練習を終えて帰る支度をしていると呼ばれた。
「井戸原君!」
「なんですか丸山先輩」
見るとなんか頬を膨らませて怒ってるぞーと言いたげなポーズをとっているのだが······すみません。全く怖くないです。先輩がやるとむしろかわいいの部類です。
「君は私への敬いが足りないのでお話することがあります。なので今日は一緒に帰ること。いい?」
「そんなことないですよ」と「嫌です」を言いたいが食い下がるだろうと確信しているから仕方なく受け入れる。
「わかりました。じゃあお腹すいたのでラーメン食べに行きましょう。話はそこで聞きます」
「いいよ。でもなんで?」
「今日マスキがいるんですよ。あいついるとサービスしてくれるんで」
~~
「彩さん、どうする気なんでしょう」
「うーんでもなんか駄目な気がするよね」
「駄目よ日菜ちゃんそんなこと言ったら。彩ちゃんにだって先輩のプライドがあるんだから」
「でも千聖ちゃんだってそう思うでしょー?」
「彩サンハヤレバ出来ル人デス!」
~~
「ここです」
着いた先は『銀河ラーメン』。
「すごい名前だね」
「味は保証しますよ」
ガラガラ
「ラッシャイマセーって来たな」
「うぃーっす」
「わぁ、いい匂い」
「彩さん?」
「あ、マスキちゃんこんにちは」
「ちわっす。どうしたんですか?2人で」
「いやなんか話があるって言うもんで。それ以上もそれ以下もないぞ。あ、俺いつもの」
「あ、わわ私は」
「先輩ゆっくり決めてもらって大丈夫ですよ」
「うん。んーーー?じゃあ私塩にしようかな」
「で、改めて話というのは」
「そう!なんでいつもの私のことをポンコツって言うの!」
「え?ポンコツだからに決まってるじゃないですか」
「う~~」
「よくかみますし、ちょくちょくミスするし」
「う···私先輩だよ?」
「ええ。学年だけ」
「だったらなんだと思ってるの!?」
「愛玩動物?」
ガーン
「なんか若干放っておけない感じが」
「もっと敬ってよー」
「だったらもっと威厳を持ってくださいよ」
それを聞いた丸山先輩は頑張るぞーというようなポーズをした。しかし俺はそれを見て
(あ、だめそう)
と思いながら出てきたラーメンをすすった。
~~
ラーメン屋を出て家まで送っていく。日が沈むまでが長くなったといえどさすがに女の子+アイドルを1人で帰らせるのは気が引けた。気がつけば何故か車道側を歩いていたのでそっと交代する。すると次の瞬間車が横を通過して行った。
「あ、ありがとう」
一瞬の出来事に戸惑いながらもお礼を言う。しかし住宅街に入った次の瞬間、何故かまた位置の交代をした。何故だろうと彩は疑問を浮かべるがまったく分からない。
ワン!
鳴き声がしたので顔を向けるとちょうど散歩中の犬が駆け寄ってきた。
「わぁー。かわいいわんちゃん!」
ワン!ワン!
「だっこしてみてもいいですか?」
「ええどうぞ」
「ありがとうございます。うわぁー!もふもふー!かわいいね井戸原君···あれ?井戸原君どこ?」
気づくと蓮がいなくなっていた。辺りを見回すと遠くの電柱から遠巻きにこちらを見ていた。その距離10m。
「どうしたのー?」
と蓮に近づこうとするが全力で来ないでというジェスチャーが帰ってくる。何かに気がついた彩はそれを無視して近づき、駆け寄った。それに気づいた蓮はさらに距離をとる。だが追いかけることをやめない。すると、
「あ!」
犬が先輩の腕から飛び出した。俺は青ざめた顔で全力で逃げた。火事場の馬鹿力とでも言うのだろうか。陸上選手のびっくりの速度だった。
「なんか、ドッキリの時よりも速いような···」
~~
犬を飼い主に返した俺たちは再び先輩の家へと向かっていた。
「井戸原君犬ダメなんだねー」
「あのまま帰ってやろうかと思いましたよ」
「ごめんね。弱点見つけたからつい···」
「威厳も何もあったものじゃないですね」
「う···それは···でもさっきだって見せようと思ったのに」
「なんのことです?」
「気づけばレシート持ってってお会計済ませてるんだもん。奢ろうと思ったのに」
「いやだってまぁ誘ったの俺ですし」
「普通先輩が払うでしょ」
「中学で稼いだはいいんですけど使い道があんまないんで使える時に使いたいんですよね」
「何その贅沢な悩み」
「はは」
「あ、私の家ここ」
話しているうちについたようだ。
「じゃあね井戸原君。送ってくれてありがとう」
「どういたしまして。じゃあお疲れ様でした」
~~
翌日、白鷺先輩と会った。というか待ち伏せされてた。
「なんですか······」
「昨日のことは彩ちゃんから聞いたわ。はっきり威厳がないと言われたと」
「言いましたね。でも白鷺先輩も少しは思ってるんじゃないですか?」
「それは······」
「でも、人としてはちゃんと尊敬してますよ。先輩としてはと聞かれるとなんかあれですけど」
「どういうこと?」
「誰かを裏切って失った信頼を取り戻すのは難しいです。それでも丸山先輩は諦めずにいつも、どんなときであっても声を張り上げ続けました。それってやろうと思ったからといってそう簡単にできるもんじゃありません。でもあの人はそれをやることが出来た。やがてその言葉は誰か1人のこころに響いて、それがどんどん周りの人に伝播してって、多くの信頼を取り戻して今活動を続けることができている。それはとてもすごいことだと思います。そんな人を、尊敬できないわけがありませんよ」
「蓮くん···」
「あ、でもこのことは···」
「よかったわね。彩ちゃん」
「え?」
丸山先輩が物陰から出てきた。
「い、いつから」
「そ、その···最初···から」
「何やってくれるんですか白鷺先輩」
「うふふ」
「えへへー。私ってすごいんだー。つんつん。つんつん」
丸山先輩が営業じゃないスマイルで俺の頬をつついてくる。
「ちょ、やめてください。タコ口にねじ込みますよ」
「えへへー。照れ隠しってわかってるから怖くないよー。つんつん」
まさかこの人に遊ばれる日が来るとは思わなかった。しかも白鷺先輩もすごくニヤニヤしてくる。しかも場所がCiRCLEなもんだから
「ねぇねぇ市ヶ谷さん。あれって浮気?」
「いや、どっちかっつーと一夫多妻って感じがする」
とかいうめちゃめちゃ不穏な言葉が聞こえた。そもそも誰とも付き合ってねーから。それと
「丸山先輩いい加減にしてください」
しばらくやめてくれなかった。