~とあるスタジアム・前~
キン肉マンをはじめとした正義超人たちは、ブロッケンJrに連れられて、「ある男」が戦ったというスタジアムの前へと来ていた。
「ここだ…」
ブロッケンが静かに言う。
「ここかっ!バッファローマンを切り裂いた奴がいる場所というのは!」
ロビンマスクは叫んだ。
「なんじゃ、犯人がいるっていうからどんな禍々しい場所かと思えば」
「以前、超人オリンピックが開かれていた場所ではないか、ずいぶんと懐かしいのう」
「ああ、そうだなキン肉マン」キン肉マンの言葉に対し、ロビンが答える。
「思い出すのう、あの時は確か、私がロビンをローリング・クラッチホールドで…」
「…なるほど、確かに以前のスタジアムとは違う…不気味なオーラを感じるぞ…」
キン肉マン達の話を遮るようにそういうのは、キン肉マンの一番の友であり、最も古い付き合いのある友人、アメリカのテキサス出身、情熱あふれるテキサスブロンコ「テリーマン」
前回紹介できていなかったので、ここでしておく。
「ラーメンマン、ここは確か…」
なにかを勘繰るようにラーメンマンに対して疑問をぶつけるテリーマン。
「……」
その問いに対しラーメンマンは厳しい表情のまま黙っていた。
そして
「…できれば、ここへ来るのはあの時で最後にしたかった…」
ラーメンマンは静かにそう言った。
「…俺と来た時か?」
ブロッケンはそう返す。それからすぐに、ラーメンマンは静かにうなずいた。
「だが、大切な仲間、もとい相棒を傷つけられたとあっては、話は別だ」
「このラーメンマン、必ず犯人を見つけ出して見せる」
そう言うと、彼は中へと入っていった。
「あっ!ラーメンマン!一人で中に…」
テリーの制止も聞かず、ラーメンマンは中へと入っていった。
「なんじゃ、どうかしたのか?」
思い出話に花が咲いていたのか、キン肉マン達は状況が分かっていなかったようだ。
「ラ…ラーメンマンが先に中へ…」
ブロッケンが状況を伝えようとすると
「なに!!ラーメンマンが先に入ったじゃと!?」
「くそ~、犯人を捕まえてヒーローになろうというのじゃな!?」
「犯人を見つけるのは私じゃ!アイツばかりにいいカッコさせんぞ―ッ!」
キン肉マンはそう言うと、急いでスタジアムの中へと入っていった。
「ああ、キン肉マン!」
今度はキン肉マンを静止したが、もちろんこれもスルーされた。
「まったく…相変わらずせっかちだぜ」
テリーは呆れていた。
「どうする?追いかけるか?」
ロビンが期待するように問いかけると
「もちろん。仲間を見捨てない…それが俺達"正義超人"だ」テリーはそう言った。
ロビンは納得したようにうなずくと、「よしいくぞ!」と、残っていた仲間全員に号令をかけ、スタジアムの中へと入っていった。
~スタジアム・廊下~
スタジアムの中は暗かった。前回も言った通り、だれもいないのだから仕方がないことだが、管理人の一人や二人いないのか、と思ってしまうくらいに暗かった。
「…なんだ、外観はいささか広く見えたが」
「中の構造は割と簡単にできているようだ」ラーメンマンは中の構造をくまなくチェックしていた。これがキン肉マンなら、すぐに迷って、あちこち回っているうちにブレーカーの一つでも落としてしまうのだろう。
「これならすぐにホールへ着きそうだ」
ラーメンマンは着々と、中央ホールへと歩を進めていく。
そのとき、ラーメンマンは目をこすった。
「…?」
「なんだ?目が…」
すると、すぐにラーメンマンの視界は大きくゆがみ、そして何も見えなくなった…
ラーメンマンの意識が途切れた時間から何分かたった頃だろうか。
ラーメンマンの視力は次第に回復し、徐々に周りが見えてきた。
「…ここは?」
少し、周りを見てみると、見覚えのある景色のようだった。
明るい照明、恐れおののく審判、そして、赤く染まったリング…
「赤いリング?」
「…はっ!」
ふと下を見ると、ラーメンマンの足元にはリングを赤く染めている元凶が転がっていた。
自分が真っ二つに割った、ブロッケンマンの亡骸だった…
「!!」ラーメンマンはカッと目を見開いた。
「わ…私はこの試合がラジオ中継であったことにホッと胸をなでおろしています!これがテレビ放送だとどうなっていたことでしょうか…」
腰を抜かした実況者が、震えた声で実況している。
同じだ。あの時と同じだ…!
「人殺しーッ!」
「それでもヒーローかよ!!」
「残虐超人めーッ!」
スタジアムのあちこちから彼を罵倒する声が上がる。
(違う…違うんだ…こんなつもりじゃ…)
彼の手は明らかに震えていた。
すると、周りが暗転し、ブロッケンJrが出てきた。
「ブ…ブロッケン!」
「親父を殺した人殺しめ…」
「えっ…?」
「お前は正義超人などではない、正義超人の皮をかぶった、残虐超人だ!」
「そ…そんな…」
「懺悔をしているつもりなら、大人しく俺に殺されろ!」
「くぅ…」
「ベルリンの…赤い雨――ッ!!」
ブロッケンの手刀がラーメンマンの首元に襲い掛かる。
「う…うわーーッ!!!」
その時、不意に目の前が明るくなった。
目が覚めたのは、彼が最後に見た、薄暗い廊下だった。
「はあッ…!」
ラーメンマンは荒々しく息を吐いた。そして、息を整えると辺りを見渡し、何もないことを確認すると
「ゆ…夢か…」
ラーメンマンはほっと胸をなでおろした。
「しかし…いやな夢だった…」
「気を失っていたのか、しかしなぜ…」
「フフフ…毒ガスを吹きかけただけで気を失うとは…弱くなったな、ラーメンマン!」
突然、どこからか声が聞こえた。
「誰だ!」
ラーメンマンは暗闇に向かって叫ぶ
「軟弱者に名のる名はない!お前は決してあの男に、そして俺達には敵わん!」
声の主はラーメンマンに対してそう返した。薄暗い空間の中にいるため声の主がどこにいるのかがわからない。
「ブロッケンマンのことか!なぜ知っている!」
「俺はブロッケンマンの仲間であり、唯一の理解者だ…息子であるブロッケンJrよりも、俺はアイツのことを知っている!」
「答えていないぞ!なぜお前がブロッケンマンのことを知っているのかと聞いて…」
「教えてやろう!あの男…お前の永遠の難敵、"ブロッケンマン"は生きている!」
謎の男はラーメンマンの話を遮り、そう言い放った。
「な…何だと…!」
「覚えておけ!お前があの男を倒すには…あいつを上回る"純粋な残虐性"が必要だということを!」
そう言うと謎の男は去っていく、足音が徐々に離れていくのが聞こえる…
「ま…待てッ!」
ラーメンマンは足音を頼りに薄暗い廊下の中、謎の男を追いかけた。
(逃がしてなるものかっ…みんなのためにも…)
(バッファローマンのためにもッ…!)
無我夢中で走るラーメンマン。しかしもう男の足音は聞こえなかった。
それでもまだ近くにいるかもしれないと、必死で走った。
すると不意に、目の前がパッと明るくなった。
さっきのよりかは大分ましだったが、明るさに一瞬目がやられてしまった。
ラーメンマンは目をこすると、あたりを見渡した。
どうやらドームの反対側に出たようだ。人の気配はない。
「逃がしたか…」
ラーメンマンは悔しさをかみしめるようにそう言った。
「まさか…」
「まさか…ブロッケンマンが生きていた…とは」
ラーメンマンは地面に手をついた。
「純粋な…残虐性…」
「ブロッケンマンが生きていた」
これは彼にとっても、ブロッケン達にとっても衝撃的な事実だ。しかし、今の彼にはそんなことよりも、謎の男に言われたことのほうが重要なようだった。
「私に…私にもう一度…」
「"残虐"になれ、というのか…?」
ラーメンマンは震えていた。これまでにないほど、彼はおびえていた。
その震える姿に、もう先ほどまでの気高さは見受けられない。ラーメンマンは、決して誰にも、弟子であるブロッケンJrにも話すことのできない葛藤に苦しめられていたのだった…
-続く-