学戦都市アスタリスクRTA 『星武祭を制し者』『孤毒を救う騎士』獲得ルート   作:ダイマダイソン

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大変長らくお待たせしました(約6日ぶり)

この話はホモ君の世間からの評判が最悪&ウルスラを救出できた&ウルスラがシルヴィの恋路を積極的にサポートしない場合のif話です。
別撮りという設定なので武装はヤンデレ剣ちゃんだけとなっております。


ヤンデレに関する見識が無さすぎてあーでもないこーでもないと試行錯誤し、夜しか眠れなかったので初投稿です。


if① 狂いだす戦律

「……やめだ。これ以上は目立ちかねん」

 

「逃がすか」

 

 逃走しようとするヴァルダに追撃をしかけようとするが、両者の間には明らかな距離があった。それを一瞬で詰めるには難しい。

 

 逃走しようとしている相手を一瞬で倒すとなると、取れる手は一つしかない。

 

 未だ完成していない秘技、回避不可能な誉崎流の極伝を土壇場で成功させる。それが如何に難しいかを基臣は理解している。しかし――

 

「やるしかない」

 

 この機会を逃せば、目の前のヴァルダと接触できることは少なくなる。シルヴィアの反応を見るに親しい間柄の人間なのだろう。ならヴァルダから肉体を開放するのは単独で行動している今が最大のチャンスなのだ。

 

 意識を最大限に研ぎ澄ませると、精神が肉体を超越し体感時間が加速していくような感覚を覚える。

 

(いけるっ――!)

 

 

 

 

「誉崎流極伝――」

 

 次の瞬間、不可避の斬撃は放たれた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「な、ぜだ……」

 

 

 技が決まり、ヴァルダ=ヴァオスが割れるとその輝きは止んでネックレスは床に落ちた。それと同時に本来の身体の持ち主であるウルスラへと意識は戻ったものの、ヴァルダの支配により精神が摩耗したからだろうかすぐに床へと崩れ落ちていく。

 

 崩れ落ちるウルスラを抱きかかえると、丁寧に床へと仰向けに倒すと隠れていたシルヴィアがやってきた。

 

「ウル、スラ?」

 

「大丈夫だ、意識を失っているだけで息もしているし、生きている」

 

「っ……よかったぁ……、よかったよぉ……」

 

 命を助けてくれるだけでなく、会いたかった存在であるウルスラもこうして助けてくれた。

 

 若干13歳程の少女にとってこれだけのことをされてしまったら、好きの程度の問題を通り越して自分の運命の人かと錯覚するほどの好意を抱いてしまう。

 

 事実、もうすでにシルヴィアの心は基臣から離れられないものになっていた。その証拠に心臓が激しく高鳴っている。

 

(あぁ。好きなんだ、基臣くんのことが)

 

 一歩一歩踏みしめて基臣へとシルヴィアは近づいていく。

 

「あの、基臣くん。私――」

 

「ダメだ」

 

 今まで聞いたことのないような冷めた声がシルヴィアの鼓膜を揺らす。

 

「え……」

 

「最初から理解しておくべきだった。アイドルであるお前と嫌われものである俺が相容れることはないと」

 

 そのままビルから出ようと歩を進める基臣にシルヴィアは親に捨てられる子供のように泣きそうな顔になる。

 

「ちが、あ……だめ……」

 

「……さようなら。シルヴィア・リューネハイム」

 

「あ……」

 

 親しさを失ったその言葉にシルヴィアの心はバラバラに崩れていく。それと同時に自分の世界にぽっかりと穴が空いたような空虚さが胸に残る。

 

 基臣がいなくなり、その場にはシルヴィアと昏睡状態のウルスラの二人だけになった。

 

「……っ……! わたしの、ばかっ……!」

 

 既に遅い後悔がシルヴィアの心の中に埋め尽くされる。引き留めようとすれば、声を掛けようとすれば――そんなたらればを考えても基臣はもうこの場所にはいない。

 

 夢ならばどれほどよかっただろうか。そんな考えも床から伝わるコンクリートのひんやりとした感触がこれが夢でないことを告げてくる。

 

 シルヴィアの嗚咽だけがビルの中に響き渡る。

 

「……っ、ぁっ……」

 

 そんな心が打ちひしがれた時、ウルスラのうめき声が聞こえる。

 

「……っ。そうだ、ウルスラを運ばなくちゃ……」

 

 もう自分にはウルスラしか残っていない、今彼女まで失くしたら心が壊れるだろう。その想いがボロボロになっているシルヴィアを無理やりにでも押し動かしていた。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 治療院に連れていくと、基臣の言ったように特に重大な障害があるわけでもなく気絶しているだけだと医師から告げられると肩の力が抜ける。

 

 点滴を打つだけでいいらしいので病室に入れてもらえることになり、部屋をのぞいてみると静かに寝息を立ててウルスラがベッドで寝ていた。椅子に座り彼女の様子を見つめていると、座っていること1時間。

 

「ん……シル、ヴィ……?」

 

「ウルスラ……」

 

 起き上がったウルスラにシルヴィアは涙が少しこぼれる。そんな彼女をウルスラは胸に寄せて頭を撫でて落ち着かせる。

 

 シルヴィアは落ち着いた後、事のあらましを説明するとウルスラは申し訳なさそうな顔をした。

 

「そうかい……随分とシルヴィとその子には迷惑をかけたみたいだね。本当にごめん」

 

「別にいいんだよ。ウルスラは操られてたんでしょ、何か記憶とかは残ってるの?」

 

「残念なことに、万が一のためなのかアスタリスクに来てからの記憶が消えてしまってるんだ。いや、消えたというより思い出そうとすると靄がかかったようになるというべきかな」

 

「そっか……」

 

 しばらく会話をしているとウルスラは気が付いたように思い出すと、気になっていたことをシルヴィアに質問する。

 

「それでシルヴィはその助けてくれた子には会いにいかないのかい?」

 

「え?」

 

「その子のことが好きなんだろう?見ていてわかるよ、そんな顔していたら。私のせいでろくにお礼も言えてないだろう、今日は私のことはいいから彼に会いに行くといいさ」

 

「っ……でも、基臣くんはもう……。それに理事長のペトラさんがダメっていうし……」

 

 悲痛な顔をするシルヴィアに何かを察したのか、ウルスラがシルヴィアの手を握る。

 

「とりあえず今日助けてもらったことを含めてそのペトラさんに自分の思ってる事を言いに行った方がいいと思うよ」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 ウルスラとの面会を終えた後、基臣とまた会えるように抗議するために理事長室に足を運んだ。

 

「なんで会っちゃダメなの、別にいいでしょ」

 

「アイドルを辞めてでも、ですか?」

 

 アイドルを辞める。その言葉にシルヴィアは冷や水を浴びせられたように冷静になる。

 

 歌声をファンの人たちに届ける。かつてウルスラがシルヴィアにそうしてくれたように自分もやりたいという気持ちがあった。

 

 アイドルという職業を捨てて好きな人を追いかけるほどの覚悟はまだ中等部の女の子にはなかった。

 

「前も言いましたが、彼と接触するのはよろしくないのですよ」

 

 ペトラが端末を操作すると、そこには鳳凰星武祭の決勝戦の映像が映し出される。相手に対する過剰な攻撃――それだけなら過去に事例がいくつかあったからまだ良かった――更に、味方にまで手を上げたという部分が非常に不味かったのだろう。動画サイトでは大量のバッシングコメントが書き込まれている。

 

「そんな……」

 

「彼は必死に戦ったのでしょう。ですが、彼を迎えたのは祝福する言葉ではなく罵倒、本人が何を言おうとも彼の評判を最終的に決めるのは世間です。イメージの悪い人間と交流を持っていることで世間があなたに持つ印象が悪くなるのは私としては避けたいのですよ」

 

 ペトラは肩に手を置くとシルヴィアを落ち着かせる。

 

「この決定はあなたのためを思っての事です。理解しなさい」

 

 結局シルヴィアはペトラの決定に黙ったままでいるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 この判断が更にシルヴィア自身を追い詰めるものになると知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理やり基臣のことを記憶から消し去ってしばらく。

 

 それは気分転換としてウルスラと買い物をするために商業エリアへと向かっている途中のことだった。

 

「なるほど、中々愉快なグループだね。その子たちは」

 

「そうそう。それでねあの子たちが……ぁっ」

 

「…………シルヴィ?」

 

 いきなり会話が途切れ、その様子を不審に思ったウルスラは彼女の視線が向かっている方向に顔を向けると3人の男女が一緒に歩いている姿が見える。

 

「離れなさいよ!」

 

「にゃははー。これは対価として剣士君が認めてくれてるんだからいいじゃんいいじゃん」

 

「おい……」

 

 二人の女の子が一人の男の子を巡って喧嘩をしているという微笑ましい光景だ。しかし、その3人を見るシルヴィアの表情はどこかおかしい。

 

「シルヴィ」

 

「……」

 

「シルヴィ!」

 

「っ……!あ、ウルスラ。どうしたの?」

 

「どうしたの、じゃないよ。随分調子が良くなさそうだ、どこかで休もう。ほら、行こう」

 

「え、ちょっと……」

 

 シルヴィアの手を取ると、そのまま近くのお店まで連れていく。 

 

 

 

「…………?」

 

「基臣、どうしたの?」

 

「いや、何か変な視線を受けた気がするんだが。気のせいか……?」

 

「まあ今や剣士君は良くも悪くも注目を浴びてるからねー。恨み妬みの類の感情を向けられることもあるかもじゃないー?」

 

「その手の感情とは違うんだが……まあいいか」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それであの子たちに心覚えでもあるのかい」

 

「……やっぱり分かっちゃうか」

 

 観念したような雰囲気を見せてシルヴィアはゆっくりと喋り始める。

 

「さっきの男の子が前ウルスラに言った基臣君なんだ」

 

「なるほど、彼が。……もしかして」

 

「アイドルを続けるために基臣君とはもう会わないって決心したのに……。基臣君に絡んでる女の子を見るだけで勝手に嫉妬しちゃって……馬鹿みたいだよね、私」

 

「シルヴィ……」

 

「大丈夫、もう会わないって決めたから……」

 

 どこか無理をしているようなシルヴィアにウルスラはかける言葉を見つけられなかった。

 

 

 

 

 

 中等部2年になった頃、

 

 ウルスラは歌の先生としてクインヴェールに就職することになり、シルヴィアだけでなくルサールカにも指導をしていた。

 

 シルヴィアとミルシェの二人でレッスンを受けており、丁度休憩が入ったためそれぞれ壁にもたれて水を飲んで喉を潤す。

 

「はぁー、やっぱりウルスラは厳しいね。」

 

「……ねえ、シルヴィア。大丈夫?」

 

「え、何が?」

 

「随分前からだけど、顔色悪いって。それにレッスン中にどことなく上の空な感じがするし。無理してない?」

 

「ううん。大丈夫、大丈夫だから」

 

 無理して笑顔を見せるシルヴィアにどうにも納得しきれない中、ミルシェは心当たりのある出来事を思い出す。

 

「まさか、基臣の――」

 

「黙って!!」

 

 防音ルームの中でシルヴィアの怒鳴り声が反響する。いつもの雰囲気からは想像もできない声にミルシェは思わず身体を竦めてしまう。

 

 シルヴィアも怒鳴った後に自分のしでかした事に気づき後悔してしまう。基臣についていく覚悟が足りなかった惨めな自分を隠すための八つ当たりでしかないとシルヴィアは自身を卑下する。

 

「あ、その。ごめんね。いきなり怒っちゃって」

 

「う、ううん。私がデリカシーの無い事言っちゃったから……」

 

 二人の間に気まずい雰囲気が流れる。そんな空気の中、休憩の時間が終わったのかウルスラが部屋の中に入ってきた。

 

「じゃあレッスン再開するよー。……ってシルヴィにミルシェ。どうしたんだい?何かあった?」

 

「ううん、何でもないよ。さ、始めようよレッスン」

 

「そう?まあいいや、じゃあ始めようか」

 

 誤魔化すように笑顔を見せたシルヴィアの様子に気づかずウルスラはレッスンを始めるが、ミルシェはそんなシルヴィアの様子に不安を覚えるのだった。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

「シルヴィ、君に手紙だ」

 

「私に?」

 

 ウルスラから手紙をもらい、差出人の名前を見ると基臣の名前が書いてありシルヴィアの目の色が変わる。

 

「あ、シルヴィ!」

 

 ウルスラの止める声も聞かず、急いで自室に戻って手紙を見ると、その手紙にはウルスラにヴァルダ=ヴァオスを仕向けた犯人を捕まえた旨などが書かれていた。基臣としてはウルスラが何者かの手によってヴァルダを装着させられた過去がある以上、一連の事件が解決したことを知らせて安心させるつもりで手紙を送ったのだろう。

 

 

 

 尤も、その手紙はシルヴィアの内に押し込んでいた想いを増大するだけの結果になってしまったが。

 

 

 

「だめだよ、基臣くん……。そんなに私を本気にさせちゃったら」

 

 ベッドに身を投げるとその手紙を鼻に寄せると、思い切りその手紙の匂いを想像して吸い込む。

 

「あっ……だめになっちゃう」

 

 1年ぶりの好きな人の匂い。それは暴力的なほどに甘美で脳内麻薬を大量に分泌、吸うだけで頭の中がフワフワと靄がかかったかのようになると共に、身体が疼いてくる。

 

 直接匂いを吸いでもしたら間違いなく一瞬たりとも離れることができなくなってしまう。そんな確信が彼女の中にはあった。

 

 

 

「もとおみくん……もとおみくん……」

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 そこからシルヴィアの王竜星武祭(リンドブルス)に対する熱の入りようは見ていてどこか危ういものがあった。

 

「シルヴィ、少しは休んだほうがいい。このままだと身体が壊れる」

 

「……大丈夫、大丈夫だから」

 

 周りの言葉に耳を傾けなくなったシルヴィアは時間の許す限り特訓を続け、驚異的なスピードで成長していく。その成長は以前は接戦だった序列2位のネイトフェイルとの戦いで現れることになる。

 一歩譲る形だった格闘戦でシルヴィアが一方的に蹂躙する試合展開となり、切り札である歌を一切使わずに勝利したのだ。格の差が如実に表れたその試合を見ていたものはシルヴィアのオーラに戦慄を覚えるほどだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時はしばらく経ち王竜星武祭(リンドブルス)開催日

 

 基臣は準決勝で優勝候補であるオーフェリアを打ち破り、決勝まで駒を進めていた。決勝戦の相手は事前にチェックしていたので分かる。だからこそステージに向かう足取りが重たいのだが、意識しないようにと考えて歩いていく。ステージに着くと対戦相手であるシルヴィアが基臣を待っていた。

 

「あはっ。やっと会えたよぉ、基臣くん」

 

 その目は闇に飲まれたかのように濁り切っており、瞳には基臣だけを映し出している。

 

『モトオミ。この子、明らかにおかしい』

 

(あぁ、なんとなくわかる……)

 

「私、頑張ったんだ。血反吐を吐くぐらいに努力して自分を押し殺してアイドルやってきた」

 

「…………」

 

「でもさ、こうなんというかしっくりこないんだよね。それで色々考えたけどやっぱり基臣君がいないとダメみたいって分かったんだ」

 

 シルヴィアは一歩一歩ゆっくりと基臣へと近づいていく。

 

「ねえ、どうして私の元から離れていったの?私の事嫌いだった?」

 

「……別にそういうわけじゃない。ただ、俺はあの鳳凰星武祭以降マイナスイメージが付きすぎている。お前のこれからのためにも――」

 

「そういうことを聞きたいんじゃないの!!」

 

 迫力に基臣は思わず圧倒されそうになる。シルヴィアは基臣に近づき、手に触れると離さないように力強く握りしめる。

 

 握ってくる手を離そうと必死に力を込めるがピクリとも動かない。

 

「ねえ、基臣くんは私のこと好き?」

 

「…………」

 

 好きと言ってしまったら間違いなくシルヴィアはその言葉を本気にしてしまう。心苦しい気持ちを顔に出さないように押し殺しながら言葉を発する。

 

「……嫌いだ」

 

 

 瞳をのぞき込んで呟くその圧力に何か恐ろしいものを感じた基臣はピューレの能力を発動させると、握ってくるシルヴィの手から逃れる。

 

「基臣君を傷つけるのは本当は嫌だけどしょうがないよね、私のためでもあり基臣君のためでもあるんだから……」

 

 ブツブツ呟きながら笑みを浮かべるシルヴィアにどこかうすら寒いものを感じながらもまもなく試合開始の時間になるため元の場所に戻りそれぞれ試合の準備を進める。

 

『さあ、このアスタリスクで最強を決める王竜星武祭(リンドブルス)の決勝戦がまもなく始まります!』

 

 観客や実況が盛り上がっている声を背景に機械音声が試合開始のカウントダウンを刻む。

 

『《王竜星武祭(リンドブルス)》決勝戦、試合開始(バトルスタート)!』

 

 

 

「例え世界が拒絶しようとも 私は君を追い続ける」

 

 試合開始と共にシルヴィアの重低音がステージ内に響き渡り、周りを構成する万能素(マナ)が赤黒く輝き始める。彼女のいつものスタイルとは違う歌に会場内はどよめきの声が上がる。

 

「茨の道が阻み拒んでも 諦めない 血を吐き地べたを這おうとも」

 

 歌を媒介に能力を発動させるのを見過ごす基臣ではなく、すぐさま接近してピューレの透明化によるアドバンテージを存分に活かす。しかし、その攻撃を全て見透かしたかのように能力の効果範囲内に入らないよう余裕を持って回避するとすぐさま反撃に転ずる。

 

 攻撃をしてくる際も一つも音程を外さず歌うシルヴィアの強さに基臣もさすがに驚きを覚える。

 

(2年前とは違って攻撃も回避も超一流……。少しでも油断すると痛い目を見るだろうな)

 

「心を曝け出し 君の視線を私だけのものにする」

 

 一進一退の攻防が続いていく内にシルヴィアは歌唱を終える。

 

 それと同時に、今まで姿を一度たりとも見せなかったピューレが衆目の前にその身を曝け出した。

 

「能力の無効化(キャンセル)……!」

 

『思った以上に厄介……』

 

 純星煌式武装(オーガルクス)の能力を《魔女(ストレガ)》の能力で無効化する。純星煌式武装が《魔女(ストレガ)》や《魔術師(ダンテ)》に圧倒的に優位であるという構図が出来上がっているこのアスタリスクで衝撃的と言っても良い現象だった。

 

 そんな衝撃的な現象に気を取られている暇すら与えずシルヴィアは攻撃を仕掛けてくる。その全ての攻撃が校章を的確に狙ってくるもので、能力の無効化も相まって序盤から基臣は苦戦を強いられた。

 

 誉崎流の中でも唯一の防御技を使って迫ってくるフォールクヴァング――シルヴィアの愛用している銃剣――による攻撃をいなすと、即座に距離を取る。

 

 その後も戦闘が続くが、ステージ全体を包む獄炎、時間加速能力、瞬間移動。どれも一介の《魔女(ストレガ)》が発動するには困難ともいえるほどの威力、持続時間、精密さを誇っていた。

 

 しかし、基臣も負けじと能力を封印されたピューレで対抗すると、腕に命中してシルヴィアは片腕が使い物にならなくなる。

 

「涙を見せないで いつか幸せが包み込んでくれるから」

 

 今までの曲とは一転して穏やかで明るい曲調の歌を歌い始めると、傷ついていたシルヴィアの片腕がすぐさま治癒し始める。

 

(治癒能力……使えないと噂だったはずだがまさかこれほどとは。それなら……)

 

「させないよ」

 

 治癒能力が活きてくる長期戦を嫌って、短期決戦のために誉崎流の極伝を繰り出そうとする基臣だったが、意図をすぐさま察したのか至近距離まで迫り格闘戦に持ち込むとそれを阻止してくる。

 

 シルヴィアは校章への攻撃を防御してくるため基臣にとってジリ貧の状況が続く。

 

 30分が経過し、ついに試合の終わりがやってくる。

 

『誉崎基臣、校章破壊(バッヂブロークン)

 

試合終了(エンドオブバトル)!勝者、シルヴィア・リューネハイム!』

 

 

 

「待っててね、基臣くん。絶対に君の元に行くから」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 王竜星武祭(リンドブルス)が終わった翌日、シルヴィアはペトラとウルスラのいる理事長室に行くと辞職届を差し出す。

 

「いきなり何かと思えば、王竜星武祭(リンドブルス)を優勝した今アイドルを辞めるなんて正気ですか、シルヴィ」

 

「うん、別に未練はなくなったしね。そもそも、なんであの時アイドルを辞めるって言わなかったのかなって今になって思うよ」

 

 酔狂の類で出していないことを理解すると、ペトラはため息をついてしまう。

 

「少しは落ち着きなさい、今の貴方は冷静じゃない」

 

「私は至って冷静だよ。ペトラさん。そうだ……これも返さないとね」

 

 それと同時に胸に着けている校章を机の上へと置く。

 

「…………!!まさかあなた、界龍(ジェロン)へ……っ!」

 

「そういうこと。じゃあね、ペトラさん」

 

「待ちなさい、シルヴィ!」

 

 用は済んだとばかりに部屋を立ち去るシルヴィア。それを追いかけようとするペトラをウルスラは肩を掴んで止めさせる。

 

「あの子を追いかけないとっ!」

 

 珍しく感情を露わにしているペトラにウルスラは首を横に振る。

 

「もうダメだよ、シルヴィは。私達には止められない」

 

 とりあえず落ち着きなよと言って、ソファにペトラを座らせると飲みかけだったコーヒーに口を付けて話し始める。

 

「アスタリスクに来る前に旅をしていた時にも今のシルヴィのような人を見たことがあるけど、愛っていうのは本当に恐ろしいものでね、一度人を本気で愛してしまえば周りが引き剥がそうとしても絶対に離れることはない」

 

「……」

 

「完全にシルヴィは身体の芯まで彼に毒されてしまっている。まあフィクションかと言いたくなるようなピンチで助けてもらったんだ。無理もないことではあるけどね」

 

「……もう元には戻れないと?」

 

「あぁ。おそらく基臣くんがいなくなればあの子もいなくなるだろうし、死んでしまったら後を追うように自死を選ぶ。彼女の目はそういう目だよ」

 

「……私は、選択を間違ったんでしょうか。あの子に負担を強いてしまって、あんなになるまで私は気づかず……壊してしまった」

 

「それは言うなら私の責任だよ。何となくシルヴィの様子がおかしいことは前々から察していた。けど、彼女の成長を促すためにも黙って見ていたつもりだった……。まあ結果はこんなことになってしまったけどね」

 

 シルヴィアとの関係が断ち切られた事を示すようにウルスラが持っていたカップの持ち手部分は綺麗に取れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王竜星武祭(リンドブルス)が終わってからしばらく、星武祭(フェスタ)の興奮もようやく収まった頃、朝から基臣は異様な数の視線を受けていた。王竜星武祭(リンドブルス)で準優勝したときもそれなりに視線を集めていたが、その比ではないぐらいの量の視線だ。

 

「おーい!」

 

 そんな周囲の視線に何かあったのかと考えていると、セシリーと虎峰(フ―フォン)が基臣の元にやってくる。急いでやってきたのか息が荒くなっている。

 

「ん、セシリーと虎峰(フ―フォン)か。どうしたそんな急いでやってきて」

 

「ねえねえ!昨日の夜見たんだけどあの歌姫と交際したんでしょ。どこで会ったの?」

 

「基臣はあまり色恋事には興味の無さそうですし、もしかしてシルヴィの方から告白したんですか?」

 

「…………?何のことだ」

 

「隠さなくても大丈夫だって。ほら、ネット上では大騒ぎだよ。君とシルヴィが付き合うことになったって」

 

 セシリーが端末を起動すると、大手ニュースサイトの画面をいくつか開く。そこにはシルヴィアと基臣の画像が並べて表示されており、交際することになったという記事が書かれている。

 

「そんなことはないのだが……。一体だれがそんなことを」

 

「誰も何もシルヴィ本人ですよ。まさか、分からないなんてこと言わないですよね」

 

「いや、分からないも何も付き合ってないぞ」

 

「あー……。あまり昨日公表したとはいえあまり表沙汰にはしたくないんですよね。すみません」

 

 完全に会話が平行線になってしまい混乱している基臣を差し置いて虎峰(フ―フォン)とセシリーは二人で盛り上がっていた。

 

「ファンとしては、今が絶頂期のシルヴィが交際で活動を中止するのは悲しいですけど本人が幸せならしょうがないですよね。まあ、これから大変だと思いますが頑張ってください」

 

「いや何かお前らと俺の間で見解に違いが……」

 

「それじゃ、幸せにねー」

 

「お幸せに」

 

「あ、おい」

 

 基臣のいう事を聞かず去っていく二人の後ろ姿に言いようのない何かがこみあげてくる。あの二人が向けてくる感情に冗談や罠に()めてやろうという類のものは含まれていなかった。

 

 

 

 

 

 つまり本当に基臣とシルヴィアが交際関係にあると思っている。

 

 

 

 

 

 勿論、基臣自身はそんな関係を持った覚えもないし、そもそも交友関係があることがバレてシルヴィアを困らせてしまうことを懸念して自ら距離を取ったのだ。しかも、関係を絶ってから2年と少し。1年前に手紙を一方的に送った時以外は一切連絡を取っていない。

 

 

 教室に行っても、基臣とシルヴィアの交際関係の噂でもちきりだった。クラスメイトから質問攻めにあうが、身に覚えのないものを質問されても当然答えようがない。どうすればいいものかと困って、沈華(シェンファ)に視線を向けるが、不貞腐れたのか顔を背ける。

 

 何が何やらで分からず、質問攻めで困っていたところで教室に教師が入ってくる。

 

「おーい、静かに。これからホームルーム始めるぞー」

 

 完全に静まることはないが先ほどよりも落ち着いた喧騒に基臣は少し心が休まる。

 

「今日から転入してくる奴がいるけど、皆驚くなよ。それじゃ、入ってくれー」

 

 教師が呼びかけると教室の扉が開き、見覚えのある顔が入ってくる。

 

「なんで、お前が……」

 

「やっほー、基臣くん。今日から界龍(ジェロン)の生徒になったからよろしくね」

 

 ここにいるはずのないシルヴィアがいたのだ。

 

「え、シルヴィア……」

 

「うそ、クインヴェールにいるんじゃ……」

 

 クラスの中から出てくる困惑の声を気にせず教壇に上がると自己紹介を始める。

 

「クインヴェールから転入することになりました、自己紹介は……必要ないよね。基臣くんと一緒にいたくて界龍(ジェロン)に転入することになりました。みんなも今日からよろしくねー」

 

 シルヴィアの自己紹介風惚気によってクラスは一気に盛り上がった。だが基臣は心中穏やかではない。人によって星武祭を優勝した願いの内容は違うが、星武憲章(ステラカルタ)で他学園への転入が不可能であるにも関わらずここにシルヴィアがいるということは願いを行使してこの界龍(ジェロン)に転入した。そういうことなのだろう。

 

 前の王竜星武祭(リンドブルス)の決勝戦でのシルヴィアとの会話、先ほどのセシリーと虎峰(フ―フォン)との会話、教室に入ってからの質問攻め、シルヴィアの転入。点と点が繋がり、なんとなく基臣は状況を察し始めた。

 

 簡単に言えば外堀を埋められたのだ、完璧に。今のシルヴィに対する世間の視線は賛否両論の半々、いや否定よりが多いと言ったところだろうか。こんな状況で交際に対してYESと言ってもNOと言っても大バッシング間違いなしだ。いや、基臣にとっては自身の評判などとっくの昔に地に落ちているので知ったことではなかったが、それだけの問題ではない。

 

(ここまで来てしまったら、どちらを選んだとしても大して変わらない、だが……)

 

 明らかに今のシルヴィアは冷静ではない、というよりも正常ではないというべき状態になっていると基臣は感じていた。ウルスラの件で別れる前までは、もっと快活さを身に纏っており目も綺麗な瞳をしていた。

 

 しかし、久しぶりに再会したシルヴィアのその姿はまるで別人といってもいいものだった。他の人と話すとき、楽しそうに接しているように見えるが実際は何の感情も籠っていない。

 

 感覚的には鳳凰星武祭(フェニクス)の決勝戦の時のピューレに似ているだろうか。どちらにせよ、今の彼女の精神状態は非常に危うい。自分が今近くにいたら何かしらの地雷を踏む可能性が非常に高い。そんな予感がしたため極力関わらないように過ごそうと心の中で誓った。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 この一日で今までにないぐらい疲労したため、食堂で夕食を取ると今日は鍛錬を中止し基臣はさっさと自室に戻り一人きりになることで疲れを取ることにした。

 

 基臣は鳳凰星武祭からしばらくして冒頭の十二人(ページワン)入りしており、一人だけの部屋を持つことにしていた。だから、部屋に戻っても誰もいるはずがない。いるはずがないのだが――

 

「あ、戻ってきた」

 

 そこにはシルヴィアがいた。鍵は基臣が持っている1つと寮長がマスターキーとして持っているものの2つだけ。彼女に合鍵を渡した覚えはない。

 

「……なんでお前がここに」

 

「あはは、そんなことは別に気にしなくていいよ。それよりも中に入って」

 

 背中を押され部屋に押し込まれてそのままベッドの上に座ると、シルヴィアは隣にピッタリと肩をくっつけて離れようとしない。

 

 今まで買い物に付き添いをした基臣の記憶ではこんなにシルヴィアが距離を詰めてくることがなかっただけに、困惑する。

 

「なんでシルヴィアがこの部屋に入ってこれてるんだ。そもそもここは男子寮だぞ」

 

「シルヴィ」

 

 シルヴィアは基臣に近づくとムッとした顔をする。

 

「シルヴィアじゃなくて前みたいにシルヴィって言ってよ」

 

 はぐらかしても駄目そうな雰囲気を理解すると基臣は溜息をつく。

 

「……ハァ。それでなんでシルヴィはこの部屋に入ってこれたんだ」

 

「なんでって言われても、王竜星武祭(リンドブルス)で優勝した時の願いの権利を使って基臣君と一緒の部屋になるようにしたからだよ」

 

「いや、その願いは倫理的な問題が……」

 

「基臣くんと私が恋人関係にあるって言ったらすんなりと許可してくれたよ」

 

「嘘だろ……」

 

 それでいいのか運営委員。そんな気持ちが湧いてくるがもう既に手遅れだ。これから少なくとも3年以上は同じ屋根の下で同棲生活。余り気にしないタイプとはいえ、こんな状況ではプライバシーの保護などあったものではない。この先どうすればいいかという考えは先送りにして、とりあえずシルヴィアを先に風呂に入れ終えると、入れ替わりで基臣も風呂に入る。

 

 二人とも入浴を終えると、そういえばシルヴィアのベッドがまだない事を思い出す。

 

「今日はベッドを搬入する時間もない。俺は床で寝るから、シルヴィアはベッドを使え」

 

「えー、一緒に寝ようよぉ」

 

 その言葉を無視して基臣は床に横になり毛布だけ上に掛けると、その隣にシルヴィアが引っ付いてくる。

 

 床に彼女を寝かせる訳にもいかず、結局上手い事誘導されてシルヴィアと一緒にベッドの上で寝ることになった基臣だったが、向き合っていたらナニをされるか分かったものではないので当然彼女からは背を向けて寝ることにした。

 

 

 ……

 

 

 …………

 

 

 ……………………

 

 

「ん……。あぁ……っ!」

 

 直感が嫌な予感を告げたため、眠りから覚めると近くから声がする。しかも自分ではない誰かの艶やかな声。

 

 何事かと思い目を開けると、馬乗りになったシルヴィアがこちらを見下ろしていた。

 

 

 

 下着姿で

 

 

 

「な……!?」

 

「あ、起きたんだ」

 

「な、んで……こんな……ことを……?」

 

「こんなに近くで匂いを嗅いじゃったから……、私もう我慢できなくなっちゃった」

 

 明らかにその顔は発情しており、今にも襲い掛かってきそうなほどだった。

 

「基臣くん、責任感強いところあるから既成事実を作っちゃったらもう離れることはないよね」

 

「やめ、ろ……」

 

 起きてシルヴィアはどかそうとするが、いつの間にか何か一服盛られたのか身体の制御が上手く効かない基臣をよそにシルヴィアは彼の服を脱がしていく。

 

「身を委ねてくれるだけでいいからね」

 

 シルヴィアは静かに近づくと基臣に口づけを交わし、彼の制止を聞くことなく情事に耽っていった。

 

「……絶対に離さないから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 スヤスヤと心地よさそうに隣で抱き着きながら眠るシルヴィアの寝顔を見ながら、どうしてこんなことをしたのかなんとなく理解する。

 

 彼女は狂っていても「基臣とずっと一緒にいたい」という一つの感情だけは揺らぐことはなかった。

 

 その感情を基臣は2年前のあの時、逃げの選択を選んだことによって踏みにじったのだ。こんな状態になったのは当然の帰結、先程のように拘束されて逆強姦状態になったのはシルヴィアを見捨てた自身に与えられた罰だったのかもしれないと自嘲するように薄笑いすると眠っているシルヴィアの頭を撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに応えるように歌姫は愛を基臣の耳元で囁き(うたい)続ける。

 

 

 

 

 

「愛してるよ基臣くん」

 

 

 

 

 




あれ、最後あんまりヤンデレじゃないのでは?と思ってしまいましたが、これ以上試行錯誤してると時間がかかりすぎてしまうのでとりあえずということで投稿させていただきました。

あと、まさかの評価9が50以上になって一周しました。この作品を応援していただきありがとうございます。
これからも遊び心を忘れず作品を作るために頑張っていくのでよろしくお願いします。



ヤンデレシルヴィア

精神的負荷を過剰に与えたことによってその才を覚醒させた状態
作中最強候補と名高いオーフェリアを超える実力を持つ。
即興で歌を創造し、通常状態では使えなかった治癒能力を含めたあらゆる能力を純星煌式武装を凌駕するレベルで発現させることが出来る。
ゲーム中の最強論争で真っ先に名前が上がるぐらいには強い。
ヤンデレシルヴィアを倒すことで手に入る称号《再生する戦律》の獲得者は現状2名

ちなみにホモ君の身体が動かなくなったのはシルヴィアが厨房裏にお邪魔して料理に薬を仕込んだためである

本作の中であなたが一番好きなヒロインは?

  • シルヴィア・リューネハイム
  • オーフェリア・ランドルーフェン
  • ミルシェ
  • エルネスタ・キューネ
  • 黎沈華
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