最後の残虐   作:ぴえろー

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最後の残虐第9話です。今回は少し長めのお話となっています。ウォーズマンが放った全身全霊の「スクリュードライバー」を見事打ち破ったブロッケン。これで正義超人側に勝利の「流れ」が来たかと思えば、なかなかそううまく事は進んでくれないようで…
 果たして正義超人は残虐超人の残党を打ち破ることが出来るのか?


第九話「目を覆う悪夢」

-スタジアム 場内-

 

「うっせぇぞキン肉マン!俺に指図するんじゃあねえ!」

 

キン肉マンのかけた言葉に対してブロッケンは反抗するようにそう言い放った。

 

「な…なんじゃと!?」

 

ブロッケンの唐突な叫びに対して意表を突かれたキン肉マン達。

 

さっきまでの形勢逆転に対する歓喜の雰囲気は明らかになくなっていた。

 

「お…おいブロッケン!突然何を」

 

「黙れッ!」

 

テリーマンの問いに対して遮るように叫ぶブロッケン。

 

その声は怒りと憎悪が混じったような声だった。

 

「俺はお前ら正義超人が信頼できねぇ…あの時の一件でな」

 

あの時の一件、とはもちろんブロッケンマンを捜索する際に分担された役割に関するトラブルのことだ。

 

そういえばあの時、最終的には暴力うんぬん、のような趣旨のことをブロッケンは言っていた。

 

その時の正義超人に対する「恨み」のようなものをブロッケンは抱え込んでいたということなのだろうか。

 

「俺は学んだんだ。結局"友情"と言っていても、誰かが自分たちの考えと違うことをすれば」

 

「何としてでも自分たちと同じ考えにしようとして、最終的には"暴力"で解決しようとするってことにな!」

 

「そんなことになるくらいなら、俺は孤独(ひとり)でいたほうがましだぜ!!」

 

「わざわざ他人の意見が重荷にならなくて済むんだからな!!」

 

「な、なにぃ…!」

 

ブロッケンの唐突な言葉に対し、驚きを隠せないキン肉マン達。

 

(そういえば、試合が始まるまでの2日間、アイツは話しかけても私たちと口をきこうともしなかった)

 

(…何か思い詰めているような感じがしたと思っていたら、まさかそんなことを考えていたとは)

 

額に汗を垂らしながら今までの3日間を振り返るロビン。

 

「ッ!!」

 

それからすぐに、妙な悪寒のようなものが彼の脳内を駆け巡った。

 

「いかん…!このままではブロッケンが」

 

「ブロッケンが「残虐(あいつら)」に寝返ってしまうかもしれない!!」

 

「なんだと…」

 

ブロッケンがこの試合で純粋な「残虐超人」に寝返ってしまうという最悪のシナリオ。

 

この事実を勘繰った正義超人たちは、全員顔面蒼白となった。

 

「ヒャーッハッハッハ!!仲間割れか!」

 

「こりゃいいや!俺たちが策を練る必要もなくなったってわけだ!」

 

「いいぜ我が息子よ!俺たちはお前が"残虐超人"になることを心から歓迎するぜ!」

 

「……」

 

「ブロッケン…!」

 

焦りと困惑の色を隠せないキン肉マン達に対して、その原因を起こした張本人は腕を組んで佇んでいた。

 

「ぐおっ…」

 

しかし突然、ブロッケンは体勢を崩し、リング上にへたれ込んでしまった。

 

「大丈夫かブロッケン!!」ラーメンマンが彼に駆け寄る。

 

「へっ、問題ねえよ、気にしないでくれ」

 

「ただちょっと猛攻を仕掛けられた時の疲れが残っているだけさ…」

 

ブロッケンは少し微笑むようにラーメンマンに対してそう返した。

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

しかし、実際の彼はそのことと、新しい必殺技にまだ慣れていないのが原因なのか、肩で息をしている状態だった。

 

「よしわかった。ブロッケン、お前は少し休んでいろ」

 

見かねたようにラーメンマンはブロッケンマンに休息するよう促した。

 

「ダメだ…俺はまだ休むわけには」

 

「何を言ってるんだ、肩で息をしてるじゃないか。休むなと言うほうが無理だ」

 

「肩…そうだ」

 

「ラーメンマン…肩の傷は」

 

突如思い出したようにブロッケンが問いかける。

 

ブロッケンはラーメンマンの肩を心配そうに見た。依然として彼の傷口からは少量の血が流れていた。

 

「大丈夫だ。多少痛むが、戦いに支障をきたすほどじゃない」

 

「だ、だが…」

 

「まずは自分の体力を回復することに専念するんだ。それが勝つための糸口になる」

 

「…わかったよ」

 

ブロッケンは静かにうなずくと、ロープをまたぎ、リングの外へと出た。

 

しかし、ラーメンマンがブロッケンと交代しようと手を差し伸べた瞬間、ブロッケンは何かを訴えるような目つきをしながら口を開いた。

 

(ぜぇ…ぜぇ…)

 

「…ラーメンマン」

 

「アンタ、悔しくないのか?自分の実力を下に見られて」

 

「おかしいじゃねぇか…アンタだって、正義超人として今までずっと戦ってきたってのによ」

 

「…ブロッケン。お前は誤解をしている」

 

「あの分担は決して私たちを陥れるためのものじゃ…」

 

「あんたまでそんなことを言うのか!ラーメンマン!自分の実力を否定されておいて!」

 

「じゃあ、あの時テリーマンが俺を殴ったのはどう説明をつけるつもりなんだ!」

 

「暴力でアイツらと同じ考えにしようって魂胆が見えてたじゃねえか!」

 

「落ち着くんだブロッケン!今のお前は感情的になりすぎている!」

 

「よく冷静になって考えるんだ!お前は…」

 

「おいおい、喋ってるとこ悪いが、早くしてくんねぇかな」

 

彼らが言い争っている最中、突然リングの反対側からブロッケンマンの声が聞こえてきた。

 

「試合が止まってるんだが」

 

「…ちっ」

 

話の腰を折られて不機嫌そうにするブロッケン。

 

「……」

 

ラーメンマンの方もどこか不機嫌そうな感じだった。

 

正直、あまり戦うというような雰囲気ではなかったが、やむを得ずラーメンマンはこの会話を打ち切り、リングの中央へと移動した。

 

ラーメンマンと対峙するや否や、ブロッケンマンは呆れ果てたような表情をした。

 

「くく…戦ってる相手のことを忘れて仲間割れたぁ、無様なもんだぜ」

 

「こりゃあ息子を仲間に引き入れるのはちょっと見送ったほうがいいかもな」

 

腕を組みながら不敵に笑うブロッケンマン。

 

「かっ…勘違いすんじゃねえや!」

 

「俺はお前らの軍門に下るとは言ってねぇ」

 

「あくまで一人の"超人"としてお前らと決着をつけたいだけだ!」

 

ブロッケンマンの声が聞こえていたのか、彼の揶揄に対してリング外から半ば感情的に返すブロッケン。

 

しかし、その怒りを軽くいなすようにブロッケンマンは彼を挑発する。

 

「ほう?言うねぇ」

 

「んじゃ、ぜひとも今ここで決着をつけてもらおうじゃねぇか」

 

「相棒とくっちゃべってる体力があるなら、それが出来るはずだと思うんだがな…」

 

「なんだと…!」

 

「待て」

 

ブロッケンの怒りを静止するように彼の前へと立ちふさがったラーメンマン。

 

その時の彼の表情は静かな怒りと、どこか曇っているような様子だった。

 

「ブロッケンマン。それは違うぞ」

 

「ブロッケンは私の判断で休ませたのだ。お前がどうこうできる立場ではないはず」

 

「余計なことは、しないでもらおう」

 

「……」

 

「ほう…休ませた、ねぇ?」

 

「くく…疲れてるとはいえ、いま絶好調のアイツを下げるのは如何なものかと思うぜ…」

 

「えらく弟子に甘ぇじゃねえか。なあ?ラーメンマン」

 

ニヤリ、と笑うブロッケンマン。

 

焦りと不安が入り混じった正義超人側に対し、これがとどめと言わんばかりの再挑発。

 

本来ならこんな挑発に対してラーメンマンは歯牙にもかけず、本調子でこの戦いに臨んだのだろうが《

 

「…なんだと?」

 

「総帥時代にはありえなかったことだぜ…」

 

「うっ…」

 

今は状況が全く違う。ブロッケンの一件とラーメンマン自身の葛藤も相まって(これはロビンとラーメンマン以外知らない)、嫌でも挑発に乗らざるを得ない。

 

言うまでもなく、最悪の状況である。

 

「へへへ…ま、そんなことどうでもいいけどよ」

 

「ようしウォーズマン、お前はいったん下がってろ」

 

「ここからはラーメンマンと1対1(タイマン)でやらせてくれ」

 

「わかった」

 

そう言うとウォーズマンはリングの外へ出た。

 

「さ、試合再開だ…」

 

ギラリ、と目を光らせるブロッケンマン。

 

前にも見た「残虐者(マダー)」の目だ。

 

「…くっ」

 

それからのラーメンマンの戦いはひどいものだった。

 

本来なら避けられるはずのブロッケンマンが放ったエルボードロップをもろに受けたり、

 

「へへ…」

 

(手刀か…?)

 

スッ…

 

「な…なに…?」

 

「へへへ…残念だったな」

 

「今のは、フェイントだ」

 

ドガッ!!

 

「ぐうっ…!」

 

ブロッケンマンが出した腕を手刀と勘違いし、体をのけ反らせたところで腹に蹴りを入れられるという醜態をさらしていた。

 

「くそーっ!ラーメンマンは何をやっとるんじゃ!」

 

「ラーメンマン…」

 

ラーメンマンがやられている姿を見たロビンは呆然としていた。

 

これでは、戦いの中から自分が出すべき答えを見出せない。

 

現時点ではラーメンマンが彼に攻撃を仕掛ければ仕掛けるほどブロッケンマンの術中にはまっているような気がして、とても活路を見出せるような状況ではなかった。

 

「ぐううう…」

 

蹴られた痛みに悶絶し、その場にうずくまるラーメンマン。

 

「なんだ、もう終わりか」

 

「総帥時代のお前はどこへ行ったのやら」

 

「牙を抜かれたな…」

 

呆れたような、小馬鹿にしたような表情でラーメンマンを見るブロッケンマン。

 

その目にはもう、先ほどのような真剣さは感じられなかった。

 

「ぐっ…」

 

その時、ブロッケンマンの言葉を受けるや否や、ラーメンマンの目がカッと開いた。

 

「も…もう私は昔の…」

 

「総帥だったころのラーメンマンではないッ!!」

 

ラーメンマンはそう叫ぶとブロッケンマンに向かって走りだした。

 

「ラーメンマン!」

 

「見せてやるッ!正義に目覚めた私の、本当の実力(ちから)をッ!!」

 

ラーメンマン、ブロッケンマンの足首をつかむと彼を抱えたまま天高く上昇した。

 

「なにッ!?」

 

突然自分の体が上昇したことでうまく状況を把握しきれないブロッケンマン。

 

驚く彼に対し、技をかけている張本人は畳みかけるように彼に対して叫んだ。

 

「ブロッケンマン…この技を見るのは初めてだろう!」

 

「牙を抜かれたかどうか…今にわかるッ!!」

 

「おおっ!ガウロンセンドロップじゃッ!!」

 

「とうとう伝家の宝刀を抜いたか…」

 

「くらえっ!!」

 

 

「「九龍城落地(ガウロンセンドロップ)」ーッ!!」

 

 

次の瞬間、宙を舞っていた二人の体が勢いよく急降下し

 

ブロッケンマンは勢いよくリングにたたきつけられた。

 

足を封じられて動けなかったブロッケンマンは直接地面へ激突。見た感じでは大ダメージを負った。

 

「やったーっ!クリーンヒットじゃっ!!」

 

この技は、かけられた側の足を封じてさかさまに地面に落下するため、かけられたほうが逃げることはまず難しい。

 

おまけにこの技は手刀で切り抜けられる範囲が狭く、仮に切り抜けられたとしても衝撃を腕か体全体で受け止めなければならないので、かけられた側の上半身への大ダメージはまず必至なのである。

 

彼の必殺技である「―元祖―ベルリンの赤い雨」も一時的に防ぐことが出来る。

 

「ぐおおおお…」

 

技をかけられて苦しいのか、ブロッケンマンは地面にうずくまっている。

 

叫び声から察するに、結構なダメージが入っているようだ。

 

「痛いかブロッケンマン!だが倒された仲間たちの痛みは」

 

「こんなものではないぞッ!!」

 

倒れているブロッケンマンを無理やり起こし、軍服の胸ぐらをつかんだ次の瞬間

ラーメンマンはブロッケンマンのアゴをつかみ、彼の首を絞めるような体勢をとった。

 

プロレス技の中にある絞め技の一つ「ネック・ハンギング・ツリー」である。

 

「ネッグハンギングだッ!!これで勝負は決まったぞ!!」テリーは自信を持って叫ぶ。

 

「…今までの私なら、ここで相手に命乞いをすることを強要したのだろうが…」

 

「あいにく、今の私は非情の鬼、ラーメンマン!攻撃の手は緩めん!」

 

「ぐぐ…」

 

自らの首を絞められ、額から汗を流しながら苦しそうな表情を浮かべるブロッケンマン。

 

しかし…

 

「ヘへへ…」

 

彼はその表情から一転、先ほどのようなニヤついた表情へと変化した。

 

それからすぐに絞められていた首から絞り出すような声で彼はラーメンマンを再び揶揄した。

 

「非情の鬼?…何言ってんだ。ラーメンマン」

 

「おめえは…残虐超人だろうが…!」

 

「!!」ラーメンマンは目を見開いた。

 

「くっ…」

 

その時、ラーメンマンがブロッケンマンの首をつかむ力が少し弱くなった。

 

「ざ…残虐…!」

 

「ラーメンマン!お前は正義超人だ!残虐でも悪魔でもない!私たちの仲間だーっ!」

 

見るに耐えられず、ロビンはリングに向かって悲痛な声で叫んだ。

 

しかし、その声空しくラーメンマンはついにブロッケンマンを絞めていた手を緩めてしまった。

 

「せやっ!!」

 

次の瞬間、これがチャンスだと言わんばかりに、ブロッケンマンはすぐさまラーメンマンの横腹にケリを入れた。

 

「うっ…!」

 

横腹を打たれた痛みに耐えきれず掴んでいた手を放し、リングの上に倒れこむラーメンマン。

 

その時の彼の表情は痛みと技を破られた絶望感に満ちていた。

 

「へっ、せっかくの十八番(オハコ)もこれか」

 

「なにが"伝家の宝刀"だ。とんだ"諸刃の剣"じゃねえか」

 

そう言うブロッケンマンの顔は何一つ色を変えていなかった。

 

あれほどの技を受けていたのだ。少しくらい疲弊の色があってもおかしくない。そのはずなのに。

 

「な…なんだと?」

 

「が…"九龍城落地"も"ネッグハンギング"も全く効いてなかったというのか…」

 

倒れこむラーメンマンを見て絶望するキン肉マン達。

 

「へっ、俺があれしきの技でくたばるかよ」

 

「お前らの仲間だった…えっと」

 

「アシュラマンだ」ウォーズマンが補足するようにブロッケンマンに伝える。

 

「そう、アシュラマンの技のほうがまだ強力だったぜ」

 

「第一、俺の武器は手刀だろ?お前の技で多少のダメージが入ってるとはいえ、俺の手を封じないでどうすんだ」

 

「くっ…」

 

倒れこんだまま顔をゆがませたラーメンマン。

 

その表情は文字通り「絶望に満ちた表情」であった。

 

今、この状況において正義超人側には「流れ」が来ていない。

 

技が効いていなかったことがわかると、ますます正義超人側が発している「流れ」が悪くなっていくのがわかった。

 

残虐超人側に「流れ」が来ている今、ブロッケンマンはこの状況に応じてラーメンマンを完全に叩きのめすだろうと思われた。

 

「くく…」

 

しかし、次の瞬間ブロッケンマンの口から耳を疑うような一言が発せられた。

 

「ラーメンマン、お前さ」

 

 

「戻れよ」

 

 

「…なに?」

 

「戻って来いよ、ラーメンマン」

 

「残虐超人界によぉ」

 

「な、なんだと…?」

 

残虐超人にとって圧倒的有利な状況の中、突如としてブロッケンマンの言葉から発せられた意味深な「オファー」。

 

果たしてこれが意味することとは…?

 

                 -続く-

 

 


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