最後の残虐   作:ぴえろー

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最後の残虐第5話後編です。正義超人同士の諍いの後、ブロッケンとラーメンマンを探すために街中を奔走していたロビンマスク。長時間の探索が功を奏し、ついにラーメンマンを見つけることが出来たが、どうやら彼はとある「葛藤」を抱えていたようで…
 ラーメンマンを蝕む葛藤の正体とは?そしてブロッケンマンとの対決はいつ実現するのだろうか?


第五話 後編「荒削りの決意」

―ビル 屋上―

 

ビルは明るい街中を見下ろすようにして建っていた。割と高い作りになっているのか、比較的屋上の風が強い。

 

そんな状況の中、暗闇にポツン、と人影があった。

 

その影はピクリとも動かず、ただ彼の辮髪がたなびいているだけ。

 

その正体は間違いなく、あの男である。

 

「……」 

 

「なんだ、ここにいたのか」

 

「ぜぇ…ぜぇ…」

 

「…ロビン」

 

ラーメンマンは厳しい表情で彼を見た。

 

「どうしたんだ。随分と息が上がっているようだが…」

 

ラーメンマンはロビンに手を差し伸べながら心配そうに言った。

 

「…大丈夫だ、問題ない」

 

そう言うと彼は息を整えて

 

「それよりも…少し、話さないか」

 

落ち着いた口調でそう言うと、ロビンはどこからともなく缶コーヒーを2本取り出し、ラーメンマンに見せた。

 

「これでも、飲みながら」

 

するとラーメンマンは顔を緩め

 

「…そうだな。とりあえず、コーヒーをもらおうか」

 

そんな会話が交わされた後、ロビンはラーメンマンの横に座り、一本の缶コーヒーをラーメンマンに渡し、それから自分の分を足元に置いた。

 

「……」

 

「……」

 

しばらくの間、沈黙の時が流れた。

 

それからしばらくして、ラーメンマンの方から口を開いた。

 

「そういえば、ブロッケンは見つかったのか?」

 

ラーメンマンはコーヒーを一口飲んだ後、ロビンにブロッケンの行方について尋ねた。

 

「…いや、ブロッケンは見つからなかった」

 

「すまない。出来るだけ早く見つけて説得したかったんだが…」

 

ロビンは首を横に振り、うなだれながら答えた。

 

「…いや、アイツは一人にしておくのがいい」

 

「えっ?」

 

「アイツは、一人でじっとしていたほうが落ち着くんだ」

 

「一人で考えたい性分なんだろうな…つくづく親父にそっくりだ」

 

「そうか…」

 

ロビンは腕を組み、でしばらく考え込んだ。

 

もちろん、ブロッケンの性格についてである。

 

あの義侠心があり、多少頑固なところは父親であるブロッケンマンによるもの。

 

そう考えると、今まで彼が仲間のために戦ったり、師匠のことを深く尊敬するあまりつい感情的になってしまうのも何となくうなづけた。

 

あの性格のほとんどが、親父譲りのものだったのだ。

 

(…ふむ)

 

ここでロビンは何となく、彼が知っているブロッケンの父親について知りたくなったらしい。

 

しばらくの沈黙の後、彼はラーメンマンにそれとなく尋ねてみた。

 

「…なあ、ラーメンマン」

 

「なんだ」

 

「…私は」

 

「私は、ブロッケンマンを大会でしか見たことがない」

 

「ブロッケンマンは、一体どんな奴だったんだ?…教えてくれないか」

 

「…今日はよくしゃべるな、ロビン」

 

しかし、そんなロビンに対し、ラーメンマンはニヤリ、と柄にもない笑い方をした。

 

まるで普段いたずらばかりしている子供が急に礼儀正しくなったことに対して揶揄するかのように。

 

「す…済まない」

 

と、頭をかきながら謝るロビンマスク。

 

普段は超人博士や先輩超人として活動しているためか、2人のこういった馴れ合いは珍しい。

 

「いや、いいんだ。"敵を知るにはまずその道を極めよ"…残虐超人のことをくまなく知っている私に、ブロッケンマンのことを聞くのは当然のことだからな」

 

「はは…敵わないな」

 

それから下を向いて少し考えこみ、しばしの沈黙の後、彼は頭を上げてブロッケンマンについて説明し始めた。

 

「…ヤバいやつだったよ」

 

「…えっ?」

 

「アイツは"ヤバい"奴だった。いい意味でも、悪い意味でもな」

 

「どういうことだ?」

 

「良い意味っていうのは、プロレスの技量についてだ」

 

「以前、アイツが残虐超人を相手に試合をしていたのを何回か見たことがあってな」

 

「思わず私も見惚れてしまったよ」

 

「基本的なプロレス技はもちろん、ロープワーク、そして試合展開のうまさなど、何をとっても残虐超人界では一流だった」

 

「現に、残虐超人界においての公式大会で異例の4連覇を達成していて、周りからは「残虐者(マダー)」と恐れられていた」

 

「…すごいな。そんなにすごい人物だったとは」

 

「ぜひ一度、手合わせ願いたかったものだ」

 

ラーメンマンはさらに説明を続ける。

 

「一流というからにはもちろん、使うことのできる技も多かった」

 

「そんな数あるアイツの技の中でも、最も異彩を放っていたのが」

 

「"ベルリンの赤い雨"だ」

 

「ベルリンの赤い雨って…あのブロッケンが使っている技のことか?」

 

「いや、違う。アイツの"ベルリンの赤い雨"はまるで剣のように上から下に振り下ろしたり、横に薙ぎ払ったりするが」

 

「親父の場合は両手の手刀を前に交差し、一気に切りつけるものだった」

 

「そうだな…あえて息子の技と区別をつける意味で名付けるなら」

 

「"-元祖-ベルリンの赤い雨"とでも言うだろうか…」

 

「"-元祖-ベルリンの赤い雨"…」

 

「技が違ってくると当然、技の魅せ方も違ってくる」

 

「ブロッケンのベル赤はスマートなイメージがある一方、親父の方は泥臭くて、派手な技だった」

 

「泥臭くて、派手?…矛盾しているような気もするが」

 

「あくまで息子と比較しての話なんだが、まぁ、アイツの技を一言で言うとそんな感じなんだ」

 

「実際はやられた側の胸板に大きな「×(ぺケ)」の形が出来たのち、盛大に血が噴き出るものだったから、技としての華麗さは十分にあった」

 

「アイツのベル赤は決め技の意味合いも兼ねていたからな…発生は遅いが、その分威力は折り紙付きだった」

 

「とにかく、アイツのプロレスに関した技、試合展開、そして自身の決め技…どれをとっても残虐超人界では群を抜いていた」

 

「私もアイツに期待し、将来は次期総帥になるように勧めたりもしたんだ」

 

「そうか…それは知らなかった」

 

「じゃあ、ブロッケンが親父を尊敬するのも納得…」

 

その時、ラーメンマンは、暗い口調でロビンの話を遮った。

 

むしろここからが本題であると、言いたいかのように。

 

「…だが、アイツは少し調子に乗りすぎた」

 

「えっ?」

 

ロビンは不意を打たれたように素っ頓狂な声を上げた。

 

「アイツは有名になったのをいいことに、悪事を働きだしたんだ」

 

「自分がファイトする際に金品を要求したり、支払わないものに片っ端から制裁(ぼうりょく)を加えていったりしたんだ」

 

「その暴力が原因で二度とリングに上がれないやつも少なくなかった」

 

「気づけば、アイツはいつの間にか残虐超人界の"英雄"から暴力沙汰を頻繁に引き起こす"厄介者"へと変貌していた」

 

「…なんと」

 

「とにかく、アイツはヤバいやつだった。プロレスの技術は一流で、他の追随を許さなかった。しかし、アイツは誰よりも残虐で、自分が勝つためならどんなにひどく、身勝手なことでも平気でやれるような男だった」

 

「だが、アイツは表向きには"英雄"という事になっているから、我々も持ち上げないわけにはいかない」

 

「アイツの精神は"残虐超人"の模範とされ、誰もがブロッケンマンのような性格になるよう求められた」

 

「だが…調子に乗ってしまったばかりに、大切な仲間を傷つけてしまったのはよくないな」

 

「そうだ。我々、残虐超人は勝つために手段を選ばない。だが、それは勝つためだけに向けられるものであって、大切な仲間を傷つけるためのものではない」

 

「…最もだ」ロビンは静かにうなずいた。

 

「だから、総帥の地位であった私が、直接手を下した」

 

「敗北、もとい"死"という形で…」

 

「ああ…だからあの時「キャメルクラッチ」でとどめを刺したんだな」

 

「ああ、前途有望で妻子がいる身だと、知っておきながらな」

 

「…そうか、それで残虐になることに対して罪悪感を」

 

「…気づいていたのか」

 

「そうだ。私がアイツを倒し、キン肉マンのおかげで改心することが出来たあの日から」

 

「私は"残虐"になることに対して罪悪感を持っていたんだ…」

 

「最初は、ブロッケンマンという"厄介者"を排除することが出来た、一種の優越感のようなものに浸っていた」

 

「しかし、それからすぐ自分の犯した家族という存在を奪ってしまった"罪"、そして、それを潰した自身の残虐性に嫌気がさし始め、徐々にその感情が自分の体内を蝕んでいった…」

 

「だから私は、骨の髄まで染み込んでいた純粋な"残虐性"を打ち砕こうと、様々な修行や戦いに挑んだ」

 

「だが、生まれながらに持った性はそう簡単に拭い去れるものではなかった…」

 

「ラーメンマン…」

 

「そしてその性は、つい最近あった戦いにまで影響した」

 

「バイクマンの時も、プリズマンの時も、結局は残虐に徹することが出来ず、苦戦を強いられる羽目になった」

 

「何とか勝ちはしたが、結局"残虐"に対する罪悪感を払拭することが出来ずに争奪戦が終わってしまった」

 

「私は悔しかった。残虐界の総帥とまで言われた男が"残虐"そのものに怯え、いつまでも抜け出せずにいたんだからな…」

 

「ラーメンマン…」

 

二人の間にしばしの沈黙が流れた。

 

しばらく時間がたち、ロビンマスクが口を開いた。

 

「…それで、今のお前の気持ちはどうなんだ?」

 

「恐らくだと思うが…今回は必ずどこかでお前はブロッケンマンと戦うことになるだろう」

 

「それだけは避けられないと思うんだ。…言い方は多少荒っぽいが"覚悟"は決まっているのか?」

 

「…わからない。正直、かなり迷っている」

 

そういうとラーメンマンは頭を抱えた。

 

「やはり、私の中にある"残虐性(トラウマ)"がどうしても引っかかってしまう」

 

「くそ…一体どうすれば…!」

 

「…そういえば、謎の男と会ったと言っていたな」

 

「アイツに何か吹き込まれたのか?」

 

「…ああ、ブロッケンマンと戦うには"残虐性"」

 

「それも純粋な"残虐性"が必要だ、とな…」

 

「純粋な…残虐性」

 

「ああ、そうだ」

 

ラーメンマンは言葉を続ける。

 

「…私は、アイツともう一度戦いたいという気持ちはもちろんある。…だが私はもう一度、あの度を超した残虐性を持ちたくはない」

 

「必要以上に人を痛めつける、あの残虐性に目覚めたくはないんだ…」

 

そう言った後、苦い表情のまま押し黙ってしまったラーメンマン。

 

それから2人の間にもう一度、わずかながら沈黙が流れた。

 

冷たいビルの夜風が2人の間を通り抜けていく。

 

「…ラーメンマン」

 

ロビンはラーメンマンの肩に自分の右手を置いた。

 

その置いた手と彼の真剣な表情からは熱い何かが伝わってくる。

 

「だったら尚更、お前はブロッケンマンと戦わなければならない」

 

「…何だと?」

 

ラーメンマンは苦い表情を保ちつつ、ロビンの方を向いた。

 

残虐性のトラウマを乗り越えるために、敢えて宿敵との戦いに身を投じるという彼の理論に対して深い疑問を持ちながら。

 

ロビンは熱気のこもった目で説明を続ける。

 

「ラーメンマン、思い出すんだ。私たちが一体どのようにして自分たちを成長させてきたのかを」

 

「…はっ!!」

 

ラーメンマンは何かに気づいたのか、目をカッと見開いた。

 

「戦う…」

 

「そうだ。私たちは今まで"戦う"ことによって自分たちを成長させてきた」

 

「戦うことでお互いが助け合い、ともに高みを目指していく精神を知ることが出来たんだ」

 

「ラーメンマン、今回も同じだ」

 

「戦うことによって、自分のブロッケンマンに対する過去を、そして自身の残虐性に対する"弱さ"を乗り越えていかなければならない」

 

「そうか…!」ラーメンマンは納得したように頷く。

 

彼の心の中ではすでに覚悟が決まりかけているようにも思えた。

 

かつての仲間であり、そして永遠の難敵であるブロッケンマンと戦う覚悟である。

 

「ああ。…だがラーメンマン、お前の今の気持ちは、自分の心の中にしまっておくんだ」

 

「そいつは決して誰にも知られてはならない。ましてや弟子であるブロッケンJrには

なおさらだ」

 

「迷っているうちは一度そのことを忘れて、心の中に閉まっておくのが一番いい…」

 

「今はどうしていいのかわからない。…だがきっと、戦いの神様がお前にとって必要なことを教えてくれるだろうさ」

 

「私がかつて、そうだったようにな…」

 

そういってラーメンマンに微笑むロビンマスク。

 

自分のやってきた行為の過ちをキン肉マンとの戦いを通して克服した彼だからこそ、戦いを通して弱点を克服するというこの言葉はかなりの説得力があった。

 

「ロビン…」

 

ロビンはラーメンマンの肩に置いていた手を離し、彼のほうに向きなおって頭を下げた。

 

「…さっきの件、済まなかった。誤解を招くようなことをして」

 

「ただ、ブロッケンとラーメンマンが一緒だったほうが実力を発揮しやすいのではないか、と思っただけだったんだが…」

 

「いや、構わないさ。私はそこまで気にしていない」

 

「問題はブロッケンだ。アイツを説得する必要がある」

 

ラーメンマンは顎に手を付き、眉をひそめながら言った。

 

ラーメンマンの問題があらかた落ち着いたと考えると、当然次に解決しなければいけないのはブロッケンに関すること。

 

しかし、親父譲りの頑固者で、かつ熱血漢であるブロッケンを説得で解決しようとすることは難しく、長年付き合ってきたラーメンマン、ましてやラーメンマンよりも付き合いがないロビンには説得の方法など皆目見当もつかない。

 

まさに打つ手なし、考え始めた当初からこの問題は難航の色を見せていた。

 

「…そうだな、どうするか…」

 

ロビンたちがどうしようかと首をひねっていた、その時である。

 

「ヒャーッハッハッハッ!!」

 

突如、聞き覚えのある笑い声が街中を突き抜けた。

 

「な…なんだ!?」

 

ロビンとラーメンマンはあたりを見渡し、声の出所を探す。

 

「あっ!あそこだ!」ロビンはビルの向こう側にある広告版を指さした。

 

「へへへ…正義超人どもよ。いかがお過ごしかな?」

 

「俺様に倒されるのが怖くて夜も眠れないんじゃねえか?」

 

「ブ…ブロッケンマンだ!」ロビンが叫ぶ。

 

「ど…どうしてテレビなんかに」

 

「…おそらく、一時的に占拠し、近くにいた人間に映させているんだろう」

 

「なんだと…」ロビンは戦慄のあまり、一瞬たじろいだ。

 

―テレビ局―

 

「ひえええ…」

 

近くにいたアナウンサーやカメラマンは避難のため、舞台の後ろに隠れていた。

 

「へへへ…心配するな。手出しはしねえよ」

 

「俺の目的はあくまで正義超人。…人間なんざに興味はねえ」

 

「俺の目的はただ一つだ…」

 

「で…では一体何のために」

 

ラーメンマンは恐らくは聞こえないであろう問いをブロッケンマンに投げかけた。

 

「今、俺の声を聴いている正義超人どもに告ぐ!」

 

「俺は、お前たち正義超人に対して"挑戦状"を叩きつけるーッ!!」

 

「な…何だと!?」二人は目を見開いた。

 

「明後日の朝9時!俺とラーメンマンが戦ったスタジアムにて正義超人どもを迎え撃つ!」

 

「試合方法は問わねえ!」

 

「お前ら正義超人が勝手に決めやがれ!俺はどんな試合方法でも受けて立つ!」

 

「頑張って俺様を楽しませてくれ!待っているぜッ!!」

 

「ヒャーッハッハッハッ…」

 

高らかな笑い声の後、モニターはプツンと消え、再び広告が映し出された。

 

街中はちょっとした騒ぎになっていた。試合日程をSNSで拡散する者や、撮った動画を

サイトに投稿するものが目立つ。

 

「…まさか自分で居場所を知らせてくるとは」ラーメンマンは呆然としていた。

 

「しかも、試合場所まで指定してくるとはな」

 

「どうする、行くか?」ロビンがある答えを期待しながらそう聞くと

 

「ああ…!もちろんだ」

 

「積年の思いを…今ここで晴らしてくれるッ…!」

 

ロビンは彼の答えを聞き、納得したように頷き

 

「スパーリング、付き合ってもいいか?」にっこり笑ってそう言うと

 

「ああ、頼む!」

 

その時のラーメンマンの顔はもう先ほどまでの悲壮感はなく、やる気に満ちていた。

 

こうして、彼らは(きた)る試合に向けて着々と準備を進めていった。

 

完全な形ではなかったが、荒削りの彼らの決意は、はたして最終決戦の起爆剤となるのであろうか。

 

次回、彼らの最終決戦が始まる…

 

                -続く-

 

 




今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
 投稿頻度についてですが、とりあえず金曜日の夜か土曜日の朝くらいに投稿することになりました。日程の関係上変動することはありますが、基本的にこの日程で行くことにします。
 
                
                              -作者-
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