿に表情が一瞬で真っ青となり、言葉を失った。

 

「おっ……お前ら……早く……ユノンをっ」

 

よくみるとラクリーマの様子もおかしい。大量の汗を流し、今にも彼女を落としそうなくらいに震えていた。

すぐさま、彼女を円盤の上に乗せた瞬間、彼もその場で倒れ込んだ。わき腹を押さえて悶絶している。

 

「リーダー、本当に大丈夫ですか!?」

 

「お、俺は大丈夫だ、それよりユノンを早くメディカルルームにぃ……急げ……っ」

 

「…………っ」

 

心が引き裂かれる思いで、彼の言う通りにユノンを乗せた円盤は猛スピードで通路をかけていく。果たして、彼女は助かるのであろうか……。

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