アマリーリスの母艦『エクセレクター』内の大食堂では。
「お前ら、今日から数日間、共に暮らす地球人ののび太としずかだ。こいつらはエクセレクター内のことはわからねえことばかりだから優しく教えてやれ。
あと仲良くしてやってくれよ、こいつらを痛みつけた奴はぶっ殺すからな!覚えておきやがれ!」
「了解しました大将!」
ラクリーマは馬鹿でかい声で横の席で着席しているのび太達を説明し、その部下たちもラクリーマに負けないくらいの大声で応える。
「よっしゃあっ!!なら酒を飲めっ!!飯を食えっ!!今日は無礼講じゃああっっ!!」
「イエァァァーーッッ!!」
大歓声の中、ついに来る宴会が始まった。普段は荒くれ者の極悪人の大群が恐い素振りを見せず、満面な笑顔で酒を飲み、大食いし、仲間同士で喋りあったりして周囲は非常に熱い熱気がこもっていた。
「すっ……すごいや……ははっ……」
「えっええっ……」
さすがにのび太達も、その物凄いノリについていけるか心配していた。その証拠に二人とも表情が苦笑いである。
「お前らも飲め、ほらよ」
ラクリーマはのび太達に酒と思われる綺麗な赤色の飲み物が入ったコップを押しつける。が、流石の二人は未成年なので飲めるハズがなかった。
「ぼっ僕らお酒飲めないの!子供だしっ!」
「……ええっ、悪いですけどちょっと他の飲み物に替えてもらっても大丈夫ですかっ……?」
二人は無理という意味で手を横に振る。ラクリーマはポカーンとした顔をした。
「酒飲めねえのか。俺はお前らの歳にはもうガンガン飲んでたけどな。まあいい、ならあそこのマシンに行けば何かお前らでも飲めるモンがでてくっから行ってこいよ」
壺のようなヘンテコな形をした機械がある所に指を指し示した。二人は立ち上がり、そこに向かう。
「レクシー、ちょっとこい」
ラクリーマが大声で呼ぶと、席で大酒をくらいながら仲間と楽しく話をしていた彼はすぐにラクリーマの元を向かった。
「何か御用で?」
「明日、あいつらを連れて艦内の案内を頼む。大丈夫か?」
直々の指命にレクシーはコクッと頷いた。
「承知しました。リーダーのご命令とあらば!」
「おいおい、そんな堅苦しい言い方はやめようぜ。まあお前は他の奴らと比べて真面目で義理堅い所が良い所なんだがな、気合い入りすぎてあいつらを置いてきぼりにすんなよ?」
「へへっ、すんません……っ」
レクシーは顔を赤くして頭をポリポリかいでいた。
するとラクリーマはのび太達の方へ向いて、大声でこう言った。
「二人共、ちょっとこい!」
その言葉に彼の元に向かう二人。するとレクシーがのび太達を見つめていた。
「紹介してなかったな。こいつはレクシー、並みいる組織員の中でも俺が最も信頼できる奴だ。明日こいつに艦内を案内させるから挨拶しとけ」
のび太達は若干、引き気味だった。のび太達を最初に発見し、自分達に本気で発砲してきたあの男だ。ビクビクしている二人を見て、レクシーは満面な笑みをして二人の肩をバンバン叩いた。
「おいおいっ、シャキッとしろよ!!明日は俺が艦内を案内するからよろしくなっ!ワハハハハッ!!」
あの時の態度と逆転しており、苦笑いするのび太達。
「よっ……よろしくお願いします……レクシーさん」
「ははっ……」
「分からないことがあったら俺に聞くといい!リーダーがお前らを地球に送るといったからにはたとえこのエクセレクターが大破しようと絶対お前らを生きて帰してやるよ!」
その時、怒ったラクリーマの右拳で本気で頭をかち殴られ頭を押さえてうずくまった。
「いってええーー!!!!」
「レクシー、縁起のワリィこといってんじゃねえっ!!ホントにエクセレクターが大破したらどうすんだぁ!?たくう……おめえはいつも先走りすぎなんだよっ!少しは落ち着けってのっ!!
……とまあ、こいつのいう通りだ。約束は絶対守る、だから安心してここを楽しんでくれ」
それを聞いた二人は安心感と二人のコントみたいなノリの良さに表情が緩み、笑いだした。
「ぷぷっ……ハハハッ!!」
「うふっ、ふふふふっ!」
それを見たラクリーマとレクシーもつられて笑いだす。
「そうだっ!笑え笑えっ!!」
「いいぞいいぞ!ワハハハハッ!」
すると笑い声につられて周りの部下達ものび太達の元へやってきた。
「なあっ!地球のことをいっぱい教えてくれよ!」
「俺も俺も!!」
全員がのび太達に期待を寄せて造り笑顔ではなくごく自然の笑顔で寄ってくる。それを見た二人は嬉しくも恥ずかしくなり、顔を赤くして顔を下へ向いた。
「あっ……いやぁ……はははっ」
そんな光景を尻目にラクリーマは何故か一人食堂から出ていった。彼は長い通路の先にあるワープ装置『テレポーター』を使い、自分の部屋である司令室へ戻る。
真っ暗な司令室内の奥をみると、青い光を出している場所がある。
ラクリーマはその光の場所に行くと、ユノンがただ一人仕事用のコンピューターを無言で動かしていた。それを見たラクリーマはフッと笑って彼女の隣へ移動した。
「俺たち野郎組は宴会で楽しんでる時に一人で仕事とは偉いな、ユノン」
しかし彼女はラクリーマを見もせず、ただ黙々と画面に集中している。
「……邪魔をしないで、仕事中よ」
いつも通りで素っ気ない返事を返す。ラクリーマもいつも通りのことなので「ふん」と軽く笑い隣のイスに座った。するとラクリーマはこんなことを聞いた。
「お前、のび太達をどう思ってる?」
彼女は少し間を空けて静かに口を開いた。
「……別に。あんたの決めたことだから口出しはしないわ」
「ふっ、そうかっ」
「……けど、正直あたしは納得できないわね。あんたが身勝手なことを言うから今こうやってあたしが全ての予定を大幅修正するハメになってんの、わかってる?」
「ああ、いつも苦労かけてすまんな」
二人の間に気まずさというか異様な雰囲気が漂う。本来、彼女は無口なため、ほとんど話が続かない。しかし加入時と比較すればこれでも喋るようになったほどである。これはアマリーリスの全員が承知していることであるので特に問題ではなかった。
「ふぅ……」
ユノンは立ち上がるとラクリーマに背を向けた。
「どこへ行くんだ?」
ラクリーマの問いに彼女は立ち止まり長い髪を掻き寄せる。頭上に生えている犬の耳がピクピクと動いている。
「休憩よ」
突然ラクリーマは立ち上がるとユノンの所へ向かい、彼女を掴むとすぐそこにあった自分の使うベッドへ押し倒した。初めはびっくりしていたが、徐々に『ナニを』したいのか分かると彼女はため息をついた。
「あんた……まさかしたいの?」
ラクリーマは優しい笑顔を彼女に見せた。
「ああっ……最近ムラムラしていてな。久々にヤらねえか?」
彼女は珍しく軽くだが笑い顔を見せた。
「……あらっ、今日はきっぱりと言うのね?いつもはあたしを口説こうとするのに……」
「お前に口説きは通用しないことがよぉくわかったからよ。いいじゃねえか、今は誰も近くにいねえしよ?」
彼女の膨らんだ胸へ彼の右手の人差し指が伝って来ている。左の義手で彼女の顔を優しく触り、まるでホストが女性客を口説いて高い酒をオーダーさせる時のように自分なりに甘い笑顔で彼女を見つめる。
犬の耳にある通り、祖先が犬であり人間のように劇的に進化した異星人であるため、その特徴を少なからず受け継いでいる彼女、ユノンは誰もが認めるほど美しい女性である。
冷めた部分も彼女の美しさをいっそう際立たせている。
「ふふっ、いいわっ……けど優しくしてね……?」
彼女は静かに瞳を閉じる。ラクリーマもついにその気になったと感じ、自分も目を閉じて唇を彼女の唇に近付ける。
二人の熱い吐息が互いに当たる。二人の唇が重なる距離はもう数センチほどであった。しかし、ユノンはゆっくりと瞳を上げて、
「@∇Ο&★◆■▽※っ!!」
彼の急所……もとい男なら誰でもわかる泣き所、『局部』に彼女は強烈な膝蹴りをおみまいしたのだった。
ラクリーマはあまりの激痛にベッドから転げ落ち、のたうち回っている。一方、ユノンは何事もなかったかのように立ち上がると彼に背を向けてこう言いはなった。
「うふっ、気が変わっちゃったの……また今度ねっ……」
「ちくしょう……その気にさせといてあんまりすぎんぞ……」
「さっきの一撃であんたのアソコ萎えたでしょ?それじゃあね……」
そう言うとユノンは司令室から去っていった。ラクリーマはやっとの思いで立ち上がるとベッドにドサッと座った。
「あのクソアマ……覚えておきやがれ…………っ!」
その顔は痛みもあるがその『生物ならこその欲求』を成し遂げられなかったことに対する不機嫌な表情が浮かび上がっていた。
◆ ◆ ◆
数時間後、宴会が終わりのび太達はレクシーに各部屋へ案内された。
「うわぁぁっ……」
広い。あまりにも広い。例えるならホテルのツインルーム、いやそれ以上ある。ベッドはともかく、地球におけるトイレや風呂と言える概念の設備も完備していた。
あと個人用のデスクやパソコンのような不思議な装置までも配置されている。
のび太達はその充実感あふれる部屋に圧倒されていた。
「これが各個人の部屋だ。んっ、どうした?」
レクシーは頭を傾げる。目が点となっているのび太達を不思議と思ったのだろう。
「こっこれが……一人一人の部屋なんですか……っ?」
「ああっ。何を不思議がってるんだ?」
それを聞いたのび太達は徐々に笑顔になっていき……、
「いいっっやっほぉぉっ!!」
「サイっコーーっ!!」
歓喜を上げながら二人で部屋内を駆け回る。レクシーはそんな二人を見てフッと笑い、頬を掻いた。
「で、ここは誰の部屋にするんだ?」
レクシーがそう聞くと二人は顔を見つめあった。
「しずかちゃん、どうぞ」
「の……のび太さんこそどうぞ」
「いやいやしずかちゃんが」
「いえのび太さんに!」
引こうとしない譲り合いにレクシーがついに痺れを切らした。
「おめえら、この部屋だけじゃねえんだっ!!変な小競り合いしてんじゃねえ!」
「「あっ…………」」
二人は苦笑いして、レクシーを見つめた。彼も呆れてため息をつく。そして二人に部屋の案内が終わり、
「そうだ、二人ともついてきなっ。近くにいいとこがあんだ、連れていってやるよ」
突然、手招きされ、彼についていくのび太達。また長い通路をコツコツと歩いていく。
「レクシーさん……どこへ行くんですか?」
彼はのび太の問いに、ニイッと笑って二人の方へ振り向いた。
「お前ら、絶対に驚くぜ」
そして数分後、彼らの着いた場所は……。
「うわあああっ、すっ……すっごぉ~~いっ!!」
それは360度全体、辺り一面外の宇宙が見えるように張り巡らされたウインドウ。広さはざっと自分達が通う小学校のグランドの二倍、いや三倍の面積を誇る広大な広場、のび太達はその圧巻な風景に目を疑った。
「ここは休憩広場だ。俺達はもちろんリーダーやユノンさんも近くにいる者はよく来るぜ」
三人はその中に足を踏み入れる。外は、惑星や銀河が見える宇宙空間ではなく、淡く静かに辺りを照らす蒼く不思議な粒子が流れる神秘的な空間だった。それを不思議に思ったしずかがレクシーにこう聞いた。
「レクシーさん……この外は……宇宙なんですか?」
「いや、今はワープホール空間の中だ。俺たちは普段、百万光年単位であちこち移動するからこのワープホールを使って一気に空間をすっ飛ばして進むんだ。この調子だとあと数日で地球のある銀河系まで辿り着けるだろう」
「わ……ワープホール?」
頭を傾げるのび太にレクシーはため息をつく。
「ワープホールも知らねえなんて、どれだけ文明の遅れた惑星だよ、地球は……」
するとしずかが何かを閃いたのか、手を叩いてこう言った。
「あたしもよくわかんないけど……どこでもドアみたいな原理じゃないかしら?」
その発言にのび太は納得したのか手を叩いた。
「なぁんだそういうことかァ!それを早くいってよぉ!」
「ははっ……」
一人で盛り上がるのび太に対して、苦笑いする二人。三人は中央部に行くとソファーがあったのでそこに座った。しかし、レクシーは座らず二人にこう言った。
「今から俺はちょっと用事があんだ。ここにいるならいていいぞ。あとはお前らで帰れるな?」
それを聞いて二人はコクッと頷いた。
「明日は早いぞ。俺がお前らを迎えに行くからな、ちゃんと起きてろよ!」
そう言うとレクシーは二人から去ろうとする。すると、
「レクシーさん!」
「あ?」
のび太がレクシーを呼び止め、笑顔でこう言った。
「今日はありがとうございます。明日はよろしくお願いしますっ!!」
「レクシーさん、本当に今日はありがとうございましたっ」
しずかもつられて二人はレクシーに深くお辞儀をした。するとレクシーは照れ笑って二人に対し、こう言い返した。
「嬉しいねえ、けど礼ならリーダーに言いな。俺はあの人の命令に従っただけだ」
「「えっ?」」
するとレクシーは最後にこう言った。
「リーダーはマジで尊敬に値する人だ。あの人に気に入られて損はないぜ。それじゃあなっ!」
そう言うとレクシーは二人から去って言った。
「どっどうゆうことだろ……?」
「……さあ……っ?」
二人はその言葉の意味も理解出来るハズもなく、悩んでいた。すると、
「なんだお前ら、いたのか」
二人は横を振り向くとラクリーマが二人を見ながら立っていた。
「あっ……」
「ラクリーマさん……」
ラクリーマは二人の横に座り込むといつもの不敵の笑みで二人を見つめた。
「宴会は楽しかったか?あとここはすげえだろ?」
「うん」
「ええっ」
二人をそう返事をするとラクリーマは上の天井を見上げる。
「それはよかったな」
その後、三人はしばらく沈黙する。しかし、のび太が何か思ったのかラクリーマの方へ向いてこう言った。
「ラクリーマ……?」
「なんだのび太」
のび太は少し暗い表情をしてこう聞いた。
「……あの時、地球を侵略するとか言っていたけど……今まで侵略とかしてたの……?」
「えっ……地球……侵略……?」
しずかはその事を初めて聞いたのか、耳を疑った。ラクリーマはそれに対して笑みを絶やさずこう言い返した。
「おう。これまでに数えきれんぐらいに侵略、他の宇宙船を襲ったりしたぜ。そこにいた奴らを皆殺しにした、略奪した」
「「え!?」」
「現に俺はあの時お前らを殺そうとしたろ。俺は誰だろうと敵と見なしたら容赦せず殺す、それだけだ」
ラクリーマの表情からして全く反省の色を示していないようだ。のび太達はそれを聞いて徐々に怒りを募らせた。
「幻滅したか?まあそう言うことだ」
すると、震えるのび太は立ち上がりラクリーマにこう叫んだ。
「ひっ酷いよ!!あんた達は……あんた達は命をなんだと思ってるんだぁ!?」
「そっそうよ、あなた達はそれをすごく悪いことだとは思わないの!?」
確かにそうだ。平和と共存を愛する地球人の二人がそれを黙っているわけがなかった。しかしラクリーマは笑みを全く消さなかった。
「へっ、俺らにとっちゃそれが仕事でも生活でもあるからな。お前らがなんと言おうと何にも感じねえよ」
すると彼は立ち上がり、二人を見下ろしてこう言った。
「俺らはこれしか生きていく道はねえんだよ。たとえ心までお前らの言う悪で心身染めようと、相手の物を奪ってでも、殺して血まみれになろうと、生きるためならなんだってする!それが俺達『アマリーリス』なんだよ!」
「「……」」
二人は青ざめた表情で黙り込む。何か説得力がありそうで、それに自分たちの思いがかき消されてしまいそうで複雑な気分になる。そんなのび太達を見てラクリーマはこう言った。
「別にのび太達が悪い訳じゃねえ。お前らにはそれが正しいからそう思うんだ。俺らには俺らのやり方があるだけだからな」
それを聞いた二人を顔を上げて、彼を見つめた。すると目を瞑り、フッと軽く笑って静かに口を開いた。
「お前らと俺らは根本的に考えが違う。そんな俺らがこうして出会ったんだ。これほど面白いことがあっかよ?」
「お……面白い?」
「……?」
二人は『面白い』という言葉を理解出来ず、頭を傾げる。それを見たラクリーマはニヤッと笑うと二人に背を向けた。
「わかんねえならそれでいいさ。なら俺は戻るぜ、じゃあなっ」
そう言い残し、手を振りながら彼は二人から去っていった。
「どっ……どういう意味だろう……?」
「けどなんか……ラクリーマさんて確かに悪い人なんだろうけど、どこか不思議な感じがするわ……」
二人はそれぞれ複雑な考えと共に、段々彼が遠くなっていく姿をただただ見つめていた。