ヴァルミリオン、中央デッキでは……。
「エミリア大尉がついに突入成功しました。が……」
「アマリーリス艦、主砲を発射する様子がありません……。それどころか敵艦のエネルギー質量が大幅に低下。これは一体……」
今、エクセレクター内では大変な事が起こっていることも知らず、様々な憶測が呼ぶが、カーマインはそれを最後の希望を感じとり、再び眼を輝かせた。
「これは神が我々に与えてくれた最後のチャンス!!この好機を逃すつもりはない。動ける機体は直ちにアマリーリス艦に突入せよ。敵ユニットは相手にするな!!」
最後の奇跡か、その事態に希望と活路を見出だす銀河連邦。諦めかけていた全員はまた元気を取り戻し、全力で行動を開始した。
「二人に連絡取れるか?」
「それが全く応答無しです!!」
「く……エミリア、ミルフィ……なんとか無事でいてくれ。あの子らも一緒なんだぞ……」
◆ ◆ ◆
宇宙空間ではアマリーリス側はその異常な光景に目を奪われていた。
「何がどうなっているんだ!?」
「ヤバイぞこれは!!」
大多数の連邦のユニットが自分達を完全に無視してエクセレクターへ突撃していく。
『各員聞いてください、先程連邦製の戦闘機が本艦内部に突如突撃されました!』
『なにぃ!?』
まるで嘘のような事だ。何も彼らのモニター上には通っていくのは分からなかった。だがそんなことより心配だったのは、
「ゆ、ユノンさんは!?」
『た、大変危険な状態です、大量に吐血して彼女に取り込んでいた機械達がさらに彼女を取り込もうと……』
一気に血の気が引いた。さっきまで優勢で興奮状態による熱気の汗が一気に絶望となり冷や汗へと変わった。
「まさかあいつらは……」
彼らも気づいた。今や無防備となったエクセレクターへ連邦は艦内に突入しようとしていることを。
「……冗談じゃねえぞ!!これ以上入られたら俺らの艦が……」
「バカヤロォ、そんなことよりユノンさんが死んじまう!なんとしても妨害するんだ!」
スレイヴ、ツェディックに乗った各戦闘員達は急いでエクセレクターの方向へ向い始めた――。
そして救出されたラクリーマ、レクシー、ユーダもその状況を聞き、耳を疑った。
「……なんてこった……リーダー、どうしますか!!」
何とか助けられ、コックピット内レクシーの後部座席で座るラクリーマだが、身体が酷くボロボロで疲労困憊でぐったりしていた。
ログハートもこんな有り様では使えないだろう……ついにログハートがボロッと崩れるように床に落ちて本来の右手が露出した。そして震える右手で通信機に触れて、ゆっくりとした動きで口を開いた。
「……戦闘員全員に告ぐ。直ちに撤退だ。俺らの艦を……防衛に移る……各員、個人武器を携行して連邦兵と応戦せよ……あの数ではどのみち侵入は避けられない……なら徹底抗戦に移った方が効率がいい。レクシー、エクセレクターに帰艦だ」
「はいっ!!」
エクセレクターへ向かおうとするがシルバリオンが突然、分離を開始。ユーダの座っている席が後ろへ引っ込み、ツェディックとスレイヴ、セルゲイナスの三機に戻った。
「ユーダ!てめえ何のつもりだぁ!!?」
『クククッ……この時を待ってたぜ。もはやアマリーリスは終わりだ、ならもう見切りをつけねえとな!』
……彼はここで彼らを裏切ってしまった。この最悪のタイミングである。
「まっ、待てユーダァァ!!」
『へ、待てと言われて待つ奴はいるか?せいぜい頑張んな、
彼の乗ったツェディックは何処かへ飛び去っていく。レクシーは耐え難いほどの怒りを顕にし、歯をギリギリ鳴らしていた。
「あんのクソ野郎ォォーーっっ!!」
「レクシー……あいつはもういい。今はエクセレクターの防衛だ」
「くっ……」
彼の裏切りにより、複雑な心境となった二人は優先すべきことを先決し、すぐにエクセレクターへ向かった。
「…………」
しかし、ラクリーマは寒そうに身震いしている。身体中にものすごい量の冷たい汗が……。しかし今度は彼の鼻からだらだら血が流れてくる……ぶつけてもいないのに、ましてや興奮していないのに、だらだら血が流れてくる……。
(……まさか……)
彼にある不安が横切り、すぐに頭の髪の毛を掴んだ。すると。
「…………」
不安が的中した。軽く引っ張っただけでゴッソリ髪の毛が抜けたのであった。それをレクシーにバレないようにポケットの中に入れた。
「レクシー、お前身体は何ともないか……?」
「いっいえ特には……どうしたんですか?」
「……いや、なんでもねえ、早く急ごう」
しかし彼は目を瞑り、軽い笑みを浮かべたまま痙攣しているかの如く、ブルブル震えていた。
「……私もアマリーリス艦に出向く、宇宙艇の用意を!」
――ヴァルミリオン、中央デッキ内。カーマインは突然そう言い放つと部下達は狼狽した。
「なっ……何を馬鹿な事を言っているんですか!!余りにも危険過ぎます!!」
「そうですよォ!提督にもしものことがあったらどうするんですか、アナタは艦長なんですよ!」
全員が彼の行動を止めようと説得、抑えようとするが彼は聞かなかった。
「艦長ではないっっ!!」
ついに自分を否定する発言を口にしたカーマイン。
「……こんなに甚大な被害を出してしまった私は艦長でいる資格はないのだ。……完全に作戦不足であった。もう少し慎重に作戦を練り、行動、指揮していれば……」
彼の発言には後悔だらけであり、重苦しい雰囲気を漂わせている。
「……覚悟はすでに決めている。どのみち私はこの作戦の後、退職するつもりだ。もし死ぬときは艦長としてではなく一人の隊員として全うしたい。本当に皆にすまないと思っている。こんな身勝手すぎる艦長で……こんな無能な指揮官で……っ」
彼は副長に全てを託すような目で見つめた。
「副長……後は君が指揮をとれ。君なら私以上の活躍をしてくれる」
「……」
本人は何とも複雑な表情をしている。彼は決して冗談など言う人物ではない。一言全てが真剣であるカーマインは本気であった。
「私、カーマインはこれよりアマリーリス艦に突入する!!」
カーマインは背を向けて向かおうとした時。
「カーマイン『提督』!」
一人の隊員が彼を呼び止めた。
「一人では危険です。私を護衛として同伴させてください!!」
「なっ!?」
「よければ自分も!!」
「私も志願する!!」
その言葉を発端に、次々と名乗り上げる隊員達。
「ダメだ、あまりにも危険すぎる!君達はまだ若い、命をムダにするもんじゃない!」
「提督が何と言おうと私達からすれば艦長は貴方しかいません。私達は提督を信頼してここまで来たんですから、ここで貴方を失ったら私達は誰の指揮に入ればいいんですか?」
「……君達は副長の指揮下に入ればよい!!」
しかし副長は首を横に振っている。
「……私もここにいる全隊員に賛成です。私は提督がいたからこそここまでこれたのです、殉職した隊員達は全員死ぬ覚悟で挑んでいたでしょう。それに提督とあろう方がそんなふざけたことを言わないで下さい。
私が今、指揮を任されたと言ってもこんな急では何をしていいのか全くわかりません」
「…………」
「艦長、少なくとも今作戦は最後まで提督の指揮下で動きます。我々は一歩も下がる気はありません……」
「副長……」
彼はグッと手を握りしめ、身体中を微動させていた。しかしそれもすぐに治まりすぐに顔を正面に向けてキリっとした眼で隊員達へ向けた。
「私はこれよりアマリーリス艦へ突入し、内部で私が指揮を取る!!誰か護衛、及びサポートを頼む!」
「提督……はいっ!!」
各員が準備をする中、カーマインは副長にこういった。
「すまなかった、わたしとあろう者が取り乱してしまったようだ。副長、これより本艦で待機及びアマリーリスの動向、監視を頼む。途中、私の指示により応援を」
「了解しました。提督、私はあなたに死んでほしくありません。絶対に無理をなさらないでください」
「……うむ!」
笑顔と活気を取り戻し、今度は連邦が士気高揚し始めた。
そして、何人かの部下を連れて格納庫へ向かうカーマイン。あの円盤の乗り物で高速移動していた。
その途中、前方から何台かの同じ円盤が近づいてくる。
……どうやら艦内の医務官達のようでその横の円盤には誰かが仰向けに寝ている。それは患者のように思える。互いに敬礼し、目を合わせた。
「提督、どこへ!?」
「私はこれよりアマリーリス艦内へ移動し、指揮をとる。ところで彼は……?」
「……先程の戦闘で心身不安を訴えている患者です」
その『患者』は自分より遥かに若く、彼の着用している宇宙服の襟にある軍章を見るとそれはあのメレウル少佐が所属していた『実特科』を顕すマークであった。
本人はガタガタ震えてその目には精気が全く感じられず、ひどく怯えている様子である。
言葉も「あう……あう……」という赤ん坊みたいな片言しか言っていない。彼はメレウルのパートナー、ムーリアである。
「彼は完全に自分の殻に閉じこもってます。もはや戦闘できる状態ではありません……」
彼の姿に一行は絶句した。
「なら私達は医務室へ向かいます。どうか提督達はお気をつけて……」
そして彼らは通り過ぎていった。カーマインは数秒間振り向き、ムーリアの安否を心配したがすぐに前へ向き、格納庫への移動を再開した。
――そしてエクセレクターへ到着した大軍の連邦ユニット。 それはあのクーリッジ率いる第82光特科部隊であった。自分達がこんなに近づいているにも関わらず、何も攻撃するどころか行動何一つする気配すらない。
これは明らかにおかしいが彼らにとっては最大のチャンスでしかなかった。
「よし、装甲を破壊する。クイスト、ゼウシウス、アークェイラス、『フォージガン』発射用意!」
クーリッジの命令と共に、数十機の戦闘ユニットの右手に携行していた大型分子破壊砲『フォージガン』をエクセレクターの側面、及びに底部の一点に狙いを定めた。その丸い砲口から放たれたのは光線。
しかし途切れず放射を維持し、広がることなく一直線に集中している。それはまるで懐中電灯のようであった。装甲に直撃すると、まるで熱が伝導するかの如く赤へ変色し拡がった。『バリっバリっ』とガラスが割れるかのように金属が粉砕され、クイスト一機分が入れそうな穴が発生した。
しかし、それだけではとどまらず、次々その光を当てて装甲を粉砕していった。
「よし、内部に突入せよ!」
――そして一機、また一機とエクセレクターへ突入していくクイストとゼウシウス。
《ががぁ……ぎぎぎぃぃっ……ぎゃああ!!》
激痛のあまり、さらに暴れに暴れる彼女。それを助けようとして必死である艦内員。
「やべえ、機械達がさらに取り込もうとしているぞ!!」
「血圧、心拍数が急上昇……このままでは彼女は壊れます!」
「おい、誰かサイサリスさんを呼んでこい!俺らでは対処できん!」
そんな中、更なる追い打ちが彼らに襲いかかった。
「た……大変です!連邦のユニットが艦内へ次々に突入してきます!」
オペレーションセンター内はさらに慌ただしくなり、まさにパニック状態に陥ってしまった。
「のび太さん……どうしよう……ユノンさんがぁ……」
「ど、どうしようってったって……」
青ざめた表情ののび太達はどうすればいいか分からず、ただ状況に流されるだけであった。しかしこうしている間も彼女に更なる苦痛が……。
《ひぎぃぃー◎■Å☆γ#※‰ーーっ!!》
言葉すら成立していない支離滅裂な発音を伴った叫びが彼女の口から暴発していた。
――艦内に侵入していく連邦ユニットはその武装を持って、無理矢理艦内を荒らしに荒し、破壊し、まるで寄生虫が内臓を食い荒らすような行為がユノンに強い苦しみを与えていった。