アサシン(英霊)なオリ主in名探偵コナン   作:ラムセス_

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EX 第四次聖杯戦争

・第四次聖杯戦争────A面

 

 

「ファンタジー過ぎるだろ……聖杯ってなんだよ! 宝具ってなんだよ! 俺はぜってー認めないからな!!」

「……『這う男』が許されるのなら宝具も許される」

「うっ! ……いや、だって……」

 

 往生際の悪い江戸川少年に最後のとどめを刺した。

 これまでずっと駄々をこねてきた彼だが、ホームズを話題に出されて遂に観念したようだ。

 彼はしおしおと小さくうずくまって文句を呟いている。

 

 イグサの特徴的ながらも鼻に心地よい香りが真新しい畳から漂い、ピンと張った静謐な空気の堂内は清掃が行き届き古くも美しい。

 ここは冬木市の柳洞寺の一室。

 実践派僧侶の居留地ではないものの、冬木屈指の霊地であり、魔術工房を構えるには最適な地である。

 すでに陣地作成で工房は作り終えており、柳洞寺内部は地形効果も相まって大神殿とすら形容できる異空間に変容している。

 

 何ごとかをぶつぶつとつぶやいていた彼は大きくため息をつくとようやく顔を上げた。

 

「あーもう、わーったよ! 信じりゃいいんだろ。That process starts upon the supposition that when you have eliminated all which is impossible, then whatever remains, however improbable, must be the truth.(不可能を除外していって最後に残ったものが、たとえどんなに不合理でも、それが真実に違いないという推定から思考プロセスは出発する)魔術は存在するし、神秘は実在する。そういうことだろ」

「是。そしてあなたも、これより魔術の徒であり聖杯戦争の参加者となる」

 

 原因は今をもってよく分かっていない。

 神隠しかチェンジリングか、ある日突然江戸川少年は米花町から姿を消した。

 もちろん周囲は大騒ぎし、FBIや公安では飽き足らず世紀の大泥棒やICPOの伝手すら使って日夜捜索が行われたが、彼の姿は痕跡すら見つからなかった。

 私も情報網と魔術とを使い全力で捜索に当たり、1週間の時をかけて見つけ出したそこは驚くべき場所だった。

 

 時を超え世界を超え、そこは1990年代某日の冬木市。

 交番の前で途方に暮れる江戸川少年は、1週間という時間を感じさせない身綺麗さでその日そのままの姿をしていた。

 ようは異世界トリップだ。理論や理屈なんて知ったこっちゃない。

 転生と同じく起きるから起きるのだし、彼がそんな面白おかしいイベントに巻き込まれた理由も存在しないのだろう。

 

 ともかく、彼は気付けばFate世界に迷い込んでいたらしい。

 携帯電話は通じず、周りは見たこともない場所。駅は電子マネーも使えない古びた造りで、当たり前のように街頭には電話ボックスが点在する。

 1990年代だからね、そりゃあジェネレーションギャップのひとつぐらいあるだろう。

 困りに困ってとりあえず連絡をとろうと交番に助けを求めようとしたところ、私と会うことができたようだ。

 

 私を視界に写して安堵に和らいだ江戸川少年の表情は実に良いものだった。

 これ以上ない大魔術を苦労して行使したかいがあったというものだ。

 ああ、そうだ。

 先ほど江戸川少年を説得した殺し文句『這う男』とは、シャーロック・ホームズの短編小説の一つである。

 とある老紳士が猿の体液を摂取したことで猿化してしまう、という熱心なシャーロキアンすら理解に苦しむ一作だ。

 あんな展開が許されるなら「密やかなる罪の遊戯(デンジャラス・ゲーム)」なんて宝具でもなんでもないだろうに。

 

「けどよ、百歩譲って聖杯が実在するとして、聖杯伝説の聖杯は傷病を治癒して長寿をもたらすものだろ。 なんでも願いが叶うとか、それじゃ魔法のランプじゃねーか。胡散臭さも半端じゃねーし。ホントにこんなんで元の世界に帰れるんだろうな……?」

「願いが叶うというのは現状看板に偽りありだが、膨大な魔力の塊ということは間違いではない。適切に処理すれば元の世界に帰れるだけの魔力が得られるはずだ」

 

 今回よりによって聖杯戦争なんて厄ネタに自ら首を突っ込むのは、他でもない江戸川少年のためである。

 空中庭園にため込んだ膨大な魔力を消費してこちらに飛べたはいいものの、残念ながら帰りの分の魔力は確保できなかった。

 江戸川少年の故郷は今も変わらず米花町で、彼の家庭的で芯の強いあの少女の隣なのだ。

 無事に彼を元居た場所に送り届けるため、私はここに本物の英霊と対峙する。

 

「で、どうすんだよグラス。聖杯戦争の参加者なんつったって、俺は魔術師でも何でもねえんだ。参加するのに何らかのプロセス……証みたいなものは必要じゃないのか?」

「心配ない、シェリングフォード。令呪はすでに手に入れてある」

 

 向かいに座る江戸川少年の手を取り、その甲を術式を込めてそっとひと撫でする。

 瞬間、彼は顔をしかめてビクリと体を揺らした。

 百貌のハサンをさっくり仕留めて言峰綺礼から強奪した令呪を焼き付けたのだ。

 渦巻く炎のような赤い刻印が滑らかな幼い肌に刻まれる。

 

「なんだこりゃ、入れ墨、か? いや、違う、僅かにだけど赤く発光してる。これは……」

「それこそが聖杯戦争への参加権。マスターの証。己の従僕への絶対命令権。令呪と呼ばれる魔術結晶である。それを失わない限り、あなたはマスターとして認められる」

 

 手の甲の令呪を物珍し気な表情で見つめる彼を前に、私は意を決して立ち上がった。

 

「え、どっか行くとこでもあんのか?」

「否、否。あなたは立ち上がるだけで良い」

 

 困惑しながらも無造作に腰を上げ、所在なさげに私と向かい合う江戸川少年。

 私はその姿にひとつ頷いて姿勢を正した。

 緊張に思わず視線が揺れてしまいそうになるのをぐっとこらえて、私は彼の透き通ったコバルトブルーの瞳を見つめた。

 一呼吸置き、体に力を込める。

 

「っ、お、おい! なにやってんだグラス!?」

 

 彼の前で左膝を立てて片膝をつけた。

 手の中に謎のヒロインXの「約束された勝利の剣(エクスカリバー)」を顕現させ、柄を彼に向けて捧げ持つ。

 鮮麗な紺青の柄と穢れない湖のような刃。

 その霊廟のごとき荘厳さと神聖さを兼ね備えた宝具が、窓から覗く月光を僅かに反射した。

 わたわたと忙しない彼になんとも微笑ましい気持ちになりながら、これから来るであろう本当の闘いに思いを馳せる。

 そのまま深く頭をたれ、私は静かに目を伏せた。

 

「――これより、我が剣はあなたと共にあり、あなたの運命は私と共にある」

 

 令呪がパスの接続の気配を感知して強く瞬いた。

 濃密な魔力が大気を揺らし、黒いクロークが風を受けてはためく。

 一瞬、音が遠くなる。

 時間が無限に引き延ばされていくような感覚の中、私は嘘偽りない誓いを口にした。

 

「ここに契約は完了した。……マスター、あなたに必ずや栄光と勝利を捧げよう」

 

 彼の目を見開いたまま呆然とした姿は、未熟ながらもマスターに足る未来を感じさせるものだった。

 

 

 

・第四次聖杯戦争────B面/獣

 

 

「盃を傾ける前に、我は問わねばならん」

 

 弦を裂くような圧の籠った声だ。

 金色のサーヴァントは常のような泰然とした笑みを潜め、その瞳を警戒と緊張に浸しながら言葉を発した。

 そのいつにない様子にアルトリアは驚きを隠せなかった。

 倉庫街での邂逅も、昼の新都での予想外の出会いでも彼は王として支配者としての姿勢を崩さなかった。

 アーチャーの傲慢かつ不遜な態度はアルトリアにとっても好ましくないものであったが、それこそが彼の在り方なのだと納得もしていたのだ。

 

 その彼が、竜種を前にした人の如く警戒をあらわにしている。

 アルトリアの目からは、サーヴァント・アサシンは卓越した暗殺者ではあれどそこまでの過剰な警戒をすべき相手のようには見えない。

 全盛期の姿で召喚されるはずのサーヴァントとしては異例の幼い姿。

 神性を感じる美貌と人間性を感じるあどけなさの内に、いったい何が隠されているというのだろうか。

 王同士の問答の前。前座であるはずのこの問いに、アルトリアは真打に至る何かを感じざるを得なかった。

 

「我の庭に何の用だ、夢想の獣よ」

「けものぉ? そりゃこのアサシンの娘子のことか」

 

 空気を読まない無遠慮な問いかけは征服王からのものだ。

 二人の緊迫した気配を何の意も解することなく、イスカンダルは酒がなみなみと注がれた杯をくるくると回している。

 金色のアーチャーはそれを一瞥し、どういう思惑があったのか、口重くも話し始めた。

 

「それが娘子だと? 王を名乗るのならばせめて暗愚や盲目はもう少しうまく隠すべきだとは思わんのか、雑種。……それは獣よ。人の世を食い破る害悪であり、英霊と呼ばれるものが真に立ち向かわねばならん災害の類だ。ただの幼子に見えるようであればそのような節穴は疾く捨てよ」

「うーむ、何度見てもそのような危険な存在には見えんがなぁ。いったいこの娘子の何をもって危険と評する?」

 

 アルトリアにっても征服王の言葉は同意できるものだ。

 未遠川での共闘も冬木ハイアットビルでの一件も、彼女の善性を証明はしてもそこまでの危険人物だと断じられるようなことは無かったはずだ。

 倉庫街でアサシンが征服王の誘いに乗ってから、今まで彼女と征服王は同盟関係であったと記憶している。

 これまでともに過ごしているのだ。人を見る目のある征服王がそこまでの悪性を見抜けないはずがない。

 しかし、アーチャーは空の色を聞かれたかのような顔をして、蔑み交じりの声色で答えた。

 

「それはもともと全知無能の存在だ。眺めるだけの無貌の群れ、とでも言おうか。意思のある運命そのものであり、神よりも不条理で人よりも身勝手な観測者。そんなものが肉体を得て、愛をもって事を為す。それが獣でなくて何だというのだ?」

「アーチャー。あなたの言い分だと、アサシンは人間以外の……精霊のようなものだということですか? それ故に危険であると」

「フン、向こう側に住むのが何なのかなど、我が知るはずもないだろう。我はあくまでもこの世界の王だ。こちらを睥睨しかき乱し、夢想家の頭の中にしか存在しなかったはずの化け物共の事など」

「待て待て、余計にわからんぞ。つまり、この娘子はどこぞより来た人間とは異なるもので、お前さんはそ奴らに一杯食わされたことがある、ということか?」

 

 アーチャーの言葉は禅問答じみたどうにもあやふやなものだ。

 無能と言っておきながら実害があったかのような口ぶり。神霊や精霊ではないが、こちらを観測するものであり意志や感情のあるもの。

 まったくもって不可解極まりない。

 アーチャーの警戒も露な様子に対し、アサシンたる少女は欠片の動揺も見せずに凪いだ瞳を向けていた。

 

「英雄王、あなたの危惧が現実になることはない。私はこの世界で事を為すつもりはない」

「ほう? ならば此度の聖杯戦争に何の用だ、獣よ」

 

 アサシンの返答を鑑みるに、彼女はアーチャーの言っていることを理解しているようだ。

 今回の聖杯戦争において最も謎に満ち、もっとも力を持つサーヴァント。

 金色のアーチャーの正体すら看破しているらしい彼女は、背後で事の成り行きを見守るマスター達に目を向ける。

 

「私の願いはただ一つ。マスターを元居た場所へ帰すこと。彼はこの世界にいるべき人ではない。この世界は群像劇であり無数の主人公(ヒーロー)が立つ伝奇の領域だ。真実であり明かすものである彼には生きにくいと言わざるを得ない」

 

 変わらない表情の中にも確かに感じる想いの籠った声。

 彼女の正体や目的がどうであれ、きっと彼女のマスターである少年にだけは害は及ばないであろうと理解できるような、慈しみの籠った言葉。

 そこにはマスターとサーヴァントの間に結ばれた確かな絆があった。

 

 ハイアットホテルでの一件はアイリスフィールからの情報を合わせて推測するしかないが、マスターの少年の推理から切嗣の次の行動を割り出し、そのうえで先回りしたと聞いている。

 まだ年端もいかない少年に爆発物の解体を信頼して任せるのもそうだが、生粋の暗殺者たる衛宮切嗣の行動を読み切る彼の慧眼。それを理解したうえで己を委ねるアサシンの理解の深さ。

 それは一朝一夕では成り立たない彼らの信頼関係を示している。

 

 そして、その姿にアルトリアは己の現状との乖離を思い出さずにはいられない。

 

「あの小僧か。『真実』などというものを愚直に追い求め、そのために己の犠牲をいとわない姿はたしかに道化にふさわしい。我の無謬を慰めるに足る、意志と信念を感じさせる宮廷道化師のたぐいだが……良いのか?」

 

 アーチャーがことり、と盃を手に持った。

 

「夢見るままでは真実を前に目を覚ますしかないぞ?」

「……」

 

 アサシンも応えるように盃を手に取り、アーチャーの前に掲げて見せた。

 それはあるいは、神聖な儀式のように。あるいは、宣誓の宴のように。

 彼女の無表情はどこか寂寥をにじませたものだった。

 

 

「それでもきっと、彼は私が目を覚ますに足るヒトだから」

 

 

 

・第四次聖杯戦争────C面

 

 

「ねぇおじさん、こんな所でなにをしてるの?」

 

 あどけない声が人気のない廊下に響いた。

 誰もいないはずのハイアットホテル8階に突如出現した声の主。

 切嗣は咄嗟に弾けるような速さで振り返り、銃口を向けた。

 

「……子供?」

 

 しかして、そこに居たのはまだ10にも届かないであろう幼子であった。

 品のいい子供用の青みがかったジャケットとそれに合う可愛らしい蝶ネクタイ。背丈は切嗣の半分もない。艶やかな黒髪に宝石のごときブルーアイズがよく映える。

 魔力が欠片も感じないのは礼装でもって隠しているのか、正真正銘の一般人なのか。

 切嗣はすぐさま後者の可能性を排除した。

 人払いの魔術で既にホテル内の一般人は避難させてあるはずだ。こんな所に子供が1人で残っているはずがない。

 

 銃口を向けたまま切嗣は相手の出方を窺った。

 

「もしかして、仕掛けた爆弾がきちんと作動しないから様子を見に来たの?」

 

 その一言で、切嗣はこの子供が油断ならない人物であり、見かけ通りの存在ではないことを確信した。

 冬木ハイアットホテル最上階。

 そこに築かれた魔術工房は時計塔のロードの名に相応しい複雑かつ緻密な要塞となっている。

 正面からの突破もできなくはないが、切嗣からすればそんなことをせずともホテルごと切り崩せばいい愚かさの元に成り立っているものだ。

 

 ホテルの設計図を裏から入手し、爆薬を仕掛け終えたのは半日前。

 ボヤ騒ぎを起こして警報を鳴らし、下層階の一般人を避難させていざランサーのマスターを始末しようというときだった。

 爆破によってホテルを崩壊させるはずが、一向に爆弾が作動しないのだ。

 ここまで来て不具合かと切嗣は歯噛みし、舞弥とともに爆弾の回収にまわることとなった。

 

 この子供の言葉から考えれば、爆弾の不具合は子供の仕業と見て間違いない。

 爆破を阻止して利があるのはケイネスなのだから、常道で考えればこの子供はケイネスの放った人型の使い魔に類するものだと考えられる。

 魔術に傾倒した典型的な貴族だとばかり思っていたが、これは考えを改めねばならないかもしれない。

 

 切嗣は機械的かつ冷静に思考を巡らし、今回は1度引くことを決意した。

 予備動作なしに引き金を引き、使い魔を始末して撤退しようと身体強化を発動した。

 

「……っ」

 

 瞬間、子供の周りに青い光を放つ魔法陣が展開した。

 小型のマシンガンから放たれる銃弾を硬質な音と共にことごとく弾き返し、跳弾が白い壁紙を抉る。

 魔力指向制御平面だ。タダでさえ高度な技術が必要なものだが、これは物理攻撃にも対応できるよう術式が拡張されている。

 瞬時に発動するところを見るに、あらかじめ礼装などに発動が設定されていたようだ。

 手持ちの装備で突破するには少々心もとない。

 

 「うわ、マジで弾丸をはじいてやがる」と何故か驚いた顔をする子供から目を離さず、切嗣は慎重に隙をうかがった。

 

「とりあえず、おじさんには話したいことがあったからここに来たんだ」

 

 切嗣の殺気を受けながら平然と言葉を紡ぐ少年。切嗣は沈黙したまま少年の言葉を遮らなかった。

 多弁は銀で、沈黙は金だ。勝手に喋るのなら喋らせたままの方が情報も得やすい。

 

「結論から言うと、おじさんがセイバーのお姉さんの本当のマスターだよね」

 

 切嗣は答えなかった。

 ピクリとも体を動かさなかったのは機械と化した体ゆえ。

 心がどんなに動揺していても身体と切り離して行動できる生来の素質は、今では身体と心を別個に動かしうるまでになっていた。

 

「最初に引っかかったのはセイバーさんの言葉かな。アインツベルンさんのこと、セイバーさんはいつもアイリって呼んでたでしょ。そのときのセイバーさんの様子は信頼とある程度の尊敬があったよ。でもイスカンダルさんにマスターのことを語ったときは全然違った。視線が一瞬左右に逸れてた。他にもあるけど、ぜんぶマスターって人のことを信用してない、警戒してる仕草だった。瞬きも少なかったよ。それって、アインツベルンさんとマスターは別の人だからだよね?」

 

 無邪気で幼い口調とそれに見合わぬ心理学的見地からの推察。

 少年は笑顔のままに己の推理を紡いでゆく。

 

「街中にたくさん監視カメラや盗聴器が仕掛けられてるけど、魔術師の人ってたいてい精密機械は使わないって聞いたよ。なのに沢山あるのは、きっと普通とは違う魔術師がいるから。ベルベットさんは除外して、あとのマスターは5人。遠坂さんとアーチボルトさんは典型的な魔術師みたいだから違うかな。協力者も科学に長けた人はいないみたい。間桐の人はそれができる知識があるけど体力の方が問題かな。キャスターのマスターはそもそも聖杯戦争に興味ないみたいだし、協力者もいない。残るはアインツベルンさんだけど、携帯電話を使うのも覚束無い人が盗聴器なんて仕掛けられないよ」

 

 少年の目が細められる。シャム猫のように獲物を狙う目であり、鷹のように地上を睥睨する目でもある。

 

「でも、アインツベルンさんは無線を使ってたね。あんまり色々機能は使えないけど、送られてきた声を受信することはできるみたい。誰かにそれだけは教えてもらったみたいに。……無線の盗聴って、意外に簡単なんだよ? いくら周りの敵が魔術師だけだからって、周波数を1日1回しか変えないのは問題じゃないかなぁ」

 

 くすくすと笑う少年。

 切嗣は銃を構えたまま目線だけで逃走経路を確認した。

 

「あと、深山町の武家屋敷だけど、書類上はなんにも問題ないけど、ちょっと杜撰だったね。あんな高級住宅街で家を買って、ずっと挨拶回りをしないなんておかしいよ。地域の権力者に話は通しても、周りの住人の人は不審に思ってたみたい。そんなところに急に高級そうな車が止まったら、みんな何事かって思うよね。様子を見に行ってもおかしくないよね。それに乗じて何かが敷地に侵入しても――――気づかないよね?」

「……っ!!」

 

 アイリ! と叫ぶのを抑えられたのはほとんど奇跡だった。

 得体の知れない笑みを浮かべる少年の背後に、煙るように現れたのは長い金髪を揺らすアサシンのサーヴァントだ。

 かのサーヴァントが特殊なスキルか宝具によって分身ができるのは、すでに倉庫街の戦闘で明らかになっている。

 気付けば、己の首にはひたりとダガーが添えられていた。

 後ろから包容するように伸ばされた白磁の腕。

 

 耳元でうっそりと笑う声を、切嗣は聞いた気がした。

 

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