――あれから数ヵ月。無事、地球へ戻れたはずのドラえもん達だがさすがに良い気分にはなれなかった。
特にのび太、しずかは地球に帰ってからは両親、特に母親にこれでもかと言うくらいに甘えた。
これは精神的に辛いことがあったこともあるが何よりユノンの悲惨な過去を知っていたので自分達にはしっかりした母親がいることに感謝し、そして彼女が自身の母親に甘えることが出来なかった分も含めてそれが彼女に対する供養になるのでは、なってくれればと思えるのであった。
のび太に関しては普段は途中で投げ出してしまう宿題は勿論、家の手伝いなどを積極的にするようになったり、泣き言などはあまり言わなくなった。
これはラクリーマと言う悪人ではあるが最期まで熱く突き抜けた男の生きざまにかなり影響を受けたことにあった。
そして他にも色々なことがあった。アマリーリスは壊滅、全宇宙にとって喜ばしいことであるがこちらも多大な被害と犠牲が出てしまった。
この戦乱にドラえもん達含め、隊員達は全く喜びの酔いに浸れることなどできず、大人数の心に大きな傷を負わせた(因みにこの激戦は後に『第一次ラ=グース戦役』と名付けられることなるのは先のことである)。
カーマインは宣言通りに全ての責任を取ろうと辞表を提出したが、部下達からの猛反対されてそして本隊からもそれは受理されなかった。それは彼の功績を讃えてのことであったが彼はそのことに頭を抱えて悩んだ。
しかしラクリーマの『部下を救ってやってくれ』という願いを思い出し、それを受け入れた。
これからは再びヴァルミリオン艦の提督として職務を全うすると共に、アマリーリス員が善の道に進めるように彼らとたくさん触れ合うことを決意する。
そしてエミリアとミルフィはアマリーリスに拉致された子供達を救出し、守り抜いた功績によりめでたく昇進。それぞれ少佐、大尉となることが決まり、エミリアはヴァルミリオンの提督兼偵察部隊長のカーマインを補佐する偵察部隊副隊長に任命、戦死したメレウルに代わり、女性隊員の内務班長にも任命された。ミルフィも今度入隊してくる新隊員の教育官の一人に選ばれた。
コモドスは自分がしたあの行為を自ら自白。実際は上官であるサルビエスの命令であるに加え、その事情を話せば罪は重くならないと仲間は言ったがコモドスらしく、そこはケジメをつけたいと言う理由で連邦刑務所の服役が決まった。
しかし、コモドスが奴隷制度について暴露したことで『フォクシス』は今や多大な批判を受けている。彼らも銀河連邦に加盟しているため、無視すれば今まで受けてきた援助は全て遮断されてしまう。近い内に奴隷にされた人々が解放されるのも現実となりつつあった。コモドスも服役が終え、もし家族が解放されていれば軍を退職して、実家に戻り、静かな暮らしに戻りたいらしい……。
因みに、メレウルのパートナーであったムーリアは精神は落ち着いたものの、元々両親から無理矢理軍に行かされたこともあり、退職すると決意し、そして受理、除隊された。
アマリーリス側では生き残ったのは僅か数十人。だが、捕まったことを素直に受け入れられなかった者は少なからずおり、自殺を図る者や暴れる者なども現れた。が、結局はラクリーマの言葉を思い出し、受け止め、今は大人しくしている。これからの処遇が決まるのに時間がかかりそうだ。
ただ……サイサリスの所在が分からなくなっているが、連邦もこの彼女については全くの無知な為に気づいていない。
そしてあの男、ラクリーマも死亡と判断されている。
……これらの出来事が数ヶ月間の間に激動していた。
そして……家に戻ったのび太は家の庭でせっせと花鉢に水やりをしていた。何を育てているのかというとそう、ラクリーマから託されたあの花の種『アノリウム』である。
実は帰ってきてから、育てているものの、方法が間違っているのか次々に枯れて今育てているのは最後の一粒であった。しかし少しずつであるが着実に成果を出し、前のは蕾まで行き着いたのだから今度こそは……と彼自身も意気込みが凄い。
なぜならラクリーマという自分の尊敬する『兄』から頼まれたことを決して破りたくない、それは男と男の約束であった。
「最近、ずいぶん花にハマってるのね。そういえばのび太、最近なんか凄く行儀よくなったわよね、あまりごはんやおかず残さなくなったし宿題や家の手伝いもちゃんとやるようになったし」
茶の間の縁側からのび太のママが彼の真剣な姿に感心していた。
「ふふっ、あの子にも夢中になれるのが出来たのなら応援してあげなくちゃね……」
ママはそんなのび太に激励し、微笑ましい顔で去っていった。
◆ ◆ ◆
一方、ドラえもん、スネ夫、ジャイアンはというと裏山である女性2人と会っていた。
「エミリアさん、ミルフィちゃん!」
「みんな久しぶりね!!」
「「「はい!!」」」
「元気でなによりだヨ!」
なんと彼女達が彼らのことが心配でわざわざ見に来てくれたのであった。だが『異星人文化干渉法』のこともあり、いられるのはほんの僅かであるという。
五人は上から街を見渡せる場所から下を眺めていた。
「……あのラクリーマって男、不思議な奴だったわね。のび太君達から話を聞いたけどホントに悪人かどうか疑うほどの優しい人間だったらしいし……」
「そうですね……」
「悪事は好きだったけど仲間に対しては過剰すぎるほどの自己犠牲……だけど、それが仲間との考えがすれ違った結果がアマリーリスという組織を壊滅することになったわけネ……。
こんな言い方はアレだけど悪人らしく仲間を見捨てて自分だけ逃亡すれば助かったかもしれないのに……まさに哀れな末路だヨ」
「…………」
すると黙っていたジャイアンはこう言った。
「……けど、あいつの仲間を大切にするっていう気持ちと覚悟は俺達も見習わないといけないと思うぜ!」
「確かにそうね。あの信念は銀河連邦にも通ずるものがあるしわたし達に必要なことだわ。
あいつの犯した罪は絶対に許せないし、結局最後まで改心させれなかったけど……自分たちよりも素晴らしい物を持っていたということに関しては感心できる」
ーー少し重い空気になりつつあったが。
「そういえばエミリアさん、ミルフィ、昇進おめでとうございます!!」
スネ夫の激励に二人は顔を赤めらせた。
「ふふっ、ありがとうスネ夫君。みんなもよく頑張ったわね。そうだ、そういえばあたしやミルフィ、そしてカーマイン提督やクーちゃん、他一同の隊員達からドラちゃん達へ頑張った御褒美があるわ、はい」
彼女が三人に渡したのはそれは銀河連邦を象徴するマークと特殊な軽金属で出来たエンブレムであった。
「これはあたし達銀河連邦とあなた達地球人の友好と信頼の証、特注品なんだから♪」
「キミらの勇気が認められたって証拠なんだヨ、絶対に大切にしてね♪」
「「「はいっ!!ありがとうございます!!」」」
嬉しくないハズがない。ヴァルミリオンにいた時のように元気でハキハキとした態度で礼をした。
そうやって時間を過ごしている内についに彼女達と別れの時が……。
「じゃあ、もうヴァルミリオンへ戻るわ。これからはもう滅多に会えなくなるけどあたしとミルフィは君たちの地球……いやこの銀河系の保護に日々精力を尽します!」
「ワタシもみんな平和で元気で過ごせるように祈っているヨ。また……機会があったら会いましょう♪」
……エミリアとミルフィはあの時と同じ、偵察機に乗り込むと瞬時に上昇、宇宙へ帰っていった。
手を振る三人は見えなくなると手を降ろし、空を眺めていた。その時の彼らは希望に満ち溢れていた。
◆ ◆ ◆
――数日後、しずかはのび太の家で彼と共にアノリウムを植えた植木鉢の前に立っていた。
「しずかちゃん、ほら、ついに花が……」
「あら本当、綺麗ねえ♪」
ついに咲かすことに成功したのび太。その黄色に輝き、精一杯花弁を広げるその姿は元気そのものであった。しかし、のび太はふと腑に落ちない感じをした。
このアノリウム……どこでもドアの暴走でアマリーリスに飛ばされる前にどこかで見た覚えがあるが思い出せない――それよりものび太としずかは空を眺めて、想いを向けていた。
どこに、誰に、もう言わずもがな、それぞれラクリーマ達であった。
(ラクリーマ見て、ついに咲かせたよ。僕ついに咲かせることができたよ。これもみんなラクリーマのために頑張ったんだから……だから安心して休んでね)
(レクシーさん達やユノンさん……今頃ラクリーマさんと一緒にいるのかしら……。もしそうなら私は祈ってます、これから末永く共にいられるように……)
――のび太にはこれ以上の満足感がなかった。男と男の約束が果たされたこの時であった。
(けどラクリーマ……何故かな……どうしてもまだ死んだって思えないんだ……僕……)
彼にはそう思えるのであったーー。
◆ ◆ ◆
……それから年月は流れ、13年後。セクターβ、惑星ファーガス。
この惑星のとある重工の巨大建造格納庫にて、一人の開発スタッフがとある女性博士の元へ訪れていた。
「もう少しで完成ですね」
「ああっ。この子達はあたしの造った中でも最高傑作かもしれん、早く久々に宇宙へ進出してえなあ」
その男みたいな口調、声質……そう、サイサリスであった。
彼女はあのポニーテールはやめて今やウェーブのかかったショートヘアになっていた。歳はもう50歳を越えているが、アマリーリスにいたときよりも何故か若く見える彼女もある意味で化物である。
「そういえばサイサリスさんってあの元々どこ出身なんですか?」
「聞きたいか?」
「ええっ、まあ……」
彼女は相変わらずのニヤリとした笑みをとった。
「アマリーリスって組織だ」
「アマリーリスって……あのアマリーリスですか!!?」
もう過去の話であるアマリーリスという組織は宇宙でも伝説の語り草になっているようだ――。
開発スタッフとの話が終わり、彼女が向かった先はとある室内。そこの中央に設置している等身大の培養カプセルの元へ向かうと中を覗き込む。
その中には筋肉隆々、端正な顔立ちでぼさついた銀髪の男性が液体に満たされたこの中で静かに眠りについている。この人物はまさかではあるが……。
「もう少しで再び宇宙へ出航するぜ、ラクリーマ」
信じられない事実であった。この男はまさしくラクリーマ本人である。両腕がないが身体中の傷どころか顔の傷すら全く消えてすっきりしている。そして今にもはち切れんばかりの精気を漂わせた完全な状態である。
「何があったか知らねえけど、お前が宇宙を漂流していたのを物資調達に行っていた仲間が見つけてもう5年か。どういうわけか……お前の身体は健康体そのものなんだぜ。
脳波も異常ないし……まさに奇跡としか言い様がねえな。だがなんで目覚めねえんだよ?寝過ぎで身体が鈍ってるだろ?」
サイサリスは彼にふと悲しそうな目を見せた。
(アマリーリスが壊滅し……死亡者の中にレクシー達やドグリス人の女性……まさかユノンちゃんまで死んだって情報聞かされた時は私も耳を疑ったぜ。皮肉な話だ、自分が命を賭けて守ろうしていた人間が逆にお前を残して死ぬなんてな……本当にとことん報われない奴だな、ラクリーマ)
一呼吸し、軽く息を吐くとまた平然とした態度をとった。
「だがもうお前一人で苦労する必要なんかねえ。だから今はゆっくり休んでくれ……」
彼女はそう言い残し、部屋から出ていった――。
◆ ◆ ◆
そしてまた月日は流れ、ついにこの時が来た。惑星の海中から突然、あのエクセレクターと同等の全長を持つ巨大宇宙船が何と三隻、怒濤の水しぶきを上げて一気に飛び出し、遥か上空へ飛翔していく――。
その三隻の一番の先頭に立つ宇宙艦の内部、ブリッジに位置する広大な場所。そこに集まる万を裕に超える大人数、その中心部の司令塔にはサイサリスが二人の側近をつけて演説していた。
「耳の穴かっぽじってよく聞け、てめえら!!私達はこれより壮大な宇宙へ進出する。
このあたし達が建造した三隻の巨大宇宙船、『アーセクター』、『グランダル』、『オールストロイ』があれば怖いものなどありはしない!!はっきり言っておくが、あたし達の目標は銀河連邦打倒だぁ!!あちらもこちらよりさらに強大だろう。だが、それでも奴らを打ちのめしたい奴は……あたしについてきやがれぇ!!!」
《おおーーっ!!》
高らかに歓喜を上げる幾ぜいの男達。彼らも彼女と同じ悪人同士であった。
「ならあたし達、新生『アマリーリス』は今、最初の一歩を踏み出す!!最初の目標はここから240万光年離れたイクリプス銀河の有人第2惑星トリオン、今の内に侵略準備開始だぁ!!」
なんと彼女が率いるは新たな構成で生まれたあの組織、アマリーリスであった。
その時の彼女はまさに覚悟を決めて、戦場に向かう戦士のようであった――。
(ラクリーマ、もしもお前が目覚めることがあったらまた一緒にやり直そう。ユノンちゃんがいなくて意気消沈するかもしれないが悲しむ暇はないぜ。
なぜならお前はわたしと同じくこの道しか生きられねえからな。だから……それまでゆっくり休め。お前の両腕を造っておくからよ、ブラティストームより強力なやつをな!)
彼女は不敵な笑みで前を見据えた。まるであのラクリーマのように――。
「あたし達、アマリーリスはまだ終わっていない、戦いはまだまだこれからだ!!」
《首を洗って待ってやがれ、銀河連邦―――っっっ!!!》
~Fin~