「もぉー!タイミングが悪すぎる!」
服を選びながら叫んでしまう。
「どうしたの?美咲。うるさいわよ」
「お母さん......実は......」
~~
あたしは部屋でうなだれていた。あの日、井戸原くんがいなくなった日から何度かメールや電話をしてるけど出やしないし返信もない。半ば諦めていたからこそ気づかなかった。待っていたはずの、井戸原くんからの電話に。それに気づいたのは午後3時で、代わりに音声メッセージが入っていた。その内容を聞いてあたしは部屋で1人で赤くなって焦った。だって言われた内容が
『蓮です。奥沢、心配かけてごめん。急で悪いけど、15時に送った写真の場所に来て欲しい。どうしても、お前に会いたい』
「今じゃん!やばい着替えなきゃ」
「.........っていうわけなの」
「あら~。そうねぇ...これなんてどう?」
「じゃあそれと、これにする」
「いいじゃない」
「じゃあ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。あ、そうだ。美咲」
「?」
「お父さんには上手く言っておくから、最悪帰ってこなくても大丈夫よ」
「?.........!ちょっと!!」
お母さんの言いたいことを理解したあたしは顔を赤くしながら家を出た。井戸原くんはそんなことしない......それとも、あたしがそれを望んでいるのかもしれない。
着いたのは4時だった
~~
午後3時。俺はとある場所でベンチに座っていた。
(奥沢が来ない)
普段ならこんなことはまず無い。メッセージにはちゃんと15時だと言ったはずだから俺が間違えたということは無いはずだ。何かあったのか?もう少し待ってみよう。とか考えてたら既に4時になっていた。珍しく気づいてないんだろうなと思って帰ろうと立ち上がると突如突風が吹いた。
「っつ」
収まったところで顔を上げると、視線の先に、いた。まるで、たった今神隠しから開放されたかのように。気づけば俺は駆け寄って、抱きしめていた。
「奥沢......」
「ちょ、井戸原く....」ギュ♡
無意識に少し力を強めたことに気づいて抱き返して来た。それに気づいた俺は慌てて奥沢を離した。
「あ、ごめん」
「ううん。おかえり、井戸原くん」
「ああ。ただいま、奥沢」
~~
「ごめんね、遅刻して」
「いや、俺も本当急に呼んだからな。来てくれただけでも嬉しい」
「いつ戻って来たの?」
「お昼すぎくらい」
「そっか」
なんと言うか、聞きたいことは他にあるのに踏み込んでいいのか分からなくて躊躇してる感じだな。
「なあ奥沢」
「なぁに?」
「俺に山ほど聞きたいことがあるだろうし、俺も言わなきゃいけないことがある。でも、今は俺の話を聞いて欲しい」
「うん」
「奥沢、俺は、お前のことが好きだ」
「うん」
あ、ちょっと泣きそう。
「1年の後半には、そう自覚してた。でもお前を危険な目に合わせかねないから言えなかった。でも、全部終わらせた。だから言う」
あたしは彼の次の言葉を静かに待った。
「奥沢、これから先も俺と一緒いてほしい。この先の人生を俺の隣で一緒に歩いてくれ」
それはもう、告白ではなくプロポーズだった。でも、
「蓮くん。これだけは約束して。もう二度と、何も言わず居なくならないで」
当たり前だ。もう二度とそんなことするものか。
「ああ、約束する」
「うん。これからもよろしくね」
~~
「この後どうする?」
「どうしようか?」
俺の問に困った笑顔で返す。あーやばい。もう全部が愛おしい。若干理性の効かなくなった俺は
「奥沢」
「な...んん!?」
その愛おしい唇に自分の唇を重ねた。突然だったが抵抗はなかった。
「ぷは。どうしたの!?」
そりゃ驚くわな。だがそんなの理由はひとつしかない。
「いや、全部可愛いからつい」
「もう.........ばか///」
その顔が見れただけで満足である。
「ねぇ、ちょっと意地悪になってない?」
「よし、飯でも食いに行くか」
「ちょっと!!」
~~
「美味しかったー」
晩御飯を食べている間に機嫌は直ったようだ。
「そろそろ帰るか」
「......うん」
電車に乗って最寄りに着き、少し歩くと
「冷たっ。え?」
雨が降り始め、すぐに強くなった。すぐさま美咲の手を取って家に向かって走り出した。
「あーびっちゃびちゃ。タオル持ってくから待ってて」
「うん」
洗面所から持ってきたタオルを渡し、美咲を部屋にあげた。
「今風呂沸かしてるからこれでも飲んでな」
「ありがとう」
一応は平然を装ってはいるが、正直心中穏やかでは無い。なんというか、濡れてるせいで割と目のやり場に困るのだ。
「なぁ美咲...」
話しかけようとしたとたんに風呂が沸いた。ナイスタイミング。
「先入ってきな。着替え用意しとくから」
「わかった。ありがとう」
美咲を風呂へ促し、着替えとバスタオルを用意する。しばらくすると湯気を上げながら俺の服を来て出てきた。これはこれでちょっと困る。
「じゃあ俺も入ってくる」
そう言って逃げるように風呂へ向かった。
~~
風呂から出ると美咲が正座をしながら大人しくしていた。
「テレビでも見てれば良かったのに。まぁ一応乾燥機あるから服はすぐ乾くだろうし。そうしたら家まで送ってくよ」
そう言うと何故か抱きついてきた。
「それは大丈夫」
「え?」
「帰ってこなくてもいいって言われてるから」
おーい。嘘だろー。
「ねぇ蓮くん。寒いね」
「.........そうだな」
「あっためてよ♡」
そう言った瞬間、美咲が部屋の電気を消した。
聴こえるのは雨音だけ。目に映るのは、美咲だけ。俺は、こいつに本気で惚れていると感じる。同じはずなのに、さっきとは違う艶めかしいその唇に再び重ねた。
外では雨が優しく、時に激しく、振り続けていた。
一旦次は番外編はさみます。