大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦   作:はならむ

56 / 61
Part.56 最悪のシナリオ

――連行されるラクリーマ、泣き続けるユノン、その二人の姿にレクシーはもはや平常ではなかった――。

現実に耐えきれなくなった彼がついにとった行動とは――。

 

「おい、今すぐリーダーを離せ……さもないとこいつの命はねえぞォ!!」

 

「まっ、ママァァァァっ!!」

 

何ということだろう。レクシーはスネ夫を人質として捕まえて彼の頭に拳銃を突きつけている。

 

「レクシーっ!!?」

 

「「「スネ夫!!」」」

 

両勢が彼に注目した。無論、ラクリーマも。今の彼は追い詰められたようであった。

 

「レクシー、やめろ!!」

 

さすがのラクリーマも彼の予想外の行動に仰天、すぐに止めようとするも全く収まる気配がない。

 

「リーダー、俺にはあんたの考えが全然理解できないんです。なんで俺らみたいなバカどものためにそこまで身を挺するんですかい?」

 

「俺は……お前らのことを思って……」

 

「うるせえ、そんなのリーダーの思い勝手だ!自己満だ!少なくとも俺はあんたの為に死ねればそれでよかったんだ!!」

 

「俺のためだと……?」

 

「リーダーは……リーダーは……俺達のことを『人間のクズ』だの『カス』としか扱ってくれなかったこんな世の中で一人の人間として、一人の男として見てくれた、たった一人の人間だ!!」

 

彼は震えながらこう語る。

 

「……確かに俺は散々悪さをしてきたさ。そのせいで同種族からも見放されて『生きる価値なんてない』と堕ちるとこまできたのはしょうがねえ。だけどこの人は違った。

この人は俺ら以上の悪人だがそれ以上に人間臭くて、俺達仲間にはすごく優しくて……果てには俺らを助けるために土下座までして……こんなお人好しな人は今まで見たことないぜ!」

 

「……」

 

「お前らだって俺みたいな扱いされてた時にリーダーと出会って、その魅力に惹かれてアマリーリスに加入したんじゃねえのか!?

掃き溜めみてえな、ゴミみてえな人生をここまで楽しくできたのもアマリーリスの、この人のおかげじゃなかったのか!?」

 

アマリーリス員は沈黙しているがその複雑な表情を見る限り、間違ってないようである。

 

「リーダー、ユノンさんを連れて逃げて下さい。この人を幸せに出来るのはあんたしかいねえんだ。ここは俺達が何とかするんでリーダーは遠慮せず俺達を見捨ててください!」

 

「レクシー……お前っ」

 

「俺だってリーダーやユノンさんがこれ以上惨めになるのを見るのは嫌なんです!だからお願いします!

なんでリーダーばかりそうやって貧乏くじを引きたがるんですか。これ以上あんたが苦労する必要なんかねえ、俺らに分けてくださいよ……」

 

彼の懸命な思いにラクリーマは……。

 

「ありがとよレクシー、お前がそこまで思ってくれてたなんてな……俺はお前と一緒に仕事できて本当に最高だった。

だがな、もう終わりなんだ。さっきも言ったが俺はお前らが生きてくれればそれでいい。レクシー、お前みたいに真面目で気さくな奴はシャバに出てもきっと上手くやってけるぜ、だから俺を忘れて生きてくれ」

 

「リーダー、だから俺は……」

 

「うるせぇ!!何べんも同じこと言わせんなっつっただろ!!もうお前と俺は今から知らねえ赤の他人だ、わかったな!!」

 

彼のその断固として曲げない意思がレクシーを絶望させた。

 

「……なんでだよ、なんで分かってくんねえんだよ……俺ら悪党にはここしか居場所がねえのに……どこに行けっていうんだよ……俺はそんなの嫌だ――」

 

《嫌だァァァァっっ!!》

 

「レクシー!!!!はやまるなァァァァ!!!」

 

レクシーが狂い、ついに引き金に手をかけて引こうとしかけたその時だった。一人の隊員の銃から一発の甲高い銃声が鳴り響き、同時にレクシーはスネ夫を抱えたまま後ろへ力なく倒れた……。

 

「れっ……レクシー……?」

 

全員がその場で静止し静寂した数秒後に。

 

「レクシィィィっっっ!!!」

 

アマリーリス員としずかとのび太が大急ぎで駆けつけた。

 

「うわああっ!!」

 

「スネ夫!!」

 

スネ夫は慌ててレクシーの腕をどかし、とっさにそこから逃げ出した。

 

「レクシー……嘘だろ……っっ」

 

レクシーはもう動くことはなかった。頭のど真ん中を一撃で撃ち抜かれて脳髄が飛び散り、瞳孔が開き、身体の筋肉はピクリとも動いていない。

 

――彼は即死であった。

 

のび太としずかも彼の成れの果てにもはや取り乱していた。

 

「ああ……ああっ!!」

 

「レクシー……さあん……いや……いや!!」

 

彼らより一番錯乱している人間がいた。――最愛の恋人ジュネである。

 

彼女はレクシーの元へ駆けつけて我を忘れて彼の動かない身体を何度も、何度も揺さぶる。大粒の涙を流しながら……。

 

「レクシー……嘘だよね……起きてよ……ねえっ!!ねえってば!!!ふざけんじゃねえよォォォ!! あたいをおいて先に死ぬなんてェェ!!うわあああああ―――っっ!!!」

 

 

……最悪の事態と化した瞬間である。ラクリーマとユノンの二人は口を開けたままその場で茫然自失していた。

そしてカーマインも発砲した隊員の元へ駆けつけ、怒涛の如く胸ぐらを掴んだ。

 

 

《この馬鹿者ォォォォーー!!!なぜ殺す必要があったんだあ!!!?》

 

 

あの穏健であるカーマインが完全にキレている。発砲した本人は顔面蒼白で大量の冷や汗を流していた。

 

「う……撃たなければあの子が……しかし私も殺すつもりは……」

 

恐らく極度の焦りで咄嗟に構えたことで照準の先は不幸にも彼の眉間だった。しかしスネ夫の身の危険を考えればこれは責められることではない、むしろ最良である――だがこの直後、彼の行動がこの場が地獄へと変わる起爆剤となった。

 

「ふざけんじゃねえぞ……おい……っ!!!」

 

アマリーリス員はその怒り全てを連邦隊員全員に向け、ジュネも顔を鬼のようにして立ち上がった。

 

「許さニャい……お前ら絶対に許さニャアアアいっっ!!」

 

『うおォォォォっっ!!!』

 

――アマリーリス員による暴動が勃発した。殴り合い、手持ちの銃で撃ち合い、刃物が持つものはそれで切り刻み、この場は血で血を洗う修羅場と化したのであった。

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫はその光景を避難した場所からガタガタ震えながら見ているだけしか出来なかった。のび太としずかはそれぞれラクリーマ、ユノンの近くにいた。

 

「何なんだよこれは……どうしてこうなったんだ……」

 

ラクリーマが絶望しきった表情を浮かべている。一方、ユノンはその場で震えながら身を丸くしていた。

 

「ひいいいいっっ!!」

 

「ユノンさん!!?」

 

「しずか……こ、こわい、こわいよぉ……」

 

まるで子供のように怖がる彼女にしずかは寄り添い強く抱き締めた。

しかし彼女もその凄惨な状況に耐えられそうにもなかった。

 

「なんで……なんでなの……っ?」

 

ミルフィは逃げ損ねて周りであたふたしていた。

 

「大丈夫かミルフィ!!」

 

「コモドス助けてえ!!!」

 

コモドスが彼女を見つけ、抱き抱えるとそのまま安全地帯へ。二人もこの状況になすすべなくただ瞳を震わせているだけであった。

 

そしてカーマインはいまだ放心状態のエミリアを連れ添い、枯れるほどの大声を張り上げた。

 

《お前たちもうやめろ、やめるんだァ!!!!》

 

しかし最早暴走とそれを食い止めようと決死する両勢を止めることなど不可能であった。

 

「ニャアアアアアアっ!!」

 

ジュネは持ち前の鋭い爪で隊員を切り裂こうとするも、複数の銃を向けられて、

 

「えっ……?」

 

彼女の身体に一発の穴が、さらに二発、三発と前後に穴ができ、その場で倒れた。

 

「がはあ……」

 

残る力を振り絞り、レクシーの遺体へ身体を這いずり行った……。

 

「……レク……シー……、あたいと一生……幸せに……いようね……………」

 

彼女は彼の動かない手をグッと握る否や、その場でもう二度と動かなくなった――。

 

「ジュネェェっっ!!!お前らもうやめろ!!!やめろっていってんのがわからんのかァァ!!!」

 

暴力と狂乱の宴と化したこのオペレーションセンター内ではラクリーマの声もすぐにかき消された。

 

「あぐぅ……」

 

「おい大丈夫か!?しっかりしろ!!」

 

ラクリーマはすぐ側の血まみれで倒れて最早虫の息であった一人の戦闘員に駆けつけた。

 

「ラクリーマさん……ユノンさんを連れて逃げてください……これは俺ら全員の願いです……」

 

「しゃ、喋るな、キズにさわるぞ!!」

 

「……ラクリーマさん……らしいや……けど……レクシーの言った通り…こんなクソみたいな人生を楽しく暮らせてこれたのも……リーダーの……おか――」

 

最後まで言うことなく彼は事切れてしまった。ラクリーマさえも今の周りの状況をただ見てるしか出来なかった。

 

(やめろ……やめてくれ……俺はこんなのは望んでない……お前らが死ぬなんぞ……望んじゃいねえっっ!!!)

 

――仕掛けたのはアマリーリス側であるがシールドなど武装している連邦隊員と違い、殆ど丸腰で明らかに戦力不足であり、次々とアマリーリス員が倒されていく。ラクリーマはのび太と目が合い息を飲んだ。

 

「ラクリーマ……?」

 

彼は掛けられていた手錠をその怪力で無理矢理引きちぎり、のび太をすぐに取っ捕まえて小型レーザー砲を突出させた。

《テメェら!!!》

 

何ということだろう。彼はレーザーを連邦と自分の仲間に発砲。撃たれた本人達は撃ち抜かれてその場でドサッと倒れた。

 

「ラク……リーマ……なんで……」

 

その場で全員の動きが止まった。

その視線は今度はのび太を人質に取ってるラクリーマへと向けられた。

 

「「「「のび太(さん)(君)!!!」」」」

 

「リーダー!!」

 

右手でのび太を抱え、左義手でレーザー砲と鉤爪を出してそれをのび太の頬にチロチロかざした。

 

「いい加減にしろよ……せっかくの俺の好意を台無しにしやがって……」

 

その顔はまさに阿修羅。それは連邦側だけでなく仲間であるアマリーリス側にその敵意を向けていた。

 

「リーダー!!のび太を人質にして何やってんすか!!?」

 

瞬間、レーザー砲を言った本人の足に発砲、貫かれて悲鳴を閑古、その場でうずくまった。

 

「うるせぇ!!キサンらは俺の仲間でも何でもねえ、俺の敵じゃあ!!」

 

もはや全員に敵対宣言するラクリーマに仲間は絶望のどん底に叩き落とされた。

隊員達も銃を向けると彼は少しずつ後退る。

 

「おい、こいつがどうなっても知らねえのか?ククク……俺はガキだろうと容赦しねえ男だぜ……」

 

そんな中、のび太もワナワナ震えながらも彼にこう言った。

 

「ラクリーマ……お願い……こんなこと……やめてよ……」

 

小声でそう必死に伝えると今度は彼がのび太の耳元で……。

 

(のび太、よく聞け……すぐに俺がお前を前に突き飛ばすから、そのまま連邦に保護してもらえ……いいな……)

 

(……ええ……ラクリーマは……?)

 

(……こんなことになったのは俺が責任だ。なら俺が止めねえとな……。のび太……お前らに出会えて楽しかったぜ……そして、二度と俺を思い出すな!!)

 

ラクリーマはそう言い残すとのび太を全力で前に投げ飛ばした。連邦側へ行ったのを確認すると彼は顔が一変した。

 

「あのガキ、噛みつきやがった……くそっ!!」

 

彼はすぐに背を向けて一目散にその場から走り去った。しかしそれを黙って見逃すワケにはいかない連邦隊員達。

 

「止まれ!!止まらなければ発砲する」

 

大人数の隊員が彼に銃口を向けるがそれでも止まらない。

警告を無視したラクリーマについに。

 

《こうなったら……全員撃てえ!!!》

 

――多数の光弾と実弾が彼に向かって飛んでいく。彼に必死にかいくぐるも何発かは左足と右腕に被弾しその場で倒れ込む。

しかしラクリーマはゆっくり立ち上がり、足を引きずりながらも逃亡した。

その時、のび太はしずか、ユノンの元にいたがラクリーマの傷ついていく姿に涙を流して取り乱していた。

 

「ラクリーマがぁ……ラクリーマが自分で責任を全てとるってえ!!」

 

「なんですって!!?」

 

――それを聞いたユノンは彼が段々傷ついていく姿に最早黙ってはいられなかった。

 

「やめて……撃たないでぇ……」

 

ユノンは立ち上がり、そのおぼろ気な足どりで彼の方へ走っていった。

 

 

《撃たないでェーーーっ!!!》

 

「ゆ、ユノンさん!!!」

 

 

彼女は彼の直前上に立つと彼の盾になるかの如く手を広げた。

 

「キャアアアァァァァっ!!」

 

銃の射線上にいた彼女の身体に数発の弾丸が擦り、苦痛にまみれながら震えていた。同時に彼女の出現に驚愕した連邦は発砲をすぐに中止。

 

「ユノン……ユノン!!」

 

ラクリーマの耳にも彼女の悲鳴が届き、その場で止まり振り向いた。

 

「ユノンさん、ユノンさん!!しっかりして!!」

 

しずかは慌てて彼女の所へ駆けつけて必死にすがった。

しかしユノンはその穏やかな笑みで彼女を微笑んだ。

 

「しずか……頼みがあるの……これ以上、ラクリーマを……あいつを追い詰めないであげて……。自分で全て抱え込もうとしてるから……」

 

「ユノンさん……」

 

「どうかあいつを救ってあげて……あたし達より救われるべき人間はラクリーマなのよ……。こんな頼りなくてどうしようもない女でホントにゴメンね……けど、あなた達だからこそ頼めることよ……」

 

「……」

 

「……あなたと出会えて本当によかった。あたしからしたらあなたは生まれてきてからたった一人の大切の友達よ。だから……頼んだわよ!!」

 

彼女はしずかを持てる力を持って全力で押し飛ばした。

 

「ユノンさァァん!!」

 

しずかはすぐそこにいた連邦に保護されるもユノンの助けようと暴れに暴れる。一方、ユノンは着物の中から拳銃を取り出して向かってきた隊員の足元に向かって警告発砲し、動きを止めた。

 

「ここから先は行かせない!!お前らみたいな奴にラクリーマを捕まえさせたりしない……させるものかぁ!!」

 

「バカなマネはやめろ!!あいつを庇って何の意味がある!!?」

 

「あたしはねえ、アマリーリスの副リーダーを務めていた女よ。絶対にお前らなんかに屈しないんだから……」

 

その事実に驚愕する連邦勢。彼女は銃を彼らに向けたまままるで見下すように卑屈した笑みを浮かべ、姿勢を正した。

 

「ホントにガキくさい男でさ……スケベで……どうしようもないバカで……あんな男でも相当の苦労人でね。あたし達仲間のために身を挺した挙げ句、心身ボロボロなのよ。

あたしの……あたしの過去なんか比べものにならないほどに苦労してきたんだよ。

……そんな男が今も苦しんでるって時に、助けるためならわたしがどんなに腐ったオンナでも……」

 

 

 

《命くらいはれるのよォ!!》

 

 

 

彼女は豹変したかのように凄まじい殺気を放ちながら拳銃を彼らに向かって連続発砲した。

 

「ああっ!!」

 

……ついにやってしまった。その一発が不遇にもシールドが解除されていた隊員の心臓部を貫通し、即死。彼女はこの手で直接、殺人を犯してしまったのであった。

 

隊員は彼の亡骸を抱き抱えるとユノンに向けてその怒りを込めた。

 

「キサマァァ……!!」

 

しかし彼女は戸惑うことなくまるでヒステリックのよう拳銃を乱射するも彼らのシールドでほとんど塞がれたーー。

 

「最終警告だ、直ちに攻撃を止めろ!さもないとーー」

 

だが彼女は一向に止める気配はなかった。隊員達は彼女を危険人物と認定し、一斉に銃を向けたーー。

 

「射撃用意ーー!」

 

「や、やめてええええっ!!!」

 

――しずかの嘆願も虚しくついに隊員達が一斉に発砲。無数の弾丸と光弾が次々と彼女に撃ち込まれ、貫通していく。彼女はまるでその場で舞っているようであった――。

 

「ユノォォォォォンっっ!!!」

 

 

その姿はのび太、しずか、カーマイン、そしてラクリーマ……いや全員の目に焼き付いた。彼女はそのまま膝が折れて倒れるかと思いきや。

 

「がはっ」

 

彼女は踏ん張り倒れなかった。致死量の弾丸が撃ち込まれたにもかかわらず……大量の血を吐きながらその虚ろな瞳で彼らをぐっと睨み付けた。

 

「……どうしたの……ほら……かかってきなさいよ……。怖じ気づいたかこのイ〇ポ野郎どもォォ!!」

 

彼女の口からとは思えない下品な言葉を吐きまくる。もう正気を失っていた。

彼らは彼女の気迫に圧倒されて少しずつ後退しはじめる。が、あのサルビエスが苦虫を噛み潰したような顔で登場した。

 

「ちい、こんなドグリス人の小娘相手になに臆してやがる!!なら俺が引導を渡してやらぁ!!」

 

彼は弾帯から何やら懐中電灯のような物を取り出すとグッと握る。すると細長い、まるであの戦闘ユニットのような光の刀身を形成したと同時に両手で持ち、彼女へ突撃した。

 

「死ねえぇっ!!」

 

「大尉!!」

 

コモドスが叫ぶも時すでに遅し、彼の突き放った刀身が彼女の腹部をいとも容易く貫いた。

 

「か……かかぁ……」

 

「痛いか?そうだろうな。刃が完全に貫いているんだからな。ならこれならどうだぁ!?」

 

《ぎゃああああああ――――っ!!!》

 

刀身を突き上げると彼女の口から『ゴボゴボっ』と黒い血を溢れ出て悲鳴ともつかない声をあげた。

 

「かか……か……かった……わねぇ……」

 

なんとユノンは最後の力を振り絞り、すかさず彼を抱き締め始めた。彼は離そうとしても一向に離れようとしない。

 

「なにぃ!?離せぇ!!」

 

ユノンは震える右手ですぐにまた腰元へ手を伸ばし、取り出したのはスティック状の金属物。その先にある円いボタンを震える手でグッと押し、歯で噛み持った。カーマインは彼女の取った行動にいち早く察知した。

 

《ぜっ全員!!その女性からいますぐ離れろ――――っっ!!!》

 

彼の叫びで全員がそこから一斉に退避。しかしサルビエスだけが彼女につかまえられて逃げられない。

 

「離せぇ!!頼む、誰か助けてくれぇぇぇっ!!」

 

力ずくで離そうと暴れに暴れるサルビエス、その刺さった刀身をさらにやたらめったに動かし彼女の身体をもはや見るもおぞましいほどにぐちゃぐちゃにするも全く離さそうとしない。

 

(さよなら……サヨナラ……この世で一番愛した人……)

 

彼女の口に加えたスティックの突然カッと光り――。

 

 

 

《ドワオォォォォォ―――ンっっ!!》

 

 

 

まばゆい閃光が彼女らを包む同時に、この部屋を激震させるほどに大爆発。辺りに爆風が襲いかかった。

全員がその場で伏せ爆風が止み、前を見ると爆心地だけが燃え上がっている。

 

ユノンとサルビエスの姿はおろか肉片すら残ってなかった。

 

「…………ユノンさん!!ユノンさんは!!?」

 

彼女は立ち上がると青ざめた表情で、無我夢中で燃え上がる所へ駆け出した。しかし、その途中の足元を見るとひとつの拳銃が落ちていた。

グリップには人の手形のような黒い跡が残り、しずかはそれが彼女の今使っていた拳銃だと分かった。

 

「ああ……ああっ!!ユノンさんが……ユノンさんがぁ………!!」

 

 

 

《イヤアアアアアアアァァァァァァァァッ―――――――っっっ!!!》

 

 

 

――しずかの泣きわめく悲痛の叫び声だけがこのオペレーションセンター内に響く。それはこの場にいる全員の耳に突き抜け、この場を本当の絶望へと追いやった。

 

カーマインはそのまま膝を突き、唇が開いたままであった。

 

――彼女の選んだ道はこれでよかったのだろうか。彼女はたった一人の男、ラクリーマという悪人を守るために、自ら人生の終止符を打ってしまった。それほどまでに彼女は彼を『愛してしまった』のであった。

 

「こんなの……あんまりだ……っ」

 

のび太もその場で崩れ落ちて、ポタポタと涙が落ちている。 しかし一番絶望している人間が何を隠そう、この男であった。

 

「……ユノン、なんで……なんでお前まで……っ」

 

 

 

《ギャアアアアアアアアアアァァァァーーっっ!!!》

 

 

 

 

ラクリーマが絶叫、顔を酷く歪めた。

 

「あがぎぎぎぎっ!!!ぐおえええええっ!!?」

 

もはや言葉ではない奇怪な叫びがのび太へ振りむかせた。

 

「ラクリーマ……ラクリーマァァ!!」

 

彼にはもう悪夢しかなかった。もう……守るべき者までも失ったラクリーマは……まるで電源が切れたオモチャのようにその場で倒れ込んだ。その目からはもう生気が感じられない。

そしてやっと我に戻ったカーマインは動かない彼を目を向けた。

 

「い、今の内に彼を捕まえるんだ!!これ以上、負の連鎖が起きないためにも!!」

 

彼の命令を受け、数人の隊員がラクリーマの元へ向かい、彼の両手を掴んで身体を起こした。これで全てが終わったと誰もが思った――。

 

 

 

『ラクリーマヲキズツケルヤツ、ケナスヤツハ、ダレデアロウト、ゼッタイニユルサナイ』

 

 

 

 

ラクリーマの義手『ブラティストーム』の内部機械が突然、一気に活性化を始めた。

 

「何だこの音は……?」

 

「おい、こいつの左義手、勝手に動いてるぞ!!!」

 

 

その隊員たちはいち早く異変に気づいた。本人は動いていないのに金属質の左手 がまるで虫のように激しく動作していた。手首からレーザー砲全門を自動的に射出、瞬間に掴んでいた手を振りほどき、天へグッと突き上げた時、

 

《ぎゃあああああっっーー!!!》

 

誰もが予想してなかった出来事が起こった。四発の光線がたちまち近くにいた隊員達に撃ち込まれて、その膨大な熱量が彼らの身体を自然発火、一気に燃え上がらせた。

 

しかしそれだけにはとどまらず、今度は前へ向き、レーザー砲をグネグネと動く。カーマインは4つの銀色に光る何かを見た。

 

「全員、今すぐ伏せろォォっ!!」

 

――その一秒後、前方に無数の蒼白光線が飛来、あるもの全てが光線の餌食となった。

避けられない者全て、次々に襲い貫き、次々とバタバタ倒れていく。敵味方関係なく、いわゆる無差別攻撃であった。

 

「しずかちゃん!!」

 

のび太はまだ泣きながらうずくまる彼女を抱くように身体全体に覆い被さり、光線から守ろうとしていた。

 

「のび太君、しずかちゃん!!『ひらりマント』!!」

 

二人の危険を察知したドラえもんがのび太の前に立ち、赤いマントをまるで闘牛士のように広げると生地に直撃する光線はいとも簡単に弾くではないか。

 

「くう……」

 

「ドラえもん!!」

 

のび太は前で盾になっているドラえもんの隙間からラクリーマを覗く。遠くてわからないが何かがおかしい、いち早く察知した。

 

「ラクリーマァァァァ、もうやめてよ!!」

 

しかし今の彼は全く意識がなく、動いているのは義手だけであった。

 

「お願いだからもうやめてぇぇーー!!」

 

懸命な叫びについに、

 

「はっ!?」

 

ラクリーマの意識が戻り、すぐに左手を注目した。

 

(なあ……左手が勝手に動いているだと!!?)

 

勝手にレーザー砲を乱射しまくる左手にラクリーマは止めようと必死だ。

 

「止まれ!!止まりやがれ!!!」

 

しかしブラティストームの異常な反発力により、右手で下げようとしても、ラクリーマの怪力を持ってしても全く下がらない。

 

《言うことききやがれえ!!クソがああァっっ!!!》

 

顔中の血管を浮き出してまでの彼の顔はその凄まじさを物語っていた。しかし、すぐにレーザー砲は何事もなかったかのようにピタッと止まり、やっと腕が下がりと同時に彼は前方を見て、唖然とした。

 

大多数人の隊員だけでなくアマリーリス員までもがその光線の餌食になり、まるでゴミが散乱しているように死体ばかりであった。それにここはブリッジだ。

 

このエクセレクターの全てを司るブリッジにある司令塔、機械やコンピュータが全て、先ほどの無差別攻撃により破壊されていたのであった。

 

(俺が……全部やったと言うのか……っ)

 

彼はやりきれない表情をしたすぐに、何を思ったのかその場からまた逃げ去っていく――。

 

「ラクリーマ待って!!」

 

のび太はラクリーマを追いかけようとするがすぐ隣にいたドラえもんに腕を掴まれた。

 

「ドラえもん……」

 

「のび太君、行っちゃいけない!!本当に危険だ!!」

 

「なんで!!?」

 

「なんでって……君も見ただろ!?あいつ、僕たちみんなを殺そうとしてた。あいつは……君に何をしでかしてくるか分からない!」

 

「何もしないよ、ラクリーマは……そんな奴じゃない!」

 

「どうしてそんなことが分かるんだ!!君おかしいよ、どうしてあんな悪党のためにそこまで関わろうとするんだ!?」

 

その言葉についにのび太は泣きじゃくりながらドラえもんにブチキレた。

 

「ち……違うったら違うんだあ!!ラクリーマは……ラクリーマは……僕を人質にとったのも自分が責任とるってわざとあんなことをしたんだあ!!」

 

それを聞いたドラえもん……いや、その場にいる全員が凍りついた。

 

「ここの皆はラクリーマの顔を見た!?あんな辛そうな顔をしているの初めて見たよ!!」

 

のび太は両拳をギュッと握りしめて俯く。

 

「……ラクリーマやここの人達はホント悪い人だと思うよ。僕たちが最初にここについた時、地球を侵略するって言ってたし、しずかちゃんを殺そうとしたし……それを嘲笑って……けど僕は早撃ち勝負で勝って、約束通りにしずかちゃんを助けてくれたうえに地球へ送り返してくれようとした!!僕らに優しくして色んなことを教えてもらった!!

だから僕はその恩返しをしたいんだ、それをしちゃいけないの!?悪いの!?

僕は何もできずにただ地球に帰るなんてそんな薄情なことはできないよ!!」

 

彼の懸命な訴えに全員が心を打たれる。

 

「それでものび太君、行かないで……やっと会えたのにもし何かあったら僕は……」

 

「ドラえもん、ごめん。けど行かないとラクリーマが……」

 

「のび太君……」

 

 

――のび太は未だ嗚咽するしずかの所へ行き、こう言った。

 

「しずかちゃん……行こう」

 

「……」

 

しかし彼女は全く顔をあげようとしない。それに対しのび太は彼女は激しく揺さぶった。

 

「しずかちゃん!!レクシーさん達やユノンさんはもう……けどラクリーマの方が一番辛い思いしてるんだよ!!」

 

やっと涙と鼻水まじりの顔を上げるしずか。

 

「ひくっ……のび太……さん……?」

 

「ラクリーマが……本当に辛そうだった、今にも泣きそうな顔をしてた……だから行こう」

 

のび太は優しい笑顔で手を差しのべた。

 

「今度は……僕らがラクリーマを救う番だよ、ね?」

 

しずかは身体を起こして、やっと立ち上がると涙を吹いて彼に微笑んだ。

 

「……そうね、一番辛いのはラクリーマさんだものね……行きましょうのび太さん!!」

 

「しずかちゃん……うん!!」

 

しずかは彼女が遺した拳銃を持ち、それを見つめた。

 

(ユノンさん、どうか安心して……あの人を、ラクリーマさんを絶対に救ってみせるわ!)

 

彼を救う、そう決意し全力でラクリーマが逃げていった方へ走っていった。

 

「のび太君!!しずかちゃん!!」

 

ドラえもんの声は届いておらず、二人はこのオペレーションセンターから姿を消した。何とか無事であったジャイアン、スネ夫もドラえもんの元へ駆けつけた。

 

「ドラえもん、どうするんだよ!!」

 

「どうするったって……」

 

「下手したら二人とも……」

 

しかしそんな事を言い争っている場合じゃないのは三人は理解していた。

 

「ドラえもん、二人を追いかけよう!!それしかない!!」

 

「うん、それしかないね!!」

 

「正直怖いけど……こうなったら僕も行くよ!!」

 

三人はカーマインと共に無事であったエミリアを見たが、膝をついて俯いていて一緒に行くのが無理だと悟る。

 

「エミリアさんがいなくて不安だけどしょうがない!!」

 

「うん、ならすぐにいこう!!」

 

三人は二人を追って走っていった。この中は残りわずかの連邦隊員とアマリーリス員が残されていた。彼らはもはや茫然自失と化していた。

 

一方、エミリアは静かに笑っていた。まるでおかしくなったかのように……。

 

「ふふ……あたしって一体今まで何のために頑張ってきたんだろ……」

 

自暴自棄と化している彼女にカーマイン静かに手を肩に置いた。

 

「エミリア、まだ任務は終わってないぞ」

 

「……えっ……?」

 

彼女は呆気をとられた顔で顔を上げた。

 

「お前にはまだあの子達を守って、友達を救出するっていう使命があったハズだ」

 

「提督……」

 

するてミルフィも駆けつけて二人は合流する。

 

「ミルフィ……」

 

「エミリア……まだアタシ達は終わってないんだよ。あの子達を守るって大事な任務がね。しっかりしなくちゃ、あたし達は誇りある『銀河連邦隊員』なんだからね♪」

 

ミルフィの明るい励ましに静かに涙を流した。

 

「言ったでしょ、アタシはエミリアの支えになるって。これからどんなことがあってもエミリアの味方だから!」

 

「ミルフィ……」

 

涙を吹いて立ち上がると明るい顔を取り戻すエミリア。

 

「ありがとうミルフィ。あたしにとってはミルフィは永遠のパートナーよ!」

 

「エミリア……!」

 

「すっかり暗い空気にしちゃったわね。じゃあ今から気を取り直して任務再開よ!」

 

「了解!!」

 

気合いが入った二人はカーマインにビシッと背筋を正し、敬礼した。

 

「提督、これよりエミリア・シュナイダー大尉、ミルフィ中尉の二名は子供達の保護及び、救出の任務を続行します!!」

 

彼はまるで親のような優しい笑みを浮かべた。

 

「頼んだぞふたりとも!必ずや彼らを無事、連れて帰ってきてくれ、そして可能であればあの男も連行してくるように!!」

 

「「了っ!!」」

 

二人はすぐに彼らを追っていった。

それを見届けたカーマインは残りわずかのアマリーリス員に目を向けてこう言った。

 

「お前たち、あの男の言う通りにしなさい。これ以上、自分のリーダーに迷惑かけたくないだろう?その気持ちが少しでも残っているのなら命を粗末にするな」

 

「…………」

 

彼の言葉についにその場に諦めて武器を落として膝をつくアマリーリス員。やっと状況が穏やかになりつつあった。

 

「さあ各員、キツいと思うが最後の踏ん張り所だ。余裕のあるものは味方とアマリーリス問わず負傷者達を看てやってくれ。それ以外の者はアマリーリス員の逮捕、そして遺体の回収の作業に当たってくれ、私も行う。なお、それが終わり次第エミリア大尉達が戻ってくるまでここで休憩及び待機だ」

 

彼の号令を聞いて積極的に各作業に移り出す隊員達。そんな中、カーマインはこんな事を思っていた。

 

(きっとあの子らのような人間が銀河連邦隊員になるべきなのかもしれんな。だがラクリーマというあの男……あれほどの度量を持ちながらどうしてこんな悪の道に進んだんだ……?

彼ほどの人間ならきっと他の分野でも貢献、活躍できるほどの器を持っているのに……)

 

彼はそう腑に落ちない疑問を抱いていた――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。