大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦   作:はならむ

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Part.5 ラクリーマ・ベイバルグ

「そろそろトドメを刺してやらぁ。まずはこのガキからだ!」

 

男は足の怪我で倒れているしずかの頭部に狙いを定める。

彼女は激痛により、意識が朦朧としていて、ハッハッハッ……っと、短い間隔で弱々しく吐息している。

 

「一撃で仕留める。すぐ楽になるから安心しろ。まあ、聞こえてんのかわかんねえがな」

 

銃口に青白い光が収束していく。それに伴い男の義手全体から『ゴウン、ゴウン』と機械が作動している音が聞こえてくる。

 

「死ねや!」

 

男が不敵な笑みを浮かべた。しかし、

 

「!?」

 

なんとのび太は勇気を振り絞って男の左腕を体当たりでずらした瞬間に光線が発射され、間一髪、彼女の横の床に直撃。間一髪で彼女の頭を貫かれるのを防いだのび太。

 

「てってめえッ!?」

 

男が驚きの声をあげる。のび太はそのまま男の前に立ちはだかると両腕を左右いっぱいに広げた。

 

「こっ……これでも男だっ!僕はっ……僕はしずかちゃんを守るっ!!」

 

のび太にしては勇敢な台詞を言うも、それとは裏腹にのび太は恐怖から身体がガタガタ震えている。男はそんな彼を見てほくそ笑んだ。

 

「おまえ、ブルブル震えてんじゃねえか?そんなんで守るって言っても説得力ねえぞ」

 

「そっ……そんなの……しかたないじゃないかっ……!!」

 

のび太は男に反論する。確かにその通りだ。

小学生がこんな窮地に立たされるのは滅多にないことだ。しかも相手は殺すことに何のためらいも持たない男、恐怖するのは仕方がないことだった。彼は自分なりに友達で好意を持つ少女、しずかを守ろうとしているのだから。

 

「…………」

 

だが男はすぐに無表情になる。そのまま十数秒間のび太を見つめる。

 

一方、それを見ていた男の部下達は男と同じくクスクス笑っていた。

 

「あいつガタガタ震えてやがるぜ?クックック」

 

「まあ相手が俺らのリーダーだからな。仕方ねえけど」

 

そんな言葉が飛び交う中、男は突然、ニイッと歯を出して笑い、のび太にこう言った。

 

「小僧、俺が憎いか?」

 

「えっ?」

 

突然の質問にのび太は動揺する。すると男は周りを見渡し大声を張り上げた。

 

「なあ、誰か実弾銃持ってねえか?もしあったら俺に貸してくれ、勿論弾入りのな!」

 

その言葉を聞いて部下達は初めは「なぜなんだろう?」と困惑するが、すぐに自分の銃を探し出す。すると一人の部下が自分の銃を掲げた。

 

「リーダー、これを使ってください!」

 

「おう、ワリィな!」

 

部下が銃を投げ渡し、男は銃を右手で受け取るとマガジンを抜き、弾丸を一発だけを残して床に置く。マガジンを再び銃に装填し慣れた手つきで素早くコッキングしてそれをのび太に差し出す。

 

「えっっ!?」

 

のび太は銃を持てと言わんばかりの男の手にある銃を見て焦り始める。

 

「ほれ、銃を持て。安全装置は外してあるがまだ撃つなよ?」

 

「えっっ!?えっっ!?」

 

男は無理矢理のび太の手に銃を置いた。ズシンと重い本物の銃がのび太の触感を刺激する。男はのび太から10メートルほど離れのび太の方へ向き、そしてこんなことを言い出した。

 

「今からお前と俺、どっちが早撃ちできるか勝負だ。もし俺を見事に殺れたら地球まで送ってやるよ」

 

「ええっ!?」

 

なんと男はのび太に早撃ちによる決闘を申し込んだのだった。それは誰もが予測していないことだった。

 

「りっリーダー!!何考えてるんスかっ!?」

 

「そんなガキ、もう殺りましょうよぉ!」

 

部下達から反感を買われる男。なぜなら今までこんなことはなかったからだ。

 

「いいじゃねえか。たまにはこんな余興も必要だ」

 

男は気軽にそんなことを言う。

 

「もし万が一、リーダーの身に何かあったらどうするんで?」

 

男への心配から飛び出した発言に男は質問した部下にニイッと笑って受け答えた。

 

「俺が死ぬわきゃねえだろ?まあ万が一、俺がくたばっちまったら……ユノン!」

 

男は司令搭のてっぺんから二人を見下ろしている謎の女性、ユノンに向かって声をかけた。

 

「その時は……お前が俺の後を引き継ぐんだ。なあに、お前の頭脳と知識なら充分やってけるさ!」

 

「…………」

 

ユノンは何も言わず、ただ男を見つめているだけだった。部下たちも悲しげに男の言葉を聞いていた。

 

「リーダーっ……」

 

男は再度のび太の方へ向くと、また不敵の笑みを浮かべた。

 

「そういうワケだ。約束は絶対に守る、思う存分自力を出しきってくれ。お前らも、もし俺がやられたらこいつらを地球に送り届けてやれ、いいな!」

 

それを聞いてここにいる者全員が静まりかえる。間違いない、この男は本気で自分の命を賭けにきている。その気迫と自信が十分に感じられた。

 

「あわわわわっ……」

 

のび太の身体中ぶるぶる震えている。もう生き残るか死ぬかの二つしか選択肢がないように思えたからだ。生死をかけた決闘に彼の顔には嫌な汗がだらだら流れてきている。

それを見た男はのび太を奮い立たせたいのか、こう言い放った。

 

「小僧、この女を守りてえんだろ?勝ったらこいつの傷を治してやる。お前も男なら命をかけて女を守ってみろってんだ」

 

「……けっけど僕は小学生の子供だよ!こんないきなりの決闘なんて!」

 

「けっ!なら二人ともここで死ぬか?俺は容赦なんぞしねえがな」

 

のび太の顔が青ざめる。それに反して男はさらに追い打ちをかける。

 

「子供だろうがなんだろうが、ここはそんな肝っ玉のちいせえ男は生きる資格がねえんだ。てめえみたいになよなよしてるヤツはこの俺が自ら地獄へ送ってやらあ。さあどうする?やるかやらねえのか……どっちだっ!」

 

その言葉からはしてもう逃げ場などなかった。例え命乞いをしても逆に男に怒りを買い、殺されてしまう。ということは……。

 

「ほ、ホントに勝ったらしずかちゃんを治して、地球へ送ってくれるんだね……っ?」

 

ついに覚悟を決めたのび太。それを聞いて男は嬉しくなりニィっと笑みを浮かべた、

 

「おうよ、それにもう地球には関わらねえと約束する。命の賭け合いをするんだ、そのくらいの条件はつけねえとな」

 

それを聞いたのび太はうなづいた。すると男はある部下の方へ向いてこう言った。その男はのび太達を最初に発見し、発砲した身体中に鱗を持つ男である。

 

「おうレクシー、お前の手叩きの合図で勝負する。タイミングはお前に任せるぜ」

 

レクシーと言うその男は頷き、震え声で男にこう言った。

 

「リーダーっ……無事を信じてますぜ……!」

 

男は自信げにガッツポーズをとった。一方、のび太は倒れているしずかをもの悲しげに見ていた。

 

「しずかちゃん……負けたら僕たち死んじゃうけど……その時はごめんね……っ」

 

言ったことを後悔し始めるのび太。なぜこんなことになったのか、もし負けたら自分達は、ドラえもん達は、地球は……。

 

しかし、のび太にあることがよぎった。

 

(なっ……何考えてるんだ僕は……僕には、僕には射撃という誰にも負けない特技があるじゃないか!?)

 

普段は何をやってもダメな小学生、のび太。しかし彼にも非凡な才能を持っている。居眠り、あやとり……その中でも際立っているのがそう『射撃』である。

 

彼はかつて様々な悪や敵と戦った。崩壊寸前のコーヤコーヤ星で対峙したガルタイト鉱業の用心棒で宇宙の殺し屋ギラーミン、その圧倒的戦力で地球人を奴隷にしようと企んだメカトピア星の鉄人兵団……etc。そんな戦いを助けてくれたのはこの才能のおかげと言っても過言ではなかった。

 

そう……のび太は自分の才能に全てを賭けようとしていたのだ。そんなのび太を見て、

 

「お前、ただのガキじゃねえな。銃の持ち方と今の雰囲気からして戦い慣れしてんじゃねえか……おもしれえ!」

 

辺りに緊迫した空気が辺りを包む。両者とも互いに睨み合う。勝負は一瞬、どちらかの発砲で全てが決まる――。

 

その静寂を破り、ついにレクシーが力強く手を叩き合図が聞こえた瞬間、両者とも己の武器を同時に上げ、そして。

 

「……………………」

 

甲高い発砲音がこのエリア内に鳴り響いた。全員がまるで時の止まったように静止している。もちろん、二人も静止していた。しかし同時に男の頬の部分に横一筋のかすり傷ができ、そこから男の血液が少し流れ出ていた。

 

「はあっ……はあっ……」

 

のび太は息が酷く荒れて、銃を地面に落としそのまま膝をつく。一方、男は頬にかすったような痛みが走り指を当てると濡れた感触がして、見てみると自分の血がついている。

 

先に撃ったのは実はのび太だった。しかし、男を殺せなかったのはのび太の優しい性格が無意識に男の身体に銃弾を撃ち込まれなかったのかもしれない。

 

「クククッ……わはははははっ!!」

 

急に男は馬鹿みたいに大声で笑いだす。それをその場にいた全員がポカーンと見ている。

男はしずかをお姫様みたいに抱き抱えると、周りに聞こえるようにこう言った。

 

「こいつをメディカルルームに連れていって治してやれ。今ならまだ間に合う!」

 

その言葉は全員を驚愕させる一言だった。部下全員がざわめき出した。

 

「ちょっとまってくだせえ!しょ……勝負は!?」

 

部下の問いに男はのび太に向かって指を指した。

 

「勝負はあいつの勝ちだ。だから条件通りにこいつらを地球に送り帰す、地球侵略もやめだ!」

 

部下は一層ざわめきだした。なぜならどっちも死んでいない、つまり勝負は決まっていないのに男はのび太に勝利を宣告したのだから。それを男は部下に説明する。

 

「見ろよ、この俺の顔の傷を。あんなガキがこの俺より先に撃ったんだぜ、それだけでもすげえとは思わねえか?

しかも、殺す殺す言ってた俺さえもこいつは俺を殺さなかった。アマちゃんだと思うやつはいるかもしんねえけど俺からしたら大したガキだよ」

 

それを聞いた部下達は全員呆れ返る。しかし、レクシーただ一人はニヤニヤした顔で拍手をし出した。

 

「リーダーの言った通りだ。こいつの勇姿を見せてもらったぜ。地球人てのは案外やるかもな、ハハハハハッ!」

 

レクシーの言葉と笑い声に賛同したのか他の部下たちも、

 

「んだなっ!!ギャハハハハッ!!」

 

なんということだろう。今までの重い空気と違って今はうるさすぎるほどの笑い声の合唱に周りは急に明るくなったのだ。

その中、男は膝をついて放心状態ののび太の方へ足を運び、前に立つと手を差し伸べた。

 

「お前の勝ちだ。よかったな」

 

のび太は顔を上げるとそこには爽やかな笑みを浮かべた男が手を出している。

 

「えっ?僕……勝ったの?」

 

「その通りだ。今からこいつをメディカルルームで治療する。この程度の傷なら治すのに時間はかからん。付き添うか?」

 

するとのび太は急に安心感を得たのか、大きなため息をついて力が抜けたのかヘロヘロになった。それを見てニヤッと笑う男。

 

「俺はアマリーリスの総リーダー兼この宇宙船エクセレクターの艦長を務めるラクリーマ……ラクリーマ・ベイバルグだ。お前は?」

 

のび太は恥ずかしいのか頭をかいてこう言った。

 

「僕は……野比のび太。みんなからのび太って呼ばれてるよ」

 

「ほう、のび太か。随分と変わった名前だな、よろしくな!」

 

ラクリーマと名乗る男はのび太に右手を出した。どうやら握手のようである。

 

「あはっ!」

 

のび太も笑いがこぼれてラクリーマと握手を交わす。のび太はあの決闘で勝利を勝ち取ったのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

「うっ……うん……」

 

しずかは意識を取り戻したようだ。視界がぼやいていたがすぐに見えるようになった。

 

「しずかちゃん!」

 

「のっのび太さん……?」

 

しずかはベッドから起き上がると辺りを見回した。さっきの広い所とは違い、水色に光る証明にアクアマリン色をした謎の装置が至る所に置かれている奇妙な場所だった。

 

「ここはっ……それよりあのあとどうなったの!?」

 

不思議がるしずかにのび太は笑顔でこう答えた。

 

「ここは治療室。ここの人達は僕たちを受け入れてくれたみたい」

 

「ええっ!?どうやって!?」

 

「そっそれは……」

 

二人が会話していると、足音が聞こえて段々近づいてくる。

 

「よおっ!足の具合はどうだ?」

 

「ひいっ!」

 

現れたのはあの男、ラクリーマであった。彼を見たしずかは当然怯えてのび太の背中にさっと隠れる。

 

「悪かったって、そんなに怯えなくてもいいだろ!」

 

ラクリーマは苦笑いした表情でしずかをなだめようとする。

 

「ラクリーマが僕たちを地球に送っていってくれるって!」

 

「ほっホントに!?」

 

驚くしずかに深く頷くラクリーマ。

 

「お前らは客人扱いだ、ここからだと地球までちいと日にちがかかるが旅だと思ってゆっくり楽しんでいってくれ。お前たちの部屋も手配するし、あとで部下に頼んでエクセレクター艦内を案内させる」

 

それを聞いたしずかは何か気の毒そうな顔をした。

 

「いいんですか……?そこまでしてもらって……っ」

 

「礼ならのび太に言ってくれ。元々お前らはあの場で殺すハズだったがこいつの行動がお前らを救ったんだ。俺はただ約束を果たすまでだ」

 

それを聞いたしずかはのび太を見つめる。

 

「のび太さん……何があったの?」

 

「そっそれは……まあ男同士の約束かなっ?ハハハ……」

 

「え?男同士の……?」

 

ワケがわからず頭を傾げるしずか。すると男は二人にこう言った。

 

「数時間後に食堂で宴会やるからお前らも参加しろ。それまではお前らはここで待機しているといい。部下がお前らを案内する。まあ……お前らの歓迎会みてえなモノだな。俺は仕事があるから戻る。体を休めとけよ、じゃあな」

 

そういうと手を振りメディカルルームから出るラクリーマ。

そのまま司令室へ向かおう右へ向くとそこにはあの女性、ユノンが壁を背に寄りかかり、腕組みして待ち構えていた。

 

「ねえ、どうゆうつもりなのラクリーマ……?あんな子供たちを受け入れた挙げ句、せっかくの地球侵略を棒に振るなんて……なに考えてんの……?」

 

睨みを利かせる彼女の口から出た言葉は非常に冷たい言葉だった。ラクリーマにそれを不敵の笑みで返した。

 

「いいじゃねえかユノン、宇宙は広い。地球よりもいい星が宇宙中にごまんとあんだろうが」

 

二人は並んで長い通路を歩きだした。

 

「のび太さあ、ビビって震えてたが俺に立ち向かってきやがったろ?今までの奴らは俺の前では命乞いをしたり、ただビクビクした小物だらけだった。そんな奴らにはうんざりしていたところだ。

だがあいつはしずかを守るために体を張って俺に反抗した。で、俺はこう思ったんだ。『ただ殺すには惜しい』ってな!」 

 

彼女はその理由に呆れ返った。

 

「……あんたのその馬鹿な考えについていってらんないわ、アホらしい……っ」

 

その言葉に対しラクリーマは不敵な笑みを浮かべてユノンを見つめた。

 

「へっ、俺はそんな馬鹿な考えを思い付くのが大好きだがな。まあ気にすんな。他の星の侵略作戦の立て直しといこうか!」

 

するとユノンはラクリーマにこう問いかけた。

 

「……ところであんた、もし自分が死んだらあたしに引き継げっていってたけどあれ本気だったの……?」

 

「おう、俺は嘘はつかねえよ」

 

「……」

 

二人はそんな会話をしながら、果てしない通路を歩いていった。

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