大長編ドラえもん のび太の宇宙大決戦   作:はならむ

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Part.58 脱出

「のび太君、しずかちゃん!!」

 

入口ドアが開き、複数の駆け足音と共に息を切らしながらプラントルームにかけつけてきたドラえもん達五人。あの『たずね人ステッキ』の道標が見事、的中したようである。

 

「ドラえもん、スネ夫、ジャイアン……と、この人達……誰?」

 

「もう心配したんだか……うわああっ!!」

 

彼らはそこにラクリーマがいるのに今気づき、顔を引きつかせた。

 

「大丈夫だよ、もう落ち着いてるから、ねえラクリーマ?」

 

彼は目を瞑り、クスッと笑う。

 

「全くお前らはよぉ……だが、いいダチを持ったな」

 

誉められて嬉しくなり顔を赤くするのび太としずか。そんなやり取りにキョトンとしている三人。

 

そんな中、エミリアは近くに落ちていた拳銃を拾い上げると眉間にシワを酷く寄せ、歯ぎしりを立てながら拳銃をラクリーマの頭に突きつけている……この銃のグリップには黒い手の跡が。しずかが持ってきたユノンの遺品である拳銃だ。

 

「……やっと、ここでケリがつけれそうねぇ……」

 

「エミリア!!」

 

彼女は今ここで思いを遂げようとしている。

しかし、それでは提督の命令に背くと同時に彼女の積み重ねてきた栄光を全て消すことになってしまうが……。

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、ミルフィの四人に緊張が走る中、のび太としずかはラクリーマの前に立ち、庇うかのように手を広げた。

 

「撃たないで!もし撃つなら……代わりに僕を撃って!」

 

「のび太、何をいってんだよ!?」

 

のび太の発言に仰天する三人だが、

 

「あたしものび太さんと同じよ。この人の代わりにあたしが!」

 

しずかも負けじに言い張る。しかし、エミリアは彼らに困惑しているのかさらに顔を歪める。

 

「二人とも、すぐにどきなさい。この男は庇う価値すらない悪人……それほど今までに数えきれない人々に恐怖と不幸のドン底へ叩き落としてきた極悪の人間なのよ!」

 

「だからって殺していいわけじゃないよ!!お願い、どうかラクリーマを殺さないで!」

 

「あなた達の間に何があったか知らないけど……なんであなた達がそこまでこいつを庇おうとするのか私には全く理解できないわ。

見たでしょ、こいつは反省の色もなければ改心する気持ちがこれっぽっちもないのよ!」

 

「それでも、命は命でしょ!そんなむやみに殺したらあなたも同じじゃない!」

 

「…………」

 

……そんなやり取りにラクリーマはついに動き出した。

 

「二人とも、悪党を庇うようなカッコワリイことすんな」

 

「ええっ!?ラクリーマだめだよ!!」

 

二人を強引に押し退け、エミリアの前に出る。

 

「確かに、俺は改心する気がこれっぽっちもねえんだわ。俺は悪行が死ぬほど好きだからな、今さらよい子ちゃんになるより俺はこっちのほうがずっといい」

 

「ラクリーマさん……」

 

「それに俺はどのみち、このまま捕まっても死刑、よくても終身刑は免れねえよ。俺は待つのが好かないんでな、今すぐ殺ってくれたほうが退屈しなくて済みそうだ」

 

その時のラクリーマは本当に清んだ顔をしていた。

 

「お前らに教えておくぜ。生き物全てはいつかは死ぬんだ。

明日には我が身かもしんねえ、ならそれまでどの道転ぼうとも自分の思うようにやればそれでいいと思うぜ。

俺は如何運が悪かったから、ここが俺の『終着点』だ。だが俺は悔いはない、それは最後の最後でお前らに助けられたからな……本当にありがとよ、のび太、しずか」

 

「「ラクリーマ(さん)……」」

 

彼らはもうどうしようもないことをラクリーマの言葉で知る。そして――ラクリーマはエミリアに向けてこう言った。

 

「やっとその気になったか。さあ、殺りたいなら殺りやがれ。

これでお前の苦労も報われるぞ、それとも……また『撃てません』と泣きつく負け犬になるのか?」

 

「…………」

 

拳銃を持つ彼女の腕はブルブルと震えている。

 

《殺れえぇぇーーっ!!》

 

……瞬間、発砲音が数発響いた。その後の静けさ、十数秒だけ続いた。しかし、

 

「え………っ?」

 

エミリアの銃口は真上に向いていた。そしてラクリーマは倒れるどころか怪我一つもついていなかったのだ――。

 

「あたしはあんたを絶対に許さない、一生憎んでやる。本当なら今すぐにでも殺したいくらいに……。

だけど、どうやらあんたみたいな奴でも死んだら悲しむ子達がいるみたいだし……」

 

彼女はのび太達を見つめると一呼吸置き、静かに銃を床に置いた。

 

「それにあんたはもの凄く死にたがりのようだから、このまま殺してもあんたのご都合だし、かえってあたしが大損だわ。

……決めたわ、あたしはたとえ一人だけになろうと裁判であんたを弁護してやる。絶対に死刑になんぞさせやしない、させるものか。命という重みを……一生かけて無理矢理にでも教育してやる!!」

 

その断固たる宣言に彼は微笑した。

 

「くくくっ……馬鹿なこと考えやがって……いいのかそれで?俺には拷問しようが何しようが何の効果もないぜ?いくら何でもお前一人だけでするつもりか?」

 

「そこは提督や色んな人が理解してくれて協力してくれると思うわ。あたしがそうなるようたくさん努力する、それでもだめならさらに努力するわ。

絶対にそのねじ曲がった性根、叩き直してやるんだから。ふふ、改心した時のあんたが生涯一番の見物ね」

 

「あ~あっ、やっと死ねると思ったのによ……まあ、無理だと思うがせいぜい頑張れや」

 

……和解とまではいかないが状況が本当の意味で落ち着き、全員が安堵した。

 

「……考えたら、宇宙旅行に行きたいと言い出したのが全ての始まりだよな……」

 

「う……っ」

 

「まあ、結果的に未知の宇宙にいけたからいいんじゃないかな?ははっ……」

 

ドラえもん達は今までの経緯を思い出し、ここまでの苦労を感傷に浸っていた。

 

(死んでいった仲間よ、お前らんとこに行くのがどうやら先延ばしになったようだわ。

特にユノンにはいっぱい甘えさせてやりたかったとこだが……、まああいつらもいるし大人しく待っとけや)

 

ラクリーマは見上げて想いを送っていた。天の光となった彼らに……。

 

「上がどうかしたの?」

 

のび太はそんな彼を不思議そうに見つめていた。

 

「お前らとは別の形で会いたかったぜ」

 

「?」

 

――だがその矢先恐れていた通り、艦内は一気に激震した。大爆発が次々に起こり、内部が次々に崩壊されていく。

ブリッジにいたカーマイン率いる連邦隊員その震動と崩壊に翻弄されていた。

 

「総員、すぐにこの艦から脱出せよ!崩壊するのは時間の問題だ!」

 

隊員達はすぐに自分達の乗ってきた機体の待機位置へ走っていくが、カーマイン、コモドス、クーリッジらは一向に戻らないエミリアとミルフィ、そして地球人の子供達の安否が心配でならなかった。

 

(エミリア、何してんだ!!早くしないとこの艦が爆発するんだぞ!!)

 

(ミルフィ、早く戻ってきてくれ!!死んでしまうぞ!!)

 

彼らはただそれだけを思っていた……そしてドラえもん達のいるプラントルームも同じく緊張が走っていた。

 

「エクセレクターが……この艦が崩壊する……」

 

「何だって!!?」

 

「ママ~~ぁっ!!こんなとこで死にたくなぁい!!」

 

案の定、パニックに陥るドラえもん達。エミリアとミルフィも挙動不審のように辺りを絶えず見回していた。

 

「一刻も早く戻って提督達と合流しましょう!」

 

「その方がいいわね!!」

 

しかしラクリーマは信じられないような顔をした。

 

「バカかお前ら!?いつこの艦が全崩壊するか分からんのに今さらブリッジに戻るとか自殺行為だ。

もう恐らくテレポーターは使えないだろう。それならここから最短の格納庫にある脱出ポッドに乗った方が安全だ!」

 

「……言われてみれば確かにそうね。未だに通信機の調子悪いしあちらがどんな行動してるか分からない……提督達はもしかしたら脱出準備に移行しているかもしれないし……」

 

「それに戻る途中で爆発に巻き込まれでもしたら……」

 

彼の提案に全員がうんと頷いた。今は一刻も早く且つ、安全に脱出したほうが妥当である。そう彼は立ち上がると真剣な眼差しで全員を見る。

 

「俺についてこい、格納庫の脱出ポッドは詰めれても五人しか乗れないが数だけは沢山あるから俺と女、着いたら操作方法を教える。そこから二機に分かれて脱出だ。

早く行かねえと下手したらこの艦の空気が外に吸いだされて俺は大丈夫だがお前らは窒息するぞ」

 

しかしエミリアは彼に対し猜疑心丸出しの目をしている。

 

「あんたのその言葉……信じていいわけ?」

 

「信じるか信じないかはお前の勝手だが、俺は脱出ポッドに向かう。信用できないならこの艦内を死ぬまでさまよえばいい」

 

彼女は拳をギュッと握りしめ、コクッと頷いた。

 

「なら行きましょう、全員が無事脱出できるよう、みんなで協力よ」

 

そして全員がプラントルームから出ていこうとした刹那であったーー。

 

「ぐっ……ぐぐっ……」

 

ラクリーマが突然、うめき声を上げてその場に口をグッと押さえて膝をついた。

 

「ラクリーマ……?ラクリーマァァ!!!」

 

「どうしたの!?」

 

彼の異様なうなり声を聞きつけ、全員が彼の元へ向かった。

 

「ラクリーマ大丈夫!?」

 

「ぐえっ、のび太、俺に近づくな……」

 

今の彼は明らかに異常だ。先ほどの穏やかな顔から一転、顔面蒼白であり、寒いのか身体を震わせている。冷や汗も大量の流れ出ていてこれはどうみても『正常』ではない。

 

「ぐゲェェェっっ!!!がはっ!!がはっ……!!」

 

大量の吐瀉物、いや、大量の血が押さえている手を決壊させ、溢れ落ち、手を放すとおびただしいほどの血と共にぐらぐらであった歯が数本、その根ごと取れて撒き散らした。彼の異常に全員が絶句した。一体何が起こったのかと。

 

「ああっ……うああ……」

 

「なんて……こと……」

 

するとエミリアは急いで弾帯から何やらトランシーバーのような長方形状のデバイスを彼の身体に接触させた。

 

「エミリアさん、これは!?」

 

「これは触れた人の身体状態を調べる物よ。これで今、身体で何が起こっているのか解るわ!」

 

苦しそうにうなだれるラクリーマ。こんなに多く血を吐くなんてことはただ事ではない。

すぐにデバイスを離し、その小さな画面に映し出された内容を確認すると、瞬間に彼女の顔も青ざめたのであった。

 

「あ……あっ…あんた……一体……何をしたらそんな身体になるの……?」

 

「えっ、そんなに酷いんですか!?」

 

彼女は恐怖のあまり唾を飲み込む。そしてその口から放たれた言葉とは……。

 

「もう……酷いってレベルじゃないわ。身体中がもうメチャクチャ……一番ひどいのは、症状は重度の放射線障害……、それに加えて肋骨数ヶ所が完全に折れて近くの内臓を酷く傷つけてる……はっきり言って、今生きてるのがおかしいくらいだわ!」

 

その内容に全員、特にのび太としずかは絶望した。

 

「放射線……障害って……?」

 

「……被曝したってことよ。あなた達に分かりやすく言えば放射線をたくさん浴びてもう……助からないかもしれない……」

 

被曝……地球でもよくある原発の事故、核兵器による破壊の次に襲いかかる放射能による恐ろしい二次被害。身体を蝕み、ボロボロにし、そして苦しませて死に至らしめるという悪魔の産物である。

 

「……まさか……メレウル班長が使用した核弾頭……」

 

「お前らが放った核の爆心域……爆発直後に通ってきたからな。どうやらモロに放射線を喰らったらしい……」

 

そしてエミリアはふとあることに気づいてしまった。

 

「じゃあ、まさか……あんたはさっき、そんな酷い状態であたしやドラちゃん達と戦ったってこと!?」

 

ドラえもん、ジャイアン、スネ夫もその意味に気づき唖然となった。対峙の際、エミリアと互角に見えたのは彼がそこまで弱っていたからである。

 

「あんた本当にバカじゃないの!!なんでそこまでして自分の身体を!?」

 

「……俺には勝つか負けるかしかないから俺の身体状態などどうでもよかった。俺は勝つためならたとえ死んでも勝つ」

 

「そういう考えがバカだって言うの!仮にも両親から授かった大切な身体と命でしょ!?」

 

「けっ、俺は物心ついた時から天涯孤独の身。親なんぞまったく知らねえよ」

 

ラクリーマから放たれたその事実にそのいる全員の心が抉られた。

 

「第一、『ラクリーマ・ベイバルグ』って名前は俺を拾ってくれた前任のボスがつけてくれた名前だ。本当の名前なぞ俺は知らねえんだよ」

 

「名前を知らないって……あんた、どこの惑星出身なのよ……?」

 

「お前がそんなこと知ってどうすんだ……!?」

 

「答えなさいよ!!そんなに答えづらいことなの!?」

 

出身を答えるだけなのに言い渋るラクリーマだが……。

 

「……セクターαにある、惑星トラシュだ」

 

「トラシュ……ですって……」

 

「ウソでしょ……」

 

エミリアとミルフィは耳を疑った。

 

「二人共、何か知ってるんですか!?」

 

彼女達もラクリーマと同じく言い渋っている。気を落ち着かせるように一呼吸置き、その口を開いた。

 

「……その昔にかなり高度な文明があったけど最終的に強力な細菌兵器による全面戦争によって完全に崩壊、その劣悪した惑星環境と凶暴で野蛮な種族ばかりが蔓延り、ついには保護不可能と断定されて銀河連邦からも見放された惑星よ……そこ出身だったの……?」

 

「けっ、何が見放しただ。『見捨てた』の間違いじゃねえのか?」

 

「「…………」」

 

「まあ、別に恨み事をいう気はないぜ。この世の地獄のような地で生きてきたからこそ今の俺があるからな、逆に感謝してるぜ……」

 

「けど……確かあの惑星は10年ほど前に大量の小惑星が激突したって話よ。もう生き物全てが全滅、住めない死の星と化したハズ……」

 

その情報を知ったラクリーマはフッと笑った。

 

「そうか。ついにあの星もおっ死んじまったか。あの星から出たのが約13年前だから少なくとも俺はトラシュの奴らより運がいいな」

 

「13年前って……あんた何歳なの?」

 

「そんなの数えたことねえしわかんねえよ。だが……もう二十歳いくかいかないかぐらいだろうよ」

 

「二十歳ですって!?あたしより8歳若いじゃないの!じゃあ、あたしの惑星を襲った時はまだ……17歳くらいの時ってこと!?」

 

……この男はなんとエミリアより幾分若くのび太達と大して歳は離れてなかった。

地球人なら成人になったばかりの彼は名が知れる程の極悪人になり、悪の組織『アマリーリス』の頂点に立つ男であったのだ。そして全員が多大なショックと共に疑問が生まれた。

 

『今までどんな環境で育ってきたのか』と。

 

「へっ、考えてみりゃあ物心ついた時から本当に凄まじかったな。毎日が食べ物や物資の奪い合い、殺し合いで、生き延びるために人間の血肉を貪ってたっけな。ガキん時からの興味も『どうやったら相手を簡単に殺せるか』だもんな。

俺がのび太、しずかに言った『お前らとは根本的に考えが違う』とはこのことなんだよ」

 

平和な世の中でごく普通に生まれ、ごく普通に育ってきたのび太達地球人、エミリア達とは違い、ラクリーマは小さい頃から常に死と隣り合わせで生き残るために、そして殺し合い、戦うためだけに生きてきた男。

 

そんな『人生』について価値観が全く違う彼らがこうやって出会ったのであった。

 

「……もうこんな話はもうやめて今すぐ脱出だ!早く行くぞ!」

 

彼は立ち上がるが完全に身体が弱りきっており、よろけて膝をついてしまう。エミリア、のび太、しずかは慌てて彼に手を貸して支えた。

 

「ああっ!!もう動いたら死んじゃうよォ!」

 

「もう無理しないでラクリーマさん!!」

 

「あんた本当にもう顔からして今にも死にそうじゃない!」

 

しかしラクリーマは救いの手を振りほどき、ふらふらながらもゆっくり立ち上がる。

 

「俺は……のび太としずかを地球へ送り帰すと約束した。

ここで死なすことは命を張ってでもさせねえ!何故なら――」

 

 

 

《こ の ア マ リ ー リ ス の 首 領 (ド ン) の つ と め だ か ら だ ァ ! ! !》

 

 

 

 

――たったそれだけであった。しかし彼の発言には聞くものを無理矢理にでも解らせる説得力というものがあった――。

 

「……行くぞ」

 

プラントルームから出ていく途中、ラクリーマは振り返り枯れ果てた植物を見つめる。

 

(あばよ……っ)

 

そしていつ事切れるか分からないほどに衰弱したラクリーマを頼りにドラえもん、スネ夫、ジャイアン、のび太、しずか、エミリア、ミルフィの集団は最寄りの格納庫を向かうべく長く果てしない通路を走っていった。もう崩壊の時が近く、通路自体がもう火災とひび割れが発生し、いつ潰れてもおかしくない状況だ。

 

「はあ……はあ……っ」

 

ラクリーマは息を切らしながらも必死で走った。その痩せこけ衰弱しきった顔、出血多量で最早焦点が合わない虚ろな瞳、ふらふらで千鳥足になって今にも倒れて事切れてしまいそうな彼がここまで尽力する強靭な精神力はどこから生まれるのであろうか――。

 

「ぐあ……げぇえっ!!」

 

立ち止まりその場で少量だがまた吐血を始め、フラッと倒れそうになるラクリーマを全員が彼を必死で支えた。

しかし、彼は歯を食い縛り、足を踏ん張り、ゆっくりと前に前に進もうとする。

 

そんな彼をエミリアはもの悲しい眼で見つめた。

 

「なんで……なんであんたはここまで頑張れるの……。こんな男が……どうして人殺しとか侵略とか酷いこと出来るわけ……?」

 

理解し難い光景であった。幾多の惑星、その文明、そこに住む人々の命をまるで弄ぶかのように手をかけてきた悪党の親玉が今は自分達の脱出のために、いつ死んでもおかしくないような状態の身体を無理して奮闘してくれているのは一体何故か――。

 

「こ、こっちだ、このまままっすぐ行けば右側に格納庫があるぞ……」

 

脱出まであと少しという所まで来た。全員は一気に駆け出したが――。

 

「うわあ!!!!」

 

突然の不幸か、通路自体が轟音を上げて二分割に前後に分断。格納庫側にドラえもん、ジャイアン、スネ夫、エミリア、ミルフィ、その手前側はしずかと……。

 

「ぐう………………!!」

 

「だっ誰か助けてぇっ!!」

 

なんとラクリーマとのび太が通路の割れ目に落ちてしまった。が、下を見るとかろうじてのび太はラクリーマの義手に捕まり本人は右手ででっぱりに必死で掴んでぶら下がっているもいつ落ちても仕方がなかった。

 

「大変っ!!何か……何かないかしら!?」

 

「うわあああっ!!どうしよどうしよ~~っ!!」

 

「ドラえもん、何か助ける道具残ってないのか!?早くしないのび太達があ!」

 

「えっと……えっと……ど、どれも役に立たないぃぃっ!!」

 

ドラえもん側はのび太をどう助けるか苦悩していた。それはしずかも同様であった。この状況にどうすることもできず、あたふたするばかりだ。

 

「ラクリーマさんとのび太さんがァ!ど、どうすればいいの!?」

 

そしてラクリーマとのび太は……。

 

「のび太、絶対に下を見るな、絶対に手を離すなよ!」

 

ブラティストームに必死に捕まり、今にも落ちそうになり怯えるのび太に彼は勇気づける。

 

「のび太、俺の背中まで上ってこれるか!?」

 

しかし彼は怯えて目を瞑ってそれどころではないことが分かる。そこでラクリーマは取り外しできる義手を利用し、上腕部を外して自律回路を起動、ぐるって左腕を無理やり後ろに回して背中までのび太を引き上げた。

 

「のび太、早く俺の背中に掴まれ!」

 

「ら、ラクリーマ……!」

 

「早く掴まれ!」

 

のび太は言われた通りにラクリーマの背中におんぶするように抱き掴まったーー。

 

「し、心配するなよのび太……必ず助けてやるからな……!」

 

左腕を元に戻して今度は左手も近くの出っ張りに掴まり、後はそのまま力ずくで上がってくるだけだーーが、それが出来なかった。

普段の彼ならのび太をおぶって上がってくるのは正直容易い。しかし今の彼は衰弱しきって気力だけで持っている状態。上がってこれるだけの力はもはやなかった……。

 

(くそ…………いつもならこんなの朝飯前なのに……力が入らねえ………)

 

こうしている間にラクリーマの握力が弱まっていき……。

 

(く……っ、このままじゃあーー)

 

真下は何も見えない真っ黒い空間。落ちればすなわち『死』を意味する。そんな空間へついに手が離れてしまい、暗い闇の中へ飲み込まれようとしたーーもはや彼らがここまで這い上がってくることは叶わないのか、全員が目を塞ぎ、全てを諦めた――が。

 

「うぐぐ……………ぐあああああッ!!!!」

 

 

なんとラクリーマはそこから登り始めたのであった。もう死に体であるにも関わらず、彼の強靭な精神力による気合いと最後に残されたわずかな力をフルに使い、少しずつ、少しずつよじ登ってくるではないか。

 

「な、なんてこと………!」

 

「ラクリーマさん……!」

 

その壮絶な光景に全員が唖然となる。いつ死んでもおかしくないこの男はのび太を背負って何が何でも助けようとしていた。宇宙戦闘の時のような猛獣のような恐ろしく、顔そして身体中の血管が浮き出て今にも切れそうである。

 

「ラクリーマ……!」

 

のび太もそんな彼を見てもはや怖くなどなかった。寧ろそんなことでは彼に失礼だと勇気と希望を抱いた瞬間だった。

 

(言っただろのび太、お前らを絶対に死なせねえってな……)

 

この光景を全員が刮目、そして盛大に喜んだ。

 

「ラクリーマさんっ!!」

 

ゆっくりとゆっくりと這い上がり、ついにしずかの元に辿り着く二人は倒れ込む。

 

「だ、大丈夫か………のび太……………?」

 

「うん、本当にありが……ああ!!」

 

「ら……………ラクリーマ………さん………!!」

 

二人は彼の顔を見て寒気が襲い、顔がひきつった。何故なら彼の両目から赤い涙……血が流れていたのだから……。

 

「だ、大丈夫!?目から血が流れてるよ!?」

 

「心配すんな……ちいと顔に力が入りすぎただけだ」

 

二人を心配させまいとそう言うが本人はもはやすでに……。

 

 

(……両目とも逝っちまったか……もうほとんど見えねえ。あとは俺の感覚と記憶に頼るしかねえな……っ)

 

 

一瞬だけの安堵が全員にもたらせるがすぐに現実に引き戻される。ドラえもん達はそのまま格納庫へ直行できるがのび太達、三人は完全に来た道の通路に取り残されていた。みるみるうちに通路同士が離れ、渡ることなど到底不可能である。

 

「みんなぁ!!」

 

「のび太君!!しずかちゃん!!」

 

また彼らは離ればなれになってしまったーー。

 

「女ァ、そいつらを連れてもういきやがれ!!」

 

「あ、あんた達はどうすんのよぉ――っ!!」

 

「俺らは別の格納庫を使う、だから早く――」

 

のび太、しずか、ラクリーマの三人はそこから退避、姿が見えなくなった。

 

「もう行きましょう!早く脱出しないと私たちも危ないわ!」

 

「のび太達はどうするんですか!?」

 

「……あの男を信じましょう。ほら、あなた達も急いで!!」

 

言われるままに振り返り、すぐに格納庫へ向かうドラえもん一向。たどり着いた格納庫は戦闘ユニットは宇宙戦闘でもはや無いに等しく、十分広く見渡せるほどである。

 

その端には脱出ポッドと思わしき小型機が無数に配置されている。しかしその大きさは詰めても数人ぐらいしか入れるほどしかなかったがもはや一刻の猶予もない。

 

5人全員が簡略化された操縦室の中に詰めて入ったため、空間を無理矢理圧迫していた。

 

「みんな狭いけど我慢してね!!」

 

「は、はい!!」

 

エミリアとミルフィが操縦パネル側に立ち、確認するがボタンやパネルが膨大すぎてどれを触り、どれを動かせばいいのか全く分からなかい。

 

「どっ……どのボタンを触ればいいの……?」

 

「アタシもさすがに分からないわ……っ」

 

完全にお手上げである。ラクリーマに操作方法を教えてもらう前にまた分断されてしまったのだから起動できるハズがない……。

 

しかし、ついに爆発の被害は格納庫までも及び、爆風や衝撃波が突き抜けて、早くしないとこちらもその餌食となってしまう。

 

「ドラえもん、残りの道具で何か使えるのはないのかよ!?」

 

「待って!!えっと、えっと……!!」

 

風呂敷の中にまとめた数少ないひみつ道具を狭い空間で探し始めた。

 

「ドラえもん、これ……何?」

 

スネ夫がふとある道具に手をつけた。それは幅の広い、勉強嫌いな人間なら見るだけで気絶しそうなほどの巨大さを持つ百科事典のような道具であった。

 

「これは『宇宙完全大百科端末機 』だ……もしかしたらこれなら!!」

 

ドラえもんはその『宇宙完全大百科端末機 』の袖を持つと全てを賭けるほどの気持ちでこれを一気に開いた。

 

「この脱出ポッドの操縦方法……お願い、出ろ!!」

 

ついに開かれたページには……。

 

「嘘でしょ……っ、ちゃんと載ってるなんて……」

 

そのページにはこの脱出ポッドの構造、操作方法全てが分かりやすく表示されていたのであった。

何と凄い物であろうか、何故ならこれは人物、物体、時代、出来事、果てには全宇宙規模の事柄を全てインプットした『アカシックレコード』のような物であった。

 

「ミルフィ、あなたの出番よ!!」

 

「アイアイサーっ!」

 

早速、ミルフィはその内容を全て速攻で覚え、直ぐ様操作を開始する。その速さはまさに達人の如く、全く無駄のない手さばきと足を駆使してパネルやレバーを作動させる。

 

瞬間、ポッド全体がついに起動しライトアップ。前方のハッチが一瞬で開門した。

 

「全員、脱出するわよ!!」

 

エミリアが中央のレバーを前に押し込んだ時、一気にハッチの中へ射出された。

ハッチ内の長い専用通路を一瞬で通り、ついにドラえもん達を乗せた脱出ポッドは宇宙空間へ吐き出されるように飛び出した。

この中から見るエクセレクターは崩壊が広がり、外装までもが剥がれ、あちこちに小規模の爆発が起きている。

 

これ程の全長を持つものがもし全体爆発したら……その衝撃波の威力は計り知れない。

 

「のび太君!!しずかちゃん!!」

 

全員はその崩壊していく艦を見ながら、ただのび太達の安否を祈ることしかできないことに無力感を漂わせていた……。

 

◆ ◆ ◆

 

……そして、あの三人はやはり艦内に取り残されておりラクリーマももはや体力の限界が訪れて、膝が折れて床に倒れ伏せた。

 

「はあ……はあ……っ」

 

身体中汗だくであり酷く息を荒らしており、これ以上動けるのかすら分からない状態であった。

 

「ラクリーマ……焦ることはないよ、ちょっと休もう!」

 

「そうよ!これじゃああなたがもたないわ!」

 

「うっうるせえ、そんな暇があるなら早く格納庫に向かえ!いつこの艦が吹き飛ぶかわかったもんじゃねんだぞ!」

 

しかし彼はもうのび太としずかに支えられてやっと立っている状態、倒れてしまえば二度と立てなくなってしまうかもしれない。残る気力を振り絞り、ただひたすら前に行こうとしている。

 

(ここからだと近いのが……第15格納庫か……そこの脱出ポッドは確か連邦との交渉中に起動させておいたハズだーー)

 

突然、彼は前方に指を指した。

 

「……この先にT字路があるからそこを右に行け……そこ真っ直ぐいけば格納庫があるぜ……ここから一番近いのはそこしかねえ……」

 

「えっ……ここから真っ直ぐ行って……」

 

「右に曲がって真っ直ぐね。ラクリーマさん、頑張れる?」

 

「ああっ、それぐらいの体力なら残ってるぜ……へへっ……」

 

二人は息を乱しながらも無理に笑う彼を見て、悲しくなった。

実際、ラクリーマはのび太達から見ればかなりの大男だが、それに反し二人がかりとはいえ、子供である自分達が支えているのに重く感じないのであった――。

 

何故、ここまで自分達の為にこんなに我が身をボロボロにしてまで……のび太としずかは段々悲愴感にまみれてくるのであった。

 

そしてT路を無事に曲がり、あと真っ直ぐ行けば脱出できるポッドのある第15格納庫が待っていた――。

 

彼が倒れないように左右に支えなからゆっくり歩くのび太としずか、二人に負担を掛けないようになるべく自分で歩こうとするラクリーマ。

幸い、まだここは被害が少なく、ひび割れや所々煙が出ているが通路であると言えるほどの形は保っていた。ふと前方通路の壁にガラス張りがある。そこは隣の通路が見える、艦内でも数少ないモノである。

 

そこを通りかかる直前、ラクリーマにふと変な予感がよぎった――。

 

(なっ……なんだ……このイヤな感じは……)

 

ラクリーマは直ぐ様辺りを見渡したが風景は変わりない。だが不安感が募るばかりで決して穏やかにはいられなくなる。

耳をすましてみると何か『ゴオーッ!!』と何が燃え盛るような音がこちらへ向かってくるかのように段々強くなる。これは一体……。

 

(……まっ、まさかぁ……っ!!)

 

ラクリーマは見つめた先はあのガラス張り。そこから何か不吉な予感が彼の勘に共鳴した。

 

「ふ、二人とも、今すぐここから離れろ――!」

 

「えっ!?どうしたの!?」

 

のび太としずかは当然、その『予感』に感知するハズもなく、突然の彼の焦りようと『離れろ!!』という言葉を理解できずあたふたしているだけであるが、ラクリーマはそれに見かねついに彼らを全力で前に押し飛ばした。

 

「ぐっ………はあ……!!」

 

しかしその急な動きが彼の体に負担がかかり、また吐血しかけて口を押さえた同時に――ガラス張りが粉砕され、その破片がラクリーマの体に容赦なく突き刺さり、さらに追いうちで破壊されたガラス張りの枠からは地獄の業火、爆風、衝撃波が一瞬で彼を包み、そして後ろの壁に叩きつけたのであった……。

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