学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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決勝戦なので気合入れて書いてたらいつもの3倍ぐらいの文章量になっちゃいました。それ故に割と文章ガバが散見されるかもしれません、申し訳ないです。

あと、最近はお待たせすることが多くなりました。できる限り早く仕上げるのでこれからもよろしくお願いします。



作中のある描写のために身体を張って実験をしていたので初投稿です。


裏話11 内観

 ──バカっ!! 

 

「私、どうしてあんなこと言ったんだろう。自分のことじゃないのに」

 

 ベッドの上で布団を身に纏い、沈華(シェンファ)は一人縮こまっていた。 

 

 廊下から足音がする。今の時間、鳳凰星武祭に参加していない者は星露(シンルー)のもとで鍛錬を受けている。セシリーも試合の順番は2番目になっているため今はシリウスドームにいる。となると来ているのは一人だけしかいない。

 

 扉がノックされる。無視する。

 

 扉がノックされる。無視する。

 

 

 ……………………

 

 

沈華(シェンファ)。出て来てくれないか」

 

 扉の外からは基臣の声が聞こえてきた。

 

「出て来てくれないなら、扉越しに言わせてくれ」

 

「……」 

 

「お前が怒った理由が分からないのに謝罪するのは筋が通らないと思ってるし、お前も納得してくれないだろう。だから、まだ謝罪はできない」

 

「でもお前とは決勝戦でも共に戦いたいっていう気持ちは間違いない」

 

「明日の決勝戦、俺は待っている。それではな」

 

 明日の試合、また一緒に戦うことを期待している旨の内容を告げるとドアから遠ざかっていく音が聞こえる。

 

「これじゃ行かなかったら私が馬鹿みたいじゃない」

 

 

 ────────────────────────―

 

 

沈華(シェンファ)、いるかい」

 

 あれからしばらくして夜になり、もう寝てしまおうかと思ったとき扉がノックされる。また基臣かと思ったがこの声は沈雲(シェンユン)だ。流石に兄まで無視するのはダメかと思い、扉の鍵を外す。

 

「入って」

 

「お邪魔するよ」

 

 扉が開かれると、鍛錬帰りだったのかタオルを片手に沈雲が部屋へと入ってきた。 

 

「大分疲れた顔してるね、基臣と喧嘩したんだって?」

 

「……なんで沈雲がそのことを知ってるの?」

 

「基臣本人に言われたからね。『今自分に会っても気まずい思いをさせてしまうだろう』って」

 

「基臣が……」

 

 沈雲(シェンユン)はベッドに腰掛けると、隣で布団にくるまっている沈華(シェンファ)に話しかける。

 

沈華(シェンファ)は基臣のことは嫌いかい?」

 

「嫌い、というわけでは無い……と思うけど」

 

「まあ、そうだろうね。でないと基臣のために怒るなんてことしないと思うから」

 

「基臣の、ために?」

 

「あれ、自覚が無かったのか。まあそうか」

 

 少し考え込むかのように沈雲は顎に手を当てる。

 

「正確に言えば自分と彼を重ねてるんじゃないのかなと思うよ」

 

「私が基臣を?」

 

「このアスタリスクに来る前に星脈世代(ジェネステラ)だって理由で虐められていた人間は何かしら性格に難がある場合が多い」

 

「僕たちもこの界龍(ジェロン)に来るまでは、星脈世代(ジェネステラ)だからってだけで周りからは蔑まれて馬鹿にされて、散々な思いをしてきた」

 

 沈雲(シェンユン)の言葉で自分たちが学校で星脈世代(ジェネステラ)狩りと称した私刑(リンチ)に会っていたことを思い出す。今思い出しても良い思い出ではないのだろう、沈華(シェンファ)は唇を噛みしめる。

 

「自分の不幸に酔っていたんだろうね、僕たちは。だから、あまり人を信じなかったし必要以上に関わろうともしなかった」

 

 黎兄弟は人と深く関わろうとするほど、昔の思い出が呼び起されて人とは距離を取ろうと思ってしまっていた。基臣との出会いが無ければ、このまま歪んだ性格で学園生活を送っていたことは容易に想像がつく。

 

「でもまあ、基臣を見ているとなんだか自分たちが情けないように思えてしまったわけだけど」

 

 自嘲するような笑みをこぼすと、沈華の頭を撫でる。

 

「沈華が基臣の転入当初に突っかかった理由も自分たちと似たような雰囲気なのに腐ることもなく何とも思っていないような表情が無性に腹が立ったからとかじゃないかい」

 

 思い出してみると、確かに沈雲(シェンユン)のいう通りだった感じがした。

 

「……言われてみればそうかもしれないわ」

 

 しばらくの間、沈雲(シェンユン)のことを見ていたがやがて俯くと沈華(シェンファ)は弱音を漏らした。

 

「でも、今更あいつにどんな顔して会えば」

 

 不安になっている沈華を見て、沈雲は苦笑した。

 

「基臣はそんなこと気にしないよ、それだけは分かる」

 

「どうして?」

 

「基臣は悪人でもない限り基本的に人を悪く言ったことが無いからだよ。それは沈華(シェンファ)が分かるだろう」

 

「まあ、そうだけど」

 

「あと、基臣の自分自身の命の価値を低く見積もっている考えが気に入らないなら、沈華(シェンファ)が基臣の事を支えてあげたらいい」

 

「私が……?」

 

「あまり直接話すことは無かったけど、基臣は結構な世間知らずだ。それに加えてどこか危ういところがある。それは沈華(シェンファ)も分かるだろう?」

 

「ええ、まあ」

 

「基臣がどんな生活を送っていたか分からないけど、自分の命の価値を低く見積もっているのも僕たちみたいに過去に何かしらの理由があったからなんだろう」

 

「……」

 

「本人の考えっていうのはそんなに簡単には覆らない。でも、近くに支える仲間がいれば少しずつだけど基臣も変わっていくはずだ。僕たちが変わらされたようにね」

 

「私が傍で……」

 

「そういうことだよ。さて、僕の言うべきことは言い終わったしこれで退散させてもらうよ」

 

 そう言ってベッドから立ち上がり部屋を立ち去ろうとする。

 

 部屋から出て行く直前、沈雲は沈華の方へと振り返る。

 

「後、そんな顔して基臣の前に出ない方がいいよ。それじゃあお休み」

 

 それだけ言うと沈雲は部屋から出て行った。

 

 ────────────────────────―

 

 シリウスドーム 待機室

 

「待たせたわね」

 

「試合にはまだ時間がある。問題ない」

 

 作戦の内容だけ話し合われると、二人の間に言葉は交わされなくなる。やがて試合の時間になると、沈華は基臣と共にステージへと向かっていった。

 

 セシリーと虎峰(フ―フォン)は既にステージに到着しており、観客も試合開始を今か今かと待ちわびている。既に実況と解説はそれぞれのタッグの解説を終えており、まもなく試合が始まろうとしていた。

 

『泣いても笑ってもこれが最後の試合です。さあ、まもなく試合開始です!』

 

 実況の声が合図となるように機械音声が試合開始の合図を告げる。

 

『《鳳凰星武祭(フェニクス)》決勝戦、試合開始(バトルスタート)!』

 

 誰よりも早く虎峰が先に動き出した。それに真向から基臣は立ち向かっていく。

 

「せいっ!」

 

 距離を詰めての肘打ちに蹴り上げ、変幻自在にして苛烈な連続攻撃を基臣に仕掛けてくる。

 

「誉崎流初伝、薙霞(なぎがすみ)!」

 

 基臣は迫ってくる虎峰を右上から斜めに切り払うと続いて横に薙ぎ払う。見えない剣による攻撃を警戒していた虎峰は即座に飛び退き回避する。

 

 再び虎峰が迫ってくるので今度は射程に入ってきた瞬間に切り払おうと構える。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 虎峰(フ―フォン)がいる方向とある一方向を除いて雷の壁が基臣を取り囲む。そして、残る一方向からは雷の虎が基臣へと迫っていた。

 

「ちっ!」

 

 虎峰(フ―フォン)を咄嗟に蹴り飛ばして距離を離すと、剣で虎を切り払う。焦げ付くような匂いと轟音と共にその虎は消えていく。

 

「いーくよー!」

 

 その虎の後ろから雷の鞭を携えたセシリーが轟音とともにそれを叩きつける。本来の鞭よりも遥かに軽く、鞭の速度は想像以上のものとなって基臣を狙う。

 

「映像越しで見たことはあるが、想像以上に早いな……っ!」

 

 剣でその鞭を受けると激しく発光し、霧散する。その光に思わず目を瞑ってしまうが、身体に走る嫌な予感が次の攻撃を直感で咄嗟に後ろに退くことで避ける。

 

「思った以上に」

 

「厄介ですね」

 

 光が収まり目を開けると、その視界にはセシリーと虎峰が基臣がいた場所に立っていた。しかし、すぐさまその場所は爆発に包まれる。

 

「爆!」

 

「あらら、そうは簡単にはいかないってことねー」

 

「沈華の死角からの攻撃には気を付けてくださいよセシリー」

 

「分かってる分かってる」

 

 二人が基臣から距離を離すと、隣から沈華が透明化を解除して声をかけてくる。

 

「大丈夫かしら?」

 

「問題ない。引き続き、攻撃する機会が来るまで隠れていてくれ」

 

「分かったわ」

 

 沈華が再び姿が消えると共に虎峰は基臣へと向かってくる。両脇からは雷の兎が平行して走っている。途中から兎が先行して走り出し、囮となって突っ込んでくる。

 

 それを素早く倒そうとするが剣がいう事を聞かず手間取ってしまう。その隙に虎峰は間合いを詰めており正拳突きを放ってくる。

 

「もらったっ!」

 

「っ……チッ、ヌゥゥゥウウウウウ!」

 

 二人の攻撃は交錯し合い、虎峰の攻撃は胸元の校章へと吸い寄せられていくが基臣の攻撃だけは剣がいう事を聞かず身体から逸れていく。そのまま虎峰の拳は校章に近づき──

 

 

 

 

 

「ここ、は……?」

 

 気づくと白塗りの壁に囲まれた空間の中に基臣は立っていた。正面を見ると、一軒の家がポツンと佇んでいる。それ以外は床と壁だけのなんとも味気ない景色が続いている。

 

 周囲を歩き回ってこの空間を形成している四方の壁を叩いてみたり押してみたりしてみるものの、少しも動きもせずただそこに佇んでいるだけだった。

 

 壁と家以外には何も無いため選択肢は家内を探すことの一択となり、基臣は仕方なく家まで歩いていきノブを右に回してドアを開けてみる。

 

 玄関の扉を開けるとそこは簡素なインテリアに包まれたごく普通な一軒家。靴棚の上にある写真立てを見ると、そこには純白のワンピースを着た女の子とその傍に和装姿で立っている男の2人が映っていた。

 

(この男、どことなく俺に似ているような……)

 

 どことなく自分と似るその男の事は気になりはしたが、写真立てを元の場所に戻して正面にあるドアを開ける。

 

 ドアを開けて中を見るとさっき写真立てで見た少女が部屋の中で立っていた。

 

「やっと会えたっ!」

 

「はっ……?」

 

 いきなり抱きしめてきた女の子を見るとその顔は満面の笑みを浮かべていて、待ち焦がれていた存在にやっと会えたような顔をしていた。

 

「あ、こんなところにいるのも何だから入ってよ」

 

「いや、なんなんだお前は」

 

「そんなことはいいから、ほら早く」

 

 名も知らぬ少女に押し流されるままに部屋の中に入れられるとダイニングにある椅子に座らされる。二人分のティーカップがテーブルに置かれ、ふわふわと浮かんだティーポットがひとりでに紅茶を注ぐ。女の子も対面の椅子に座ると基臣と会えたのがそんなに嬉しいのか楽しそうに鼻歌を歌いながら紅茶に口を付ける。

 

「一体お前は何者なんだ。俺をなんでこんな所に連れてきた」

 

「んー、まず私の名前なんだけど。と、これを見せた方が早いかな」

 

 そう言うとテーブルの上に光が集まり形を成していく。光が収まると、出来上がったのはいつも見慣れた剣である穢れの一切が見当たらない美しい純白の剣だった。

 

「私はこの剣の意思、というのが正しいのかな。潔白の純剣(インヴィズ=ピューレ)なんて大層な名前を付けられてるけど、気軽にピューレって呼んでよ」

 

「ピューレ……。お前がそうだったのか」

 

「まあこんな感じで姿を見せるウルム=マナダイトはほとんどいないから珍しいと思うけどね」

 

 クスクスと楽しそうに笑うと、基臣の目の前にある紅茶をソーサーごと近づけてくる。

 

「ほら飲んでよ紅茶、おいしいからさ」

 

「……」

 

「もしかして紅茶はダメなタイプだった? それならコーヒーとかにしよっか? あっ、もし苦いものとかダメならジュースでも──」

 

「お前、紅茶に何か仕込んでいるだろ」

 

 基臣の言葉にピューレは顔に笑みを貼りつかせたまま固まる。

 

「……どうして、分かったのかな」

 

「勘だ。お前が俺に紅茶を飲むよう勧めた時に邪な考えが透けて見えた」

 

 しばらく二人の間に会話が無くなり、少し気まずい空間が出来上がる。やがてピューレは表情を崩し、悲しそうに眉をハの字にして悲しそうな顔をすると話し出した。

 

「やっぱり、分かっちゃうかー。ねえ、どうしても飲んでくれないの?」

 

「断る。何かあると分かって飲むほど俺は命知らずでは無い」

 

「そっかー、そうだよね」

 

 少しションボリとした表情でいたが、その顔もすぐににっこりとしたものへと豹変する。

 

「まあモトオミが嫌って言っても、飲ませるんだけどね」

 

「んぐっ!?」

 

 いきなり後ろに現れたピューレに無理やり口を開けられると、そのまま紅茶を口の中に注ぎ込まれる。抵抗しようと身体を動かそうとするが無理やり押さえつけられピクリとも動かない。ならばと紅茶を口から吐き出そうと──

 

「あぁっ! ダメだよモトオミ、ちゃんと飲まなきゃ。ほら、いい子だから」

 

「んっ、ゴゴッ、ゴッ!?」

 

 顎を固定され吐き出そうとすることを阻止される。そして、ピューレは基臣の鼻を摘まんで呼吸が出来ないようにしてくる。最初の1分は飲むまいとジタバタ動こうとしたり、舌で紅茶を掻き出そうと試みたが、どんどん呼吸が辛くなり最終的には身体が勝手に紅茶を飲み込んでしまった。

 

「んっ、っは! ゲホッ! ゲホッ!」

 

「うん、ちゃんと飲めたね。えらいえらい」

 

 ピューレは口の中を確認して紅茶を飲みほしたことを確認して満足すると、優しく基臣の喉をさすり、頭を撫でてくる。

 

「どう、美味しかった?」

 

「……お前が無理やり飲ませてこなければ味も分かっただろうにな」

 

「そっかー、じゃあもう1回──」

 

「やめろ」

 

 さっきの行動は流石に堪えたのかすぐさま拒絶する。

 

「まあいっか、飲んでもらえたならそれいいし」

 

 対面の椅子に戻ると、紅茶を再び口に啜る。

 

「それで、その紅茶を飲んだらどうなるんだ」

 

「別にモトオミの身体に悪いことはしてないよ。ただ、私とモトオミが記憶を共有しやすいから飲んでもらっただけ。別に身体に変化があるわけじゃないから安心して」

 

「……」

 

(本当の事は言っているがどうにも引っかかる。何か隠しているのか……? だがそんなことよりも)

 

 ピューレの意図を測りかねたが、今はそんなことをしている場合でないことを思い出す。

 

「お前の茶会には後で付き合ってやる。今は1秒でも時間が惜しい。早くここから──」

 

「ダメ」

 

 ここから出ようという言葉を聞いた途端ピューレの纏う雰囲気は一変する。持っていたティーカップは取っ手が砕け散ったことで落ちていきテーブルを紅茶で汚してしまう。

 

「それだけはダメだよモトオミ」

 

「……それはどうしてだ」

 

「外の人間は自分勝手だからだよ。モトオミ」

 

 怒りを堪えたような表情でそう話すと指を鳴らしてテーブルやティーポッドなどを消して椅子だけになる。

 

「ほら、見てよ」

 

 基臣の後ろに回りこんだピューレは抱きしめると、直接脳内に記憶を流し込む。

 

 

 

 ──この犯罪者が! 

 

 ──この人殺しが! 

 

 

 

 観客席にいた人間たちが基臣に向けて言葉の限りを尽くして罵倒していた。

 

 それだけではない。学園の同級生、シルヴィア、星露。色々な人間が心無い言葉で基臣を傷つけようとする記憶が基臣の頭の中へと流れていく。ただ、その程度なら耐えることが出来た。しかし──

 

 ──お前には失望した。ここから出ていけ

 

 ──お前が死ねばいいのに

 

「あ、ああ……」

 

 感情喪失に至る原因となった父からの簡潔な言葉が基臣の心を完膚なきまでに壊していく。いくら自ら感情を殺したとしても幼い頃から刻みつけられたトラウマは簡単には脳裏から離れてはくれない。こんな記憶見た事がないはずなのに「なぜか」その記憶が元から存在したかのようにしっくりくる。

 

「ほら、他の人間なんてみーんな怖い人ばっかり。そんな人達と無理に付き合って心を擦り減らすぐらいならここにいようよ」

 

「私はモトオミの全てを受け入れるし、してほしい事もいーっぱいしてあげるよ」

 

 耳元で甘美な声で囁かれながら抱きしめられ、ピューレの胸の中で基臣は温もりを感じる。

 

(このまま身を委ねても、いいのかもしれない)

 

 らしくないことを考えながら思考をどんどん手放し、優しく包み込んでくれるピューレの胸の中で微睡みそうになっていく。

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 

「これがモトオミの身体かー。うん、やっぱり格好いい!」

 

「もと、おみ……なの?」

 

 厳格で無表情な態度を普段見せている基臣とはまるで似つかないような笑顔で自分の身体をぺたぺたと触っていた。

 

「セシリー!」

 

「ええ!」

 

 二人はいきなり豹変した基臣の様子に一瞬驚くものの、試合中であることを理解している二人は基臣目掛けて攻撃を繰り出そうと動き出す。沈華が出遅れたことによって基臣は二人の攻撃を同時に受けそうになる。

 

「あのさ、人がやっと会えたって感動してる時なのに邪魔しないでくれるかな」

 

 これまでの動きとは違って基臣はビデオテープが再生されたような挙動で二人の攻撃を受け止める。

 

「嘘!?」

 

「さっきまでと明らかに動きが違う?」

 

 攻撃を受け止めた基臣はそのまま二人の腕を掴むと勢いよく投げ飛ばす。

 

 沈華は投げ飛ばされる二人に意識を向けるがそのすぐ後、轟音と共に観客の悲鳴が会場内に響き渡る。

 

 何事かと思い基臣を見るが、意識が二人に向いていた一瞬の間に剣を振りぬいていた。

 

「もー。これだからシゲノブの使う技は再現しづらいんだよねー。人体構造を無視したような動きするから疲れるし、ちゃんと集中しないと外すし」

 

 軽い調子でそう言うが、観客を守るため並大抵の事では破壊されることのない障壁がたった一振りで破壊された。斬撃が伝播した床も綺麗にヒビが入っておりそのヒビの深さからその一振りの威力は容易に想像がつく程のものだった。観客席を見ると、客はあまりの衝撃的な出来事に失神する者さえ現れる。障壁のすぐ近くでは星武祭の実行スタッフが急いで修復をしている様子が伺える。

 

『ちょっ!? これ大丈夫なんでしょうか、障壁壊れちゃいましたけどー……』

 

『すぐに修復できるはずなんで大丈夫とは思うっすけど、今まで誰も破壊できなかった障壁をあんなにあっさり。いったいどうやって……』

 

「これは……ちょっとヤバいかもね」

 

「そんなこと言ったってやるしかないでしょう。それとも負けを認めるんですか?」

 

「そうよね、ハァ……」

 

 疲れたように溜息を吐くと、刀印を結び星仙術を発動させる。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 術を発動させると雷の虎が姿を現し、虎峰と共に駆ける。虎を囮にして虎峰の攻撃が本命になるように上手く立ち回るが──

 

「何、このくだらない子供騙し」

 

 基臣は虎に触れると、一瞬にしてその形を崩し霧散させる。そのすぐ後ろにいた虎峰も勢いよく殴りつけ、少なくないダメージを与える。しかも意図的に校章を割らず、何度も殴りつけていく。殴り飛ばされた虎峰は地面を舐めるような体勢となり、セシリーは近くに寄って守るように前に出る。

 

「ちょっと! やりすぎでしょ……」

 

 今の行為は流石に目に余るため、近くによって基臣に注意しようと沈華は近づいたが、突き飛ばされる。

 

「いっ! なんでこんなことっ」

 

「嫌い」

 

「モトオミの邪魔をする貴方達が嫌い。モトオミの過去を何も知らないくせにさも自分はその痛みが分かるかのように話しかけてくるし、終いには彼のことを傷つける。あのいけ好かない女狐もモトオミの事をただの鑑賞動物みたいにしか思っていないし、みんな彼の事なんてちゃんと見ようともしない。考えるのは自分のことばかりで吐き気がする。私の方が彼の事を愛しているしちゃんと見てる。なのに、なんで? なんで貴方達なの? 私じゃなくて、ただ傷つけるだけの貴方達にあんなにも執着してるの? そうだ、みんな殺せばいいんだ。殺したらみんないなくなって二人きりになるからモトオミも私のことだけを見てくれる。そうしたら、あの空間で二人きりでいて幸せに暮らせるよね。誰の気持ち悪い視線も受けずにふたりっきりで……。ふふふ、楽しみだなぁ、モトオミとふたりっきりで暮らすの。お料理作ってあげたりとか食べさせ合いっこしたりとか、うんうん。寝る時には私の膝の上にモトオミの頭を乗せてあげて撫でてあげながらお疲れ様っていってあげたりして……。うんそうだよ。モトオミの幸せのためにもまずはこいつらから殺さないとね。モトオミの事を傷つけようとするこいつらから先に殺して、その後は誰かが私たちの時間を邪魔してこないように全員皆殺しにしないとね」

 

 会話のキャッチボールが全く成立せず、一方的に並々ならぬ憎悪と妄想を押し付けられる。あまりにも異様なその雰囲気に沈華はゾクリとしたものを感じる。

 

(なんなの……っ)

 

「まだっ、負けてないです」

 

 立ち上がった虎峰は再び構え直し、基臣へと向かって行こうとしていた。

 

「もう、しつこいなー。だったらさ──」

 

 そう言うと、何故か基臣の手にいるはずのない虎峰がいた。セシリーを見るといたはずの場所からいきなり瞬間移動したかのように虎峰は映っていた。その状況に一瞬戸惑っていたが次の瞬間にすぐにそんなことは思考から消し飛ぶ。

 

 

 

 

 

「死んじゃいなよ」

 

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 

 

 

 

 

 

 虎峰の顔面を右腕で軽く掴む。ただ、それだけだった。

 

 それだけの筈なのに虎峰は今まで聞いたことも無いような張り裂けそうな叫び声を上げる。顔を掴んだだけで攻撃らしい攻撃を食らっていないにも関わらずだ。

 

虎峰(フ―フォン)!? このっ!」

 

 正体不明の圧倒的な暴力に罵倒の言葉を投げて来ていた観客席もその光景の恐ろしさに静まり返っている。一切加減をしておらず、このままでは虎峰が危ないことを理解したセシリーは星仙術による巻き添えを考えて、接近戦で助け出そうと試みる。

 

「鬱陶しいなぁ」

 

「ガッ!?」 

 

 セシリーは右側から虎峰に当てないように蹴りを放ち、防御を強要させて基臣の掴んでいる腕を離させようとするが難無く攻撃は躱され左腕で掴まれると地面に叩きつけられ、適当な場所へと投げ捨てられる。

 

「ふ、虎峰(フ―フォン)……」

 

「あとで貴方もできるだけ苦しめて殺してあげるから、そこで寝てなよ」

 

 ギリギリ気絶しない程度に加減したためか喋れるだけの意識は保てていた。尤も、仲間の苦しんでいる姿を何もできずに見ることしかできないという点で言えば気絶したほうが幸せだったかもしれないが。

 

「さてと。それじゃあ続きを──」

 

「基臣! さっさと戻ってきてよ!」

 

 基臣はその声に振り返ると、いきなり目の前に現れた沈華(シェンファ)に手を握られていた。

 

 

 

 

 ────────────────────────―

 

 ──基臣! さっさと戻ってきてよ! 

 

「沈、華」

 

「なんでこんなとこまで声が届くのかなぁ、まったく。早く殺さないと

 

(そうだ、沈華(シェンファ)が俺の事を呼んでる。行かないと)

 

 基臣は立ち上がると、そのままこの部屋から出ようとドアノブに手をかけようとする。しかし、その腕はピューレに掴まれて制止される。

 

「ピューレ、どいてくれ。行かないと」

 

「ダメ!」

 

「ピューレ」

 

「ダメったらダメ!」

 

 ピューレの悲痛な声が部屋中に響き渡る。基臣の手を掴む腕は微かに震え、どこかその瞳は置いてけぼりにされた子供のような不安が混じっている。

 

「ねえ、お願いだからここにいてよ」

 

 顔を歪ませ、胸元で泣きじゃくるピューレの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「俺には帰る場所があるんだ」

 

「なんで? あんな場所に戻っても辛いだけなのに。逃げてもいいでしょ」

 

「そう、かもな。確かにつらいことは多い。何も思わなければそれでも大丈夫だと思ってた。……けど、最近は仲間がいるからなのかもしれないって思っている」

 

「なか、ま……?」

 

「お前がどうしてそこまで俺以外の奴を恨んでるかは知らない。けど、少なくとも俺はあの世界には良いやつはそれなりにいるって思ってる」

 

「みんな自分勝手な人間ばかりだもん! 基臣のことをちゃんと見ているのは私だけ! 私だけなの!」

 

「ピューレ……」

 

 基臣はピューレの手を取ると、言い聞かせるように話しかける。

 

「お前も仲間だと思ってる」

 

「え?」

 

「お前が今まで俺にちょっかいをかけてきたのも結局は俺の事を思ってくれたからなんだろう? お前も俺の仲間だという認識で間違いないだろう」

 

「まあ、そうだけど……」

 

「それなら俺の仲間のことも少しだけでいい、信用してくれないか」

 

「…………私怖いんだ。モトオミがまた昔みたいに傷つかないかって」

 

 基臣を見上げるピューレは不安そうな顔をしていた。

 

「モトオミのこと信用してもいいんだよね。裏切られたりしないよね?」

 

「ああ、約束する」

 

「まだ外の人間は信用してないけど、でも……モトオミの言葉は信じたい」

 

 ピューレは基臣の胸から名残惜しそうに離れると、部屋の扉を開ける。さっきまでは家の玄関に通じていたそれには暗闇が広がっていた。

 

「ここから出れば元の場所に戻れる」

 

「ありがとう。また試合が終わったらこっちに来る」

 

「待って!」

 

 扉へと向かっていく基臣をピューレが呼び止める。

 

「なんだ?」

 

「……私の能力、教えてあげる」

 

「能力?」

 

「私の能力は一見、ただの透明化と思ってるかもしれないけどそれは違う」

 

「違和感があると思ったが、やはりか」

 

「私の能力、それは」

 

 ピューレは指を鳴らすと基臣と彼女の周りを形成する空間は宇宙空間のような場所へと切り替わる。

 

「人の記憶を書き換える能力、そして世界がその記憶に従って現象を引き起こす能力」

 

「人の記憶を? ……でも、お前は──」

 

「透明化は能力の応用でしかないの。自身にこの世界で他の人間からは認識されていないっていう記憶を埋め込めば世界はその記憶に従うから誰にも私を視認されなくなる」

 

「しかし、俺にはお前が見えるようだが……」

 

「それはモトオミが持ってる能力のおかげ」

 

「能力?」

 

「そうだよ。あの女狐も言ってたでしょ? モトオミには魔術師(ダンテ)の才能があるって。妙に勘がいいのはそのおかげ。シゲノブは第六感だとか言ってたけど」

 

「第六感」

 

「私を見ることができたのはモトオミを含めて四人。まあ、この話は今する必要はないから省くけど」

 

「結局のところ、私の能力の射程内にいる相手にはその記憶改変の能力を行使できるわけだけど……」

 

「といってもモトオミだけだと行使できる能力に限界はあるけどね。私が表に出ているならやりたい放題できるけど」

 

「そうか」

 

「じゃあ能力も説明したから、ほら」

 

 指を鳴らして元の場所に戻すと、基臣も扉の中に入って元の場所へと帰る。

 

「それじゃあ頑張って」

 

 その言葉と共に基臣の意識はこの世界から遠のいていった。

 

 ────────────────────────―

 

「いつまでうじうじしてるの!」

 

「うる、さい!」

 

「貴方にはまだまだ言ってないことがあるんだから、帰ってきてよ。基臣!」

 

「あぁ、あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 頭を抱えだす基臣に必死に戻ってくるように声を掛ける沈華(シェンファ)。しばらく身悶えていた基臣だったが、時間が経つとその動きを止め、ゆっくりと顔を上げる。

 

「沈、華……」

 

「まったく遅いわよ」

 

「……ああ。すまなかったな」

 

「ようやく戻ってきた感じかしら」

 

「まったく、人騒がせですね」

 

 基臣が元に戻った様子にセシリーや虎峰(フ―フォン)も気づいたようで、喜んでいるようだった。

 

「お前にもあいつらにも、大分迷惑をかけたようだな」

 

「ええ、まったくいい迷惑だわ」

 

 その言葉とは裏腹に、沈華(シェンファ)はどことなく嬉しそうな表情をしていた。

 

「さて、仕切り直しだ」

 

 ピューレを構えると、基臣は虎峰(フ―フォン)へ向かって走り出す。その動きは明らかに試合が始まった時よりもよくなっていることが分かる。

 

「憤っ!」

 

 向かってくる基臣に対して左右からの蹴りに加え、踵落としと多彩な攻撃を虎峰(フ―フォン)は放ってくる。それを全て躱すとお返しとばかりにピューレを振りぬく。

 

 剣による攻撃を警戒していた虎峰は当然その攻撃を回避する。しかし──

 

「ぅ"っ!? 避けたはずなのに」

 

「やはり思っていた以上の強さだな、ピューレは。とはいえ、何故かは知らんが能力で校章を破壊することは無理か」

 

 完璧に避けたと思っていたはずの虎峰は自分の腕に切り傷が出来ると共に血が流れていることに顔を顰める。剣の感触も無いことから完璧に回避していたと思っていただけにその出血は不可解な現象だと考えに耽りそうになるが、そんなことを考えている虎峰(フ―フォン)を再度下段からの切り上げが襲い掛かる。

 

「……っ! やはり何かある!」

 

 二度目の回避を行うもやはり一回目と同様、今度は足からも切り傷と共に出血する。

 

(明らかに剣の間合いから離れているはず……。見えないだけでなく剣の感触が消える能力も持っている? いや、発言からすると剣が直接当たらなくても何かしらの攻撃が飛んでくるのか?)

 

「誉崎流中伝、刹傑葬(せっけつそう)!」

 

 上段からの振り下ろしに加えて即座に切り上げが迫る。二度にわたる回避を行ってもう攻撃は来ないと思っている虎峰に突きを放つ。

 

(これは特待生試験の時に師父に見せた)

 

『趙虎峰、校章破壊(バッヂブロークン)

 

 うまく回避できず攻撃を受けてしまった虎峰は破壊された校章を拾い、ステージの端へと移動する。

 

「……やられてしまいましたか。セシリー、頑張ってください」

 

「うっそー、私だけか。どうしたもんかねー」

 

 軽口を叩くが、セシリーのその額には冷や汗が浮かぶ。刀印を結ぶと星仙術で雷の鞭と兎を生み出す。

 

 鞭は基臣がガードすることで上手くやり過ごすが、兎は既に数メートル先にまで迫っていた。

 

「急急如律令、(ちょく)!」

 

 それに対抗するためにいつも繰り出してくる術とは規模も威力も段違いの雷撃の雨を繰り出す。雷撃の通り道となった兎は全てかき消され、その勢いのまま雷撃はセシリーへと向かっていく。

 

「こっちだって! 急急如律令、(ちょく)!」

 

 セシリーも応じるように雷撃を放つ。お互いの技がぶつかり合う直前、沈華の雷撃だけがフッと姿を消した。

 

「基臣!」

 

「任された」

 

 基臣は沈華に迫り来る雷撃をピューレでかき消す。その直後、セシリーの前に消えたはずの沈華の雷撃が突如としてあらわれる。

 

「へっ、ちょっと──」

 

(まさか沈華の術式を応用して、雷撃を一時的に……!)

 

 そのまま沈華の攻撃はセシリーの校章を貫き破壊した。

 

『セシリー・ウォン、校章破壊(バッヂブロークン)

 

 

 

試合終了(エンドオブバトル)! 勝者、誉崎基臣&黎沈華!』

 

 

 

「や、った」

 

 緊張が解けて沈華は床に座り込む。 

 

『試合終了ー! 見事、誉崎選手と黎選手が鳳凰星武祭を優勝しました!』

 

『いやー、途中雲行きが怪しかったっすけど終盤には誉崎選手と黎選手が本来の力を発揮していたようで中々いい試合が見れたっすね』

 

「負けましたか」

 

「あちゃー、沈華(シェンファ)に一泡吹かされるなんてねー。やれやれ、一から鍛えなおさないと」

 

 虎峰とセシリーも負けはしたもののその顔はどこかすっきりしたような顔をしていた。

 

「ほら」

 

「ああ」

 

 手を上げてこちらに向けてくる沈華(シェンファ)の意図を理解した基臣は同じように手を上げて合わせる。

 

 決勝戦の前とは違って、強い信頼が結ばれているタッグがそこにはあった。

 




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