最後の残虐   作:ぴえろー

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最後の残虐第22話です。ブロッケンに残虐超人の精神をバカにされたウォーズマンは残虐超人としての姿勢を証明するため、久々に彼の代名詞である”ウォーズマンスマイル”を出した。果たしてブロッケンはこの状態の彼に勝つ術はあるのか?



第二十二話「報復は、ない」

スタジアム 場内

 

かつて第20回超人オリンピックが行われていたスタジアムで行われている正義超人と残虐超人との試合。

現在行われているブロッケンとウォーズマンの戦いは、残虐超人側に軍配が上がっていた。

 

(キィンッ!!)

 

「ぐっ…」

 

リング上でブロッケンの手刀とウォーズマンのベアクローが交わる。

しかし、その光景は決して対等ではなく、優劣のある鍔迫り合いだった。

ブロッケンの方は最初のころと違い、明らかに手刀のキレがない。それは心の迷いなどではなく、長期戦の疲弊によるものであった。

 

「ブロッケン!」

 

彼が追い込まれるのを危惧したのか反射的に叫んだラーメンマン。

しかし、その叫びをあざ笑うかのように事態はさらに悪化していく。

 

(ズバッ!!)

 

ベアクローを受け、よろけるブロッケン。

額にはベアクローで受けたであろう傷がついていた。

 

「ぐっ…はあっ…はあっ…」

 

(ドサッ!!)

 

片膝を付き、その場に倒れるブロッケン。

その様子はもう、先ほどまでの勢いはない。

彼の体は明らかに疲弊の色を見せていた。まるで水を吸った花が再び枯れてしまうかのように。

 

「どうしたんじゃブロッケンのやつ!さっきまであれほど勢いを見せていたではないか!」

「なぜ今になって片膝を付いているんだ!立てッ!立つんじゃーっ!!」

 

「いや…キン肉マン。それは無理というものだ」

 

キン肉マンの叫びに対して静かな面持ちで彼を諫めるロビン。

このような状況になるのは仕方がない、といった諦観の色も、彼の言動には見えている。

 

「いままでの連戦の疲れが来ている。アイツは手負いであるラーメンマンの代わりになろうと必死で戦っていた」

「その疲れが今、この場面になってきたんだ」

 

「そんな…」

 

ロビンの答えに青ざめるキン肉マン。

しかし、外野がそんな状況の中でもリングの中では淡々と時は進んでいく。

片膝を付き、息を切らしているブロッケンに対し、まるであざ笑っているかのように彼を見下ろすウォーズマン。

前回、本気を出す証として出した“ウォーズマンスマイル”を出したまま…

 

「ふっ、どうした?」

「随分とお疲れのようだが」

 

「くっ…!」

 

(ぜえ…ぜえ…)

 

「無理もないな。前半はラーメンマンとの戦いを見ていることが多かったから体力もそれなりにあったんだろうが」

「ラーメンマンが俺達のタッグ技を受けかけた後に関しては、実質おまえ一人で戦っているような状態だったからな」

 

ウォーズマンは畳みかけるようにしてさらに言葉を重ねる。

 

「だが、俺たち残虐超人はそんな奴でも容赦はしない」

「どんなに攻撃を受けて弱っている獲物でも容赦なく狩る、それが俺たちの鉄の掟」

「そうじゃなかったか?ブロッケン」

 

そういって目を光らせるウォーズマン。スマイルの状態であることも彼の言動に狂気を持たせていることに一役買っていた。

 

「くっ…」

 

(こいつ…本当にどうしちまったんだ)

(ウォーズマンは元々“正義超人”(こっち)側の超人だったはずなんだ)

(紆余曲折あったけど、最終的にはキン肉マンを中心にこの世界を守っていこうと誓い合った)

(それが、どうしたってんだ…)

(“正義”より守るものが出来た、とか、親父の考え方に賛同するようなことを言ったりとか…)

(今までのアイツとは決定的に何かが違う…!)

 

片膝を付いたまま、彼はウォーズマンの方を見て背筋を凍らせた。

それは目の前にある光景に対する恐怖ではなく、バックにある何か大きなものに対する恐怖であった。

前回ウォーズマンが言っていた“底なしの残虐”が今、彼の目の前にいるのである。

しかし、彼はその恐怖と同時に別のなにかを感じていた。

 

(だが…何かが変だ)

(いや、強いことには変わりないんだが…この底なしの恐怖には何か別な原因があるように思える)

(力は、関係ないな…)

(そうだ…問題はアイツの“戦う姿勢”だ)

(自分のために戦っているというよりも、何かを“手助け”しているように思える…)

 

下を向き、今の状況を分析するブロッケン。

彼の顎には汗がしたたり落ちており、リングの上には小さな水たまりが出来ていた。

 

(一体何だって言うんだ…?)

 

しかし、彼の思索も長くは続かなかった。

それを遮るようにしてウォーズマンがベアクローを構えながら話しかけてきたからである。

 

「どうだ?これでも“純粋な残虐”は弱いとでも言うか?」

 

ウォーズマンは依然として表情を変えない。

彼の残虐性を象徴する仮面の表情“ウォーズマンスマイル”…

しかし、その表情にもブロッケンは毅然とした態度でいた。

 

「へっ…調子に乗るんじゃねえ」

「ちょっと疲れただけだぜ…俺はまだ、負けたわけじゃねえ」

 

「……」(コーホー…)

 

ウォーズマンは彼特有の息使いをした。

ブロッケンの返答に彼が何を考えているのかは、やはり素性が仮面の下にあるのでわからない。

ブロッケンはさらに言葉を続ける。

 

「それに…俺は“残虐の精神”を捨てちゃいねぇさ」

「ガキん頃から教えられてきたことをそう簡単に捨てられるかってんだ」

 

ブロッケンは彼の方を見て真剣な表情で言う。

顔は疲弊の色が隠せていないのか、少々血色が悪かった。

 

「……」

 

「だがよ…お前らみたいな、弱った相手でも“徹底的に痛めつける”って考え方が気に入らねぇ」

「徹底的に痛めつけたところで何が残る?…痛めつけられた報復にまた、争いを生むだけじゃねえのか」

「無意味だぜ…そんなの」

 

「……」

 

彼の言葉を受けて空けていた口を静かに閉じるウォーズマン。

解除したというより、考えるために閉口したといったような感じである。

 

(コーホー…)

 

結構長い時間考えていただろうか、数分ほど彼は沈黙を守っていた。

しかし、それにしびれを切らしたブロッケンは彼に話しかける。

 

「おい、何とか言ったらどうなんだ?」

 

「…報復は、ない」

 

「んだと?」

 

「よく考えてみろ、俺達がいったいなぜ戦いで傷つき、弱った超人をも倒すと思う?」

「答えは単純明確、戦いにおいて“勝者”は常に一人だからだ」

「それはタッグバトルでも同じこと。2人束になって掛かってきたとしても俺たち“残虐超人”が勝てば勝利したことになる」

「勝って殲滅…報復という概念なぞ、初めからないのだ」

 

長い沈黙の末、ウォーズマンの口から出てきた答え…それは彼らなりの“残虐精神”に対する姿勢だった。殺害対象に勝利すれば報復はない、残虐超人にとって勝利とはすなわち抹殺(エリミネート)を意味するから。

殺せば報復なし…何とも残酷な思考回路だった。

 

「ぐっ…!」

 

彼の答えを聞いてブロッケンは額に汗を垂らした。そして徐々に額から血の気が引いていく。

彼自身も幼いころから教えられてきたことだったから、ある程度この姿勢のことは知っていたのだろう。

だが、こんなにも残虐超人としての精神を順当に守っている超人をこの目で見たことは今の今まで一度も見たことはなかった。

そして今、この姿勢を遵守している超人が目の前に現れた。そしてそれが、かつて自分と共に戦っていた正義超人の仲間の中に、そして自分の父親という身近な存在が有していたのである。

彼は拳を握りしめ、歯を食いしばった。

 

(コーホー…)

 

「…どうやら、話し合っても無駄みてぇだな」

 

「ふん、そんなもの…初めからねえよ」

「俺達の目的は“超人狩り”。あくまでお前たちを倒すことなんだからな」

後ろからブロッケンマンが水を差すように彼の言葉に答えた。

残虐精神の底知れぬ恐怖という冷たい冷気が正義超人、もといブロッケンの体を包み込んだ。

 

「ぐぐ…」

 

「……」

 

その様子を傍から見ていたロビンとキン肉マン。

なお、テリーはあの後ロビンに説得され、バッファローマンを医務室へと連れていったため現段階ではこの場にいない。

 

「……」

 

キン肉マンは彼らの言葉を聞いて青ざめていた。いつもは饒舌な彼だが、恐らく残虐超人に関する本物の恐怖というものに直面し、言葉が出ないでいるのだと考えられる。

人は、いや超人は本当の恐怖を目にしたときには言葉が出ないもの。その恐怖が目前にあるのだから言葉が出ないのは当然のことなのだ。

しかし、それとは対称的にロビンの方は恐怖でただ黙っているというわけではなかった。

なにか腑に落ちない点がある…彼の表情はそんな感じだった。

 

「…妙だ」

 

しばらくの間沈黙を守っていたロビンが口を開く。

その言葉に驚いたのか、上ずった声でキン肉マンは彼の言葉に反応した。

 

「な、なんじゃと?」

 

「いや、さっきまでずっと感じていたんだが…うむ」

 

「そういえばロビン、お前さっきから様子が変じゃぞ?」

「何か言いかけたかと思えば何でもないと言ってみたり…一体どうしたんじゃ?」

 

彼は一息ついた後、自身が考えていることを手短にキン肉マンに伝えた。

 

「…ウォーズマンの様子がおかしい」

 

「な、なんじゃと?」

 

ロビンの言葉に驚いたキン肉マン。

彼は言葉の意味をロビンに尋ねる。

 

「ど、どういうことじゃ?機械の部分に故障があったとか、そういうことか?」

 

「いや、機械の故障とかじゃないんだ。なんだか…」

「何だか戦い方に違和感があるんだ」

「何というか…何かしらの"手助け"をしているような」

「それはたぶん、近場で戦っているブロッケンにも何となく感じ取れていることだと思う…」

 

「て、手助けじゃと?」

 

ロビンの返答に素っ頓狂な声を上げたキン肉マンだったがすぐに思い直し、ロビンの答えに反論する。

 

「…ロビン、それは当たり前ではないのか?」

「ウォーズマンとブロッケンマンはタッグパートナーじゃ。“個”を重視するとは言っても、タッグバトルではある程度協力しなきゃいかん部分もある」

「戦いのルールなんじゃからそう見えて当たり前ではないのか?」

 

しかし、キン肉マンの反論に彼は首を横に振り

 

「いや、ルールのことじゃないんだ」

「何かこう…別の理由があるように思える」

 

「なんじゃぁ?おかしなロビンじゃのう」

「私にはさっぱりわからんがな…」

 

胡坐をかき頭をポリポリ掻くキン肉マンを尻目に、ロビンは視線をリングの上にやった。

依然としてウォーズマンはブロッケンを見下ろしたようにして立っている。

 

(ウォーズマン…お前)

(一体何を考えている…?)

 

ロビンがさっきから感じている違和感…私たちからはパッと見わからないが

師弟関係にある、同じ残虐超人同士、何か感じる部分があるのだろうか。

 

(……)

 

ロビンたちの思惑も知るはずもなく、じっとブロッケンの方を見るウォーズマン。

彼の前に悠然と立つその姿には気高さというよりも、凍り付いた精神を持つ殺人マシーンとしての冷たさを感じるものだった。

しかしその様相とは裏腹に、表情は優越に浸ったものではなく、多少の焦りの色が見えた。

額に汗を垂らし、なにかに追い込まれているような…そんな表情なのである。

彼は自分の目の前に握りこぶしを作り、じっとそれを見た。

 

(すまない、ブロッケン…)

(俺は…)

(俺は…やらなきゃいけない)

(ブロッケンマン…!アンタを)

(アンタを、必ず“生かさなく”っちゃならないんだッ!!)

 

意味深な彼の言葉、果たしてこの言葉が意味することとは?

スタジアムの上ではランプがゆらりと揺らめいていた…

 

                続く

 

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