アサシン(英霊)なオリ主in名探偵コナン   作:ラムセス_

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18 ルパンVSコナンその3

「待て、ルパン」

 

 そう言って刀を構えた五エ門に、ルパンは驚きつつも同時に自分たちとは異なる人間の気配に気を引き締めた。

 

 昼を過ぎた王宮の地下。

 あらゆる機械製品の機能を封じるヴェスパニア鉱石で作ったアイテムを手にクイーンクラウンを盗みに入ったのはつい先ほどのことだ。

 いつものごとく土壇場で峰不二子に裏切られて計画は破綻。

 しかしそれすらも計算のうち、五エ門の斬鉄剣による大胆な縦抜きでルパンは警備の厳重な地下から脱出し、現在は2階の客室にあたる部分に居た。

 

「こりゃあ……ちょいと予想外のツワモノがいる感じ?」

「凄まじい殺気、いや、触らば斬らんと圧するかのような恐ろしく研ぎ澄まされた剣気。並大抵の強者ではござらん」

「うへぇ、なんだってこんなとこにそんな奴が居るんだか」

 

 おどけて首を振るルパンであったが、五エ門はかまわず神経を研ぎ澄ませた。

 地下から鳴り響く警報と喧騒を意識からシャットアウトし、ただこの近くに潜んでいるであろう剣気の正体を探る。

 ピンと張りつめた意識が静寂と同化し、わずかな、わずかなその気配の元を辿ってゆく。

 一瞬揺らぐ、空気。

 

「そこだっ!!」

「ッ!」

 

 金属のぶつかり合う甲高い音が鼓膜を震わせる。

 斬りこんだのは時代がかった備え付けのオイルランプの後ろだ。

 神速の踏み込みと居合は常ならば必勝の威力を持っていたが、この謎の強者は五エ門の強襲に驚きつつも防ぎ切った。

 そしてその強者の姿を確認し、五エ門は目を見開いた。

 

「おなごだと!? それも、まだ幼い……」

「見事、石川五エ門。私の『透化:B+』を破るその気配感知、剣客として歴史の英雄に並び立つ腕前である」

 

 幼子だった。

 美しいブロンドの髪と白磁の肌は西洋人形のようだ。

 背丈は五エ門の半分もない。

 フードの付いた黒い滑らかなクロークをゆったりと羽織り、その合間からのぞく小さく細い手には不釣り合いなほど長い刀を携えている。

 己の一撃を防ぎ切った確かな実力に反する折れそうなほど華奢な姿に、五エ門は狼狽して言葉をなくした。

 

「手合わせを願う、石川五エ門。その技術と名刀の切れ味、私に見せて欲しい」

「くっ、……っ!」

 

 刀としては規格外に長い刃が閃く。

 蝶のように優美で蛇のように隙の無い太刀筋が二度、三度。

 首へひらり、内臓へひらり、眼球を掠める突きがひらり。

 そのすべてが首を墜とすという明確な意思を伝え、五エ門は知らず武者震いに肩を揺らした。

 

「美しい太刀筋……だが既存の流派を見出せん。我流か、娘子よ」

「これは一人の剣客が生涯を通して燕を切るためだけに研いた業。我流に分類されるだろうが、詳細は分からない」

「二代目、ということか」

 

 首を狙う変幻自在な剣閃は何故か幾度受けようとも見極めることができず、先を読もうと神経を研ぎ澄ませても見極めることが叶わない。

 ひらり、ひらり。

 小さな体にはあまりに負担があるだろう長刀を小枝のように振り回し、舞うような優雅さで命を撫で上げる。

 未だかつて見たこともない程の神域の剣技。

 一つ振るわれるたび、五エ門はこの邂逅への喜悦を隠しきることができなくなった。

 

「まさかこれほどまでの腕前とは……拙者、そなたに感銘を受けた。将来は歴史に不朽の剣豪と、いや、今すでにその業は語り継がれるに相応しい……!」

「あなたの業もかつての偉人に遜色ない絶技である、と私は思う。あなたの業を見極めるため、こちらも色を変えよう」

「なに?」

 

 ふいにリズムが変わった。

 舞うようなそれは突きを主体とした荒っぽく実戦的ものへと変貌する。

 神速の突き。

 光の筋しか残さぬ一撃。

 く、と五エ門は息をつめた。

 

 覚えがあるその太刀筋は天然理心流のものとみて間違いないだろう。

 その中でも特に実戦を重視した戦い方だ。荒くれものじみている、と言い換えてもいい。

 だが確かに磨き抜かれ、神から授けられたかのような天性の才能とたゆまぬ努力、修羅の如き斬り合いの果てに完成したものであることが窺えた。

 

「な、っ、これは一体、」

「幕末の雄、病弱で若くしてこの世を去った剣客の業である。戦い方の変化にも瞬時に対応するあなたの力は本物だ。この邂逅、嬉しく思う」

「…………それは拙者も同意しよう」

「だが時間も迫っている。名残惜しいが、この秘剣をもって幕としよう」

 

 瞬間移動とすら思える速さで金髪の少女は間合いをとった。

 足運びから察するに縮地だろうが、いくら何でも神仙じみた動きだ。

 五エ門は次に来る一撃に対し、尊敬と敬意を表して全力で迎え撃つことを心に決める。

 互いが刀を構える。

 わずかな静寂。

 

 一、二。

 

「一歩音越え、二歩無間、三歩絶刀……」

「っ、……くっ!」 

「『無明三段突き』っ……!」

 

 形容しがたい異音。

 息が止まる。

 手に受けた衝撃が肩に伝わって電流のような痺れる痛みへと変わる。

 

 五エ門は目を見開いて驚きに硬直した。

 勘だけでほんの少し体側に寄せた斬鉄剣が、次の瞬間刀身の中央に抉り取られたような大穴を空けていたからだ。

 折れるでも曲がるでもない。

 中心がくり抜いたように消滅し、刀身は辛うじて形を保っていた。

 

「これは、なんという絶技っ!」

「寸止めのつもりが、まさか防ぎきるとは……まさにあなたは英霊にすら到達した時代を冠する剣客だ」

 

 斬鉄剣が折れるとき、それは己の未熟故のことが常だった。

 そのたび五エ門は旅に出て己を研きなおし、二度とそのようなことがないように努めてきた。

 今。

 清々しい敗北によってそれは為された。

 芸術品の完成を見た気持ちに似ている。

 人が辿り着く剣の果て、その一つの形だ。

 知らず熱い息が漏れる。

 初めて大海を見た蛙は、きっとこのような気持ちだったのだろう。

 己が目指すべき世界を垣間見て、五エ門は昂りのまま呆然と立ち尽くした。

 

 その後ろで唖然として声を上げたのはルパンだ。

 

「バケモン対決かよ、すんげーもの見せてもらったもんだ。五エ門に我を忘れさせちまうような強者で、かつちんまい嬢ちゃん。まさかオメェ、今話題の『山の翁』ちゃんだったりする?」

「是。私は山の翁。暗殺者である」

「なんと、このような幼子がまさか……いや、だが先ほどの芸術品の如き剣技、確かに戦う者として完成されていたが」

 

 ほう、と感動冷めやらぬ様子で息をつく五エ門。

 刀を下した少女もおなじくこくこくと頷き五エ門をほめたたえている。

 目の前の人外暗殺者に寒気を覚えながらなんとかルパンは会話を続けた。

 

「いやー、世間一般からするとお嬢ちゃんみたいな子どもが暗殺者ってのも信じらんねぇことだけんどもよ、五エ門を圧倒するような神業を見せられちまうと何にも言えねぇなあ。ヴェスパニア王宮には仕事で来たわけ?」

「否。貴方たちに会うために来た」

「へぇ……そりゃ光栄なこって。もしかして個人的に俺らの首をもらうとか、そういう話だったりする?」

「否」

 

 おふざけじみた調子で問うた決定的な質問は、溜めも何もない簡潔かつ明瞭な言葉で返された。

 ぱちくり、とルパンが妙な顔で瞬きをした。

 

「え? 違うの? なら俺らに何の用があったわけ?」

「拙者たちは逃亡中の身。このままここに留まればヴェスパニア警察に見つかるのも時間の問題であろう。そなたのような剣客と言葉を交わせぬのは惜しいが、長く付き合うことはできん」

 

 ルパンたちに言に「山の翁」たる少女は小さく頷く。

 そして左手を何気なく持ち上げ――――次の瞬間、景色が色を反転させた。

 

「っ、おいおい、こりゃあマモーとか天球の水晶とかと同系統の案件!?」

 

 かつて対峙したマモーという男は超能力者であったし、天球の水晶は超音波を人為的に操る現代科学では理解できない不可思議な力を秘めていた。

 多くの宝を求める中でルパンたちも少なくない神秘と接してきている。

 しかしそういった類は例外なく厄介なものだ。

 本当に多芸なことだ、と五エ門は目を伏せて想いにふける。

 

 緑のフィルターを通したような色合いの歪んだ景色へと周囲は変化していた。

 家具や間取り、窓から見える外などは変化していないようだが、こういったファンタジーに科学の理論も常識も通用しない。

 浮き上がるかのように元々の色合いを保つ山の翁へと警戒を保ったまま、五エ門はいつでも斬りかかれるように重心を低く落とした。

 

「鏡面回廊を反転して鏡面界へ飛んだ。この中ならば見つかる心配もない」

「随分と便利なワザだこと。そこまでして俺らに望むものがお嬢ちゃんにはあるってワケだ」

「是、是。私はあなた達を暗殺したいわけではなく、あなた達に依頼があって会いに来た」

「依頼ィ? 山の翁って言やぁ侵入から武器調達まで何一つ外部を頼った形跡のない幽霊って聞いたけどな。結果以外の何一つとして足取りがつかめない透明な暗殺者。そんなのが依頼たあどういう風の吹き回しか気になるね」

「……それはあなた達ももしかしたら関わる事柄かもしれない」

 

 山の翁は言いよどんだ。

 しかしそれは少しのこと。すぐに五エ門たちへと向き直って左手で空中に円を描く。

 両手を広げたほどの円は光の軌跡を残し、一度強く明滅しながら拍動した。

 灰色をした半透明に染まった円が文字と映像のようなものを写し、ルパンたちはやっとそれがSFでいう空中ディスプレイであることに気が付いた。

 

「まず、依頼内容を伝える。一つ、映像に映っている宝石を買い取りたい。二つ、しばらくの間とある少年を護衛してほしい。三つ、もしこれから起こることの抑え込みに失敗したら、少年を連れてできる限りの速さで避難してほしい」

「これから起きること? そいつが俺らと関わる事柄なのか?」

 

 映像にはルパンが所有しているいくつかの宝石類、そして歴史ある貴金属の装飾品十数点が映っていた。

 決して安くはない品々だが、有名で人気とは言い難い。

 せいぜいが物好きな収集家によって倉にしまいこまれている類のもので、ルパンとしても適当にその筋の市に流して金に換える程度の物として認識していた。

 ルパンは買取を付随の依頼だと判断し、より重要そうな情報である「これから起こること」とやらの詳細を聞くことを優先することにした。

 山の翁が円状のディスプレイもどきに目線を向けるとすぐさま映像は切り替わった。

 

「んー、なにこれ? 触手のお化けの絵? 随分とでっかい様子だけど、未知の深海生物だったりする?」

「これは宇宙の遥か彼方より来る……そう、触手のお化け。とても大きいし、とても危険」

「オレ様大当たりぃ! 五エ門、俺凄くなぁい? いやー、見た瞬間ピンと来たんだよね。数々の逸品を見てきたオレ様の第六感というか、研ぎ澄まされた審美眼というかー」

「こ奴はすぐに調子に乗る故、もう少し真面目に説明してもらいたい」

「済まない、しかし人間にとっては彼方から来る神格も未知の化け物も大して違いはない。どちらも人類を滅ぼす脅威であるということさえ分かっていれば、詳しい種別など些末なことだろうと思う」

「なるほど確かにな。で、そのお化けさんがどうしたっつーのよ。ナチスの残党の実験で海底から復活して人を襲うとかそういう話?」

「それに近い」

 

 大量の触手と太く不定形な体を持つ怪物の油絵から、画像は世界地図へと切り替わる。

 日本、ロシア、アメリカ、イタリアの四か国に光点が打たれており、それぞれを結んだ歪な図形 の中心点からヴェスパニアに向かって矢印が伸びている。

 

 何故か不安を煽る図形だ。

 五エ門は図形から背筋を凍らせるような寒気を感じたが、それは一瞬で治まった。

 眉をひそめた五エ門をルパンはいぶかしげな目で見ている。

 

「これは……あまり善いものではないだろう。拙者は妖術には詳しくないが、いい結果にはならないということ程度ならば分かる」

「え、なに、五エ門分かるの?」

「これは4か国の主要霊脈をすべて繋いで大きな力場を作り、そこで生み出された莫大な魔力をレイラインを通してヴェスパニアに送っていることを観測したデータである。今朝までは細いつながり程度でしかなかったが、今はその無尽蔵ともいえるエネルギー全てをヴェスパニア国内のある一点に集中させている」

 

 魔力。

 ルパンも五エ門も科学の外への理解は広い。

 それでも彼女の言っていることの詳細を理解するには至らなかった。

 ただ何か大きな事態が進んでいるのだとぼんやりと把握するだけだ。

 五エ門の五感以外の何かが、この事態を放っておいて行きつく結末は凍えるような絶望であると囁いている。

 

「魔力の収束点は国立コンサートホール。ここが儀式場となって超規模の神性存在――外なる神格ハスターを地球に招来する可能性が極めて高い。神格が野放しにされた場合、間違いなくユーラシア大陸は人類が生存不可能な土地となるだろう」

「大陸沈没ってか、そいつはマズい。じゃあ嬢ちゃんの依頼はその儀式ってやつを防ぎに行ってる間大切な人を守ってほしい、失敗した場合は大切な人を連れて逃げてほしい。そういうことか?」

「是。先ほど調べたところ、もうほとんど術式は成立してしまっている。今不用意に崩せば向こう側がなだれ込んで来かねない。そのため、一度招来された後に神格を送り帰す必要がある。難易度は想像を絶するものとなるだろう」

 

 わずかな間、少女は何かを堪えるかのような顔をした。

 それは幻だったかのようにすぐに消え失せ、初めと同じ無表情へと戻った。

 

「あなたに求めた宝石は魔術的な品物である。知名度こそないが、一級品たる力を持っている。繋ぎ合わせて補助術式を刻むのにこれ以上のものはあまりない」

「なーるほど。いいぜ、急ぎだろ? ここまでもってくるにゃ2日はかかるだろうから、そのときの取引ってことで構わねぇか?」

「否。そこまでの時間は無い。今日の夕方6時には招来が成る」

「はぁ!? そんなの間に合いっこないじゃん! おいおい、どうすんだ嬢ちゃん」

「許可だけ欲しい。私が直接取って来よう」

 

 事も無げなセリフにルパンは挑戦的な笑みを浮かべた。

 その言葉はつまり、大泥棒たるルパンの宝石を盗んで見せる、と宣言したに等しい。

 取引であるのだから対価は渡されるのだろうが、在処も何も教えていないというのに取ってくるというのだ。

 許可を求める言葉さえなければ盗むに等しいことだろう。

 

 ルパンにも泥棒としての矜持がある。

 こんな挑発めいたことを言われては対価もそれ相応のものを求めなければならないだろう。

 

「OK、分かった。盗れるんなら盗ってかまわないぜ。で、お嬢ちゃんは対価に何を示すんだ?」

「あなたは物に執着しない。ならば、私が提示できるのは一つだろう」

 

 そう言って少女はルパンに一つのネックレスを放り渡した。

 受け取ったそれは青い、何の変哲もない宝石がついている。

 田舎の土産屋にでも売っていそうな安っぽい造り。

 しかし手の中でそれはひとりでに光を放ち、南南東を指し示した。

 

「こりゃあ……」

「その光は私の居城の在処を示す。常に大空を浮遊する空中の庭園。天空城。空島。そこには私、山の翁が築き上げた全てがある」

 

 少女が目を細める。

 無表情に違いないが、それは笑みにも見える顔だった。

 

「盗め。宝石の導きを頼りにそこへたどり着き、トラップを越え、その大泥棒たるゆえんを示してみるがいい。それこそが私の提示できる最高の対価である」

 

 

「…………最っ高、上等だぜ嬢ちゃん。ルパン三世の名前、舐めんじゃねぇぞ?」

「楽しみにしている、ルパン三世。アルセーヌ・ルパンを継ぐものよ」

 

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