その日、部室にて部長による木場の生い立ちの説明が行われた。
要するに、木場は聖剣に適応する人間を作る為の研究施設の生き残りであるということである。
なぜ生き残りと言われるのかというと、聖剣に適応できなかった人間は殺処分されてしまったからだ。
「....そんな...主に仕える者がそのような事をしていいはずがありません...」
アーシアは涙を浮かべている。
俺はアーシアを軽く抱きしめてやった。
「兎に角、しばらくは見守るわ。今はぶり返した聖剣への想いで頭がいっぱいでしょうから...いつものあの子に戻ってくれるといいのだけど...」
「そうですね...俺も根気強く話しかけてみます。なにもないよりはマシかもですから...」
「そうね、お願いするわ。下手に私が行くより、あなたの方が祐斗も話を聞いてくれるかもしれないし...」
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次の日、俺とアーシアは一緒に帰宅した。
あまり喋らずに手を繋いで歩いている。
ちょっと前までならこういう時、一生懸命話題を探していたんだが、アーシアにこうやって何も喋らずにただ手を繋ぐのも嬉しい、と言われてからは無理に喋らないようにしてる。
なんとなく、わかる。何も話さなくてもいい関係性というか...こう、上手く言語化できないけれど、安心する。
家に着いて、玄関の扉を開こうとしたときに、寒気を感じた。
アーシアも感じているようで、俺の手をぎゅっと握り締めてくる。
誰かが...なにかが居る...
俺はアーシアに外で待つように伝え、家に入った。
なるべく足音を消して、侵入する。
俺は音を立てないように、一歩一歩確実に近づいていく。
リビングの方の電気が付いているようだ...
リビングの方に向かうと、母さんの声がした。緊迫している様子はない。普通にお喋りしているだけだ。
あっそっか、これ聖剣持ち二人との邂逅か...
まずい...本当に細かい所を忘れてきている...
まぁ全く知らないのが普通なので、だいたい知ってるだけでも滅茶苦茶ありがたいんだが...
俺は玄関に戻り、アーシアに危険性がないことを伝えて二人で家に入る。
「あら、イッセー、アーシアちゃん、おかえりなさい。」
「ただいま。」
アーシアはいまだに少し怖いのか、俺に引っ付いている。そりゃそうだな、元凶はまだ居るんだから...
「こんにちわ、兵藤一誠君」
俺に栗家色の髪の女の子が声をかけてくる。
イリナだ。
隣の緑メッシュがゼノヴィアだな...
この二人は割りとアーシア以外のキャラの中では好きだった記憶がある...
まぁ今はそんなこと関係ないけどな。
「こんにちは、紫藤イリナさんでいいのかな?」
「わぁ!ちゃんとわかってくれるんだ!昔は男の子っぽかったのに、良く気付いたね!!嬉しい!!でも、お互いしばらく会わないうちに色々あったみたいだね。本当、再会って何があるかわからないものだわ。」
イリナは意味深な感じでそう呟く。
「本当にそうだな。わからないもんだ...」
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その後母親と普通に談笑して帰っていった。
そらそうだ。流石に一般人巻き込んでドンパチはやらんじゃろう...
一応俺とアーシアには上に上がっておいた。
アーシアはなるべくこいつらに会わせたくないんだよなぁ...
というか部室でこいつらがアーシアに暴言吐く時、俺大丈夫だろうか...
ちょっと会う前会った後含め自分の中でアーシアがでかすぎて、アーシア関連に心のブレーキがかからないんだよな...
かなり問題だわ。
いや、わかってんなら治せよって話なんだが...
でも、この前アーシアと約束したし...
うん、なるべく頑張ろう...
一応この事を部長に電話で報告する。
「そう...まずはあなた達が無事で本当に良かったわ。部活動が終わってからソーナに聖剣使いの教会関係者が潜り込んでいると話を聞いていたの。だから、誰か私の下僕が危険な目にあったらどうしようって気が気じゃなかったわ...」
「でも...あんまりいい状況じゃないですよね...今の木場と接触したらまずいんじゃ...」
「祐斗の理性を信じるしかないわね...実は明日の放課後にその聖剣使い達から私達に交渉したいと連絡が入っているのよ。こちらに一切危害を加えない事を神に誓ったらしいわ...」
「なるほど...明日含め、一応気をつけておきます。」
「えぇ、そうして頂戴。」
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次の日の放課後、グレモリー眷属全員と、聖剣コンビが部室に集合した。
部長と朱乃さん、聖剣コンビ以外は部屋の端で会話を聞いていた。
木場はちょっとやばそうだな...殺意マシマシで二人を見ている...そら、復讐対象が二本もあればな...一応俺はいつでも木場との間に割り込めるように注意しておく事にした。
また、アーシアは置いていきたかったが、部長から全員集合との召集がかかっていたので仕方なく連れてきた。こうなったら俺が守るしかない...確かに、別に言わせるだけ言わしてもアーシアは死にはしないだろう。だけど、確実に傷つく。俺はそれが我慢ならない...はっきり言って俺も教会が嫌いだ。アーシアを傷つけた諸悪の根元。その理由を知っていようとなお許せない。いやまぁ、だからって特に何かするわけじゃない。喧嘩売るつもりもない。気に食わないだけだ...
聖剣コンビから、エクスカリバーが奪われた事、強奪犯がこの町に居ること、その犯人がグレゴリの幹部コカビエルであること、聖剣の回収または破壊が今回の任務であること、悪魔には任務中一切介入しないで欲しいことが伝えられた。
部長と数度問答を繰り返し、納得したようで、二人は帰る準備を始めた。
そして...
「兵藤一誠の家で出会った時、もしやと思ったが『魔女』アーシア・アルジェントか?まさかこの地で会おうとは。」
という声が聞こえた。アーシアはびくりと体を震わせる。
「あなたが一時期...「おい、そこまでにしてもらおうか」
俺はイリナが話始めた所で遮った。
「お前らが何言おうとしてるか知らねぇけど、それ以上喋らないでくれ。話し合いは終わっただろ。黙って帰れよ...」
「ほう?随分な口を叩くなぁ、兵藤一誠。」
「喋るなって言ったんだが?」
「なぜ、私が君の言うことを聞かなければならないんだ?君にそんな権限も力もあるようには見えないが...それに、私はかつて同じ主を信じていた者に少しアドバイスしてやろうかと思っただけだよ...」
「余計なお世話なんだよ。アーシアに関わるな。話はそれだけだ。帰ってくれ。それくらい小学生でもできるだろうが。」
「気に食わないな兵藤一誠...さっきからその態度...」
「気に食わないのはこっちだ...大層な剣持ってる割りに細かい事にうるさいやつだな...」
「イッセーやめなさい。あなたも、私の眷属にとやかく言わないで欲しいわね。今日の所はこれで終わりにしましょう?用事は済んだでしょう?」
部長が厳しめに声を発する。
「全く..魔王の妹にまでお小言を頂戴してしまうとは...よっぽど招かれざる客というわけだ...」
お前らの態度のせいだろうが。茶も菓子も一切手着けてねぇし...
「わかったわかった、これで退散するよ。もう何も言わない。これでいいだろう?兵藤一誠。」
「あぁそれでいい。じゃあな。精々任務頑張ってくれ。」
「ふっ。悪魔の激励などいらんさ...」
そのまま、帰っていった。
クソ...良くないのはわかってるけどむかつく...。
「イッセーさん...」
「アーシア...ごめんな。もうちょっとスマートにどうにかできれば良かったんだが...」
「いえ、ありがとうございます...」
お礼は言ってくれるがやっぱり少し悲しそうだ。
俺はアーシアの頭を撫でる。
「イッセー、あなたがアーシアをどれだけ大切に思っているかはわかっているつもりだし、私も彼女の発言によっては激怒していたかもしれないから強くは言えないけど、もう少し堪える事を覚えなさい。我慢しようっていう努力は伝わるけど...正直、負の感情が駄々もれよ...」
「すみません...似たような事があったら次はもう少し頑張ります...」
内心全く納得してないけど、自分が悪いことくらいはわかるので謝罪はしておく。
「ふぅ...嫌な問題が舞い込んできたものね...」
部長はやれやれといった様子だった...
アーシアを慰める事しばらく、突然木場が立ち上がった。
「僕は、グレモリー眷属を離れます。今までお世話になりました。失礼します。」
俺達はぎょっとしてしまった。あまりにも突然の事だったからだ...
「ちょっと待ちなさい、祐斗!私の元を離れるなんて許さないわ!あなたはグレモリー眷属の騎士なの!はぐれになってもらっては困るわ!戻りなさい!」
最初に動いたのは部長だった。
「....僕は、同志たちのおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ...」
そういって出ていってしまった。
「祐斗...どうして...」
いやほんとどうしてなんだ...
いきなりすぎて動けなかった...
アーシアも固まってしまってるな...
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俺は迷っていた...
原作なら、確かこの後匙を誘って、小猫ちゃんも着いてきて、聖剣コンビに龍のお手伝いという名目で聖剣の破壊の協力を約束するはずだ。
しかし...正直、今の精神状態では難しいものがある。
今はあの二人はちょっとダメだ...
言わせなかったけど、あの後何を言うつもりか知っているのが余計に悪化させている。
いや、いい子なのはわかってるんだけどね...こればっかりは時間の問題だな...
あまり気分は良くないけど、木場が心配だしやっぱり原作通りの流れで行う事にした。
まぁ匙は誘うのやめてやるか...可哀想だし...
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俺は次の日出かける事にした。アーシアには、嘘をついて家に待機して貰った。
ごめんアーシア...でも巻き込めないよ...
聖剣コンビにも会わせたくないし...
小猫ちゃんも別にわざわざ呼び出してまで関わらせる事はないだろう。
承諾を得るだけなら俺一人で充分だ...
一時間後...
見事に小猫ちゃんに捕まった。運命かな?
「....イッセー先輩から不穏な感じがします。何するつもりだったんですか?」
「いえ...別に...」
「....嘘ついてもわかりますからさっさと答えて下さい。」
「はぁ...俺は今から、あの教会の二人に聖剣破壊の許可を貰おうと思ってる。三本も奪われているんだし、一本くらいはやらせて貰えるかもしれないだろ?確実に向こうの手が足りないのはわかってるんだから...」
「....その一本を祐斗先輩に破壊して貰うって事ですか?」
「そう。一本だけでも破壊できれば少しは溜飲も下がると思うんだ...」
「...イッセー先輩にしては悪くありませんね。その作戦乗ります。」
「ほんと?ただまぁ問題があるんだが...」
「...あちら側が許可してくれるかどうかですね...?難しいかもしれませんね...」
「あぁ...俺はただでさえ、ゼノヴィアってやつと喧嘩しちまってるし、むしろ関係悪化もありえる... けどまぁ一応やるだけやっとこうかなって...」
「...そうですね。何もできないのは...嫌です...」
「じゃあ探すか...」
俺は小猫ちゃんと二人を探した。
確か物乞いをしてたはず...物乞いは失礼か?まぁいいや...大分目立ってるはずだ...
数十分後...
「これだからプロテスタントは異教徒だって言うんだ!価値観が違いすぎる!!」
「何よ!古臭いしきたりに縛られてるカトリックの方がおかしいわ!!」
宗教戦争を道のど真ん中で行う聖剣コンビを見つけた。
何やってるんだ...
「なぁお前ら...」
「イッセーくん!?どうしてここに...?」
「兵藤一誠...」
「俺の話を聞いてくれるなら飯奢ってやるから、着いてきてくれないか?」
「なんだと?私が悪魔の施しなど...」
グーと大きな音がなった...
「ほれほれ、店の商品ならなんでも食っていいぞ?」
「くっ!!悪魔めっ...!!」
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あっさり陥落したこいつらは一心不乱に飯を掻きこむ...
まずい...余裕持ってるつもりだったけど金がなくなるかも...
「ふぅ、落ち着いた。悪魔に救われるとは世も末だな。」
「ご馳走さまでしたー。あぁ主よ、心優しき悪魔達にご慈悲を」
イリナが十字を切った。
「痛って...」
「あー、ごめんなさい、つい十字を切ってしまったわ!」
ついで切るな...このやろう...
「で?話とはなんだ?食わせて貰った以上、約束は守ろう」
ゼノヴィアが切り出す。
「そうだな、まずはお前に謝るよ。昨日はすまなかった。俺にとってアーシアは誰よりも大切な人だから、アーシアが傷つきそうな事を言いそうなお前らを見て、ついカッとなってしまったんだ。」
「なるほど?...うん。謝罪は受け取ろう。で?まさかそれだけじゃないだろう?」
「あぁ...エクスカリバーの破壊に協力したい。一本だけでも構わない、任せてくれないか?」
二人は驚いたような顔をした後に、お互いの顔を見合わせていた。
「...そうだな、一本くらい任せてもいいだろう。破壊できるのならね。ただしきちんと変装してくれ。君たちと関わりがあるようには上にも、敵にも思われたくない。」
「あぁわかった。ありがとう」
「いやいや礼には及ばんさ。こちらも願ったり叶ったりだ」
「ちょっとゼノヴィア!いいの?悪魔の力を借りるなんて...」
「悪魔の力がダメなら、ドラゴンの力ならいいか?」
俺はブーステッド・ギアを回りに見えないように起動する。
「なんと...かの赤龍帝がこんな極東の地に居たとは...しかし、なるほど...?屁理屈だが、一理あるな?」
「ちょっとゼノヴィア!そんな適当な...!あなたの信仰心って少し変だわ!」
「変で結構。私の信仰心は柔軟に変化する物なのでね...それに、正直私達二人では限界が見えていた。勝算を少しでも上げて生存することもまた信仰であると私は考えるが...?」
「それはそうかもだけど...」
「よし、なら決定でいいか?」
「構わないとも」
「じゃあ、もう一人仲間を呼ばせてくれ」
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「話はわかったよ...正直、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね。」
「前回の話し合いでも随分と殺気を放っていたが、言ってくれるね。はぐれなら即刻切り捨てていたよ?」
ゼノヴィアと木場がバチバチだ...こえぇ...
そういえば、聖剣計画の首謀者の名前がわかるのってここだっけ?
まずいな...木場と聖剣計画の関係なんて二人は知らないぞ?
俺がフォローしないとか...?
「あぁと...木場は、聖剣使いを研究する施設にいたんだが、見込み無しって事で仲間がみんな殺されたみたいでさ...それでエクスカリバーに恨みを持ってるんだよ...」
「イッセーくん、どこでそんな話を...はぁ..部長だね?それで?なんで今そんな話をするんだい?」
木場がこちらを睨む。
うっわ木場怖いよやめて...
「こいつらは教会関係者だ。なんか木場の知らない情報もあるかもじゃん。教えて貰おうぜ?」
「ふむ。いいだろう、その事件は私達の間でも最大限嫌悪されたものだ。処分を下した責任者は異端の烙印を押され、いまや堕天使の手下となっている。」
「堕天使だって?その者の名は?」
「バルパー・ガリレイ...それが奴の名だ...」
「そうか...いい情報を貰ったよ。代わりに僕も情報を提供したほうがいいかな...僕は先日、エクスカリバーを持った男に襲撃された。名をフリード・セルゼン...」
アーシア殴った奴な。もう一回やっとくか...?
ゼノヴィアからフリードの略歴が語られる。まぁ天才エクソシストだったけどやりすぎたから異端認定ってことだ。あいつは戦闘狂の快楽殺人鬼だからな...
「うん、了解した。お互い、いい話し合いができたね。ではこれからエクスカリバー破壊の共闘戦線と行こうではないか。」
ゼノヴィアが連絡先を書いてよこした。
「何かあったらここに連絡をくれ。」
「わかった。俺の番号は...」
「ん、イッセー君の番号は私がおばさまから頂いてるから大丈夫よ?」
「そ...そっか...わかった!じゃあそういう事で。」
「それではまたな、赤龍帝、兵藤一誠」
「まったねー!イッセー君!」
二人を見送った俺達は一息ついた。
あー疲れた...精神的に...
「イッセーくん、どうしてこんな事を...」
「どうしてって、そりゃお前が居なくなったら悲しむ奴がいっぱいいるからだよ。かといってお前の気持ちを蔑ろにすることもしたくないし、いい折衷案だろ?」
あまり納得していなさそうだったが...
「...祐斗先輩、私、先輩が居なくなるのは...嫌です...お手伝いしますから...居なくならないで」
小猫ちゃんが木場にしがみついてそう呟いた。
目には涙が浮かんでいる。
これをされたら男なら受け入れるしかあるまい。
俺もアーシアにそんな事されたらなんだってしちゃうぜ。
「まいったな...小猫ちゃんにそんな事を言われたら僕も無茶できないよ...わかった。今回は皆の好意に甘えるよ...真の敵もわかったことだしね...」
木場の顔に少しはいつもの光が戻ったようで少し安心した。
ふぅ...なんとかなったな...
ああああもう疲れたぁぁぁぁああああ!!!
アーシア欠乏症だ...家に帰ったらアーシアにいっぱい甘えてやる...!!
なおアーシアはクラスの子と出掛けたようで、俺は一人寂しく自分を慰めた...