スタジアム 場内
「今だッ!親父ィィィィーッ!!!!!」
(ズバァァァァッ!!!)
「ぐあああああっ!」
刃物の音と同時にブロッケンマンはブロッケンの居る反対方向へと大きく吹っ飛び、リングの上へと倒れこんだ。
「やったーっ!ブロッケンマンに手刀でダメージを与えたぞッ!!」
歓声を上げるキン肉マン達。音からしても今の攻撃は確実に刃が通った音だろう。
ドロ…
「ぐぐ…」
彼の上半身にはバッサリとブロッケンは刀傷をつけていた。
受けた際に多少仰け反ったのか出血はそこまで無いようだが、見た感じがシンプルで中々に惨たらしい。
「ああっ!!」
「む…胸に大きな傷が…」
ブロッケンマンの方を指さし、どよめくキン肉マン達。
しかし、それとは対称的にブロッケンマンは冷静であった。
「…へっ、なんてことはねぇ」
「ただ単に胸を傷つけただけじゃねぇか」
しかし、その冷静さの中にも少しだけ曇ったような言葉遣い。
少々焦っているのが素人目からでもわかった。
「ちょっとばかし俺の体に傷をつけたくらいで調子に乗るんじゃねぇ!」
「行くぜっ!」
そう言ってもう一度ブロッケンに向かっていくブロッケンマン。
それを受けて、もう一度ブロッケンはブロッケンマンに薙ぎ払う形で手刀を放った。
(キィンッ!)
そしてブロッケンマンはもう一度左手で彼の手刀をガード、再びガードしていない方のスタンスが開いた。
(そうだ…このスタンスだ!)
「行くぞッ!!」
(グウン…)
ブロッケン、ブロッケンマンの上半身を掴み、彼を頭から叩き落そうとした。
「ジ、ジャーマンスープレックスじゃ!」
「ばかなっ!あれはさっき“A.A.戦法”で破られたはず…」
「へへ!バカの一つ覚えみたいに同じ技を繰り出しやがって!」
「いいだろう!もう一度…」
彼がもう一度「A.A.戦法」を繰り出そうとした、その時…
「…?」
「なっ…なんだと…?」
「ぐっ…ぐああああっ!!」
ガッチリと技が決められていたのか何故かブロッケンマンは技から抜け出すことが出来なくなった。
(ドスン!)
ブロッケンマンは彼の放ったジャーマンスープレックスを、先ほどはA.A.戦法で抜けられていたはずの技をもろに受けた。
「ど、どういう事じゃ!ブロッケンマンの奴、さっきの関節外しが使えていないぞ!」
「どうだ親父、お望み通りその技を破る…もとい封じて見せたぜ」
「アンタの技はな、その技自体を破ることはほぼ不可能なんだ」
「ただ、技の使い手を何とかすれば活路は開いてくるってわけだ」
ブロッケンの技をひとしきり見ていたラーメンマン。
弟子の成長を一目見て何か思うところがあるのだろうか。そんな表情をしていた。
「ふふ…もしブロッケンがやられそうなら、この身を投げ出して何とか打開策を見つけ出そうと考えていたが」
「私の出番は…必要なかったみたいだな」
「ラーメンマン、それはちがうぜ…」
「アンタの技は、そして戦いは決して無駄なんかじゃなかった」
「見ろっ!あれをっ!」
そう言ってブロッケンが指さした先、そこには
ブロッケンマンの腹回りにある痛々しい古傷があった。
「ゲェッ!あ、あの胴体周りにある傷は…」
「恐らく、ラーメンマンがキャメルクラッチを放った時についた古傷だ…」
「関節を外す際に傷が多ければ、大きければ傷口が開いて技を出しにくくなる」
「おまけに、関節が外れるってことはその分皮膚も伸びるってことだから、傷の痛みも尋常じゃねぇ…むろんあの技における多用は禁物だ」
「ラーメンマン!アンタの戦いは決して無駄なんかじゃなかった!」
「アンタのキャメルクラッチでできた傷と、俺が付けた傷で親父の技を封じ込めたんだッ!!」
「ブ…ブロッケン」
「親父、これであの技はほぼ出せなくなったな…」
「これで形勢逆転だっ!」
「見せてやるぜ!俺たち正義超人の友情の力をッ!!」
「ぐっ…」
ブロッケンの言葉を受けて正義超人側では大歓声が上がった。
「行けるぞブロッケン!アイツらに私たちの力を見せてやるんじゃーっ!」
その一方でバッファローマンとテリーは静かにリングの方を見据えていた。
「見ろよバッファローマン、お前の親友は大したもんだな」
「一人で、しかもあんな短時間で禁断の技を破って見せたんだぜ」
「すごいよ…本当に…」
そういったテリーの瞼には少しばかり水が溜まっていた。
しかしながら、肝心のバッファローマンからの返事はない。
「バッファローマン?」
テリーがバッファローマンの肩に手を置こうとしたその時、バッファローマンの体が大きくぐらついた。
「お、おいっ!バッファローマン!大丈夫かっ!!」
ぐらつく体を何とか抑え、元の体勢へと立て直すテリー。
しかしほっとしたのもつかの間、彼はバッファローマンが置かれている状況に愕然とすることになる。
「!!」
「う…うぐぐ…」
よく見ると胸にあった「×(ぺケ)」の傷口から赤い液体が染み出ていた。
まぎれもなく出血である。しかも少量ではない、傷口全体からの出血であった。
また、出血に相まって表情の方もかなり青ざめており、早急な処置が必要な状態である。
「どうしたんじゃテリー!バッファローマンがどうかしたのか!」
「いかん…!かなり出血がひどい状態だ」
「今すぐにでも替えの包帯が必要だぞ…!」
バッファローマンの状況を見て青ざめるテリー。
「何じゃと!?ええと…どこかに包帯かなんかは…!」
バッファローマンの緊急事態に慌てふためくキン肉マン。
「落ち着けキン肉マン!確かここはスタジアムだろう!」
「医務室かそれに代わる何かがあるはずだッ!!」
「そこに医薬品や包帯がないか?」
キン肉マンを落ち着かせつつ今の状況に冷静に対応するロビン。
ここで正義超人のリーダーとしての能力が発揮されている。
「いや…わからないぞ。なにせここはしばらくの間誰にも使われていないらしい」
「医務室もあるにはあるんだが、備品も相当古くなってるはずだから使えるかどうか…」
ロビンの質問を受けて渋い顔をするテリー。
確かに、もう何年も使われていなければスタジアムの備品も古くなっているか回収されているはずなのでどのみち使えなさそうである。
「いや…心配にはおよばない」
「仮に、誰にも使われてなかったとしてもここの建物を管理してる人がいるらしくて」
「その人に派遣されてちょくちょく点検に来る人がいるみたいだから、もしかしたら医務室にも新しい包帯があるかもしれん!」
ラーメンマンは息を切らしながらリングの上でロープにもたれかかり、ロビンたちに向けて言った。
「よし!それなら私が行ってこよう!」
「ああ!頼むキン肉マン!」
そう言ってキン肉マンはスタジアムの出口へと走っていった。
そこからすぐに廊下へと出て、早急に医務室へと向かう。
(くそ…待ってろよバッファローマン!)
(必ず私が…)
「ん?」
しかし、キン肉マンが医務室へ向かう途中、スタジアムの入り口付近に2人ほど倒れこんでいるのが見えた。
一人は巨体で、顔にメイプルリーフの紋章、もう一人はラグビー選手のような見た目…
正体が誰なのかは目に見えて明らかだった。
「あ…あああーっ!!」
「カ…カナディアンマン!スペシャルマン…みんな一体どうしたんだ!?」
「お…おう…キン肉マンか」
弱々しい声でキン肉マンの呼びかけに応えるカナディアンマン。
「ち…ちょっと観客が暴徒と化しちまっててな」
「何とか抑えて、いま全員帰ってもらったってとこだ」
傷だらけの体を起こしながらキン肉マンに報告をするカナディアンマン。
観客が帰り、それに伴って超人全員にも帰ってもらったというような感じなのだろうか。
「すまない…まさかそんなことになっていたとは」
「私たちがもっと早く気づいていれば…」
歯を食いしばり、下を向いて吐き出すように言ったキン肉マン。
彼は責任を感じているものの、外もそうだが中の方も決して試合進行が一方通行とはいかなかったので外の方に目が行かないのも致し方ないことではあるのだが…
正義感の強い彼ゆえにやはり責任を感じてしまうところがあるのだろう。
「そ、それよりどうしたんだ?えらく血相を抱えていたが…」
「もう試合は終わったのか…?」
片膝を付きながらカナディアンマンはキン肉マンに中のことについて問うた。
その質問にキン肉マンは目を見開き、慌てた様子で
「ああ、そうじゃ!早く医務室に行かないとバッファローマンが…」
「バッファローマン…?バッファローマンがどうかしたのか?」
「バッファローマンが試合中に倒れたんだ!出血がひどくて今から止血のために医務室へ包帯を取りに行こうとして…」
「な、なに!?それは大変だ!」
キン肉マンの会話を最後まで聞かず、食い気味に言葉を返すカナディ。
かなり焦っているのか表情の方も焦燥の色が見えた。
「早く医務室へ行くんだっ!」
早く医務室へと行くことを急かすカナディだったが、キン肉マンの方は2人のことも心配なのか
「し、しかしお前たちも…」
「俺達のことは気にするなっ!緊急事態なんだろ!」
「俺達は後でそっちに向かうから心配しないでくれっ!!」
「わ…わかった」
「んじゃ、お前たちも早く医務室に来てくれよっ!」
「ああ、わかってるって」
そう言ってカナディアンマン達はキン肉マンを見送った。
その後、2人の間には一瞬の間沈黙の時が流れた…
「……」
「…大丈夫か?スペシャルマン」
「うん。ボクの方は大丈夫だよ」
「むしろカナディアンマン、きみは大丈夫なの?」
「俺は…なんとかな…へへ」
「…それにしてもカナディ、君すごかったよ」
「あの時、カナディアンマンは先陣を切って観客に向かっていったんだ…」
「それに比べたらぼくなんて…」
「へへ、俺だってあの時アイツが…」
「バ…バッファローマンがいなかったら多分この壁を守ることはできていなかった」
「アイツには…感謝しねぇとな」
カナディアンマンの脳裏にはバッファローマンの勇姿が思い出される…
「いーれーろ!いーれーろ!」
「ぐう…っ!これはきついぞ!」
「カ…カナディ…!」
何とかスタジアムに入ろうと押しかける観客、そしてそれを押し返そうと必死になっている超人達。
スタジアムの外は言うまでもなく最悪の状況だった。
「ぐっ…だめだ…もう」
その時である。
「お、おい!あれ…バッファローマンじゃないか!?」
スタジアムの門にひっそりと佇む黒い影。
巨大な体躯に、二本の大きな角…
影の正体は明らかだった。
「本当だ!バッファローマンだ!」
「あ、アイツ一体何で包帯なんかしてやがるんだ?」
口々にバッファローマンの登場を騒ぎ立てる観客たち。
突然のヒーローの登場に正義超人たちは驚きを隠せなかった。
「えっ…?」
「カナディ…バッファローマンって」
「あ、ああ…確かバッファローマンはブロッケンマンの攻撃を受けて昏睡状態になってたはずじゃあ」
「……」
観客がスタジアムに強引に入り込もうとする姿を見て、沈黙するバッファローマン。
一体彼は何を考えているのだろうか?
「なあ聞いてくれよ!いったいどうなってるんだっ!?」
「なんかブロッケンマンとかいうやつが果たし状みてぇな放送をしてたからここに来たんだが…」
「だけど妙なのよ!何でか知らないけど超人たちがスタジアムの前を通せんぼしてて入れてくれないのよ!」
「どういうことか説明してくれよ!バッファローマン!」
口々に観客たちがバッファローマンに向けて騒ぎ立て、抗議の声を上げていた。
それを受けて、少し時間が空いたのち、彼は固く閉ざしていた口を開いた。
「み、みんな…ちょっと待つんだ」
「スタジアムに乗り込むのは…やめておいた方が良い」
「ブロッケン達がいま戦っている相手は、主力級の超人を何人も葬っている鬼人だ…」
「下手をしたら観客であるみんなにまで被害が及んでしまうかもしれない」
「それでもいいじゃねぇか!俺達はその覚悟で戦いを見にきたんだ!」
「そうよ!私たちはそんな戦いを見られるなら死んでも構わないわ!」
「そうだそうだ!」
「いーれーろ!いーれーろ!」
「ぐっ…この…」
カナディアンマンが顔をしかめ
「おい…お前ら…!」
叫ぼうとしたその時、
「いい加減にしろ-ッ!!」
彼よりも早く、この状況にしびれを切らした超人がいた。
紛れもなく、バッファローマンである。
(ぜえ…ぜえ…)
「し…死んでもいいなんて軽々しく口にするもんじゃねぇ…」
「まだわからねぇのか!これはもう観客であるアンタらが介入していい問題じゃねぇんだッ!!」
そして彼は何を考えたのか、上半身に巻いていた包帯をほどくと
「こいつを見ろッ!!」
「う…うぐっ…!」
「な、なんだあれは…!」
包帯の下にあったのは彼がブロッケンマンと戦った際に受けた傷。
あの「×(ぺケ)」の形をした傷だった。
「こいつは“そいつ”と戦った時にできた傷だ」
「もし今の試合に入ったら、下手をしたら観客であるアンタらまでこうなってしまうんだっ!」
「それを防ぐために戦っているのに、観客であるアンタらが入ってきたら元も子もねぇじゃねえかーっ!」
「戦況はあとでマスコミを介して伝えさせるッ!だから…だから今は」
「アイツらのことを、影ながら見守ってやってくれーっ!!」
「バ…バッファローマン」
「……」
バッファローマンの言葉を受けて沈黙する観客たち。
(スッ…)
すると、とある観客の一人が後ろを向き、静かに去っていった。
そしてそれに呼応するように一人、また一人と観客たちは続々と静かに去っていった。
不満そうな表情を浮かべる者、納得した表情を浮かべる者、様々な表情を浮かべながら彼らは去っていったのだった…
「あ、ありがとう。バッファローマン」
「で、でもバッファローマン。その傷は…」
「ああ、これくらいはなんともねぇよ」
「気にすんな」
「そ、そうか…」
「じゃあな。行ってくるぜ」
「バ…バッファローマン」
「ん?」
「た…頼んだぜ」
「…おう、任せとけ」
カナディアンマンとスペシャルマンの頼みを受けてスタジアムの中へと入っていったバッファローマン。
しかし、実はその時バッファローマンは包帯を外したことによりふさがっていた傷口が開き、再び出血していたことを本人も、その周りにいた人たちも気づくことはなかった。
恐らくだが、先ほどバッファローマンが倒れたのはその再び開いた傷口が原因ではないかと考えられる。
「バ…バッファローマンがいなかったら、たぶん壁を守ることはできていなかった」
「そうだね…イテテ」
「大丈夫か?スペシャルマン」
「サポーターにひびが入ってるぜ」
スペシャルマンの肩に付けているサポーターを指さし、心配そうに見るカナディアンマン。
「へへ…そう言うカナディだって、顔に付けてるメイプルリーフの先っちょが折れてるじゃないか」
「あ、やべぇ。俺のトレードマークが…」
「くっつくかなあ」
「医務室にボンドがあるといいね…」
お互いに傷がついた場所を触りながら顔を見合わせる2人。
様々な思惑が動く中、試合は進行していくのであった…
続く