そして来る日。ワープホール空間。エクセレクター艦内、ブリッジでは部下達と共にラクリーマ、隣にのび太があとわずかに迫った地球を心待ちしていた。
「お前らにはホント世話になった。これはアマリーリスのリーダーとして礼を言う。
といってもしてやれることは地球に帰すことぐらいだけだが……」
「いやぁ~~それほどでもないよ」
のび太は見るも恥ずかしいくらいにデレデレしている。
「もう少しで地球に到着する。のび太との約束事を果たして、連邦がこないうちにずらかるか」
……のび太は突然、こう言い出した。
「また……会えるよね?」
「のび太?」
「僕、またラクリーマやここの人達と一緒に宇宙や色んな惑星へ旅をしたい!!今度はしずかちゃんの他に友達を連れてさぁ!ねえ、いいでしょ!?また地球に立ち寄ってよ!!」
どうやらここにいる間にのび太はアマリーリスを気に入ってしまったようだ。
彼はそうせがんでいるが、ラクリーマはまるでまともに受け取ってないかのように鼻で笑った。
「はっきり言って無理だ」
即答であった。
「ええっ!どうして!?」
「理由?あたりめえじゃねえか」
「…………」
「俺は地球に襲わないと約束したが、それはもう二度と訪れないと言う意味も含めて言った。また来ると地球を侵略したくなるかもしれんからな」
「けど……」
「それに前に言わなかったか?俺らとお前らは根本的に考えが違うとな」
そういえば、ここに来た時に彼がその「互いは根本的に違う」を言っていたのを思い出した。しかし、のび太はあまり意味は深くないと気にしてなかった。
「元々、お前らは侵入者で対面した時に俺が殺すはずだったが、早撃ち勝負でお前が勝ったから義理で助けて地球に送っている。本当なら俺達から見ればお前ら二人は敵同士で、絶対に相容れない存在だ」
「けど……僕らはここの人達に優しくしてもらったよ!?敵だなんて……思いたくない……」
「これだけは言っておく。お前らが俺らに対してどんな印象を抱いてるか知らねえが結局はそりがあわねんだよ、俺達は『悪』だ。
もし万が一、またお前と出会ったらその時は俺は今度こそ容赦しねえ。お前を絶対に殺す。約束を果たしたらもう今までのことはなかったことになるからな、これは特例と思え」
「そんなぁ……」
「それになぁ、あんまり行きたくねえんだよ。地球周辺にはな」
「……えっ?」
「多分……今に分かるぜ」
その時の彼は、何処か思い詰めているようにも見えた。
「リーダー、ワープホール空間からでます」
オペレーターの指示があり、彼はモニターを見上げた。
「艦内に告ぐ。いつでも戦闘に移行できるよう、素早く準備しろ。各戦闘員は格納庫で待機、それ以外の者はそれぞれ持ち場につけ!」
突然、戦闘準備を命令するラクリーマ。一体何が起きたのだろう……。甲高いサイレンまで鳴り響き始め、辺りは騒然となっている。
「ユノン、仕事を切り上げて早くブリッジにこい。本命のおでましだ!」
彼の言う本命とはモチロン……。
……この巨大な宇宙船はワープ空間という次元の裂け目からまるで王者がお出ましたようにゆっくりと勇ましく抜け出した。が、それはスグに終わりを迎えた。
「ラクリーマさん、前方12000ギャロの左右に計二十隻の宇宙艦が展開しています!
エネルギー質量『ランクB級』12隻、『ランクA級』7隻、そして『ランクS級』が1隻……もしかしてコイツらが!!」
「そうだ、俺達の最大の敵『銀河連邦』だっ!!」
ついにかち合う両勢力、今まで対立どころか対面さえなかったこの時を、特に銀河連邦は待ちわびていた。
「これがアマリ―リス艦……」
連邦側から見たエクセレクターの印象は女性の顔を呈した艦首は、妖しさもあり、そして不気味さを感じさせた。
そしてさることながら、ヴァルミリオンと同等といっていいほどに巨大と思わせるほどの存在感と威圧感を放ち、隊員たちを畏怖させていた。
無論、アマリ―リスもその自分達より戦力が圧倒的に上である銀河連邦に対面してしまったことにより、戸惑いを隠せずにいた。モニターには20隻の銀河連邦艦が自分達を睨み付けているようにこちらの方へ向いている。
逃げ道などない、背を向けて逃げようにも無理がありすぎるし、そうしようものならたちまち集中放火を受けて、完全に宇宙のチリと化してしまうだろう。
「ワープしようにも敵艦より向こうでないと空間を形成できません!!」
「……さすがは連邦だな。まさかとは思ってたが俺達のワープ到着地点をピンポイントで計算して待ち伏せだなんて……恐れ入ったぜ」
「これじゃあ袋小路ですよ!」
オペレーター含む、周りの部下たちは徐々に焦りはじめている。ラクリーマただ一人だけがいつもと似合わず冷静さを保っていた。
「とりあえず策はある……連邦にこちらの映像を送れるか?」
「……なんとかやってみます!」
オペレーター達はパネルとキーをカタカタ動かし始めた――。
……一方、連邦もこちらからアマリ―リスに警告を出す作業に取りかかっていた。ヴァルミリオン艦内の中央デッキではカーマイン筆頭にドラえもん達、エミリアとミルフィ含む、各主要人物が宇宙空間で静止しているエクセレクターを捉えたモニターを見ていた。
「あの中に……のび太としずかちゃんが」
「……僕、なんか怖くなってきた……」
「…………」
ドラえもん達三人は不安であった。
のび太達はちゃんと生きているのか、もし生きているとしても見事、救い出せるのかが心配でたまらなかった。
「エミリア……大丈夫?」
「えっ、何を……」
「…………」
また、ミルフィも憎い敵を前にして顔を深くしわを寄せているエミリアを心配していた。
「提督、急にモニターが!」
「どうしたことだ!?」
……突然、モニターがザーザーと言う音と共に歪みだし、モニターを見ていた全員が驚愕する。オペレーターは必死で直そうと試みるが。
「一体原因は……アアッ、何かがモニターに割り込んできます!!」
「何だと!?」
乱れていたモニターから何か人間の顔のようなシルエットが浮かび上がり、徐々にその姿が明白に表れ――。
『ご機嫌よう、銀河連邦の方々。初のご対面かな?』
浮かび上がったその顔はボサボサした銀髪、真紅に燃えた螺旋の瞳、顔の至る所にたどたどしく浮かび上がっている傷、まるで状況をわかってないのか、それとも何か絶大な自信があるのか理解し難いほどに不敵な笑みをとる男の顔がモニターに映り込んでいた。
『俺はこのアマリーリスのリーダーのラクリーマ・ベイバルグだ』
彼の堂々とした名乗りに見ている者全員が驚きを隠せなかった。この男は若い。自分達が想像していたのと比べて遥かに若く見えた。張りのある肌に、傷だらけであるが若者特有のはち切れんばかりの精気が感じさせる。
……10代後半から20代前半ぐらいの歳と思われる。こんな青年がこの極悪組織をまとめていると考えたら……恐ろしい以外に何事でもなかった。
カーマインはその彼の通信映像を冷静に見つめ、静かに口を開いた。
「自ら名乗り出るとはなかなかの度胸を持っているではないか」
『別に隠す気はないんでね。むしろ宇宙屈指の銀河連邦『さん』に俺の名を覚えてもらうこと自体が光栄だ』
「そんな心配はいらない、今にお前達の名が全域に知れるようになる」
『…………』
「大人しく投降しなさい。我々は無益な武力行使は行いたくない。素直に応じればお前達の罪は絶対軽くなるぞ。応じない場合はどうなるか、わかるだろう?」
彼の要求にラクリーマは一旦、沈黙する。しかし、次第に閉じていた唇が開くとそこに並んだ真っ白い歯が閉じており、壁のようにその奥を遮っていた。
唇は左方向に向かって斜め上に引き上っていた。
……彼は笑っていた。
『実はな、こちらには二人の地球人のガキが入り込んでいてなあ?』
その発言にドラえもん達、エミリアとミルフィが敏感に反応した。
「……のび太達だ!!」
「間違いないよ!!」
「やっぱり乗ってたんだ……」
三人は確信した。そしてエクセレクターではついさっきブリッジに到着したユノンと一緒のしずかはすぐにのび太達の方へ向かう。ユノンは相変わらず焦る素振りを見せず、冷静に歩いてくる。
「のび太さん、ラクリーマさん、これは一体……」
「僕もよくわかんないんだよ……」
状況が全く掴めていない二人にラクリーマが手招きする。
「二人共、ちょっとこい」
「「?」」
二人はラクリーマの指示で彼の前に立たされた。
「のび太君としずかちゃんだ!」
「アアッ、ホントだ!!」
モニター越しであるがドラえもん達の目の前でついに姿を見せるのび太達。
これで連邦全員にとって、一つの不安はなくなった。
「いっ、生きてたんだ……よかったぁ~~っ!」
ドラえもん、ジャイアン、スネ夫の三人はどれほど嬉しいことか……。しかも二人には傷ひとつ見あたらないのはこちらからは正に奇跡としか言い様がなかった。
『コイツらには傷一つもつけてねえぜ。 そこでよ、取引しねえか? 』
「取引……だと?」
『なあに。別に難しいことじゃない、俺らもこんなとこで御用になりたくないんでね。今回限りでいいんで何もせず俺達を見逃してくれればそれでいい』
「…………」
『この要求を飲んでくれれば今すぐにでもこの二人をそっちに明け渡そう。約束は必ず守るつもりだ』
「もしその要求に応じなければ……」
『その時はこいつらがどうなるか、そっちもわかるだろう?クククッ……』
警告を与えるつもりが逆にあちらから交渉という予想だにしなかった出来事である。
『まあ、俺達は別に急いでなければ焦ってもねえし、どれだけでも待ってやる。せいぜい悩んで決めな。俺はどちらでもかまわないがなるべく互いに穏便且つ後腐れのねえよう済ましたいもんだな。それじゃ取りあえず一時間後にまた聞きにくるから楽しみにしてるぜ』
そしてラクリーマの顔は消えて、普通のモニター映像へ戻った。辺りは静かであるがどこからかひそひそ話も聞こえてくる。
「提督、奴らの要求を受けますか?」
「…………」
はっきり言ってカーマインは悩みに悩んでいる。
要求を無視してアマリ―リス逮捕を実行しようものならそれこそ、ドラえもん達の友達を見殺しにすることになる。それではこの子達の約束を破ることになり、憎まれるかもしれないし提督としての信頼を一切失うことになるかもしれない。
しかしここで捕まえなければ、さらなる惑星、生物が危険にさらされることになる。
今回はかなり奇跡に近い、あちらから出向いてくると言う絶好の機会を逃せばいつまた対面するか分からない。
宇宙中の至る宙域には様々の部隊が駐屯しているにもかかわらず、一回も出くわさなかったのだから、次にまた見つけるのは至難だ。
それにこちらの信頼や誇りにも関わる問題など、考えたらキリがない。
……心を鬼にして仕事を優先するか、その場の情を選ぶか……。
本来なら情より任務を優先させるのが正しい。それは彼でも分かる。
しかし後ろに振り返るとあの子達が友達を何とか助けてほしいと言いたそうな瞳で自分を見ている。それが彼を戸惑わせる要因になった。
「提督、奴らの要求に応じなければこの子達の友達は……」
「しっ、しかし奴らを見逃せばますます被害と犠牲者が増えるぞ!!」
「じゃあ何かいい案でもあるのか!?」
「今考えてるんだよ!」
中央デッキ内ではあれでもないこれでもない討論が巻き起こり、ピリピリと緊迫感が充満する空気が蔓延した。
《静まらんかぁっっ!!》
シビレを切らした提督の力強い渇がこの中を一瞬で鎮まりかえらせた。
「時間をくれ。ここにいる全員と各艦長と相談した上で最終的に私が決める。これは私一人の独断ではいけない……」
今の彼は平然とした態度でいるが、内心は切羽つまっていると考えられる。ここにいるほとんどの者がそう思えるのであった。
「君達、少し待っててくれ。私もあの二人を助けたいのは山々だ……わかってくれ」
ドラえもん達にそう尋ねるカーマイン。
本人達も彼からただならぬ真剣で苦しい思いが伝わり感じている。
スネ夫、ジャイアン、そしてドラえもんの三人は互いに見向き合い、うんと頷くと彼に目を向けた。
「分かりました。僕たちもあなたの考えに全てを委ねます。こんな時にワガママを言うつもりはありません!」
「けど、出来ればのび太達を助ける方向で……」
「そこは俺もスネ夫の考えに賛成だ。けどドラえもんの言うとおり、俺達はここの人たちと協力するつもりでここに来たんだ、自分勝手なことは言わない。
それに……あんな悪党どもを逃すほど許せるわけないからな!カーマイン提督、頼みます」
三人の意見に彼も少しであるが表情が和らいだ。
「ありがとう君達。もう一度言う。全員に悪いと思うがどうか時間をくれ。考えて考え抜きたい、そして最良の決断を下したい」
……誰も否せず全員は一斉に賛成の意を込めて首を縦に降った。