※今回は後書きに技についての解説と現時点では不明となっていることについて書いておきました。少々長いですがもしよろしかったらそちらの方も見ていただけると幸いです。
スタジアム 場内
「禁断の技をッ…!」
こぶしを握り締め、歯を食いしばりながらブロッケンマンに向けて言い放ったブロッケン。
その表情は憎悪に似たような感じであった。
「き…禁断の技…?」
「ブ…ブロッケン…」
「一体どういうことだ?禁断の技とは…」
弟子の豹変ぶりに若干たじろぎながら、恐る恐る彼に“禁断の技”の意味について尋ねるラーメンマン。
「……」
それを受けて彼はラーメンマンの方を向く。
彼は口を紡ぎ、青ざめた表情でゆっくりと口を開いた。
「ラーメンマン…いや、俺もそうだが」
「これからの戦いは、覚悟しておいた方が良い…」
「…えっ?」
「あの男に、絞め技、固め技の類が一切通用しなくなった」
「親父の体をがっちり固めて、地面にたたきつける…なんてことが一切できなくなっちまった…ってことだ」
ブロッケンの言っていることを要約すると、これからの戦い、少なくともブロッケンマンに関しては固め技、絞め技などの類が一切効かなくなった、という事になる。
ラーメンマンに関しては先ほどのような“キャメルクラッチ”や“万里の長城”、ブロッケンの場合は“ブレーメンサンセット”、“フランケンシュタイナー”といった技が使えなくなる、といった感じなのだろうか。
「い、いったいどういう事なんじゃブロッケン!固め技や絞め技が一切効かんとは…」
「ああ…」
ブロッケンは技についてさらに説明を続ける。
「あの技は簡単に言うと全身の関節を外し、固め技や絞め技の類から脱出する技だ」
「はたから見れば縄抜けのようにも見えるんだが…関節を外す際にまるで“脱臼”したような状態になること」
「そしてその脱臼した状態を自力で、かつ一瞬で元の状態に戻さなければいけないことから、ブロッケン一族の中ではほぼ不可能とされてきた技なんだ」
「ま、まさかブロッケン一族にそんな技があったとは」
「まさに“寝耳に水”だな…」
驚きの表情を隠せないのか口を開いたまま額に汗を垂らしながら話すテリー。
その表情を見て、バッファローマンは冷静にブロッケンに質問を投げかけた。
「しかしブロッケン。おまえ、今までその技について触れてきたことなんかなかったじゃねぇか」
「第一、はたから聞いてりゃ割と応用も効いて便利な技だ。…うまくやりゃそれなりに使う機会も多かっただろう」
「一体なぜ今まで使わなかった?」
訝しげな表情でブロッケンに尋ねるバッファローマン。
それに対し彼は帽子で表情を隠しながら答える。
「さっきも言っただろ、あの技は“禁断の技”だと」
「仮にやろうと思ってもそう簡単に使えるような代物じゃねぇんだ」
「まあ…仮にこの技が使えたとしても、多分使うかどうかはわからねぇ」
「確実に一度は躊躇することになるかもな…」
「使えたとしても、確実に躊躇する…?」
「どういうことだ」
首をかしげるロビンにブロッケンは彼の方向を向いて答えた。
「あの技はな…下手をしたら二度とリングに上がることが出来なくなるんだ」
「な…なんじゃと!?」
彼の回答を聞いて驚く正義超人たち。
「そ、それは本当なのかっ!」
それを畳みかけるようにロビンが叫ぶ。
「ああ、あの技は確か先代のことが書かれてる文献に載ってたはずだ」
そう言うとブロッケンは文献の中の内容の一部を簡単に説明し始めた。
「“この技はいかなる締め技、関節技諸々を回避すれど、失すれば代償に足の節、腕の節を破壊し」
「下手をすれば、二度とリングに上がること叶うまじ“…とな」
「そりゃそうだ…全身の関節、おまけに首の骨まで外すことのできる技なんだからな」
「もし失敗でもしたら…ほぼ確実に死ぬ」
「首の関節まで外せるのかっ!?」
驚くキン肉マンに対し、ブロッケンは静かにうなずいた。
「ああ。文献の内容が正しけりゃ、恐らくそうだったはずだぜ」
「この技の名前、俺達ブロッケン一族の中では」
「
「長ったらしいから“A.A.戦法”って呼ぶときもあるな」
「あ…ある…?」
「ドイツ語で
「私たちの印象では“縄抜け”という感じらしいな…」
ロビンの中でも腑に落ちない部分があるのか、少し曇った表情で彼はキン肉マンの方を見る。
「解体術、縄抜け…もしかして」
「一時的にスプリングマンや悪魔将軍のような“軟体超人”になってしまうという事か!」
どうやらキン肉マンの方は独自の視点で解釈し、結論に至ったらしい。
彼はポン、と手を叩き、ブロッケンの方を向いた。
「厳密に言うと少し違うんだが…まぁ大体あってるぜ」
「そうだ。俺達ブロッケン一族は一時的という制約の下、体を自由自在にどの方向でも曲げることのできる特異体質を持っている」
「ただ、それでもあの技は危険すぎて使う事を避ける」
「実際にこの技を試そうとしたご先祖たちの何人かは修行の途中で関節があらぬ方向に向いて二度とリングに上がれなくなったり、全身の関節が元に戻らなくなって亡くなったり、昏睡状態になって二度と目を覚まさなくなったりしてたらしいしな」
つまり、ブロッケンの言うところの“禁断の技”とは相手に固め技や絞め技の類をかけられた際に全身の関節を外し、抜け出す技のことであり、ブロッケン一族はこの技を世に広めることを嫌い、会得するための文献を秘密の場所に隠した…という事になる。
また、ブロッケン一族がこの技を嫌ったもう一つの理由として、関節の外し方を少しでも間違えれば二度とリングに上がることが出来なくなり、下手をすれば死亡することにもつながりかねないといった理由があったようだ。
そう考えると、確かにブロッケンがこの技を使用すること、そしてそれが世の中に広まってしまう事を嫌う理由が何となくうなずけた。
もしこの技が広まってしまえば、その技の便利さゆえに多くの人たちが使用し、会得しようと試みるだろう。しかし、最終的には技の会得には至らず、この技の毒牙にかけられてしまう事は想像に難くない。そうなれば、その責任は必然的に技を考案したブロッケン一族に責任がのしかかってくることになる。
そうなってしまう前にブロッケン一族の先祖はこの技を永久封印し、この技を誰にも使わせないようにした…というのが封印までの流れなのだろうか。
いずれにせよ、どちらの意味でも難しい技である。
「ん…まてよ」
なにかに気づいたのかキン肉マンはいつにもなく真剣な表情になる。
「じ、じゃああの時…」
「ザ・ニンジャの“蜘蛛糸縛り”を見よう見まねで外したというのは…」
まさか…というような表情でキン肉マンは。彼の方を向いた。
すると彼はそれを受けて青ざめたような表情をしながら質問に答えた。
「ああ、たった今気づいた。あれは偶然なんかじゃない」
「無意識のうちに“禁断の技”を使っちまってたってことだ…」
キン肉マンの言っている試合とは「黄金のマスク編」にあったウォーズマンの体内の中で行われた「ザ・ニンジャ対ブロッケンジュニア」の試合のことを言っているのだ。
キン肉マンが言っていたように悪魔超人の中でも特に優れている超人の一角、悪魔騎士の一人であるザ・ニンジャがブロッケンに対しリングロープを巻き付け、身動きを取れなくさせていたことがあった。
しかし、その際にブロッケンはニンジャの技の一つである“順逆自在の術”を模したと称し、彼の技を“見よう見まねで”やって見せた。
しかし、実は彼の繰り出した技は決してニンジャのコピーではなく彼の、厳密にいえばブロッケン一族の“A.A.戦法”を無意識に繰り出し、彼の技を防いでいた。
決して見よう見まねの技などではなく、彼の技としてあの危機を脱したという事なのである。
「まぁ、俺も教育の一環として教えられただけだったから、このことを詳細に知っているわけではないんだが…」
「とにかく、俺達ブロッケン一族は先代から永代に至るまでこの技を意図的に使う事を厳しく禁止して、文献を世界のどこかにある図書館に保管し、絶対に俺達の力では見つけられないようにしたんだ」
「実際、過去に何人かがその禁を破ろうとしたが、見つけることは叶わなかったと聞いている」
「仮にその文献を見つけ出したとしても、決して会得しようとは考えず、静かにその本を棚に戻せ…と伝えられたはずなんだ」
「へへ…よく知ってるじゃねぇか」
「やっぱりブロッケン一族にとって、この問題だけはどうしても外せねぇからなあ」
そう言うとブロッケンマンはリングロープに腰を掛け、腕を組んだまま正義超人の方を向いた。
「人間と超人のハーフである俺たちだ…普通の超人みてぇに数日で傷が治るわけでもねぇし、ましてや関節を外すんだから、失敗すりゃあ二度と元の体には戻らねぇからな」
「ただ…俺はそいつを克服する術を身に着け、慣れないまでもこの技を意図的に使うことが出来るまでになったのさ」
リング上で腕を組み、薄い笑みを浮かべながら話すブロッケンマン。
「まぁ、これからはいかなる絞め技、固め技、とにかく相手をがっちりつかんで叩きつける技なら何でも跳ね返せるってことが分かっただろ?」
「俺がこの技を今までの試合であんまり使わなかったのはな、技自体が慣れてない、おまけにそれ自体が禁止されているってのもそうだったが…」
「一番はこの技を自由に使えるってことを他人に勘繰られてしまう事を防ぐためだったのよ!」
「現にアシュラマン以外ではこの技を使ってないし、使われた当人も全くわからなったようだしな」
「だが、やはり同じ一族が相手じゃあすぐに感づかれちまう」
「だからこうしてキャメルクラッチを皮切りに、この技を常に使ってやろうと“お披露目会”をしてやったわけだぜ!」
「ふざけるな…!」
ブロッケンは自分の父親に小さく、しかし重い一言を浴びせた。
声こそ小さいものの、その声質は重く、怒りの感情を吐き出していることは一目瞭然であった。
「ブロッケン一族はこの技を俺の代に至るまでずっと隠し通してきた…」
「だが親父…!アンタはいま、その禁を破ったんだッ!」
ブロッケンはブロッケンマンの方に指を指し、自分が持つ怒りの感情をぶちまけた。
彼はさらにこの状況に応じて言動を畳みかける。
「先代が絶対にこの技を広めさせまいと必死になって守ってきたものを非公式試合とはいえ、いとも簡単に公表しやがって…!」
「親父がそこまで果たしたい復讐って、一体何なんだよッ!?」
「……」
息子の悲痛な叫びに沈黙という返答を返す父親。
「親父ッ!!」
そのふざけたような、煮え切らないような態度に業を煮やしたのか、ブロッケンはブロッケンマンに向かって叫んだ。
しかし、その叫びから帰ってきた返答はけだるそうな、若干イラついたような声色だった。
「…るせぇな。さっきからグダグダとよ」
「なに…?」
父親からの意外な反応に一瞬固まったブロッケン。
その合間を縫って何もせずに立ち止まっていたブロッケンに対しブロッケンマンは彼に向かって走り出した。
(ガシィッ!)
リング上で組み合う二人。“返答は許さず”ということなのか。
「ぐぅ…!」
「敵が目の前にいるんだぜ…さっきから何をボーっとしてやがる」
「ひ…卑怯だぞ…!親父…」
苦悶の表情で父親と相対するブロッケン。
しかし、それもお構いなしに彼は“攻めの姿勢”の態度を崩さない。
「さっきも言ったはずだぜ…覚えてねぇのか?」
「俺達は“残虐超人”…勝つためなら不意打ちだろうがどんなことでもする」
「卑怯は褒め言葉…違うか?」
「ぐっ…!」
「それに今は“試合中”のはずだ…一度ゴングがなりゃあ」
「例えそれが“禁断の技”だろうと、反則にはならねぇんだよ!!」
「ブ、ブロッケン!」
「くそーっ!あの状態では得意技の手刀も使えん!」
「固め技も絞め技も使えんし、一体どうしたらいいんじゃ!」
ブロッケンの状況に焦りを隠せないキン肉マン達。
この状況で冷や汗をかかない人は誰一人としていなかった。
「……」
しかし、この状況を見て一人腕を組みながら今の状況を静かに見ている人物がいた。
「…妙だな」
「ん?どうしたんじゃロビン」
何か言いたげな彼の表情。しかしロビンはしばらく考え込むと
「…いや、何でもない。多分気のせいだろう」
「忘れてくれ」
首を横に何回か振り、自分の言動を撤回した。
「??…変な奴じゃのう」
首をかしげるキン肉マン。しかし、まあいいかというような感じで彼はリングの方に向き直った。
キン肉マンとロビンとの間で少しばかり気になる会話をしていた一方で、ブロッケンマンとブロッケンの間でも少し進展があったようだ。
彼らはガッチリと組んだ体制を解き、お互いが対峙するような形となっていた。
「…おい、息子よ」
「何だ」
「へへ…そんなにこの技が嫌いか?」
腕を組み、ニヤリと笑うブロッケンマン。
「…ああ。大嫌いだ」
それとは対称的に無表情で返答するブロッケン。
「…そうか」
「…さっきから何が言いたい?」
片方の眉をピクリと上げ、彼に尋ねるブロッケン。
思わせぶりな態度が気に食わなかったのか、彼の語気には苛立ちが垣間見えていた。
「へへへ…至極簡単なことさ」
「そんなにこの技が嫌いなら、俺からこの技を奪ってみやがれ!!」
そういうと彼はブロッケンの方に向けて勢いよく走り出した。
「何い…一体どういうことだ!」
「技を破ってみろってことだよマヌケ!てめぇにその技量があればの話だがな!!」
そう叫ぶと彼は走りながら右腕を出した。
ラリアットを放つつもりだろうか。
猛然と向かってくるブロッケンマンに対し、ブロッケンは最大限の警戒をしながらファイティングポーズを取る。
その際、何かを考えこむように彼は眼を閉じた。
(くっ…手刀も防がれるし、掴んで叩きつける、なんてこともできねぇし…)
(けど…)
立ち向かっていく腹が決まったのか、ブロッケンは目をカッと開いた。
(この技の特徴を深く知ってるのは、正義超人の中で俺だけなんだ…!)
そして、向かってくる父親に対し悠然と、しかし静かなる決意を込めて叫んだ。
「来やがれ…!」
「何としてもてめぇの技…破って見せるッ!」
果たして彼は、父親の技を破ることが出来るのか?
続く
技について(解説と不明点)
「軍隊式解体術」:ドイツ語だと「アルミィゼレ=アブリ」、日本語だと「ぐんたいしきげたいじゅつ」と読む。全身の関節を外すことによって現存するほぼすべての固め技や絞め技などから抜け出すことが出来る技と言われている。発案したのはブロッケン一族のご先祖(誰が考案したのかという事は現時点ではわからない)名前が長いので一族の間ではしばしば頭文字をとって「A.A.戦法」と呼ばれていた。
一見すると応用が利きそうで関節の外し方を間違えさえしなければ便利な技のように見えるのだが、見た目に反して技の難易度が非常に高く、発案者の一族の中でも何人かは死亡、または昏睡したまま二度と目を覚まさなかった事例まであったという。
これを受けてブロッケン一族の先祖はこの技における意図的な使用を禁止し、永代に至るまでこの技の習得が出来ぬよう、世界のどこかにある秘密の図書館にこの文献を寄贈した、とのことである。
ちなみに、ブロッケン一族はDNAに刻まれているのかこの技を無意識に出せる時がたまにあるそうで、黄金のマスク編の際に行われたザ・ニンジャとの戦いにおいてブロッケンが偶然この技を出したらしいのだが、どうやってニンジャと位置を入れ替えたのか、という事に関しては不明。