アサシン(英霊)なオリ主in名探偵コナン   作:ラムセス_

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17 ルパンVSコナンその2

「パパぁ、また酒場? もう飲み屋をハシゴするのは止めようよぉ」

「シェリングフォード、酒は彼の唯一の楽しみである可能性が高い。可能な限り見守るべきだ」

「いやそれ、完全にダメな大人の典型例じゃねーか。むしろ止めるべきだろ」

「もうこの年になったら習慣を変えるのは難しい。太く短く生きてもらうしか他にない」

「そっか……大変なんだな」

「おいオメェら、勝手な事ばっか言ってんじゃねぇぞ!」

 

 はーい、と可愛らしい声で返事をする江戸川少年に心をときめかせつつ、現在はヴェスパニア王国城下町を散策している最中である。

 

 目覚めて早々に私を見つけた江戸川少年はたいそう驚いたが、同時に「シェリングフォードあるところに私あり」という説明不要の謎理論に納得した様子を見せた。

 いわく、気を失ってる間にとんでもないことになってなくてよかった、とのこと。

 失礼な言いぐさだ。私が何をしたというのか。

 

 ともかく、彼が目覚めてからはとんとん拍子に事が進んだ。

 王位継承権第二位のジラードの暗躍や王女暗殺未遂の詳細が説明され、王国の現状が明らかになるとともに、次元大介と江戸川少年に対してサクラ女王殺害の犯人を突き止める依頼が成される運びとなった。

 もうすべて承知済みな原作知識持ちの私だが、難破船のときのような大誤算が無いとも限らない。

 推理は探偵たちに任せつつ、いざというときのために二人について回る護衛役として町中を歩いているのであった。

 

「しっかしよぉ、ボウズ、おめぇの保護者怖すぎだろ。どこぞの国王じゃあるまいに、なんだってこんなのが常時ついて回ってるんだ」

「保護者? グラスホッパーのこと?」

「それ以外に誰がいんだよ。ナリは可愛らしいが中身はバケモンだぞ、ありゃ。俺も少なくない修羅場をくぐってきたが、アレは一級品中の一級品だね。依頼じゃなけりゃすぐにでもこの国からおさらばするとこだ」

「あー、まあ、色々あったというか。僕自身も分かってないっていうか。少なくとも僕に何かするつもりがないんだったら安全だから、安心してよパパ!」

「けっ、呑気でいいなあボウズはよぉ! あといい加減パパは止めろ」

 

 ちらちらと後ろを歩く私に目をやりながら、次元はため息交じりに文句をついた。

 江戸川少年はというと肩車の体勢のまま笑って文句を受け流している。肩をすくめてぶりっ子笑い。甘い声色はポップでキュート。怖ろしいほどの可愛らしさだ。

 あー眼福眼福。コナン君が可愛くて今日も飯が美味い。有能でイケメンな愛らしいショタとかもう無敵だろうに。彼に敵う人間がこの世にいるとは思えない。

 

 そんな風にこの世界の主人公を心の中で拍手喝采万歳三唱しながら歩いていたのだが、しばらくすると彼の顔に疲れが見え始めた。

 思えば朝から歩きっぱなしだ。

 公共交通機関がイマイチ発達していないこの国では、移動は徒歩かタクシーに限られる。

 極秘の行動ということで気軽にタクシーには乗れない状況、必然的に移動は徒歩になってしまう。

 結構な距離を歩き詰めになり、いくら一般の子どもより体力があると言っても疲れが出てきても仕方ない頃合いだ。

 意外とそのあたりの気が利く次元大介は、私が声をかける前にスマートな動きで通りのカフェにて休憩することを決定した。

 俺が一服したいから、なんて言い訳をしていたがどうみても江戸川少年の体調を気遣っての行動だ。

 この世界、イケメンしかいないのか。

 私がついそんな哲学的問いを脳内でしてしまうのも当然の流れだと言えた。

 

 

「で、謎は解けたか、ボウズ」

「大方はね」

 

 アンティーク調のお洒落なカフェテーブルを3人で囲み、大きな窓から街の広場を眺めた。

 通りは美しいレンガ色に白い縁取りが付いた家々が立ち並び、ベランダには赤い名も知らない花々で彩られている。

 シカが駆け出すシルエットがモザイクタイルでデザインされた歩道は狭いながらも掃除が行き届いていて清潔感がある。

 こじゃれた服装の歩行者は町の人だけではなく観光客も多く見受けられる。

 隠す気もなく堂々とアイスコーヒーをストローで飲む江戸川少年は、少しばかり思案げな顔を見せた。

 

「でもなんか引っかかるんだよな……ジラードって人の行動」

「あん? まあ確かに唐突っていやぁ唐突だったが」

「あまり野心の無い人だったって話なのに、1月を境に急に権力闘争に参加してきてる。気が変わったっていえばそれまでだけど、親交の深かったサクラ女王を手にかけるほどの心変わりがそんなに急に起こったなんて考えにくい。何かきっかけがあるはずだ」

 

 真剣な表情で考え込む江戸川少年だが、私に探偵技能は残念ながらついていない。

 そっとヴェスパニア語で書かれたメニュー表を差し出して甘味を勧めた。

 

「考えるのならば先に甘いものを食べておくと良い。疲れているだろうし、脳に栄養も必要だろう。このザッハトルテはどうだろうか。店一番の人気スイーツのようだ」

「んー、レモンパイはねぇの? それかリンゴタルト」

「純粋なレモンパイは無いが、レモンのメレンゲタルトが近いだろうか。パティシエがフランスに留学して学んだ直伝の味……なるほど」

「おい、俺は今手持ちが少ねぇんだからそこんトコロ考えて頼めよ」

「えーパパのケチぃ」

「心配ない、シェリングフォード。私がいくらでも出すので好きなものを頼むといい。あなたの幸せな表情こそが私の幸せである」

「えっ、いいのかグラス!」

「おい待て、ガキに出させるとか流石に俺の沽券に関わる! 大人しくこのランチセールのケーキセットにしとけ」

 

 コナン君モードの可愛らしさにやられて完全に貢ぐ君になってしまった私だ。

 いくらだ? いくら欲しいんだ? レモンパイ程度ならパティシエごと買うよ? これでも名の知れた暗殺者だし、百万ドルぐらいならポンと出せるよ?

 しぶしぶケーキセットのチーズタルトを頼みつつ、もう時間は3時に近い。

 酒が恋しいのかノンアルコールのカクテルを傾ける次元は、ダンディだがちょっぴり間の抜けた絵面だ。

 日本人らしい顔立ちが二人もいると目立つのか、カフェの客も少しばかりこちらを気にして視線を向けていた。

 

「ところで、僕とパパは親子ってことでいいけど、グラスの立ち位置ってどうなってるの?」

「そういや適当にしたままだったな。ボウズの友達とかでいいんじゃねえか」

「不自然じゃない? いっそ前妻との間にできた子どもをわけあって連れてるとか」

「俺に妻はいねぇし前妻なんてもっといねぇ!」

「なんでー? グラスはすっごく可愛い見た目をしてるし、パパとなら絵になると思うのにな」

 

 悪戯な笑みでこちらを見つめる江戸川少年。

 このビッグウェーブ、乗るしかない。

 

「お父様は私のこと……きらい?」

「……」

 

 「黄金律(富&体):B」「フェロモン:B」「魅惑の美声:A」を連続発動。ついでに「皇帝特権:A」から「麗しの姫君」を主張!

 元々アイドルな女神、可愛らしさの具現としての側面を持っているので顔には自信があるが、ここで拒否されても悔しいので後押しのスキル発動だ。

 誘惑したいわけではないので強度は控えめ。わずかに香る程度の魅力というものこそ至高と知るべし。

 こてりと首をわずかにかしげ、上目づかいで次元をみやる。

 数秒の沈黙。

 

「……娘ってもんもいいなとは思った。お前でなけりゃあな」

「私のスキルが破れただと!? バカな、私が可愛くないとでも言うのか……」

「あ、安心してグラス、十分可愛かったから。本性知ってると『油断するとパックリいかれそう』って恐怖の方が大きくなるだけで」

「俺は少なくとも人間のガキが欲しいんでね。100人以上の精鋭ぞろいの一軍をナイフ一本で全滅させる奴なんぞお断りだ」

「無念。たいへん無念なので、あなたにはこれから極端に女運が悪くなる呪いをかける。複数人のヤンデレに囲まれて地獄のような修羅場に陥るといい」

「オメェもみみっちい呪いをかけるのは止めろ」

 

 冗談だと思ったのか鼻で笑って私の言葉は流された。

 だが残念。「呪術(巫)」による呪いはみみっちくもいやらしい呪いが大の得意だ。

 ふふふ、後悔するなよ次元大介……と、心の声はなんとも捨て台詞チックなものだった。

 優しく江戸川少年は慰めてくれるが、よく聞くと案外酷いことを言っている。世の中は鬼しかいないのか。

 

 そんな風に戯れること数十分。

 人も段々とはけてきたカフェ店内に、ひときわ目を引く一人のイケメンが入店してきた。

 ついつい私もそちらに目をやるが、どうも挙動が不審だ。

 イケメンさんは通りの方をきょろきょろと見つつ、顔を隠すように姿勢を低くしながら足早に店内に入り、そのまま一番奥の椅子に陣取った。

 けっこうデザートも美味しいお店なのに、頼む物もコーヒー一杯きりとおざなりだ。

 周りの行動に敏感な江戸川少年も自然とそちらを見やり、少しだけ考え込む仕草をした。

 そしてすぐにはっとした顔をして席を降りる。

 

「ねぇ、お兄さん。お兄さん、今日ヴェスパニア国立コンサートホールで公演するエミリオ・バレッティでしょ!」

「えっ、あの、その……」

「エミリオ? ああ、ジラードが見に行くって話の歌手だったか」

 

 エミリオと呼ばれたイケメンさんは一瞬驚いたようだったが、すぐに立て直して余裕の表情のまま「しーっ」と色っぽく人差し指を唇に当てた。

 

「ああごめんね、そうだよ。僕はエミリオ。観光客の人かい? できれば僕がここにいることは秘密にしておいてほしいんだけど」

「それは構わないけど、エミリオさんはどうしてここにいるの? たしか今はコンサート時間だったはずだけど……」

「何だボウズ、詳しいな。ファンか?」

「いや、蘭姉ちゃんが先週の日本公演で園子姉ちゃんと話してるのを聞いてたから。なんでも、イタリアの人気アイドル歌手が失われたシェイクスピアの歌劇を再演するんだって。オペラの世界としても珍しい企画みたいで、テレビの特集もやってたよ」

「良く知ってるねぼうや。ありがとう」

 

 自身の舞台を褒められたはずのエミリオは、しかし暗い顔で言いよどんだ。

 店内にちらほらと残る客はエミリオのことには気付いていないらしく、常と同じ平穏を享受している。

 

「でも……君たちは来ない方がいい」

「えっ、どうして?」

 

 あまりにも沈んだ物言いに江戸川少年が疑問の声を上げた。

 幼い少年じみた無垢な物言いだが、その後ろに探偵といての探求心が見え隠れしている。

 一見次元は興味なさそうに見えるが、ジラートの件もある。帽子の下で鋭い目を向けていることは明らかだろう。

 

「そうだね……僕も、僕自身もなんと表現していいか分からないんだ。でも、来ない方がいい、いや、来ちゃいけないんだ。誰もあの舞台を見に来ちゃだめだ」

「そりゃあプロとしてのこだわりって奴か?」

「そんなんじゃない。確かに僕の演技は完璧とは言い難いけど、そんなの始めから分かってたことだ。あれは、もっと根本的な、その……ああもう、言葉が見つからない!」

 

 エミリオが乱暴に言い捨ててため息をついた。

 私は言葉を挟まずに様子見に徹していたが、彼のその判断が恐らく正しいことを確信していた。

 なにせひどい。

 彼の纏っているそれは、一般的な基準からすれば卒倒しそうなほどの瘴気の塊だ。

 瘴気とひとくくりで言ってしまうとイメージがぼやけるが、平たく言えば悪性情報に汚染された魔力だ。悪魔や人類に敵対的なものが発する、人にとっての外敵を示す魔力。

 彼が「来てはいけない」と感じるのは人として正しい感覚だ。敵がいるから逃げろ、と本能が感じ取っているからだ。

 

 そんなものをあそこまで背負い込んでしまえば最悪死に至ってもおかしくないというのに、エミリオは顔色悪くはあっても元気そうに話をしている。

 よほど悪性情報に対する耐性が強いか、あるいは彼が主犯か。

 主犯だとすれば客を追い出すような趣旨の発言はしないだろう。

 彼、エミリオ・バレッティは何らかの魔術的事象に巻き込まれていると見てまず間違いない。

 ヴェスパニア鉱石の件もある。何らかの情報が得られればいいのだが。

 

 エミリオは頭を振って一息つき、氷入りのグラスを勢いよくあおった。

 物憂げな表情は彼の整った顔立ちをさらに引き立てる。

 

「エミリオさんが今ここにいるのも、その悩みのせい?」

「そうだよ。うん。僕はあんな劇やりたくない。オペラが嫌いなわけじゃないんだ。オファーに返事をしたのは僕自身だし、いつもと違う挑戦っていうのもワクワクするし。でも、劇があんなだって分かってたら承諾なんてしなかった!」

「そこまで……その、変わった劇なの? エミリオさんが嫌になるような。蘭姉ちゃんも見に行ったけど悪い話は聞かなかったし、僕は詳しくないんだけれど」

 

 江戸川少年の慰めるような、受け入れるような声色はとてもやさしい。

 ショタモード全開の彼の質問に応えないやつなどいない。

 エミリオも可愛らしい江戸川少年の様子に破顔して、彼の頭をやさしく撫ぜた。

 

「君は優しいね。君の名前は?」

「僕はコナン。江戸川コナンだよ」

「へぇ、かの文豪と同じ名前とは将来有望そうだ。隣には実にキュートなガールフレンドもいるし、もうバッチリじゃないか。デート中かい?」

「グラスはガールフレンドじゃなくて親戚の子だよっ!」

「ははは、そっか、ごめんごめん」

 

 イタリア人らしいストレートだが女性へのリスペクトを忘れない言い回しに異文化コミュニケーションを感じつつ、江戸川少年の必死の否定にほっこりとした気分になった。

 私の無表情には含み笑いは出ていないはずだが、なんだか不安になって少しばかり目を逸らした。

 こんなに幸せなシチュエーションが続いていいのか。次の瞬間にでも私は死んでいるのではないだろうか。

 エミリオは江戸川少年に笑って謝罪をして話を戻して真剣な表情を浮かべる。

 

「そうだ、劇の話だったね。たしかに変わってるよ。寓意的っていえば聞こえはいいけど、ようは矛盾だらけの破綻した話だし。出てくる人物も恐ろしくて奇妙な人ばかりだ。シェイクスピアが書いた失われし戯曲って話だけど、それも疑わしいよ。タイトルもあまり聞いたことがないもので、……君は知ってるかい?」

 

 エミリオが問いかける。

 ぞわり、と悪性情報が励起した気がした。

 

「『The King in Yellow(黄衣の王)』って言うんだけど」

 

 ―――――っ!?!?!?!?!?

 

 私は反射的に噴き出しかけて、向かいに座る次元大介に不審そうな目で見られた。

 黄衣の王って、そりゃ、お前、マズいでしょ!

 

 黄衣の王。

 それはクトゥルフ神話に登場する架空の戯曲であり、神格招来の大儀式という側面を持つ呪歌だ。

 元々、クトゥルフ神話自体がfateという作品の裏設定として度々登場する。ジル元帥もそうだし、殺生院キアラもそうだ。

 殺生院キアラを評してfateの設定いわく、「その在り方は某現代神話の邪神に近い」としている。

 その邪神というのがクトゥルフ神話に登場する神々のことである。

 恐怖と狂気、未知と不安の具現である彼らは人間には到底理解できない彼方の存在だ。

 彼らの前には人類などゴミ以下であり、ミジンコにも等しい。

 

 そして黄衣の王とは、そんな大厄災を地球に招来させる最低最悪の儀式魔術なのである。

 もし邪神が来てしまえば退散させるのは至難の業。

 いくら私でも全力を出して届くかどうか。英霊総乗せというチートオブチートでさえ力不足を感じる超級の厄介ごとだ。

 悪性情報まみれ? そんなの当たり前だ。

 というよりそんなものを演じておいてよくこれまで正気を保っていたと褒め称えたい。

 

「失礼、少し席を外したい」

「ん? なるべく早く戻って来いよ」

 

 思いもよらない大災害の影に私は即時行動を開始した。

 公演はもう幾度も行われている。

 とすれば儀式が不発だったか、もしくは回数を重ねて一連の儀式とする反復魔術の形をとっている可能性も捨てきれない。

 そうなるとただ儀式場を壊しただけでは止められない。

 向こうからやってくる超規模の神格を退散させるため、こちらも相応の準備が必要だ。

 ただでさえルパコナ劇場版という主軸があるというのに、並行して人類滅亡級の大事件が起こってるなんて反則だろうに。

 

 私は店を出て路地裏に入ると、すぐに転移魔術を発動させた。

 向かうは空中庭園。

 

 

 時間は刻一刻と迫っていた。

 




クトゥルフ神話の神々などバケモノばかりだ。
気色悪い、理解できない、おぞましい。
だから分からないふりをするのが一番いいに決まっている。
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