両陣営ともに疲弊の色が隠せないこの状況の中、この泥沼のような状況を打開しようとロビンが残虐超人陣営の元へと向かうが…?
果たしてロビンの行動が一体リングにどのような事態を招くのだろうか?
ステージ 場内
「……」
「おい、なんだよ。さっきから黙りこくっちまってさ」
「まだ試合終了のゴングは鳴ってねぇぞ」
長い沈黙にしびれを切らしたのかブロッケンはウォーズマンに話しかける。
ちなみに、彼は再び立ち上がっており、ある程度息を整えた上で彼に話しかけていた。
「……」
彼の質問を受け、沈黙するウォーズマン。
それから一時の間を置き、彼は静かに口を開く。
「俺は、やらなきゃいけない」
「…えっ?」
その時、不意に彼の目が光った。
「俺は…!俺はッ!!」
「お前たちに、勝たなくちゃいけないんだッ!」
(ベシィ!)
ウォーズマンの攻撃に完全に面食らったブロッケン。
彼の手刀をもろに受けてしまう。
(うぐぅっ!!)
(ドガッ!ペシッ!ゴツッ!)
「うあああああっ!!」
(がっ…!ぐあっ…!)
体を打ち付ける鈍い音、そしてその発生源から聞こえてくる苦痛の声…
手刀の雨あられがブロッケンの体をつんざいていく。
「み…乱れ撃ちだ!手刀の乱れ撃ち」
「さっきのラーメンマンと同じ手を使うつもりかっ!?」
口々に叫ぶロビンとキン肉マン。
その叫びに割って入るかのようにラーメンマンが冷静に今の状況を分析する。
「いや…違う」
「技の発生具合から、次に何かを放つ布石を打っているようには見えない」
「…恐らく感情をぶつけるために技を出しているのだろう」
この戦いに至るまでの経緯を思い出し、決意という精神的支柱を元にブロッケンへ技を出しているウォーズマン。
感情的になっているということは、恐らく彼は自身が持つ友を守るという重責と、そのためにかつての仲間と戦わなくてはならなくなったという葛藤を抱えていることに対して焦燥を感じているのだろうか。
本人のみがその事実を知っているだけに、彼の心中は筆舌に尽くしがたいものとなっていた。
「じゃがウォーズマンのやつ、一体いつの間にあんな技を…?」
「あやつの技の中に手刀を取り入れたものはなかったはずなんじゃが…」
何かに気づいたのか、キン肉マンがあっけにとられた様子でリングを見つめている。
「ま、まてよ…あれ」
「ブロッケンがいつもやっている手刀の“型”と似てないか…?」
震えながらウォーズマンの方を指さすキン肉マン。
呆然とこの様子を見ていた彼らに衝撃の風が吹きすさぶ。
そう、まさに彼がやってるのはブロッケン一族に伝わる必殺技“ベルリンの赤い雨”であった。
「ほ…本当だ…!ウォーズマンがやっているのは、まさしく“ベルリンの赤い雨”だ…!」
信じられないというような表情でリングを見つめるラーメンマン。
振りかぶるような動作、まっすぐに伸びた手刀、そして弧を描くような軌道…
彼が放っている技は“ベルリンの赤い雨”そのものだった。
ただ、この技は本家ではないのでもちろん切り裂くような威力はない。
しかし、コンピュータがデータをはじき出しているのか、人体における急所すべてを手刀によってとらえることができていた。
打ち出される一手一手が徐々にブロッケンをグロッキーにさせていく。
(うぐ…うう…)
「いかん!ブロッケンが青ざめてきやがった!」
(切り裂くほどの威力はないものの、やはりあれはいつもブロッケンがやっている手刀の型だ)
(まさかブロッケンマンのやつ、ウォーズマンに自分の技を教え込んだというのか…?)
「くそっ…!」
そう考えながらブロッケンマンの方を見るラーメンマン。
しかし、彼の方は無表情でいまいち何を考えているのかよくわからない。
状況的には残虐超人側が有利な状況であるにも関わらず、である。
その状況を見るに耐えかねたのか、ラーメンマンは傷だらけの体を起こし、彼のフォローに入ろうとした。
(ダンッ!)
しかし、技を使っていた本人もどうやらリスクなし、というわけにはいかなかったようだ。
表情こそ変わらぬものの、息切れが少し目立ち始めていたのである。
(はあ…はあ…)
「ぐあっ…!」
(ドサッ!)
ブロッケンが乱れ撃ちに耐え切れず倒れたと同時に、ウォーズマンも片膝をついた。
彼の肩からは少し煙が出ている。
「ああっ!両方とも倒れたぞッ!」
「だ…大丈夫かブロッケン!」
フォローに入ろうとした勢いで彼のもとへと駆け寄ったラーメンマン。
しかし、ブロッケンは右手を左右に振り
「へへ…問題ねぇよ。心配ないぜ、ラーメンマン」
「ちょっと不意を打たれちまっただけさ。じきに痛みは治まる」
ラーメンマンに自身の体が問題ないことを伝えた。
一方で、片膝をついたウォーズマンの方は
「くそっ!少々コンピュータを使いすぎちまったか…」
「熱がこもってやがる…」
どうやら手刀を放つと同時にコンピュータを酷使していたようで、体の中で熱を発しているようだ。
今のところ体に異常はなさそうだが、先ほども言ったように、肩から少し煙が噴き出しているのが気になるところ。
しかし、そんな様子のウォーズマンをよそに、ブロッケンマンは不敵に笑っている。
「へへ…やっぱり難しいか」
「その技はブロッケン一族が何世代もかけて作り上げてきたものだ。一か月やそこらでマスターできるようなシロモンじゃねえ」
「ま…型が出来ただけでも儲けモンだぜ。やるな、ウォーズマン」
「へへ…ありがとうよ、ブロッケンマン」
やはりこの言動からすると彼はこの一か月の間、もとい数週間の間でウォーズマンに“ベルリンの赤い雨”を教えていたのだろうか。
それか、彼に教えていなかったとしても、障りの部分だけ教えているということは十分に考えることができる。
「まっ…その代償にちょっと、体力を使っちまったみてぇだがな」
「へっ、弱気なことを言うない、てめぇはロボ超人じゃねぇか」
「体力もちょいと頭を絞れば何とかなるみてぇだしよ。工夫次第ではうまい立ち回りができるんじゃねえか?」
「だが、煙が出てるのは少しいただけねえな…」
「疲れてるみてぇだし、交代するか?」
「あ、ああ…でも、まだ大丈夫だ」
「ちょっと煙が出てるくらいじゃ、まだまだ戦えるぜ」
「そうか?…ならいいんだが」
「おっ…ブロッケンマンとウォーズマンが何か話し込んでいるぞ?」
「一体何を話し込んでおるのかのう…なあロビン?」
不思議そうにリングの反対側を見つめるキン肉マン。
しかし、反対側にいた超人は沈黙を決め込んでいた。
「ロビン、ロビン?」
「なんじゃあ、聞いとるんじゃから答えるくらいせんかい!」
「一体どうし…」
彼の言葉を聞いても全く反応しないロビン。
何かを思い詰めているようにも見える。
「……」
(ダッ!!)
次の瞬間、彼はウォーズマンたちのいるリングの反対側に向かって走り始めた。
「ああ、おい!どうしたんじゃロビン!」
キン肉マンの言葉が聞こえたのか2人は一斉に声のする方へと体を向けた。
「ん?おいあれ、ロビンマスクじゃねぇのか?」
「なんで俺たちのいる方へ向かってきてんだ?」
「……」
ブロッケンマンの言葉に無反応のウォーズマン。
そうこうしているうちに、ロビンはリングの反対側へとたどり着いた。
(はあ…はあ…)
リングの上と下で相対する二人。
息切れしているロビンと肩から少しだけ煙が出ているウォーズマンの2人が現在の体力の指針を示しているようで何とも対象的だ。
「ウォーズマン…」
「…なんだ、ロビン」
ロビンは一息ついて彼に尋ねた。
「お前…」
「一体何を、隠している…?」
「…?」
彼の言葉に一瞬不思議そうな顔をしたウォーズマン。
しかし、彼はすぐにその言動の意味を察知したのか表情を立て直し、毅然とした態度でロビンに言い放つ。
「…何のことだ。俺はアンタらを倒すためにこの場所へ来た」
「それ以外に意味はない」
「……」
彼の言葉を受けてしばらく沈黙するロビン。
しばらく考えた後、彼は静かに口を開いた。
「…お前は、いつもそうだ」
「厳しくしていた頃の名残が残っているのか、私に悩みを話してくれない」
「もしかしたら…お前が離反したのも私とお前の信頼関係が、ラーメンマンとブロッケンほど強固ではなかったからなのかもしれない」
リング上にいるウォーズマンに向けてまっすぐな目で彼に訴えかけるロビン。
彼は今まで自身の野望のため弟子に厳しく当たっていたこと、そして今回、それが災いし彼の正義超人離反へとつながってしまったのではないかと考えていたのだ。
今までその心の傷を癒すことをしなかった自分が不甲斐ない…彼の言葉からはそのような感情が伝わってきた。
「自身の野望を達成するという身勝手な理由のために、お前の心を傷つけてしまっていた…!」
「もしそうだとしたら、私は今までそのことに気づくことなくお前に接していたことが一体どんなに愚かだったことか…」
「今更こんなことを言うのもぶしつけかもしれない!だが、私は正義超人の一人として、お前の師匠として聞きたいことがあるんだっ!!」
ロビンは一息ついて叫ぶ。
「お願いだッ!私に話してくれッ!!」
「一体なぜおまえは…」
「うるさいっ!今は試合中だ!」
「部外者が話しかけてくるんじゃねえよ!とっとと消えるか、そこでおとなしく観戦しててくれ!」
しかし、そんな彼の訴えもむなしく、ウォーズマンはロビンを突っぱねた。
ロビンは師弟関係のもつれ、ウォーズマンは友を守ることへの重責と裏切りへの葛藤…
傍から見ればこの光景、お互いの気持ちにすれ違いが生じており、あまりにも見るに忍びない光景だった。
「ウ…ウォーズマン…」
一歩下がり、絶望に打ちひしがれたロビン。
それに追い打ちをかけるように、ブロッケンマンが2人に間に割って入った。
「おい、アンタ…確かロビンマスクとかいったな」
「何を物申したいのか知らねえが…あんまし試合中にファイターの心中を乱すようなことをするべきじゃねぇな」
「うっ…」
ロビンは敵であるブロッケンマンに正論を言われたこともあってか、少し焦っていた。
無理もない話だが、今のロビンは弟子の裏切りに対してかなり動揺している状態なのだ。
普段の冷静な判断で多くの若手超人を先導していくあのロビンの姿はどこにも見当たらない。
「だが、私はあきらめるわけにはいかない…!」
「仮にお前が操られていたとしても…私はお前を正義超人の一人として必ず連れ戻して見せるっ!!」
しかし、この一言がいけなかった。
ロビンはウォーズマンを説得しようと焦るあまり、軽はずみな一言を口にしてしまったのである。
「そうだ…!ウォーズマンお前…」
「もしかして、親父に騙されてるんじゃねぇのか…?」
それに反応するように、ブロッケンが後ろからウォーズマンに疑問をぶつけた。
「えっ?」
「なっ…!」
場内は一瞬にして張り詰めたような空気になった。
こうなってしまうとどんなに優秀なストッパーがいたとしても、歯止めが利かない。
流れるように事態は深刻さを増していく。
「まずい…!事態が変な方向へ…」
リングの上で青ざめるラーメンマン。
早く収集を付けねばと3人の話に割って入るが…
「おいブロッケン!お前…」
「ち、ちょっと待ってくれ!俺は別にブロッケンマンに騙されてるわけじゃ」
しかし、事はそう簡単に収まるはずもなく、彼らの言い争いはさらに加速していく。
「へっ、わかんねえぜ。さっきロビンが言ってたように、ウォーズマンとはあんまり信頼関係ができてなかったんだろ?」
「その部分を突かれて、師匠の座を乗っ取られちまったなんてことは十分に考えられるじゃねえか!」
「“純粋な残虐超人”がやりそうなことだぜ」
「なんだと…!」
ブロッケンの言葉を受けて強くこぶしを握り、怒りをあらわにするウォーズマン。
恐らく、ブロッケンの方もかなり感情的になっているのだろう。言葉の端々に荒々しさを感じ取ることができた。
「やめろブロッケン!とりあえずいったん落ち着くんだっ!!」
(ガシィッ!)
彼の言動を何とか止めようとするラーメンマン。
彼の後ろから羽交い絞めにし、何とか彼の物理的な行動を制止させる。
「放せよラーメンマン!あいつらを庇うつもりなのか!?」
「違う!今のお前は感情的になりすぎている…!」
「そのことが原因で試合が止まってるんだ!それがわからないのかっ!!」
「放せっ!放せぇっ!!」
しかし、ラーメンマンの制止も空しく、彼の羽交い絞めを何とかはがそうとするブロッケン。
その最中、彼は悔し紛れに自身の父親に対して捨て台詞のようなことを言い放った。
「ちくしょう…!どうせ親父は生粋の残虐超人!」
「勝つためなら何でもする、不意打ちの凶器攻撃だろうが毒ガス攻撃だろうがお構いなしの残虐超人なんだぜ!!」
「俺たちの仲間を操ることになんか躊躇するわけねぇじゃねえかっ!!」
「やめろ、ブロッケン…!」
「それ以上…それ以上は言うんじゃない!」
しかし、もう彼を止めることができる者は誰もいなかった。
ブロッケンは父親の前でとんでもないことを言い出してしまう。
「リングの上で死ねるなら本望って言ってたくせに、ラーメンマンへの復讐のためわざわざ生き返ってきてきてよお!」
「未練タラタラじゃねえか!こんな姿の親父なんて見たくなかった!!」
「親父なんか…親父なんか!」
「ずーっと超人墓場にいりゃあ良かったんだーっ!!」
「……」
その言葉を聞いた瞬間、ウォーズマンの頭の中には超人墓場でブロッケンマンが息子のことを言っていたことが思い出されていた。
(なあウォーズマン。息子のやつ、現世で元気にやってるかな…)
(アイツにはまだ、教えてぇ技がいっぱいあったんだけどなあ)
(ちゃんと…飯ィ食ってるかな)
(息子に…会いてぇなあ)
(ピピピピ…)
(プツン)
その時、ウォーズマンの中でなにかが“切れ”た。
もう我慢できない、彼自身の中で怒りの感情がコントロールできない何かが作動する…!
「…い」
「いい加減にしないかーっ!!ブロッケンジュニアーッ!!」
―続くー