ラクリーマは艦内をさ迷っていた。どこに行きたいのかもわからず……彼の顔から感じるのは『絶望と不信』であった……。
(おい、一体何があった!?なんでこんなことになった!?
俺があいつらの罪を全て背負って死刑になればそれで済むはずだったのに……なんで俺じゃなく仲間やレクシー、ユノンが死ななくちゃならねえんだ!?なんでまた俺が生き残らねえといけねえんだ!?おかしい、おかしいだろ!!特にユノンはこれから幸せになるべきなのに……なんであんな死に方しねえといけねんだ!!?)
自分自身に向かって残酷なまでにこう問う。
(俺は一体なにをやらかしたんだ!!?)
ラクリーマの完全に混乱に陥っていた。それもそのはずである。
『仲間のためならいつも自分が犠牲になればいい』、その信念が生んだ悲劇。
ラクリーマの思念、レクシー、ユノン含む、仲間達の思念がすれ違った結果が先ほどの暴動であった。
そう、死んでいった彼らも、愛する彼女ユノンの非情な死も、彼の過剰なまでの仲間に対する自己犠牲精神によってもたらせた、自分が持つその信念によって、裏切られた結果であった……。
《ズドォォ………っ》
この艦内が激しく揺れている。先ほどのブラティストームによる無差別攻撃でブリッジ、所謂中枢が破壊されたことにより、制御が利かなくなったことを意味していた。最悪の場合、この艦は崩壊、爆発するかも知れない。
……撃たれて引きずる足を止めて壁に寄りそり左手で頭をぐっと押さえうなだれた。
(どっ……どうすればいいんだよォ……もう何が何だかわかんねえよォ…………っ)
あのラクリーマとは考えられないくらいに絶望にうちひしがれ、怯えていた。その時の彼を例えるなら、まさに見知らぬ地で親とはぐれてしまった子供のようである。
どうあがいてももう変えられない。全ては自分が招いたことだと――しかしその時、
「うぐっ……うげえ……あがぁ―――っ!!うわあああっっ!!」
突然、彼は倒れて痛々しいほどの悲鳴を上げながらのたうちまわる。
(麻酔が……切れやがったぁぁ……っ)
あの『BE-58』の効果が切れて、副作用が発現したのであった――全ての代償がこの最悪のタイミングで……。
「ががァァ……あぐああああっ!!」
もはや痛みではない。全身に刃物が貫かれたような、全身を炎で焼かれるような苦しみ……いやもはやそんな言葉では違う形容のできないものである。今、死ねたら本当に楽であろうほどに。
――彼は今ここで、本当の『生き地獄』を味わっていたのであった。
(……なぜだ……痛みなんぞ……ガキん時から嫌になるほど経験してんのにぃ……)
しかし痛みは治まるどころか更に激しさを増し、ついには口からの大量の血が洪水のように吐き出される。血だまりに顔を埋めている今の彼は本当に哀れだ。
(……別に死ぬのは怖くねえ……このまま死ねたらどれだけ楽になれるか……。だが……なんでこんなに悲しい気持ちになんだよォ……なんでこんなに気分がワリいんだよォ……)
彼は気づいていなかった。肉体の痛みだけなら彼はまだ耐えると思える。しかし、今の彼はそれに加えて心、精神的にも多大な痛みを被っていたのだから。
しかし、彼最大の悲劇はなまじ普通の人間より身体が丈夫な分、即死できなかったことであった。
(……誰か教えてくれ……俺のやり方は間違ってたのか………………)
彼は哀しいほどに自分で自分に問い詰め、今の彼の頭中には今まで生きてきた全ての追憶が流れていた――。
……荒廃した大地、環境。治安など一切ない無法世界。まとめな食べ物はほとんどなく、水は汚染されて、同じ種族同士が殺し合って屍肉を貪る日々。
生き残るために、次々と自分の種族を共食い続ける、いつ自分が殺されるか分からない、気が休まらない日々。そしてある時、空から見たことのない巨大な物が降りて、その中から出てきたのは白衣に身を包んだ謎の男と数人の男達。その男らに突然、連れられて――。
宇宙船という右も左も分からない未知の世界に入り、言葉も全く喋れない獣同然の自身に言葉を教えてもらい、人としての常識、礼儀そしてここの生き方、ノウハウ、武器の使い方、戦闘技術、全てを教えられた少年時代――仲間というかけがえないのないものを手に入れ、血にまみれ、傷付くキツい時もよくあったがそれ以上に楽しく飽きない刺激的な今日までの人生――。
彼は今、走馬灯のように流れていた――。
「くくぅ……ぐぬぅ……」
全身に苦痛の走る体を堪えて再び立ち上がり、壁に伝いながら歩き出す。しかし彼の顔をもはや若々しい精気など感じられず、もう数十年も経ち老けたように感じられるほど、弱りきっていた。
(クククっ、俺はもう何も残ってねえ……まさかこんな結末になるなんざ考えてもなかった……。アマリーリスのみんな……ホントにゴメンよ……ゴメンよぉ……)
ラクリーマの表情がかなり暗く、そして弱々しかった。
それほどまでに後悔と罪悪感にまみれていたのである。
突然、真天井が爆発、ライトが一斉に粉砕された。彼はもうこの程度の衝撃にも耐えられずに倒れ込んだ。
(エクセレクターはもう限界なのか……あいつから預かったモノを俺は……)
ラクリーマは立とうとしなかった。次第にその瞳は閉じていく……。
(もう……疲れたぜ……いい加減に死なせてくれよ……もう自殺したほうが楽だ……)
ラクリーマは左腕にそう念じる。だが、いつもなら左腕は彼の思考に反応してすぐに動くが、こう言う時に限って全く無反応である。
(お前も俺に苦しんで死ねってか……)
――そして目が完全に閉じてしまい、彼の命が尽きかけた。
しかし、その時の脳に浮かぶは今まで死んでいった部下達が必死な表情で彼を残酷なまでにこう引き立てる。
(リーダー、俺らの分まで生きてくだせえ!!)
(俺らのことは心配しなくていいっスからどうか自分のために生きてくださいよ)
それが頭に響き渡り、彼の命を繋げていた。
(なんでだよ……なんでお前らは俺を死なせてくれねえんだよ……俺はお前らを死に追いやった張本人だぞ……)
……しばらくして彼はゆっくりながらも立ち上がり、また歩き出した。
銃創の出来た、痛みでガクガクであり、いつ崩れるてもおかしくないほどのボロボロの右足、血まみれであり多量出血で視界が霞み、倒れそうになるたびにまた部下の叫びが頭に響き、彼を無理矢理に意識を保たせる。
それが彼にとっては天の声なのか悪魔の囁きなのかは分からない。彼は目的地もないまま歩いていった――。
◆ ◆ ◆
ドラえもん、スネ夫、ジャイアンはのび太達を探しに通路内を走り回っていた。しかし彼らがどこにいったのか全く分からない。
しかも先ほど近くの通路から爆発する轟音が連続で聞こえ、この艦内は近い内に崩壊すると三人とも感づいていた。
「ドラえもん、このままじゃあ……」
「しょうがない……ノビールハンドを……」
ドラえもんはポケットに手を突っ込み、中身を取り出すが調子が悪いのか変なモノばかり出てきてしまう。
「おい、またかよ!!」
「何やってんだよもう!!」
二人に急かされるもそう簡単に出てこない。
「ええっと……あった!!『ノビール……』」
《ゴオオーーっっ!!》
手前の横の通路壁が突然爆発し崩壊、同時に巨大な炎が吹き出し、ドラえもんの腹部をかする。
「うわああああっ!!!」
三人はびっくりして後ろへ尻餅をつくが、運よく通路に伝わるほどには強くなく、すぐに弱まり引っ込んだ。
「アチチ……ホントに危なかった……んああっ!?」
「ドラえもんどうしたんだ!?」
「さっ、さっきので四次元ポケットが燃やされたーーっ!!」
「「何だってえぇぇっ!!?」」
先ほどの噴出した炎がドラえもんの腹部を通過したせいでポケットが焼失してしまった。これではもう、ひみつ道具が出せないではないか。
「ふ、ふざけんなよドラえもん!!なんで必要な時に限ってだせねんだよ!!」
「道具の出せないドラえもんなんてただのポンコツロボットじゃないか!!」
『触れてはいけないタブー』を口にしたスネ夫に対し、ドラえもんはついに……。
「も、もう一回いってみろ!!僕だって好きでこうやってるワケじゃないんだァァ!!」
涙目で顔を赤くしながら彼の服をグイグイ引っ張るドラえもん。それを止めようと必死なジャイアン。
またいつもの取っ組み合い、悪く言えば『子供のケンカ』をまた性懲りもなくしていると、
《アナタ達何やってるの!!!?》
馬鹿デカイ声女性の声が聞こえ、後ろに振り向くとエミリアとミルフィがこちらへ向かってきているではないか。
「エミリアさん!!?それにミルフィちゃん!!」
駆けつけると彼女は三人の頭にポコっと軽く叩いた。
「あなた達ねぇ……もう少し仲良く出来ないの!?」
「ホントにもう、今の状況わかっているのかしら!!」
エミリアのミルフィは呆れに呆れているが、
「だってスネ夫がぁ!!」
「ドラえもんの方こそ――っ!」
また揉め合う二人に、エミリアはついに……。
「いい加減にしなさい……さもないと本気で殴るわよ……」
「「ぴいっ!!」」
彼女のドスのきいた低い声と睨み付けるような鋭い瞳、眉間にシワを寄せたその顔は今まで見たことのない恐さを二人は一気に畏縮した。
「エミリアさん……大丈夫なんですか?」
ジャイアンの気遣いにエミリアは先ほどの恐い表情から一気に恥ずかし混じりの笑みを浮かべた。
「……ごめんね。あたしがしっかりしないといけないのにね……けどもう大丈夫、一刻も早くあの子達を追跡しましょう」
「ドラちゃんの道具を使おうヨ!!」
「それが……」
……二人に先ほどあったことを話すと仰天した。
「なんですって……ならもうドラちゃんの道具が……」
ドラえもんはシュンと落ち込み、申し訳なさそうな表情をしている。
「過ぎたことはもうどうすることもできないけど……これじゃあ二人を探すのは絶望的だわ……」
この艦内の通路、構造を理解していない自分等にとって、今いる場所は未知の領域である。
「エミリアさん達、よく僕たちのいるトコ分かりましたよね?」
「……実ははぐれた時のことを考えて、密かに三人の服に発信器をつけておいたの。ミクロサイズの特殊品だから今は取れないけどね」
準備のいい彼女に三人は本当に感心している。
「今はそれよりどうにかしてあの子達の居場所を突き止めないと……」
「そうね。今の艦内状況見るとこの艦も下手したら崩壊するかもしれない。それまでに最低、あの子達を発見して脱出しないとそれこそ任務失敗を意味するヨ」
悩んでいる中、ドラえもんは地面に散らばっている、先ほど出した道具を漁り出した。
「とりあえずあるにはあるけど……この状況で役に立つモノは……『たずね人ステッキ』ぐらいだな……けどこれで何とか基盤はできる!」
不幸中の幸いか、『たずね人ステッキ』があったおかげで二人を探す可能性を生まれた。
――そして5人はまた集結し、互いに見つめ合う。
「みんな、ここから本当の執念場よ。まさに時間勝負になるわ」
「全ての頼りはドラちゃんの残り少ない道具。みんな持てる知恵を振り絞って行動ヨ!」
三人は頷いた。
「ホントにキツい現状だけど、やるしかないんだ。せっかく会えたのにここまできてのび太君としずかちゃんが死ぬなんてそんなのイヤだしね」
「ああっ!」
「だね!」
「なら行くわよ。所々爆発が起きてるから常に自分の周りを意識し警戒して。あたしもカバーしきれないからここからは自分の身は自分で守ること、分かった?」
「了解!」
「「「分かりました!!」」」
改めて5人の決意を固くひとつにし、二人の発見を信じ、長い通路を走っていった。
◆ ◆ ◆
――そしてのび太としずかの二人もラクリーマを追って走り続けていた。ドラえもん達とは違い、ここの内部構造はよく知っているため今、どこにいるかはわかっていた。
「ラクリーマ……どこに行っちゃったんだろ……」
のび太達は彼を本当に助けたい気持ちでいっぱいであった。それがのび太にとっては恩返しの為に、しずかにとってはユノンが死に間際、彼女に託した願いを果たす為に、一刻も早くラクリーマの元へ辿り着きたい、そう思っていた、いやそれしか考えられなかった。
「のび太さん、ラクリーマさんが行きそうな場所わかる?」
「ラクリーマの……行きそうな場所……」
二人は考える。あののび太も今は真剣に考えてる。彼らが今まで行ったエクセレクター艦内のエリア、ルーム、場所全てを記憶から引きずり出す。休憩広場、司令室、食堂、訓練エリア……等思い浮かぶが、二人の一番気にかかる場所が一つ共通した。それを互いに言うと違うことなく一致したのであった。
「――行ってみよう!!しずかちゃん!!」
「ええっ!!」
二人はそこに彼がいることに希望を求め、駆けていった。二人の共通した場所とは一体……?
◆ ◆ ◆
「…………」
そしてラクリーマはプラントルームのベンチのある中央広場にいた。彼にとっては色々と思入れのある場所……。
最初の彼女ランが育てた花の育成場所であり、そしてユノンと愛を誓い合った場所である。
しかしここも爆発の被害にあい、水の蒸留装置が壊れ、今や済んだ空気が煙に包まれて完全に汚染、それが原因でデリケートな花や植物は早速枯れはじめていたのであった。
それを光景を目にしたラクリーマをさらに絶望へと追い込む。
(ラン……俺のせいか……俺のせいでこうなったのか……本当にすまねえな、あの世にいったら謝らねえとな……せっかくお前の育てたお前の大切な物を……)
もはやプラントルームとも呼べないこの室内でも今は彼にとって、全てを失ったと思い込む彼が寄りすがれる唯一の場所であったのだから……。
「ぐ……ぐえぇっ!!」
強烈の吐き気に襲われ、その場にうずくまる。髪の毛も少しずつパラパラ落ち始め、ぼさついてた大量の髪がもう短髪になりかけていた。
口を押さえた手には血がべっとりとついているのを確認すると、タイツで拭った。
全身倦怠感、吐き気が今なおも治まらず額を押さえて疲労困憊のように激しく息を乱し、内臓痙攣が起こる放射能障害に冒された身体、無理をし過ぎたせいで内臓や筋肉、骨格がボロボロであり痛感神経をもろに刺激、息をするだけでも苦痛である身体を無理矢理我慢してのそっと立ち上がる。
こんな状態になってもまだ立っていられるとは……よほどの精神力がないと無理である。
だが彼は――死ぬのはもはや時間の問題であると悟った。
その時、入口ドアが開く機械音が聞こえ、すぐに茂みに入り、息を殺す。
(連邦野郎か……こうなったら俺の命尽きるまでぶち殺し続けてやらぁ……)
彼はドラえもん達と対峙した時のように再び闘争本能、殺戮本能を燃え上がらせた。が……。
「ラクリーマ、いる!?」
「ラクリーマさん!!お願い、いたら返事してぇぇ!!」
プラントルームに響く聞きなれた子供の男、女の声。 そう、のび太としずかであった。
(あいつら……何しにきやがった!?のび太には俺のことを忘れろといったハズだろ!?)
瞬間、彼の表情が一変、がく然となる。彼の思いに反して、二人はここに向かって来ていた。
「しずかちゃん、中央のベンチの所に行ってみよ!!」
「そうねっ!」
段々と近づいてくる彼らについに苛立ちが募らせた。
(てめえら……そんなに俺に殺されてえのか……よお!!)
……そして二人は中央広場に着くとそこには……。
「ああ、ラクリーマ……」
「ラクリーマさん……」
広場の中央に設置してあるベンチには彼がいた。しかし彼らに背を向けて無反応であったが。
「……てめえら……何しにここに来やがった?」
彼の口調には『怒』がすごく混もっていた。
「僕達は……ラクリーマに……何か恩返しがしたくて……」
「……恩返しだと?」
「あたし達、ラクリーマさんの辛そうな顔をしているのを見て……何か助けになれたらなって……」
《何馬鹿げたこといいさらすんじゃボケェ!!》
彼の凄まじい怒号が二人を威圧、畏怖させた。
「仮にも俺は殺戮と破壊することしか考えてない救いようのねえ悪人だぜ?そんな俺に助けになりたいとはな……お前ら、ここまでアマちゃんのお人好しだったとは思わなかったぜ……現にお前らがここに来たのも俺に殺されにきたのかと思ったぜ!」
ラクリーマは振り向くとその殺意の沸いたオーラを放ちながらで二人を睨む。
「大体のび太、お前に言ったよな?俺のことを忘れろと。どいつもこいつも……俺の言う通りにしてりゃあ後腐れなく、安全に済んだものを……本当に不愉快だ……っ」
「「…………」」
「俺が全て背負って犠牲になって、あいつらが大人しくしとけばそれで何もかも穏便に済んだんだ!
それなのにレクシーといい、ユノンといい、俺に関わった人間はすぐ何かしら俺に生きろとほざいて……頼んでもねえのに俺の身代わりになって自ら命を捨てやがる、全くくだらなすぎてヘドが出そうだぜ!!」
自暴自棄すぎる言葉に二人は震えて涙を浮かべた。
「ひ、酷すぎる……ラクリーマ、それはあんまりすぎるよ!!」
「そうよ!!レクシーさんやユノンさん達、今まで死んでいった仲間の人達はラクリーマさんをすごく信用してたからこそあんな行動とったのよ!でなきゃ、命を自ら捨てる行動なんかとらないわ!」
その言葉にラクリーマはほくそ笑むような態度をとった。
「なら俺だってな、お前らに本音ぶちまけてやんよお!本当は俺はリーダーなんぞやりたくなかった!」
「なっ……何だってぇ……?」
「……ただ好き勝手に暴れまくって、誰であろうと片っ端から殺しまくって……気に入った女を犯しまくって……死ぬときは戦って死ねればそれが俺の本望だ!
だがな、組織のリーダーになった以上はそんな考えをもってると組織自体を破滅に追い込む。こんな自分勝手な俺が人の上に立とうなんざあり得ねえのは誰からの目から見ても一目瞭然なんじゃあ!」
彼の募りに募った気持ちを知り、かける言葉が出なくなる。しかし彼は震えていた。
「……だが、あの馬鹿共はそんな俺を慕ってきやがった、ついてきやがった!そしてこんな俺の為に命を捨てやがった!そんなどうしようもないあの馬鹿共でも――」
《あいつらの命は俺の命そのものなんだよ!!!》
彼の今言ったことはまさしく本心であると確信した。彼は仲間という存在を心から大事にしていたことがよく分かる。
「けっ、もう今さらそんなことはどうだっていい!!こんな状況になって俺には何もない、後戻りすらできねえんだよ、なら――」
《もうキサンらも直々に殺してくれるわーーっ!!》
だが完全に血が上り、錯乱したラクリーマに何を言っても無駄であった。
「ラクリーマ!?」
彼はのび太に突っ込み、その勢いに乗って彼の頬に全力の裏拳を放った。当然、その唐突さに避けることなど出来ずにまともに受け、横へはじき飛ばされ、地面に転がり倒れた……。
「のび太さぁん!!!」
のび太はピクピク動くだけで全く起きようとしない。しかしラクリーマはそんな彼に向けて右手の指関節をバキバキ鳴らす。
「ククク……のび太、今すぐ楽にしてやるから安心しな!!」
その顔は戦闘訓練で見せた時のように悪鬼羅刹であり、彼の前に立つ者全て、敵と判断してしまっていた。
トドメを刺そうとのび太の元へ向かおうとするラクリーマにしずかは大粒の涙を浮かべ、彼の足へ飛び込み必死にしがみついた。
「ラクリーマさん、ダメ!!のび太さんを殺さないで!!」
彼女の必死の説得に解せず、今度はしずかへその狂った視線を向けた。
「しずか、最初出会った時にお前を殺しておけばよかったよ。こんなことになるんならなァァァァ!!」
「ひいっっ!!」
なんとしずかの縛った髪を乱暴に掴むと左手甲から鉤爪を出し、それをゆっくりと彼女の顔面に突き刺すように構える。
「のび太はしばらく起きやせん。てめえをぶっ殺した後、あいつも血祭りにしてやらぁ!!」
「ああ……ラクリーマさん……ユノンさんが……ユノンさんがあなたに……」
「もうユノンなんぞどうでもいい、もう喋れないようにしてやらぁ!」
馬耳東風となり暴走するラクリーマ。そんな中、倒れていたのび太が悶絶しながらもゆっくりと起きた。
頬が真っ赤に腫れ、眼鏡を吹き飛ばされたが幸いにも近くにあったので震える手で手探りで探し当て、着けた。
「しずかちゃん……しずかちゃん!!?」
今にもラクリーマの手に掛けられようとしている彼女の姿に慌てふためく。
「ラクリーマ!!しずかちゃんに手を出すと許さないぞ!!」
だがラクリーマはもう彼女を殺すことにしか目に見えてない。彼は凄く焦り散らしていると、
『カチャ……』
後ろのポケットから何かが床に落ちた。それは拳銃である。これは銀河連邦との開戦前、ラクリーマがこれでしずかを守れと渡された拳銃であり、彼はそれを短パンの後ろポケットに突っ込んでいたのを忘れていた。
それを見たのび太は突然、ある究極の選択肢を迫られることになった。
(僕は……ラクリーマを……撃てるのか……)
これを使えばしずかを助けられるかもしれない、この近距離から撃てば彼の射撃の腕なら確実にラクリーマに命中させることができる。だが、それは下手をすれば殺しかねないし、良くてもケガは免れない。彼を助けるどころか返って苦痛を増やしてしまうことになるのだ。
二つに一つ、しかしもはやそんな時間などない、早くしなけばしずかが……けどラクリーマを助けたいのにこれでは……と、のび太の心を深く抉ろうとする選択であった。
(どうすればいいの!?誰か……誰か教えてよ!!)
彼は心の中で必死にそう叫んだその時、
(……気にしないで撃って!)
どこからか声がした。それは女性の声であるがその主はユノンではなく、明るめの甲高い声質であった。
(えっ、だっ誰なの!!)
(そんなことより早く拾って撃ちな!でないとあの子がラクリーマに殺されるんだよ!)
(けどそれじゃあラクリーマが!!)
(あの子だけじゃない、ラクリーマ自身にも本当に取り返しのつかないことになるんだよ!!二人を救えるのはあんただけよ、早く銃を構えて!)
(けどどうやって!!)
(あいつの左腕に弱点があるからあたしがそこに照準を合わせてあげる!!そこを狙えばあいつを一切傷つけることなく動きを止めれる。あんたは引金を引くだけでいい、早くして!)
のび太はその声の言う通りに銃を拾い、ラクリーマに向けるとなんと銃口が彼の意思と関係なく左腕の、肘部に露出する回路線へ向けたではないか。
(ラクリーマごめんね。あんたがこれ以上、一人でもがき苦しむのはわたし、もう堪えられないの。だから……あたしが苦しみから解き放ってあげる!)
一体この声の主は誰なのか知りたいが今はそんなことを思っている暇などなかった。
そしてラクリーマは左腕を引き、全力で鉤爪を押しだそうとしていた。彼女の顔にその鈍い銀色の爪を向けて……
「死ねえしずかああああああっっ!!」
「イヤああああっ!!」
刹那、一発の発砲音が鳴り響いたと共に、ラクリーマの動きは止まった。左腕がそのまま力を無くしたかのように落ち、彼自身もその場でガクガクになった。
「あぐあぁ……………っ」
横を見ると深く息を乱したのび太が今にも落としそうな銃口を自分に向けていた。
「の……のび太……?」
が、彼にのび太の後ろにいるはずもないある人物がのび太を支えている姿がはっきりと見えた。のび太より少し身長が高く、左右には金色の翼を高らかに広げ、その顔は幼い顔立ちで金髪のパーマが似合う女の子のようであり、ラクリーマ自身が何よりも知る人物であった。
(ラン……?お前か!!?)
それはラクリーマの最初に愛した女性、ランであった。しかし彼女は何も言わず、彼を見つめる。それも……。
(なんでだよ……なんでそんなに今にも泣きそうな顔するんだよ……なんで俺を憐むような表情するんだよ……俺は……お前らのために身体をボロボロにしてでも頑張ってきたのに……なんでだよ……?)
しかし彼もすぐに現実に戻されることになった。
「うう……ひくっ……っ」
「し……しずか?」
前を見るとしずかが泣いていた。しかも自分の右手には彼女の髪を今にも引き抜きそうなほどに強く掴んでいた。
やって正気を取り戻したラクリーマは次第に自分をしようとしたことに気づき、顔面が一気に蒼白と化した。
「お……俺は……なんて……ことを……っ」
ラクリーマはついに力無くして、その場で倒れこんでしまった……。そのまましばらく互いに言葉すら出ずに沈黙が続くも、のび太はすぐに立ち上がりしずかの元へ向かった。
「しずかちゃん、大丈夫!?」
「のび太さん……ああ、のび太さん!!」
互いに無事を喜び、抱き合うがそれもすぐにある方向へ視線を向けた。
「ラクリーマさん大丈夫!?」
「うぐぅ……」
彼らのそばで倒れ伏せている彼だが、うめき声を上げていることから何とか意識はあるようだ。二人は急いで彼を起そうとしたが振りほどかれた。
「やっ、やめろ!!俺はお前らに助けられる資格なんかねえ!!」
「な、何を言って……」
「俺は……お前らを地球に送り返すと言ったのに……逆に殺そうとしてしまった……俺は……俺はぁ……最低のクズ野郎だぁ!!」
顔を上げず、自分自身を貶すその様子はいつも彼からは想像できないことであった。
「……殺せよ。お前の持ってるその銃で今すぐ俺を殺してくれ!!」
「ラクリーマ……なんで……そんなこと言うの!?意味が分からないよ!!」
「殺せっていってんだよ!!俺はお前らを本気で殺ろうとしたんだ、お前らにしちゃあ正当防衛だろうが!!」
「ラクリーマさん……」
「頼むよ……もう……俺は生きていること自体が苦痛だ……お前らが俺を助けたいと言ってたがそれが今の俺の救いだ……」
彼はもう身体的にも精神的にも朽ちていた。しかしだからと言って、「殺せ」と言われても二人の性格からして到底不可能な行動であり、願いでもあった。そんな二人に見かねたラクリーマは……。
「……だよな。お前らのようなアマチャンにはそんなこと出来るわけねえよな。なら仕方がねえ……」
ラクリーマは突然、のび太の持っていた拳銃を奪い取り、それを自ら自分の頭に押し当てた。
「「うわあああああっ(キャアアアアアっ)!!!!!!?」」
二人は狼狽するも彼は一向にやめる気配などなかった。
「……今まで自分の全てをなげうってまでアマリーリスを、あいつらのために尽くしたのに……それが何の意味もなかった……俺のやり方が全て間違ってたんだ……」
「「………………」」
「ククク……全くよぉ、ホントに笑い話にもなんねえよな。俺が良かれと思ってやったことが仲間からしたらそれが返って迷惑だったとはな……それじゃあアマリーリスが壊滅するワケだ……」
ラクリーマはついに指を引き金にかけた。
「だがこれで全てが終わるんだぁ!!」
引き金を引く瞬間、のび太、しずかの二人の力で拳銃を力ずくで逸らした直後拳銃から弾丸が発射され、樹を貫通した。
「キサンらなにしやがんだァァァァ!!」
二人は銃を撃たせないように持てる力で銃を地面に擦り付けていた。
「僕は……ラクリーマに死んで欲しくない。僕からしたら最高のお兄ちゃんだから……これからも仲良しでいたいから……」
「あたしもよラクリーマさん。あなたほど、ここまで仲間を大切にする人はいないと思うわ。けどあなたは何から何まで自分で抱えこもうとしてたのがいけなかったのよ……」
「しずか……」
「……ユノンさんがね、死ぬ前にあたしへこう頼んだの。
『これ以上ラクリーマさんを追い詰めないであげて、どうか救ってあげて』って……。
ユノンさん、レクシーさん達アマリーリスの人達はあなたの苦労を分かっていたからこそ、あなたをこれ以上、苦しませないために自ら命を張ったと思うの……」
「なんだと………?」
「……それでレクシーさん達だけでなく、ユノンさんまでもが……けどラクリーマさん、どうかあなたまで死のうとしないで、お願い……」
しずかは涙声で彼に嘆願した。
「僕からもお願い、もう自分を強く責めないでよ……」
「のび太…………」
「ラクリーマらしくないよ。そんな辛そうな顔してたら僕らまで悲しくなるからいつもみたいに明るい顔をしてよ……」
「…………」
「大丈夫、僕らはラクリーマを守ってあげる。ねえ、しずかちゃん!」
「ええっ、あたし達はずっとあなたの味方よ!!」
二人の純粋なまでの優しさと励ましを受けた彼についに変化が……。
「う……うう………うう……っ」
彼の赤い瞳から大粒の涙が溢れ、ポタポタと流れて出ている……彼は泣いていた。二人は彼を包み込むような優しく触れた――。
「ラクリーマ……辛かったら泣いていいんだよ。今は僕ら以外は誰もいないからいっぱい泣いて楽になろうっ」
「うう……うわあああああ……ァァァァ………」
あのラクリーマが大声を出して泣いた。まるで子供のように……。
「ラクリーマ……」
「死んじまった……レクシー達だけじゃなく……ユノンまで…………みんな……みんな……俺からいなくなっちまう……一人ぼっちにされちまった……」
彼からの悲痛の本音。のび太としずかはその変えようのない現実に涙がこみあがったが抑えた。
「ラクリーマ……本当に辛かったんだね。けど僕達がいるから安心して……」
「あたし達が……あなたの一生の友達になるわ!」
そう彼を元気づけ、励ます二人。思えばあの男、エルネスの死から始まった悲劇。
彼の託した『仲間を大事にしろ』という遺志は、常に全力投球する彼がそれを真に受けてしまった結果がこの結末となってしまった。彼はそれほどまでに『純粋』すぎたのである。
アマリーリスという極悪人の大人数で成り立つ宇宙海賊の総リーダーとしての責任感と重圧、そしてエルネスの遺志を全てを背負い、数々の葛藤や想像を絶するほどの苦難に苛まれながらもめげずに最後まで熱く、全力でここまで頑張ってきたラクリーマというこの男は極悪人ではあるが、実は誰よりも本当の意味で優しすぎた男だったのかもしれない……。