12月24日クリスマスイヴ。今日はCiRCLEでクリスマスライブが行われる。喧嘩して以降弦巻邸へ行ってないのでどんなことをするか分からないのだ。だが何も言うことは出来ないのでただ見るしかない。奥沢が何をするか分からない。その証拠にほかのバンドの演奏が一切耳に入ってこないのだ。
しばらくするとハロハピの演奏が始まる。見ているとその演奏も演出もすごくいいものだった。そう思ったが一瞬、ミッシェルがぐらついた。誰も気づかなかったようだが確かに崩れそうになったのだ。多分脚をやったんだと思う。
演奏が終わって裏へ戻った直後、俺は迷うことなく奥沢のもとへ向かう。
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「美咲ちゃん凄かったね」
「たまたまできただけですよ」
私たちのライブが終わって戻ったあと、すごく足が痛い。花音先輩にも気づかれないようにしているけどすぐに何とかしたい。そう考えているとノックもなく扉が開いて誰か入ってきた。井戸原君だと気づいたが「何?」威圧的な言い方をしてしまった。だが彼はそんなことに構わず
「足見せてみろ」
と言ってきた。花音先輩は大丈夫だったが彼はごまかせなかったようだ。
「結構腫れてるな。ライブの後でまだ良かった」
と呟いた。花音先輩はすごくオロオロと心配していた。
「ここでやってもいいんだが弦巻たちがくるかもしれないな」
そう言って私を持ち上げた。この間みたいなおんぶではなく正真正銘のお姫様抱っこである。喧嘩しているはずなのに恥ずかしさとちょっとした嬉しさが込み上げてしまった。
スタッフルームへ行くと言うので向かっている途中、彼が口を開いた
「だから言ったんだ。無茶だって」
「だからって」
私はまた怒りが込み上げてきた。しかし彼が「でも」と遮る。
「俺はお前がやったあの演出がすごくいいと思ったんだ。べつにやるななんて言うわけじゃない。ただ危ないことをやって欲しくないだけなんだ。俺にはお前の考えが、お前には俺の考えが足りなかった。これで悪さは半々だな。でも俺も言いすぎたよ悪かったな」
その言葉を聞いて私は泣いてしまった。彼はただ私のことを思っていてくれたのだ。それがすごく嬉しいと思った。彼がオロオロしてまた謝ってくる。
「違うよ。私こそごめんね」
そう言って笑った。松原先輩は微笑んでいた。
~~
奥沢に応急処置をして一段落して椅子に座り込む。そういえばミッシェルに入る時の恰好は見たことがないので少しじっと見てしまう。その視線に気づき
「何?」
と聞いてくる。
「美咲ちゃんその恰好···」
そう指摘されて自分の姿を見て気がついた。体を隠し顔を赤らめて
「変態···///」
と言われた。
「いや、うん。ほんとごめん。珍しいからつい」
「変···じゃないよね?太ってないよね?」
「テニスやってるだけあって結構引き締まったいい身体してんなとは思った。それ以上もそれ以下もない」
そうして3人で他愛のない会話をする。そこで俺はあることを思いつき聞いてみた。
「奥沢、明日時間あるか?」
「あるけど···」
「じゃあ遊びに行こう」
いつも苦労している奥沢への労いだ。たまには羽を伸ばしてもいいだろう。
「じゃあ9時に駅前な」
そう約束を取り付ける。
そのあとロビーで出演したみんなと少し早いクリスマスパーティーをした。
~~
翌日のクリスマス。俺は駅前で奥沢を待っていた。あの後結構悶えたのだ。デートに誘ったと気づいてしまったからだ。だがその時にはもう遅かった。
「井戸原君」
後ろから声をかけられ振り向くと思考が止まった。奥沢だったのだが、その姿に衝撃を受けた。
「似合ってるかな?」
「うん」
いつも地味目な服を着る奥沢だが、今日は違った。落ち着いた色合いの服を着ていた。派手なものよりこういうものの方が良く似合う。
「でも結構珍しいな」
「井戸原君と遊びに行くって言ったらお母さん張り切っちゃって。夜に服を買いに行くほど」
「張り切ってその服をチョイスするあたりよくわかっているな」
「お父さんは何かすごい落ち込んでいたけど」
うん。これはあれだ。よく見るやつだ。
「行こうよ」
「そうだな」
そのあとは楽しい時間を過ごした。仲直りができたので余計に。買い物に行きたいと言うので、少し身構えたが彼女は思ったより長くなかった。
日が暮れて夜になった。
「お腹空いたね」
「うーん、夜のことまで考えてなかったからな。どうする?」
「どこでもいいよ」
「じゃあ近くのファミレスにするか。クリスマス感一切ないけど」
「あはは、そうだね」
カランカラン
「いらっしゃいませー、何名様ですか?」
「2名です」
「空いてるお席へどうぞ」
「何食べる?」
「私これ」
「じゃあ俺はこれとこれ」
それぞれ注文して来るのを待つ。
「井戸原君はどうしてライブハウスでバイト始めたの?」
「それをいまさら聞くか?特に理由はないけど」
「楽器でもやってるのかと思った」
「べつに弾けないわけじゃないけど」
そのあとは出てきた料理を食べて店を出た。少し歩くと
「綺麗···」
「ここってイルミネーションあったんだな」
「そこは君の方が綺麗って言わないんだ」
「彼氏じゃないやつに言われてもなんかあれだろ」
「そうでもないけど···」
何か言ったようだが上手く聞き取れなかった。
「そろそろ帰ろう」
「そうだな」
電車に乗り駅を降りて奥沢を送っていく。
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
奥沢の家に着き家に入ろうとするが
「奥沢」
呼び止める。彼女は振り向き「何?」と聞く。俺は持っていた紙袋を差し出す。
「はい。メリークリスマス」
「ありがとう。実は私も用意してあるんだ。はい」
「開けても?」
「いいよ」
入っていたのは手袋。当たり障りのない実に奥沢らしいものだった。
「ありがとう。じゃ、また明日」
俺は家へ帰る。その帰り道、空を見上げると澄んだ空にたくさんの星が輝いていた。
雨降って地固まる。2人の関係の距離は1度大きく離れ、それ以上に縮まったようだった。
映画始まったから見に行かねば。冬はまだまだ続きます。なんせイベントが多い