お昼休み、俺は氷川先輩に呼び出された。
「井戸原さん。放課後、生徒会室に来てください。来なければ、私はあなたを許しません」
「蓮、お前なんかやったか?」
「心当たりがあるにはあるけどあの人には直接的な関係はない」
なんで、揃いも揃って首を突っ込んで来るんだ······
~~
放課後。本当ならさっさと帰りたいところなのだが仕方なく生徒会室に向かう。扉を開けると氷川先輩、白金先輩、市ヶ谷、戸山、奥沢がいた。
「来ましたね。あなたのことは奥沢さんから聞きました」
「奥沢お前···」
「気持ちは分かりますが、避け続けるのは違うと思います」
「は?」
次の瞬間、そのたった1文字で中の空気が凍った。
「わかる?何が」
なんというか、押してはいけないものを押してしまったようだった。
「えと、その、私も日菜と···」
「あんたは、自分と比べて煩わしさから妹を遠ざけて逃げただけじゃないか。その時のあんたの顔を見て、言葉を聞いて、日菜先輩が何を思ったのか考えもしなかったろう。あの日突然体が動かかなくなった。医者に行けば後遺症が残るかもしれないと言われた。もう二度と、音楽は愚か、何も出来なくなると思った絶望がわかる?この話を聞いたやつと同じだよ。何も知らないくせに安い同情で口ばかり。もううんざりだ!!」
パァン
軽快な音が響き、俺の視界がブレる。顔を戻すと腕を振り抜いた奥沢がいた。あとから頬にくる痛み。奥沢にはたかれた。
「ってぇな。突然」
「ふざけんな!!」
奥沢が怒鳴った。
「人のこと散々言っておきながら、あんただって燐子先輩から逃げてるじゃん!そんなの···そんなの井戸原くんじゃないよ···いつもの、ぶっきらぼうで、優しい井戸原くんでいてよ······」
怒鳴り声も最後の方は泣き声に変わっていた。我ながら、愚かだと思う。だからこそ、向き直った
「ひとつ、聞いてもいいですか?」
「うん」
「どうして、怒らないんですか?俺は、あなたを裏切ったのに。できるならば、俺はもう会いたくなかった。でも会ってしまったなら、俺は責め立てて欲しかった。その方が楽だから」
少し、沈黙が続く。
「無理だよ。確かにね、最初はどうして来てくれないの?って思ったよ。でもその夜に知ったから。君が来なかった理由を知ったから」
「!!知っていたんですか?」
「うん」
「ああ。ほんっとうにバカだ。俺は」
涙が頬を伝う。そっと抱きしめられて、俺は少し泣いた。
~~
「軽率なこと言ってすみません」
氷川先輩に頭を下げた。頭に血が昇ったとはいえ、言いすぎた。
そして奥沢に向き直る。
「奥沢」
「何?」
「ありがとう」
「うん」
「そうだ。イっくん」
「なんですか?白金先輩」
「·········」
「いやほんとになんですか」
「昔みたいに『リンちゃん』って呼んでくれないの?」
「嫌です」
「いいじゃん」
「断固拒否します」
「むー。じゃあそれは後で話すとして、明日一緒に行って欲しいところがあるんだけど」
「わかりました」
~~
翌日、2人であるところにやってきた。
「ここって」
そこは2人が通っていた音楽スクール。
「こんにちはー」
声をかけると奥から1人の女性が出てきた。
「先生、お久しぶりです」
「あら燐子ちゃん。綺麗になったわね」
「そ、そんな///」
「ご無沙汰してます」
「蓮くんもかっこよくなって。後、治ったのね。良かったわ」
「ありがとうございます」
「そうそう。準備してあるわよ。今の生徒たちにも聞かせていいかしら」
「もちろんです」
「え?どういうことです?」
「イっくん」
「はい」
「あの時出来なかった曲を今日、私と弾いてください」
「はい」
「雰囲気だけならプロポーズねぇ」
「先生、茶化さんでください」
~~
演奏は大成功。いい時間なのでそろそろ帰ろうということになった。
「ありがとうございました」
「いつ来てくれてもいいのよ」
「はい」
「そうだ燐子ちゃん。蓮くんを彼氏にしようと思わないの?かっこいいし、今彼女いないって言うし」
「はい。いいんです」
スクールを後に2人で歩く。
─私は彼に選ばれない事を知っている─
─もう、過去のことで俺はうじうじしてるつもりは無い─
─だから─
─前へ進もう─
ちなみにリンちゃん呼びに関して白金先輩が全く折れなかったため、
「2人きりの時だけにしてください·········」
ということになった。
次は番外編4話目