スタジアム 場内
「うおおおおおっ!」
鍛え上げられた腕を上げ、、ブロッケンに猛然と向かってくるブロッケンマン。
「させるかっ…!」
向かってくる父親に対し、ブロッケンは苦い顔をしながらファイティングポーズをとっている。
そして、彼の体にブロッケンマンの腕が突き刺さるか刺さらないかといった次の瞬間、彼はブロッケンマンの腹に蹴りを入れた。
ドガッ!!
「ぬっ?」
とつぜん腹を撃たれ、不意を打たれるブロッケンマン。そのまま彼の体はリング上で宙を舞う。
そしてその宙を舞った体を見るや否や、ブロッケンはブロッケンマンの腕をつかみ、彼の体と共に勢いよく垂直に落下していった。
「ブレーメンサンセットッ!!」
「おおっ!ブロッケンがブロッケンマンを掴んだぞッ!」
歓声を上げるキン肉マンとロビン。
「し、しかし…!」
それを傍目に苦い表情をするテリーとバッファローマン。
予感勝負は彼らの方に軍配が上がったようだ。
「へへへ…」
(ゴキゴキボキィッ!!)
ブロッケンが彼の体を掴むや否や、突然聞こえてくる謎の音。
ブロッケンマンが「A.A戦法」を使ったのだろうか。
「うあっ…!関節が外れる嫌な音だ…」
「ぐああっ…!」
渋い顔をしながら耳をふさぐキン肉マン達。バッファローマンとテリーは片方の耳をふさげないので、片耳をお互いの手で防ぎ合っていた。
「くうっ…!」
周囲ですらその音に耐えられないような状況なのだ。当然技をかけているブロッケンの方も関節の音が鼓膜に響いていた。
しかし、彼はその音に臆することもなくブロッケンマンの腕を両腕でつかんで離さない。
(くそ…離すものかっ…!)
しかし、必死になっているのもつかの間、ブロッケンマンの体はすでに彼の腕から離れていた。
「なっ…!」
空中を旋回して見事に着地を決めたブロッケンマン。
「く…くそ…」
それと同時にブロッケンも苦い表情のまま足からリングに着地した。
(トスッ)
「なるほど…それがお前の新しい技か」
ブロッケンマンは腕を組みながらリングロープにもたれかかり、ニヤリと笑った。
雰囲気から察するに、彼は全くダメージを受けていないのだろう…
「へへへ…お前、試したな」
「A.A.戦法が本当に使えるのかどうかってのをよ…」
「……」
やはり先ほどのように掴み技の類は彼に効かないのだろうか。腕をしっかりと固めて手刀を打たせないようにしていたのにも関わらず、ブロッケンの技がいとも簡単に破られてしまった。
「だから言っただろ?俺に掴んで叩きつける技は通用しねぇんだ」
「何度やろうと無駄だぜ」
「ぐっ…」
「どうした息子よ…攻めてこねぇのか」
「手が震えてるぜ…」
「…へっ、勘違いをするんじゃねぇ」
「こいつは…武者震いだッ!!」
彼はそう叫ぶと憤怒に満ちた表情のまま彼の懐へと向かっていった。
「だあっ!」
ブロッケン、ブロッケンマンに向かって上から下による袈裟懸の軌道で手刀を放つ。
それを受けて彼は片腕で手刀をガード、押し切る形で手刀を返した。
(キィンッ!!)
押し返されて少し後ろへ仰け反ったブロッケン。
しかし、何とか瞬時に体勢を整え再び彼に向っていく。
「やあっ!」
今度は水平の軌道を描きながら彼は手刀を繰り出した。
ブロッケンの手刀が徐々にブロッケンマンの横腹に近づいていく。
「……」
ブロッケンマン、その様子を見据えると今度は左の腕で自身の横腹をガード。ブロッケンの手刀を防いだ。
しかし一瞬、ガードしてない方のブロッケンマンの腕が外側へ行き、彼のスタンスが若干開いた。
スープレックス系の技が出せるチャンスである。
(今だッ…!)
ガシッ!
グウン…
「でりゃあああっ!!」
それをチャンスと見るや否や、ブロッケンはブロッケンマンの腹をガッチリと掴み、彼を頭から叩き落そうとした。
いわゆる“ジャーマンスープレックス”の体勢である。
「よし、ジャーマンスープレックスだッ!」
後方からテリーの言葉と共に「どよっ」と歓声が沸いた。
(ゴキンッ!)
しかし、ブロッケンの決死の掴み投げも空しく、関節が外れる音と一緒にブロッケンマンは掛けられていた腕から自身の体を外してしまった。
「ああくそっ!だめかあ…」
技の失敗に落胆するキン肉マン達。さっきまでの歓声が一瞬にしてやんだ。
(ぜえ…ぜえ…)
しかし、ブロッケンの方は外されたことに気づいていないようだ。スープレックスの体勢のままその状態を維持している。
それを空中で見たブロッケンマン。自身の膝を折りたたみ、膝を
「へへへ、お疲れかい」
(ドガッ!)
「ぐ、う…っ!」
ジャーマンスープレックスの体勢のまま体をのけぞらせていたのでブロッケンは彼のニードロップを彼の腹にそのまま受けてしまった。
(ドサッ!)
痛みでその場に倒れこむブロッケン。額からは滝のような汗が流れている。
「息子よ、矢継ぎ早に攻撃を出すもんじゃねえなぁ…」
「隙だらけだぜ」
倒れこむブロッケンを遠めに見ながらニヤリと笑うブロッケンマン。
正義超人の陣営、特にキン肉マンはその状況を見て歯噛みしていた。
「くそーっ!ブロッケンのやつ、気でも触れたのか!?」
「あんなやみくもに技を放っていては無駄に体力を消耗するだけじゃぞ!」
「いや…ブロッケンはあれでいい…」
リングロープにもたれかかりながらキン肉マンの言葉に入ったバッファローマン。
体中についた傷で体力をかなり消耗しているのか、彼の息は荒い。
「えっ、どういう事じゃ?」
「ブロッケンはいま、この状況でやみくもに技を放ちながらも突破口を見つけ出そうとしている」
「ついさっきの攻撃だって、掴み技を決めようとしたわけじゃない…手刀を放つ方向によってブロッケンマンのガードが甘くなる瞬間を見つけようとしていたんだ」
「あの時はブロッケンマンのスタンスが開いたから、スープレックスなどの掴み技を出すしかなかったが…状況によってはアイツの技を破るための大きな糸口となるかもしれない」
「どれだけブロッケンの体力が持つのかが心配だが…今の状況ではこの方法が一番得策だ」
「バッファローマン…」
「……」
(くそ…さっきはスタンスが開いたからつい反射的にスープレックスをかましちまった)
(ただ…親父は恐らく水平方向に技が来たとき、片腕でガードをすると反射的に片っぽの腕が外側にむいちまうんだ)
(前に稽古をつけてもらっていた時もそうだった…)
(ずいぶんと時間が空いちまってたから、親父の癖をまだ完全には把握しきれてないが)
(矢継ぎ早でもいい…俺は必ず親父の技を破る突破口を見つけてやる…!)
しばらく目をつむってから彼はもう一度ブロッケンマンの方へと向かっていった。
その後も、何度も彼はブロッケンマンにぶつかっていったが、なかなか突破口は見つけられそうになかった。どんな技を出してもガードされ、最終的には「A.A.戦法」によって返されてしまう。
しかしながらどこか、リングの上では一方的な試合展開となっているというわけでもなく、徐々にお互いの実力が拮抗していくというような感じであった。
しかし、あくまでブロッケンはブロッケンマンに技を返され、徐々に手数が少なくなっていっているというような状況にまで追い込まれており、体力の消耗も手伝って彼は徐々に追い込まれていった…
一方で残虐超人側はというと、今のところ有利なので、陣営側は余裕の表情かと思えば…そうでもなかったようだ。
「……」
ウォーズマンは訝しげな表情でブロッケンマンとブロッケンの戦いを見ている。
2人の戦い、特にブロッケンマンの戦う背う姿をみて違和感のようなものを覚えながら。
(おかしい…)
(おかしい…ぞ、今のこの状況だと俺達が断然有利のはず…)
(どんな技でも外せる技が出てきて、俺達の勝利はほぼ確定しているはずなんだ…)
(だが…なんだ?)
(この胸がざわつく、不穏な空気を予感させるような感覚は…?)
ウォーズマンがそう考えている一方でリングの上では2人がお互いに正面を向き合う形で対面している。ブロッケンマンの方はこの試合による外傷はほとんどないが、ブロッケンの方は父親の返し技によって全身傷だらけになっていた。
(ぜえ…ぜえ…)
体力の方も底をつきかけているのか、息を切らせるブロッケン。
よく見たら軍服の方もズタズタに切り裂かれている。
(バサッ…)
すると、何を考えたのか彼は軍服を脱ぎ、キン肉マン達の居る方へとそれを投げた。
父親と同じで、彼なりの本気モードを示した、という事だろうか?
「へへへ…おめぇにしちゃあなかなか攻めたんじゃねぇか?」
「だが、矢継ぎ早の攻撃はやがて底が尽きる。しかも早い段階でな」
「…確かに、俺の攻撃はもうあと一つしかねえ」
「…だが、俺はそれでいい」
「何だと?」
「一つしかねぇ、ってことは」
「そのことにすべてを賭けられるってことだからなッ!!」
「行くぞッ!!」
勢いよく向かってくるブロッケンに対しファイティングポーズをとるブロッケンマン。
そしてブロッケンは再び、恐らくはもう、何度もぶつけているであろう右片腕の手刀を最後の一振りと言わんばかりに全力で振り下ろした。
切っ先は縦方向。まるで剣道の面打ちを連想させるかのような軌道で彼は手刀を放った。
(キィン!)
しかしブロッケンマンはこの手刀をいわば「真剣白刃取り」の形で受け止め、すんでのところで回避。ダメージを受けることはなかった。
「うあっ、くそっ…」
「ああ…だめかぁ…」
落胆するキン肉マン達。最後の技が防がれた以上、もう正義超人側に打つ手はない、かと思われた。
しかし、そのときである。
(ギリギリ…)
「ぬああっ!」
ブロッケンマンの白刃取りよるガードがブロッケンの手刀による縦一閃によりこじ開けられた。
勢いでブロッケンマンの両腕が左右に開く。
「うあっ…!」
しまったとばかりに顔を引きつらせるブロッケンマン。威力の大きさに不意を打たれたのだろうか。
(そこだっ…!)
これがチャンスとばかりにブロッケン、まるで侍が刀を抜くような、居合術のようなポーズを取った。
「ブロッケンマン!」
リング外から叫ぶウォーズマン。
しかし、彼の声も一瞬でかき消されるぐらいにブロッケンの行動は迅速であった。
「今だッ!親父ィィィィーッ!!!」
(ズバァアアアッ!!)
その時、ブロッケンがブロッケンマンに向けて下から上へ袈裟斬りの軌道でベル赤を放った。
素早く出された刃にはわずかながら火柱がほとばしっていた…
果たして、彼の決死の攻撃は実を結んだのだろうか?
続く