「う……くく……」
サイサリスは目覚めた。腹が痛い……殴られたような不快感が残っている。
「つ……何があった…………」
ゆっくり起きてまだ寝ぼけている頭をゆっくり馴らすように辺りを見回す。
小型挺の内部のようだが……。
「なんで……あたしがこんな中に……」
外を見ようとモニターを見ると、
「ワープホール……空間……だと!?」
おかしい、なぜ自分がこの中にいるんだ?彼女は記憶にある全ての映像を脳内で再生した。
連邦隊員に捕縛され自害しようとした時、ラクリーマに助けられて、自分の思いを伝えて謝られて……そこから全くなかった。彼女は段々と何がどうなったか思い出すと……。
「あ……ああっ!!あのバカぁァァっ!!?」
ラクリーマの思惑に全て感づいた彼女はすぐに手前のコンピュータパネルをカタカタ叩きまくる。何とかしてエクセレクターへ戻ろうとするも、
『キー入力、受け付けません、なおこの行き先は……』
彼女は必死に打ち込んでもコンピュータに拒否された――。
「嘘だろ……なんでだよ……」
彼女は諦めずに叩き込むも、全く先ほどと同じ反応であった。
「何であたしが押してもダメなんだよ……!?」
これもラクリーマがサイサリスのことだろうから必ずや戻ろうとする、そうさせないために彼しか知らないアクセスコードを仕込んでいたーー彼が出来る最後の親切であった。
《戻れといってんだよォォオォォーーっ!!》
キーを乱暴に拳を叩きつけるもそんな行為は全くの無意味であった。彼女はその場でへたり込む、ブルブル震え始め――。
《ち……ちくしょぉォォオオーーーーっっっ!!!》
彼女の嘆きは誰にも届くことはなかった……。
◆ ◆ ◆
「リーダー……」
彼らには完全に逃げ場などなかった。彼らにはもう完全にもう包囲されていて集まってきた連邦兵に銃を突きつけられている。
「……」
ラクリーマは辺りを見回すが……自分一人だけなら逃亡は容易い。が、仲間を放っていくことは彼の性格上、考えられないことだった。そしてついにラクリーマが決断を下す――。
「……わあったよ。今度こそホントにお手上げだ」
ラクリーマは似合わぬ穏やかな笑みで両手を上げた。それは降参を意味していた。
「リーダー……」
隊員達が彼の身体を徹底的に調べ上げ、手錠の様なものを両手にかけられる。
「おいあんた、こん中で1番偉いのはあんただろ?」
「あ、ああ。一応そうだが」
「俺から頼みがある……聞いてくれないか?」
「頼みだと?」
突然、カーマインに何かを要望を述べる彼にここにいる全員が注目した。しばらく沈黙するがゆっくりと口を開く。
「……俺の仲間達を許してやってくんねえか?」
銀河連邦、アマリーリス員全員が驚愕、狼狽した。突然、何を言い出すのかと……。
「今までの悪行は全て俺が命令した。こいつらは俺の命令に従ってやってただけだ、全責任は俺にある。
……とはいえ手を出しちまったのは事実なワケだし無罪にしろだなんて都合のよすぎることは言わねえ……だが、せめてもの罪を軽くしてやってくれないか?」
「…………」
「その代わり、俺がこいつらの罪全てを背負う。拷問やら何やらしたければいくらでも受けてやる。だから――」
彼がそう言っていることは軽い気持ちとは思えなかった。
その表情からは本気でそう思っていると思える。
「リーダー、何ふざけたこといってんですか!?」
「俺らはこいつらに助けられることを微塵も思っちゃないですぜ!!」
「うるせえ、少し黙ってろ!!」
訴える彼らを一喝で黙らせ、話を続ける。
「今こそはどうしようもない悪人でバカな奴らだが、まだ俺よりかは改心できる希望がある。だからどうにかコイツらを更生させてやってくれ……頼む!」
何ということだろう……その彼からは信じられないような嘆願についに部下達は唖然とした。
「リーダー……あんた何言いさらすんですかい……!?」
「俺らは悪さが好きでアマリーリスに入ったんだ!!今さら更生なんて絶対に嫌だ!!」
「リーダー、俺らがここに加入する時にこう言いましたよね!?
「俺らはもう悪さすることでしか生きられん、なら死ぬまで俺らのやりたいことして楽しもうじゃねえか」って!!
俺達はそれを理解、承知の上で入ったんだ、それをあんたはなに今さら撤回しようとしてんだよ!!」
しかし今度はラクリーマが、彼らにこう問う。
「なら聞くが、お前ら侵略の際、女子供、年寄りを殺そうとした時、少しは情けをかけたことあったろ?」
反論できず、口ごもる彼らの様子を見るとその通りのようである。
「数日前、俺対お前らの実戦訓練にしても、ユノンを処刑すると言った時のお前らの反応にしても、今までの全ての行動を見てるとな、自意識なくても心の底でそういうとこがあるってのが俺には丸分かりなんだよ。だがな、お前らにはまだ改心の余地があるって証拠だよ」
「リーダー、しかし……」
「それに言っておくがな、俺は何もてめえらを助けたいためだけにこう言ってるわけじゃねえ。なんか……虚しくてな……」
「虚しいですって……」
するとラクリーマはここにいる全員を見渡すように眼を動かした。
「俺は連邦、アマリーリス、そしてその地球人達含めてここにいる全員に感謝している。今回の戦闘は生きてきた中で一番楽しく暴れられたことにな。
戦っている最中、これ以上の幸せなんかあるもんかと思ったわ。けどもし終わってしまえばもうこんな戦闘はできねえと考えるとなんかなってな……。
だってそうだろ?もし勝ったりでもしたらもう二度とこんなことなんか巡ってこねえよ。ただでさえ戦力的に少ない俺達がまた再戦となりゃあ……それこそ組織を壊滅しかねんからな」
全員がラクリーマという男の本質を知る。
この男『生まれからして戦闘狂』であると。
彼は自分達とは違う別次元の存在であったのだ――。
「こんなこと考えているなんてやっぱり俺にはリーダーなんて向いてなかったな。証拠にアマリーリスという俺の組織をここで終わらせることになっちまった」
カーマインの方へ身体を向けるとすぐさま正座のようにその場に座り込んだ。
「だから頼む……偽善だのなんだの蔑んでもいい、虫が良すぎるのは俺でもわかる。それでもだ、どうかあいつらを救ってやってくれ!!俺の心からのお願いだ!!」
目にする者全員が狼狽する。彼は頭を地面に付けて嘆願する。それは地球でも見る『土下座』であった。
レクシー含め、部下達はその姿に呆然だった。なぜそこまでして自分達の事を……。彼の行動が理解できなかった。
「ラクリーマさん、やめてください!!そんなみっともないことを!!」
「そうですよ!!プライドってもんがないんですか!!?」
しかし彼は頭を上げず、こう答えた。
「俺は今まで、やりたいようにやってきたからプライドなんぞ初めから持ってねえよ」
「リーダー……」
「こんな俺に幻滅したか?それでいいさ、むしろそうしてくれた方がお前らも諦めがつくぜ」
彼の堅い決意はもはや曲げることは出来なかった。そんな時、
「くっくっく……確かに都合が良すぎるんじゃねえか?」
突然、彼の前にある隊員が現れた。それはどこかで見たことのある卑屈な笑み、そして狐の顔――サルビエスである。
「お前らみたいに悪さばっかして何の役にも立たねぇクズ共が、『はい、わかりました』と納得できると思ってんのか、なあ?」
サルビエスの汚く濁った瞳で彼を見下す。
「貴様ら悪人はこの世からいなくなればいい。俺ら銀河連邦が唯一無二、最強の『正義』なんだよ、わかったか?」
「……ぐっ!」
ラクリーマの下げている頭を足蹴にしてグリグリと踏みにじるこの男、サルビエス。しかし、カーマインは黙っているはずもなく、
「馬鹿者っっ!!貴様、それでも連邦隊員か!!?」
「カーマイン提督、こいつらに何の情けもいらないですよ。今まで散々非道なことしてきたんですから寧ろ、これでも軽いほうじゃないんですかァ?ええ?」
あまりにも空気を読めておらず、行きすぎた横暴。最早正気の沙汰とは思えない。
「テメェ!!リーダーになんてことを!!」
「このやろぉ!!ぶっ殺すぞゴラァァっっ!!」
案の定、激昂し今すぐにでも襲いかかろうとするが、
「やめろお前ら!!」
「リーダー!!」
「……ここで暴れてみろ。それこそお前らの罪が重くなる。俺の嘆願で助かると思うならここは抑えやがれ……分かったか……」
彼らの動きは止まった。しかし、サルビエスはその様子をほくそ笑み――、
「くくくっ、ならこれならどうだァァァァ!!」
――彼らを挑発するように蹴る、蹴る、蹴りまくる。
本人は彼の暴行に憤怒せずひたすら耐えている。両勢ともあまりの横暴に見るに堪えなくなった――。
「やめてください大尉!!」一人の大柄の隊員が切羽詰まった表情で彼を止めに入る。部下のコモドスであった。
「コモドス……キサマ……」
「大尉、見苦しくて堪えられません。お願いです、もうやめてください!」
直属の部下の願いにも関わらず、サルビエスは彼を睨み付けた。
「ほう……貴様、誰にその偉そうな口を聞いてんのか分かってんのか……?」
「し、しかし、これ以上はアナタの信用にも関わります!!ですから――!!」
《誰に口を聞いてんのかっていってんだろうがァ!!》
甲高い怒号が周囲に拡がり、より緊迫とした空気に……。
「俺は一体誰だ?答えてみろコモドス?ええ?」
「……」
「お前の言う通りここで止めてもいい。だがな、俺の機嫌を損ねたお前の一族がどうなるか……覚悟しとけよ!!」
「……!!」
脅しをかけるサルビエスと恐れているのかビクビクしているコモドス。彼らの間に一体何の関係が……。
「な……なんだよ……?一族がどうなるとかどういうことだよコモドス、それに大尉!?」
近くの数人の隊員が二人に注目し、瞳を震わせている。彼らはコモドスの同僚と後輩であった。
「コモドス、俺は前からおかしいと思ってた。いつもお前は大尉にばかり付き添うし、パシリやら何やらばかりされて……何か恐れているのかオロオロしてばかりで……これじゃあまるで『奴隷』みたいじゃないか……」
「……」
本人の口から何も出なかったがあのサルビエスが彼に代弁するように平然とした表情で口を開いた。
「奴隷?何を言っている?俺がそんなことしないだろ?なあコモドス?」
彼は否定するもそれだけでは彼らは納得するはずなどない。
「コモドス!!なぜ何も話してくれないんだ!?」
「そうですよ中尉!!大したことないんならそんな表情しないハズでしょ!?」
問い詰められるコモドスは心を揺さぶられ動揺している。
しかし、便乗してミルフィまでもが前に飛び出す。
「お願いコモドス!!あたし達はあなたが心配なのヨ、ここで言わなかったらこれからもっと苦しむかもしれないんだヨ!?」
――次第にサルビエスも苛立ちが募り、歯ぎしりを立てて彼らを威嚇する。
「キサマら……いい加減にしないと……」
その時であった――。
「大尉……もういやです……」
「コモドス!?」
コモドスの震えた声が彼を引き留めた――泣いていたのである。
「自分は……自分は普通に生きたいんです……こんないつもビクビクしながら……自分の家族を人質みたいに取られ、いつ惨い目に遭わされるかもしれない恐怖の地獄みたい毎日を過ごすのはもう……嫌なんです……」
「キサマァ!!」
ついに自分の本音を打ち明けはじめた。良いも悪くも連邦勢の空気が一変する。「コモドス、今こそ教えてくれ!!大尉とお前の関係を!!」
「実は……」
――サルビエスの種族『フォクシス』は中世の階級制度、貴族制をとっておりであり、サルビエスの家系もまた上流貴族のであった。フォクシスの貴族は代々、自分達より劣る下等種族を各惑星から無理矢理連行して奴隷、召し使いにするのが主流であり、彼の一族が連れてきた種族と言うのが皮肉にも、『コンガース』でありコモドス達一族だったのである。
過酷な労働、家畜以下同然の扱いを受けた彼らはついに耐えきれなくなり、脱走を企てるも敢えなく失敗。
全員が処刑されかけたが当主であり銀河連邦に入隊していたサルビエスの耳に入り、彼の提案により、コモドスを自分の永久従者になれば免罪するということであった。
……その事実を知った彼らは絶句する。
「知られちゃしょうがねえな。だがな、それは俺ら気高き種族『フォクシス』の決まりなんだよ!!
俺らより劣るゲス以下の奴らは俺らに使ってもらえるだけ有り難く思え!!さあコモドス、今すぐこの男のようにひざまずき許しを乞え!!そうすれば先ほどの反抗を許すのを考えてやる!!ギャハハハハハッ!!」
彼の高笑いする声が辺りに響き渡る。しかし、周りにいた隊員達、特にコモドスの友人や部下達は徐々に怒りを顕しにし、
《今すぐそいつを捕まえろォォっ!!》
「おおーーっ!!!」
なんということか、大集団がサルビエスへ雪崩れ込む。
「なっ、なんだ貴様らァーーっ!!!?」
数の暴力、強引に彼を押し飛ばし、倒れこんだ隙に囲む。
「な……なんなんだ!!こんなことしてただで済むとでも思うかっ!!?」
「黙れ大尉……いや大尉なんぞ呼べるか!あんたは……銀河連邦隊員の風上にも置けないヤロウじゃないか!!」
指の関節をパキパキならしながら、彼を睨み付ける。
「この……屑どもが!!」
サルビエスは手持ちの拳銃を震えながら彼らに向け始めた。
「いい加減にしろよ。黙って見てりゃあイイ気になりやがって……コモドス!!今すぐ俺を助けろ!!そうすれば今までのはなかったことにしてやる!!だから!!」
どこまで意地汚いのか、彼に助けを求めるが本人は――。
「……」
「コモドス、お前は昔から身体に似合わず気が小さくてお人好しすぎるのはわかってんだ。
脱走の時も恐れて一人だけ残り、俺に服従する時も嫌がらずにすんなりと承諾したお前は俺を助けないワケないよな……早くこいつらから助けろ!!」
コモドスを従者にした理由も彼の性格を知った上であった。
彼は家族愛が強いゆえ、家族を人質にすれば絶対に反抗できないようにすることができるからである。
事実、先ほどの宇宙戦闘の際、過剰な程の攻撃、そしてあの『命令』を実行させたのも彼の弱みにつけこんだからである。コモドスは口を開かず無表情だ。
手をぐっと握りしめ……戸惑っているのであろうか?
「コモドス、これ以上あんな人の言うことを聞いちゃダメだヨ!!」
ミルフィも必死に叫ぶ。彼女も彼にこれ以上、同じ仲間として、そして仲のいい同期生として苦しんでほしくないのである。
だが、サルビエスの方へ歩いていく。辿り着くとその怪力で囲む隊員達を強引に押し避けた。
「コモドス……いい奴だなお前は……」
「……」
コモドスは手を差しのべ、彼の手を握り掴んだ。
「!?」
コモドスはその強力な握力でサルビエスの手を潰しにかかりメキメキと鈍い音が聞こえた。
「ぎゃああああっ!!やめろ、やめろ!!!」
誰が見ても痛いと思わせるような表情で悲鳴をあげるも全く力を抜こうとしなかった。その時のコモドスの顔は誰も見せたことのないほど怖かった。
「大尉、確かに自分はバカがつくほどお人好しです。しかしこれ以上はもはや黙っていられません……。もし、また家族をだしにして脅してくるのなら、その時は……」
言われる本人は完全に萎縮してしまっている。コモドスは手を離し、サルビエスを見つめる。
「……もうサルビエス『大尉』を追い詰めるのはやめましょう。これ以上は何の意味もありません」
これでも制裁を与えないのは彼の情けでもあった。
しかしサルビエスからすれば今まで味わったことのないような屈辱であった。
「なっ……なんでだよ……っ。奴隷なんて親父や『フォクシス』の貴族全員そうやってるのに……なんで俺だけこうやって責められなけりゃいけないんだよ……っ!くそっ、くそっ!!」
「……」
辺りに虚しいほどの静寂感が漂う中、カーマインはまだ頭を下げているラクリーマの肩に手を置いた。
「顔を上げなさい、男の顔が泣くぞ」
彼はやっと顔を上げて、カーマインの顔を見上げた。その時の彼は平然とありつつもどこか悲しそうな表情をしていた。
「部下の罪の軽減は……多分難しいだろう。だが出来る限りの努力をするつもりだ」
それを聞いたラクリーマは彼に敬意をはらった。
「……ありがとよ。恩にきるぜ。あんた、本当にいいヤツだな」
ラクリーマは立ち上がると自分の部下達のところへ向かい、全員に聞こえるよう、こう伝えた。
「全員、アマリーリスはここで解散だ。俺は……もう死刑は免れないがお前らが助かればそれで十分だ。もし罪が軽くなって無事釈放できたら俺のことは忘れろ、そして俺の分まで第二の人生を楽しんでくれ。それが俺の最後の命令だ」
「リーダー……」
「本当にすまん。今はそれしか言えん。死んでいった奴らに報いることはできなかったが俺があの世で土下座してでも謝っておくからお前らは何の心配すんな」
仲間の瞳が震えていた。絶対に信じたくないが彼の言葉で現実に戻されてしまう。それほどまでに重みがあった――。
ラクリーマは次にドラえもん達の地球人5人の方へ向かった。段々近づいてくる彼にドラえもん、スネ夫、ジャイアンは顔を険しくして何があっていいようにすぐに身を構える。だが、
「「ラクリーマ(さん)!!」」
「「「へっ?」」」
のび太としずかの二人だけが心配するような顔をして彼の元へ駆けつける。ドラえもん達の目が点になっている。さっきまで自分達を本気で殺そうとしていたこの男に二人はまるで仲良しのように気軽に声をかける、それが不思議でならなかった。
「のび太君、そいつ危ないよ!!」
「早く離れろ二人とも!!」
忠告するがのび太、しずかの方はキョトンとしていた。
「一体この男と何の関係があるの!?」
その問いにのび太は……。
「実は僕達、地球へ送ってもらう途中だったんだ」
それを聞いた連邦勢、そしてドラえもん、ジャイアン、スネ夫の全員が驚愕し、ざわめいた。
「最初は色々あったけど……僕としずかちゃんはすごく楽しかったよ!ここの人達にはすごく優しくしてもらったし、色んなことを教えてもらったし、ねえしずかちゃん!」
「ええっ、この人達とはまた会いたいと思ったわ!」
「特にラクリーマやあそこにいるレクシーさんはホント僕にやさしくしてくれたよ。なんかお兄ちゃんみたいな感じでさあ――」
二人の輝く瞳とハキハキと喋る様から全く嘘ついているとは思えなかった。
開戦前、ブリッジでモニター見た二人く傷ひとつなかったのも、怖がっている様子がなかったのもそれなら検討がつく。
「じゃあ……なら別に心配しなくてもよかったってこと……?」
「あ~あっ……今までの奮闘は一体なんだったんだろ……?」
三人はへなへなになり、その場でへたりこむ。安心もあったがそれほどショックだったのだ。
「のび太、しずか、ワリいな。お前らの大事なダチを殺そうとしちまったぜ。俺らは悪行ばっかしてきたからこんなこと思われても仕方ないんだろうな」
「……」
のび太としずかは黙り込む。そんな二人に彼は――。
「おいおい、何意気消沈してんだよ。やっとお前らは安心して地球に帰れるんだ、少しは喜ばんかい!」
「ラクリーマ、本当にこれでいいの……?」
「なんでお前が俺の心配するんだよ。俺は悪人だ、まあこうなるのは運命だったってだけだ」
「けどあの人は……ユノンさんは一体どうなるの……?」
「仕方ねえよ。俺よりあいつらの方が大事だ、こうするしかなかったんだよ。それからのび太、お前に一つ頼みがある、俺の右ポケットからある物を取り出してくれ」
「……」
のび太はすぐに彼のポケットに手を偲ばすとどこか知っている感触があった。
取り出すと、それは以前見たことのある『アノリウムの種』の入った小さなカプセルであった。
「これはあの時の……」
「お前にこれを育ててほしいんだ」
「僕に……?」
「俺はもう無理だ、だからこれを託す。お前との約束もおじゃんになったが、これを俺とお前の約束にするぜ」
「……」
のび太は腑に落ちない表情でそれを自分のポケットにしまう。
「なあに、お前ならこの花を咲かせることができると信じている。頼んだぜ、のび太。それにしずか、お前のおかげでユノンが今まで以上に明るくなったこととデストサイキック・システムからあいつを救いだしてくれたことに心から感謝してんぜ、本当にありがとよ!」
「ラクリーマさん……」
笑顔でそう言う彼だがなお一層悲壮感が高まる。
――彼らのやり取りに銀河連邦勢全員が呆然としている。
今の彼は優しさに溢れた好青年のようだ。だがそれを受け入れられずに動揺している者がいた。
「……ふっ、ふざけるな……こんなことがあってたまるか!!」
――エミリアである。
「エミリア!!」
なんと彼女は前に飛び出し、持っていたもう一つの銃をラクリーマに向けた。その震える身体、歪んだ顔の筋肉。彼女は今、気が動転していた。以前、忠告しカーマインが恐れていたことが今起きたのである。
「い、い、……今まで、その愚かなエゴのために殺された人達、惑星モーリスの、そして殺されたあたしの恋人の仇……今ここで晴らす!!!」
自分の写るラクリーマという男は、救いようのない悪人であると、だが今の彼はまるで180度変わったかのように――彼女は受け入れられなかったのだ。
「惑星モーリスだと……お前まさかあの星の生き残りか!?」
「き、貴様達のせいであたしの……大勢の人達の人生が狂わされたんだぁ……!!今ここで恨みを晴らす……今ここで!!」
それを聞いたラクリーマは笑み、彼女の元へ向かった。
「そうか、ほぼ全員ぶっ殺したと思っていたがまさか連邦隊員の、しかもこの女が生き残りだったとはな」
彼女へ向かう彼に全員が警戒する。カーマインは彼女の前に立ち、彼の進行を遮る。
「まさか彼女を……」
「いや、そういうワケじゃねえ。この女に詫びいれてやろってな」
「何だと?」
彼をどかし、彼女の前に立った。
「な……何よ!!」
「お前があの惑星モーリスの生き残りなら生かしてしまった俺が悪いな。なら、仇をとらせてやる」
平然とした態度でそう言うとその銃口を自らの眉間に当てた。
「さあ遠慮なく撃ってくれ、これでお前が今まで果たしたかった願いが叶うぞ」
「え……ええっ!!?」
彼のその申し出に戸惑いを隠せないエミリア。周りの人間も狼狽していた。
「やめろ!!何を考えてる!!」
「別に罪滅ぼしとは考えてねえよ。ただどの道、死刑になるのは免れねえなら、それまで無駄な時間過ごすぐらいならここで終止符打ってくれたほうがいいかもってな。あと、この女の仇もとれて互いに後腐れがなくなっていいじゃねえか」
彼はまるで死をおそれていないように全く怖がる様子もなく、むしろ嬉々としていた。
「それに彼女は我々銀河連邦の隊員なんだぞ!!彼女がもし撃ったら――」
ごもっともである。もし撃ってしまえば彼女が無抵抗の犯人を殺したことになる。そうなれば彼女は間違いなく『人殺し』になってしまう。
それに死ねば全て済むという問題ではない、何を考えているのかこの男は……。
「へっ、俺はただ仇を討たせてやると言っただけだ、撃つか撃たないかはこいつ次第だ。さあ……どうすんだ、撃つか、撃たないのか!?」
「あんた……本当にバカなんじゃないの……」
「ああっ、俺は大バカだよ。そんなバカな男の考えた結果がこれなんだ。だが俺はこう見えても心が繊細なんでね、お前を生かしてしまって反省してんだよ」
「反省……ですってぇ?どういうことよ!!」
「俺は殺す時は徹底的に殺す理由が今お前の抱いている感情にある。いま俺らに憎しみしかないだろ?今まで、仇を討ちたくてここまできたんだろ?
今まさに俺に復讐して気がすむならそれでいい。だがな、もし今回俺らとお前らが遭遇しなかったらお前は俺……いやアマリーリスに一生怨みを抱いているだろ?
俺も嫌だしお前も人生ずっとそんな『不快感』持ったまま過ごしたかねえだろ?」
「……」
「だから俺は殺す時は誰だろうと全力で潰す。憎しみもたれる前に殺してやったほうがそいつも楽だろ?」
『憎み、一生負の念を持たれるぐらいなら本人のためにも根本的から断つ』。
彼の言っている理屈は正直、狂気の沙汰であるが彼なりの気遣いなのであろう。
「心もとないのなら俺も手伝ってやろうか?」
ラクリーマは彼女の手を貸すように、一緒に銃のグリップを掴んだ。
「し、死ぬのが怖くないのか……あんたは……?」
「へっ、当たりめえよ。俺はガキん時からいつ死んでもいいように全力で生きてきた。生き物はいつか必ず死ぬ、早いか遅いか、それだけだ!」
その言葉で聞く全員が感じたこと。『異常者』
他にもそれに近い感想だった。
「うっ……うっ……」
震えるばかりで全く思いを遂げようとしない彼女にしびれを切らした彼は――。
「けっ、めんどくせえな、引き金を引いてやるぜ!!」
「ええっ!?待って!!」
手にグッと力を入れて彼女の指が無理矢理引き金が後ろへ下がり――。
「イヤアアアアァァッ!!」
――しかし、弾は放たれなかった。彼女は引かれる前に焦って持ち手を離してしまったのだ。そのまま放心し、座り込むエミリアに対してラクリーマは無表情であった。
「俺が言うのもなんだがあんた、絶対にこの職業は向いてないと思うぜ」
彼は振り向き彼女から去っていく。彼の後ろ姿はどこか哀しく感じられた。
「けっ、胸ぐそワリィ。なんで俺はあの時、もう少し確認して生き残りを探さなかったんだ……こんなことになるんならな」
――そのまま彼はある女性の元へ向かった。
「ユノン……」
「あ……あんた……」
彼女も瞳を震わせていた。そして何か言いたそうに。
「すまねえな。お前を十分愛してやれずにこうなっちまって……だがこれでよかったじゃねえか」
「よ……よかったって……!?」
「元々お前は俺らみたいな悪人じゃなく無理矢理拐ってきた一般人だ。だから俺は正直お前を幸せにできるのかってずっと思っていてな、だがこれでお前も晴れて自由の身だ」
「………………」
「お前は殺人とかやってねえからこの中で一番罪が軽い……いや無罪になれる。俺らから無理矢理奴隷にされたと言え、そうすればお前は大丈夫だ」
「ど……どういうことよ……っ?」
「今のお前なら心配ねえよ。俺よりいい男はこの広い宇宙にたくさんいる、そんな誰かと結ばれて本当の幸せ掴めよ!」
彼からのねぎらいの言葉とは反対に彼女の顔も少しずつ青ざめていった。
「俺は死ぬまでお前の幸せを誰よりも一番願っているからな」
そう言い彼は背を向けて去っていく。そしてカーマインの元へ向かい、その気が済んだような屈託のない顔でこう言った。
「もう思い残すことはねえ。連行してくれ、あとあいつらも頼む」
「……わかった。私が彼を……」
数人の隊員とカーマインに捕まれてゆっくり歩き始めたその時であった。
《ふ……ふざけんじゃないわよォォーーっ!!》
ユノンの悲痛の叫びが響き渡った。
「ああ……あんた……何それ……そんな言葉で……許されると思ってんの……!?」
彼女の今にも倒れそうなくらいにガクガクの足を必死で踏ん張っている。しかしその表情はエミリアと同じく完全に動揺していた。
「なんか言いなさいよ、バカ!!アホ!!」
「…………」
「……い、イヤよ!!あんたが死刑になるんだったら……あたしも一緒に刑を受ける、一人にしないでよォ!!」
とんでもない発言をするが全く何も返事を返さないどころか反応すらしない彼についに彼女は……。
「ラクリーマ見なさい!!」
「ユノンさん!!?」
なんとポケットからナイフを取り出して自らの喉に突き当てたのであった。
再び緊迫した空気が蔓延する。
「や……やるわよ、今すぐ喉元切って死んでやるわよぉ……また捨てられるくらいなら……自ら命を断ってやるんだから!!」
彼女のワガママにラクリーマはついに、
《バカなのはてめえだユノン!!》
「! ! ?」
やっと反応したがそれは彼女に対する怒号であった。
「お前、それじゃあ前と何も変わってねえじゃねえか。
少しは今の状況を読みやがれ、何べんも言わせんなや!!」
そう吐き捨てるとまた歩き出し、彼女はナイフを落とすと同時に力尽き、そのままペタンと座り込んだ。
「お願いだからそんなコト言わないでよ……あたし、あんたがいない世界なんて……とてもじゃなく生きていけないよォ!!」
ウルウルと涙を浮かべて彼にそう伝えるもやはり無反応のまま歩き去っていく。
「うっ……うっう……うあああああ…………」
――そして彼女は泣き崩れ、その悲しい声だけが辺りに響き渡ったのだ……。
「彼女は……?」
「俺が奴隷として捕まえたドグリス人の生き残りの娘だ。可哀想なことに、俺に惚れちまったらしい。何もしてねえから自由にしてやってくんねえか」
カーマインにそう伝える彼はどことなく寂しそうであった――。