アサシン(英霊)なオリ主in名探偵コナン   作:ラムセス_

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8 赤井の過去、破

 赤井秀一は実に何気ない動作で辺りを見まわした。

 

 まだ日は高い。

 クリスマスに向けて電飾をふんだんにあしらったケヤキ並木はずっと向こうまで続いており、夜はまだ遠いのにも関わらず多くの観光客で賑わっている。

 目の前には自動販売機。

 赤井は小銭を探すようなそぶりをしながら注意深く辺りを見まわしている。

 

 追手はいない。確信できるほどではないが、挙動が怪しい人物も服装があからさまにこの場にそぐわない人物もいない。

 300メートルほど前から同じ女性が後ろを歩いているが、足取りは素人そのもの。偶然の一致だろう。

 

 赤井が緊急避難用のセーフティーハウスから出発したのは数時間前のことだ。

 仲間の不手際により諸星大がFBIから送り込まれたNOC――ノン・オフィシャル・カバーであると組織に知られ、赤井は任務失敗による緊急避難を余儀なくされた。

 組織が動き出すより前にこの情報をFBIから得られたのは僥倖だった。

 下手をすれば何も分からないままに始末されていたかもしれないのだ。

 先手を打ってできる限りのことはやった。あとはそれを確実に遂行し、情報を持ち帰れることを祈るのみ。

 

 赤井は潜入捜査官として逆監視の心得もある。

 監視を見つける基本は「TEDD」だ。

 「 Time(時間)」「 Environment(環境)」「 Distance(距離)」「 Demeanor(立ち振る舞い)」。

 この四つに注意を向け、偶然の一致を探るのだ。

 偶然の一致が時間や距離に関係なく繰り返されるようなら、それは偶然ではない。

 監視員を仲間の下まで引っ張ってくるようなヘマは犯せない。

 ジェイムズ達FBIの人員との合流を前に、赤井は神経を張り巡らせた。

 

 不規則に道を曲がって大通りに出ると、目の前は大きな土産物屋だ。

 3か所の出入り口と隣のビルへの通用口が存在するこの建物は、追手をそうとは悟らせずに撒くのに非常に適している。

 ふらり、とごく自然に見えるようにその土産物屋に入り、不自然にならない程度に一巡。

 クマの顔が描かれた可愛らしいモンブランやヤケに派手なポップアップの表示されたチョコレートケーキを通り過ぎ、もう一度周囲を確認する。

 

 そのとき、「諸星大」名義の3つ目の携帯がポケットの中で小さく振動した。

 組織に知られている番号の携帯はすでに全て破棄してある。

 これは万一のために控えてあった予備機であり、携帯会社ぐらいしか知る者のいない番号のはずだ。

 赤井は不審に思いつつも顔には出さない。

 あらかじめ調べてあった土産物屋内の監視カメラの死角に入り、携帯を開いた。

 

 短い通知音はEメールの着信を示していた。

 差出人のメールアドレスは見たこともない。

 タイトルも空欄で、本文も空欄。ただJPEGの添付ファイルが一つあるだけだ。

 

 予備機には個人情報を示すものは何一つ入っていない。

 念のため本局で使っているセキュリティを走らせてから、赤井はその画像を開く。

 

「……これは」

 

 暗い室内を映した平凡な写真だった。

 カーテンが閉められ、電気の消された部屋は昼間のように見えるが薄暗い。

 どこにでもある型のノートパソコンが机の上に出しっぱなしになっており、その隣には可愛らしい小さなテディベアが置かれている。

 飾り気のない家具達はどれも量販店で見るようなありふれたもので、床に置かれた観葉植物は値札が付いたままだ。

 

 それはまさに、先日引き払った諸星大のセーフティーハウスを映した写真だった。

 奥にわずかに移る影は銃を構えている。

 体格からして男だろうか。まるで隠し撮りをされているかのようだ。男は写真を撮られたことに気づいていない様子である。

 

 赤井は困惑した。

 メールの送り主の意図が分からないのだ。

 予備機のメールアドレスを知られたのは痛手だが、これもすぐに破棄される予定のもの。そこまで重要な情報ではない。

 セーフティーハウスも引き払い済みで、赤井につながる情報は何一つ存在しない。

 わざわざ組織がセーフティーハウスを捜索している写真を送って、いったい何の意味があるというのか。

 

 赤井は携帯を閉じると、念のため通用口から隣の建物に移ってから反対の通りに出た。

 200メートルほど先にあるコンビニに入り、トイレに寄る。

 個室に鍵をかけた後、赤井は素早くトートバッグからスニーカーと数日前の新聞紙を取り出した。

 厚手のアウターを脱ぎ、肩に新聞紙を重ねて詰める。これは体格を変え、ウエストを細く見せるための変装術の一つだ。

 靴も黒の無地から白を基調としたスニーカーに変更。

 最後にリバーシブルのアウターを裏返せば完璧だ。

 

 尾行とは「色」である。

 監視を続けるとき、人は自然と「色の組み合わせ」をパターン化して追っている。

 距離をとって監視しなければならない以上、顔や仕草などの細かい部分を注視することができないためだ。

 だからこそ、色を変えるというのは顔を偽るよりずっと簡単に人を撒く効果を得られるのだ。

 

 これまで履いていた靴をトートバッグにしまいこみ、赤井はさりげなくコンビニを出た。

 相変わらず監視員らしき人物はいない。

 通りを先ほどとは逆に進み、少し先にあるバス停へ向かう。

 1分後がバスが来る時刻だ。これも逃走経路の一つとして事前に確認してある。

 バス停へ着くのとほぼ同時にバスが来ることだろう。

 

 用心深く自身の特徴を変えて、居るかもしれない監視に備える。

 相手は巨大な裏組織。警察と違い表立っての捜査はできないが、街に目を光らせることはできる。

 先ほどのメールが何なのかはまだ判然としないが、これで遠目からの追跡があったとしても撒けたはずだ。

 

 赤井が人通りの多い東都の道を歩いているそのとき、再び携帯がメールの着信を知らせた。

 あの謎の写真が送られてきてからわずか8分。

 そこはかとない不安感を押し殺し、赤井はバスに飛び乗った。

 

 バスなどの公共交通機関を利用する際は、乗客を観察できるように後方に移動するべきだ。

 また、万が一に備えすぐに脱出できるドア付近に立つことも忘れてはいけない。

 自分の後に続いてバスに乗ってくる人間はいなかった。

 バスの後方にあるドア横の手すりを掴み、赤井は携帯をポケットから取り出した。

 バスが緩やかに発車する。

 

「…………」

 

 それはやはり暗い室内を映した写真だった。

 テーブル一つ置いてあるだけのワンルーム。白い陰影が付いたチェック模様の壁紙は今風で、フローリングに似せた床は真新しい。

 大きな窓には真っ黒な遮光カーテンがかけられており、部屋に似合わない重苦しさを漂わせていた。

 

 そこは3時間前まで赤井が居たはずの即興の張り込み部屋だ。

 向かいのセーフティーハウスが良く見渡せる3階にある一部屋。

 そこでつい先ほどまで赤井は黒の組織からの追手の出方をうかがっていた。

 その部屋をとった名義も電話番号も偽造だったが、組織を撒くために諸星大の偽名は使っていない。これほど早くに突き止められるほど証拠を残していないはずだ。

 

 赤井はすぐにでもバスから降りたくなる衝動を堪え、車内の様子を慎重にうかがった。

 車内は観光客らしき若い男女のカップルと初老の男性、高校生らしき制服姿の4人組がいる。

 なにも異常や不審な点は見受けられない。

 

 そうして周囲に気を張っている間にも、3度目の着信に携帯が震えた。

 タイトルも本文もない、画像データだけが添付されたメール。

 3回ともメールアドレスは違っていたが、それが同一人物から送られてきたことは明らかだった。

 

 メールを開くと、今度の写真は通りから建物を映したものだ。

 2階建ての和風の造りは瓦屋根の立派なものだが、所々鉄筋コンクリート製の独特な風合いが見え隠れしている。

 隣の4階建てのビルと2階で繋がっており、連絡通路が渡されている。

 軒先には大きく「みやげや」の看板。

 

 言うまでもない。

 そこは間違いなく先ほど赤井が逃走経路に用いた土産物屋だ。

 赤井は無言で携帯の詳細データを開いて確認した。

 送られてきた写真はつい先ほど撮られたものだと電子データには記録されている。

 まるで日記でもつけるように、写真を撮ってはすぐにメールに添付し、赤井に送り付けているかのように。

 

 これはいくらでも改ざん可能なデータだ。

 あらかじめ赤井の逃走経路を把握していれば、前もって撮っておいた写真のデータをPCソフトを使って弄り、その上で赤井に送ればいい。

 素人でもできる簡単な作業でこれと同じことが可能なはずだ。

 

 しかしそのためには赤井の逃走経路を完璧に把握していなければならない。

 もちろん、逃走経路を書面に起こすなどという間抜けなことを赤井はしていない。

 この東都の地形は入念に調査してある。

 人通りの多い道、バスの通る時刻、信号の数、監視しやすいポイント。

 全てを加味して脳内で逃走経路を複数構築し、その中の一つを選んだのだ。

 ここまでピンポイントに先回りできるはずがない。

 

 赤井の背中にじっとりとした嫌な汗が伝う。

 

 携帯が再び無機質なバイブレーションの音を響かせた。

 バスは高速道路の下を通過し、事前に調べたルート通りの道をつつがなく運航している。

 赤井はメールを開いた。

 画像はなんの変哲もない洋式トイレを映している。

 画面の右奥に忘れ物らしきピンクの水玉模様の傘が置きっぱなしだ。

 備え付けの棚の上にはトイレットペーパーが2つ積んであり、いつ紙が切れてもいいように準備してある。

 

 赤井は携帯を閉じ、全神経を研ぎ澄ませた。

 それは赤井が変装をしたコンビニのトイレの個室の写真だった。

 本文もタイトルもないが、ここまで来ればその意図は明確だろう。

 

 「見ているぞ」。

 

 無言の重圧、無言の視線。

 粘度の高い純正の脅迫が、このメールには込められている。

 やはり車内に変わった様子は感じられない。

 

 目的の場所まで残りはおおよそ10分。

 そこでバスを降り、偽名でとった月ぎめの駐車場から逃走用車両に乗り込む予定だ。

 あとはGPSなどの追跡に気を付けながら郊外のひとけのない合流地点に向かうだけ。

 あと少し、あと少しで逃げ切れる。

 しかし、その10分は永遠にも等しい長さを持っていた。

 

 ここまで読まれているのだ。

 バスの車内に異常がなくとも、逃走用車両に先回りされている可能性も考えるべきか。

 休日の昼時、和やかでいつも通りに見える街並みを背景に、赤井は隠しようもない心理的重圧を持ち前のポーカーフェイスでしのぎ切っていた。

 

 5通目のメール。

 バス停の赤い看板が大きくアップで映されている。

 

 6通目のメール。

 数分前に通り過ぎた交差点を歩道から映した写真だ。

 

 7通目。

 己の乗るバスが遠景に映りこむ。

 

 8通目が届く前に、赤井は目的の駐車場の二つ前のバス停でバスを降りた。

 もうだいぶ郊外まで来ている。

 一面の住宅街は都心と比べて明らかに人通りも少ない。しかし田舎というわけでもないため、飼い犬と散歩する女性やジョギングにいそしむ青年などがまばらに見える。

 

 もし本当に赤井の逃走ルートが読み切られているとするなら、この予定外の行動は追跡者にどう響くだろうか。

 内心の焦りを抑え、逸る気持ちを殺し、赤井ははた目にはごくごくリラックスした様子で歩き出した。

 相変わらず尾行されている様子は欠片もない。

 ドローンなどの飛行する追跡装置の気配もない。

 不規則に十字路を曲がったりカーブミラーのある交差点にワザと入ったりして周囲を確認したが、不審な点は見つけられなかった。

 

 バスを降りてから、不気味なまでにメールの着信がなくなったのが気がかりだ。

 再三己の服などにGPSや盗聴器が取り付けられていないかチェックしたが、そのたぐいの装置は見つけられなかった。

 後ろから迫りくるように写真を送ってくることができたのは、逃走ルートをあらかじめ相手が知っていたのと自分にGPSなどの装置が取りつけられていたからなのだとも考えた。

 バスを降りてからメールが来ないのは姿の見えない追跡者がついに赤井を見失ったからだろうか?

 

 そう考えるには肝心のGPSが見つからないのが問題だ。

 

 冬の剃刀のような寒気が風に乗って赤井に吹き付ける。

 家々の窓は閉じられ、中では暖房がたかれていることだろう。

 いつの間にか空がうすら寒く曇っていた。

 この気温だ。降るとすれば雪だろうか。

 

 赤井の脳裏にあの優しくも強い女性の影がよぎる。

 昨日、本当は赤井はかの女性とショッピングモールでひと時の休暇を過ごす予定だった。

 前々から計画していたそれは、周囲の公園とイルミネーションを楽しんだ後8階のレストラン街で食事をするというものだ。

 彼女は実に楽しそうにお目当ての店を赤井に話して聞かせた。

 ここの服は赤井に似合うだろう、この店のサングラスなどをかけたら印象が変わるのではないだろうか。

 急な任務で行けなかった店の数々。

 それは紛れもない彼女――宮野明美とのデートの予定だった。

 

 赤井は彼女のことを愛していた。

 始まりこそ利害に絡んだ潜入捜査官としての故意だった。

 それがいつからだろうか、彼女の誠実な優しさに、妹への一途な愛情に、生い立ちからくる儚い運命に、赤井は本当の恋をした。

 

 潜入先で恋をするなど、捜査官として下の下の下。

 自分の心がどう変わろうと、宮野明美ははじめから利用されて捨てられる定めだった。任務のために組織の一員として殺害した罪のない人々の一人と変わらない。

 NOCを引き入れた罪で、彼女は近々組織に処分されることだろう。

 それもこれも根本的には組織を潰すためには犠牲を顧みない自分のエゴだ。

 赤井はそもそも国のため国民のためなどとは考えていないし、よって彼女という犠牲は自分が出した犠牲である。

 

 そうして折り重なって山となった犠牲を前に、自分が失敗するわけには行かないのだ。

 赤井は自分の傲慢に過ぎる思いを内心で笑い、ひとつ大きく息をついた。

 逃走用車両もおそらく読まれていることだろう。

 何が仕掛けられているか分からない車に乗るなど愚の骨頂。

 逃走経路を素早く立て直し、気を引き締めなおして赤井は歩を速めた。

 

 もう昼過ぎだというのに、あたりに冬霧が立ち込め始めている。

 薄く翳り始めた住宅街に、霧が重くのしかかっているようにも見える。

 

 赤井はふと思い出した。

 そういえばスコッチが殺されたあの日も、濃く深い霧が立ちこめていた。

 わずか数メートル先すら見通せない、迷宮のごとき人を拒む魔霧が広がったあの日。

 血だまりの中に佇む彼の暗殺者は、どんな姿をしていたのだったか。

 

 ポケットの中で携帯が震えた。

 周りの人影はいつの間にか居なくなっていた。

 ただ一人、霧の中で赤井は携帯を開く。

 

 

 <1件の新着メールがあります>

 </aw"e$#fser$)#'$;@assass.co.ir>

 <件名を入力>

 <このメールに本文はありません>

 

 

 画像は真後ろから赤井の姿を映していた。

 

 

 

―――――

 

 

 いやはや、本物のスパイを観察するのは実に勉強になる。

 特に意味もなく写真をパシャリ。

 撮った写真をメールに添付し、送信する。

 

 さて、ここまで私がやってきたことは簡単である。

 ハトさん達に赤井さんを追ってもらう。

 それを魔術で視界接続して眺めつつ、追走の旅に出る。

 時折日記感覚で写真を撮って、イランで取得したメールアドレスから送信する。

 以上。

 

 安心安定の「気配遮断:EX」により私の姿を捉えられるものは誰一人として存在しない。

 ハトさんにも軽めの視覚攪乱の魔術をかけてあるため、一般人では見つけることは困難だろう。

 そうして隠密性を高めた後はのんきな散歩気分で歩けばいい。

 

 角を右に四回曲がったり道路をくねくね横断したりと赤井さんの足取りは追ってみるととても奇妙だ。

 土産物屋も相当に人が多い人気店だったらしく、レジに並ぶ長蛇の列に行動を遮られて苦労した。

 赤井さんが携帯を開けたのと同じ位置に実際に立ってみたのだが、これまた綺麗に監視カメラの死角となっている。

 これを真面目に追跡するのはかなり苦労させられたことだろう。

 

 ちなみに、監視カメラのジャックや諸星大名義のメールアドレスを探り当てたのは我が空中庭園の誇る最新設備、フォトニック結晶製パソコンによるものだ。

 フォトニック結晶とは、科学的にきちんと意味を持つ用語だったりする。

 説明は専門知識を要するので省こう。具体例だけ挙げるとするなら、綺麗な宝石として有名なオパールが天然のフォトニック結晶である。

 

 そして、フォトニック結晶をfate魔術で言い換えると、有名なものが二つある。

 賢者の石とムーンセルだ。

 ムーンセル・オートマトンは地球外生命体が残した超巨大なフォトニック結晶の塊だ。その機能を用いた演算は地球全ての歴史を再現しうるほど。

 また、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススは魔術でもって人工的にフォトニック結晶を生み出し、それに「賢者の石」と名付けた。

 賢者の石が極めて優れた魔術媒体足りうるのは、その信じられないほどの多量並行演算能力ゆえ。

 大雑把にまとめてしまえば、凄いコンピューターの役割を果たすのがフォトニック結晶なのだ。

 

 アトラス院はフォトニック結晶を作ることができた。

 仮にも神代の魔術師セミラミスの能力を持つ私とて、頑張ればできるのではないだろうか。

 

 実に軽率な試みだったが、これが意外にうまくいった。

 というか、考えてみればうまくいくに決まっていた。

 

 魔術師とは根源を目指すもの。根源に近づきさえすればできないことなどないというのが魔術のルールだ。

 私の魔術要素は主に二人。

 セミラミスとスカサハ。

 どちらも神域の魔術師。そこに加えて実際の神様も一人。

 それだけでも基礎力は十分だが、決定的になったのは両儀式の存在である。

 

 お馴染み直死の魔眼とは、言ってしまえば根源の渦に直通する穴である。

根源にそのままつながっているからこその性能であり、空の境界本編でもそれを用いて根源に到達しようとした魔術師が居たぐらいだ。

 整備された道と道を歩く能力を渡されて、どうして失敗できようか。

 

 加えて、「皇帝特権:A」で「賢者の石」を主張してしまえば言うことはほとんどない。

 根源には諸事情で挑戦しなかったが、賢者の石の生成程度なら2年で形になった。

 そうしてできた疑似賢者の石は本物の賢者の石ほどの性能はなくとも、スパコンの代わりぐらいの役割なら十分に果たす。

 

 そんなわけで私は魔術的スパコンを手に入れ、ハッカー技術が格段に底上げされたのだった。

 普段はアトラス院の疑似霊子演算装置トライヘルメスを倣い事象の記録をさせているが、ちょいと余った部分を使って回線を乗っ取るなどお手の物。

 エシュロンなどなんぼのものよ。個人情報を蹴り飛ばして高笑い。

 

 赤井さんがバスから降りたのを確認し、計画も最終段階に入った。

 「暗黒霧都(ザ・ミスト)」のカンテラを手に、私は無造作に後ろから歩み寄る。

 彼には彼の事情があったのだろうが、私の友人にひどい仕打ちをしたのは許しがたい。

 多少悪趣味だが、プレゼントを受け渡すついでに驚かすくらい問題ないだろう。

 

 全く私に気づいていない赤井さんを背後からパシャリ。

 写真をメールに添付して送信。

 

 

 ハァイ、私グラスホッパーさん。

 今あなたの後ろにいるの。

 

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