「ごめんなさい。それは、できません」
どれだけの勇気を出しただろう。自身の思い全てを乗せた告白を俺は迷いなく断った。今の俺に、それ以外の答えを持つことは出来ないから。
下げた頭が上げられない。時が止まったような静寂が心を締め付ける。
「やっぱり振られちゃったかぁ。井戸原くん、いつまでそんな体制してるの?」
「丸山先輩?」
予想とは正反対の声色に戸惑いながらも彼女の言葉に素直に従う。
「言ったでしょ?これはわたしのわがまま。そんなのがまかり通る歳じゃないってことはちゃんとわかってるよ」
嘘だ。今の告白は本気だった。それに今の声は俺にも分かるくらい震えて聞こえた。
「あれだけ見てればわかるんだよ。井戸原くんが、誰のことを想っているのか。最初から勝てるなんて思ってなかったんだ」
わたしの中で黒い感情が渦巻くのが分かる。そんなのは全て真っ黒な嘘。あの子が羨ましい。できるなら、あの子から彼の全てを奪ってしまいたい。でもその一方でそんなのは無駄だってちゃんとわかってる。
「わたしのこの気持ちは本物」
「ええ。ちゃんと伝わってますよ」
「でも、わたしじゃだめなんだよね」
「......俺は本当に尊敬しています。何があっても折れず、向き合い続ける心の強さを」
「本当に、井戸原くんは優しいな。うん、ごめんね。忙しいのに呼んで。まだやる事あるんでしょ?」
俺は何も言うことが見つからずに彼女に背を向けた。扉の前まで来た時、俺はふいに振り返った。
「彩さん、ありがとうございました。彩さんとの2年は、絶対に忘れません。そして、これからの出来事も一生忘れることはありません」
一礼をして教室を出た。
「うっ、ぐず。あぁ」
彼が視界から消えた途端に、涙が溢れてきた。彼の前で泣かなかったのは、わたしにしては上出来だった。
~~
扉を閉めてすぐ隣の壁に座り込んだ。すぐに彼女の涙声と嗚咽が聞こえてくる。この世は理不尽だ。誰が悪い訳でもないのに誰もが悲しみと後悔と罪悪感を抱えることになる。
塞ぎ込むように座っていると2つの足音が聞こえてきた。それは、
「井戸原くん」
「井戸原サン......」
「白鷺先輩。若宮...」
「やっぱりこうなっちゃうのね」
「押し付けるようですみません。あとは任せてもいいですか?」
「ええ。そのために来たんだもの」
「よろしくお願いします」
俺はその場を去った。
~~
扉の開く音が聞こえた。涙でよく見えない。彼だったらいやだ。こんなところ、見られたくない。
「彩ちゃん」
「彩サン」
聞き覚えのある声だった。
「千聖ちゃん。イヴちゃん」
わたしは抱きしめられた。この時、わたしは決壊した。恥じらいもなく、ただ千聖の腕の中で声を上げて泣いた。
「よく頑張ったわね、彩ちゃん」
「わたし、わたし...」
「彩ちゃん、泣くのはいいけど顔がすごいことになってるわよ」
「だってぇぇぇぇ」
「この後みんなが準備してくれた卒業パーティーがあるのよ」
「わかってるけど~」
「このままだと井戸原くんに盛大に泣き腫らした顔を見られるわよ」
「いや」
「それなら泣き止むのね。それに、あんまり引きずると絶対に気を遣われるわよ」
「じゃあいつも通りにしましょう?」
「うん」
~~
その後、蓮はあまりに仕事がおぼつかずに寝かされた。
(この後どんな顔して会えばいいんだろ)
自分でも中編で力尽きてる感じがしました。