果たしてラーメンマン達はこの状況を打開することが出来るのか?
スタジアム 場内
「くっ…」
「なんということだ…」
目の前の状況に呆然としている正義超人たち。
目の前の状況が今でも信じられないのか、キン肉マンとテリーは口々に今の状況に対して呟いた。
無理もない。本来ならここで離脱していてもおかしくない敵が、息を切らすことなく、煙を上げることなくリングという名の戦場に立っているのだから。
ウォーズマンが1時間戦えるようになったと判明してからというもの、試合は残虐チームサイドにかなり有利に働いていた。
こうなってしまった条件として、やはりウォーズマンの戦闘継続が大きな支柱と言えるだろう。
もともとウォーズマンが短時間しか戦えないので、タッグバトルには不向きではないかと考えていた正義超人サイドは大きく動揺し、それが現在の戦況に出ているというような感じである。
一時は牙城を崩せたような雰囲気が一転、スタジアムの中はいつのまにか別方向から奇襲をかけられたような雰囲気へと様変わりしていた。
「行くぞっ!」
歪んだ空気を嚙みしめることも許すまいと、動揺する正義超人たちの元へ勢いよく向かっていくウォーズマン。
呆然と立っているラーメンマンに対し、拳を繰り出す。
一瞬ではあるが気を取られたラーメンマンは急いでガードの態勢に入り、すんでのところでベアクローを躱した。
それを受けてラーメンマンも反撃の手刀を繰り出す。
しかし、ラーメンマンはウォーズマンに攻撃を仕掛けるもうまく技が入らず、彼にダメージを与えることが出来ない。
ウォーズマンは出された手刀を難なく躱し、ラーメンマンの腹に重い
「ぐっ…!」
重い一撃に腹を抱えて狼狽するラーメンマン。
彼は鈍い痛みを何とか解消しようと、一歩後ずさる。
するとウォーズマンはこれがチャンスとばかりに、ロープの反動を利用したラリアットや自分の体を利用し、スクリュードライバーをクロスの軌道で放ち、ダメージを与えるなど多彩な技を展開し、ラーメンマンを追い詰める。
目に見えぬ素早い動作とすさまじい猛攻。守りの態勢に入っているラーメンマンに追い打ちをかけていく。
気が付けばラーメンマンの胸や足にはベアクローで抉ったであろう痛々しい傷が無数にできていた。
最初は真っ白だったリングも、ラーメンマンの傷から出た血で染まっていく。
今の状況でどちらが優勢なのかは一目瞭然だった。
それからしばらくして、ブロッケンマンがウォーズマンに交代するように呼び掛けた。
「よし、交代だウォーズマン!」
「ああ」
ブロッケンマンの号令に対し、静かに頷くウォーズマン。
「…何だ?いま好調なアイツをわざわざおろすのか?」
「へっ、こっちにもちと考えがあるんでな」
「…そうか、温存策だな」
「どうりでおかしいと思った。30分しか戦えないはずのウォーズマンがどうしていきなり長時間戦えるようになったのかと」
「へへへ、やっぱりすぐにわかっちまうか」
「さすがは超人博士だな。察しがいいというか、頭の回転が速いというか…」
「ただ、わかったところでどうにもならんぜ。俺たちの牙城は崩せねぇよ」
ブロッケンマンは腕を組みながらラーメンマンに向かって余裕綽々に言った。
その態度に反応したのか、ラーメンマンも悠然と切り返す。
「ふん、簡単な話だ。お前を倒し」
「次にウォーズマンを叩けばいいだけだッ!!」
「弱点を見破られたお前に用はないッ!!」
そう言ってブロッケンマンの方へと向かって走り出したラーメンマン。
しかし、ブロッケンマンはその様子を一瞥するとニヤリと笑い、
「へへ…」
「甘ぇなぁ。ラーメンマン」
「ちょっと急ぎすぎじゃねぇのか?」
(ガシィッ!)
「なに…」
「ぐあっ…!」
猛然と向かってくるラーメンマンに対し、ブロッケンマンはラーメンマンをつかみ、ロープがある方向へ彼の体を投げた。
「おらよっ!」
そしてその反動を利用し、ラリアットを仕掛けた。
「くらえっ!」
(ダンッ!)
「ぐっ…!」
やはり腕を攻撃の主軸にしているだけあってラリアットの威力が大きい。さすがのラーメンマンも攻撃を受けてすぐに倒れこんでしまった。
「おいおい、どうしたんだ?ラーメンマン」
「高みを目指した結果がこれか?」
「はあっ…はあっ…」
「確かに俺の必殺技は手刀だ。だがよ…」
「何も手刀だけしか使えないってわけじゃねぇ。ラリアットだってお手のモンさ」
「く…くそ…」
「ラ…ラーメンマン」かたずをのんで見守る正義超人たち。
先ほどからも言っている通り、ウォーズマンの戦闘継続の場面があってからというもの、どうにも正義超人側に「流れ」が来ていない。
反撃の糸口も見つからず、ただただ一方的に残虐超人側にやられているだけ…
今の現状で、彼らの中には誰一人として冷や汗をかかない者はいなかった。
「…お前の技は」
「どうやら手刀だけで、あとの技は補助目的で使う技だと思っていたが」
「どうやら違ったようだ…」
「ヒャーッハッハッハッ!甘いぜラーメンマン!」
「俺の技は多種多様だ!隙なんてこれっぽっちもありゃしねぇ!」
「探すだけ無駄だぜ」
「とっととこの世からおさらばするんだな!!」
「くくく…」
そう言って不敵に笑うブロッケンマン。
無理もない。今のところ試合の「流れ」は彼ら残虐超人側に来ているのだから。
少しばかり余裕の表情があっても何らおかしいことではないのである。
「くっ…」
ブロッケンマンの言葉を受け、狼狽するラーメンマン。
(くそ…今、勝負の流れは私たちにはない)
(何かこの状況を打開する方法を考えなければ…)
「…それとよ。勘違いしてるみてぇだから教えてやるぜ」
この殺伐とした状況を遮るようにブロッケンマンは片膝をついているラーメンマンに対し口火を切った。
「”ベルリンの赤い雨“はな、そんじょそこらの手刀とはわけが違う」
「“しなやかさ”があるからこそなせる技…それがベルリンの赤い雨なのさ」
「ど…どういうことだ?」
訝しげにラーメンマンが問う。
「へっ、それは自分で考えるこったな…いや」
「もう、考えることすら無理かもしれねぇがよ」
そう言うや否や、ブロッケンマンはニヤリと笑いラーメンマンの所へと駆け出した。
「はっ!」
ラーメンマンはブロッケンマンの「不意打ち」にすぐに気づいたがもう遅い。彼は両方の足をつかまれてしまい、身動きが取れない状況となってしまった。
「へへへ…足元がお留守だぜ、ラーメンマン」
「ぐぐ…」
何とか抜け出そうと足を動かすラーメンマン。しかし肩に傷を負っているせいか、痛みで足を動かせず、彼を振り払うことが出来ない。
「ラ…ラーメンマンが捕まった!!」
「い、いかん!アイツは肩をやられている!簡単には抜け出せないぞッ!」
その状況を好機と見たのかブロッケンマンはウォーズマンに対して応戦するよう呼び掛けた。
「よっしゃ、ウォーズマン「あれ」をやってこの戦いに終止符を打ってやろうぜ!」
ブロッケンマンがそう言うと、ウォーズマンは静かにうなずいた。
「あ…あいつら」
「一体何を…?」
次の瞬間…ウォーズマンの姿が消え、リングに一時的な沈黙が起こった。
「えっ…?」
一時的な沈黙の後、彼らはリングでの光景に目を疑った。
「な…何だと…!」
正義超人たちがラーメンマンを見た先、そこにあった光景は…
ラーメンマンがウォーズマンに「パロ・スペシャル」をかけられている姿だった。
しかも、いつの間にかブロッケンマンがいなくなっており、ラーメンマンに技をかけている立場が交代していた。
はたから見ただけでは一体何が起こったのか全く分からないといった状況。
「い、いかん…!あれを破ることが出来たのはパワー型の超人のみ!!」
「技巧型のラーメンマンでは破れない…!!」
確かに、今まで“パロ・スペシャル”が破られたときの相手は“7人の悪魔超人”の中で最も高い1000万パワーを持つバッファローマン、そして完璧超人であるネプチューンマンなどの体が大きく、力も強い。いわば“パワー型”の超人だった。
細身の体系の超人が破ることが出来たところをこの時点では見たことがない。実際にキン肉マンも“火事場のクソ力”を使い、かつ彼の疲弊によるコンピュータのショートなくしてこの技は破ることはできていないのである。
「と…というかいつの間に!?」
「いつの間にブロッケンマンとウォーズマンが入れ替わったんじゃ!?」
「本当だ…!し、しかも見ろ!ラーメンマンの足を!」
「ゲ―ッ!アキレス腱が切られているーっ!」
いきなり起こったこの状況に驚きを隠せない正義超人たち。キン肉マン、ロビン、テリーマンは口々に今起こっている状況に対する感想を述べた。
確かに、彼らの言う通りよく見てみるとラーメンマンのアキレス腱がある部分に何かしらで斬ったような傷がある。
一体何が凶器なのかは明らかだ。
「へへへ…これでウォーズマンの必殺技からは絶対に逃げ出せまい」
「言っただろ?ベル赤にあるのは“しなやかさ”」
「ただ技を繰り出すだけじゃなく、パートナーが技を繰り出す際の援護射撃としても応用できるってことなんだぜ…」
どうやらブロッケンマンはあの状況でウォーズマンが“パロ・スペシャル”を繰り出す時、彼がラーメンマンの股下へと潜り抜ける一瞬の間を利用し、彼はラーメンマンに対してベルリンの赤い雨を放った。
その際、ラーメンマンの足には傷が残り、一時的にでも身動きが取れなくなる。
そうするとウォーズマンの必殺技が通りやすくなり、かつ技から逃げられる可能性を狭めることが出来るという事である。
どうやってブロッケンマンが自陣に逃げ込んだのかまではわからないが、とりあえず先ほど一瞬で起きた出来事というのはこのような過程である。
それらの過程をブロッケンマンは一瞬で思いついた。
何という頭の回転、および、それを行動に移すことのできる行動力の速さであろうか。
いや、それよりもブロッケンマンのこの「ラーメンマンの足をつかむ」行動に対し、瞬時に必殺技を出すことのできたウォーズマンを褒めるべきなのだろうか。
いずれにせよ、よくできたコンビネーションである。
「ま…負けて…」
「ま…負けて…なるものか」
何とか全身を怪我している状況でも技を外そうと体を動かしてみるラーメンマン。
しかしこの技は抵抗すればするほど徐々に技の入りが強くなり、痛みが増すだけでなくますます抜け出せなくなるという特性を持っていた。
技から抜け出そうとするとさらに悪い状況となる、いわゆる「負の連鎖」が起こる技なのである。
「いかん…!あの技は抜け出そうとすればするほどさらに体が締め付けられてしまうのに…!」
「ラーメンマン、いったん動きを止めろッ!」
「痛みが増すばかりだぞ!!」
焦るラーメンマンをいったん落ち着かせるようと彼に対して叫んだロビン。
しかし、そのアドバイスも今のラーメンマンには聞こえていなかった。
抜け出せない焦りと、締め付けられる痛みでラーメンマンは正気を失っていたのである。
「無駄だぜラーメンマン。さっきアイツらが言った通り、この技は抵抗するほど抜け出せない」
「おとなしくしておいた方が身のためだぜ…」
表情を出さず、静かに彼に対してそう言い放つウォーズマン。
(すまないな、ラーメンマン)
(悪く思わないでくれ。これもアイツの復讐のため…)
(迷いなく、アンタを倒させてもらう)
技をかけている側であるウォーズマンは冷静だった。ブロッケンマンのラーメンマンに対する復讐を成功させるために彼は全力を注ぐことを決めていたのだ。
ただ、彼のその表情はただ冷酷に見えるだけでなく、何か別の目的があるようにも思えた。
「ウ…ウォーズ…マン」ラーメンマンはかすれた声でウォーズマンに問いかけた。
「何だ?」
「お前らの…目的は、なんだ…?」
「なぜそこまでして“正義”を消そうとする…?」
「……」
ラーメンマンの質問に対してウォーズマンは「沈黙」という返答を返した。
「ウォーズマン…!」
詰めるようにして彼に返答を促すラーメンマン。その時の彼の表情はまさに「鬼気迫る」ような感じであった。
それから一瞬、間が開いた後に、ウォーズマンは無機質な表情で重い口を開いた。
「…済まないが、その質問には答えられない」
「俺達に勝って、無理やりにでも吐かせるんだな」
「……」
「まあ今の状況では、どだい無理な話だが」
「くっ…」
ウォーズマンは技をかけている相手に対し、冷酷にそう言い放った。
彼がファイティングコンピューターという異名を持つ理由。それはこの状況で如実に表れている。
事務的かつ速やかに相手を処理する。リングの上での彼はもう超人ではなく機械そのもののように見えた。
「ぐぐ…」
「も、もう我慢ならん!」
キン肉マンは今の状況に耐えかねたのか、ラーメンマン達が戦っているリングへと駆け出した。
向かったのは今のこの状況をただ見ていたブロッケンの元。彼はリングを叩きながらブロッケンに向かって訴えかけるように叫んだ。
「どうしたんじゃブロッケン!早くラーメンマンを助けんかい!」
「一体何のための相棒なんじゃーっ!!」
キン肉マンにそう言われ、一瞬ハッと我に返ったブロッケン。
どうやら彼は今の状況に理解が追い付かず呆然としていたようだ。
しかし、キン肉マンに気づくと彼はその声に反抗するように若干イラついた様子で返す。
「う…うるせえぞキン肉マン!」
「言ったはずだぜ!俺はお前たちの指図は受けない!」
「暴力で解決するようなやつらの言うことなんか聞けるかーっ!」
キン肉マンに対して半ば感情的に返したブロッケン。
彼のその叫びと表情からかなり焦っているのがわかる。
「いつまで強情を張っとるつもりじゃーっ!このままじゃ…」
「このままじゃラーメンマンが死んでしまうんじゃぞーっ!!」
キン肉マンはもはや自分たちが争っていたことなど忘れてブロッケンに対して忠告している。
「くっ…」
だが、その声もブロッケンには響かない。…いや
わかってはいるのだが、キン肉マンの指示に従いたくないという気持ちが先になってうまく行動が出来ないでいるのだ。
事は一刻を争う。強情を張っているよりまずは目の前のことを解決することが先なのだ。
しかし、今の彼はプライドという壁が悪い意味でうまく作用し、意図せずして敵側に有利な状況を作ってしまっていた。
言うまでもなく、最悪の状況である。
「おいおい、今のアイツにいくら言ったって無駄だぜ」
「それよりもよぉ…苦しんでるラーメンマンを助けなくていいのか?」
「偽善超人さんよ…」
「ぐぐぐ…」
「…くそっ、タッグバトルに俺たちが入れないことを知っててあんなことを言ってきやがる!!」
「へへへ…これで終わりだ、ラーメンマン」
「これで俺の復讐劇も最終段階に入ったってわけだ」
復讐に燃える悪鬼はニヤリと笑う。
「さ…最後…?」
「やいブロッケンマン!お前ラーメンマンに何をするつもりじゃ!!」
自分についた動揺を振り払うかのようにキン肉マンは大声でブロッケンマンに疑問をぶつけた。
「へへ…この状況でやることって言ったら」
「一つしかねぇだろ!」
ブロッケンマンはそう叫ぶとリングロープを利用して上昇し、ラーメンマンの首めがけて手刀を放った。
ウォーズマンの「パロ・スペシャル」でラーメンマンを固定した上、彼の首を「ベルリンの赤い雨」で斬り落とす…
わかりやすく言うなら、それは「断頭台」であった。
ブロッケンマンの手刀は降下と共に徐々にスピードが増していき、ラーメンマンのうなじをめがけて牙をむいていく。
「へへーっ!!ラーメンマン、じっとしてろよっ!!」
「動くと仕留め損ねるからよぉ!!」
「まずい…!早くしないとラーメンマンの首が…!」
焦燥を隠しきれず、頭を抱えて悲痛に叫んだロビン。
「卑怯だぞブロッケンマン!それが旧友に対してすることかーっ!!」
キン肉マンの悲痛な叫び声も聞こえる。しかし、友を守ろうとするその声も悪鬼にとってはただの戯言にしか聞こえなかったようだ。
「旧友?…へっ、関係ねぇな」
「残虐超人に“仲間”とか“正義”だなんて言葉はねぇ」
「俺達にあるのは“姑息” “非道”そして“残虐”の3つだけよ!!」
「勝つために手段は選ばねぇ!それが“残虐超人”だーっ!!」
「いくぜウォーズマン!!」
「これが俺たちの必殺技!!」
「ベルリンの
残虐と、復讐の念を込めた彼の手刀が今まさに、ラーメンマンのうなじへと入り込もうとしたその時だった。
「そうはいくかーーーーっ!!!」
「!?」
突如として謎の黒い影が、首を斬ろうとするブロッケンマンの体へとぶち当たった。
「ぐおっ…」
ぶつかったと同時に彼の体がロープの方へと吹き飛び、もたれかかる感じで倒れた。
いきなりのことで状況がわからないブロッケンマン。リングから落ちはしなかったものの、ぶつかった衝撃で少しばかりのめまいが起きていた。
「な…なんだ一体…」
「……」
「…超人界の一大事だと聞いて病院を抜け出してきたが」
「何だこのザマは?」
衝撃波による煙とともに現れた一つの巨体。凛々しい腕と、頭に生えた二本の大きな角…
「お…おまえは…」
巨体の正体は、あの男だった。
「バッ…」
「バッファローマン!?」
―続く―