最後の残虐   作:ぴえろー

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「最後の残虐」後日談です。久々の投稿になります。かつてブロッケンマンとラーメンマンの戦いが行われたスタジアムで行われたタッグマッチは正義超人側に軍配が上がった。その後、彼らは「メディカルサスペンション」を使ってしばしの休息を取り、次なる戦いに備えていた。そんな平穏な日々が続いたある日のこと、とある一つのメディカルサスペンションが機械音を発しながら小さく動き出し、一人の超人を吐き出そうとしていた。その超人とは…


番外編 その1「相棒のいない世界」

(ゴポ…ゴポ…)

 

誰かが、いる。

水の中にいる。

 

「…う、うう」

 

目が覚める。水の中でふと、彼は目が覚めた。

いや、目が覚めたというよりは「光った」という方が正しいのか。

 

(ガガガガ…)

 

ウォーズマンだ。黒いヘルメットに、独特な息遣いが特徴の超人。

彼の目が覚めるや否や、機械は突然音を発し、中に入っている水を出し始める。

 

(ウィーン…)

 

そして、水をすべて出し終わると、彼の目の前にあった扉が開いた。

開いた扉に少し戸惑いながら、ウォーズマンは機械の外に出る。

 

「こ、ここは…」

「病院…?」

 

朦朧とする意識の中であたりを見渡すウォーズマン。

そしてすぐに、ここが病院であることを認識した。病室に広がる薬品の独特なにおいが彼の嗅覚器官を刺激する。

 

そう、ウォーズマンは先の正義超人との戦いで傷を負い、治療器具であるメディカルサスペンションの中に入れられていた。

かつて超人オリンピックの予選一回戦が行われていた場所で、超人墓場から脱出した残虐超人の2人組「ブロッケンマン・ウォーズマン」と正義超人側の「ラーメンマン・ブロッケンジュニア」のタッグマッチ。その一戦で彼は親友であるブロッケンマンのために捨て身の一撃を正義超人へと向けてはなった。

満身創痍の体の中、彼が放った「電光石火(ライトニングアロウ)」の負荷は思った以上に大きく、メディカルサスペンションをもってしても、すぐに彼の体を完治させる形で出すことはできなかったようで、治るには少し時間がかかるとのことだった。

そして、その怪我がある程度治癒し、つい先ほどメディカルサスペンションの扉が開いたというわけである。

 

「俺は…」

「俺は…どうして、ここに…?」

 

困惑しながらあたりを見渡すウォーズマン。

重い上半身を起こし、病院のドアを見つめる。

 

(ガラッ!)

 

その時、病室のドアが勢いよく開かれた。

 

「おおウォーズマン!気が付いたか!」

 

そこから入って来たのはキン肉マンとブロッケンジュニアの2人。入って来るなりキン肉マンは大声でウォーズマンを気遣う。その時の彼の顔は喜びに満ちていた。純粋に友人が目を覚ましたことに喜んでいるようだった。

 

「さっ、早くベッドに!!」

 

そう言うとキン肉マンはウォーズマンのに肩を貸して、近くにあったベッドまで運び、そこに座ってもらった。

 

「みんな心配しとったんじゃぞ!お前だけいつまでたっても目を覚まさんかったからのう」

 

笑顔でウォーズマンにそう話しかけたキン肉マン。

話から察するにほかの超人たちのほとんどはメディカルサスペンションから出ているらしい。

 

「いや~よかったよかった!!」

 

「……」

 

ウォーズマンが元気そうで安堵した表情のキン肉マンだったが、その表情とは対照的に、ウォーズマンの方の反応は芳しくなかった。

 

「……」

「…ブロ」

 

「ん?」

 

ウォーズマンの言葉に反応するキン肉マン。そして彼は下を向いたまま神妙な面持ちでキン肉マンに疑問をぶつけた。

 

「…ブロッケンマン」

「ブロッケンマンは…どこにいるんだ?」

 

ウォーズマンの言葉を聞くや否や、キン肉マンの顔は凍り付いた。

ブロッケンの方は最初から無表情のため、何を考えているかはわからない。

 

「……」

 

しばしのあいだ、病室に沈黙が流れる。さっきまでの和やかな雰囲気が一気に緊迫したものになった。

 

「ウ…ウォーズマン、ブロッケンマン…は…」

 

ウォーズマンの言葉にたどたどしく答えるキン肉マン。しかし、その代わりに

 

「親父は、死んだよ」

 

ブロッケンジュニアがピシャリと答えた。

その言葉に感情はなく、ただ事務的に答えているように見えた。

 

「ブ、ブロッケン!お前、何もそんなにはっきりと言わんでも…」

 

そんなブロッケンの対応に苛立ちの様子を見せるキン肉マン。

しかし、そんな彼をよそにブロッケンは意に介さず

 

「へっ、はっきり言おうが言うまいが変わらねぇよ」

「いずれ分かってたことだぜ。いまさら躊躇するまでもねぇ」

 

突き放すようにして、そう言った。

 

「じ、じゃが…」

 

「わかった…」

 

キン肉マン達の会話を遮るように、静かにそう言ったウォーズマン。

彼のベッドの下に敷かれていたシーツを握りしめ、震えた声で

 

「今はとりあえず…一人にしてくれ」

 

絞り出すように、キン肉マン達に対して言った。

 

「……」

 

彼の言葉はいつも以上に悲壮感が漂っていた。

重々しい。自分の悲しみに満ちた感情を吐き出したように彼は言った。

 

「…行こう」

 

ウォーズマンの言葉を聞いたキン肉マンは、彼のことを気にしつつ病室を後にした。

それに続いてブロッケンも部屋を後にする。

 

「……」

 

誰もいなくなった病室で一人、呆然とするウォーズマン。

 

(ダンッ!)

 

次の瞬間、彼は思いきり壁を叩いた。

衝撃が壁を伝って病室全体に響き渡る。その一連の行動すべてが、現在の彼の感情を如実に表していた。偶然にもほかに人がいなかったので、それに驚く人はいなかった。

 

「どうして…」

「どうして、俺が…」

「俺が…生きているんだ…?」

 

そう言って肩を震わせるウォーズマン。発せられた言葉も怒りと悲しみを絞り出したような言葉だった。

そういえば…彼は、親友の最期を知らない。ブロッケンマンがどうしてここにいないのかを知らない。

 

それもそうだった。ウォーズマンがブロッケンマンの最期を知っているはずがないのだ。

彼が自分の必殺技を放ったとき、まだ生きていたのだから。

ブロッケンマンの真意を知らないまま病院へと運ばれていったので、ウォーズマンがなぜ生きているのか、超人墓場へ行っていないのかがわからないのだ。

 

「まさか…」

「あいつだけ、逝ってしまったのか…?」

 

そう言って彼は握っていた拳をさらに強く握る。

 

「超人閻魔のやつ…まさか、ぜんぶ責任を押し付けたんじゃ…」

「俺が…いなかったせい…で…?」

 

その時、ウォーズマンの中でなにかが切れた。自分の抱えこんでいたものが一気に頭の中で漏れ出し、目尻に熱いものがこみあげてくる。

 

「ブロ…」

「くそっ…くそっ!!」

 

ベッドに突っ伏して涙を流すウォーズマン。

 

「約束したのに…!アイツを超人墓場から出してやるって…言ったのに!!」

「ちくしょう…ちくしょう…っ…!!」

 

彼の考えていることはとんだ勘違いなのだが、そんなことが今の当人にわかるはずもなく、ウォーズマンはひたすら自分の置かれている状況を悔やんだ。

親友が死に、自分だけが生きているという罪悪感に彼は蝕まれていた…

 

病院 廊下

 

「……」

 

(ガチャ)

 

「おお、キン肉マン。どうだった?ウォーズマンの様子は」

 

ドアの音に気付き、キン肉マン達に声をかけるのはラーメンマン。

どうやら病院の廊下で、ロビンとテリーの3人で待っていたようだ。

 

「だめじゃ…ウォーズマンのやつ、すっかりまいってしまっておる」

 

「そうか…」

 

キン肉マンの答えに静かに頷くラーメンマン。

やはりか…と答えたようにも思える。

 

「アイツにとっては初めての親友と呼べる存在だったんだ。…言葉が出ないのは無理もないことだ」

 

腕を組みながらため息をつくロビン。

 

「うむ…しばらくそっとしておくほうがいいかもしれない。時間が経てば、お互いに話し合う機会もくるだろう」

 

ロビンが首を縦に一回振ると、それに呼応するかのように首を縦に振るテリーとラーメンマン。

しかし、キン肉マンの方は少し不満げな顔をして

 

「それにしてもブロッケンじゃ!お前、病み上がりのウォーズマンにあれはないじゃろう!」

 

ブロッケンに対して先ほどのウォーズマンに対する態度について文句を言った。

 

「……フン」

 

(コツ…コツ…)

 

しかし、キン肉マンの抗議も空しく、ブロッケンは話を聞かずにその場を去って行ってしまう。彼の履いているブーツの足音が空しく病院の廊下に響く。

 

「お、おいブロッケン…!」

 

話を聞かないブロッケンを追いかけようとするキン肉マン。

しかし、そんな彼の肩をロビンがつかんだ。

 

「待つんだ、キン肉マン」

 

「じ、じゃが…」

 

「アイツも自分の父親を失ったんだ。…今はそっとしておいた方がいい」

 

そう言ってキン肉マンを諫めたロビン。

病院の屋上でブロッケンの事情を聞いていたことも相まって、ロビンの言葉はどこか説得力があった。

キン肉マンもその気持ちを幾ばくか汲み取れたようで

 

「……」

 

それ以上何も言及することはなかった。

 

その後、彼らはしばらくの間、2人を静かに見守ろうということで一時的に解散することになった。

その間もロビンやキン肉マンが2人に話しかけてみようとはしたものの、ウォーズマンは行方不明、ブロッケンは沈黙という取り付く島のないサンドイッチみたいな状況であり、正義超人たちは再び一部の超人との間でギスギスしている状況になってしまった。

やはり、大勢で活動していると数回くらいはこんなトラブルが起きてしまうのだろうか。何とも人間関係というのは難しいものである。

そんなこんなで、彼らが病室で解散してから早くも2週間が経とうとしていた…

 

河川敷

 

夕方、どこかにある河川敷。散歩をするには絶好の場所で、河川の傍で生い茂っている草が夏の便りを伝えていた。

その近くには大きな橋が架かっていて、その下で川の水が山から海へと走っていた。水面(みなも)に映る太陽が、まるで川が汗をかいているかのように光っている。

すると、遠くからトレーニングウェアを着た筋肉質の大柄な男が汗を流しながら走って来た。

 

「ほっ…ほっ…」

 

テリーマンだ。肩の星は袖で隠れてしまっているが、銀髪と甘いマスク、そして何より額にある「米」の文字が彼の存在であることを物語っていた。ランニングに集中しているのか、彼の視線は常に前を向いている。

しかし、その集中力も一瞬の「途切れ」によって妨げられることになる。

 

 

「ん?」

 

「あれは…」

 

テリーは川辺で誰かが座っているのが見えた。それは一般人というにはあまりにも異質で、なぜここにいるのかを少し考えてしまうような存在だった。その存在にテリーは足を止めた。しかし、ただ異質な存在というだけでは彼の足を止める理由になり得ない。

 

彼も本来ならスルーしてランニングを続けるつもりだったのが、そうはいかなかった。なぜなら…

 

その誰かというのは、彼の知っている人だったからだ。

 

「……」

 

全体的に黒いフォルム、彼の素顔を隠すマスク。そして独特な息遣い…

川辺に座っていたのはウォーズマンだった。

 

「ウォーズマン。探してた…」

 

しばらくのあいだ彼の姿を見かけなかったので、気になったテリーは声をかけてみることにした。しかし、テリーは途中で歩みを止め、少し考え込んだ。

 

(いや待て、ウォーズマンはブロッケンマンを失いショックを受けている)

(ここはなるべく話題を避けて、気さくにふるまってみるか…)

 

「……」

 

「へいウォーズマン、随分と久しぶりだな」

「ここのところ最近見かけなかったけど、具合はどうだい?」

 

「……」

 

ウォーズマンは彼にそっぽを向いたまま黙っている。

聞こえているのか、それとも呆然としていて聞こえていないのか…

 

「…あんまり良くないみたいだな」

 

テリーは片手で頭を搔きながらウォーズマンの方を見る。彼の表情はわからないが、少なくとも近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのは確かだ。

 

(…困ったな。こりゃ相当まいってるみたいだ)

(さて、どうしたもんか)

 

「……」

 

しかし、テリーが心配していたのもつかの間、ウォーズマンはテリーの言葉を受けて口を開いた。

 

「…なぁ」

 

「…ん?」

 

「俺は…俺とブロは、負けたんだよな」

「ラーメンマンとブロッケンジュニアに」

 

「…ああ」

 

「……」

 

そう言って再び黙り込むウォーズマン。彼はどうやら試合の結果をもう一度確認したかったようだ。

 

ウォーズマンの言葉を聞いて何かを察したテリー。彼のことをフォローしようと口を開く。

 

「…気にするなよ。別にお前は俺たちを裏切ろうとして正義超人を離れたわけじゃない」

「ブロッケンマンを超人墓場から出そうとしてのことだったんだろ?」

「誰もお前を責めたりはしないさ」

 

「……」

 

テリーの言葉に無反応のウォーズマン。いや、考え込んでいるのだろうか。

沈黙するウォーズマンにテリーは言葉を続ける。

 

「それに…ブロッケンマンのことだってお前が悪いわけじゃない」

「俺にはわからないが…超人閻魔の心境に変化があったのかもしれないし、その…」

「仕方が…なかったんじゃないか?」

 

「仕方がなかった…だと?」

 

その時、ウォーズマンはテリーの言葉に反応した。

 

(ガッ!)

 

次の瞬間、力任せにウォーズマンはテリーの胸ぐらをつかんだ。

その勢いは、今まさにテリーの首を絞めんとするほどだった。

 

「ふざけるな…!お前に俺たちの何がわかるっていうんだ…!!」

 

この時、テリーはしまったと思った。

ウォーズマンを励ますつもりが、いつの間にか彼の神経を逆なでしてしまっていることにいま気づいたのだ。

 

「す、すまないウォーズマン…!そんなつもりじゃ…」

 

「……」

 

(ドサッ!)

 

「うっ!はぁっ…はぁっ…」

 

掴まれた胸ぐらを抑えながらえずくテリー、額からは冷や汗が出ていた。

それを横目に、ウォーズマンは静かに語りだす。

 

「…わかっている。みんなが俺を心配してることは」

「けど、俺はブロッケンマンを裏切ってしまったんだ」

「俺が…俺が倒れてしまったばっかりに…」

 

「うら…ぎった…?」そう言って首をかしげるテリー。ウォーズマンは言葉を続ける。

 

「そうだ…俺が超人墓場に連れていかれていないことが、何よりの証拠だ」

「もし負けたんだったら、俺たちを超人墓場へ連れていくために」

「超人閻魔か、その使いが来てたはずなんだ。じゃないと誰が超人墓場に俺たちを連れて行くんだって話になる」

 

ウォーズマンは思いつめた表情で言葉を続ける。

 

「けどその時、俺は病院に運ばれてその場にいなかった」

「さっきお前が言ったように、超人閻魔が心変わりを起こして、その場にいたブロッケンマンに全責任を押し付けたんだ」

 

そう言ったウォーズマンの頬に一筋の汗が流れた。

 

 

「なるほど。確かに2人を超人墓場へ連れていくために使いを送ったというのは納得がいく」

「だけど病院に運ばれて約束が不意になったって言うのはおかしいんじゃないか?約束を果たすことが目的ならそれこそ血眼になってお前を探すんじゃ…」

「何か別の理由があるとか…」

 

「確かに超人閻魔は自分が口にしたことを必ず遂行する超人だ。だけど…」

「閻魔は生真面目な性格らしいんだ。何事も重要なことは他人に任せず、自分で行うことで知られている」

 

「随分と詳しいな」

 

「しょっちゅう職場に来てたんだよ。それであらかた鬼たちに指示を出してから自分の持ち場へ戻って仕事をしていたんだ」

 

本題に戻ろう、と言うと、ウォーズマンは言葉を続ける。

 

「アイツは言っていた…あの戦いは超人界の神々が望んでいるんだと、最終決着をつけるために戦う必要があると、スタジアムで俺に言った」

「これが重要なことじゃなくて何だって言うんだ?…閻魔が直接来て裁定を下すことはなんらおかしい話じゃない」

「それに、時間が押していてその場にいたブロッケンマンにとりあえず責任を押し付けておいて、後で俺を連れ戻しに来るのかもしれない…!」

 

「……」

 

怒りをあらわにするウォーズマンの説明をしばらく聞いていたテリー。

顎に手を当てながら彼の言動について冷静に分析する。

 

確かに彼の言っていることも一理ある。実際にスタジアムに閻魔が来て裁定を下していったこともテリーは知っていたし、それに関してはウォーズマンも正しかった。

しかし、これはそんな単純な話ではないこと、ブロッケンマンがウォーズマンのために自分から全責任を負ったことを今の彼に説明することは難しい。

 

なぜなら…彼は今、閻魔が独断で全責任を親友に押し付けたことを完全に信じ切っているのだ。

仮にブロッケンマンのことをテリーが言ったとしても、リングの傍で見ていただけの彼が言ったとして信じてもらえるかどうか怪しかった。

 

(…今のウォーズマンはかなり気が立っている。俺が言ったところで果たして信じてもらえるかどうか…?)

(様子を見た方がいいかもしれないな)

 

そう考えたテリーはとりあえずウォーズマンに話を合わせることにした。

 

「だから…お前はブロッケンマン、親友を…裏切ったと」

 

「そうだ…俺は責任を果たすことが出来なかったばかりか、ブロッケンマンに責任を負わせてしまった…!」

 

そう言ったウォーズマンは再び拳を強く握り、肩を震わせる。

それから彼は語気を強めて言葉を続ける。

 

「俺は、ブロッケンマンを生かすことが出来なかった…!」

「約束したのに…!一緒に超人墓場から脱出しようって、約束したのに…!」

 

怒りを、哀しみを、やるせなさを…ウォーズマンは感情に任せて絞り出す。

 

「俺はアイツを裏切ったんだ!俺は大嘘つきなんだッ!!」

 

「違う!お前は嘘つきなんかじゃ…」

 

「もう放っておいてくれ!!」

 

そう言うと、ウォーズマンは逃げるようにして走り去っていった。

 

「ウォーズマン!!」

 

逃げる彼を制止しようとするテリー。しかし、胸ぐらをつかまれた影響で、うまく走り出すことが出来ない。

彼はそのまま右方向へと走り去って行っていく。テリーは汗をかきながら片膝をつき、ただそれを見ることしかできなかった。

 

「ウォーズマン…」

「…ん?」

 

突然、テリーは後ろの方から何かが近づいているような感じがした。

ゆっくりと近づく足音。しかしその音もすぐに消えた。

 

「……」

 

テリーが後ろを振り返ると、そこにはブロッケンが立っていた。

 

「…ブロッケン?」

 

呆然としているテリー。どうしてここにブロッケンがいるのだろうか。

それを聞こうとしたテリー。しかし、それを遮るかのようにして、ブロッケンが静かに口を開く。

 

「…なあ、今のウォーズマンだよな」

 

「えっ?あ、ああ…」

 

「どっちに行った?」

 

「み、右の方だが…」

 

「わかった」

 

そう言うとウォーズマンのいった方向に走り出したブロッケン。

その時の彼は表情こそ見えなかったものの、どこか鬼気迫るような雰囲気を纏っていた。

それこそ、今までずっと探していた相手を見つけたような、そんな感じだった。

 

「お、おいブロッケン!!」

 

そんな彼をおぼつかない足取りで制止しようとするテリー。

しかし、彼がブロッケンを引き留めようとした次の瞬間…

 

(ザァー…)

 

突然、雨が降り出してきた。

 

「…!雨が…」

「本降りにならければいいが…」

 

心配そうに空の様子を見つめるテリー。

さっきまで夕焼けに赤らんだ空が見えていたのが一変、灰色の雲に覆われ始めた。その雲はまるで、この先にある運命を暗示しているかのように、町全体を包み始めたのだった…

 

                    -続く-

 

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