最後の残虐   作:ぴえろー

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最後の残虐第13話です。第20回超人オリンピックが行われたスタジアムにて、紆余曲折あったこの非公式試合も、そろそろ30分が経過しようとしていた。正義超人たちはウォーズマンの弱点である「30分しか戦えない」という弱点を気にし始めていたが、残虐超人側は特に変わった様子はない。これが意味することとは一体何なのだろうか。


第十二話「超えた30分、鬼の戦略」

第20回超人オリンピックが行われたスタジアムにて…

 

ブロッケンマンがラーメンマンに対し「果たし状」を突き付けた形で始まったこの非公式のベストマッチはお互いの技と技がぶつかり合う激しい戦いだった。

 

まず、ラーメンマンの攻撃に対するブロッケンマンの切り返しから始まり、互いに戦う順番を交代しながら戦局を進めていた。

 

 試合が動いたのは戦闘が始まってそれからしばらくたった頃、ラーメンマンがブロッケンマンに対し、意表を突いた攻撃でブロッケンマンに大ダメージを与えた。これによりラーメンマンの葛藤はとりあえず解消し(雰囲気的には)、正義超人の中にあった不穏な空気が一転、勝利への糸口が出来たことへの安心感へと変わりつつあった。

 

ただ、この戦いはお互いの勝利に対する「流れ」が拮抗しており、正義超人、残虐超人共々どちらかがその流れになるのかもわからない状態だった。勝敗がどっちに転ぶかが完全にはわからない、という事である。

 

しかも、正義超人側はまだブロッケンJrとの仲違いを解消しきれておらず、その問題の解決もしなければいつパートナーとの仲に亀裂が生じてしまうかわからないといった状況でもあった。

 

字面だけ見れば今のところ正義超人側が若干不利、と言ったところなのだろうか。

 

そんな「流れ」が不均衡な状況の中、かつて第20回目の超人オリンピックが開催されたスタジアムで行われている試合。

 

その試合時間がそろそろ30分を過ぎようとしていた…。

 

スタジアム 場内

 

「試合時間が30分を過ぎた…」

 

リング上で戦っているのを静かに見据えながらそうつぶやいたテリーマン。

 

「そろそろ、ウォーズマンが戦えなくなるころじゃな」

 

それに答えるようにキン肉マンが腕を組みながら言うと、周りは静かにうなずいた。

 

「だが…おかしいな」

 

「アイツに"疲れ"なんて微塵も感じないが…」

 

キン肉マンの発言を受け、睨むようにしてリングの反対側を見つめるテリー。

 

正義超人たちはいっせいにウォーズマンのほうを見た。

 

確かに、ウォーズマンの戦える時間である30分を過ぎようとしているのだが、一向に疲弊の色が見られない。

 

強敵であるウォーズマンの唯一の弱点であり、今までにおける戦いでも大きな足かせとなった「30分しか戦えない」という彼の欠点。

 

王位争奪戦ではそれが役に立ったこともあった。しかし、やはり欠点であることに変わりはなく、彼は戦いのたびに難儀な思いをしなくてはならなかった。

 

その彼が、タイムリミットである30分を過ぎようとしているのに動揺の色すら見せない。

 

「煙みたいなものも肩から出ていないしな…」テリーの声に答えるようにして言ったロビン。

 

こちらも睨むようにしてリングを見据えている。

 

「何かあるな…」腕を組んで静かにそう言うテリー。

 

何とも訝しげな表情である。

 

正義超人たちはウォーズマンの様子に少しばかりの疑念と焦燥感が漂い始めていた。

 

一方で「残虐超人」陣営では、彼らとはまた別のことで頭を悩ませていた。

 

「…あー、さっきの攻撃で金網が破けちまった」

 

「どうすっかなぁ…」

 

先ほどのラーメンマンのジャンプによって金網の一部がズタズタになってしまっていたのである。

 

予想以上に威力が強かったのかラーメンマンが蹴ったであろう金網の部分に大きな亀裂が入っており、見た感じでは使い物になりそうもなかった。

 

「…ちっ、しゃあねぇ」

 

「ウォーズマン!作戦変更だ!」

 

「この金網を下げるぜ!」

 

「えっ…?」

 

目を丸くしながら素っ頓狂な声を上げるウォーズマン。

 

金網を片付けるという行為が意外だったようだ。

 

「いいのか?だってもともとこれは俺たちが…」

 

「いいんだ。どうせ補助目的で出したって感じだし」

 

「それにこうも派手にぶっ壊れちゃあジャマなだけだろ」

 

「わ…わかった」

 

もたつくようにそう答えるとウォーズマンは近くにあった金網を上げ下げするためのボタンを押し、金網を片付けた。

 

「あ、金網が下がっていくぞ…」

 

「どうやら金網が壊れたんで通常のリングに戻すようだな」

 

腕を組みながら下がっていく金網を見るテリー。

 

「なんじゃい!アイツらが用意したというのに自分から戻すのか!」

 

「金網の用途もようわからんかったし、結局何がしたかったんじゃ?」

 

金網を出した理由としてラーメンマンのジャンプ力を利用するためにこの金網を出したというのを前にブロッケンマンが言っていたのだが…

 

そんなことはとっくに忘れ、ブロッケンマン達に茶々を入れるキン肉マンであった。

 

「まっ、とりあえず元のリングに戻ったわけだが…」

 

「やることは変わらねぇ。どちらかがやられるまで続けるだけよ…」

 

「自分から金網を用意したのに、自分から戻すのか?」

 

「妙な感じだぜ」

 

腕組みをしながらテリーはキン肉マンが言ったことと同じことをブロッケンマンに毒づいた。

 

「へへ…まぁそういうなよ。興が覚めるってやつだぜ」

 

「これからちょっとびっくりすることが起こるんだからよぉ、少しでも余力は残しておいた方がいいんじゃねぇか?」

 

「どういうことだ?」

 

「へへへ…行ってみるか、ウォーズマン!」

 

「…待ってたぜ、その言葉(あいず)!」

 

ブロッケンマンの合図とともにウォーズマンは意気揚々とリングに上がった。

 

彼のその姿は依然として試合前と何ら変わりがない。肩から煙も出ておらず、疲弊も見られない、そんな状態である。

 

「な…何!?ウォーズマンの奴…」

 

「リングから出てきおった!もうすぐ体に異変が出てくるころじゃというのに!」

 

「もうダメだと踏んで出てきたのかっ!?」

 

「…いや、違うぞキン肉マン、テリーマン」

 

ロビンは動揺するキン肉マンに対し、彼の言動を遮るようにしてそう言った。

 

「アイツは恐らく…もうひと試合は戦える」

 

「も、もうひと試合って…」

 

キン肉マンと同じくテリーも動揺しているのか、少し声が上ずっている。

 

「通常時に行われるプロレスの試合時間はおよそ30分。タイトルマッチなんかだと試合時間は無制限であることが多いが…」

 

「アイツは通常の試合×2試合分戦えるようになったってことだ」

 

「…ということは、あいつは常に1時間くらい戦えるようになったということなのか」

 

一連のロビンの説明を受けて納得したようにテリーはうなずいた。

 

「…そういうことだな」

 

「なにーっ!?1時間戦えるようになったじゃと!?」

 

「何とか頑張っても30分が限界じゃったウォーズマンの体に、一体何があったというんじゃ!?」

 

「わからん。ウォーズマンの体に何かしらの変化があったことは確かだが…」

 

(…くっ!)

 

ロビンの怒りがあらわになっているのがわかる。彼は鋭い目つきで拳を握りながらブロッケンマン達の居る方向を睨んでいた。

 

前回も言ったが、ロビンは現在戦っているブロッケンマンをはじめとした超人たちの事情をあらかた知っている状態でこの試合を見ているのである。

 

ブロッケンマンの企みやラーメンマンの葛藤(これはもうほとんど解決したが)、そしてあまり触れられてはいないが、自分と師弟関係にあるウォーズマンの裏切りなんかもあって、終始気を抜けない。

 

ブロッケンマン達が勝つために何かしらの行動を起こす。これだけでも彼にとっては冷や汗ものなのだ。

 

「くそ…ブロッケンマンのやつ」

 

「ウォーズマンに一体何をしたんだ…?」

 

ウォーズマンの急な戦闘継続に動揺を隠せない正義チームをよそに、当の本人たちはほくそ笑んでいた。

 

「へへへ…作戦は成功だな」にやり、と笑うブロッケンマン。

 

「みろよ、アイツらの顔…鳩が豆鉄砲を食らったみたいだぜ」

 

「まさかあの方法が本当に成功するとは…」

 

「感謝するぜ。ブロッケンマン」

 

「くくっ…ま、俺もちと心配だったんだがな」

 

動揺する彼らを見ながら不敵に笑う二人。

 

まさにしてやったり、という感じであった。

 

ただ、なぜウォーズマンは30分しか戦えないという彼の最大の弱点を克服することが出来たのだろうか。

 

それは、彼らが試合に臨む前にさかのぼる…

 

この試合が始まる約30分前…

 

ブロッケンマンとウォーズマンの2人はリングの設置などの試合に関する作業が

あらかた終わり、観客席で正義超人たちの到着を待っていた。

 

「……」

 

スタジアム内に鎮座する長い沈黙。その重苦しいプレッシャーは二人の表情を険しいものにしていた。

 

長い沈黙からしばらくして、ウォーズマンは重い口を開いた。

 

「…そろそろだな」

 

「ああ。そろそろだ」

 

短い会話があったのち、彼らはまたステージの入り口に目をやった。

 

お互いに何か思うところがあるのだろうか、見ている先は同じなのになぜか別々の方向を見ているように思える。

 

「約束の朝9時まであと30分。…ステージの用意もできた」

 

「へへへ…あとは正義超人の奴らが来るのを待つだけってわけだ」

 

ニヤリ、と笑うブロッケンマン。

 

あらかた試合のセッティングが終わったことに安どしているのか、どことなく彼の表情は柔らかかった。

 

しかしそれもつかの間、ブロッケンマンは再び表情を強張らせると、ベアクローを磨いているウォーズマンの方へと向き直り、彼に問いかけた。

 

「それよりウォーズマン…いや、“謎の男”さんよ」

 

「この試合の目的は…わかってんだろうな」

 

「ああ、もちろんだとも。ブロッケンマン」

 

「この試合の目的はラーメンマンを倒すこと、そして息子と戦う事だったな」

 

「そのとおりだぜ。この試合は俺にとって重要な試合であり、かつお前が提案した

“超人狩り”の集大成…」

 

「この試合は何としてでも勝たなきゃなんねぇ。そのためにはお前の協力が必要不可欠だ」

 

2人はお互いに今回の戦いに対する目的を再確認し、戦いに臨もうとしていた。

 

その様子は言動の荒々しさがある反面、あまり殺伐とした雰囲気はなく、少し和やかな空気が場内に流れていた。

 

ブロッケンマン自身にもあの殺人者(マダー)の風格はなく、一人の超人としてウォーズマンと接しているようにも見える。

 

残虐超人版「アイスブレイク」といった感じなのだろうか。

 

「まっ、タッグバトルってこともあるし、お互いにフォローできるところはやろうや」

 

「…ああ、そうだな」

 

しかし、ブロッケンマンの気さくな態度とは相反するように不安げな表情をするウォーズマン。

 

怯えているというより、むしろ不安そうな感じであった。

 

「…ん?どうしたウォーズマン」

 

「なんか問題でもあるのか?」

 

次の瞬間、ウォーズマンは衝撃的な言葉を彼に向けて放った。

 

「…もしかしたら、俺達は勝てないかもしれない」

 

まさかの敗北宣言、とはいかなくても負けることを示唆するようなウォーズマンの発言。

 

陽気に話していたブロッケンマンの表情が一変、まるで凍ってしまったかのように表情が堅くなった。

 

「なに?そ、そいつはどういうことだ」

 

その言葉を受けて、彼は少し口を紡いだ後ウォーズマンに問いかける。

 

表面では冷静さを装っているようだが、語気だけは焦燥を隠し通せなかったようだ。

 

「まさか土壇場になって怖じ気づいちまったんじゃねぇだろうな」

 

「違う!俺は確かにアイツらに勝ちたい」

 

「気持ちはそれでいっぱいなんだ!だが…」

 

「だが、体がそうはいかない…」

 

「体?」

 

そういうとウォーズマンはブロッケンマンに自分の体の構造について説明し始めた。

 

「俺の戦える時間はこのコンピュータが原因で短くなっているんだ」

 

「コンピュータ?…ああ、体に内蔵されてんのか」

 

「そういえばお前、ロボ超人だとか何とかって言ってたな…その中に入ってる機材(やつ)になんか問題でもあるのか?」

 

「ああ、俺は30分しか戦えない。時間になると回路が熱でショートしてしまう」

 

「これのせいで、今まで何度も苦渋を飲まされる結果になったんだ」

 

彼が言う、苦渋を飲まされる結果というのは「超人オリンピック・ザ・ビッグファイト」でのキン肉マンとの戦い。彼は自分の必殺技である「パロ・スペシャル」を彼に掛けたのだが、あとちょっとで倒せるというところで自分のコンピュータに異常が出て、そこから技を外され、最終的に負けてしまったことがあった。

 

彼はそのことに今でもトラウマを抱えており、30分立つと生じてしまうコンピュータに対する異常に今でも対処しきれないでいたのである。

 

「くそ、これでは長く戦えない…!」

 

「短時間で勝負を決めるしかないのか…!」

 

時間が経つと異常が出て戦えなくなる。…われわれ人間にはとんとわからない感覚だが

 

彼特有の「アレルギー」のようなもの、と考えるとしっくりくるのかもしれない。

 

「へへへ…なんだ、そんなことか」

 

悲嘆するウォーズマンに対してニヤリと笑いながらそういうブロッケンマン。

 

彼の悲嘆に対するブロッケンマンの反応は「焦り」ではなかったようだ。

 

もうそのことにすでに気づいていたような言い草にも感じる。

 

「あきらめるこたぁねぇ。俺にいい方法があるぜ」

 

「えっ?」

 

「お前が30分以上戦う策が俺の頭ン中にあるってことだ」

 

「ほっ、本当かっ!?」

 

ブロッケンマンにすがるようにしてそう言うウォーズマン。よっぽどこの弱点が致命的なのか、克服方法があると聞いたとたんに彼の眼は輝いていた。

 

「そ、それは一体…」

 

「へへ、簡単なことだぜウォーズマン」

 

「要するにお前は30分しか戦うことが出来ねぇんだろ?だったら休み休みに戦えばいいだけ…」

 

「お前は戦ってる時、おそらく過度の興奮状態に陥ってるんだろう」

 

「その状態が長く続くことで中の機材の温度が上がり、30分たつとちょうど限界が来て、機材がショートする仕組みになっているんだな」

 

「まっ、簡単に言えば家電のブレーカーが高圧の電流に耐えきれずショートしちまった、みたいなもんか」

 

つまり、彼が言うことを説明すると

 

彼、ウォーズマンの弱点は30分たつと戦えなくなることであり、その原因が中にある機材が戦闘によって生じた「熱(熱気のようなもの)」によって体内に熱がこもり、その熱によって最終的には中の機材がショートしてしまう。

 

さらに、その熱のようなものが起こる原因としてブロッケンマンは彼が臨戦態勢に入ったことによって彼の頭脳をつかさどるコンピュータの部分が興奮状態を起こしていることが弱点の原因ではないかと考えたのだ。

 

「と、言うことはその興奮状態を抑えるようなことをすればいいってことだ」

 

「で…でもどうやって」

 

「なあに、簡単なことよ。文字通りお前の頭を"休ませれ"ばいいのさ」

 

「ウォーズマン。おまえ、臨戦態勢を解除することが出来るか?」

 

「あ、ああ…戦いをあまり見なければ何とか…」

 

「そうか、なら楽勝だぜ」

 

ブロッケンマンは対策についてさらに説明を続ける。

 

「仮に今日行われる試合が60分だったとすると、10分ごとに休みと戦いを繰り返していけば」

 

「戦うのに30分、加えて休むのに30分…」

 

「…そうかっ!1時間近く戦うことが出来るッ!」

 

「そういうことだ」

 

彼はそう言うと再びニヤリと笑った。

 

「…まぁ任せな、ウォーズマン」

 

「その30分の埋め合わせは…俺がきっちりやってやるからよぉ」

 

彼は自分に任せろと言わんばかりに親指を立て、それを自分の方へと向けた。

 

この戦略はウォーズマンの根本的な弱点こそ解決されていないが、試合において効率的に戦えることは確かであり、長丁場(デスマッチ)が予想される戦いとしてはかなり有効だった。

 

 おまけに、この「ウォーズマンが長く戦える」戦法ということ自体が彼の弱点を知っている正義超人サイドの動揺も誘うことが出来るため、まさに一石二鳥の戦略ともいえる。

 

なぜ今まで彼らがちょくちょくリングチェンジをしていたのかという理由が、ここで明らかになった。

 

ウォーズマンの戦力を温存し、長時間戦えるようにするためだったのである。

 

(現に俺は…30分すぎているのにも関わらず、まだ戦えている)

 

彼はリングの下で腕を組み、戦闘を静かに見守っているブロッケンマンを見た。

ブロッケンマンも彼の眼を見て静かにうなずく。

 

(この試合…何としてでも勝つんだッ!)

 

相棒のブロッケンマンの姿を見て、勝つことの決意をさらに固め、対峙しているラーメンマンの方へ走り出したウォーズマン。

 

その時の彼の眼は、その決意から勝利に対する情熱があふれんばかりだった。

 

果たして、この残虐超人側が仕掛けた戦略が、今後の戦いでどのような影響を及ぼすのだろうか?

 

                -続く-

 




今回出されたウォーズマンの弱点は簡単に説明すると

「リング上で戦いを見る」→「興奮する」→「ウォーズマンの頭脳を司るコンピュータに熱がこもる」→「それが長い間続く」→「中の機材がショートする」→「戦えなくなる」
                                 と言った感じである。

つまり、ウォーズマンの弱点は興奮状態が長く続いた(この場合はおよそ30分)ことで発生する熱により中の機材がショートし、最終的には戦闘を行うことが不可能となってしまう、ということである。
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